時 自若 2021/06/24 12:19

浜薔薇の耳掃除「第46話」

「あのさ、サイトに猫の小さいときの写真載っているじゃん?」
猫じゃありません、ケットシーとか細かいことは言わないでおこう。
「はいはい」
「あの子猫が遊んでるのって、おばちゃんの福猫じゃない?」
「おばちゃんの福猫?」
「知らないで持ってたの?」
「どういうことです?」
お客さんが言うには、昔、この近所に商店街があって。
「ビアホールがあったんだけども、その並びに洋服屋さんっていうのかな、あったの、元呉服屋さんの、そのおばちゃんが作るマスコットっていうのが福猫って呼ばれてて」
なんでも持っていると福を呼ぶと。
「あっ、そうかその店とかも知らなかったか、じゃあわからないよね」
そのお客さんは地元の人間なので、子供の頃にその福猫の話を聞かされて、現物も見たことがあったらしい。
「俺が聞いたときは宝くじが当たった人が2人ぐらいいたのかな、何百万とか、子供の頃ならふ~んなんだけども、大人になってからならもらっておけば良かったなって思ったわけさ、まだ持ってるなら大事にした方がいいよ」
お客さんが帰った後。
「そのおもちゃまだあるんですか?」
傑が聞いてきた。
「あるぞ、イツモが気に入っているものは捨てれないので」
捨てるとまた戻されます。
「うちの家、現状のまま引き渡しだったんだわ」
取り壊すのに百万以上かかるそうなんで。
「リフォーム可能かどうかもわからなかったから、そこは近所の人が」
任せろ!
(いい仕事にこだわりすぎて娘さんに、お父さんまたなの!って言われているあの人だ)
検査したとならば。
「取り壊すよりはリフォームした方が、リフォームしやすい物件だよ、傷みが本当にないんだもん」
道路に並んで、蘆根宅・浜薔薇・元イツモの生家があった現浜薔薇駐車場・KCJが支援のために借りているアパートとなっています。
シュタ
玄関にイツモが現れる。
何かを感じ取ったのだろうか。
「確かそれはまだここに」
イツモは蘆根がしていることを覗き込んでいる。
「これだな、福猫」
返事をするようにイツモは鳴いた。
「これですか?」
「これだな、その現状のままの片付けの最中に、イツモが気に入ったものを集めて、それは残したままなんでな」
「でも一等とかじゃなくて、何百万とかそういうところがリアルですよね」
「そうだよな、あれから福猫を知っている人いるのかっていったら、何人かは知ってた、そのおばちゃんが渡して、その時に当たった人がいるとかは話しているが」
「当たった本人の話は出てない」
「まあ、夢がある話なんじゃないか、それ」
「そうですが、せっかくだからなんか願ってみたら?」
「健康でずっと店が続けられたらいいんじゃないかな」
「先輩って趣味ってありましたっけ?」
「趣味…」
「何か趣味を持ちましょう」
「この仕事つくと、インドアな趣味ばかりになるんだよな」
「それはわかりますけども」
「考えておくわ」
「お願いします」
なおタモツはが庭いじりが趣味です。
「葡萄とかも育ててますよね」
「根本に茗荷育ててたぞ」
「家庭菜園みたいですね」
「俺が家庭菜園始めたら、ビニールハウスが欲しくなるな」
「それ確実に寒い日は猫の溜まり場になるじゃないですか」
「イツモがいるから大丈夫だと思うけどもな」
ここら辺のボスである。
「そういえばイツモのおもちゃなら、これ勝手に持ってきて大丈夫ですか?」
「最近気に入っているのがあるから、そっちだな」
ぐるぐるぐる
乾燥機の前にイツモいた。
「洗濯物が乾かすために、乾燥機が回るだろう?あれが今気に入ってて」
カチ
時間が来たので終わると、イツモは毎回驚いた。
「そしてこっちを見て、なんで終わるのって顔をするまでが毎度のことだな」
「そういえば耳かきの動画を配信しないかってリクエストが来てますが」
「あれは撮影が難しいんじゃないか?」
相手がお客さんなので。
「そうだな、イツモで試してみるか?」
ケットシーの耳掃除
「いけるんじゃないですかね」
「でもな、イツモってこのシートのやつで拭って汚れとるからな」
そこでイツモを抱き寄せて、目の前でやってみる。
「爪切りも耳掃除も好きなんだよ」
「それは先輩だからですよ、僕がやると途中で逃げちゃう」
「何が違うんだろうな」
指に耳掃除用のシートを巻いて、ずれないようにしてから拭き取る。
「イツモ、外が縄張りなのはわかるけどもさ」
ケットシーは猫と違い縄張りが広く、家だけではおさまらない、これは昔は村ひとつなどを縄張りにし、野生の熊や猪などから守ってきた名残なんだそうだ。
「変な臭いがすると思ったら、泥とかだな」
クンクン嗅いでチェック。
何回か拭いた後に、またクンクン嗅いで。
「良し」
「狭いところとか潜り込んじゃうからですか?」
「でも冬だと通っていた場所が抜かるでいたりするから、迂回とかするんだけどもな、行けるかな?って思って泥まみれは多い感じ」
「そういえば車の下とかにもいますね」
「お客さんの車には潜らないからいいんだけども」
知らない車にはいい子なんで近づきませんよ。
「キリッとした顔しても、たまにやらかすから注意はしてる」
この午後、木に止まっていた鳥を狙おうとし、失敗し落ちた。
「ほらな、怪我はないって言われたけども、基本的にやんちゃなんだよ」
さすがに反省しているらしく、傑の目から見てもしょんぼりしていた。

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