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2023年 11月の記事 (9)

ヒロイン工学研究所 2023/11/22 21:09

【座談会1_6】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気

仮想ヒロピン座談会とは


「仮想ヒロピン座談会」とは、ヒロピンに関するテーマを掘り下げるために開かれた仮想の座談会で、管理人がAIとやり取りしながら進めた考察をマスター、ブレーン、トリックという架空の三者による座談会形式にまとめたものです。
仮想ヒロピン座談会の目的はヒロピンに関する議論をコンテンツ化することで、それを呼び水として読者から質問や意見を募集し、さらにテーマを掘り下げ、議論を豊富にしていくフォーラム的な場を作ることにあります。議題となっているテーマについて関心や質問がある方は是非コメント欄にご意見をお寄せ下さい。また、「こういうテーマを座談会で扱ってほしい」といった提案も募集しております。

議題:ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気 まとめ

「ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気」について話し合った座談会の各回のポイントをまとめました。

【座談会1_1】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気
・ヒロピンへの予感そのものが興奮となる
・ヒロピン性の興奮には不安と期待が混在している
・優勢に見える状況の中に違和感が存在し、その違和感が逆転負けを予感させる

【座談会1_2】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気
・ヒロイン優勢のあるべき光景とは違うあらゆるもの(例:天候の悪化)が作者によって挿入された意図的な不安材料として認識され、ピンチの到来を予感させる
・優勢に見える状況に潜在する転落の可能性について「わかっている奴」と「わかっていない奴」の役割がそのシーンでどのように割り振られているかによって状況を類型化できる
・ヒロインがわかっているかわかっていないかによってヒロピンの味わいが変わる
・ヒロインがわかっている場合にはマゾヒズム的な性格が、ヒロインがわかっていない場合にはサディズム的な性格が、ヒロピン性興奮の特徴になりやすい

【座談会1_3】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気
・「優勢なのに不穏」という状況のヒロピン的な魅力は「優勢」というポジティブな側面を表面的に強調することによって逆説的に転落を予感させるところにある
・ポジティブ要素によって逆説的に不安感を生む方法としては、「ポジティブ面を過剰にアピールをする」、「ネガティブ面の過小評価やポジティブ面の過大評価など確証バイアス的な判断をする」などがあげられる

【座談会1_4】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気
・優勢なのに不穏な状況においてヒロインが転落を予感していない場合、「この自信満々なヒロインがこの後一気に転落する」という期待感がサディズム的な興奮を生むので、見せかけの優勢状況のポジティブ側面を描くだけで転落の落差を上乗せすることができる
・どことなく勝利を既成事実のようにとらえてしまっているヒロインを描くことで慢心を表現できる
・慢心する姿は上手く描けば欠点をもつヒロインの可愛さや嗜虐欲を刺激する魅力的なポイントになる

【座談会1_5】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気
・ヒロインが優勢なのに不穏な空気が漂うシーンにおいては「勝ちそう」と「負けそう」という相互に矛盾する認知が同時存在することにより心理学で言うところの認知的不協和が発生する
・ヒロインに転落の可能性の自覚があるケースにおける内面描写は読者に感情移入させるためのものだが、ヒロインに自覚がないケースにおける内面描写は読者に客観視をさせるためのものである
・ストーリー工学上の不安定性の概念に着目することで「ヒロピンにおけるストーリーの重要性」や「ヒロピン性興奮における不安の重要性」、「ヒロピンとリョナの区別」などの問題が理解しやすくなる
・ヒロピン嗜好のルーツは「正義のヒロインは必ず勝つ」と思い込んでいる子供がそのヒロインのピンチを目撃したときに感じる認知的不協和にある


また、今回のテーマを議論することを通じて新たに以下のようなテーマが提起されました。
・ヒロピン嗜好と児童心理
・ヒロピンと認知バイアス
・ヒロピンにおけるヒロイン側キャラの意義
・ヒロピンシーンにおける視点の問題と演出方法


ご意見・ご質問はコメント欄へ

「仮想ヒロピン座談会」は議論を豊富化しさらに掘り下げていくためにコメント欄にてご意見・ご質問を募集しております。また、「こういうテーマを座談会で扱ってほしい」といったリクエストなどもありましたら是非お寄せ下さい。検討いたします。

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ヒロイン工学研究所 2023/11/19 20:51

【座談会1_5】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気

仮想ヒロピン座談会とは


「仮想ヒロピン座談会」とは、ヒロピンに関するテーマを掘り下げるために開かれた仮想の座談会で、管理人がAIとやり取りしながら進めた考察をマスター、ブレーン、トリックという架空の三者による座談会形式にまとめたものです。
仮想ヒロピン座談会の目的はヒロピンに関する議論をコンテンツ化することで、それを呼び水として読者から質問や意見を募集し、さらにテーマを掘り下げ、議論を豊富にしていくフォーラム的な場を作ることにあります。議題となっているテーマについて関心や質問がある方は是非コメント欄にご意見をお寄せ下さい。また、「こういうテーマを座談会で扱ってほしい」といった提案も募集しております。

議題:ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気 5回目

【マスター】
それでは「ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気」をテーマにした座談会の5回目を始めたいと思います。
まず前回のポイントをまとめると、
・優勢なのに不穏な状況においてヒロインが転落を予感していない場合、「この自信満々なヒロインがこの後一気に転落する」という期待感がサディズム的な興奮を生むので、見せかけの優勢状況のポジティブ側面を描くだけで転落の落差を上乗せすることができる
・どことなく勝利を既成事実のようにとらえてしまっているヒロインを描くことで慢心を表現できる
・慢心する姿は上手く描けば欠点をもつヒロインの可愛さや嗜虐欲を刺激する魅力的なポイントになる
ということでした。
このテーマに関する座談会はとりあえず今回で終了を予定しているので、今回はこれまでの議論を総括しつつ、このテーマを掘り下げることで得られた収穫を確認しておきたいと思います。

【ブレーン】
表面的な優勢状況の中に潜在する転落の可能性に注目して、「そのことに関する自覚がヒロインにある場合とない場合」という基本的な分類方法を採用したことにより、それぞれのタイプがもつマゾヒズム的方向性とサディズム的方向性がわかりやすくなった点が評価できます。

【マスター】
作者はまずそのシーンがどちらのタイプなのかを考えて、それぞれのタイプがもつ興奮形成のメカニズムに合った演出方法を考えられるというわけですね。

【トリック】
「優勢なのに不穏」という状況の特徴は「違和感」だけど、もっと本質的な言い方をすれば、それは「不協和」なんだと気が付くことができた。勝ちそうなのに負けそう。勝利のイメージと敗北のイメージが同時に存在していることが生み出す不協和。その不協和が奇妙な興奮を生むのがこのシチュの独特の魅力なんだ。

【マスター】
たしかに単純にヒロインがピンチになっているだけのシーンとは味わいが違いますね。

【トリック】
ヒロインに自覚があるケースではヒロインもその不協和を内面で感じ取っている。反対にヒロインに自覚がないケースでは、不穏な空気が漂っている中で勝利を確信しちゃってるヒロインの存在自体から不協和が生み出されちゃってる。

【ブレーン】
読者との関係で言えば、「ヒロインの中で発生する不協和を読者がともに感じる」関係と「ヒロインが発生させる不協和を読者が客観視している」関係ということになりますね。

【マスター】
その違いはシーンを作っていく上でどのような意味をもちますか?

【トリック】
不協和がヒロインの内面で発生しているなら描写や演出は悶々とするヒロインの内面に読者を感情移入させるようなものにした方が良いんじゃないかな。逆にヒロイン自身が不協和を発生させている場合は、読者には感情移入をさせるのではなく、客観視をさせてヒロインが浮いた存在になってしまっていることを認識しやすくさせるとか。

【ブレーン】
ヒロインに自覚がなくて自信満々であるときにヒロインの内面を描くのは効果的じゃないということですか?

【トリック】
いや、そうじゃない。ヒロインに自覚があるケースでもないケースでも内面を描くことは効果的だよ。でも内面を描くことと感情移入させることは別のことだ。ヒロインが転落の可能性を自覚して不安に苛まれているならそこに感情移入させてマゾヒスティックな興奮を生むことは可能だけど、読者が不穏さを感じているのに自信満々なヒロインに感情移入なんてしても興奮は生まれない。そういうケースで内面を描くのは感情移入させるためじゃなくて間違った方向に進んじゃってるヒロインを客観視させるためなんだ。

【マスター】
具体的な手法について掘り下げたいところですが、「ヒロピンシーンにおける視点の問題と演出方法」というテーマはかなり重要なものなので、また別の機会に譲りたいと思います。

【ブレーン】
「勝ちそう」と「負けそう」のように矛盾する認知が同時存在してしまう状況を心理学では認知的不協和と呼びますが、これに対するリアクションは二つあげられます。一つはもっとも代表的なもので、「矛盾する二つの認知のどちらかを強めたり弱めたりすることで矛盾を乗り越えようとする」というもの。もう一つは「この矛盾した状況の結末はどのようになるのか知りたくなる」というものです。

【マスター】
後者は読者がストーリーのその後の展開が気になってページをめくっていく推進力になりますね。これはおそらくヒロインに自覚があるケースでも自覚がないケースでも同じでしょう。

【トリック】
「認知が矛盾する状態を乗り越えようとする」というのは自覚があるヒロインがやろうとすることだよね。「この作戦は正しいはず…現にさっきから敵は防戦一方じゃない…」みたいな感じに楽観要素を過大評価したり、「さっきの敵の反撃は最後の悪あがきにすぎないわ…」みたいな感じで不安要素を過小評価したりして、居心地の悪い不協和の状態を解消しようとする。

【マスター】
不協和というキーワードから派生して、私は不安定というキーワードからあらためて問題を考えてみようと思いました。不安定性はストーリーにとって非常に重要な要素です。創作の世界では「そこにある不安定さがストーリーを前進させ、読者の関心を引き付ける」という意味のことがよく言われますが、これはヒロピン嗜好の本質を考える上でも重要だと思います。

【ブレーン】
ヒロイン工学研究所による定性的な調査でもヒロピンとストーリー性の間には密接な関係があることがわかっていますね。

【トリック】
ヒロピンとリョナは重なるところが多いカテゴリーだけど、リョナはストーリーがなくても成り立つのに、ヒロピンでは何らかのストーリー性が必要になるというところが大きな違いだよね。でもその問題も不安定性という観点から考えればもっとよく理解できるかもしれない。例えばヒロインが戦闘不能状態になった時点から始まって延々と一方的な虐○を受け続けるストーリーの作品があったとして、それはリョナ作品ではあってもヒロピン作品ではないような気がする。なぜそう感じるのかを考えたときに、マスターさんが言った不安定性がヒントになる。つまり延々と一方的に虐○が続くストーリーは勝つか負けるかの「優勢⇔劣勢」のシーソーゲームがもう停止してしまっているから、その意味では安定してしまっているんだ。虐○シーンは不安を生むかもしれないけど、もうそこにはストーリー工学的な意味での不安定さがないんだ。

【ブレーン】
トリックさんは以前「ヒロピン性の興奮は不安と期待の混合」とおっしゃっていましたが、今の話に当てはめると、単なる不安と期待ではなく、「ストーリー工学的な不安定性がもたらす不安」と「不安定性が読者にもたらすストーリー展開への関心(=期待)」ということになりそうですね。

【トリック】
厳密に定義しなおすとそうなるかもしれない。不安定性という要素から考えた方が「ヒロピンにおけるストーリーの重要性」とか「ヒロピン性興奮における不安の重要性」とか「ヒロピンとリョナの区別」といった問題が一挙にとらえやすくなるね。

【マスター】
私はここにきてようやく最初にトリックさんがおっしゃった「優勢なのに不穏というテーマはヒロピン上級者向け」という言葉の意味がわかってきました。ヒロピンの本質が不安定性にあるのなら、「勝ちそうなのに負けそう」という認知的不協和の不安定性が興奮を生むこのシチュは非常に高度な形でヒロピンの本質を表現しているシチュであると言えそうです。

【トリック】
僕も今回二人の話を聞いてすごく重要なことに気が付いた。ヒロピン嗜好のルーツはまさにその認知的不協和なんだよ。ブレーンさんが言っていたように大半のヒロピン嗜好というのは幼年期に形成されてしまう。そのとき子供たちは「正義のヒロインは必ず勝つ」と思い込んで見ているのに、その必ず勝つはずのヒロインが負けそうになったり一時的には本当に負けてしまったりするんだ。

【ブレーン】
体験者が子供の場合、「正義のヒロインは必ず勝つ」という認知が強い分だけピンチ状況がもたらす認知的不協和のストレスが強くなると言えそうです。感受性が強い子供が認知的不協和による強度のストレスに晒され、そこから生まれる倒錯的な興奮がヒロピン嗜好を形成していくという仮説が立てられますね。

【マスター】
面白い仮説ですね。今はとりあえず「倒錯」と呼んでいるものが具体的にどんなメカニズムをもっているかを明らかにすることがヒロピン研究の目標といえるかもしれません。
今回の座談会では「ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気」というやや特殊なテーマについて話し合ってきましたが、最終的にヒロピン研究の本質的な部分にアプローチできたことは大きな収穫だったと思います。ありがとうございました。
(終)


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ヒロイン工学研究所 2023/11/16 21:52

【定期活動報告・11月前半】

【同人活動】
新作同人作品『敗姫処分 No.3 add'l』を公開しました。
⇒作品ページ

【お仕事/受注制作】
3件進行中。

【スキルアップ関連】
特になし。

【pixiv】
1件更新。
⇒pixivページへ

【ブログ等】
【新企画】プロスペクト
【座談会1_1】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気
【座談会1_2】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気
【座談会1_3】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気
【座談会1_4】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気

【お題制作】
更新無し。
「マイナーキャラ限定お題募集」企画はこちら⇒回答フォームへ

【その他】
色々な意見を吸収するための組織改革のノウハウがどの程度個人創作で意見を募集するケースに転用できるか考えていました。

【コメント】
新企画プロスペクトを実施して、ご意見やアイデアが集まるのを待ちながら、意見集約に関するノウハウを勉強したり、依頼制作の作業をしたりしています。

質問への回答


「ヒロイン工学研究所常設ポスト」に寄せられた質問に対する回答です。現時点で回答可能なものを選んで回答しております。質問文はこちらで要約させていただきました。

期間中に質問(または回答可能な質問)がなかったので今回は回答はありません。

ヒロイン工学研究所 2023/11/15 21:00

【座談会1_4】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気

仮想ヒロピン座談会とは


「仮想ヒロピン座談会」とは、ヒロピンに関するテーマを掘り下げるために開かれた仮想の座談会で、管理人がAIとやり取りしながら進めた考察をマスター、ブレーン、トリックという架空の三者による座談会形式にまとめたものです。
仮想ヒロピン座談会の目的はヒロピンに関する議論をコンテンツ化することで、それを呼び水として読者から質問や意見を募集し、さらにテーマを掘り下げ、議論を豊富にしていくフォーラム的な場を作ることにあります。議題となっているテーマについて関心や質問がある方は是非コメント欄にご意見をお寄せ下さい。また、「こういうテーマを座談会で扱ってほしい」といった提案も募集しております。

議題:ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気 4回目

【マスター】
それでは「ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気」をテーマにした座談会の四回目を始めたいと思います。前回のポイントを簡単にまとめると、
・「優勢なのに不穏」という状況のヒロピン的な魅力は「優勢」というポジティブな側面を表面的に強調することによって逆説的に転落を予感させるところにある
・ポジティブ要素によって逆説的に不安感を生む方法としては、「ポジティブ面を過剰にアピールをする」、「ネガティブ面の過小評価やポジティブ面の過大評価など確証バイアス的な判断をする」などがあげられる
といったことでした。
今回はまだ深掘りしていない読者優位(※1)におけるサディズム的性格について話し合いたいと思います。
二回目の座談会で話題にあがりましたが、優勢なのに不穏な状況において、「ヒロインが自分が優勢であることを信じてこれから転落する予感を感じていない」というケースでは、読者側で正しく感知している転落の可能性をヒロインが理解していないという読者優位の状況が発生しています。こうした状況におけるヒロピン性の興奮には、「この自信満々のヒロインがこれから一気に転落する状況を想像して期待を募らせる」という意味でサディズム的な性格があるのではないかとトリックさんは仰っていましたよね。

【トリック】
サディズムかマゾヒズムかという問題は結構微妙で、容易に相互に転換しちゃうところがあるので、厳密にはあまり断言できないのだけれど、一応ここではそれをサディズムと呼んでおこうと思う。自信満々のヒロインに感情移入しながら転落を予感して興奮する…というのは無理なので、やはりこの関係性ではマゾヒズムは発生しにくい気がする。

【ブレーン】
その場にいる子供などのヒロインを応援する第三者が不安を覚えていた場合、その子供に感情移入して不安を興奮に転換するマゾヒズムというのは可能なんじゃないですか?

【マスター】
たしかにそうかもしれませんが、それは今回扱わないことにしましょう。「ヒロインの不安に感情移入するマゾヒズムとヒロインサイドの傍観者に感情移入するマゾヒズムは果たして同じものとして扱っていいのか?」という問題はそれ自体凄く大きなテーマとなると思うので、別の機会に譲ることにしましょう。

【ブレーン】
これまでの議論をまとめると、「優勢なのに不穏」という状況のマゾヒズムは、表面的な優勢と内面的な転落の不安によって、「強いヒロイン」と「転落したヒロイン」というヒロピン性興奮の基礎である相克が強化されていく構造の中に生まれるということでした。それに対してサディズムは、表面的な優勢を内面でも信じ切っているヒロインの自信がこれから一気に崩壊することへの期待感の中に生まれるということになります。

【トリック】
そう考えるとサディズムの方がシンプルでパワフルだね。マゾヒズムにおいてはヒロインの気持ちの中に「強いヒロインであらねばならない」という自負や責任感があればあるほどそこから転落してしまう不安も大きくなってしまうという自縄自縛の錯綜したメンタルが重要になってくるので、描き方も複雑なんだけど、サディズムの場合は単純に「一気に転落させる」ところがポイントなわけだから、表面的な優勢やヒロインの自信が強ければ強いほど得られる効果は大きくなる。

【マスター】
ヒロインの内面で錯綜するポジティブ要素とネガティブ要素の微妙で複雑な関係を描くマゾヒズムとは違い、見せかけのポジティブ要素を強調するだけで効果が得られるということでしょうか?実際にはどんな演出が考えられますか?

【ブレーン】
すでに出た例として過剰なアピールと確証バイアス的な自信の描写がありますが、それはそのまま使えるのではないですか?

【トリック】
使えるね。ヒロインが優勢を信じているケースだと、ヒロインの慢心や愚かさを印象付ける感じになるね。それにサディスティックに興奮するわけだから、「ククク…何も知らずに愚かな女よ…」って感じだね。読者優位の優位性と敵の潜在的な優位性がシンクロしてるよね。

【マスター】
敵目線に感情移入するとそうなりますね。傍観者目線の場合は、ヒロインが罠にはまっていくのを指をくわえて見ているドキドキ感が興奮を生むのでしょうね。
ところで、このケースでは特にヒロインの自信の描き方がポイントになると思うのですが、直接的に自信を表明しちゃうケースの他に色々な自信描写のアプローチがあるんじゃないですか?

【ブレーン】
直接台詞で表現しない方法として考えられるのは、
・余裕の表情や態度を見せる
・厳しい修行や綿密な準備など自信の根拠となる事実の回想シーンを入れる
・どうやって勝利する作戦なのか脳内でイメージするシーンを入れる
・勝った後のこと(例えば次の対戦相手のことなど)をすでに考え始めている
などですかね。

【マスター】
「捕らぬ狸の皮算用」みたいなやつで、何というか勝利を無意識に既成事実として扱っちゃっていて、現在進行形の目の前の現実をちゃんと見ていない感じですね。

【トリック】
まあ、慢心なんだけど、そういう欠点も描きようによっては可愛くてリョナ欲を刺激する魅力になる。例えば、威勢の良いヒロインがさらに威勢良くなったり、尊大なヒロインがさらに尊大になったりするのも良いけど、普段は冷静で控えめなヒロインが勝利を確信して少し高揚しちゃっている感じを出すのも良いね。

【マスター】
なるほど。転落がすでに内定している状態でそこで「失われるもの」を上乗せするわけですね。その意味では「優勢なのに不穏」で「ヒロインに自覚がない」ケースというのは転落のカタルシスの効果を生み出しやすい状況であるとも言えますね。

【トリック】
転落の落差分をヒロイン自身に積ませるようなものだからなかなか意地悪な発想だよね。これを上手く描くためには作者にも悪の心が必要になる。「ダイの大冒険」のキルバーンみたいな性格が向いている。

【マスター】
ありがとうございました。では今回はこれぐらいにして、次回は出来れば全体を総括するような議論をしたいと思います。

※1:読者優位
例えば暗殺者がセールスマンに変装して主人公の家を訪れた場合、主人公に危機が迫っているという事実を主人公は知らないが読者や観客は知っている。このような状況を読者優位または観客優位と呼ぶ。また、このような状況やそれがもつ効果を「劇的アイロニー」とも呼ぶ。ちなみにキャラクターは知っているが、読者や観客には明かされていないという状況はキャラクター優位などと呼ばれる。

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ヒロイン工学研究所 2023/11/11 21:06

【座談会1_3】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気

仮想ヒロピン座談会とは


「仮想ヒロピン座談会」とは、ヒロピンに関するテーマを掘り下げるために開かれた仮想の座談会で、管理人がAIとやり取りしながら進めた考察をマスター、ブレーン、トリックという架空の三者による座談会形式にまとめたものです。
仮想ヒロピン座談会の目的はヒロピンに関する議論をコンテンツ化することで、それを呼び水として読者から質問や意見を募集し、さらにテーマを掘り下げ、議論を豊富にしていくフォーラム的な場を作ることにあります。議題となっているテーマについて関心や質問がある方は是非コメント欄にご意見をお寄せ下さい。また、「こういうテーマを座談会で扱ってほしい」といった提案も募集しております。

議題:ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気 3回目

【マスター】
それでは「ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気」をテーマにした座談会の三回目を始めたいと思います。前回のポイントを簡単にまとめると、
・ヒロイン優勢のあるべき光景とは違うあらゆるもの(例:天候の悪化)が作者によって挿入された意図的な不安材料として認識され、ピンチの到来を予感させる
・優勢に見える状況に潜在する転落の可能性について「わかっている奴」と「わかっていない奴」の役割がそのシーンでどのように割り振られているかによって状況を類型化できる
・ヒロインがわかっているかわかっていないかによってヒロピンの味わいが変わる
・ヒロインがわかっている場合にはマゾヒズム的な性格が、ヒロインがわかっていない場合にはサディズム的な性格が、ヒロピン性興奮の特徴になりやすい
といったことでした。
こうしたポイントを踏まえた上で、今回は具体的な演出について考えてみたいと思います。

【トリック】
演出というのは伝えたいことの大事なところをちゃんと観客に伝えるための工夫だから、小手先のテクニック以前にその肝の部分が何なのかを突き詰める必要がある。類似作品の演出を真似しても、肝の部分が全然違っていたら上滑りした感じになってしまう。

【ブレーン】
ヒロピン性の興奮の元になる緊張や不安は「栄光の勝利」と「無残な敗北」の両極端のヴィジョンの相克から生まれるわけですから、その相克を激しくしたり、印象付けることが演出の基本方針になると思います。

【マスター】
いや、待って下さい。相克が基礎にある点は間違ってはいないと思うのですが、例えば相克を単純に激烈化してしまうとその後に続くはずのピンチシーンと区別が曖昧になり、予兆的なシーン固有の魅力が失われてしまうのではないでしょうか?

【トリック】
恋愛に当てはめて、エスカレートしていくピンチを本番、ピンチ状況に入っていく過程を前戯だとしたら、予兆的なシーンはムード作りみたいなものだよね。そういう直接的な刺激は弱いけどベースになる雰囲気を醸成していくようなシーンを大切にするところがヒロピン趣味の奥深いところなんだ。

【ブレーン】
明確なピンチシーンとの大きな違いは優勢シーンにおいては相克の一方である「強いヒロイン」のイメージが少なくとも表面上は強く打ち出されているところですね。

【トリック】
そう、そこが重要。少なくとも外観やイメージのレベルではまったく揺らいでいない「強いヒロイン」の姿と不吉さの混合。この対比の妙はこの段階でしか得られないからそこを大事にしないといけない。デート中の食事がそれ自体全然エロい行為じゃないのにそこにエロスが醸成されて次の段階を準備するみたいなやつ。

【マスター】
ちょっと違うかもしれませんが、その話を聞いて私はある怪談を思い出しました。体験者は当時子供で、一人でお留守番をして不安な気持ちになっていると母親が帰ってくるのですが、その母親は外見はまったくの母親なのにその子は本能的に「これはママじゃない」ということがわかって恐怖を感じるという話です。

【トリック】
恋愛の例とは全然違うけど、それも何かわかる。いや、むしろそっちの方が良い例かもしれない。安心を与えてくれるはずの外観がむしろ不安を生み出す奇妙な感じだよね。

【ブレーン】
ヒロイン工学研究所が過去に実施したアンケートの結果の中に、ヒロピン嗜好の多くは思春期前の幼児期にすでに形成されてていることを示唆するデータがあります。ヒロピン性の興奮には不安が混在していることが重要であると前にトリックさんが仰っていましたが、安心と不安が相互転換しやすい児童心理と深い関係があるのかもしれません。

【マスター】
そのテーマはとても興味深いですが、少し脱線気味なので話を元に戻しましょう。
つまり「優勢に見える」という状況を通して「強いヒロイン」のイメージを表面的に強調しておきながら、本来なら安心材料となるべきその光景が逆に不安感を誘発するような感じに演出すればいいのですね。

【ブレーン】
それならば、詐欺師が自分を信用させようとすることで逆に胡散臭い人間に見えてしまう現象を参考にしてはどうでしょうか?
このような逆説的な効果を生む原因は主に、
・過剰性が不自然さを生む
・情報や理論の誤りまたは不整合
・決定的となる証拠の不在
などがあげられます。

【トリック】
過剰性が不自然さを生むというのはわかりやすいね。ただでさえ優勢な状況なのに、そこに試合実況者が「もはや相手は防戦一方!○○選手の勝利はほぼ決まったも同然だぁ!」なんて言ったら、現実では不自然じゃないけど、創作においてはくどくなってしまうので、明らかに不自然で、意図的に挿入された過剰要素だとみなされる。本当にそのまま勝つ展開になるのならわざわざ入れない台詞が入ることで逆に「そうはならない」というサインになりますね。

【ブレーン】
示した内容と逆の状況が実現する…「逆説(または逆接)フラグ」とか「自己否定的フラグ」とか呼べそうですね。

【マスター】
情報や理論の誤りまたは不整合というのはこの場合どういうことになるのでしょうか?

【ブレーン】
「Aという攻撃をすればBという結果になり、戦況が優勢になる」というヒロイン側のロジックを実行した結果、確かに優勢になったようには見えるのだけれどBという変化は確認されていないというケースはどうでしょう。

【マスター】
「奴は空気中の水蒸気を氷の刃に変えて攻撃する氷属性の能力者だから火炎魔法が効くはず」というロジックで行動して、実際にダメージを与えることができたのだけど、なぜか氷の刃だと思っていたものが溶けていない…みたいな感じでしょうかね。

【トリック】
実は状況分析に失敗しているのに、表面上は上手くいっているように見えるから、そのことを不問に付しちゃう感じだね。前に言った、ポジティブ面を過大評価してネガティブ面を過小評価してしまう一種の慢心が表現できるかもしれない。

【ブレーン】
決定的証拠の不在というのは状況証拠や間接的な証拠はやたらにそろっているのにその割には本当に優勢であると確信できるような明確な証拠だけがない状態がそれに当たるのではないでしょうか。

【マスター】
ボクシングのテレビ中継などでも番組が応援している日本人のボクサーが外国人の対戦相手にたくさんパンチを打ち込んでいると、実況が「攻めます!攻めます!」とか優勢ムードを演出するけど、プロ目線で見ると実は全部完全にブロックされていて、特にポイントにも加算されていないという状況がありますね。素人目に優勢に見えるだけの状況で盛り上がっちゃうみたいな。

【トリック】
不確かなポジティブ要素をとにかく集めて過大評価することで明確なポジティブ要素がもう得られたかのような気分になっちゃうわけだから「いけない流れ」に乗っちゃってる感じがするよね。別に敵が仕掛けたわけじゃない場合でも、まるでヒロインが罠にはまっていっちゃう不穏感みたいなのがワクワクにつながるのかもしれない。

【マスター】
なるほど、「不穏感=いけない流れに乗っちゃってる感じ=罠にはまっているような状態」と解釈すると、よりニュアンスが理解しやすくなりますね。

【ブレーン】
その罠というのは、心理学で言う「確証バイアス」に当たると思います。「優勢なのに不穏」という状況は登場人物たちが確証バイアスの罠に陥っているところを読者が客観視している状態とも言えます。

【マスター】
認知バイアスという観点からピンチを考えるのはそれ自体一つのテーマになると思うので、また別の機会に話し合いましょう。
では今回はここまでとして、次回はまだ論じていない他の側面についても話し合っていきたいと思います。

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