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女子の記事 (7)

赤羽決亭@木東有稀 2020/10/30 04:51

フシギナパラダイス 2話 不思議な鳩 1/9

「え、嘘でしょ!?」

入学式で居眠りをしてしまうという醜態を晒した私。

その帰り道、なるちゃん、心矢、洋太の3人に、今日のことを確認した。

私がいつから教室にいたのか、眠っていたのか、その記憶がなかったからだ。

でも、私の言い分と3人の言い分は全く違っていた。

「本当よ、地震があったら忘れたりしないし、学校行くまでトラブルなんかなかったし、保健室に用事なんか何もなかったわ」

「そ、そんな…今朝頭ぶつけて記憶がないって…みんなが行けっていうから…」

「夢と現実がごっちゃになってるんじゃない?第一頭なんかぶつけてないじゃん、どうしたら、記憶がなくなるくらいの衝撃なんて普通受けないでしょ」

「そ…そんなこと言われても…」

でも、それだとつじつまが合わない。

だって、その話が本当なら私がなんでまだ昨日の夕方から朝まで…

いや夢の時間をプラスしたら、さっき目を覚ますまでの間の記憶がすっぽり抜けたままなのか、説明がつかないからだ。

だから私はムキになって、昨日の近道の話をしようとその場所へ向かった、でも…

「あれ…ない…」

今朝突然現れたあの道は、再び跡形もなくなくなっていた。

「おかしいな…間違いなくこの辺りに…心矢が言ってた道が…」

「ルイ、本当にどうしちゃったのさ?僕そんな道見つけてないよ?
こんなところ、どうやって通るのさ?」

「それにそこ、私が昨日みちこちゃんの故障であるはずのない道指してるって言ってた場所じゃない…それも忘れちゃったの?」

心矢となるちゃんが私にそう諭す。

そう反論して聞いてくれなかったのが、今朝の私の気持ちだったのに、今はすっかり逆転してしまってる…

わかってる、正しいのは皆、私がおかしい、でも

「でも、本当に通ったんだって!本当に覚えてない?神社あって、男の子と私がぶつかって…!」

「神社なんかこの辺ないでしょ?一番近くて商店街の向こうだよ?男の子だって見てないし…」

心矢は表情にこそ表さなかったけど、呆れているのか少しため息を吐いた。

「でも…本当に…」

「ないものはないんだからしょうがないだろ」

洋太のその一言は、腹立たしかったけど

それ以上私は何も言えなくなってしまった。

「じゃあ、僕らこっちだから」

「ルイちゃん、ちゃんと休んでね。」

「明日は居眠りすんなよ」

「もー、わかってるってば!」

私がそういうと、まるでそれが合図かのように、各々自分の帰り道へと散って行った。

でも…本当にあの夢…なんだったんだろう…

結局、顔にできた傷の理由もわからずじまいだし…まぁ…これ以上考えても無駄か…

色々考えながら、すぐ近くにあった一軒家の家に向かって歩くと、家の前で誰かが立っているのが見えた。

「あれ…お兄ちゃん…?」

高校の制服着て何してるんだろう…始業式明日だって言ってなかったっけ?

それとも今から学校に?でも…部活とか委員会も今ないはずだけど…

しばらく家に近ずくでもなくその場で一歩も動かず様子を見守っていると

「あれ、ルイ、今帰り?」

兄の方が私の気配に気がついたのか、こちらの方を振り返った

「うん…お兄ちゃん…高校明日からじゃなかった?」

「あぁ、カレンダーに書き間違えたって…今朝言わなかったっけ?」

「あ、そうだったっけ…?」

やっぱり何も覚えてない…怪我したわけじゃないなら、なんで未だに私の記憶は戻ってこないんだろう…

居眠りでこんなに記憶すっぽり抜けるかな…

「ルイ?鍵空いたよ?入らないの?」

「あ、待って!」

兄にそう声をかけられて私は急いで中に入った。

なんか…疲れちゃったな…

こういう時、3階建ての一軒家って嫌になる。

しかもよりによって自分の部屋は3階。

めんどくさいし体力が削がれる。

かと言って、リビングのソファーで寝転がるのもなんかやだし…色々やらなきゃいけないことが目について、休むには適さない。

仕方がない…部屋行くか…私は重たい足を無理やり動かし、階段をのぼる

さっさと着替えよ、そんでもって、さっさとベット潜って今日は寝よう。なんにもやる気が起きない。

あーでもご飯……

まあ…それまでに起きればいいか…

でも気分じゃないなぁ…

ほんと…散々な1日だったなぁ…せっかく夢にまで見た入学式だったのに…

私はようやくたどり着いた自分の部屋の扉をガチャっと開きながら、そう心の中で呟いた。

ベットの方へ視線を送ると、視界に誰かが映った。

知らない子だ

「…」

「こんにちは〜!」

見知らぬ金髪で不思議な服を着た少年は、私の部屋で私を出迎えた。

笑顔で

「…」

私は無言で部屋を出てバタンと部屋を閉じた。

「…………………………誰?」

この家には今、私とお兄ちゃんしかいない。

さっきお兄ちゃんが鍵を開けたところを見たからそれは間違いない事実だ。

だから、私達より先にお客さんがいるはずがない。

疲れてて、幻でも見たのだろうか

私はもう一度扉を開ける

「はぁい☆」

「きゃああああああああああああああああああ!!!」

私は大きな悲鳴をあげて部屋を出る

誰かいる!!!知らない誰かが!!!!私の部屋に!!

あれ、だれ!?

見た目は…小学五年生くらい?男の子?

私に弟はいない、じゃあ親戚?私の知らない間に親戚増えてた?

でも、金髪ってことは外人!?外人の親戚なんかうちいたっけ!?それとも染めてるのかな?

やばい、親戚情報がわからなすぎて見当がつかない!!

「ルイ!?」

「はい!!」

私は名前を呼ばれて条件反射で返事をする。

下の階にいたお兄ちゃんが、私の悲鳴に心配したのか、急いで階段を登って着てそう声をかけた。

「どうしたの、大声出して」

「な…なんでも…あ、お兄ちゃん!うちに金髪の男の子…親戚にいる?」

「な…何急に…いないけど…親戚の子と聞くなんて珍しいね…本当にどうしたの?」

「…なんでもない」

「そ…そう?」

なんか納得がいかないような顔をしながら、お兄ちゃんはまた階段を降りて行った

なーんだ…やっぱり親戚に金髪の男の子なんかいないんじゃん…

…………

「じゃあ、やぱあれだれ!?」

だいたい、仮にあれが親戚だったとして、私の部屋にどうやって入ったのかなぞだ。

だって、ついさっきまで家には鍵がかかってて、密室だったのだから…

「まさか…幽霊…」

「幽霊じゃありません!!」

「きゃあああああああああああああああ!!!!」

私はまた悲鳴をあげる。

それは男の子が私に声をかけたことに対してではない。

その男の子が、壁をすり抜けて出て来たことと、空中を浮いていることに対してだ。

再び階段からドドドドという音がして「今度は何!?」とお兄ちゃんが私に声をかけた

「お、お兄ちゃん!!し…知らない男の子がうちに!!」

「…」

私はそう伝えるけれど、兄はキョトンとした顔を浮かべるだけだった

「この子!!今目の前で浮いてるあの男の子!!」

私は男の子にビシッとしてしっかりと伝わるように説明をした、ここまで言えば伝わるはず…なのに…

「…誰も…いないけど…」

と、呟いて、静かに階段を降りて行ってしまった。

どういうこと…?

こんなに目の前で、はっきり見えるのに…お兄ちゃんに見えない?

見えてるのは…私だけ?

ゆっくり振り返り、私は男の子をもう一度見る。

「君は…?」

すると男の子はにこりと笑って、

「お話…聞いていただけますか?」

そう言った。

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赤羽決亭@木東有稀 2020/10/15 17:19

【ノベル】フシギナパラダイス1話:〜不思議な道〜4/9

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「やったー!私の勝ちね!」

そういって、人だかりの中で大喜びするなるちゃんの姿と、
まさかの敗北で頭を抱える男子二人の姿があった。

一体何があったのか、少し時間を遡って説明しようと思う。

あれから結局、なんの問題もなく学校にたどり着いた。
学校にはすでに大勢の生徒たちが校庭に集まっていて、一箇所に人だかりができていた
そこには手を取り合って喜んでいる人や、落ち込んでいる人、真剣に食い入るように何かを見る人などであふれていた
どうやらすでにクラス替えが発表されているらしい。

自分たちも見に行こうとすると、心矢はぽつりと呟いた

「ねえ、やっぱ賭けやめない?」

「賭け?」

私がなんの話かという視線を送ると「そういえばルイちゃん賭け混ざってなかったわね」
と言ってなるちゃんが説明してくれた

「クラス替えよ、4人一緒のクラスになるか全員バラバラかで賭けしてたの
負けたら勝った方の言う事を聞くって取り決めで」

あぁ、そういえばなるちゃんと洋太でなんかクラス替えの話で喧嘩してたっけ…
てっきり終わった話だと思ってたら、いつの間にか賭け事にまで発展してたんだ…
それに心矢が巻き込まれたわけねかわいそうに
心矢はイヤイヤと首を振ってかけの離脱を宣言するも、なるちゃんがそれを認めない。

「何言ってるのよ、ここで怖気付くなんて男として情けないわよ
…賭けに負けたって死ぬわけじゃないじゃない。」

「その可能性が否定できないのは事実じゃないか!」

「けど、心矢がかけたの誰かとは同じクラスだろ?全員一緒と全員バラバラの間、
一番有利だと思うけどな」

「あのね洋太くん、世の中確率じゃないのよ、奇跡は起きるのよ!」

「だから、その話の決着は二人でつけなよ…
ルイも黙ってないで止めてよ!こんな事で賭けなんて良くないと思わない!?」

「そう言われてもねぇ…」

まぁ確かにかけをするほどのことでもないとは思うけど
おそらくかけを持ちかけたであろうなるちゃんがやる気満々だし…
多分私が何を言ったところでやめないだろう。
それどころか

「あ、そうだ、ルイちゃんも混ざらない?」

火の粉が私にまで回ってきた。
こうなるともう止めるどころの話ではない。
結果的に、私も賭けに混ざることとなり、
「全員同じクラス」がなるちゃん(とほぼ強○的に私)
「全員バラバラ」が洋太「全員は無理だけど何人かは同じクラス」が心矢で
話がまとまった。

こうして各々がクラス分けの掲示物を見に行き、自分の名前を探すこととなった。
私は1組から順番に名前を探しているけれど、なかなか見つからない

「えーっと…き…き…ないなぁ…」

ちなみに私のフルネームは「きのした るい」で、漢字は「木下 涙」と書く。
漢字で名前を書くと「なみだちゃん」と呼ばれてしまうことが多いので、
テストを含めた正式な場以外ではカタカナで「ルイ」って書いてる
だから、他の人と比べると、自分の名前の漢字に見慣れていないので少し探すのに手こずっていたのかもしれない

4組まできて探すのに疲れてきた頃

「あ、あった!」

ようやく自分の名前を見つけた。
近くにいたなるちゃんと洋太が、それを聞いて私のところまでやってきた。

「本当に?あったの?」

「うん、4組。
あ、洋太も4組だったよ」

「え?まじ?」

「うん、ほら」

私は自分の名前の上に「北義 洋太」と表記されている場所を指差す
あいうえお順で、名字が私と同じ「き」から始まるので、洋太の名前を探すのはそんなに苦労しなかった。
それを見るなり、なるちゃんは嬉しそうに

「これで洋太くんは脱落ね」

と肩に手を置きながらそう言った。
その時の洋太はなんとも言えない複雑そうな顔を浮かべていた。


「そう言えば、心矢どこいったの?」

なるちゃんはキョロキョロと辺りを見回した。

「そう言えば…この辺にまだきてないね、どこ行ったんだろう」

心矢のフルネームは「有山 心矢」で「あ」だから、一番最初に見つけられそうなもんなんだけど…
すると「ちょっとどいて〜」という声が少し遠くから聞こえてきた。
人混みをかき分けてようやく出てきたのは、ちょうど今探していた心矢だった。

「遅かったじゃない、何してたの?」

「あっちの方人多くて、こっちまで来るのに時間かかった。
それよりどう?みんなあった?」

「私と洋太は見つけたよ、二人とも4組」

「あ、お前もあったぞ」

洋太にそう言われてみてみると、
確かに四組の一番上に心矢の名前が書かれていた。
これで3人が同じクラスとなった。
あとはなるちゃんが同じクラスかどうかで運命が決まる。

全員なるちゃんのフルネーム「杉野成子」という表記を探した。
男子二人はなるちゃんの名前がないことを願った。
しかし、運命とは非情なり

「あ、あった!私も4組みたい!」

結果的に6クラスもある中、4人全員が同じクラスになるという奇跡を起こした。
かくして、喜ぶなるちゃんと今後の身を案じる男子二人の構図がで出来上がり
今に至る。

「もー、洋太がクラス替えのことで喧嘩するから…どうするのさ」

「仕方ないだろ、4人全員同じクラスの確率なんてかなり低いから、一番ないと思ったし
お前こそ一番ありえそうなこと言っときながら外すなよ」

「それは僕の責任じゃないでしょ!喧嘩始めたそっちが悪い!」

なぜか責任の押し付け合いを始める二人。
負けてからそんなことしても現実は何も変わらないのに…醜い争いだ。
まぁそんなこと言ってられるのは、私が買った側だからなんだけど。

「さて…約束だからいうこと聞いてもらわないとね〜
何してもらおうかしら〜」

ほくほくと、満足げな笑みを浮かべるなるちゃんに危機感を覚えた二人は、

「そういえば、ルイ保健室行ったほうがいいんじゃない?」

「そうだ、頭打ってんだろ?行ったほうがいいって!」

あからさまに話題の方向転換を行った。
けが人を使って…しかもなるちゃんが無視できない話を使うのは少々卑怯な気はする。
とはいえ、心配してくれてるのは事実だろうから私も返事をしないわけにはいかないか。

「うーん…でも私、特になんともないんだよね…痛みも吐き気もないし…
記憶が半日ないくらいだからなぁ…」

「だから、それがまずいって言ってんの」

「確かにそうよねぇ…ルイちゃん、付き添ってあげるから保健室行きましょ」

「え、いいよ付き添いなんて…行くなら一人で行くし」

「そう?」

不安そうに私の顔を見つめるなるちゃん。
普通にしてはいたけど、やっぱり怪我させてしまった責任を感じているらしい。
そもそも実感がないのでそこまで罪悪感を与えてしまうのは逆に申し訳ない
本当に大丈夫なんだけど…安心させるために保健室行ったほうがいいかな

「わかったよ、じゃあ保健室行ってくるから、みんなは先に教室行ってて」

「わかった、無理しないでね」

そう呼びかけられて送り出された私は
こうして私は一人で保健室にへ向かった

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赤羽決亭@木東有稀 2020/10/14 21:09

フシギナパラダイス1話:〜不思議な道〜3/9

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あれから数分

結局その後、私は特に何も言及せず3人の決定に従ってその後ろについて歩いた。
でも…歩けば歩くほど違和感しかない。
今どの辺りに自分がいるかも把握できていないのだ。

私は前を歩く3人を見る。
なんか必死になって話しているので、何かと思って耳を傾けると

「今年もさ、4人とも同じクラスだったら10年連続?ちょっとした記録よね」

「10年は3人の場合だろ?…まぁそれはいいとして
今までは2クラスだったかけど、今回は6クラスだぞ?
全員一緒は無理だって、てかもう俺はいい加減クラス別がいい」

「何よつれないわね…心矢だって、記録チャレンジしたいわよね?」

「んー…気持ちとしてはともかく現実的に難しいんじゃないの?
洋太が計算してそう言ってるならなおさらさ」

やっぱり誰も疑問に思ってる様子はない
もう会話は道のことや私の怪我のことじゃなく、この後のクラス替えの話で盛り上がっている。

私の気にしすぎ?
それとも頭打って記憶が混乱してる?

でも…それだけじゃ説明ができない。昨日今日だけの話じゃない。

私だって、この町に住んで長い、四捨五入したら10年くらいは経つ。

そもそも、うちの中学までは位置的にどうしても遠回りになってしまうというのは周知の事実で
話題のタネになってたレベル。

だから、こんなわかりやすい場所に近道があるのなら、もっと早くに知られてなきゃおかしい。
なのになるちゃんと洋太は、疑問に思わなかっただけで、道のこと自体は今日初めて知った様子だった。

だから本当であれば存在なんかするはずがないのだ。
でも、実際には存在して…私はここを歩いていて…
じゃあここは一体…

「二人で賭け始めたんだから二人でやりなよ!僕は関係ない!」

「何よ、つれないわね…いいじゃない二人でやってもつまんないわよ。」

「絶対ヤダ」

一人で悶々と謎解きをしていると、前の3人の会話が一層にぎやかになった。
よくわからないけどなんかいつの間にかクラス替えの話から賭けの話までに発展している。
なぜそんなことになったのかはわからないけど、まあ楽しそうで何よりだ。
心矢はイヤイヤと頭を抱えながら首を横にブンブンと振っている。

そんな様子を見て洋太は心矢をなだめる

「まぁ、別に無理強いはしないけど
でも、なるの提案にしては比較的フェアだぞ?」

「やだって!絶対なんか企んでる!」

「どうせ4人全員おんなじクラスなんて無理だって、
不安ならそこの神社で神頼みしたら、安心かもしれないぞ?」

「え…」

私はその会話を聞いて、顔を上げた、
確かにすぐ近くに神社があった。小さかったけれど、結構立派だった。

でも、私はそれをみた瞬間…私はサッと血の気が引いた。
いよいよ話がおかしくなってきた。

「ルイちゃん?どうしたの…そんなに青ざめて…」

私の顔色が悪くなったことに気がついて、なるちゃんは私に声をかけてきた。
あまりにも自分の記憶と目の前の光景が違いすぎて、頭が混乱して、爆発寸前だった
だから、私はついに疑問を口に出した

「ねえ…神社なんて…この辺りにあった?」

だって…この辺に神社なんかないはずないのだから。
うちから一番近い神社でも、あるのは中学の向こう側
つまり通学中に通る場所に神社はない。
だから、ありえない…なのにそんな私の声に誰も賛同してはくれなかった。

「ルイちゃん…どうしたのよ…突然そんなこといいだして…」

「だって、だってやっぱりおかしいよ。
この神社のこともだけど、この道だって…昨日までなかったじゃん。
あったなら、もっと前から知ってるはずだし」

「ルイ、本当にどうしちゃったのさ…やっぱ頭打って記憶混乱して…」

「違うって…だって、ここにこんな道がなかったことだけははっきり覚えてる
心矢だって…なるちゃんだって、昨日一緒に確認したじゃん!」


なるちゃんと心矢は私の言い分を聞いて困惑したかのように顔を見合わせた。
まるで、おかしなことを言ってるのは私と言っているかのように。
ただ、何をどう言っていいのか悩んでいるみたいだった
その様子に見かねたのか洋太は

「でも、あるもんはあるんだからしょうがないだろ…」

人事も生えてくるわけじゃあるまいし…とそう言葉を付け足して私に言った。
一瞬反論したくはなった、でも言われてみたらその通りだった。
どんなに記憶の中と現実が違おうとも、現に私はなかったはずのその道を通って
神社までやってきた。
その事実は変えられない…じゃあ…間違ってるのは…私なのかな…

「とりあえず、早く行きましょう。
長居すると、せっかくの近道なのに意味なくなっちゃうわ。」

私がうつむいて悶々と考えていると、なるちゃんはそう私に声をかけた。
そして3人はその言葉を合図にまた歩き始めた。

私はもう一度神社の方を向きなおす

そっか…知らなかっただけで、神社この近所にあったんだ…
そうだよね…別に住んでるからって隅々まで知ってるわけじゃないし
知らないことあったって…不思議じゃないよね。

そう自分に言い聞かせて自分も一歩前に足を踏み出そうとしたそのとき、
鳥居の奥の方から、パタパタと足音が聞こえてきた。
なんだろうと思って振り向くと

「うわっ!」

誰かとぶつかった私は思いっきり地面に尻餅をついて転んでしまった。


「イタタ…な…なんなの?」

起き上がってみると、そこには見知らぬ…子供が覆いかぶさっていた…
不思議な格好をした金髪の…顔が見えないけど、多分男の子…
この神社の子だろうか…でも神社の関係者で金髪…

「ルイ、大丈夫か?」

遠くの方から名前を呼ばれた。
私はその声にハッとして「大丈夫〜」と返事して、男の子に視線を向けた

「ごめんね、ぼく大丈夫?怪我してない?」

私は男の子に手を差し伸べると、

「すいません」

と言って、男の子は私の手を取った。
そのとき、手の中に皮膚ではない何かが触れた
それが何か考える間も無く、男の子はその場を走り去ってしまった

「え、あ、ちょっとぼく!?」

私は焦ってその子を呼び止める
怪我してないか心配だったのもあるけど、
私の手の中には、先ほど触れた男の子の忘れ物が残されていたからだ。
でも変えそうにも、男の子の姿はあっという間に見えなくなってしまった。

どうしようと途方にくれる私は、掌を開いてそれがなんだったのか確認した。
それは…勾玉だった。

「ルイ、本当に大丈夫か?」

いつの間にか近くまで来てた洋太にハッとする。
心配かけてしまったらしい。

「ごめん、なんでもない。大丈夫」

私はそういうと、勾玉をもう一度握りしめて、今度こそ学校に向かって歩みを進めた


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そこから少し離れた場所で、彼らを見守る影があった。
「どうだった?」

結果がきになるそれは、彼にそう尋ねる。

「ひとまず準備はできました、後は結果を待つだけです。」

「一致しそうか?」

「おそらく、まちがいないかと」

「…」

それは、彼の答えに少し不服そうな態度を示した。
その様子に彼は小さくため息をつく

「まだ、あの件について心配されているのですか?」

「仕方ないだろう…歴代よりも年齢が幼い
いつも年齢は大体同じだったのに…本当にそうなのか?信じられない」

「それは、前にも説明したじゃないですか。
諸事情で時期が早まったって…それにその事情を抜きにしても誤差にすぎません。
それに、年齢に何か問題あります?」

「…」

そう聞くと、それは少しの間黙った。
確かに、「そう」であるなら、年齢など関係ないのだ。
しかし、それがそこまで心配するのには、少し訳があった。
今回はそれまでと違い「異例」があまりにも多い。
だからこそ、何か間違いがあるわけにはいかなかった
間違いがあった場合、これまで以上に問題になり得るからだ。

「…今回の*****には…辛い役目を負わせることになるな…」

「…確かに心は痛みます、しかしこればかりは初めから決まっていたこと
…それがたまたま……………だっただけ、それだけです。」

「…お前は平気か?」

それは、彼を見る。
もともと、これは本来彼の仕事ではない。
彼は今、代理として、危険で…重い任務を引き受け、ここにいる。
だから、慣れていない任務に躊躇しているのではないかと思ったのだ。
しかし予想とは裏腹に、彼は真剣な顔でこういう。

「何かを守るために、多少の犠牲はやむを得ません
誰かがやるべき役目がぼくに回ってきた…それだけの話です。」

その瞳から…決意と覚悟が伝わった。
だから

「…最後の最後で…押し付けてすまない。」

そう、静かに彼に告げた。
彼は、パッと笑顔になって

「何言ってるんですか、これも修行の一つですよ」

と、なんでもないかのようにそう言った。
だから「跡を頼む」とだけ伝えて、シュンッと姿を消した。

彼はそれがいなくなったのを確認すると、空を見上げてぽつりと呟いた。

「ええ、お任せください。責務は必ず」


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赤羽決亭@木東有稀 2020/10/13 17:02

【ノベル】フシギナパラダイス1話:〜不思議な道〜2/9

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…耳をすませば、小鳥や鳩の鳴き声が聞こえた。

しかし、そんな清々しい音とは裏腹に、私の後頭部はズキズキと痛んだ。
ちょっと転んだだけだと思ってたけど…なかなかの衝撃だったらしい

…ん?

あれ?ちょっと待って?私…なんで後頭部が痛いの?
さっき、私こ飛んだ時にぶつけたの…おでこじゃ…

私はゆっくり目を開ける。

「あ…れ…?」


*気まぐれアフター様より画像素材拝借

目を開けると、そこには真っ青な空が広がっていた。
私は慌てて体を起こした。

青い空が広がっていて、おかしい事も困ることも別にない。
でも…今の私にとって、これはあまりにもありえない不思議な出来事だ

だって…ついさっき…どんなに長くても1 分前くらいまでは…夕方だったのだ。
赤い空が1分もしないうちに青空になるなんて、自然の摂理的にありえない…

それになるちゃんと心矢の二人の姿がない。
ついさっきまで見える範囲の場所にいたはずで…見捨てて行ったにしても
見えなくなるほど遠くに行く時間はない

場所は幸いにもさっきと同じ場所みたいだけど…

なんで場所以外のことがこんなに変わっているのか、
私は状況が把握できず困惑していると

「ルイちゃん!」

大きな声で自分の名前を呼ばれたかと思うとそのまま誰かに抱きつかれた。
その相手は…

「な…なるちゃん?」

「よかった〜無事で…」

「ぶ…無事?」

「怪我してない?頭とか打ってない?気分悪くなってない?」

そう聞きながら、私から体を引き剥がすと、今度は肩に手を置いて
ブンブンと体を揺すった。

頭打った可能性を危惧してるなら揺らさないで〜
というより、頭打ったことよりも頭揺らされてることで気持ち悪くなりそう
という、私の胸の内を伝えるのはこの状況では無理そうだ。

すると、パタパタともう一つ別の足音が聞こえてきた。

「ルイ〜!大丈夫〜!?なんかすごい威力だったけど」

どうやら心矢のようだ。
威力がどうとかいうのはよくわからないけど
とりあえず、二人ともどこかに行ったわけじゃなかったことに安堵した。

でも、その直後、私はあることに気がついた。

「あれ…二人とも…いつ私服から制服に着替えたの?」

「え?」

入学式前日の私たちが、プライベートで制服なんか切る必要はない。
だから当然、私たちは説明するまでもなく私服で買い物に出かけている。
なのに二人は制服にいつの間にか着替えている、なんの脈絡もなく。
だから私がこの質問をすることに何もおかしいことはない。

なのに、二人は困惑したかのように顔を見合わせた。
そして心矢が言葉を発した

「何言ってるのさ…自分だって制服着てるじゃん」

「え…!?」

そう言われて、私は自分の体を見回した。
心矢の言う通りだ。
さっきまで私服を着ていたはずなのに、いつの間にか制服に着替えている。
…でも…いつ?いつ着替えたの?私、着替えた記憶は…

「ルイちゃん…ちょっと…大丈夫?
今日入学式よ?制服着てるのは当たり前でしょ?」

なるちゃんは諭すように言ったその言葉に私はぎょっとした。

「ちょ、ちょっと待って、入学式は明日でしょ?」

「何言ってるのよ、入学式は今日よ?」

「だ…だって今夕方でしょ?」

「この青空のどこが夕方なのよ!」

私はなるちゃんに指で空を指され、その方向に顔を上げる。
憎たらしいくらいの青空は、私の記憶よりもなるちゃんの説明の方が正しいことを証明している。
でも…さっきまで間違いなく…だってあんなにはっきり重い荷物持ってた記憶が…

「おい、なる!自分のことくらい後始末してけよ!」

少し遅い足音と、目の前にいる二人以外の別の声が聞こえる。
その声に反応したなるちゃんは笑顔でその人物に手を振って

「遅かったじゃない洋太くん」

と声をかけた

「え?」

私はゆっくり振り返ると、そこにはよく知った顔があった…知った顔ではあるけれど…
彼がここにいるのはあまりにも不自然だ

だって、さっきまで一緒にいたのはなるちゃんと心矢、私を入れて3人だったはず…
なのにまるで最初から一緒にいたかのように違和感なく会話に混ざっている…
突然湧いて出たかのように現れているにも関わらずだ…

「お前…こんな重いのよく持てたな…ってか、これ当たったんならだいぶやばいだろ…
ルイ、お前ほんとに大丈夫か?」

「あの…それがね…」

「…んで?」

だから…たとえ心配してくれてたとしても、私のこの疑問を口にするのは
何も間違ってないと思う…と言うか、当然の疑問

「なんで洋太がここにいるの!?」

「は!?」

「だって…洋太が今、ここにいるわけないもん。
さっきまで、なるちゃんと心矢と3人で…」

私がそう言うと、目の前にいた心矢となるちゃんは不安が的中したかのように慌てだし
洋太は自分がなぜいないことにされているかに驚くと言う
三者三様…いや四者四様の混乱がここに生まれた。

その中で一番最初に落ち着いたのか、心矢は私の肩に手をポンと起き

「ルイ、ちょっと落ち着いてけって。
今日は朝、待ち合わせ場所で僕となると洋太とルイの4人で集合してから
ずっと一緒に行動してたでしょ?」

と私に説明してくれた。

「…」

「覚えてない?一緒に入学式行こうって約束して…」

「約束のことは覚えてるよ?でも…朝…?」

私はそう言うと黙って頭をフル回転させた。
でも、該当する記憶はどこにもない。
なんなら寝た記憶すらない。

その様子に、3人とも流石に私の状況を把握したらしい
そして3人とも、洋太が持っている白い箱に注目した。

「おい、これ想像以上にやばいんじゃねーの?
お前威力どうやって調整したんだよ」

「ちゃんと健康被害で内容にはしたのよ?
でも仕方ないじゃない、壊れて予想外の方から飛び出ちゃったんだもの」

「だからそう言う不具合なくしてから…ってかなんでこんなもん持ってきたんだよ!」

なるちゃんと洋太は、何かを察してか喧嘩が勃発してしまった。
話を聞いている限り、その白い箱こそが、私がこんな状態になってしまった原因らしい。

目の前で喧嘩されても、私自身状況把握ができないので
その場を収めて説明をしてもらうと、どうやらこう言うことらしい

さっきも説明したように、なるちゃんは機械を作ることが大好きだ
そのなるちゃんが、なぜか張り切ってびっくり箱を作ったらしい。
そのびっくり箱は、よくあるボクシンググローブのやつで
開けると攻撃を受けるらしい。
ちゃんと開ければ少し重いパンチくらいですむらしいんだけど、
心矢に試そうとした時に何かの拍子で壊れ別の場所からグローブが飛び出した…
想定していない場所とタイミングで飛び出したグローブは威力の制御ができていないまま飛びだして…
その飛び出した場所に私がいて、思いっきり飛ばされたらしい。

で…頭をぶつけた私は…

「…記憶喪失…ってこと?私が?」

「って…ことみたいね。」

「二人とルイの話を聞く限り、昨日の夕方から半日…ってところか?」

「で、でも半日でよかったわね、長期間だったらたいへ…」

「そう言う問題じゃないだろ、ちょっとは反省しろ」

「…ごめんなさい。」

洋太に怒られたなるちゃんはめちゃくちゃ責任を感じているらしく、
道端だと言うのにその場に正座してうなだれた。

「ルイどうする?病院行く?」

心矢は私を心配してそう提案する。
確かに、ちょっと心配ではあるけどあんまり実感ないし、
幸い消えた記憶も半日でそんなに困るレベルじゃない。
だから私は首を横に振って

「いいよ、そこまで大袈裟じゃないし…」

と断った。
しかしそれを聞いた洋太はこっちを向いて、少し渋い顔をしていった。

「けど、念の為行った方がいいんじゃねーの?
頭部を強打した時って、後から来るって言うし…」

「でもなぁ…ほんとにもう大丈夫だし…」

って言うか、ここで病院行ったら私入学式出られないじゃん。
この日を待ちに待ったのに、そんなの絶対ヤダ。

その意志を感じ取ったのか、それ以上誰も無理強いはしなかったけど
心配は拭えない様子。
何も覚えていないけど
本当にすごい勢いで頭をぶつけたらしいことを、その場の空気が教えてくれた。

すると、心矢が何かを思い出したかのように手をポンと打つと

「あ、じゃあ近道していこうよ、早く学校つけば万一のことあっても保健室で見てもらえるし」

といった。

確かに近道があるならそれに越したことはないし、早く学校について困ることはない。
でも、この辺りに学校への近道できるような道なんてあったっけ?

それはなるちゃんと洋太も気になったのだろう。
本当なのかとか、そんな場所あった?などと問いただしていた。
あまりにも信じてもらえないことに不貞腐れたのか

「ほんとだって!ほらあそこ!」

と怒りながらある場所を指差した。


そこで私は違和感を持った。

心矢が指を指している場所は、私の少し後ろあたり、
でもそこはさっき…じゃない、
昨日、みちびきこちゃんの案内する場所に「道がない」と話になった塀あたりだ。

だから道があるはずはない、そんなことはあの場にいた心矢も知ってるはずなのに…

そう思って私はゆっくり振り返って指を刺された方向を見た。

「え」

私はその場所を見て息を飲む

だって、さっきまで塀だったはずの場所に…細い道が現れていたからだ。
記憶間違いなんてことは絶対にない。
だって私は昨日のことを、文字通り「さっきのことのように覚えている」
だから、この場所に道がなかったことに間違いがないことは断言できる。

だから私はそれを口にしようとした…けど

「本当にここ、近道なの?」

と、なるちゃんは不服を口にした…でも…

「ほんとだって、この前見つけて試したし、間違いないよ!」

「でもねぇ…洋太くんならまだしも、心矢の話じゃねぇ…」

あくまでその道が「近道であるか」の心配はしても、「その道があることについて」の言及は心矢同様しなかった。
これはおかしい。

だって、二人は私と一緒にここに道なんか存在しないことを一緒に確認してた。
なのに…なんで?

「ルイちゃん?どうしたの?」

なるちゃんに声をかけられて我に戻る。
気がつくとこの道を通ることはいつの間にか3人の中で決定され
心矢と洋太はすでにその道を歩き始めていた。

まるで、そこに最初から道があったかのように、何も疑問に持たずに…


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赤羽決亭@木東有稀 2020/10/12 19:51

フシギナパラダイス1話:〜不思議な道〜1/9

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*作品の無断転載・盗作×

*二次創作・紹介などは「作品名」記載いただければOKです!

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「ちょ…ちょっと待って…」

両手に大量の荷物を抱え、ゼーゼーと呼吸しながら道を一歩一歩ゆっくりと歩みを進めていた私は
腕と足の痛みと体力に限界を感じ、前を歩く彼女に声をかけた。

しかし…

「そんなに遅いと置いてっちゃうわよ?」

声に反応してくるりと後ろを振り返った彼女が
後ろを歩く私たち二人にかけた言葉は冷たいものだった。

その彼女の様子に、もう一人の付き人である彼も思うところがあったのか
ムッとして彼女に抗議した。

「そんなに文句言うなら、多少は自分で持ったらどうなのさ。
元はと言えば、これ全部なるの荷物でしょ!?」

心の中で私は激しく頷いた。
感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いは私たちにはない。
なぜならこれらの荷物は全て元はと言えば彼女の買い物の荷物だからだ。

しかもその買い物をした張本人である彼女…なるちゃんは、
一つたりとも物を持っていない。
だから余計イラっとするわけだけど…

「何よ心矢、文句あるの?
別に無理にお願いしたつもりはないし、嫌なら帰ってもいいのよ?
でも1000円は無しだからね」

と言い返されてしまい、彼…心矢は押し黙ってしまった。

そう、私と心矢はお金につられて、ホイホイついてきてしまったのだ。
お金がもらえる以上、文句を言う筋合いはない。

いわば雇い主と労働者の関係が出来上がっていた。
私はため息を吐いて心矢に言う。

「心矢、諦めよう。
お金に目が眩んだ私たちに、従う以外の選択肢はないよ。」

「…こう言う時腹座ってるよね。」

「私はそう言う定めだって思ってるからね
心矢も同じくらい長い付き合いなんだから、わかるでしょ?」

私たちは顔を見合わせるとはぁ…ともう一度ため息をついて歩き始めた。

…1000円が待ってる。あとちょっとで1000円。
と自分に言い聞かせて、だましだまし歩き続けたけど、
持ってる荷物の中身…実は機械や部品ばかりでかなりの重量で
だんだん足と腕のみならず、腰と背中まで痛くなってきた
どう頑張っても、家まで体力は持ちそうになかった。
せめて伸びはしたい…

私は耐えきれなくなり、なるちゃんと心矢がこっちを見ていないかを確認し、荷物を地面に置いて伸びをする。


関節がポキポキっと音を立てる、結構体に無理をさせていたのがわかる。
だいぶ楽になった、やっぱり休憩は大事だよね…と思いながら首を回してストレッチをしていると

私はふと電柱に貼られたチラシが目に入った。
いつもだったら、別に道端に貼られたチラシやポスターなんか気にも留めないのに、この日はなぜかやたらと気になった。

重い荷物を持ちたくなくて現実逃避をしたかった…と言うのも理由だけど
そこに書かれている内容は、最近この辺で起きてるある事件に関係ある気がしたからだった。
私は荷物をそこに置いたまま、そのチラシに近づく。

チラシには『探してください』と言う文字が赤く大きく記載されている
貼られたか紙は新しい…つまり最近貼られたばかりのものだ…と言うことは…


「ちょっと、荷物放棄して何してるのよ。」

突然後ろから声をかけられて、私は「うわっ!」っと声をあげて驚いた。
どうやらなかなか歩いてこない私を気にして、なるちゃんが様子を見にきたらしい。

「ご、ごめん。このチラシ気になって…」

「チラシ?…あら、行方不明の…また増えたの?」

「みたいだよ?紙貼ったばっかみたいだし…」

「物騒ねぇ…」

なるちゃんはそう呟くと、気になることがあるのかチラシを食い入るように見つめた。
多分行方不明者に心当たりがあるわけじゃないんだろうけど…

「ちょっと、二人とも…何してるの?流石の僕もそろそろ限界なんだけど。」

なるちゃんと私でチラシをまじまじと見ていると、遠くの方から心矢の声が聞こえてくる。
しまった…そうだよね、私だって疲れてるんだから心矢だって疲れてるよね。

「ごめん、すぐ行く」

私は慌てて置いてあった荷物を再び手に持って、
できる限りのスピードで心矢の元へ向かった。

しかし、

『ミチビキコーーーーー!!!』

突如聞こえた大きな機械音に声をあげて驚いて、わたしは足を止めた。
もう一人手の塞がっている仲間の心矢も、音が気になったのか、
「どうしたの?」と言いながらゆっくりこっちにやってくる。

何度も何度も繰り返されるその音がうるさくて耳を塞ぎたいところだけど、
残念なことに両手は塞がってる。
これは近所にも相当な迷惑がかかっているだろう。
早く止めたい一心でその音の元を探そうと
キョロキョロ辺りを見回して探した。

「あ、ごめん、私の…マナーモードにしてたのに…すぐ止めるわ。」

犯人はすぐ目の前にいた。
なるちゃんが、ごそごそとポケットをまさぐった。

「なんだ…なるちゃんの携帯だったんだ。
びっくりした…それにしても珍しい着信……………なにそれ。」

てっきり携帯が取り出されるのだろうなと思っていた彼女の手に持たれていたのは
携帯ではなく和風の人形がある一定の方向を扇子か何かで指し示していルものだった
予想とは全く違うものが出てきたので、私が目を見開いて驚いていると
なるちゃんはなんでもないように答えた。

「あぁ、これ?『みちびきこちゃん』っていうの、かわいいでしょ?」

「…確かにかわいいけど…なんでこの人形が突然喋り出したの?」

「これね、道に迷った時ように作ったのよ。
目的地までこのみちびきこちゃんが道案内してくれるの
昨日、中学校まで案内できるか試してたのよ」

「へー…」

なるちゃんはそれに付け加えて、なんかの弾みで電源入っちゃったのかもと言っていたけど
そこまで詳しい状況には興味がないので右から左へと聞き流した。

なるちゃんはこういう機械を作るのが好きで、今日の買い物内容も機械を作る部品を大量購入するためだった。
本当は真剣に話を聞いてあげたほうがいいんだろうし、実際色々と疑問はあるけど、
そもそも何から聞いていいのかわからないし、何を聞いても分かんないと判断したので、
とりあえず静かになってよかったと思いながら
電源を切った今も、どんなに動かしても一方の方向を指し続けるその人形を、冷めた目で見つめた。
その一方、心矢の方にはどうしても気になる事があったらしくて、なるちゃんに声をかけた。

「その人形、道案内する機械だったっけ?」

「え?えぇ、そうよ。それがなによ」

「でも…その人形が指してる方向に…道ないけど…」

心矢がそういうと、私となるちゃんもみちびきこちゃんの指している方角に顔を向けた。
確かにそこあるのは塀だけで…道と呼べるようなものはどこにもなかった。
一瞬、もしかしたら道があるのだろうかと、3人で目を凝らしてみちびきこちゃんが指す塀を見ていたけど
当然そんなことをしたところで道なんか現れない。

「…変ねぇ…昨日試した時は…」

「まぁ実際、中学だったらこっち方面だし、ここに道があったら楽ではあるな。」

「そんな心矢のような気持ちでみちびきこちゃんが指すわけないじゃない。」

確かに、道案内する機械がそんな気まぐれを起こすようなことでは困るし
作った本人であるなるちゃんが、目的を持って作った機械をそんな風に作るはずない。
ってことはバグか…この塀に何か秘密があるか…なんだけど…
…まさかそんな隠し通路みたいなの、こんなところにあるわけ…

そう思いながら私は念のため確認しようと、荷物を置いてその塀を手で触ってみたその瞬間…

「…っ」

突然のキーンという耳鳴りと
目の前が少し暗くなり景色が歪んで見え、少しだけふらついた。

でも一瞬でその状態は終わり、手を壁についていたおかげもあってかバランスを崩さすに済んだ。
だから、二人とも私の様子には気がつかず会話を進めていた。

「もう行きましょう、多分ただのバグよ、帰ったら治すわ。」

「え、原因究明しなくていいの?」

「ここでやる必要もないじゃない、もう暗くなりかけてるし。
それにもう充分休んだでしょ?キリキリ働く!」

「なるの鬼〜!明日筋肉痛で遅刻したらどうすんのさ」

「どうするも何も置いてくに決まってるでしょ?
洋太くんからも、明日遅刻厳禁って言われてるでしょ?」

「じゃあもう少しー…」

そう言って歩みを進めた二人の背中を見た後、
もう一度私は塀の方に顔を向けた。

「ルイちゃん!置いてくわよ!」

私は名前を呼ばれてハッとして、急いで荷物を持って追いかけようとした。

「ごめん、すぐ行く!」

でも…それがいけなかった。

私は足元の小石につまづいたらしく
前のめりになって、盛大にコケてしまった。

当然両手はとても重い荷物を持っているので、手を突くのは間に合わない。
私は思いっきりおでこをコンクリートの道路に直撃してしまった

重い荷物・めまい直後・急な動きの3拍子揃った状況では
当然の結果である。

しかも最悪なことに頭をぶつけたのか、一瞬だけ意識が飛び、辺りは真っ暗になった。

意識が飛ぶ前「ルイちゃん!」という私の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。



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