赤羽決亭@木東有稀 2020/10/12 19:51

フシギナパラダイス1話:〜不思議な道〜1/9

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「ちょ…ちょっと待って…」

両手に大量の荷物を抱え、ゼーゼーと呼吸しながら道を一歩一歩ゆっくりと歩みを進めていた私は
腕と足の痛みと体力に限界を感じ、前を歩く彼女に声をかけた。

しかし…

「そんなに遅いと置いてっちゃうわよ?」

声に反応してくるりと後ろを振り返った彼女が
後ろを歩く私たち二人にかけた言葉は冷たいものだった。

その彼女の様子に、もう一人の付き人である彼も思うところがあったのか
ムッとして彼女に抗議した。

「そんなに文句言うなら、多少は自分で持ったらどうなのさ。
元はと言えば、これ全部なるの荷物でしょ!?」

心の中で私は激しく頷いた。
感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いは私たちにはない。
なぜならこれらの荷物は全て元はと言えば彼女の買い物の荷物だからだ。

しかもその買い物をした張本人である彼女…なるちゃんは、
一つたりとも物を持っていない。
だから余計イラっとするわけだけど…

「何よ心矢、文句あるの?
別に無理にお願いしたつもりはないし、嫌なら帰ってもいいのよ?
でも1000円は無しだからね」

と言い返されてしまい、彼…心矢は押し黙ってしまった。

そう、私と心矢はお金につられて、ホイホイついてきてしまったのだ。
お金がもらえる以上、文句を言う筋合いはない。

いわば雇い主と労働者の関係が出来上がっていた。
私はため息を吐いて心矢に言う。

「心矢、諦めよう。
お金に目が眩んだ私たちに、従う以外の選択肢はないよ。」

「…こう言う時腹座ってるよね。」

「私はそう言う定めだって思ってるからね
心矢も同じくらい長い付き合いなんだから、わかるでしょ?」

私たちは顔を見合わせるとはぁ…ともう一度ため息をついて歩き始めた。

…1000円が待ってる。あとちょっとで1000円。
と自分に言い聞かせて、だましだまし歩き続けたけど、
持ってる荷物の中身…実は機械や部品ばかりでかなりの重量で
だんだん足と腕のみならず、腰と背中まで痛くなってきた
どう頑張っても、家まで体力は持ちそうになかった。
せめて伸びはしたい…

私は耐えきれなくなり、なるちゃんと心矢がこっちを見ていないかを確認し、荷物を地面に置いて伸びをする。


関節がポキポキっと音を立てる、結構体に無理をさせていたのがわかる。
だいぶ楽になった、やっぱり休憩は大事だよね…と思いながら首を回してストレッチをしていると

私はふと電柱に貼られたチラシが目に入った。
いつもだったら、別に道端に貼られたチラシやポスターなんか気にも留めないのに、この日はなぜかやたらと気になった。

重い荷物を持ちたくなくて現実逃避をしたかった…と言うのも理由だけど
そこに書かれている内容は、最近この辺で起きてるある事件に関係ある気がしたからだった。
私は荷物をそこに置いたまま、そのチラシに近づく。

チラシには『探してください』と言う文字が赤く大きく記載されている
貼られたか紙は新しい…つまり最近貼られたばかりのものだ…と言うことは…


「ちょっと、荷物放棄して何してるのよ。」

突然後ろから声をかけられて、私は「うわっ!」っと声をあげて驚いた。
どうやらなかなか歩いてこない私を気にして、なるちゃんが様子を見にきたらしい。

「ご、ごめん。このチラシ気になって…」

「チラシ?…あら、行方不明の…また増えたの?」

「みたいだよ?紙貼ったばっかみたいだし…」

「物騒ねぇ…」

なるちゃんはそう呟くと、気になることがあるのかチラシを食い入るように見つめた。
多分行方不明者に心当たりがあるわけじゃないんだろうけど…

「ちょっと、二人とも…何してるの?流石の僕もそろそろ限界なんだけど。」

なるちゃんと私でチラシをまじまじと見ていると、遠くの方から心矢の声が聞こえてくる。
しまった…そうだよね、私だって疲れてるんだから心矢だって疲れてるよね。

「ごめん、すぐ行く」

私は慌てて置いてあった荷物を再び手に持って、
できる限りのスピードで心矢の元へ向かった。

しかし、

『ミチビキコーーーーー!!!』

突如聞こえた大きな機械音に声をあげて驚いて、わたしは足を止めた。
もう一人手の塞がっている仲間の心矢も、音が気になったのか、
「どうしたの?」と言いながらゆっくりこっちにやってくる。

何度も何度も繰り返されるその音がうるさくて耳を塞ぎたいところだけど、
残念なことに両手は塞がってる。
これは近所にも相当な迷惑がかかっているだろう。
早く止めたい一心でその音の元を探そうと
キョロキョロ辺りを見回して探した。

「あ、ごめん、私の…マナーモードにしてたのに…すぐ止めるわ。」

犯人はすぐ目の前にいた。
なるちゃんが、ごそごそとポケットをまさぐった。

「なんだ…なるちゃんの携帯だったんだ。
びっくりした…それにしても珍しい着信……………なにそれ。」

てっきり携帯が取り出されるのだろうなと思っていた彼女の手に持たれていたのは
携帯ではなく和風の人形がある一定の方向を扇子か何かで指し示していルものだった
予想とは全く違うものが出てきたので、私が目を見開いて驚いていると
なるちゃんはなんでもないように答えた。

「あぁ、これ?『みちびきこちゃん』っていうの、かわいいでしょ?」

「…確かにかわいいけど…なんでこの人形が突然喋り出したの?」

「これね、道に迷った時ように作ったのよ。
目的地までこのみちびきこちゃんが道案内してくれるの
昨日、中学校まで案内できるか試してたのよ」

「へー…」

なるちゃんはそれに付け加えて、なんかの弾みで電源入っちゃったのかもと言っていたけど
そこまで詳しい状況には興味がないので右から左へと聞き流した。

なるちゃんはこういう機械を作るのが好きで、今日の買い物内容も機械を作る部品を大量購入するためだった。
本当は真剣に話を聞いてあげたほうがいいんだろうし、実際色々と疑問はあるけど、
そもそも何から聞いていいのかわからないし、何を聞いても分かんないと判断したので、
とりあえず静かになってよかったと思いながら
電源を切った今も、どんなに動かしても一方の方向を指し続けるその人形を、冷めた目で見つめた。
その一方、心矢の方にはどうしても気になる事があったらしくて、なるちゃんに声をかけた。

「その人形、道案内する機械だったっけ?」

「え?えぇ、そうよ。それがなによ」

「でも…その人形が指してる方向に…道ないけど…」

心矢がそういうと、私となるちゃんもみちびきこちゃんの指している方角に顔を向けた。
確かにそこあるのは塀だけで…道と呼べるようなものはどこにもなかった。
一瞬、もしかしたら道があるのだろうかと、3人で目を凝らしてみちびきこちゃんが指す塀を見ていたけど
当然そんなことをしたところで道なんか現れない。

「…変ねぇ…昨日試した時は…」

「まぁ実際、中学だったらこっち方面だし、ここに道があったら楽ではあるな。」

「そんな心矢のような気持ちでみちびきこちゃんが指すわけないじゃない。」

確かに、道案内する機械がそんな気まぐれを起こすようなことでは困るし
作った本人であるなるちゃんが、目的を持って作った機械をそんな風に作るはずない。
ってことはバグか…この塀に何か秘密があるか…なんだけど…
…まさかそんな隠し通路みたいなの、こんなところにあるわけ…

そう思いながら私は念のため確認しようと、荷物を置いてその塀を手で触ってみたその瞬間…

「…っ」

突然のキーンという耳鳴りと
目の前が少し暗くなり景色が歪んで見え、少しだけふらついた。

でも一瞬でその状態は終わり、手を壁についていたおかげもあってかバランスを崩さすに済んだ。
だから、二人とも私の様子には気がつかず会話を進めていた。

「もう行きましょう、多分ただのバグよ、帰ったら治すわ。」

「え、原因究明しなくていいの?」

「ここでやる必要もないじゃない、もう暗くなりかけてるし。
それにもう充分休んだでしょ?キリキリ働く!」

「なるの鬼〜!明日筋肉痛で遅刻したらどうすんのさ」

「どうするも何も置いてくに決まってるでしょ?
洋太くんからも、明日遅刻厳禁って言われてるでしょ?」

「じゃあもう少しー…」

そう言って歩みを進めた二人の背中を見た後、
もう一度私は塀の方に顔を向けた。

「ルイちゃん!置いてくわよ!」

私は名前を呼ばれてハッとして、急いで荷物を持って追いかけようとした。

「ごめん、すぐ行く!」

でも…それがいけなかった。

私は足元の小石につまづいたらしく
前のめりになって、盛大にコケてしまった。

当然両手はとても重い荷物を持っているので、手を突くのは間に合わない。
私は思いっきりおでこをコンクリートの道路に直撃してしまった

重い荷物・めまい直後・急な動きの3拍子揃った状況では
当然の結果である。

しかも最悪なことに頭をぶつけたのか、一瞬だけ意識が飛び、辺りは真っ暗になった。

意識が飛ぶ前「ルイちゃん!」という私の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。



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