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彼女が援交(それ)を始めた事情 ~プロローグ~

それでは『援交少女』の前日譚、『彼女が援交(それ)を始めた事情』 いよいよ連載スタートします!
初回のプロローグは宣伝も兼ねてフォロー無しでもご覧いただける全体向け記事として公開しています。次回以降はフォロワー向けのエリアに移行して続けますので(無料フォローのプランで読めます!)ご興味持てそうでしたらフォロワー登録よろしくお願い致します。

プロローグ

 入り口ドアから奥へと続く、狭くて薄暗い廊下。その先に広がる部屋に足を踏み入れた瞬間、雅美は思わず身を強張らせた。
 ド派手な豹柄の絨毯が敷き詰められた悪趣味な床の真ん中に、暗いベージュの布団が掛かった、やたらと巨大なベッドが周囲を威圧するように鎮座していた。

 雅美がとりわけ異様に感じたのはその横幅だった。縦寸と同じくらいに広くて、殆ど正方形に近い。小柄な自分だと真横に横たわっても頭と足先が1メートル近く余りそうだ。こんな無闇にでかいベッドを目にしたのは初めてだった。それはゴージャスというより、どこかに狂気を孕んだカルトの祭壇のようにさえ見えた。

「どうした? 緊張しとるのかね?」

背後から両肩に手を置かれて、もう一度すくみあがりそうになる全身を懸命に落ち着けた。こちらの弱気を悟られるのはマズい。本能が体にそう告げていた。

「まさか初めてだとは言うまいな、こういう場所が?」

 恐慌を起こしかけた視線が、正しい回答を探して華美な部屋の調度品の間をさまよう。こんなところに来たことなんかない! そう叫びたい嫌悪感と、こんな事もう馴れっこだと嘯(うそぶ)きたい反抗心がせめぎ合う。

「………………。」

 結局雅美は返事を返すことなく、後ろの男から自分の表情を隠すように横を向いた。

「…………フッフッフ…………なるほど、な」

 自分の頭ひとつ分を優に越える巨躯が背中に覆い被さるようにして、雅美の耳元に気味の悪い吐息を吹きかけてくる。

「強がっているのが丸分かりだぞ? 躰が震えそうなのを必死になって強張らせとる」
「…………べ、別に」

 それだけ答えるのが限界だった。それ以上喋れば男の指摘したとおり、自分が震えそうになっているのが声音から漏れてしまう。

「ここまで来て脅えたのかね? それとも興奮のあまりの武者震いかな? 精一杯背伸びして、遊び馴れた芝居を装ってはみたものの…………」

 男の両手が雅美の肩を滑り、やたらとビラビラしたレースに覆われた漆黒のブラウスをなぞって腹の前まで回ってくる。

「……どうやら台本に無理があったようだな……?」

 グローブでもまとっているかのような肉厚な掌が、腹の下から掬い上げるように左右の乳房を覆い、じわじわと指先に力を込めていく……

「うっ……ク……」

 思わず溢れそうになる悲鳴を、歯を噛み締めてひたすら押し殺した。

「……ほう、悪くないな。どうやらこっちの自己申告には嘘はなかったらしい。なかなか使い心地の良さそうな躰をしておる。いいだろう、契約成立だマミ君……と言ったかな?」

 ……とうとうここまで…………来てしまった…………いよいよ私は……するんだ……これから…………

「さ、先払いで…………ッ」
「………………フン」

 一旦男の手が体から離れ、大きく安堵の溜息を吐きそうになるのを、また我慢して、両目を閉じて、静かに呼吸を繰り返す。もはや本心を隠すためというより自分自身を落ち着かせるために。ドクンドクンと早鐘が脈打っているのが全身から聞こえてくる。

「ヒッ!?」

 その鼓動の出所になっている胸元に、いきなりガサッとした手触りが伝わり、とうとう雅美は耐えきれずに小さな悲鳴を漏らした。
 飾り紐で結び合わされたブラウスの胸元に、重ねられた十枚前後の紙幣が、無造作に捻じ込まれていた。

「ほらコレで良いのだろう売女?」

 その言葉と同時に、再び両方の膨らみにゴツい指先が食い込む。

「フッ!……グッ……んンッ…………ッ」
「随分と強気な値付けだ。よっぽど自信があるのか、生意気な娘め」

 さっき以上の握力でグニグニと双丘を揉み潰す。今度のは採寸ではない、掌の中の弾力を楽しんでいる。

「……と思っとったが、実のところ君には分かっておらんかったんじゃないのかね、こういう取引の相場というものが?」

 相場……まるで予想が付かなかったというのでもない。だけれど、自分には必要な額がある。かといって幾人をも相手に「取引」を繰り返してそこまで積み立てられる自信などなかった。だからとにかく最初は、不相応も承知で欲しい額を提示してみた……結果、それに釣られてくれたのがこの下劣な金持ちだった。

「こなれた作文を作り上げていたつもりだろうが、知恵を搾れば搾るほど漏れ出てしまうものだよ、虚勢とか、不安とか、そういうものは。特に君のような、若い者が書く文章にはな」
「今時のケツの軽いアバズレが書いたものとは種類が違う。文面を眺めた瞬間にそう感じた。だからこの娘にひとつ乗ってやるか……そんな気になった」

 うなじに……ヌルリとした不気味な粘着感が這う。

「はッ!? は……ヒッ…………」

 舐められている! 首筋を!

 見ず知らずの男の体液が、素肌に直接なすり付けられ、塗り広げられていく……冷汗にまみれた両手で、堪らずフリルだらけのスカートの生地を握り締めてしまう。

 ピチャピチャと気色の悪い粘着音が耳朶のすぐ後ろから鼓膜にまとわりついてくる。濡れて滑った舌が、ヌルヌルと首筋を往復する。高級そうなスーツの袖の中で盛り上がった逞しい両腕が、ブラウスの胸元の前で交叉し、右手が左胸を、左手が右胸を、それぞれ握り潰し、グニグニと脈動を続ける。へぁッ……はぁ……はぁ……男の息遣いが、興奮を露わにしてどんどん荒くなってきていた。余裕たっぷりに雅美を見下していても、どんな立派な身なりをしていても、その中身は親子ほど歳の離れた未成年の少女に札ビラを握らせて、卑猥なプレイに興じる下卑たヒヒジジイだ。

「…………ヒッ……ャ……ヒッ…………ヒ……」

 こんな奴を相手に泣き声なんか出したくない! 脅えているところなんか見せたくない! だけど息を吐き出すたびに、かすれるような、引き攣れたような高音が、喉の奥から軋み出す。

 男が両足を左右に踏み出しながら、腰を落とし、後ろから下腹を押し付けてきた。お尻の割れ目の上の方に、縦長の異物が押し当てられてくる生々しい肉感。雅美の記憶がフラッシュバックする。今日はお互いに身に着けた着衣越しだったけれども、それでもハッキリと感じ取れた。だって今日のは、あの時のよりも、もっとずっと大きかったから。

 ここまで力を振り絞って突っ張らせてきた意気地が、圧倒的な巨漢の肉圧に押し潰されて萎びていく。あぁ……やっぱり……こんなこと、やるんじゃなかった…………私には無理だ。地味で根暗な私みたいな女が……

 もうやめます、ごめんなさい。お金は返しますから、どうか許してください。そんな情けない降伏でも、いっそ口に出せる程度の勇気がこの無様な自分にもあれば……。けれども同時に雅美には分かっていた。その哀願を、男が受け入れることは絶対にないだろう。雅美が弱れば弱るほど、この獣はますます強くなり酷くなり、獲物を骨までしゃぶり尽くす。釣られたのはこの男ではなくて、私の方だったのだ。私はお金に目が眩んで、一番選んではいけない危険なタイプを相手に選んでしまった……

「クくくくッ……フッ……フッ……フッ……」

 男はほくそ笑みながら、雅美を抱えたまま、ゆっくりと腰を前後に揺すり始めた。華奢なウエストに食い込んだ二本の前腕に一層力が加わると、雅美の体は浮き上がり、両足が地面から離れそうになる。

「ちょっ、ちょっと…………ッ」

 巨漢の腕の中で、熊に襲われた雌鹿のように雅美は身じろぎした。前かがみになれば、お尻に周期的に擦り付けられる“それ”の圧迫がますます強まる。かといって背中を反らせば、揉みしだく両手に向かって胸を突き出すような恰好になってしまう。逃げ出す方角を失った雅美は、クネクネと体を左右に捩じりながら、下唇を噛んで目線を部屋中にさまよわせた。視界がグルグル回り出す。パニック発作。たすけて、たすけて! だけど一体誰に救いを求められると言うのだ? こうした時に呼べる人の名を、自分はもう持っていない。一瞬だけ、思ってもみなかった男性が脳裏をよぎり、ハッと息を飲んだ途端にその姿は煙に浮かんだ幻影のように掻き消えた。

「……いい肌触りだな。馴れたフリをしながら場違いな相場を吹っかけてくるから、おそらく金に困ってるなと踏んでいたが、そういう訳でもなさそうだ。趣味の良い格好とは言わんが、この生地や仕立ては貧乏人が身に着けるような代物でもなかろう?」

 え、そうなのか? 期せずして自分の手の内に残ってしまったこの衣装、こんな派手なファッションとは無縁な私には値段なんて分からなかった。常本の好きな、いつものコスプレだと思い込んでいた。
 そうと気付いていれば、ネットでこの服の価値を確かめ、オークションで売り手を探して…………何で頭がそっちに回らなかったんだろう? 今更になって自分のマヌケさが口惜しい。

「……目的は何だねお嬢さん? 男への興味かね? 親に大事に育てられた箱入り娘が、いかがわしい行為に身を穢してみたくなったか?」
「……クッ……ウゥぅ…………」

 皮肉なことに、思いも寄らなかった高価なカモフラージュが、全てを見透かす一歩手前まで迫っていた男に土壇場でミスリードを与えていた。

「年頃の好奇心を持て余し、さりとて若い奴等との未熟な乳繰り合いでは満たされず、大人相手にもっと過激な火遊びをしてみたくなった…………そんなところか、えぇ?」

 ……とはいえ…………この的外れな推理で自分が救われる訳でも、この状況から何かが変わる訳でもない。私がどこの誰だろうと、この男が何者であろうと、これから二人がすることには何ら影響しない。マヌケな自分にはもう全てが手遅れ、全部詰んでる。私はこれからそれをする。される。今日までギリギリのところで守ってきたものを、この男に奪われる。ついさっき初めて顔を合わせた、自分の父親と変らない年齢の、この傲慢で卑劣な中年男に。

 男が片手で雅美の顎を捕え、力任せに首を捻じ曲げた。鮫の目玉のように冷酷な、それでいて憤怒に塗れた野獣のように血走った眼が、至近距離から雅美の瞳を射抜く。

「……よかろう。教えてやるぞ小娘。チヤホヤ甘やかされて育ったお前のこの躰に、今まで知らなかった未体験のトラウマをワシが植え付けてやる」

 芝居がかった脅し文句に失笑しそうになったら、両目の端からポロポロと予想もしてなかった雫が零れ落ちてきた。その雅美の泣き笑いに誘われたように、男も悪魔じみた笑みに歯を剥き出しにして、そのまま開いた口を雅美の唇に覆い被せていった。

「ン~~~~ッ、ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛、ゲフッッッ」

 顎骨に食い込む指先で強引に広げられた口の中に、不気味な軟体動物が滑り込んできて、雅美は思わず嘔吐しそうになった。

「口を開けろ。舌を出せぇ。
逆らうことは許さんぞ。今のお前はこの金でワシに買われた汚らしい売春婦だ」
「あブッ……ブヂュッ……プぁッ、ヘァッ、ハッ、ハッ、ハッ……」

 けれどもこの男も勘付いてなかったようだ。雅美にとってこれがファーストキス、異性と唇を合わせる初めての経験、これだけで生涯拭うことのできない「未体験のトラウマ」であることに。

 若い娘を犯すことの興奮に自らも舞い上がり、もはや相手の様子を伺う気持ちなどない。いや、元々そんな気などないのだ。掲示板で拾った援交少女など、己の歪んだ欲望を吐き捨てるための道具にしか過ぎない。好きなように弄くり回し、好きなだけ罵倒し、辱しめ、汚して遊べる肉人形だ。

「どうだ? 満足かこのスケベ娘め。こういうことがしてみたかったのだろ? どこの誰とも知れん男にいやらしく犯されながら思いきりケツを振り、ドロドロの液に塗れて二度と忘れられんほど恥ずかしい目に遭わされてみたかったのだろうが?」

 違う! 違う! 私はそんなこと望んでない! そんなことのためにこんな真似してるんじゃない!

「ハぶッ……んぐゥッ……はッ、はッ、はッ……」
「そうだそうだ……もっと上を向け、口を開けてろ。そぉれェ……ジュルジュルジュルジュル……」

 呪術で縛られたように命令のまま顎を上げ、餌を待つ雛のように男に向かって口を開く。思いきり伸ばした舌の上に、透明な気泡に塗れた水飴のような唾がトロトロと垂らし込まれる。

「はぁッ……はぁッ……はぁッ……はぁッ……」
「飲め!」
「ン゛ッ……ン゛ッ……ン゛ッ……」

 ゴクッ、ゴクッ、と何度も殊更に喉を鳴らして、口の中一杯に溜まっていた自分のものではない体液を飲み下す。おぞましさで全身に鳥肌が立ち、石のように凍り付いた躰がもう隠しようもなくガクガクと震動する。あぁ……きっと、遅かれ早かれ、私はこうなってた。来るべき時が来たってだけだ。

 男の口からもう一度気泡が垂れ、雅美は自然と口を開いてまたその粘液を受け入れた。そのまま男の口が雅美の口にむしゃぶりつき、雅美の舌は男の舌の動きを模倣して、口の中でお互いをドロドロに絡め合わせる。雅美は目を開けたまま、相手の瞳の中に映った自分自身の欲情の煌めきを見つめていた。名前も無い中年変態サドA。自分の人生にとって何の意味も持たない只のモブキャラに掴まって、私の処女は散らされ、私は売春婦に成り下がり、これから端金と引き換えに何度も何度もこういうクズに組み敷かれるのだろう……。気が遠くなりそうに絶望的な興奮の奥で、男に、自分に、世界の全てに対する、怨みにも似た蔑みが沸々と弾けては消える。

 チヤホヤされて育った? 大事にされた箱入り娘? 私が? 家族を壊す元凶になり、父にも母にも見捨てられたこの娘が?

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