ダラナ 2023/07/02 20:19

BL短編「愛しのパンツを追いかけて異世界に迷いこんだ俺に浮気をさせるな!」試し読み

長年悩みつづけて、やっと手にいれた至高のパンツ。
それを装着し、生まれ変わったように日々、生き生きと過ごしていたのが、ある日、急にパンツが飛んでいって・・・。

パンツをテーマにしたアダルトなBL短編です。R18。
ファンタジー転移もの。




物心ついたときから、俺はどんなパンツをはいても、しっくりこなかった。

絞めつけが強いと尻が痒くなるし、緩いと前のおさまりがつかず心もとない。
ほかにも細かいことに文句をつければきりがなく、そりゃあ、百点満点のパンツは中々見つからず。

「これじゃない感」を持て余しながら、肌にあうパンツを探しつづけて二十年以上。
男性下着メーカーに就職してまで追い求めた結果、ついにジャストフィットのパンツとの出会いが。

それがTバック。
ただしオーダーメイドのだ。

まえからTバックが理想に近くはあった。
「尻を布でおおわれたくない」「まえは最低限の布で包まれて、ずれが気にならないていどの絞めつけを」などの基本的な要求を満たしていたから。

「あとちょっと」で理想に辿りつきそうでつかなかったのが、絞めつけ具合や形の微調整、布やゴムの素材選びを徹底的にこだわりぬいてオーダーメイドしたことで完成。

いや、オーダーメイドという発想は前々からあったとはいえ、さすがに「俺、男だしなあ」と気が引けて。
が、男性下着メーカーに就職をしたらオーダーメイドをするのは新人教育の一環だったし、先輩曰く「下着をつくって販売する会社の人間としてのたしなみだから」と。

会社の後押しがあり、おかげで長年のパンツによる悩みや鬱屈が解消され、世界が一変、光り輝いて見えるように。
「これからこそ本当の人生がはじまる!」と奮い立ったほど、心機一転で社会を歩んでいこうとしたのだが。

会社終わりにジムのプールで時間を忘れて泳ぎまくり。
更衣室にいくとがらんどうで時計を見たなら閉館の十五分前。

「いつもは三十分前にアナウンスが鳴るのに!」と水着を脱ぎ、パンツをはこうとした、そのとき。

慌てたせいで落としたパンツが、風に吹かれるように飛んでいった。
空調がきいているとはいえ、パンツを飛ばすほどでなし。

釣り糸で引っぱられるように、どんどん遠ざかっていくのに、すぐさまタオルを腰に巻き「ドッキリ!いやでも、なんで俺に!?」とパニックになりつつ追走。

といって所詮はパンツだ。
「関係者以外立ち入り禁止」と書かれたドアが行く手を阻み、早くも逃走劇は終了。

そのはずが、ドアが開いて悠悠と浮遊していくパンツ。
だれもいないし、ご丁寧に閉められたのを俺は手で開けたから、自動でもないし。

そうして、どんどんドアを開けて施設の奥へと。
「このジム、こんな奥行きあったか!?」と息を切らしながらも足を緩めず、諦めようとも思わず。

この世で一つしかない俺と相思相愛の究極のパンツだ。
予備が五枚あるといっても、初めて足を通した記念すべき一枚なのだから、できれば死ぬまで添い遂げたい。

裸にタオルを巻いただけで全力疾走する俺は通報レベルなれど、かまわずパンツにまっしぐら。
また扉が開いたかと思えば、これまでとちがって白く発光して向こう側が見えず。

パンツが吸いこまれた白い光に、迷わず跳びこんだなら、勢いをつけすぎたせいでつまずき、すってんころりん。

すこし転がって、見あげたそこは真っ青な空に広大な草原。
今は夜だし、ジムはビル群の中にあるはずが。

呆気にとられて空を眺めていると、人のざわめきが聞こえて、振りむいたところ。
人の群れがなにかを崇めて拝んでいるようで、その視線を辿れば、なんと俺のパンツが。

後光が差しているようにきらめきながら宙に浮いたまま静止。

「お、おおおお俺のパンツーーーーー!」



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