ooo 2023/02/14 19:53

クレアテインの雨 ~狂信者女たちによる小便責め儀式~

あらすじはこちら↓
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19303124



「……ここがそうか」
「こんなところに村が出来ていたとは……」
「検問みたいなものは無さそう、と」
「あぁ、だがどこから見られているか分からん。 全員、気を抜くな」
「了解!」

 首都から遠く離れた辺鄙な村落に、数人の男たちが集まっていた。
 本国の特殊部隊の一つである彼らは、ある調査のためにこの村を訪れていた。

「……意外と簡単に入れたなぁ」
「人通りは疎らだけど……一応は男も居るッスね」
「けど数は少ないぜ。 これが例の"宗教"の影響ってヤツか?」
「どことなく陰気な雰囲気……。 顔色も悪く見える……何かに怯えている?」
「そうと決めつけるな。 我々の任務は評論ではなく調査だ……だが、信憑性の補強にはなる」

 部下からの報告を受け、隊長格の男が重々しく頷きを返す。
 彼らが本国から任された調査……それはとある新興宗教団体についてのものであった。

「しっかし、北方や共和国の重要施設ってんならともかく、こんな田舎村に俺らが駆り出されるとはねぇ」
「行方不明者多数……末端とはいえ官僚まで消えた……国としても無視出来なくなったということ」
「あ、オレは息抜きみたいで楽しみッスよ! なんか田舎なのに女の子もみんなカワ――あでッ!?」
「気を抜くなと言ったばかりだろう、ルーク。 それとも、気合の入れ方を忘れてるならまた一から教えてやるが……」
「りょ、了解ッ!! 今のでバッチリ入ったッス!! ありがとうございます隊長ぉ!!」
「分かれば良し。 もう一度言うが全員、気を抜くな。 敵国の工作員による活動の可能性もある」
「了解!」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 男たちは村の中を軽く散策した後、本格的な調査に備え、村で唯一であるらしい宿屋で宿泊する事となった。

 宿へ入った男たちを、 ムチムチと余分な肉の付いた肉感的な女性が長机越しに出迎えた。
 くしゃくしゃとした赤い髪を一纏めに括ったその顔には小さな皺が目立つ。
 年の頃は30代後半から40代といったところか。

「おや、いらっしゃい。 お兄さんがた、そろって観光かい?」
「おっ? なんだ、分かるのかよ?」
「そりゃあ村ん中で見慣れない顔がいくつも並んでたら気づくもんさ。 まぁ、観光客自体はたまに来るから、こうやってアタシみたいなのが儲けさせてもらってるんだけどね。 ほら、値段表だよ」
「なるほどね。 んじゃまぁ、とりあえず4人だ。 部屋はそうだな……2人部屋を2つだ。 空いてるか?」
「はいよ。 部屋は2階だよ……エマ!」
「……なにー? うわっ、男の人いっぱい」
「ん? おぉっ!」

 女主人に呼ばれて現れたのは、20歳前後の若い女性であった。
 赤い髪を肩まで伸ばしたその姿は全体的にすらりとしているが、顔の造形はどことなくカウンターの女主人に似通っている。

「久々の"外"からのお客さんだよ。 エマ、部屋まで案内して差し上げな」
「はーい、じゃあお客さん、ついてきてください」
「はいはーいよろしくー! あ、オレ、ルーク! エマちゃん? カワイイねー! ここに住んでるのー?」
「え? あ、はい。 お母さんが主人をしてるので」
「だよねー! やっぱ似てると思ってたー! エマちゃんってまだ学生? 学校の合間に手伝ってる感じ?」
「そ、そうですけど……えっと」
『おい……そろそろ黙らせろ』
「……了解」
「マジかー! 何時に仕事終わんの? てかこの後ヒマ? ご飯とか――いでッ!?」
「いやぁ、うちのバカがすまんねお嬢さん。 案内を続けてもらえるか?」
「バカってどーいうことッスか!? オレはむさ苦しいオッサン達に囲まれて怖がってそうなエマちゃんを――あいだぁッ!?」
「……ぷっ! ふふっ、わかりました」

 困惑した表情を笑みで塗り替えた少女は、再び男たちを先導して歩き始めた。
 トイレ、食堂、2階の部屋、その他の設備を順繰りに案内していく。
 男たちは少女の説明に相槌を打ちつつ、部屋の中を見回したり壁などを触っては、少女から少し離れた位置で袖に向かってぼそぼそと小声を発していた。

 そして村の生活圏から少し離れたところにある小屋の中では、村へ入る時に集団と分かれた"隊長"がモニターと通信機を睨んでいた。

「了解……いざという時の逃走経路も確認しておけ。 ふむ、見たところは普通のホテルか、ロッジといったところか」
「ええ、私が調べた時も怪しい点はありませんでした」
「そうか……」

 隊長の独り言に対し、通信機越しの隊員達ではなく、隣に立つ短い金髪の女性が答えた。
 隊員達と敢えて別行動を取り、小型カメラと通信機を隠し持った彼らと連絡を取り合うために用意した簡易拠点に到着してすぐ、彼女は現れたのであった。

「しかし本部発表でM.I.A.(作戦行動中行方不明)になってた奴が生きていたとはな……実際はもう死んでいるか捕まっていると思っていたが。 "テイシー"、と言ったか。 なぜすぐに帰還や連絡をしなかった?」
「私だけは何とか逃げ切れましたが通信機などの装備は失い、ブライアンまでもが捕らわれてしまいました。 一人で突入するわけにも行かず、増援が来ると信じて監視を続けていました」
「ブライアン……ペアの男か。 ならばやはり、例の噂は間違いないんだな?」
「はい……この村には、あの恐ろしい新興宗教が……"クレアテイン聖家"の総本山があります――」
「…………」

 鋭い眼光のまま、重々しく頷いた隊長に向かい、別動部隊で行方不明であった女性隊員、テイシーが語り始める。
 
 "クレアテイン聖家"――最近になって名を聞き始めた新興宗教の一派であり、男たちの部隊が調査を命じられたターゲットである。
 神話や他国の伝承をもじってもっともらしい教義をこしらえ、迷える子羊という名の被害者達から寄付金をせしめる、よくある詐欺団体――そのような取るに足らない存在かに思われていたクレアテイン聖家であるが、その実態は噂に違わぬ異常な物であった。

「"究極の女尊男卑"……か。 はっ、街頭でジェンダー平等を喚いてる奴らが聞いたら腰を抜かしそうだ」
「女性の権利主張とか、男性批判とか、そのように生易しい物ではありません。 私達の調査中、聖家に属する者達に捕らわれた男性は……誰一人として戻ってきていません」
「誘拐、拉致……その後は監禁か。 まさか処刑されてるなんて事は無いよな?」
「それは分かりません……ですが、内部で何らかの非人道的行為が行われている事は明白です」
「だろうな」

 事実として、既に何人もの行方不明者が出ている。
 しかし、現時点で決定的な証拠は無く、この村のどこかにあるはずの本拠の場所すら掴めていない状況である。

「私達の時はですが、しばらく滞在した際にあちら側から接触がありました」
「ほう、布教を受けたという事か?」
「直接的な物ではありませんでしたが、最初は何かのパーティに誘うような感じで。 私は途中で逃げ出せたのですが、ブライアンが……」
「ふむ……ひとまず現状は分かった。 情報提供に感謝する。 ではやはり引き続き滞在して怪しい場所を探しつつ、あちらからの接触を待つという事だな……」
「はい、それがよろしいかと。 私も協力します……お願いします……彼を……ブライアンを……!」
「任務に私情を挟むのは好ましくない……が、教団の秘密を暴き、危険であれば解体するのが我々の元々の任務だ。 当然、任務の遂行には死力を尽くす……我々も、君もな」
「はい……っ! テイシー・ウェザーズ、緊急時裁量により、ただいまをもって貴官の指揮下に入ります」
「ああ、よろしく頼む」

 隊長とテイシーは軍式の敬礼を交わし合った。
 思わぬところで協力者を得た隊長であったが、やはり当初の予定通り、隊員達とは別行動を保つ事とした。

 彼らの方で何らかの発見があればそれで良いし、場合によっては彼らを囮として敵地に送り込む事もあるだろう。
 この二段構えの布陣で、今までいくつもの犯罪組織に潜入し、正体を暴き、それら全てを壊滅させてきた。
 
(敵の姿は見えない、が……敵にとっての俺も同じこと。 必ず全員で生きて帰る……待っていてくれ、メアリ……愛している、クリス……クレア……)

 長期任務で本国を離れてから久しく会っていない最愛の妻、そして愛の結晶たる2人の娘の名前を、目を閉じたまま心の中で呟く。

 決意を新たにした隊長は再びモニターへと視線を戻した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……パーティだと?」
『はい、直接にはルークの奴がエマちゃんから誘われたらしいんですが、俺達もカミラから是非にって事で言われまして』
『明日の晩、この宿の1階を貸し切ってやるみたいですぜ。 村人連中も大勢来るって話だ。 隊長、どうしますかい?』

「ふむ……」

 村へ潜入してから数週間が経ったある日のこと。
 宿泊中の隊員たちから報告を受け、隊長は思案した。

 "エマ"というのは宿屋で初日に彼らを案内した女主人"カミラ"の娘で、若年ながらもしっかりとしており、村の中でも人気のある看板娘である。
 隊員の一人――女好きだが憎めない愛嬌のある"ルーク"と特に親交を深め、他の隊員との仲も良好であった。

 宿の女主人であるカミラもまた気立てが良く、図体のデカい男達数人を相手にしても物怖じしない度胸と、優しく包み込むような母性を備えた女性である。
 飯も話もウマいらしく、隊員達も一人残らず打ち解けている。

 数週間の滞在期間で隊員たちは狙い通り、村人の輪の中に入ることに成功しているようだ。
 しかし、村人たちの間での会話はどれも他愛ないものばかりであり、なぜか村の男たちからは露骨に避けられており、会話の機会が未だ持てていない。

 外部との窓口であり、村の顔役の一人であると見られるカミラを通じて徐々に村の内情を探っていたところであったが、多くの村人と一度に顔を合わせることが出来る機会は渡りに船であった。

「どう思う、テイシー?」
「以前、私達を誘ってきたのは別の人物でした。 名目はパーティではなかったし、集合場所も違います……ですが、参加者に"聖家"の人間が紛れている可能性は高いでしょうね」
「パーティで出会い、意気投合したと見せかけて懐に入り、巣穴へと連れ込む……まさしくカルトやマルチの連中が使う手口だな。 こちらとしては分かりやすくて良いが……」

 敵の懐に飛び込むということは、当然ながら多くの危険を孕む。
 しかし、それ故に得られる物も大きい。

「よし、参加しろ。 分かっていると思うが……」
『もちろん不用意に一人にはならないようにしますぜ。 最低でももう一人をフォローに入れる位置に置いておく』
「その通りだ。 後は食い物だが……」
『毒物を警戒、でも全く食べないんじゃなくて、誰かが口をつけた物だけを食べる……ッスよね? 分かってるッスよ~!』
「はぁ、その通りだよ。 言うまでも無いことだったな」
『ルークおめぇ、エマちゃんに勧められても断れんのか?』
『あったり前じゃないッスか! オレだってプロなんスから……えと、"アーン"ってしてくれたやつとかもダメ?』
『別にいいぜ? 率先して毒見してくれるってことだろ? その後に検体になって金までくれるなんて、なんて先輩思いの後輩なんだ』
『えっ!? ちょっ、勘弁してくださいよ~!』
『わはははっ!』
「はぁ、全く……」

 軽口を叩きながらも、彼らは自らの任務が死と隣り合わせのものであると理解している。
 住民たちと急速に信頼関係を構築したのも、ひとえにプロの技術を用いた彼らの手腕によるものだ。
 いよいよ訪れた"対象"との邂逅の機会に、全員が心の中で気を引き締め直していた。



 そして迎えた、パーティの当日。
 貸し切りの会場となった宿屋の1階ホールには大勢の村人が集まっていた。

「でさ、その後オレが来たら、みんなして……」
「え~、ひどーい!」
「おいおい、その時はお前が……」
「わははははっ!!」


「ふむ……中々の人数だな」
「ええ、私の時よりも更に大規模な催しです……」
「それに音が別の方角からも聞こえる……まさか、村中でパーティをしているのか」

 隊員たちが持っているものと、会場に仕掛けられている小型カメラによって送られる映像には、普段の閑散が嘘のような数の村人たちが写っている。
 それだけでなく、隊長たちの潜伏場所からは村中に灯された明かりと、多方面からの喧騒が感じられる。
 
 村全体が異様な雰囲気を帯びていた。

「総員、警戒しろ。 やはり今日、何かが起こるはずだ」
『……了解』
『今のところおかしいところは無ぇぜ、隊長』
『みんな普通に飲み食いしてるッスねー。 オレもいくつか食いましたけど今のところ問題無しッス』
『強いて言えば酒が強め……かな』
『まぁ、俺らがマジで酔っ払うことなんて無いけどよ』
『うぅ……学生んときの飲み会が恋しいッス……』

 特殊な訓練を積み、アルコール耐性を高めた上に、非認可のアルコール分解促進薬を携行する彼らが泥酔することはない。
 酩酊し、気分を高めて油断しているように見せかけつつも、隊員たちの頭は冷静であった。

『ちらほらと男も居るみたいだな』
『あ、ほんとだ。 村ではほっとんど見かけなかったのに』
『普段はなんかビクついてたのにな。 今日は楽しそうじゃないか』
『そりゃやっぱパーティだからじゃないッスか? 今なら話せるかな……ん? おー! 今行くよ~エマちゃん!』
『ったくあいつ……おっと』
『おや、何だいあんたたち、そんなところで固まっちゃって! せっかくのパーティなんだ、もっとみんなと話しなよ!』
『カミラか……いやぁすまんな、なにぶん初参加なもんでよ』
『ねぇねぇ! こっちで街の話聞かせてよー!』
『マークぅ! これあたしの家で作ったやつなの!』
『ほぉ、ウマそうだなぁ!……隊長、一旦バラけるぜ』
「ああ、怪しまれないようにしろ」
『了解……さーて、そんじゃオレはあっちの方に行ってくるぜ』
『なら俺はこっちですね。 男の人と話してきますよ』
『おう、じゃあ俺は便所にでも行こうかねっと……カミラ、戻ったら話そうぜー』

 娯楽の少ない村落において、今日は唯一の羽目を外せる祭りの日なのだろうか。
 パーティは予想以上の盛り上がりを見せており、あちこちのテーブルで笑い声が上がっている。 

 楽器や歌などの催しもあるらしく、会場は姦しい騒ぎに包まれていた。




『あっははははははは!!! あはははは!!! はは……はふぅ……』
『ぷっ!! くくくっ!! ふふふふっ……あぁあ……いい気持ちぃ……』
『おいおいルーシー、笑いすぎかぁ? 俺の話はまだ……まだぁ……んぁ? あぁ……えーっとぉ……?』
『えぇ~、もう酔っちゃったのぉ~? んふふふぅ……わたひもぉ……』

「……ん? おい、どうしたケビン? 小声で良い、応答しろ」

『あ……あぁあ……たい、ちょ……おぉ……?』
「何だ……酔ったのか? それほどに強い酒が……?」
『き、きいてぇ……くださいよぉ……こいちゅ……おんなだったぁ……』
『ほんとらぁ……こっちもぉ……おんな……おん……うぅ……』
『ふぁあ~~……あふぅ……』
「なんだ? ジェイス、"女だった"とはどういう……おい、マーク? おい! どうした!」

 隊員たちの不穏な報告内容を隊長が問いただすが、隊員たちは既にまともな返答が困難なほどに意識を混濁させていた。
 カメラの映像を見れば、隊員たちだけでなく会場に居る者全てがフラフラと頭を揺らしており、夢うつつの状態に思えた。
 
『ねぇ……ジェイス……あなたも…かぞくに……』
『あう……かぞ……く……?』
『かぞくになろ……マーク……わたしたちと……』
『おれ……かぞく…なる……へへ……うへへ……』

「なんだこれは……どうなってる……!? 毒ではない……ドラッグか……!?」

 服用した者の意識を混濁させ、判断力を失わせるドラッグ――それも覚醒作用ではなく幻覚作用のある物が食事に混ぜられていたのであろうか。
 危険な毒物や睡眠薬の混入は警戒していたが、まさか会場に居る全員を無差別に狙う物とは予想外であった。

 宿の従業員はもちろん、主人のカミラでさえも幸せそうな顔でカウンターに突っ伏していた。

「こんなことをして……一体……」
「見てください! 会場の男性を……あれは、違います!」 
「なっ……!? こ、こいつらまさか……女か!?」

 会場には隊員たち以外の"男"たちがまばらに存在していたはずだった。
 しかし、カメラに写った"男"たちをよく見てみると、それらの全てが男装をした女性であることが分かった。

 服だけでなく付け髭なども用いた男装は、個人であれば趣味の一言で片付けられる。
 しかし、会場内でカメラに写っている全ての"男"たちがそうであるという状況は尋常ではない。

「このパーティの参加者は女だけなのか……? つまり、これが"聖家"の……っ!?」
「これは……!?」

 突如として、大きな鐘の音が村全体に鳴り響く。
 すると、今までぐったりとしていたパーティの参加者たちがおもむろに立ち上がり、宿屋から外に向かって歩き始めた。
 フラフラとした足取りの女たちに促され、同じく意識を朦朧とさせた隊員たちもその後に続いていく。

『あぁ……時間だ……行かなきゃ……』
『家族が…増える……ふふ……うふふ……』
『さぁ来て……家族になるのよ……マーク……』
『あ……あぁ……? おう……そう、だな……』

「なぜ抵抗しない……!? 自白剤のように判断力を失わせるものだったのか……むっ!? この音は!」
「この音は教会から……皆、教会に向かうのかもしれません!」
「教会に? つまりそこが奴らの本拠ということか……?」

 宿屋だけでなく、他の家々からもぞろぞろと出てきた村人たちが皆一様に教会を目指して歩いていく。
 モニターで様子を見ていた隊長も慌ててその腰を上げた。

「いかんな……あれほどの意識状態では潜入調査どころではない。 本部に応援を要請し、すぐに救出しなければ」
「分かりました……では本部への要請は私に任せてください! 隊長は教会への潜入を!」
「なに……?」
「本部へ連絡を繋げるだけならともかく、状況説明や交渉には相応の時間がかかります! そんな事をしている間に彼らを見失ってしまいますよ!」
「…………そうだな。 よし、ここは頼んだ」
「任せてください!」

 テイシーの言葉にどこか違和感を感じた隊長であったが、今は議論をする間も惜しい。
 疑問をひとまず棚に上げ、隊長はすぐに装備を整える。

 携帯通信機に、制圧用の手投げ式ガス弾、そして拳銃を腰に差すと、隊長は通信機器に向かう彼女に背を向け、集団の後を追いかけたのであった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



(これが村の教会……ここで一体何をする気だ……)

 村人たちを追い、隊長は教会へたどり着いた。
 そのまま席に着くと思いきや、彼らは奥の懺悔室へと入っていく。
 外見はこぢんまりとした懺悔室であるが、集団の全員が扉をくぐっても人が溢れる気配が無い。

 最後の一人が部屋の中に入り、尚も開け放たれたままの扉越しに、隊長は中を覗き込んだ。

(あれは……階段? 地下があるのか……!)

 懺悔室の中には地下へと通じる階段があった。
 集団の最後尾がフラつきながらも階段をゆっくりと降りていき、見えなくなる。

 ぼんやりとした表情で女たちの言葉に従うだけの隊員たちはもとより、彼女たちの方も心は夢うつつのまま、あらかじめ植え付けられた命令に従っているだけのように思える。
 普通であれば行うはずの、後ろを振り返ったり見張りを立てたりという理性的な行動が全く見受けられない。

(おかげで尾行は手間がないが……くそっ、行くしかないか)

「テイシー、俺だ。 連中は教会の地下に降りていった。 長い階段だ……地下では通信が途切れるかもしれん。 本部に連絡はついたか?」
『はい、応援部隊を編成中とのことです。 本格的な救出はこちらに任せて、監視に徹しろ、と』
「……チッ、そいつらが来るまで待てるわけがないだろう。 このまま追跡を続行する」
『……本部の意向に反することになりますよ?』
「俺は隊長だ。 現場の判断は一任されている」
『……分かりました。 ご武運を。 ブライアンたちを……どうか』
「任せておけ」

 通信を切った隊長は、罠や監視カメラなどが無いか入念に注意しながら階段をゆっくりと下っていく。

(こ、これは……!)
 
 やがて、長い階段を降りきり、いくらか進んだ後にたどり着いたのは、大きな地下聖堂の広間であった。
 広間には噎せ返るようなアルコールの臭気が漂っており、中央には用途の分からない器具が設置されている。
 光の届かない地下通路の中には人工的な明かりが灯され、呆けたような集団に向かい、壇上から一人の女性が語りかけていた。

「おかえりなさい、"娘"たちよ。 パーティは楽しんでいますか?」

「えへへ……ビッグマザー、ただいまぁ」
「シスイ様、あぁ……!」
「楽しいですぅ……毎日が、夢のように……!」

 壇上の女性は修道女のような格好であるが胸に十字架は提げておらず、修道服の本来は黒であるはずの部分は鮮やかな黄色に染まっていた。
 奇怪な出で立ちの女性に向かい、村人たちは口々に賛美の言葉を返している。

「ありがとう……ありがとう……!」
「良い気持ち……んっ、ごくっ、ごくっ」
「最高です! 全部シスイ様のおかげです!」
「シスイ様……女神クレアテイン様に感謝を……!」

「うふふっ……ありがとう、"娘"たちよ……私も嬉しいです」

(なるほど……あの女が教祖ということか。 "シスイ"とかクレ――何とかと聞こえたが……)

 集まった女性たちは"シスイ"と呼ばれた女性を礼賛しながらも、広間の中に用意された赤い飲み物を手に取って飲み干している。
 おそらく、あの中にもドラッグが混ぜられているのだろう。

(こいつらはここで何をしている? ただの非合法ドラッグパーティなら楽なんだが……)

「さぁ、"娘"たちよ……今夜は新たな"家族"を迎える日です」

 シスイがそう言った途端、集団からは大きな歓声が上がった。
 女たちは手を叩き、声を上げ、杯を呷る。
 
「あぁ……! ようやくなのね……!」
「ジェイス……ようやく一緒になれる」
「救ってあげられる……」
「早く……うぷっ……早くケビンたちに"雨"を……」

(何だ……何を言ってる……新たな"家族"だと……?)
「……っ!?」
(あいつらは……隊員たちはどこへ行った? まさか別の所へ連れて行かれたのか…!?)

 シスイの言葉を受け、女性たちが一斉に喜びや安堵の表情を見せる。

 隊員たちの姿を見失い、隊長が目を凝らしていると、中央の集団が道を空けるかのように2つに分かれた。
 すると、それまで集団に隠れていた地面には全身をロープで縛られた隊員たちが横たわっている。

 その口元からは赤い液体が垂れているが、恐らくは周囲に置かれたグラスの中の赤い液体――例のドラッグを飲まされていたのだろう。

 彼らも周囲の女性たちに釣られてか薄っすらと喜びの表情を浮かべていた。
 未だ夢うつつの様子である彼らの自意識は覚醒していないようだ。

「御覧なさい……彼らの姿を。 彼らは……"男"です。 不幸にも……主神によって呪われています」

 シスイは横たわった隊員たちを手で指し示し、恐ろしな声で語り始める。
 集団からは小さな悲鳴が響いた。

「この村の中で彼らと接し、良い感情を抱いた子らも居るかもしれません。 しかし……取り繕われた彼らの心の内には、主神ゼウスの埋め込んだ醜い劣情と凶悪な獣性が潜んでいるのです。 それらはいつか必ず貴女たちに牙を剥くことでしょう……」

 教祖は大げさな身振りを交えながら、至極悲しげな表情で悲劇的な言葉を流れるように紡いでいく。
 神話の男神を含めた全ての"男"は主神ゼウスによる悪意が心に埋め込まれており、周囲に危害を振りまく呪われた存在なのだという。

(敬虔なクリスチャンが聞いたらマシンガンを振り回しそうな話だな……とんだ与太話、茶番だ……だが)

「うっ……うぅううっ……」
「ケビン……いやよ……うぅっ……」
「なんてこと……なんてことなの……女神様……」

 隊長は女たちの方に目をやった。
 集団の女たちはシスイの話に深く聞き入り、何度も頷いている。
 皆が感極まった様子で俯いて嗚咽を漏らしており、多くの者は両目から大粒の涙を流している。

 単なる妄想話を真に受けたとは思えない、異様な光景だった。

「…………チッ」
("洗脳済み"ってことか……しかも最悪なことに、あいつらまで)

「うっ……あっ……」
「あぁっ……」
「うぉお……おぉおぅ……!」
 
 見れば、床に横たわった隊員たちまで嗚咽し、薄らと涙を流している。
 教祖の話の内容を真に理解したわけではないだろう。
 ただ、周囲の女たちの様子に流されているのだ。
 
 それはつまり、自分で何も考えられない程に判断力が低下している証左である。

(単なるドラッグではないと思っていたが……ここまで強烈な作用があるとは。 まるでドラマに出てくる"自白剤"だな……ハッ、うちの隊にも融通してもらいたいもんだ)

「そして……御覧なさい。 彼らもまた"クレアテインの血"を口にしたことで蒙を啓き、己の内に秘めた"獣"と戦っています……彼らは今、苦しんでいる……!」

「あぁ……っ!!」
「ジェイス……かわいそうに……!」
「もうすぐ、もうすぐ助けてあげるからね……ルーク……!」

 シスイの訴えかける声と身振りが激しくなると、女たちもまた熱を帯びた視線を隊員たちに向ける。
 女たちは皆、自らの下腹部を手で押さえたり、太ももを悩ましげに擦り合わせたりと、落ち着きのない様子を見せている。

(何だ……こいつら、発情でもしたというのか? あの赤い液体……この匂いは、赤ワインだろうか)

「私たちなら……貴女たちなら、彼らを救うことが出来ます。 女神クレアテインの加護を用いて、彼らの内なる"獣"を浄化し、その身を清め、男神の呪縛から解き放つことが出来るのです……!」

「…………っ!?」

 集団の中心にあった謎の機械の歯車がギュルギュルと回り始める。
 すると、隊員の1人――一番の古株であるケビンの体が足の方から持ち上がり、逆さまの状態で吊り上げられていった。

 集団の女たちの興奮が高まっていく。
 広間には彼女たちの荒い息遣いが木霊していた。

「"聖杯"を、ここに……」

 驚愕した様子でそれを見る隊長をよそに、集団の中心にはどこからか持ち出された"グラス"が設置された。
 それは広間の至るところに置かれたワイングラスとほとんど同じ形をしているが、その大きさは人の顔がすっぽり収まるほどに巨大である。

 再びギュルギュルと歯車が稼働し始めると、ケビンの体が逆さまになったままゆっくりと降ろされていき、その頭が巨大なワイングラスの底に擦ったところで動きを止めた。

 未だ呆けた様子のケビンに向かい、一人の女性が歩み出る。

「くっ……テイシー、俺だ。 そろそろヤバい、本部からは……テイシー? おい……クソッ、繋がらんか……!」

 異様な雰囲気を感じた隊長が通信機に呼びかけるも、小屋に残してきたテイシーからの応答は無い。
 軍配備の通信機は多少の地下でも機能するはずであったが、何か他の要因があるのだろうか。
 一度、外に出て通信をするか、それとも強引に突入するか。

「準備を……さぁ……カミラ」
 
 自分や隊員たちの命を左右する決断に躊躇している隊長の前で、ケビンに近づいた女性が顔を上げる。

(あれは……宿の女主人……カミラといったか……)
「……っ!?」

 女主人、カミラはシスイに促されるままに逆さまに吊るされたケビンの前に立つと、なぜか下衣をはだけ始め、下着までを下ろしてしまった。

 顔を赤くしてハァハァと息を荒げているカミラは、何かを必死に堪えているようだ。
 真っ黄色の修道女、シスイは静かに目を閉じ、祈るように両手指を絡ませた。
 カミラ以外の女たちもそれに倣い、広間を静寂が満たす。


「女神よ……かの者をお救いください……"クレアテインの雨"を」
「「"クレアテインの雨"を」」

「はぁ、んっ……あぁあ……」

 チョロ、チョロロ……
 ブシャッ、ジョロロロロロロロロッ……

「なっ……なんっ……!?」
(何だ……!? しょ、小便……だと……!?)

 "聖杯"と呼ばれた巨大グラスを跨ぐように立っていたカミラは、シスイと女たちの声に合わせてぶるりと身を震わせ、勢いよく放尿し始めた。
 太ももを女性器ごと大きく開いた姿勢で放たれたカミラの尿はケビンの首元に落ち、徐々に勢いを増してからは顎や鼻先に直接かけられている。
 シスイの奇妙な修道服と同じ真っ黄色の小便はビチャビチャと音を立ててケビンの肌を打ち、"聖杯"の中へと収められていく。

 予想だにしない事態に隊長は驚愕し、しばし呆気に取られていた。

 ビチビチビチビチビチビチッ
 ジョボボボボボボボボボボッ

「んっ……んぁあ……あぶっ!? げほっ! おぇっ!?」
 
 顔面を打つ小便の勢いとその不快な臭気に反応してか、先ほどまでぼんやりとしていたケビンが急に動き出した。
 必死に顔を振って小便から逃れようとしている。

「あぁ……"獣"が……! 浄化の雨に打たれた"獣"が悶え苦しんでいます……!」

「カミラ……頑張って……!」
「もっと、もっとよ!」
「"獣"に負けないで……ケビン……!」

「…………」
(なんて言ったらいいか……こいつら、正気か? いや、そういえば正気じゃないんだったか。 全く、とんだ変態プレイを見せられることになるとはな)

 逆さに吊るされた男を女たちが囲み、良く分からない言葉を呟きながら顔に小便を浴びせている。
 確かに集団私刑の様相ではあるが……命の危険まで感じていた先ほどまでに比べると、今の光景が酷く滑稽に思えた。

 やはり一旦地上に戻ろうか、と考えたところで、ふと違和感を感じた隊長は思い留まった。
 カミラの小便がずいぶんと長いように思える。
「…………?」

 ジョジョジョジョジョジョジョジョッ
 ジョボロロロロロロジョッボボボボボボッ

 しこたま飲んだ赤ワインの利尿作用によるものか、彼女の小便は全く勢いを緩めることなく太く黄色い筋を描き続けている。
 そしてそれはケビンの顔が収まっているワイングラスの中にどんどんと溜まっていった。

「げほっげほっ! ん、ぶっ!? ぐぼっ! ごぼぼっ!!」

「さぁ、もう少しです……もう少しで彼の中の"獣"を滅ぼすことが叶います……!」

 黄金色の水面がケビンの額を越え、目元を越え、鼻先を越えても、その勢いは一向に衰える様子がなかった。

「ごぼぼっ! ぶはっ! んっぐっ……んぐっ……おげぇええっ!! ごほぉっ!! ごぼぼぉっ!!」

 気道を確保するため、口元まで上がってきた小便を仕方なく飲み込もうとしたケビンであったが、口の中に広がったあまりの塩気とエグ味によってすぐに吐き出してしまう。

「はぁ、あぁあん……ごめんなさいねぇ……ケビン。 アタシのは特別濃いだろ? 酷い味だろ……?」
「げっほっ!! ごぼぼっ!! んっ…ぐっ……ぶぼぉおっ!! おぼぼぼっ!!」
「アンタと話してて……本当に……んっ……楽しかったよ……だからアンタはアタシの手で……"救って"やりたかったんだ……」

「こ、これは……!」

 まずい。
 このままではたちの悪い冗談では済まなくなる。
 そう考えた隊長がホルスターから銃を抜き駆け出そうとした瞬間だった。

「――動かないで」
「ッ!?」

 突然、背後から呼び声が掛かると同時に、後頭部には冷たく硬質な金属の感触が押し当てられた。
 
「…………おい、これは一体何のマネだ」
「手は頭の後ろです。 ゆっくりと膝をついて」

 ホルスターから手を離し、両手をゆっくりと頭の後ろへと持っていく。
 代わりに背後から伸びた手によってホルスターから銃が抜き取られ、後頭部から金属の――否、銃口の感触が僅かに遠ざかる。

 首だけをゆっくりと動かし、背後に向けながら隊長は押し殺すように言った。
 
「今の状況を分かっているのか……答えろ……テイシー……!」
「ええ、分かっていますよ隊長。 少なくとも、あなたよりはね」

 充血した瞳でこちらに銃を向けている、ブロンドを短く切りそろえた女性隊員――テイシーの口元からは、薄っすらと赤ワインの香りが漂っていた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「裏切っていたのか……テイシー」
「裏切るだなんて、とんでもない。 私はビッグマザー・シスイの教えにより目覚めたのです。 彼女たちと同じく、隊長たちを"救おう"という気持ちに偽りはありませんよ」

 ジョボボボボボボボボボボボボッ
 ビチビチビチビチビチッ……

「ぐぶぼぼぼっ!! がっ……ぼぁっ……ごぼぉっ…………」

ジョロロ……ジョッ……ジョロッ…………

「ほら……ほら見てください隊長……カミラが出す"雨"は私たちの中でも本当に"濃い"のです……! まさしく"聖家"の筆頭に相応しい……!」
「…………」


 カミラの放尿の勢いはやがて弱まり、ついに止まったようだ。
 しかし、彼女自身も述べたようにその尿は異様に"濃い"ようで、金茶色に濁った大量の液体はケビンの顔を完全に隠してしまっている。
 
 泡立った汚液はひやりとした地下空間の中でもうもうと湯気を上げており、その中でもがき苦しんでいたケビンは、先ほどから動きを止めてしまっている。

 今すぐに助け出してやりたいが、後ろ手を取られ、膝をついた状態では走り出すこともできない。

「テイシー……今ならまだ間に合う……! あのバカげた遊びをやめさせろ……ケビンが……今ならまだ救い出せるんだ……!」
「いいえ、隊長。 ケビンはこれから救われるのです。 "クレアテインの雨"に打たれ……内なる"獣"から解放され……く、ふふっ……私たちの真の"家族"になるのです……!」
「チッ……イカれてやがるな」
「ほら……ほら見てください……! カミラの出す"雨"」

 しっかりとした言動から、集団の女たちのような薬物酩酊ではないと思われたテイシーであったが、充血した瞳を見開きながら喜々として教団理念を語る彼女の心は既に"聖家"に染まりきっているようであった。

「"獣"は静まり、一時の眠りにつきました……さぁ、仕上げを……」

 ビッグマザー・シスイが歌うように告げると、装置から外されたケビンの体が地面に横たえられる。
 そして、彼の鼻と口を覆うように、幅広のテープが巻き付けられていく。

「おい……おい……っ! あれじゃ蘇生措置が出来ない……! 本当に死んでしまうぞ……!!」
「ええ、もちろん。 途中で"獣"が蘇っては困りますから……"雨"が体内に残った状態を維持しなければなりません……。 ご安心を。 カミラは既に自身の夫を"救って"います……間違いが起こるはずはありません」
「クソッたれが……!!」

 顔中を粘着性のテープで覆われ、万に一つも呼吸を取り戻すことが無くなったケビンの体を、今度は複数人の女性が跨いで立つ。

「ん、あっ……ふぅっ……」
「あぁっ……ケビン、ケビン……!」
「もう大丈夫よ……安らかに……んんっ」

 チョロロ、ジョロロロロロロロロッ
 ジョボボボボボボボボボボボボボッ
 ビシャアアアアアアアアアアアアッ
「見てください、隊長……ケビンの体から、ほら、どんどん邪気が抜けていくのが分かりませんか……?」
「ぐっ……貴、様らぁ……!!」

 もはやピクリとも動かないケビンの全身に、女たちの新鮮な尿が満遍なくかけられ、杯に残ったものまでがかけられていく。
 彼女らにとっては神聖な行いなのかもしれないが、隊長らにとっては共に死線をくぐり抜けた無二の戦友を無惨に殺し、その魂さえも汚し尽くすような外道の行いである。
 
 怒りのあまりに握った拳が震え、噛み締めた奥歯がギリリと音を立てる。
 だがしかし、背後から銃を突きつけられた状態では命を散らした戦友に祈りを捧げることすらできない。

 広間の入り口から聞こえる話し声はまるで意に介さぬ様子で、狂った儀式は粛々と進められていく。

「うっ……あっ……!? ケ、ビンさ……ごぶっ!? んっ、ごくっ……あ…おぁ…?」
「時間がありません……さぁ……次の者を……」
「あぅ……う、あぁ……?」

 薬が切れたのか、正気を取り戻しかけた隊員たちの口には無理矢理に赤ワインが注ぎ込まれ、再びその意識は夢うつつへと誘われる。
 
 全身が真っ黄色の尿にまみれたケビンの死体は奥へと運ばれ、代わりに装置へと繋げられた別の隊員の体が持ち上がっていく。
 まだ若い、隊員の中では一番の新参だが、一番のムードメーカーでもあるルーク。
 彼を"救う"ために歩み出たのは、彼と同じくらいに若い少女――カミラの娘であるエマだった。

 吊り下げられたまま、空になった"聖杯"に頭を入れられたルークを跨いで立ったエマは、年相応の恥じらいを見せることもなく、スカートをたくし上げて下着をずらした。
 赤ワインで頬を赤らめながらも、凛とした表情はどこか使命感を感じさせる。

「あぇ……あぁ……エ、マぁ…ちゃ……」
「ルーク……安心して……私が絶対に"救って"あげるから……家族になろうね……!」

 チョロッ……ジョ、ジョジョジョジョジョッ!!

「あ……ぶっ!? ぶはぁっ!!」

 ビシュイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!
 ブシュウウウウウウシュシュシュシュシュッ!!

「ぶぐっ!! ぶわわっ!! はぁ、あっ! がぼぼっ!! ごぼぉおっ!!」

 先ほどのカミラの放尿とは打って変わって、その娘であるエマの放尿は、現役の女学生という若さが秘めた力を体現するように、凄まじい勢いで行われた。
 年相応の張りと女性特有の細さを兼ね備えた尿道から放たれる小便は、まさしく淡黄色の光線のように真っ直ぐにルークの顔面に突き刺さり、辺りに小さな飛沫を撒き散らしていた。

「凄いでしょう? エマちゃんの"雨"はこの村で一番勢いが強くて、それに量だって一番多いんですよ。 あれならルークくんが苦しむ時間も短くて済みますね。 エマちゃんは本当にルークくんのことが好きみたいでしたから……」
「ぐっ……くぅっ……!!」

 まるで甘酸っぱい青少年同士の恋愛を語るかのような気軽さで微笑ましげにのたまうテイシーや、彼らを囲む女性たちは皆、自らの行いの善性を微塵も疑っていない。
 
 ジュイイイイイイイイイイイイイイイッ!!
 シュウウウウウウウ……ビシュッ! ビシュウウッ……ジョロロッ……

「ごっ、ぼぼぼっ……! ぼぁっ……がっ……!!」
「んっ……ふぅ……ほら、ルーク、暴れないで……もう少しの我慢だから」
「がぼ、ぼっ……ぶぉっ…………っ……」
「そう……いい子……おやすみ、ルーク」

 その小柄な体のどこに入っていたのか、杯から溢れるほどに放出された淡黄色の小便の中でルークは必死に暴れていたが、"聖杯"は台座にしっかりと固定されているようで、彼の抵抗は水面を揺らしていくらか中身を溢れさせるだけに留まった。
 ぐずる子供を安心させるように、大量の放尿を終えたエマがルークの体を抱きしめるようにして制すると、ルークの方も限界を迎えたのか、次第に動きが鈍くなっていった。

 カミラの物と混ざって醜悪な臭気を放ちつつも、健康的に透き通った小便の中ではルークの顔がよく見えた。

「ぼごっ……お゛っ……だ、い……ぢょ………………」
「…………っ!!」

 事切れる寸前、こちらを向いてパクパクと最後の空気を吐き出すルークと目が合ったように感じたのは、気のせいだったのだろうか。
 もはや、彼の度が過ぎた冗談を咎めることも、その笑顔に免じて許すことも……二度と叶わないのだ。

「ルーク……ルーーーークッ!!! クソッ!! クソぉおおッ!! 離せっ!! 離せぇええムグゥウッ!!」
「おや、いけませんよ隊長。 今は聖なる儀式の最中です。 彼らを"救う"のが遅れれば遅れるほど、彼らは苦しむことになるのです……大人しくしていてください」
「むぅううッ!! ぐぅうおおおおっ!!!」

 目の前で部下を二人も嬲り殺しにされ、隊長は怒り狂った。
 未だ背後で銃を突きつけているテイシーが彼を撃つことはなかったが、声が響かないように、口に布を詰め込まれてしまった。

 響き渡った隊長の怒声に女たちが怯えた様子を見せるが、シスイがパンと一つ手を叩くと、その場はすぐに静まり返った。

「娘たちよ……安心なさい。 ここに迷い込んだ彼……彼もまた、私たちの"家族"となるのですから……あなたたち、準備をなさい」
「はい……」
「はぁい……」
「さぁ、娘たちよ……他の者たちにも……"救い"を」
「あぁ……ルーク……受け取って……んっ」
「はぁああ……隅々まで……染めてあげる、から……」
「ビッグマザー、次は私たちが……ジェイスを……」

 集団に遮らえて見えないが、シスイから何らかの命を受けて準備をする者らがいるようだ。
 そしてシスイが促すと、また何事も無かったかのようにこの悍ましい儀式は続けられていく。

「ぐぅううううっ!! むっ、ぐふっ!!? ん゛っ! ごふっ、ごふぅっ……!!」
「うふふ……隊長、つらかったでしょう……あなたの事ももちろん、私たちが"救って"差し上げますから……」

 口元にグラスが押し当てられると、詰め込まれた布にジワリと赤ワインが染み込んでいく。
 その上で鼻をつままれれば、もはや口の中の布から染み出すワインを飲み込むしか無かった。

 通常の赤ワインより渋みの強い味、しかし大量に飲めるようにか酒精はほとんど感じられない。
 飲んだのは少量だけであったが、やがて意識に白いもやが掛かったような心地となった。
 隊長の体から抵抗の気力が失われていく。

【 小説プラン 】プラン以上限定 支援額:500円

全文約23,000字

このバックナンバーを購入すると、このプランの2023/02に投稿された限定特典を閲覧できます。 バックナンバーとは?

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

月別アーカイブ

記事を検索