タイトル未定(過去作)
私はあの日見てしまった。夜中にトイレに行きたくなって暗闇の中電気もつけずに歩いていた廊下から変な声が聞こえた日。その声は姉の部屋から聞こえてきていて、耳を疑った私は姉の部屋をそっと覗き込んでしまった。
「……ッ、んぁ……っ、はぁん……んぅっ、んぁ」
薄暗いナツメ球が照らす部屋の中で体のいたるところに黒い拘束具を身につけた姉がヴヴヴと低いモーター音を鳴らしながら小さく声を押し殺して喘いでいた。さすがに私も高校生になっていたし、性癖については人それぞれの世界があることは知っていた。けれど、彼氏がいない大学生の姉がまさか自分を拘束して快楽に浸っているとは夢にも思わない。
だからといってそのときの私にできる選択肢は見なかったことにしてトイレに行くしかないわけで……。邪魔しちゃ悪いと思って静かに立ち去ったのが二週間ほど前のことだ。あの日以降姉と顔を合わせるたびに拘束具を身につける姉を思い出してしまって、普通に話してるはずなのにどこかぎこちなく感じてしまう。たぶん、私だけが感じていることなのだと思う。姉はいつもと変わらない様子でドラマの話しを振ってきたり、SNSで得た面白い情報を教えてきたりと分け隔てなく笑っていた。
そして今――私は姉の部屋にいる。魔が差したといえば聞こえはいいかもしれない。事実今日は偶然が重なった。両親は実家へ祖父母の様子を見に行くということで外泊。姉は友だちの家に泊まりに行くということで外泊。つまり、二人姉妹の家系で留守番に残されたのは妹の私一人だけということになる。こんな珍しい日に気になっていた物を拝みに行くというのも悪くない。そんな気持ちを抑えられなかった。
「この辺……かな?」
膝丈の白いTシャツワンピース姿で姉の部屋のクローゼットを開ける。すぐに目に飛び込んでくるのは不自然に置かれているタオルに隠されたダンボールだった。引っ張り出して中を開けてみると黒色を鮮やかに反射する名前もわからない拘束具たちが箱の中でひしめいていた。
「こんなにいっぱい……お姉ちゃん全部買ったのかな?」
純粋に浮かぶ疑問と未知なる存在の出現に好奇心が鼓動を早くしているのがわかる。箱の中にどんなものがあるのか気になってきて姉のベッドの上に一つ、二つと並べていく。
黒い拘束具は基本的に革製品でよく見てみると本革だった。分厚い革はしっかりとなめしが行き届き、なんども使用されているからかほんのりと姉の匂いが染みついていて、手触りはとても柔らかく感じた。