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2020年 03月の記事 (7)

おかず味噌 2020/03/29 01:34

ちょっとイケないこと… 第七話「姉弟と秘密」

(第六話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/223259


 行為の後、彼の家でシャワーを借りて、私は深夜に帰宅した。

「泊まっちゃえば?」

 彼はそう言ってくれたものの。外泊の準備はしていなかったし、朝帰りともなればさすがに親も心配するだろうから、遠慮させてもらうことにした。それに…。

 あれだけの醜態を晒しておきながら、平然と彼の隣で眠れるほど、私のメンタルは強靭ではなかった。

 体だけはキレイにしたものの、ベッドの上は『おしっこ』で大惨事となっていた。立派な世界地図が描かれ、私の『尿』はマットレスを浸食し、床にも零れていた。

 私がシャワーを浴びている間に彼が後始末をしてくれたみたいだが、もはや今宵の彼の寝床は完全に失われていた。それをそのままにして帰るのは気が引けたけれど、彼は大丈夫だと言ってくれたし、やはり元はと言えば彼のせいでもあるのだ。

 犯した過ちの責任を彼に押し付けるが如く、私は逃げるように彼の家を後にした。彼は玄関まで私を見送りつつ、ドアが開く直前、私の腕を掴んで強引にキスをした。それが何度目のキスであるのか、私はもうカウントしていなかった。


 濡れたショーツは帰りの道中でコンビニのごみ箱に捨てた。袋の口を固く縛って、罪の物的証拠を隠滅した。「家庭ごみ持ち込み禁止」と注意書きが貼られていたが、今回だけは不可抗力ということで許してもらいたい。

 深夜にそれを洗う情けなさに比べれば、ブラとのセットが一つ失われることくらい惜しくはない。思えば彼の家から帰るとき、私はいつも「ノーパン」なのだった。

 ショーパンは一度洗ってドライヤーで急速乾燥させたが、やっぱり生乾きだった。夜道だったから良かったものの、昼間ならば通行人に気付かれていたことだろう。

「見て!あのお姉ちゃん、濡れたおズボン履いてるよ!」
「コラ!見ちゃいけません…!!」

 そんな風に、子供に指をさされて笑われたかもしれない。

――そうよ。お姉ちゃんは、大学生にもなって『おもらし』しちゃったの。
――僕だって、もうしないよね?そんな恥ずかしいこと。
――でも、やっちゃったの。案外気持ちいいもんだよ『おもらし』って…。

 自宅に辿り着き、静寂に満たされた廊下を歩きながら、私は色んなことを考えた。だがある地点に差し掛かったところで、ふいに私の思考を乱す雑音が聞こえてきた。


 それは、弟の部屋からだった。ドアの隙間から微かに明かりが漏れている。

――まだ、起きてたんだ…。

 私はカバンからスマホを取り出して時刻を確認した。午前零時過ぎ。中学生ならば夜更かしをしていたとしても不思議ではない。

 私と弟は歳が離れていた。別に、実は血が繋がってないとかではない。ただ単純に同じ両親から生まれたものの、インターバルが比較的長かったというだけのことだ。

 なぜ両親がそのタイミングで子作りをしたのかについてはあまり考えたくない。(両親のそういった行為について、誰だって想像したくはないだろう)

 とにかく。歳の離れた弟は私にとって可愛いものであり、庇護の対象なのだった。

 私は今無性に彼と話がしたかった。だけど、もうこんな時間だし。そうでなくとも私が遅くなった理由を鑑みるに、そのまま廊下を素通りするべきだった。

 それでも。何を思ったか、私は無意識的にも反射的に弟の部屋をノックしていた。自分が今現在「ノーパン」であることも忘れて…。


 弟の「ビクッ!」とした息遣いがドア越しに伝わってくる。まさかこんな時間に、訪問者が現れるとは思っていなかったのだろう。私が帰ってないことは知りつつも、不良の姉ならば朝帰りでもするだろうと半ば呆れられていたのかもしれない。

「入っていい?」

 私は訊く。その問い掛けと同時に、すでにドアノブに手を掛けていた。

「うわっ!!急に、開けないでよ!」

 愛しい弟は、ひどく狼狽した様子で私を迎え入れる。歓迎はされていないらしい。彼の動揺の原因を探るように室内を見回す。枕の下に不自然な「膨らみ」があった。だけど、私はそれをあえて指摘しなかった。

「ごめんね。お姉ちゃん、今帰ってきたの」

 私は笑顔で言う。もちろん、どこから帰ってきたのかは言わない。

「へぇ~、おかえり…」

 弟は言う。「だから何だよ!」なんて言わない。礼儀正しく真面目な子なのだ。

「何やってたの?」

 確信犯的に私は訊く。核心を突く問い。意地悪な質問だったかもしれない。

「別に…。ただぼうっとしていただけ!」

 案の定、彼は曖昧な返答をする。いくらでもツッコまれそうな弱味を晒して…。


――じゃあ、何で電気を点けてたの?その枕の下のモノは何?

 なんて無粋な邪推はしない。彼もまた一歩、大人への階段を踏み出しているのだ。

 つい最近まで「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」と私の後ろを付いて回っていたのに。私は弟の成長が嬉しいような、少し淋しいような複雑な気持ちだった。

――邪魔しちゃいけない。

 弟の知的好奇心を育むため、私にできることはこの場を立ち去ることだけだった。いつもは来室を割と歓迎してくれる彼も。今ばかりはベッドの上から動こうとせず、睨むような顔で私を見ている。

 今まさに。彼の興味は目の前の姉ではなく、枕の下の「恋人」にあるのだった。

――どんな子がタイプなの?お姉ちゃんに見せてごらん。

 デリカシーもなく、そんな風に訊いてみたかった。弟は「えっ?何のこと…?」と惚けるに決まっている。だけど、お姉ちゃんには全てお見通しなのだ。

――どんなプレイに興奮するの?

 まだ中学生の彼に、そんな概念はないのかもしれない。女性の裸が写っていれば、それだけで満足なのだろう。

 でも、最近の中学生はませてると聞いたことがあるし。あるいはそれなりの性癖を持ち合わせているのかもしれない。彼は一体、どんな「エロ本」を読むのだろう?


――「レ○プもの」とかだったら、嫌だな…。

 もちろん、そうした嗜好の人を否定する気はない。実際にやるのは言語道断だが、創作物として楽しむのは個人の自由だ。それでも弟には女性を傷つけるような思考を持っていて欲しくなかった。あくまで私にとっては心優しく素直な子なのだ。

――もしかして、『おしっこモノ』だったりして…?

 わずかな可能性について思い浮かべる。だけどすぐに、それはないなと否定する。そもそもそんな性癖が存在すること自体、私自身ついこの前まで知らなかったのだ。生物として当たり前の『排泄行為』に対して興奮するなんて。理解し難いどころか、そうした感情が芽生えることすら考えてもみなかった。だけど…。

 あの日、彼の家で犯した失態がきっかけとなり――。

 私の中で、微かな興味と興奮が発芽した。最初はとにかく絶望でしかなかった。「過去に戻ることができたら」と、あの時ほどタイムマシンを渇望したことはない。だけど「ノーパン」で家に帰る道中、汚れたショーツを洗っている最中、幾度となく決壊の光景がフラッシュバックした。


 我慢が限界を迎える瞬間。股間が弛緩してゆく実感。ショーツの中に温感が溢れ、やがて悪寒と共に冠水したそれを他人に、あろうことか異性に視姦される高揚感。

 それは、今までの私の人生にはなかった種類の感慨だった。やや戸惑いもあった。自分が果たして、何に興奮しているのか分からなかった。『放尿』に対してなのか、あるいはそこに付随する何らかの要素に昂りを覚えているのかも不明だった。そして「二度目」の今夜、それは自明なものとなった。

 私は『おもらし』することに興奮するのだ。

『排尿行為』自体にではない。トイレでするだけでは少しも興奮したりなどしない。それは、そこが出していい場所だからだ。催した『尿意』を正しい手順で解放する。ごく当たり前の手続きであり、それ自体はあくまで日常的な行為に他ならない。

 そうじゃない、私が求めているのは非日常なのだ。イケないのに、ヤってしまう。欲望を押し留めつつも、勢いに流される。己を律し、理性で抑えていた本能の解放。それこそが私の越えられなかった壁であり、私に嵌められた枷なのかもしれない。


――そうだ、私はまだ「処女」なんだ…。

 今夜もまた、それを捨てることが叶わなかった。同年代が次々と卒業していく中、己だけが同じ場所に留まっているという劣等感。周回遅れの醜態に身を焦がしつつ、今宵も一人で就寝するのだろうか。それはとても耐え難いことのように思えた。

――こんなことなら、○○さんの家に泊まれば良かった…。

 一夜を共にしたならば、ふと彼もその気になってリベンジだってあり得ただろう。今度は後ろではなく前で。非正規の穴ではなく性器で。アナルではなくヴァギナで。女性としての正しい喜びを知る機会に巡り合えたかもしれない。

 だが、私は一時の感情により情事を遠ざけてしまった。そんな自分のマトモさが、不真面目になりきれない真面目さが疎ましかった。


「なんか用…?」

 弟の声でふと我に返る。私はいつの間にか内界の深海へと沈みこんでいたらしい。彼が怪訝そうな表情で、というより「早く出て行け」という顔でこちらを見ている。そうだ、ここは弟の部屋だった。自戒し、後悔に溺れるのなら己の領海ですべきだ。

 でも私は今一人になりたくなかった。それが弟だろうと誰かと一緒に居たかった。

「ちょっといいかな?」

 私は訊ねる。肉親である彼に向かって、他人に接するように遠慮がちに言う。

「えっ…?どうしたの?お姉ちゃん」

 私の改まった問い掛けに対し、彼はやや戸惑いながらも優しく訊き返してくれる。「お姉ちゃん」と、こんな私をそう呼んでくれる。それだけで私は泣きそうになる。自分を手放しに受け入れてくれる存在。それが家族であり姉弟という関係性なのだ。

「大丈夫だよ。ちょっと話さない?」

 何が大丈夫なのかは解らない。事情を抱えた心情や内情に渦巻く感情について彼に打ち明けることはできないし、そんなことを弟相手に語るつもりもなかった。ただ、どんなことでもいいから話したかった。普段のように他愛のない会話がしたかった。


 弟の名前は「純一」という。純粋な彼にふさわしい名だ。私や両親は、彼のことを「純君」と呼んでいる。

 純君はベッドから起き上がり、招かれざる客である私を室内に招き入れてくれる。「どうぞ」と言ってくれたわけでも、自ら率先して私を誘ってくれたわけでもない。私が勝手に了承を感じ取り、あるいはそう思い込んだだけなのかもしれない。

 部屋に入って、ドアを閉める。何気ないその仕草に少しだけ心がざわついたのは、デジャヴを感じたからだ。だがそれは錯覚でも何でもなく、私が数時間前に彼の家で同じ動作をしたからだった。

――男性の部屋で二人きり。

 そんな状況説明が脳内でナレーションされる。だけど男性の部屋といってもここは弟の部屋であり、私の実家の一部に過ぎない。普段なら特段に意識することもない。彼が中学に上がってからは無断で立ち入らないようにしているものの。小学生の頃は漫画の貸し借りや、ちょっとした用事を頼むためなんかで頻繁に訪れていた場所だ。そこに感傷の余地などあるはずもない。だけど…。

 純君の部屋は、かつての印象とは少し違っていた。父親の仕事関係の知り合いから貰った小型テレビが置いてあり、本棚には少年漫画の単行本がずらりと並んでいる。その他には彼が今座っているベッドと、ほとんど物置状態の学習机。私のお下がりの白いテーブルには食べ掛けのお菓子の残骸が散らかされていて、いつもの私ならば「片づけなさい!」と注意していたところだろう。


 見慣れたはずの弟の部屋。見知った景色が、何だか少しばかり違って感じられる。その理由が分からぬまま、胸騒ぎにも似た胸の高鳴りを覚えつつも私はカーペットに腰を下ろした。

「あんまり、じろじろ見ないでよ…」

 純君は照れくさそうに言う。私は無意識の内に、弟の部屋を観察していたらしい。彼が嫌がるのも無理はない。私だって、家族であろうと自分のプライベートな空間をまじまじと検分されたくはない。

「ごめんね。なんか純君の部屋変わった?」

 私は訊ねてみた。己の抱いている違和感の正体を、彼に求めるように。

「別に?何も変わってないと思うけど…」

 純君は不思議そうに答える。実際に変わっていないのだから当然だろう。あくまでそう感じる原因は私の内側にあって、外側にその理由を求めるのは間違っている。

「そっか」

 そっけなく答えつつも、私はまだ弟の部屋を眺めていた。


「話って何?」

 純君がそう訊いてくる。「話がある」などと言ったつもりは特にないのだけれど。「ちょっと話さない?」なんて姉の私に改まって言われれば、何か重要な話があると思われても仕方ないだろう。

「別に。たまには、ゆっくり純君と話したいなって」

 つい、彼の口癖がうつってしまう。だがそんなこと気にならないほど、私の口調はどこか他人のような響きを醸していた。

「あっ!『ドラゴン・ピース』新刊出たんだ!」

 何気なく本棚を見ていた私はようやく、微かな違和感の正体に思い当たる。だけどその変化がまさか、部屋全体の雰囲気に波及していたとは考えづらい。それでも私は大袈裟に発見を口に出す。あたかも意図的に話題を作るように…。

「この前、買ったばっか」

 彼はぶっきらぼうに答えつつも、その表情はなぜか得意げだった。二人が楽しみにしている漫画の続きを、自分だけが知っているという優越感らしい。

「どうして、お姉ちゃんに教えてくれなかったの!?」

 責めるような口調で私は言う。でも本当は新刊が発売されることはネットで知っていたし、コンビニのレジ前に置いてあるのを見ても「純君が買ってくれるだろう」とあえて買わずにおいたのだ。

「今度、貸してあげようと思ってたの!」

 彼は釈明する。私から視線を逸らし、気まずそうに目を伏せる。

――本当に~?自分だけ読んでネタバレしようと思ってたんじゃないの~?

 そんな風に、私が冗談半分でからかおうとしていると…。


「でもお姉ちゃん、最近帰りが遅いから…」

 純君は言った。それは私の全く予想していなかった種類の言葉だった。彼の表情はなんだか申し訳なさそうに見えた。いや違う。罪悪感に苛まれるべきは私であって、断じて純君ではない。

 カーペットをじっと見つめる純君の瞳はどこか切なそうで、私は胸の奥をキュッと締め付けられるような痛みを感じた。

――私の帰りが遅いせいで、純君を淋しがらせてしまってる…!

 思えば、弟の部屋を訪ねたのはいつぶりだろう?純君がこの部屋を与えられてから何度も遊びに来ていたから考えたこともなかったが。ここ最近漫画を貸してもらいに来ることもなければ、ちょっとした用事をわざわざ彼に頼むこともなかった。

 そして、私がバイトを始めてからというもの。夕食を一人で済ませることも増え、それによって家族との団欒の時間は確実に削られていて、さらには純君と話す機会もめっきり減っていた。

 しかもバイトだけならまだしも、私の帰りが遅い理由はそれだけじゃない。今日とこの前の二日、私がしていたことといえば…。


 とても純君に聞かせられるような内容のものではない。私はいつの間にか、弟にも打ち明けられない秘密をいくつも抱え込んでいた。もちろん、仲の良い姉弟だろうと何でも話せるわけではないし、言えないことの一つや二つくらい持っているものだ。だからといってそんな建前を盾にして、立て続けに秘密を積み重ねていっていいものだろうか。

「別に、お姉ちゃんが忙しいのは分かってるし。別に、良いんだけどさ…」

 純君は「気にしてないよ!」というように、口癖を何度も繰り返す。精一杯強がっているようにも見えた。あるいはそれも、単に姉としての願望だったのかもしれない。けれど今にも泣き出しそうな純君を見ていると、私は今すぐに抱き締めたくなった。姉として、それを越えて母のような慈愛をもって、家族としての関係性を抜きにして、一人の女性として。

 私は、カーペットに座ったまま体を移動させる。ベッドに腰かける純君に近づき、その手を優しく包みこんだ。

「ごめんね、純君」

 私は謝る。姉としての責務を果たせていなかったことを。純君を置き去りにして、自分ばかり早く大人になろうと突っ走っていたことを。

「また、前みたいに遊んでくれる?」

 上目遣いでそう訊いてくる彼を、私は本当に抱き締めそうになった。けれどいくら姉弟であろうと、いや姉弟であるからこそそういうわけにもいかず。私は純君の手をより強く握った。

「もちろん。また一緒にいっぱい遊ぼう」

 私は言う。姉としての優しい笑みは自然に溢れてきた。これからはもっと家族を、弟を大事にしよう。そう心に固く誓った。女性として成熟することも大事だけれど、それ以前に姉として成長することのほうがより大切なのだ。だって家族はいつだって無条件で私を認め、好いてくれるかけがえのない存在なのだから。


 私は湿った雰囲気を一掃し転換するための話題を探した。そして、そのきっかけをやはり本棚に求めた。けれどそれはあまりにもあからさまな気がしたし、その話題は友人とだっていくらでも置換可能なものに過ぎない。それよりもっと姉弟だからこそできる親密な会話を私は探した。そして、それは秘密の共有にこそあると思った。

――ここで一つ、純君の「隠し事」を暴いてやろう。

 彼は嫌がるかもしれない。それにより姉に軽蔑されることを恐れるかもしれない。だが私は彼の秘密を受け入れる覚悟があった。いまだに処女のままではあるけれど、一歩前進した(はずの)私には思春期ならではの悩みを受け止める準備があった。

 私は純君の手を離した。そのまま前のめりになって、ベッドの方に手を伸ばした。突然の私の行動に、彼の反応が遅れる。それも想定内だ。

――どんな「エロ本」を隠しているの?お姉ちゃんに見せてみなさい!

 枕の下に手を差し込む。予想した通りそこには何かがあった。けれどその感触は、私の想定とは大きく違ったものだった。


――柔らかい…?

 指先に触れたものは、写真集のような固さもなければDVDのようなツルツルとした手触りもなかった。ベッドと同じような、シーツがもう一枚あるような感触だった。

 怪訝に思いながらも、もう後には引けない。嫌な予感を覚えつつも勢いに任せて、私は弟の秘密を暴き出した。

 それは、布の塊だった。

 いや、塊というほど大きくはない。むしろ極小のその物体に私は見覚えがあった。と、同時に混乱する。それは決して純君の部屋にあるべきものではなかった。

 それは、下着だった。

 黒い下着だった。見たところさしたる装飾のない、前面上部にとって付けたような小さなリボンがあしらってあるだけの簡素なショーツだった。

 純君のパンツでないことは一目でわかる。それは明らかに女性ものの下着だった。

――どうして、こんなものが…?

 私は全身が強ばるのを感じた。考古学者が人類史を真っ向から否定する古代遺跡を発掘した時のように、私の体は緊張とある種の畏れによって震えていた。


 頭の中に、次々と新聞の一面が浮かぶ。

「最年少、下着泥棒!!」
「男子中学生、夜の学校に侵入し同級生の下着を拝借か!?」
「犯行の動機『女子の穿いている下着に興味があった』」

 まだ子供と思っていた弟の知られざる一面に、姉である私はこれ以上ないくらいに動揺していた。

「思春期の抱える闇!!」
「姉の素行不良が原因か!?」
「姉は外で、変態プレイ三昧!!」

 そんな週刊誌の記事さえも脳内に流れる。

「思春期の子供を持つ親の責任は――」
「両親のみならず、やはり兄や姉の責任も――」
「いや、今回の事件は姉に問題があるでしょう!」

 ワイドショーのコメンテーターの発言すらも聞こえてくる。

――純君は何も悪くないです!!姉の私が全ての原因です!!
――ごめんね、純君。私が構ってあげられなかったばっかりに…。
――大丈夫。お姉ちゃんも一緒に罪を償ってあげるから。

 自分自身の弁明もまた浮かんでくる。

 私は一瞬、このまま純君と一緒に警察に自首するところまでをシミュレートした。だがそんな想像の飛躍において、私は意識の中にある引っ掛かりを感じた。それは、そのショーツに強烈な既視感を覚えたからだ。

 ただ、私が普段穿いているものと同種のものであるという事実のみではない。その黒いショーツは、私のよく知っているものと酷似していた。買う時以外は普段あまりまじまじと見ない下着だが。そのものばかりはある事情によって、どうしても詳細に観察せざるを得なかった。


 それは、私の『おもらしショーツ』だった。

 もちろん現在のそれは、そうした汚名からは解放されている。きちんと手洗いし、その上で洗濯機に放り込んだのだから。

 それでも私が「おもらしをした」という過去の事実までを洗い流せるはずもなく、私の脳裏にはあの日の惨めな己の姿が現実のものとしてはっきりと焼きついている。ゆえに私はそのショーツに強烈な既視感を覚え、それがあろうことか弟の枕の下から発掘されたことに混乱したのだった。

 私は恐る恐る口を開く。それを言うことで姉弟関係が完全に失われてしまうことを危惧しながらも、それでも私ははっきりと彼を問い質す。

「これ、もしかしてお姉ちゃんの…?」

 純君の表情が驚きから絶望へと変わる、その変化がありありと感じられる。まるでアニメーションのコマ送り、スローモーションで再生されるように。

 純君の顔が瞬く間に曇り、やがて両手で顔面を覆って泣き出してしまう。

「ごめんなさい、ごめんなさい…」

 何度も繰り返し詫びる純君。再び私の脳内に先ほどの事件の想像が浮かんでくる。罪が発覚した際、逮捕され世間に対し謝罪する時も、彼はこんな感じなのだろうか?

 胸を潰されそうな罪悪感と庇護欲に苛まれつつ、私は彼の弁解を待った。


――続く――

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おかず味噌 2020/03/24 17:10

オススメ作品「スカトロクエスト~そして排泄へ~」

皆さんは「物心」ついた少年時代に、こんなことを思った経験はないだろうか?

「このキャラの『パンツ』見たい!!」と。

 もしも、そんな経験があるというなら、その気持ちは十分に理解できる。ネットの十分に普及していない当時の「小さな大人たち」にとって、「女性のパンツ」というものはそれほど貴重なものだったのだ。ましてや「可愛い子のパンツ」など、たとえ直接触ったり嗅いだりは出来なくても、純粋に「見てみたい」ものだろう。
 やがて「少年」は「大人」になって――。その成長と共に文明も発達し、今では簡単に「女性のパンツ」を見ることが出来るどころか、その「中身」さえも知ることが出来るようになった。今や、「女性のパンツ」というおかずだけで達することは難しい。なぜなら、それはごくありふれた「前菜」のようなものであり、その先にもっと豪華な「主菜」が待ち受けていると知っているからだ。だから、たとえ少しばかりの食欲を満たされようと、その時点で満腹になってしまうのは勿体ないという心理だ。

 だが、それでも。我々はやはり予期せぬ「パンチラ」というものは相変わらず嬉しいものだ。それが予め約束された「展開」ではなく、ふいにもたらせられたものであるならば――。我々はいつだって少年時代に立ち返って、その初期衝動を何度だって反芻することができる。近所の駄菓子屋でお小遣いの範囲内で数十円足らず駄菓子を買い、暗くなるまで友達と走り回っていた「あの頃」を思い出すみたいに。
 我々はいつからか「忘れて」しまった。「パンチラ」の感動を、そこに存在する「趣き」を。財布はマジックテープのものから長財布へと変わり、その中身は札で膨らんでいる。今や、「駄菓子」などいくらでも買えるし、エロいコンテンツだって手に入れたい放題だ。いつの間に我々は、かつて少年時代に忌避した「権力者」と成り果ててしまったのだろう?
 確かにある種の「成功」とは言えるだろう。だが、果たしてそんな我々は、かつて少年時代に感じたほどの興奮を再び味わうことができるだろうか?ただの「パンチラ」で抜くことができなくなってしまった我々に――。

 かつて我々は「ゲーム」という文明の利器を手にした。それは実に画期的な人類における「発明」であり、これまでは受け身でしかなかった漫画やアニメとは違い、自ら「主人公」を動かすことで物語を進行させていくというものだった。それによって、我々はあたかも自分自身が主人公に成り代わったかのような感動を手にし、登場人物たちと共に笑い、共に怒り、共に感じ、共に願ってきた。
 現代にも受け継がれる著名なタイトルが次々と出される中、そんな中でも我々は「ゲームを純粋に楽しむ」という目的の他に、ある「邪」な感情を微かに持ち合わせてはいなかっただろうか?
 それは一般作である漫画やアニメに向けられたものより、あるいは巨大な期待であり、ある種の「願い」でもあった。だが、その願いはそう簡単には聞き入れられず、悔しい思いをした者も数多いことだろう。

 さて、この作品は「ゲーム」である。その「操作性」や「自由度」は、今の一般発売とは比較するまでもなく、大きく劣るものではある。あるいはかつての「ファミコン」と肩を並べることさえ難しいかもしれない。だが、そこには大きな「少年の夢」が詰まっている。
 一般作だけど「一般作」ではない。エロゲーだけど「エロゲー」ではない。そうした絶妙な葛藤と「趣き」が、このゲームには込められている。

 ゲームの内容としては、我々がまず最初に思い浮かべる「RPG」であり、いわゆる異世界(ファンタジー)の設定だ。武器や防具が登場し、それを装備することで強化され、敵を倒していく。そこそこの「強敵」も存在し、ただ一直線に突っ走るだけでは突破できないこともある。そうした厳しい戦いを経て、我々はようやく「クリア」という達成感を得るのだ。
 けれど、分かっている。あなたが求めるのはそんな種類の「達成感」ではないのだと。

 このゲームでは登場人物(女性)が、何と頻繁に「お漏らし」をするのだ。「失禁」「着衣脱糞」「おねしょ」など、これまでの一般作のゲームでは到底考えられなかった「斬新」な設定である。
 もちろん、この作品はエロゲーである。けれどその「世界観」が、かつて我々のプレイした著名な「クエスト」に酷似していることで、まるであの時は味わえなかった興奮を満たすように、「どうして思うようにいかない」というあの頃の鬱憤を晴らすように、このゲームはかつての少年時代の「未実現」を思い出させ、それを解消させてくれる、「お漏らし」ないし「スカトロ」好きには堪らない作品だ。

 いつもの如く、作者が購入しプレイしたことは言うまでもない。それなりに「敵」が強く苦戦した場面もあったが、それがより「待ちわびた瞬間」を際立たせることになる。
「お漏らし」「スカトロ」好きは、ぜひ購入して頂きたい。
 そして、我々は「勇者」となるのだ――。

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おかず味噌 2020/03/18 03:46

短編「定番お漏らし『授業中』」

悪夢の始まりは、五時限目の世界史の「授業中」のことだった――。
「それ」は音もなく私の背後に忍び寄り、授業開始から二十分が過ぎた頃ついに私を捕らえ、やがて私の「お腹」を支配した――。



登場人物「長沢みち子」
 高校二年生。黒髪のストレートで、比較的小柄な、やや幼さの残る顔立ち。いわゆる「イケイケのギャル(死語)」ではなく、学校生活においては化粧をしていないが、休日に友達と出掛ける時は、周囲と同化するために不慣れなメイクを施す。人懐っこい性格のため友人は多く、クラスの男子にもそれなりにモテる。誰とでも分け隔てなく接し、交友関係は割と地味目な女子から、クラスのリーダー格の女子までと幅広い。高一の夏休みから付き合っている彼氏がいる。
 友人が多く、その上彼氏までいるということで、自分では「スクールカースト」の割と上位にいるんじゃないかと思っている。だが、元々は大人しめの性分のため、頂点の「パリピ女子」たちはいまいちノリが合わず、それでも少し無理をしつつも背伸びして同調している。かといって、あまりイケてないグループの友人たちを見下すわけでもなく、むしろ彼女たちと一緒にいるほうが素の自分を出せる気もする。
 だけどやっぱり、イケているグループに所属している自分の方が気に入っていて、彼氏もそのグループの女子たちと仲が良い。だから放課後や休日は彼女たちと遊ぶことで、充実した高校生活をエンジョイしている。
 今の彼氏が人生初めての彼氏で、付き合ってもう一年近くになるが、まだ「初体験」は終えていない。彼氏としてはやっぱりヤりたがっているみたいだけど、何となく痛いのは怖いし、彼氏が自分のことを「そういう目」でしか見なくなるのでは?という不安もある。
 胸はまだ発展途上(かも?)で、少し大きめのお尻と「幼児体型」気味のスタイルに、ややコンプレックスを抱いている。
 下着はママの買ってきてくれたものをそのまま付けていて、今のところ自分で下着を買いに行ったことはないし、その予定もない。それでも、たまに見えてしまう同級生の女子たちの派手な下着には、少しばかり憧れもある。ちなみに今日のショーツは、ピンク色の木綿生地。さすがに「キャラクターもの」や「クマさん」は、とっくの昔に卒業した。
 まさかそのショーツを数十分後に「うんち」で汚してしまうなんて――、まだ彼女は想像さえしていなかった――。



――お腹痛い…。
 みち子は心の中ではっきりと「異変」を自覚する。
 とはいえ、「腹痛」には幾つかの種類がある。小学生の頃、学校で「大便」を禁止された男子たちがよく言っていた「そういうヤツじゃない」というものから、少しでも「幼児体型」を克服するため、家でたまに思い立って「腹筋」をした翌日に訪れるもの、それから「女の子の日」のものまでと、様々だ。
 みち子は自分のお腹に訊ねる。「今の『それ』は、どんなものなんだい?」と。返ってきた答えは――無情にも「便意」を告げるものだった。
――どうしよう…。
 みち子は、教室前方の時計を見る。長い針はようやく円盤の「最下部」に差し掛かるところだった。授業の終わりまでまだ三十分以上ある。

「三十分」という時間を、色々なものに当てはめてみることにした。
 小さい頃に観ていた「アニメ」の放送時間がちょうどそれくらいだ。ということはつまり、同じだけの時間を耐えればいいということだ。だが、ここである問題に思い当たる。
 確かに、放送番組欄にはきっちり、前の番組と次の番組の間、ちょうど三十分の「枠」が用意されている。だけど実際は、二十六分くらいで番組が終わり、あとはコマーシャルなのだ。しかも、オープニングの後、前半と後半の間にもCMがある。
 CMの間、トイレに行ったり、ジュースを取りに行ったりと、テレビから離れる。そんな「休憩」を含めての三十分なのだ。席を離れることも、立ち上がることさえもできない「三十分」とはわけが違う。
 次に、もっと細かく分割してみることにする。
「カップ麺」の待ち時間が「三分(最近ではそれより短いものも多いが)」だ。ならば、その「十個分」がちょうど三十分に相当する。こちらはタイマーで測ってきっちり「3分×10」、間にCMが挟まれることはなく、しかもこれは純粋な「待ち時間」なのだ。だが、ここでもやはり問題はある。
 そもそも、一度に十個ものカップ麺を食べたことがないという問題だ。どんなにお腹が減っていたとしても、せいぜい二個、それが限界だ。「カップ麺を同時に十個食べてみた!」なんて、Youtuberの企画でもあるまいし、家でそんなことをしようものならママに怒られてしまうだろう。
 それに、もし仮にそんなチャレンジをするとしたら、一個三分以内では到底食べ終えられないので、もっと長い時間が掛かるだろうし、そのインターバルはもはや「待ち時間」とは呼べない。
 今度は、もっと長い時間の「一部」を切り取ってみることにする。映画の上映時間を「二時間」だとすると、その四分の一くらいで――。

 みち子は再び時計を見た。思考に耽っていたことで、思わぬ「長い時間」がいつの間にか経過していたことを期待して。
 だが、時計の針はさっきとほとんど同じ位置に留まったままだった。クラスメイトに聞こえぬよう、みち子は小さくため息をつく。
――どうして、こういう時って、時間が経つのが遅いんだろう…。
 これが「相対性理論」というやつだろうか?(違う。)友達と遊んでいる時や昼休みはあっという間に時間が過ぎるのに、授業中は時間の流れがとても遅く感じられる。本当に「同じ時間」なのか?と疑いたくなるほどに。ひょっとすると、時計の針がサボっているんじゃないか?と感じるくらいに。そして、今日の授業はいつも以上に長く思えた。

――先生に言って、トイレに行かせてもらおうかな…。
 世界史の本田先生は、そんなに厳しくない先生だ。申し出れば、きっとトイレに行くのを許してくれるはずだ。そうすれば、授業の終わりを待つまでもなく、すぐにこの苦しみから解放される。だけど――。
――恥ずかしい…。
 授業中にトイレなんて、子供じゃあるまいし。それこそ休み時間に済ませておけ、という話だ。それに、わざわざ授業中にトイレに行くということはつまり、自分の限界が近いことを告白しているようなものである。
「みち子、さっきの授業中、そんなに限界だったの?(笑)」
 きっと後で、美香に訊かれるだろう。
「そう!本当に限界で。漏らすかと思ったよ!」
 そんな風に笑い話で済ませることもできるかもしれない。けど、直接訊かれることのなかった他の友達や、クラスの男子たちはどう思うだろうか?
 みち子は選択を迫られる。「トイレに行くべきか、行かないべきか、それが問題だ」

――いや、待てよ?
 みち子は思いつく。もっと簡単に、もっと手際よく、スマートにこの問題を解決する方法がある。
――「体調が悪い」と言って、保健室に行かせてもらえば…。
 もちろん、彼女が行きたいのは保健室などではなく、「トイレ」だ。だけど、保健室に行きさえすれば、そこからトイレに行くこと自体はそんなに難しいことじゃない。というか、とても簡単なことだ。
――でも、授業をサボることになるよね…?
 真面目なみち子は、わずかな罪悪感を覚える。だが、そんな自分を納得させる論理はすでに構築済みだ。
「トイレに行きたい→お腹が痛い=体調が悪い」
 決して嘘をついているわけではないのだと、自分を納得させる。あくまで「緊急事態」であることに変わりはなく、違うとすればそれが「生理現象」によるものか、本当に「体調の異変」によるものかくらいだ。
 あとは、いかに体調が悪そうな演技をして、先生を騙すかだ。それにはやはり少しの抵抗感が伴う。先生はきっと心配するだろう。保健委員の付き添いを命じるかもしれない。友人たちもきっと心配してくれるに違いない。もしかしたら、授業終わりに「お見舞い」に来てくれるかもしれない。まさかその時に「本当は『うんち』がしたかっただけでした~!」なんて言えるはずもなく、私はそこでも友達を騙す演技をしつつ、「もう大丈夫」という体調が回復したフリをしなければならない。それはとても、カロリーが必要なことだ。

 改めて、みち子は時計を見る。時計の針は「坂道」を上り始めたところだった。あと三十分弱、二十数分、この場で耐えるのか、それとも救済への「一歩」を踏み出すのか。「放置」か「解放」か、そのどちらを選択するべきなのだろうか。
 もちろんこのまま何事もなく、変化を起こさずにいた方が「ラク」に決まっている。だけど「その時」まで、果たして「お腹」がもってくれるのか――。
――ギュルルル…。
 突如、みち子のお腹が悲鳴をあげる。楽観視する自分を突き放すように、胃腸が自己主張を始める。
 みち子は両手でお腹を押さえ、ただじっと「波」が過ぎ去るのを待つ。目を閉じて、苦痛に耐える。額には脂汗がにじみ、全身は小刻みに震えている。

――危なかった…。
 何とか「峠」を乗り越え、みち子は目を開く。平和な教室の中は、さっきまでと何も変わらない。けれど自分だけは人知れず、強大な敵との攻防を繰り広げていた。あともう一回攻め込まれたら、本当にヤバいかもしれない。
「現代では考えられないことですが――、中世のヨーロッパでは、みんな街中に汚物を平然と捨てていました」
 先生の言葉が聞こえてくる。それを聞き取れるくらい、あくまで一時的ではあるが、みち子は束の間の余裕を取り戻していた。生徒たちの「え~!」「不潔!」といった声さえ、耳に届く。現代では考えられないような「常識」を知って、みち子は思う。
――もし、ここが中世ヨーロッパだったなら…。
 もしそうなら、たとえここで「排泄」をしたって、それは常識の範囲内であり、誰にも見咎められることはないのに、と。
「女性の履く『ハイヒール』は実は、当時の人々が街中にばら撒かれた『汚物』を踏まないように発明されたものなんです」
――いや、違う。
 それは「ハイヒール」の成り立ちに、異説を唱えるものではない。
 いくら当時の人たちでも、まさか人前で堂々と排泄をしていたわけではない。もしかしたら、そうなのかもしれないけれど――、それにしたって、それなりに排泄部分を隠すなりのことはしていたはずだ。それに、ここは屋外ではなく、室内だ。先生が言っていたのは、あくまで街中つまり屋外の話であり、当時の人たちだって室内で好き勝手に排泄していたわけではないだろう。そして、今は中世ではなく「現代」なのだ。水洗便所が整っているからこそ、「排泄行為」はトイレでするのが当たり前であり、そうでなければ「野糞」であり「お漏らし」だ。
 みち子がこの場で「排泄」するとしたら、それは「ショーツの中」にであり、もしそれをしたならば、彼女のこれまでの人間関係は立ちどころに失われてしまう。それは何としてでも避けなくてはならない。

 みち子は改めて、時計を見た。長針は「一周」を三分割したところだった。
――あと二十分、イケるかもしれない!
 みち子の中に、初めて「希望の光」が差し込み始める。今では腹痛も収まりつつあり、「波」も比較的穏やかだ。これならば、恥ずかしさを耐え忍んで教室を抜け出さなくても、このままただ座っていればチャイムが鳴って、普段通り次の休憩時間にトイレに行くことで、事なきを得られるに違いない。
――簡単なことじゃないか!
 あと、二十分というのは確かにそれなりに長いけれど。腹痛さえ感じていなければ、耐えられない時間でもない。いつもの退屈な授業をやり過ごすみたいに、ただ座ってじっと待っているだけでいい。
 みち子はシャーペンを握った。中断していた板書をすることで、少しでも気を紛らわせようと、それによって「気がつけば授業が終わっていた」ことを期待するように、先生の声を耳でしっかりと聞きながら、うんうんと頷いて、ノートにペンを走らせる。ペンの色を使いわけ、テストに出そうな所にはマーカーを引き、いつも以上に真面目な生徒を演じる。鼻唄さえ浮かんできそうだったが、今は授業中、その気持ちをぐっと堪える。

――あと、十七分。
 あと十五分。その間も、みち子はしきりに時計に目をやる。いかに余裕があるとはいえ、いつこの状況が逆転されるとも限らず、時計の針の「足取り」はいまだに重かった。
――あと十三分。
 十二分、十一分――。そして――。
 ようやく、残り十分を切ったところで、眠っていた「悪魔」はついに目覚め、最後の抵抗を試みる――。

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おかず味噌 2020/03/11 01:04

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おかず味噌 2020/03/10 18:36

ちょっとイケないこと… 第六話「性器と非正規」

(第五話はこちらから)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/220840


 電灯から垂れ下がった紐に手を伸ばしたものの、中腰のままではギリギリ届かず。彼は仕方なく立ち上がってから、カチカチと電気を消した。

 部屋の中が暗くなった(常夜灯は点いたままなので完全な暗闇ではない)ことで、肌を晒す恥辱が軽減される。薄明りはさらに、敬虔な未経験である私の体に火を灯し情欲を丸裸にするのだった。

 彼はシャツを脱ぎ、ベルトを外す。ズボンを脱ぎ、下着姿(トランクス派)になる。これまで頑なに服を脱がずにいた彼もまた、ようやくここで「パンツ一丁」になる。それによって、彼のある部分のある変化が見て取れるようになる。

 彼は、勃起していた。

 トランクス越しでもはっきりと分かる。股間の一部だけがくっきりと持ち上がり、陰茎の陰影が強調されている。下着の中で窮屈そうにしながらも主張を露わにして、彼の男性としての象徴を表わしている。

――男の人のって、こんなに大きいんだ…。

 それが私の率直な感想だった。女体には存在しない物体は、少しばかりの恐怖心とある種の好奇心のようなものを私に植え付けた。

 彼が電気を消した時のように、私もまた彼のそこに手を伸ばす。立ち上がらずとも座ったままで手が届く。あくまでも布越しに、彼のペニスに触れる。


「うっ…!」

 私の掴み方が強すぎたせいか、あるいは握られることで微かな快感を覚えたのか、彼はわずかに腰を引く。私はとっさに手を離した。

「ごめんなさい、つい…」

 言い訳のような、己の欲情を告白するような言葉を吐く。

「いや、ごめん。ちょっとびっくりしただけだから…」

 彼もまた弁解する。ただ驚いただけなのだ、と。これまでずっと受け身だった私がいきなり大胆な攻めに出たのだから無理もない。私は自戒する。

――あまり女子の方から積極的だと、男性に引かれる。

 主に伝聞情報のみによって構成された私の教科書に改めてアンダーラインを引く。だけど今ばかりは「書を捨てて、町に出たい」という気分だった。

 私は再び、彼の股間に手を伸ばした。今度はゆっくりと両手でペニスを包み込む。硬いような柔らかいような、他にない奇妙な感触をしたそれは。一枚の布を隔てても伝わってくるくらいに確かな熱を帯びていて、微かに脈打っているかのような感覚(それもあるいは伝聞情報による錯覚なのかもしれない)があった。

 掴んだり、囲んだり、揉んだり、握ったりしながら、私は己の知的好奇心を弄ぶ。布越しの感触をしばらく堪能したのち。ようやく慣れてきた私は、彼のトランクスをいよいよ脱がしに掛かる。


「ポロン!」と間抜けな動きで棒が上下に揺さぶられる。振動が収まるのを待って、彼のペニスを凝視する。

 想像していた以上にグロテスクな物体が眼前に晒される。醜悪な造形をしながらもどこか凶悪さを秘めたようなその物体は、私に少しの戸惑いを感じさせた。

――これが、「おちんちん」なんだ…!!

 女性器とは明らかに違う。比較にならないくらい、かなり大きく異なっている。(そもそも私は自分のアソコを、まじまじと観察したことなどないのだけれど…)

 恐怖心と好奇心とが葛藤する。その感覚はまさしくスリルとも呼べるものだった。ゆえに勝敗はすでに決していた。今度は布越しではなく直接、彼のペニスを握る。

 肌と肌が触れ合う感触。いやそれ以上の感慨がもたらされる。自分の秘部に触れ、触れられた時と同じような快感が私の脳を駆け巡る。

 そこから先はまさしく教科書通りに、男性が喜ぶであろう行為をそのまま演じる。彼のペニスを優しく包み込み、最初は小刻みに、次第に激しく前後に動かす。

 こういう時、片手か両手なのかは教科書に書いてなかったので。刀を握るみたいに私は両手で触れることにした。そのほうが一生懸命さと健気さが伝わるだろうという僅かな打算もあった。一、二分それを続けた後(時間も教科書に載ってなかった)、次なる局面へと打って出る。


 彼の股間に顔面を近づける。異形の物体が眼前に迫ってくる。だけどもはや恐怖は感じなかった。高まる興奮により緩和され、完全に麻痺していた。意思の赴くまま、私はそれを「パクッ!」と口に咥えた。

 口内が満たされる感触。食べ物ではないモノによって、口の中を支配される感覚。彼は微かに快感の声を上げたものの、私にそれを聞く余裕はなかった。

 苦いと聞いたことがある(それも伝聞情報によるものだ)それは意外にも無味で、匂いもほぼ無臭であった。ペニスを口に含んだまま、私は上下運動を開始する。

――チュポ、チュポ…。

 未だかつて経験したことのないその動きに、自分でも確実にぎこちなさを感じる。彼が気持ちいいと思ってくれているのか、下手と内心で笑われているんじゃないかと不安になる。

「気持ちいい、ですか…?」

 口を離してから彼に訊ねる。下から見上げることで、必然的に上目遣いになる。

「めっちゃ気持ちいいよ」

 彼は言ってくれた。それにより私は自らの行為を肯定されたような気分になって、ますます献身的に彼に「ご奉仕」するのだった。


――じゅぼ、じゅぼ…。

 私の唾液と彼の分泌液が混じり合い、いやらしい音を立てる。それと共にようやく苦みのような味を覚え始める。

「もう、大丈夫だよ」

 彼は呟いた。「大丈夫」というのは、果たしてどういう意味だろう?
 挿入する準備が整った、という意思表示なのだろうか。もう射精してしまいそう、という危機表明なのだろうか。あるいは私のクチに満足がいかず、半ば呆れたゆえの固辞なのかもしれない。

 真意不明のまま彼はペニスを口から抜き取り、そのまま私をベッドに押し倒す。

「結衣」

 彼は私の名前を呼んで、私の体を抱き締める。痛いくらいに強く、逞しさを感じる紛れもない男性の力だった。今夜何度目かの自己肯定感に私は満たされる。このままずっと朝まで彼の腕に抱かれていたいような、そんな気持ちになる。

 彼は私に「キス」をする。最初はフレンチに、その後ディープに舌を絡めてくる。舌戦を繰り広げるが如く彼の舌尖を追いかけ、私は実践でもってそれに応える。

 私はふと、彼が自分のペニスを咥えた口とキスするのは嫌じゃないのかと思った。だけどそれを言うなら、彼だってさっきまで私のアナルに「口づけ」していたのだ。もはやお互い様だろう。

 彼の手が私の胸に伸びる。服越しに「おっぱい」を激しく揉まれる。半分は快感ともう半分は演技で私は息を荒げ、微かな喘ぎ声を上げる。

 私の反応によって彼はさらに興奮を覚えたらしく、まどろっこしさを含んだ動作で私の服を脱がしに掛かる。ここでついに私の胸を隠すものはブラジャーのみとなる。残された防御はもはや数少ない。なんとかそれを死守しなければ…。


 だが彼は無慈悲にも、そんな私の最後の防衛線さえも突破しようと試みる。思えば当然の展開であり。それを拒むこと自体、他の女子には理解し難いことなのだろう。

 私はすでに下半身を露わにしているのだ。今さら善戦なんてあったものではなく、どこが前線なのかも分かったものじゃない。

 必死になりブラジャーを押さえ付ける。下着を剥ぎ取られることを全力で抑える。彼は当然のように戸惑いの表情を浮かべる。この期に及んで今さらどうしたのかと、怪訝そうな顔をする。そんな彼の疑問に答えるように私は言った。

「私、胸が『ヘン』なので…」

 羞恥を堪えながらも精一杯の勇気を振り絞ったつもりだった。だけど、それだけで彼に伝わるはずもなかった。

「小さい、ってこと?」

 彼は訊いてくる。まさに男性の発想。「胸が小さい=恥ずかしい」と思っている。私は今夜初めて、彼に幻滅した。雑誌か何かで見知ったのであろう情報に踊らされ、それを信じ込んでいる彼が哀れにさえ思えた。

 私の悩みはそんなステレオタイプのものじゃない。あるいはそれが原因で初体験が遠ざかってしまうくらい深刻なものなのだ。(それに私の胸はそんなに小さくない)


 胸に秘めたる事情を、私自ら告白することも考えた。だけど、そうはしなかった。「百聞は一見に如かず」。口で言うより実際に見てもらった方が話は早いだろうし、ここまで来たら露見は時間の問題にも思えたからだ。

 背中に手を回して、ブラジャーのホックを外す。後は胸に乗っかっただけのそれを勇気に後押しされながら、自棄に引っ張られながらも取り去る。

 ついに自分の胸を、おっぱいを、乳首を、生まれて初めて男性の前に晒す。

 恥辱にまみれた『陥没乳首』を――。

 私の秘密を知って、彼は驚いた様子だった。あるいはそれも単なる私の勘繰りで、実は驚いてなどいなかったのかもしれない。それとも薄暗い室内で一瞥しただけでは私の瑕疵に気づけなかっただけだろうか。彼はキョトンとし、ほぼ無反応だった。

 暫しの沈黙が、私の焦燥を掻き立てる。己の抱えた事情を正直に白状することで、いっそ楽になりたいという衝動に駆られる。

「私、『陥没乳首』なんです!」

 ついに私は言ってしまう。何度かネットで解消法を調べたことはあったものの、「OKグーグル『陥没乳首』を検索して」などと言えるはずもなく、言いたくもなく。自分の口からそのワードが飛び出したことに、私自身が驚きを隠せないでいた。


 これでまた、初体験が遠ざかってしまうかもしれない。『放屁』の時と同じ恐怖に私は怯えながらも、だがそれに対する彼の反応はまさかのものだった。

――チュパ、チュパ…。

 彼はおもむろに私の乳首を舐め始めたのだ。醜く惨めな『陥没乳首』に吸い付き、あろうことかそれを吸い出し始めたのだ。

 本来なじられるべきである私の瑕疵を、彼の意思により舌で舐め回されることで。再び想定外の羞恥を感じつつも、負の感情が瞬く間に絶対値へと変換されてゆく。

 引っ込み思案な私の部分が突起に変化する。それは勃起の様子にも酷似していた。私の乳首が隆起している。外気に晒され、彼の舌技に犯されることで奮起している。

「全然、『ヘン』なんかじゃないよ」

 彼は言ってくれる。秘密の恥部を普通の一部へと昇華させつつ、隠し続けた問題を何でもないことだと認めてくれる。

 私はアソコが熱くなるのを感じた。愛液が溢れて、そこが拡がるのが感じられた。

――彼になら、抱かれてもいい。

 あくまで処女喪失の手段として。自らを納得させていた感情が今や確信に変わり、やがて目的へとすり替えられていった。


「もう、挿入れてください…」

 はっきりと己の口で懇願する。アンダーラインを引くことで強調された文言など、もはや関係なかった。私は自分の中の教科書を捨て去る。知識ではなく経験として「はじめの一歩」を踏み出すことが叶う。

 再び、彼は私を四つん這いにさせた。最初は向かい合う体勢でして欲しかったが、彼がそちらの体位を望むのなら仕方がない。どちらにせよ挿入自体に変わりはなく、姦通であることに違いはないのだ。

 彼は私の腰に手を添え、挿入の位置を整える。彼のペニスがお尻の肉をかき分け、割れ目をまさぐり、やがて「穴」の場所を探り当てる。そして…。

――!!!???

 突如激しい痛みに襲われる。初めての行為は苦痛を伴う、分かっていたことだが。その痛みは私の想定とは異なり、私がかつて経験したことのある種類のものだった。

 幼い頃に高熱を出して座薬を入れられた感触。だが座薬とは比べ物にならないほど太いそれ。それが出て行く感覚を私は知っている。


『排泄行為』

 生物として当たり前の生理的欲求でありながら、老廃物排出作用。生命維持のため必要だからこそ快楽を感じるその行為は、だがとても他人に見せられる姿ではない。

 そして。本来不可逆であるべきそれが、可逆として存在しているという不可思議。まるで時間の巻き戻しのように、排泄した『うんち』を再び腸内へと戻される感覚。確かな異物感を覚えつつも、それが不確かな快感を呼び起こす違和感。

 私は「アナル」に挿入されていた。

 その行為が、多くの女子が経験することのない性体験であることは明らかだった。一度は捨て去ったはずの教科書を私は拾い上げる。ほとんど空白のままのページ。

――そもそも、すんなりと入るものなの…?

 お尻でするのは準備がいる、と聞いたことがある。きちんとほぐしてからでないと痛みでとても入らないし、ペニスに余計な付着物を付けてしまう可能性だってある。

 にも関わらず。彼は何の準備も遠慮もなく、私のアナルに突入を試みたのだった。スキンと俗称されるコンドームさえ用いずに、生の状態で腸内に挿入したのだった。

――そんなに私のお尻の穴って、ユルいのかな…?

 彼の侵入をあっさりと許してしまったことにより、私は己の肛門に疑問を覚える。同時に、これまで過ごしてきた「ヒトリノ夜」が今まさに「白日」の下に晒される。


 差し迫る焦燥を静め、性的衝動を鎮めるため、私は幾度となく自慰行為に耽った。時には性器のみならず、非正規の穴さえも己の指で侵すことで。知らず知らずの内にショーツに『ウンスジ』が刻まれりして初めて、犯した罪を知るのだった。

――もしかしたら、さっき彼に舐められていた時…。

 私はお尻の穴に『うんち』を付けていたかもしれない。いや、そんなはずはない。何しろ、今日はまだ一度も『大』の方をしていないのだから。だけど、わからない。私のアナルが彼のペニスを楽々と飲み込んでしまうくらいに緩々だったとしたなら、不可逆のそれが勝手に漏れ出していた可能性だってある。

 彼が舐め続けていたことで、逆説的にそんな心配はないのだろうと安心していた。だけど今となってはそれもわからない。彼に『うんちまみれ』のアナルを舐めさせ、彼の舌に『ウンカス』を舐め取らせていたのかもしれないのだ。

 堪らない羞恥に私は襲われる。けれど、まさか彼に訊ねるわけにもいかなかった。「私のお尻、『うんち』付いてませんでしたか?」なんて訊けるはずもなかった。

 無言の疑問に答えることなく、彼はやがて前後運動を開始する。最初は慎重に、徐々に加速されていく律動とそれに伴う振動。

 ペニスを抜かれる時は排泄感が、入れられる時は奇妙な遡行感がもたらせられる。既知と未知。押し寄せる波状攻撃に溺れてしまいそうになりながらも乗り越えつつ、私はかろうじて彼に抗議する。


「そっち、じゃないです…!!」

 講義に依らない私の中の教科書によると。「童貞さんは初めての性行為に及ぶ際、ペニスを挿入する穴の選択をしばしば誤る」らしい。

 だけど彼はまさか「童貞さん」ではないだろうし、後背位で間違えるはずもない。その選択が彼の私的な興味によるものならば、私の指摘は無意味なのだった。

 それに。挿入前ならまだしも、すでに私は腸内の奥深くまで侵入された後なのだ。それが正しいのだと言われれば、受け入れる他ないだろう。

――違う、違う!そうじゃ、そうじゃない!!

 お尻の穴でセックスなんて間違っている。そこは性行為に使う穴なんかじゃない。私は処女なのだ。ヴァギナの姦通を済ませる前に、アナルの貫通を終えるだなんて、どう考えても普通ではない。いかにビッチといえど、そんな経験はないはずだ。

 だとしたら、私は彼女たちに対して優位性を得ることができるのだろうか?
「初体験は『お尻』で済ませました!」と堂々と胸を張って、他の者にはない経験を自慢することができるのだろうか。いやそんなの望んでない。私はあくまで一般的な同年代の女子たちに追い付きたいだけなのだ。追い越すことなんて求めていない。


「こっちです!こっちに、挿入れてください…!!」

 私は彼を誘導する。指でヴァギナを拡げて「こちらですよ!」と先導する。

 私のアソコは熱く湿り、ダラダラと涎を垂らしている。とっくに準備万端なのだ。彼を受け入れる用意はできている。今か今かと待ち侘び、待ち惚けを喰らっている。これじゃ私のそこがあまりにも可哀想だ。

――パン、パン、パン…!!!

 けれど彼のピストンは止まらない。激しい突きによって、体全体を揺さぶられる。こうなったらもういっそ、最後の手段とばかりに私は叫ぶ。

「そっちじゃないんです!『オマンコ』に入れてください…!!」

 口から出た下品な言葉も、背に腹は代えられない。このままだと、本当にもう…。


「もう、出そう…!」

 彼は宣告する。セックスのクライマックス、これも何度か自習でやったところだ。だけどやっぱり範囲外、こんなの習っていない。ここで女子なら自分の身を守るため「外に出して!」と言うべきところだが、こちらの穴なら妊娠の心配はないだろう。

「中に出してください!大丈夫だから」

 何が「大丈夫」というのか。さも避妊の準備は出来ているかのように私は言う。

「私も、イっちゃいそうです!」

 私は宣言した。自分の口でそう言ったことで、私の体は増々誤解を強めたらしい。射精を受け止める準備が整ったのだと、疑似的な受精が喜びとなって押し寄せる。

「お尻の穴で、イっちゃいます!」

 私は宣誓した。誰に向けたものかも分からない実況をして、己の羞恥を周知する。そして…。


――ドピュ!ドクン、ドクン…。

 彼は私のお尻の穴に射精した。腸内に彼の精液が迸る。『浣腸液』のような、だがそれより熱い液体が私の中に注ぎ込まれる。同時に私も発射した。

――ジョロ、ジョボボ~!!!

 それは射精なんかじゃない。潮吹きとも違う。私は絶頂により『失禁』していた。さっきあれほど出したのに、私の『放尿』は尚も勢いをもって水流を迸らせた。

——私、また『おもらし』しちゃってる!!今度は、○○さんのベッドの上で…。

 私の『おしっこ』はシーツに染み込み、巨大な水溜まりを形成した。


――ヌポッ…!!

 そこでようやく私の願いが聞き届けられたように、彼はペニスを引き抜く。

――ブピッ!プスゥ~。

 ぽっかりと空いた穴から『おなら』が漏れ出す。あまりに間抜けで間延びした音。

 私はそのままベッドにうつ伏せで倒れ込む。脚を開いたまま、お尻を突き出して、『小便』の上にダイブする。全身がピクピクと痙攣して、事後の余韻を感じている。傍から見ると「カエル」みたいだろう。

「スカンク女子」、「カエル女子」。次々と姿を変える、だがその実態は?
 未だ処女を捨てきれず、大人になれなかった「ヒヨコ女子」の成れの果てだ。

――ドロ…。

 肛門から精液が逆流する。むしろ、そちらこそが順流なのかもしれない。

――おひりのあにゃ、きもひいい…!!

 非正規の穴による性行為に。未知なる快楽の坩堝に飲み込まれそうになりつつも、またしても「お預け」にされた哀れな肉壺を私はいつまでも弄り続けていた。


――続く――

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