ちょっとイケないこと… 第五話「放屁と羞恥」
(第四話はこちらから)
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――どうしよう。『おなら』出ちゃいそう…。
私の思いとは裏腹に、思いがけず高まる腹圧に、腹立たしささえ感じる。
人生において何度か訪れる転機。根気よく待ち続け、ようやく待ち侘びたこの時。今夜、私は処女を喪失する。彼に抱かれて、大人の女性となるべく一歩を踏み出す。それなのに…。
「ちょっと、止めてください!恥ずかしいですよ…」
言葉で周知すると同時に、私は手で彼の頭を押し退けようと試みる。あくまでも「お尻を舐められる」という行為自体に羞恥を覚えるというように。
建前もあったが、恥ずかしいというのは本音だった。こういう状況になった以上、ある程度の事態は覚悟していたつもりだったのだが…。
『おしっこまみれ』の股間を嗅がれたり舐められたりすることは、私の人生において前例のない経験でありつつも、前戯としてはまだ少し理解できる部分がある。
だけど、まさかお尻の穴を舐められるなんて。想定も想像も全くしていなかった。
――そもそも、お尻って舐めるものなの!?
本来、最も汚い部分であるはずなのに。私はまだシャワーも浴びていないのに。
彼はそんな私の一部を執拗に、必要以上の執着をもって丹念に舐め続けている。
彼の舌が縦横無尽に私の中を這い回り、何度も出たり入ったりする。その度に私は得体の知れない快感と不快感の間を行ったり来たりするのだった。
「あっ…!」
つい煩悶の声を漏らしてしまう。出す専門の肛門を詰問されることで、そこで私にある疑問が生まれるのだった。
――そんなに私のお尻の穴って、美味しいのかな?
そんなはずはない。何たって『うんち』が出る穴なのだ。今日は一度もしていないとはいえ、それだって決してキレイだとは限らない。
私は見た。自分の下着を洗っている時に、そこに刻み付けられた『ウンスジ』を。
ショーツを汚していたということは、触れていた部分。元凶ともいえるその部分が汚れていたことはもはや間違いない。
今日はなんとか下着を汚さず(『おしっこ』についてはともかく)に済んでいる。だけど内側までは分からない。もしかすると自分でも気づかない内に、すぐそこまで『ブツ』が迫ってきているかもしれない。
このまま舐め続けられたら、彼の舌に『大便』を付けてしまう。
もし仮にそんなことになれば、大変なことになってしまう。
精神的な忌避を感じながらも、今の私はより具体的で切迫した危機に瀕していた。
――ヤバい!!本当に出そう…。
いよいよ、お尻の穴が言うことを聞かなくなってきた。彼の唾液にふやかされて、拡がった私のそこは痺れたように感覚を失いつつある。括約筋に力を込めようにも、力の入れ方が分からない。腰をくねらせ、拳を握り締め、かろうじて放出に耐える。
彼の目に、今の私の姿はどのように映っているのだろう。
服を着たまま四つん這いになり、剥き出しのお尻を突き出し、割れ目を拡げられ、その奥さえ露わになっている。
きっと私の肛門は、だらしなく口を開けたままになっているのだろう。
菊門のみならず、その深淵さえも彼に覗かれてしまっているのだろう。
思えば、行為に及ぶ前に「電気を消してください」と言うのを忘れていた。女の子として当然の恥じらいであり、最低限の権利の行使。明るい場所で裸体を晒すのは、女の子ならば誰だって恥ずかしいものだ。きっと私だけじゃなく、それなりに経験のある女子であっても。(ビッチならば、あるいは気にならないのかもしれないが…)
だけど、今夜の私に限っては少々事情が違っていた。すでに最大の羞恥なる解放に身を焦がした後なのだ。そして、さらなる絶望に火を灯されつつある。
――もう、限界…。
逼迫したガスの放出の予感を悟って、私は最期の抵抗を試みる。腕に力を込めて、彼の顔と舌を穴から引き剥がそうとする。だけどそこは男性の力であり、ただでさえ気の抜けた私の微力である。ちっとも、びくともしない。
「本当に嫌なんです!!」
私は語気を強めた。「イヤ」という言葉を用いる。決して好ましい選択ではない。
女の子はこういった状況において(『おなら』を我慢するという意味ではなく、「エッチ」という場面において)、あまり積極的になるべきではない。かといって、完全に拒絶をするというのもまた違う。
もちろん本当に嫌ならはっきりと断るべきだが、そうではない場合。むしろ自らもそれを望んでいる場合においては。
女の子には「え~」とか「ちょっと…」とか恥じらいを見せつつも、けれど徐々にそれを受け入れていってしまうという絶妙な演技が求められる。
過剰に好戦的だと痴女と思われ、相手を引かせてしまうかもしれないし。
逆に消極的過ぎると、それもまた行為を止めさせてしまうかもしれない。
だからこそ、あくまで八百長じみた「出来レース」を演出しなければならない。
その点、男性の方は楽だ。相手の反応を窺いつつも、一直線に突っ走ればいいだけなのだから。
それでも私はつい拒絶とも受け取られかねない反応を見せてしまう。それによって今夜はもうその機会を失ってしまう可能性だってある。
そうなればまた次回、いつ来るかも分からない一期一会を待たなければならない。
でも違うのだ。私はただ「お尻を舐める」という行為をやめて欲しいのであって。その理由も決してそれ自体が嫌なのではなく、あくまで自らの身に迫る危機的状況を回避するため、緊急避難的にそれを求めているのだ。
だが幸か不幸か。彼はそんな私の拒絶によって行為を中断することはなく、むしろこれまで以上に貪欲に肉欲を貪り続けるのだった。
アソコがじんわりと、いや激しく濡れているのが分かる。腰を浮かせているため、もしかしたら股間から愛液が滴りシーツに垂れているかもしれない。けれど、それを確認する余裕さえ私には与えられなかった。本当なら、そっちを舐めて欲しいのに。そしたら私は、何の拒絶もせずにそれを受け入れることができるのに。
それでも彼は、あくまで望まない穴を刺激し続けることで私に羞恥を与えてくる。己の身にも危険が迫っているとも知らずに…。
「何か、出ちゃいそうなんです…!!」
警鐘を鳴らしつつ、括約筋に精一杯の力を込める。無駄だと分かっていながらも、なんとか開き切ったその部分を閉じようとする。そして…。
――ブボッ!!
ついにやってしまう。『放屁』してしまう。豪快な音を立て彼の顔に『おなら』を噴き掛けてしまう。熱い空気の塊がたやすく、穴を突き抜けていくのが分かった。
――ゲホゲホッ…!!
私の思わぬ反撃に彼は堪らずむせる。言わんこっちゃない。警告したはずなのに、まさに自業自得だ。
それにしても。彼の嗚咽にも似た咳払いは暫く止まない。
――そんなに、私の『おなら』クサかったのかな…?
私は途端に申し訳ない気持ちになる。同時に、今日食べたものを脳内で思い返す。
いや、それほどキツい臭いの原因となるものは食べていないはずなのだが…。
それでも『おなら』が臭いものであることに違いはない。しかも本来なら衣越しに空中に放たれるべきそれを、彼は直で嗅がされたのだから。
今や彼の呼吸器は大気とは異なる、私の腸内で醸成された気体に満たされている。新たに息を吸い込もうとも、暫くは周囲に充満した毒ガスから逃れられない。
――終わった…。
淡い期待と儚い希望が消失したことを知る。処女喪失の機会であったはずなのに。今夜こそはと思っていたのに。これで友人たち、もしくは顔も知らない同世代たちに追いつけると思ったのに。これでまた振り出しだ。
いくら彼でも顔に『おなら』を噴き掛けるような女(スカンクじゃあるまいし)とこの先一夜を共にしようなどとは思わないだろう。
そして。きっと彼は同性の友人たちの前で、今夜の失敗談を披露することだろう。
――バイトの後輩と良い感じになってヤろうとしたら、そいつどうしたと思う?
己の過失など決して語ることなく、あくまで自分は被害者であるかのように装い、私という加害者を口汚く罵ることだろう。
「スカンク女」と。
「おもらし系女子」という字名を得てから間もなく「スカンク系女子」という悪名を襲名した私に、これからどんな顔をして表を歩けというのか。
処女という重い足枷を嵌めたまま、次々と怒涛の勢いで汚名を獲得していく私に、どうやってその錠を外してくれる男性を見つけろというのか。
こうなったらもういっそ、なんて思ったわけではない。
むしろこれ以上の罪を抑止するべく再犯を防止するつもりでいた。だがそれでも、会心の一撃を放った私の肛門はそう簡単には改心してくれなかった。
――ブチッ!プゥ~~。
意思とは裏腹に、二発目が放たれてしまう。緩んだ穴がまるで呼吸するみたいに。
息をするように犯行を重ねる非道の重罪犯から、さらなる追撃がもたらせられる。
初撃に比べてガスの残量が少なかったためか、威力はやや物足りないものだった。
だけど勢いが弱まった代わりに。彼の唾液によって湿らされた私の肛門から出た『おなら』は水気を含んだ下品な音となり、いじらしくも長い余韻を残すのだった。
豪快な一発目よりもある意味で恥ずかしい二発目に、穴があったら入りたい衝動に襲われる。だけど、そこに穴はなく。穴というならば、ぽっかりと口を開けたままの私のアナルがあるだけだった。
思わず泣き出してしまいそうな羞恥に耐え、溢れ出しそうになる涙を必死で堪え、脱いだ下着とショーパン(そこにも私の前科が刻まれている)を手元に引き寄せて、それを履いて敗走しようと試みる。だが彼は、私の逃走を許してはくれなかった。
ようやく嗚咽混じりの咳が止んだ彼は、私の腰をがっしりと掴んだ。
突然の拘束に私は戸惑う。私にこれ以上、どんな屈辱を与えるというのだろうか。
「武士の情け」というものを彼は心得ていないらしい。あくまでどこまでも徹底的にトドメを刺すつもりなのだろう。
私の腰を掴んで再び「四つん這い」にさせた後、彼の手はやがて臀部へと移動し、受刑者を痛めつけるみたいに激しく揉んだ。だけどその刑罰は義務的執行によるものではなく、そこには明確な意思があるのだった。
彼は私のお尻をただ乱暴に揉むのではなく、尻肉がひっくり返るように押し広げ、割れ目を剥き出しにする。
弛緩し切った穴を視姦されることで、未知の性感を刺激されつつ。
そこで彼は、私の静観を突き崩すように…。
「結衣の『おなら』食べちゃった」
悪戯を茶目っ気まじりに告白する子供みたく彼は言う。だが、その言動はまさしく常軌を逸していた。
――そんな言葉、私は知らない…!!
今までの人生においても、この先の人生においても、恐らく聞くことのない言葉。(経験を重ねればそれほど不思議なことではないのか?いや、そんなはずはない)
まさか「おならを食べる」なんて行為が、そんな比喩が一般的であるはずがない。
私が世間知らずなのかもしれないが。それでもそんな常識が存在し得ないことは、これまで雑誌やテレビなんかで見聞きした情報からも明らかだ。
だが彼は言った。「おならを食べちゃった」と。あくまで不可抗力でありつつも、さも自らも望んでそれを咀嚼したのだというように。
予期せぬ発言により硬直状態の私に、彼は次なる一手を与えてくる。
――ヌポッ…!!
憎むべき罪人である私の肛門に、彼はあろうことか指を差し入れてきたのだった。
「ひっ!!」
思わず、ヘンな声が出てしまう。舌とは比べものにならない異物感。
「い、痛いです…!!」
痛みを忌避しながらも、だが私の懸念はむしろ別のところにあるのだった。
彼があれだけ舐め続けたということは、穴の周囲は汚れていなかったのだろう。
今日『大便』をしていないことに私は安堵する。だけど穴の中までは分からない。
一日出していないということは『宿便』が溜め込まれている可能性だってあり。
彼にほじられることで『うんち』が掻き出されてしまうかもしれないのだ。
腸内を指で掻き回される。そこに快感はなく、ただ不快感のみが私を支配する。
私はどうしていいかも分からずに、ただ彼の意思と指に身を委ねるしかなかった。
すっかり敏感になったお尻の穴。不快感の中にある微かな快感の糸を手繰り寄せ、それを享受することでしか私は私という存在を自覚することが出来なくなっていた。
存分に「違う穴」を愛撫し、ほぐしたところで彼は言う。
「もう、挿入れていい?」
私は戸惑いを隠せぬまま、未だ非現実の中を彷徨いながらもコクリと頷く。
「電気消してください」
今更ながら消え入りそうな声で、私はかろうじて乙女としての矜持を保つ。
それがすでに失われたものであったとしても、やっぱり建前は大事なのだ。
――続く――