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この後の展開が気になる方の記事 (31)

おかず味噌 2022/04/30 00:11

能力者たちの饗宴<超回復能力>「禍福は糾える縄の如し」(無料プラン更新済)

 当時、私が「高校生」だった頃。

 朝登校すると、必ずと言っていいほど机に突っ伏して寝ている男子生徒がいた。

――朝から、何をそんなに眠たいのだろう?

 昨晩、夜更かししたのだろうか。あるいは早寝だったとしても「朝がツラい」というのは、それもまた「若さ」の証明ともいえるのだろうが。

 同じく十代である私としては。「疲労」とはおよそ無縁の生活を送っていた。

 どんな筋肉痛だろうと即日で「回復」し、いかなる体調不良も翌日には「快復」するのだった。


 だが、そんなことは今どうだっていい。問題は、彼が頬ずりしている「その机」。

――きちんと「除菌シート」か何かで拭いたのだろうか?

 仮にも自分の机とはいえ、前年度までは顔も知れぬ「他人」が使っていたものなのだ。

 さらに。生徒の中には、机上に騎乗する不届きな輩もいる。

 行儀の悪い連中のことだ。恐らく「地べた」にだって平気で座るに違いない。

 そんな机に寝そべるというのは、床に寝転がるのと大差ないのである。


 学校生活において、私が「気になること」はまだまだある。

 女子という生物は何かと接触を求めたがる。その手はちゃんと「洗った」のだろうか。まさか「お手洗い」に行ってそのまま、ということは無いだろうが。しきりに髪を触り、休み時間にお菓子を食べる手は、ひどく汚いものに思えてならなかった。

 そして。それが男子ともなれば、「ナニ」を触った手なのか想像するのさえ憚られる。

「気にし過ぎだよ」と言われるかもしれないが。私にとっては、そんな日々のあれこれが我慢ならなかった。


 私は「潔癖症」だった。

 いやむしろ私は「正常」であり、「異常」なのは「不浄」な奴らの方かもしれない。

 仮に「世界的な疫病」でも流行したなら、人類ももう少し「衛生」に気を配ってくれることだろう。(そんな日常が訪れるとは到底思えないが)

 だがあくまで「不潔」が蔓延る現代を生き抜く術として。私が身に着けた手段としては「アルコールスプレー」を常時携帯する他なかった。

「清浄」な私にとって、不埒な男女交際などは以ての外で。二十代半ばを過ぎた今現在においても、過剰な「清潔」を保つあまり「純潔」を守り抜いているのだった。

 それについては何ら恥ずべきことではない。節操もなく「不純異性交遊」に明け暮れる若者の方が、やはり「異常」に違いないのだ。


 そんな私に「転機」が訪れたのは、忘れもしない高三の体育の授業中のことだった。

 だがここで語るのは、声を大にして広めたくなるような「成功体験」では決してない。あくまで唾棄すべき「失敗談」なのである。


 授業前、私は「焦燥」に駆られていた。

 前日、確かに鞄に入れたはずの「体操服」が見当たらなかったのである。

 当時から交友関係は広く、他クラスの友人達もそれなりにいたが。「人から借りる」という選択肢はハナからなかった。

 次の授業は「六時間目」。仮に体操服を持っていても、とっくに「使用済」だろうし。たとえ「未使用」だったとして、体育がある日でもないのに教室に置きっ放しの生徒の「衛生観念」などたかが知れている。

(それに。私には衣類を人から借りられない「もう一つの理由」があった)

 結局、体操服を恩借できなかった私は「仮病」を使い、体育の授業を「見学」することにしたのだった。


 授業開始から二十分が経過した頃、私は激しい「尿意」に苛まれていた。

 幼少時から「トイレが近く」、小学生の頃は幾度となく「失敗」を繰り返してきた私。

 だが成長につれて、美醜の差が明白となり。中でも特に恵まれた容姿を持つこの私が、まさか高校生にもなって「おもらし」するなどとは到底考えられなかった。

 肌寒い風が吹き抜ける校庭。他の生徒が「体育座り」で膝を擦り合わせる中、私だけが地面からお尻を浮かせたまま耐えることを余儀なくされた。

 さらに「不幸」なことに。とてもじゃないが授業終了までもたないことを悟った私は、「中座」を申し出ようとしたものの。「中腰」により痺れた足腰では、もはや立ち上がることさえままならなかった。

 かくなる上は「最終手段」として。羞恥を捨てて下着越しに尿道口を押さえることで、かろうじて衝動に抗う。だが、そんな私の抵抗も虚しく――。

――ムジュ…、ジュビビビビ~!!!!!

 ふとした拍子に漏れ出した少量の「尿」はみるみる内に奔流となり、溢れ出した水流はショーツを突き破り、グラウンドにサークルを描くが如く足下の土壌を黒く染めてゆく。


 私の「失禁」は、たっぷり「一分間」ほど(体感としてはそれ以上)続いた。

 本来、便器内で済ますべき「放尿」を着衣状態のまま「粗相」という形で終えた私は。同窓から同情の視線で見送られ、逃げるように保健室へと敗走するのだった。


 濡れた制服のまま保健室をドアを開くと。見知った養護教諭と話している、見慣れない「黒スーツ姿の男性」がいた。

 彼は「事情」を抱えた生徒を一瞥すると、あろうことか私に話し掛けて来たのだった。

「――さん、だね?」

 ふいに呼ばれた自分の名に。警戒心を最大限にしながらも、私は頷く。

「ちょうど良かった!わざわざ探しに行く手間が省けたよ」

 今まさに私の高校生活が危機に瀕しているにも拘らず、嬉々とした表情を浮かべる彼。

「あら、タイヘン!!」

 そこで、年配の保険医が会話に割って入る。

「その…、先に『着替え』をさせてあげても構いませんか?」

 申し訳なさそうに断りを入れる彼女に対して。

「あ、すみません!!つい…」

 彼もまた配慮不足を詫び、気まずそうに視線を逸らす。

 瞬間的に羞恥心を取り戻し、初対面の男性に「失禁姿」を視姦されたことに赤面した。


 ベッドルームに張られたカーテン越しに「学校貸出の下着」へと穿き替えた私。

「早速だが、本題に入らせてもらうよ」

 私を向かいのイスに座らせ、彼は唐突に語り始める。

「君は、『代謝能力』が人より活発だと感じたことはないかい?」

 あまりにも漠然とした質問が、逆に要領を得ないながらも。しばらく考え込んだのち、私は小さく首肯する。

「はい…。『多汗症』っていうらしくて…」

 さも病気であるかのような名称を用いているが、要は「汗っかき」なのである。そしてそれこそが、体操服を友人から借りられずに見学した「もう一つの理由」なのだった。

 だが、こと今日に限っていえば。そうした事情もまた「僥倖」といえる。

 もし仮に「借り物」を着た状態のまま「おもらし」をしていたら――。

 私の「尿」の「悪臭」にまみれた体操服を。洗濯したとして返却するわけにはいかず、弁償することになっていただろう。

 そう考えると。「最小限の被害」で済んだことは、やはり「不幸中の幸い」といえた。


「なるほど。やはり…」

 私から得られた供述に、彼は深く納得したらしかった。「我が意を得たり」とばかりにたっぷりと間を置いたのち、ゆっくりと話を続ける。

「君が今日、その…。『失禁』してしまったのも、全ては『体質』によるものだ」

 私の「しくじり」についてやや言いづらそうにしながらも、あくまで淡々と述べる彼。女子高生の「おもらし」に興奮する「特殊な性癖」でもあるのだろうか?

(私としてはなるべく早く、忘却の彼方へと追いやってしまいたい失態なのだが…)

「我々の仲間になれば、『能力』をコントロールする術を身に着けることだって出来る」

 相変わらず彼の話は今一つ要領を得ないながらも。幾度となく繰り返される「大丈夫」という言葉に、なぜか無性の心強さを覚えるのだった。


 その後。私は彼から誘われるがままに学業の傍ら放課後に「研修プログラム」に通い、高校卒業と同時に晴れて「機関の一員」となった。

 機関直属の「研究施設」において、「精密検査」を繰り返す内に分かったことがある。それは――。

 私の「代謝」はそれ自体が能力なのではなく、いわば能力の「代償」なのだと。

「十万人に一人」とも「百万人に一人」ともいわれる(全容は機関でも把握しかねているらしい)「能力者」。

 二人として「同様の異能」を発現する者は存在しない、私だけに授けられた唯一無二のオリジナルの才能。

 休息を取らずとも「疲労」を感じず、「致命傷」さえも急速に塞がる「超回復能力」。

 さらに、強靭な「フィジカル」をもって「筋力トレーニング」に励むことで。今や私は「留学帰りの筋肉芸人」すらも羨むほどの「パワー」を手にしていた。

 あくまで生得の能力により獲得した「体力」と、弛まぬ努力により会得した「体術」。それら両方を複合させることで、これまで数多くの「敵対勢力」を葬り去ってきた私。

 もはや向かうところ敵なし、と半ば「天狗」になりかけていた私に。次なる「任務」が与えられたのだった。



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おかず味噌 2022/02/28 23:52

能力者たちの饗宴<時間停止能力>「派遣社員のレイコさん」(有料プラン更新済)

 まるで「汚物」を見るかのような目だった。

 女子社員の私に向ける視線である。私に対する二人の態度はいつだってあからさまで、だがそんな彼女たちも今や――。

「まだまだ出る!『おしっこ』止まらないよ~!!」

「『下痢便うんこ』出りゅ~!!たっぷり出ちゃう!!」

 オフィス内に響きわたる嬌声と共に、文字通り「汚物」をまき散らし。その後間もなく「寿退社」ならぬ「おもらし退社」したのだった。


 前代未聞の「異臭事件」から、一週間後。

「ちょっと皆、集まってくれ!」

 仕事中、ふいに課長から号令が掛けられる。

 全員が業務の手を止めて集合させられる中。私もスマホでエロ動画を漁る指を止めて、渋々ながらも命令に従うのだった。


 列の最後尾に加わる。どうせ毒にも薬にもならない𠮟咤激励を聞かされるのだろうと、うんざりしたままの顔を上げると――。

 課長の隣に、見慣れない「一人の女性」が立っていた。


 長い黒髪を「ポニーテール」にして、前髪はきちんと左右に撫で付けられている。

「おでこ」を出すことで、よりはっきりと分かる均整の取れた「卵型」の顔。「陶製」を思わせるかのような白くて透き通った肌。「吊り上がった目尻」は近寄り難そうな印象を与えるものの、それは彼女の「性格のキツさ」を表わすものではなく、彼女が「美人」であることの証明に他ならないのだった。

 淡い色のブラウスの上から品の良いジャケットを羽織り、下はタイトスカートではなく「パンツスタイル」。下品になり過ぎないギリギリの高さの「ハイヒール」が、彼女の「スラリと伸びた長い脚」をより強調していた。


「こちら『派遣社員』の『麗子』さん」

 課長から紹介された彼女は、小さくお辞儀をする。

「『高嶺麗子』と申します。何かと至らぬ部分もございますが、どうかご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します」

 丁寧な口調で言い終えると。再び彼女は「マナー講師」の「お手本」で見るかのような計算され尽くした角度で、深々と頭を下げるのだった。


 課内全員の「盛大な拍手」をもって迎えられる彼女。

 思いがけぬ「麗人」の登場に、男性陣が内心で浮足立っているのが感じられた。

 私の初出勤日にそのような場が設けられることはなかったが、それについて特に不満に思うところはなかった。

 それよりも。私としては早速、次なる「獲物」に虎視眈々と狙いを定めるのだった。


 昼休みになり。彼女の色香に「誘引」されたが如く、男性社員が「蝿」の如く群がる。

 その様子を遠巻きに眺めて。私はといえば――、あえて「見」に回ることに務めた。

「能力を行使」するのはいつでも出来る。あくまで「息子」がその気になればの話だが。彼女の「外見」を見る限り、それについて何ら問題は無さそうだった。

 肝心なのは「中身」だ。それは何も、付き合うか否かの「判断材料」としてではなく。彼女の「高慢さ」を知ることで。いざ行為に及ぶ際の「征服感」をより高めようとする、いわば「前戯」のようなものであった。


 取り巻きの男性社員たちは、次々と彼女を「質問攻め」にしている。

「どこ出身?」
「大学は?」

「経歴」に関することから。

「趣味は?」
「彼氏はいるの?」

「プライベート」に至ることまで。

 不躾な質問に対し、彼女は謙遜したり遠慮したりしながらも終始笑顔で答えている。

 彼女の「演技」は完璧であり。誰彼構わず「愛想」を振り撒くその表情を見る限り、「八方美人」であることに違いなかった。


 だがまだ「初日」である。今後果たして彼女がどのような「本性」を現していくのかを愉しみにして。今日のところはとりあえず「彼女に似た女優」を「オカズ」にすることで矛を収めようと、私は決めるのだった。

(今の私ならば、いくらでも女を「とっかえひっかえ」出来るにも関わらず。なぜ未だに幻想の映像に拘っているのかといえば、それについては止むに止まれぬ事情があるのだ)


 私は「情報収集」を続ける。彼女の仕草におけるいかなる「瑕疵」をも見逃すまいと、あるいは会話の内容から彼女の「価値」を見定めようと聞き耳を立てる。

 そこで、彼女はふいに席から立ち上がるのだった。

 執拗な「囲み取材」から逃れ、なぜかこちらに向かってくる彼女。

 私の「熱烈な視線」に、早くも気づかれたかと怪訝に思っていると――。

「――さん。ちょっと、よろしいですか?」

 いつの間にか目の前にいた彼女は、あろうことか私に「話し掛けて」きたのだった。


 すぐさま「マスゴミ共」から不満の声が上げられる。

「おっ…!まさかの展開!?」

 あり得ぬ状況を茶化す者や。

「麗子さん、優しい~」

 思わぬ行動を称賛する者など。

 そのどれもが私に対する「低評価」と共に、彼女に「高評価」を与えるものだった。


「は、い…」

 絞り出すようにして辛うじて発せられた声が、自分でも上ずっているのが分かった。

 ごく久しぶりの「女性との会話」において、私は無様にも緊張してしまったのである。

「挨拶が、まだだったので…」

 どうやら最低限の礼儀はわきまえているらしい。両親の教育に感心させられながらも、たかがそれだけのことで篭絡させられる私ではなかった。


「あの…。――さんも『派遣社員』ですよね?」

 続く言葉で、徐々に彼女の「本性」が窺われ始める。

――ほら、来た…!!

 想定通りの展開に、私は内心で密かにほくそ笑む。

「いい歳して」と、どうせ私のことを嘲笑うつもりなのだろう。

――お前だって「派遣」だろうが!!

 口にこそ出さないものの「反論の刃」を研ぎ澄ます。

 彼女に「制裁」を与えるべくは、あくまで私の股間の「不潔の刃」なのだ。


「それが、何…」

 返す刀で私は問い返す。だが、その先を言い終える前に――。

「嬉しいです!!慣れない職場で私、心細かったので…」

 彼女は不安な心境を吐露する。

「こんなにも頼りがいのありそうな『先輩』が居て下さるなんて!」

 彼女は嬉しそうに破顔して見せる。

――頼りがい?この私が?

 これまで仕事ぶりを見るまでもなく、ハナから「無能」というレッテルを貼られてきた私に対する思わぬ「好評」に反応に困る。


 だが口先でなら何とでも言える。そこで私は「最終試験」とばかりに右手を差し出す。(ただ「生身の彼女に触れたかった」というのもあるが…)

「よ、よろしく…」

 さりげなさを装って発した私の言葉は、あまりにもぎこちないものだった。

 だが己の葛藤には取り合わず、私はあくまで彼女の「表情筋」を注視する。

 仮にも頬がピクリとでも動こうものならば、それによって彼女の「メッキ」はパキリと剥がれることになるだろう。

――さて、どうする!?

「そんなつもりで言ったんじゃない」と。私の握手を悪手とばかりに気まずそうな表情を浮かべて無視するか、あるいは――。


 彼女は逡巡することもなく、差し出した右手を握ってきた。彼女の手に触れたことで、自分がぐっしょりと「手汗」をかいていたことに気づかされる。

 それでも、彼女は嫌な顔一つせず。「某アイドルグループ」の「イベント」のように、重ねられたもう一方の手が私の手を優しく包み込むのだった。


 彼女の掌は温かかった。

――「排卵日」が近いのだろうか?

 彼女も手汗をかいていたが、少しも不快には感じなかった。むしろ「彼女の水分」と「私の水分」が混ざり合うことで。「彼女の体温」と「私の体温」が溶け合うかのような感覚に、得も言われぬ高揚を感じるのだった。


「色々と教えてくださいね?」

「意味深な台詞」を言い残し。彼女は名残惜しそうに掌同士による「まぐわい」を解き、束の間の別れを告げるが如く私の元から歩き去る。

「ランウェイ」のモデルさながら、腰を大きく左右に揺らして歩く彼女。細身の体型にはやや不似合いな「安産型」の「パン尻」を眺めながら――。


 実に二十数年ぶりに、私は「恋」に落ちていた。

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おかず味噌 2021/10/31 19:30

クソクエ 地下闘技場編「盤外戦 ~聖騎士の汚パンツ装備~」(完成版)

 第一試合から、波瀾の幕開けとなった「地下闘技大会」。

 次々と猛者共が現れては敗れ、ついにヒルダの出番が訪れる。


――どんどん、参りましょう!スライ~ム・コ~ナ~!!

 司会の声に促され、若干緊張気味の彼女が登場する。

――今大会初出場。女戦士・ヒル~ダ~!!

 彼が呼ぶのとは異なるイントネーションながらも。高らかに告げられた「仲間の名」に彼自身の緊張も自ずと高まる。

 期待と願いを込めて手に汗握る「勇者」。彼がふと横を窺うと、隣にいる「女僧侶」もまた拳を握り締めているのだった。


 仲間の晴れ舞台を見守るアルテナの心境は、今まさに複雑なものとなっていた。

 あくまで「副賞」のためヒルダに「勝って欲しい」という気持ちと、彼女のみに手柄を独占させるわけにもいかず、あわよくば「負けて欲しい」という気持ちが葛藤していた。

 それでもやはり彼の手前もあって。とりあえずはアルテナとしても「応援」という形を取ることにしたのだった。


――ドラゴ~ン・コ~ナ~!!

 ヒルダに続いて登場したのは、銀の甲冑を身に着けた長身の美青年。

――王国直属兵士・ナル~シ~ス~!!

 眉目秀麗な顔立ちをした彼は。長い前髪を風に揺らして、涼し気な表情で客席に向けて手を振って見せる。

「キャ~!ナルシス様~!!」

 クールな彼に対して、熱い声援がそれに応える。いわゆる彼の「ファン」なのだろう、むさ苦しい観衆の一角だけが可憐に華やいでいた。


 予期せぬ「イケメン」の登場に、彼は妙な胸騒ぎを覚える。再び隣のアルテナを窺い、彼女もまた浮足立っていると思いきや。

――「白馬の王子様」といったところでしょうか?

(彼の立場はむしろ「王に仕える身」であるのだが…)

――「夜の営み」も、平々凡々でつまらないものなのでしょう。

 どこか達観した様子のアルテナに。勇者は安堵しつつも、同時に不安を抱くのだった。


――レディ…。

 早速、司会によって「開戦」が告げられようとしたところで。

「暫し待たれよ!」

 厳かな口調でナルシスは右手を突き出し、その先を制する。これも何かの戦略なのかとヒルダが訝しむ中。

「いかに『戦闘』とはいえ、レディ相手に『先手』を取るわけには参りません」

 この期に及んで、あくまで「紳士」たらんとする彼。

「『レディ』って、もしかしてアタシのことかい…?」

 あからさま「お世辞」に、頬を紅潮させる「女戦士」。慣れぬ扱いに戸惑いながらも、彼の「騎士道」にすっかり当てられてしまっている。

「『レディ・ファースト』です。どうぞ、お先に!」

 回りくどい言い方をしているものの、要は「先に攻撃して来い!」という意味らしい。つまりは、ヒルダを「ナメている」ということだ。


「あのナルシスとやら、もの凄く鼻につきますわね?」

「うん。出来ることなら、今すぐ僕が出て行って『ぶん殴りたい』くらいです…」

「聖職者」らしからぬ物言いのアルテナに対し、彼もまた同調する。


 沈黙の両者。会場の静寂を打ち破るように、客席から「冷やかし」が飛ぶ。

「そんなオーク女は放っておいて、私と『一戦交えて』くださいませ~!!」

 ファンの女性達は、どうやら彼と「一線越える」ことを望んでいるらしい。真剣勝負に水を差す愚言に、だがヒルダが引っ掛かったのは「別の部分」であるらしかった。

「へぇ~。誰が『オーク女』だって…?」

 瞬く間に女戦士の頬から「含羞」の色が消え去り、瞳に鋭い「眼光」が灯る。

「ヒルダさん、完全にキレちゃいましたね…」

「そのようですね。珍しく、彼女と気が合いそうです」

 ここにきて、パーティの「利害」は完全に一致する。
「あのイケ好かない『王子様気取り』に、目に物見せてやれ!」と。


――では、改めまして。レディ~・ファイト!!!

 ようやく宣戦は為されたものの、彼は宣誓通りその場から微動だにしない。それ自体は確かに見上げた志であったが、だがしかし…。

――ドゴッ!!ドッシャ~ン!!!

 即座に間合いを詰めたヒルダは、分厚い甲冑などお構いなしに「一撃」を放つ。彼女の「打撃」をモロに喰らったナルシスは遥か後方まで吹っ飛び、そのまま動かなくなった。

 再び、場内を静寂が満たす。そして…。


――しょ、勝者・ヒルダ~!!!

 やや遅ればせながら司会が結果を宣告する。そのあまりに「あっけない結末」に女達が一時の夢から醒め、冷めた表情を浮かべる中。

――ウォォォ~!!よくやったぞ、オーク姉ちゃん!!

 男共の低く地鳴りするような声が、ヒルダの「勝利」を讃える。

――ざまあみやがれ!!

 吐き捨てるような台詞は一行のみならず、およそ会場全体の「総意」なのであった。


 こうして。ヒルダの「初撃」にて「勝敗」は決したのだった。

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おかず味噌 2021/08/31 23:53

能力者たちの饗宴<時間停止能力>「後輩女子に部活指導」

 街ですれ違ったギャルに「教育的指導」をしてやった、翌日。 

 実に二十数年ぶりに、私は母校への凱旋を果たしていた。


 よくテレビ番組のドキュメンタリーなんかで。著名なスポーツ選手がかつての学び舎を訪れ、己の輝かしい実績を鼻にかけて「エラそうに」後輩を指導するという企画がある。

 彼らのその華々しい功績は(少なからず当人の努力によるものもあるだろうが)、やはり才能に起因する部分が大きく。いかに凡人が教えを乞うたところで、そこに再現性などあるべくもないのにも関わらず。純真無垢な後輩たちは、たった数時間の練習であたかも自身の技術が飛躍的に向上したかのように錯覚し、先輩の来訪を涎を垂らして有難がる。

 生徒のみならず、教師や父兄も一緒になって卒業生の帰校を喜び。手作りの横断幕などを用いて、有名人の来校を歓迎するのである。

 それに引き換え「私は」といえば――。
 誰にも歓迎されることなく、人知れず一人きりの凱旋なのだった。


 校庭の周囲にはフェンスが張り巡らされている。私の記憶には存在しなかった風景だ。近年「不審者対策」として、生徒たちを守るために設置されたものだろう。

 私の能力を行使すればこんな防壁など、誰に不審がられることもなく乗り越えることは可能なのであったが。だが私は「不審者」でもなければ「変質者」でもない。あくまで「傍観者」として、練習に励む後輩たちの姿を見守っていた。

 私の学生時代。やはり同じように部活動を見学している、数人の「おっさん」がいた。プロならばまだしも、彼らの眼前にいるのは完全なアマであり。さして巧くもない練習をどうして飽きもせず眺めていられるのか、と当時の私は不思議でならなかった。

 だが、自身も「中年」となった今ならば理解できる。恐らく彼らはそこに憧憬を抱いていたのだろう。

 長年の運動不足により、はたまた肉体的劣化によって「激しい運動」を出来なくなった彼らにとって。地を駆け回り、宙を跳ね回る十代の姿は眩しく映るのだろう。あるいは、己の果たせなかった「青春の面影」を重ねるように――。

 グラウンド行われる様々な運動の内、今特に私が目を留めていたのは「女子陸上部」の活動であった。


 一定のペースを保ちつつ、トラックを周回する集団。小気味の良い掛け声に合わせて、彼女たちの「ふともも」が元気に揺さぶられる。中でも「発育の良い者」はブラジャーのサイズが合っていないのか、重力により暴れ回る「ふくらみ」を盛大に上下させている。

「体操服」姿の彼女たち。下が「ブルマ」でなく「ハーフパンツ」なのが実に嘆かわしいところではあったが(「古き良き時代」とはまさにこういう事だろう)、それはそれで「制服」とはまた違った趣があるのだった。

 昨今はゼッケンというものを大会以外では付けないらしい。(それもやはり不審者対策なのだろう)大人に庇護された、匿名の彼女たち。未成熟なその肉体は「色気」などとは程遠く、だからこそ十代特有の「色香」をムンムンと放っていた。

――もっと近くで、彼女たちの雄姿を拝みたい…!!

「前のめり」な私の願望はけれど、外界と内界を隔てる「障壁」により阻まれる。唯一、「前かがみ」になることなく金網に押し付けられた私の「悪癖」が穴から顔を覗かせる。

「あの人、めっちゃこっち見てない?」
「なんか、気持ち悪いんだけど」
「先生、呼んで来ようかな…」

 ギャルと比べれば控えめな忌避感情も、真っ当な危機管理も、だがそれには及ばない。「洗練」された「曲線」を眺めることで、今まさに私の「先端」が「研鑽」されてゆく。

 その瞬間、彼女たちの「青春時計」は針を止めるのだった――。

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おかず味噌 2021/07/30 16:00

クソクエ 地下闘技場編「前哨戦 ~武道家娘の道着脱糞~」

 煌々としたライトが「六角形」を照らし出す。

――レディ~ス・エン・ジェントルメ~ン!!!

 紳士淑女を表わす言葉はけれど、戦場に集う猛者共には似つかわしくない。

 ここは、ライズィン町の地下闘技場。

 生物の根源的な本能である暴力を糧とし。富と名声、それら人間の醜い本性を浮き彫りにさせる娯楽はやはり「平和の使者」には相応しくない。

 にも関わらず。魔王討伐を旅の目的とする「勇者一行」が、なぜこのような魔窟に迷い込んでしまったのかといえば――。


 時を遡ること、数日前。

「フンッ!!ンウゥ~~!!!」

 ヒルダが雄叫びにも似た気張り声を上げる。獣じみた咆哮に伴って、彼女の肉体に力が込められる。

 上腕筋、大腿筋、腹筋や広背筋に至るまで。まさに全霊をもって目前の試練に挑むが如く、全身の筋肉に指令が送られる。(括約筋にも余すところなく)

「やっぱり、ビクともしないね…」

 珍しく、諦めを口にするヒルダ。何もそれは彼女の個人的な事情によるものではなく。あくまでパーティにおける共通の実情としてであった。

 石扉から手を離し、ヒルダは暫し呼吸を整える。思いがけず膂力を発揮したことと、ただでさえ蒸し暑い気候も相まって、彼女は激しく発汗している。

 湿気で貼り付く衣服に、さらにヒルダの肌から滲み出した汗が混じり合うことで。彼女の下穿きの中は現在どうしようもなく「ムレムレ」になっている。

――早く、風呂に入りてぇ!!

 沐浴を好むわけではなく、普段はむしろ面倒に思うヒルダとしてもさすがに。「穢れた体を清めたい」と願うも、だが町から遠く離れた遺跡においてはその願望もすぐには叶えられそうになかった。

 ヒルダは全力を込めたものの。別にそれは形振り構わず、力を暴走させたのではない。きちんと「閉める」べきところは「引き締めて」いた。

 それでも。わずかに下穿きの中を濡らす感触にヒルダははっとさせられる。やや冷たく生温かいような、汗とは明らかに違う液体。またしても彼女は。

――今ので、ちょっと「チビっちまった」よ…。

 勢い余ることで、意図せず「尿意」を解放してしまったのである。股布に擦れるそこに微かな火照りを覚える。

「紺色の布」の外側からは窺い知れないだろうが。もはや内側に「シミ」が描かれているであろうことは紛れもない。そんな己の失態に対し、彼女は。

――こりゃ、今夜の「成果」がますます楽しみだね~!!

 終日穿き続けた「汚れ物」にまた一つ「汚物の跡」が刻み付けられたことに。だがヒルダは落胆することはなく、楽観的にそれを愉しむのであった。

「ヒルダさんでもダメなら、もう…」

 最後の頼みの綱が断たれたことに、失望を隠せない様子の勇者。重い溜息をつき、項垂れる彼の横顔を見て、ヒルダは。

――すまないね、勇者サマ。アタシが不甲斐ないばっかりに…。

 心中で詫びる。あるいは謝罪の言葉を口に出しても良さそうなものであったが(彼は「ヒルダさんのせいじゃないですよ」と恐縮するに決まっている)、彼女としてはそこに別の意味での「至らなさ」も含まれているのであった。

「ワタクシが代わりましょう」

 後方から発せられた声の主はアルテナだった。「力仕事」とはおよそ無縁である彼女。

「ケッ!アタシで無理なのに、アンタに出来るとは到底思えないけどね!」

 吐き捨てるように言うヒルダ。皮肉の籠った助言を聞き入れることなく。

「ただ闇雲に『攻める』だけでは、開くものも拓きませんよ?」

――こうする、のです!

 アルテナは門扉に手を添える。

――あら、何て「硬く」て「立派」な…。

 なぜかその口調には、妙ないやらしさを覚える。

――まるで「石」みたいに「ガチガチ」ですわ…。

 当たり前だ。まさしく石なのだから。

――ここは、こんな風になっているのですね…。

「くぼみ」を指でなぞる。淫靡な手つきに彼は顔を紅潮させ、下を俯いている。

「オイ!ふざけるのも、いい加減に――」

 ついに耐え兼ねて、ヒルダが口を挟もうとしたところで。

「解りました!」

「了承」ではなく「解決」を意味する言葉を、アルテナは発するのだった。


 その後のパーティの会話は、およそ以下のようなものであった。

「この『穴』に、『玉』のようなものを『嵌める』のです!」

「はい。『棒』ではなく『玉』の方です」

「そうすれば『割れ目』が魔力で満たされ、パックリと『口』を開けるはずです」

 いちいち引っ掛かるような物言いのアルテナに対し、ヒルダは黙り込んだままだった。

「なるほど!でも、その『玉』はどこにあるんですかね?」

 感心したように目を輝かせ、彼は「宝玉」の行方を問う。

「あら。勇者様はすでに『二つ』お持ちじゃありませんか」

 さも分かりきったことを訊ねられたかの如く、首を傾げて見せるアルテナ。

「僕が…?」

 予想もしなかった回答を受けて、彼もまた首を傾げる

「まあまあ。冗談はさておき…」

 掌を合わせ、ひと度アルテナは神妙な面持ちとなる。

「ど、どっちにしろ、一旦引き返すしか無さそうだね!」

 そこでなぜか慌てたように、ヒルダは話を纏めようとするのだった。


「これで、また『フリダシ』かよ…」

 徒労を宣う女戦士に対し、勇者は――。

「そんなことないよ!手掛かりが見つかっただけでも、大きな前進だよ!」

 あくまでも前向きに述べる。そんな彼の勇猛さに当てられることで、ヒルダは再び股間が「別の液体」で湿るのを感じた。

「とりあえず、ここにピッタリの『タマ』を探すところからですね!」

 彼はアルテナに微笑みかける。そこに邪気はなく、どこまでも仲間を信頼しているというように。

「まあ、あくまで可能性の一つという意味なのですが…」

 だがしかし。己の意見が採用されたにも関わらず、女僧侶はどこか浮かない顔だった。


 最寄りの町へと戻った一行は、早速聞き込みを開始する。

 その結果。ライズィン町で近日開催される「地下闘技大会」の優勝の副賞として、「二対の宝玉」が与えられることを突き止めたのであった。

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