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クソクエの記事 (11)

おかず味噌 2020/12/20 16:00

クソクエ 勇者編「伝説の黄昏」

(前話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/404020

(女戦士編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247

(女僧侶編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/357380


 小高い「丘」の向こうに「煙」が立ち上っている――。

 数月前に「一人」で下った坂道を、今は「数人」で越えようとしている。
 思えば「あの日」からもうそんなに経つなんて。「年月」というものは、それほどまでに足早に過ぎて去っていくのだと。けれど「呑気」な彼もさすがに、今ばかりはそう悠長に構えてもいられなかった。

 町を出た頃には、まだ「昼前」だったというのに――。すでに「陽」は傾き始めていて。一日の中で最も強いその「光」は「丘」を、「草原」を、「茜色」に染めている。
「天」にまで届くかのように伸びた「黒煙」。その「根本」の「場所」に、その「方角」に、彼は「心当たり」があった。「畑焼き」の「時季」でもないというのに。あるいはそうであったとしても、それならば「白煙」が上がっているべきであるというのに。
「空」に昇り、やがて「雲」へと連なるその「一筋」はけれど。「水蒸気」を主とした「白い煙」ではなく、「不吉さ」を思わせ「非常事態」を報せる「黒い煙」であった。

――間に合ってくれ…!!

 そう「願い」を込め、彼の足取りは急いてくる。「焦燥」に追い立てられながらも、けれど「即席パーティ」の歩みは「緩慢」なままで。彼と「彼以外」との「距離」は自然と開いていく。いくら「温厚」な彼もやや「苛立ち」を感じ始め、それならばいっそ自分だけでもと、「故郷」への早過ぎる「帰還」を目指すのであった――。


 彼がその「凶報」を知ったのは、「今朝」のことだった。

 すっかり「冒険者としての生活」に慣れた彼であったが、それでもかつての「習慣」は容易に抜けないものらしく。「農夫」に比べて「朝の遅い」冒険者たちの中で、彼は誰よりも「早起き」だった。
「ギルド」の「三階」に「間借り」している彼は「いつも通り」に目覚めると、まずは「冷水」で顔を洗って「支度」を済ませ、それから「相棒」と共に「森」へと向かった。
 そこで「数時間」たっぷりと「汗」を流した後。ようやく「町」が活気づき出した頃、「いつも通り」彼は「ギルド」の「ロビー」を目指したのだった。

「おはようございます、勇者様」

「受付」の「エルフ」に挨拶される。初めて彼が「ギルド」を訪れた時、彼のことを散々「笑った」のが「彼女」である。だがその彼女も今では、彼のその目覚ましいばかりの「成長」と、何よりも彼自身の「勤勉さ」と直向きに「努力」し続ける「その姿」を見て――、すっかり彼を「認めて」くれるようになった。あるいは彼のことを「勇者」と、「最初」にそう呼ぶようになったのは紛れもない「彼女」であった。
「名」は知らない。他の「受付嬢」と同じく「胸」には「プレート」が提げられているみたいだが、いつも受付で「テーブル」ばかりを見つめている彼にとっては知る由もない「情報」だった。
 彼が彼女の前で、そうして「俯いて」しまうのは――、彼の生来の「自信の無さ」が故ではなかった。というよりむしろ、「幼馴染」である「ナナリー」の顔さえ「直視」することが出来なかった頃とは違い――、今ではほとんど誰に対しても「面と向かって」「堂々と」会話をすることが出来るようになっていた。それだけでも彼にとっては、かなりの「成長」である。

 だがそんな彼も「彼女の前」だけでは――、どうしてだか「あの頃」の彼に「戻って」しまうのだった。遠目から見ても「美人」とはっきり分かる「女性」。差し出される「腕」のその「肌の色」は「白く」、まるで「透き通っている」かのように「繊細」で。「村一番の美少女」であるナナリーもそれはそれで「可愛らしかった」が、「エルフ」である彼女のその「洗練」された「美しさ」にはやはり遠く及ばず。「造り物めいた」彼女の「近く」に寄るだけで、あるいは「言葉」なんて交わそうものならばもはやたちまち。彼の「動悸」は激しくなり、「呼吸」は浅くなり。今ではあらゆる「魔物」に「対峙」したとしても決して「動じる」ことのない彼であるが――、だが彼女を「目の前」にすると「震え」が止まらなくなるのであった。
 あるいはそれを「恋」と呼ぶのだと――。けれど「未熟」な彼はその「感情」を未だに知らないでいた。

「早朝」(といっても、もはや「昼前」近い)の「ギルド」は「冒険者」も「疎ら」で、「清潔」な「ロビー」は「新鮮な空気」に満たされており、それを思いきり「吸い込む」ことで、彼は「清浄」で「静謐」たる「心持ち」になれるのだった。
「受付」に向かう前にまず、彼は「日課」としている「掲示板」の「確認」のためそちらに立ち寄ることにした。
「掲示板」とは――、日々「発注」される「クエスト」が「一覧」になったものだ。
「内容」と「報酬」、「参加人数」などの「情報」が簡潔に記された「貼り紙」が所狭しと並べられ、「冒険者」たちはそれを見て自らの「レベル」に、あるいは「労働対価」に「見合った」ものを探し、「今後の予定」を立てるというわけである。

 その中には――、
「屋敷の『掃除夫』募集!!」
「隣町まで『お遣い』を頼みたい!!」
 などといった「簡易」で「誰でも出来そう」なものから――、
「新魔法開発の『助手』を求む!!(『魔法使い』のみ)」
「『稽古相手』募集!!(依頼者と同じ『武闘家』が相応しい)」
 などの「適正要件」があるもの。あるいは――、
「素材収集のため『スライム型モンスター』を『三十匹』討伐!!」
「登城にあたって、道中の『護衛』を求む!!」
 といったまさに「冒険者ならでは」のものもある。そして――、
「『パーティメンバー』募集!!和気あいあいとした『仲間たち』です!!」
「『パーティメンバー』募集!!我、強き者を求む…」
 というような「冒険者自ら」による「依頼」も中にはある。

 同じく「冒険者」でありながら、「勇者」であるところの――、だが未だ「駆け出し」である彼もまた日々「無数」に「発注」されるそれらを眺めて。これまでは「初心者」に「相応しい」、「報酬」が「少額」である代わりに比較的「ラク」な――とはいっても、あくまで「戦闘能力」を「要求」されるものばかりなのだが――「クエスト」ばかりを「受注」してきたのであるが。
――そろそろ、もう少し「強敵」と「戦って」みたいな…。
 と、「腕試し」とばかりに「修行の成果」を「確かめる」が如く。次なる「依頼」は、出来ることならば「大型の魔物」などを相手にするものを、と求め出した頃であった。
――でも、そのためには…。
 ちょうど、まさしく彼が望んだような「大型モンスター討伐依頼」の「クエスト」が目に入る。けれど彼はそれを見て「渡りに船」とばかりにすぐに「歓喜」したのではなく、あくまで「冷静」になってからその「貼り紙」をよくよく読んでみた。そこには――。

「参加人数『三人』」

 と、はっきりそう書かれていた。もはや分かりきっていたことだがそれでも、やはり彼は「落胆」を隠し切れなかった。
 再び「別のクエスト」を見つける。だがそこにも――、
「募集人数『最低三人』」
 と、当たり前のようにそう記されている。「依頼者」の指定する「条件」は「絶対」である。たとえ彼がどれほど「強かろう」とも――、あるいは「勇者」であろうとも――、「人数要件」を満たさなければもはやそれまで。そもそも「契約成立」にすらならないのである。そして「クエスト」の「難易度」が上がれば上がるほど(「達成」の可否も鑑みて)「最低人数」を「条件」に付するという傾向はより「顕著」になってくるのだった。

――「パーティ」か…。

 彼は心の中でそう呟いて。改めて「メンバー募集」の「貼り紙」に目を向ける。
「『戦士』を求む!!(それなりに『経験』を積んでいる方のみ)」
「『回復役』募集!!(出来れば『女性』で…)」
 だがどれも、彼が「条件」に当てはまるものは見つからなかった。そしてその中には。

「アタシは『女戦士』。一緒に『ワクワク』するような『冒険』に出ようぜ!!っていうのはつまり、『強い敵』を『ぶっ倒そう』って意味で…。アタシの剣の腕があれば、いつか『魔王討伐』だって夢じゃないと思ってる!!だから!!熱き想いを持った『勇者』をアタシは求めている!!そして――」

 というように、「皺くちゃの紙」に「思いの丈」を「長文」で「書き殴った」だけのものもあった。他の「募集」が――、それぞれ「工夫」はあるものの、あくまで「条件」だけを「簡潔」に述べたものであるのに対して。それはあまりに「ごちゃ付いてる」というか、「熱意」だけは十分に伝わってくるものの。「用紙」の隅々に至るまで「びっしり」と「文字」で埋め尽くされている様は、やはり「読みづらい」ことこの上なかった。
 それでも――。彼はその「純粋さ」と「正直さ」の溢れた「文面」に、思わず顔を綻ばせるのだった。

――こんな人と「パーティ」を組めたら、楽しいだろうな~

 彼は「夢想」しつつも、けれど「自分なんか」が願い出たとして――、果たして、断られないだろうかという「不安」も同時に浮かんでくるのだった。
「文中」には「『勇者』を求む!!」とある。だがその「勇者」というのは「職業」や「役割」を表わすものではなく、あくまで「尊称」としてのものなのだろう。
 他に、こんな「貼り紙」もあった――。

「ワタクシは『女僧侶』でございます。未だ『修行中の身』故、何かと『ご不便』をお掛けすることと存じ上げますが。共に『旅』して頂ける方が居られれば幸いです」

 と、「言葉遣い」こそ「丁寧」であるがそれだけ。「数文」が書かれているのみで、「内容」としてはあまりに「スカスカ」。求める「職業」も「人数」も、「条件」すら何も記されてはおらず。比較的「真新しく」、「キレイ」である「羊皮紙」の「大半」は「空白」になっており。先程の「熱意」に溢れた「募集」を見た後では、尚更に「淡泊」に感じるというか、むしろ「やる気がない」という印象すら与えられるのだった。
 だが、それでも――。

――こんな「上品」な人と旅するのも悪くないかも…。

 やはり彼は「夢想」してみたが、そこでふと――。彼の「視界の端」に何やら「不吉」なものが「映った」ような気がした。

――今、何か「見慣れた文字」を目にしたような…。

「既視感」の「正体」は分からずも――、彼は「記憶の糸」を手繰るように、慌てて片端から「掲示板」に貼られている「クエスト」に目を通した。
 そこで。彼はようやくついに、「それ」を見つけたのだった。

「『ノドカ村』、『ゴブリン』の『軍勢』に『襲撃』されり!!『救援』を求む!!」

 後に「はじまりの村」と名を変える、けれど「現代」においてはまだその名で「呼称」される――。まさしく「勇者伝説」の「始まりの地点」であり、それは紛れもない彼自身の「故郷」でもある「村の名」だった。

「思考」が追いつくまで、それなりの時間が掛かった。そして「理解」に至るまでには、さらなる時間が必要だった。
 少なからぬ「驚き」と「戸惑い」によって見開かれた目で、彼はそこから必要最低限の「情報」を読み取ろうとした。

「募集人数」「募集内容」「適正職業」――。違う、そんなことじゃない!!
「報酬」――。そんなこと、どうだっていい!!

 彼が本当に「知りたいこと」とは、つまり――。
「一体『いつから』それが貼り出されているか?」だった。

 彼は「昨日」も「ギルド」に立ち寄り、この「掲示板」を見た。その時は確か、こんな「クエスト」は「発注」されていなかったはずだ。だけど分からない。
 それこそ日々「星の数」ほど量産される「依頼」の中で。彼がそれを見落としていたとしても、何ら不思議ではなかった。

――まだ「間に合う」のだろうか。それともまさか、もう「手遅れ」なんてことは…。

「真剣な眼差し」で「貼り紙」を見つめる彼を――。同じく「熱い視線」で傍から眺める者があった。

「勇者様。何か気になる『ご依頼』はありましたか?」

「この世」にはない、「神」のみが弾くことを許される「楽器」のような――、とても「繊細」で「美しい」響きのする「音色」だった。すかさず彼が「声の聴こえた方向」を振り返ると――、そこにはいつもの「エルフ」が立っていた。

「私で良ければ、『内容』について『ご説明』させて頂きますが――」

 彼女がそう言い掛けたところで――、彼は彼女の「腕」を「がっしり」と掴んだ。

「あっ…勇者様、困ります…!!こんなところで…、そんな『大胆』な…!!」

 彼女は何か「よく分からないこと」を口走ったが、だが彼は聞く耳を持たず――。

「この『クエスト』、いつから『発注』されているか分かりますか!?」

「普段」ならば、彼女に「話し掛ける」ことすら「緊張」でままならない彼なのである。ましてや、その「身」に――、たとえ「腕」ではあるとはいえ「触れる」ことなどもはや「想像」しただけで。
 けれど今の彼にとっては、そんなことは「些事」に他ならなかった。それよりももっと、「彼女のこと」よりずっと、彼には気に掛かることがあったのだった。

「えっ…?あ、え~と…ちょっと待って下さいね!(なんだ…違ったんだ…)」

「語尾」はよく聞き取れなかったが、それについてはさておき――。彼女は一旦「受付」に戻って、そこで何やら「帳簿」のようなものを繰り始めた。

「あった!これだ!!」

 すっかり「敬語」を使うことを忘れてしまっている彼女であったが、そんなことより。

「え~と…。うん、『二日前』と書いてありますね!!」

 彼女の「返答」を聞くなり、彼は「絶句」した。目の前が「真っ暗」になるような、それは紛れもない「絶望」の色だった。

「『依頼者』の方から『更新』もされていないみたいですし…」
――そろそろ、取り下げないと…。

 彼女は「焦る」様子もなく、「平気」でそんなことを言う。それが彼には全く「理解」が出来なかった。
「更新がされていない」ということは――、その「余裕」がないからではないのか?
 そもそもこの「事案」は「依頼」として貼り出されるようなものではなく――、もはや「最優先事項」として「緊急性」をもって「周知」されるべきものではないのか?

「まあ、でも『報酬』も『低い』ことですし…」

 ここにおいても、彼女はまだそんな「呑気」なことを言っている。普段は滅多なことでは「怒らない」彼も段々と「腹が立って」きた。彼をいじめていた「同年代」たちも、あるいは今の彼と「同じ気持ち」だったのだろうか。だとしたら――、少しばかり彼にも「省みる」ところはありそうだった。

「それに第一、この『クエスト』は――」

「ダメ押し」とばかりに彼女は言う。彼を「諦めさせる」ために、他にもっと「依頼」はあるのだからというように――。

「最低参加人数『五人』ですよ?」

 彼は全身から力が抜けてゆくのを感じた。自らの「努力」と「やる気」ではどうにもならない「厚い壁」が、再び彼の前に「立ち塞がる」のだった。

――ここでもやっぱり、「人数」が「道」を「阻む」のか…。

 彼は「唇」を噛み締め、「拳」を握り締めた。彼の「体」は小刻みに「震えて」いる。「恐怖」によるものではない。それは「悔しさ」だった。これまで彼が、いかに周囲に「蔑まれ」ようとも、「嘲り」を受けようとも、決して感じたことのない――。それは「怒り」にも似た「感情」だった。

「勇者様、どうされました…?」

 彼のその「反応」から何かを察したらしく、「エルフ」は怪訝そうに訊ねてくる。

――そんなに、この「クエスト」に「魅力」を感じていたのだろうか…?

 これまで数多くの「依頼」の「手続」を行ってきた彼女である。その彼女からすれば、別にこれといって「オイシイ依頼」ではないように思える。
「報酬額面」についてもそうだが、第一この手の「クエスト」は「依頼者」が「存命」であるという「保証」もなく。たとえ「達成」したとしても、きちんと「支払い」がされるのかすら怪しいものなのである。

――「ノドカ村」。
――「農耕」を「中心」とした、あまり「栄えている」とはいえない村だったはず…。
――近年「増加傾向」にあり、「凶暴化」しつつある「魔物」。
――それによって、一つ二つの村が「地図から消えた」らしいが…。
――あくまでそれも「よくある話」なのだ。

 そこでふと、彼女は「何か」に思い当たる。

――今、何かが「引っ掛かった」ような…?

「ギルド」において、あまり聞かないその「村の名」を――。けれどつい最近、どこかで見掛けたような気がする。
 彼女は「クエスト一覧」を一旦横に置き、受付後方の棚から「あるもの」を取り出した。それは、「ギルド」に「登録済」の「冒険者名簿」だった。

「職業別」に並んだ「分厚い」それの中から、けれど「一名」しか居ない「職業」である「彼の名」を見つけるのは容易かった。

「勇者」――。

 そこにはそう記されている。「特別」であるその「称号」は、「職種」ごとに色分けされた「縁取り」においても。やはり「特別」であることを示すかのように「金色」で表されている。
「名前」「性別」「現在レベル」「達成クエスト数」。それらの「情報」の中には――、まだ「数月」しか経っていないというのにも関わらず、彼のこれまでの「足跡」が刻み付けられている。
 そして。ようやく彼女はそれを見つけた。彼の「出身地」の「欄」。そこには、今まさに「戦火」にある「村の名」があった。「ノドカ村」と――。

――そういえば…。

 続けて彼女は思い出す。それは「二日前」のこと。ある「村人」が「ギルド」を訪ねてきた時のことを――。

――「勇者」に「お願い」したいことがあるのです…!!

「町の者」からすれば、「ぼろ布」ともいえる「格好」をした「老人」は確かにそう言ったのだった。「勇者」とそう呼んだにしては「敬称」すら用いられず、あくまで「友人」であるかのように。「依頼」ではなく「上奏」でもなく、あえて「お願い」という言葉が用いられたのだった。
「勇者」としての「義務」――、それは人々の「救済」である。唯一の「仕事」である「魔王討伐」にしてみても、やはりその「目的」は全てそこに繋がるものであり。だからこそ「勇者」というのは、「人々の声」を広く聞き届けなければならないのである。
 だが、それはあくまで「ギルド外」においての話だ。「ギルド」に持ち込まれた以上、いかなる「願い」であろうともそれは「依頼」という形を取ることとなる。あるいはその「対価」が「僅少」であったとしても、それはまた別の問題であり。「クエスト」における「発注者」と「受注者」とは、常に「平等」に扱われるべきなのである。
 あるいは相手が「勇者」であろうと、そこに「例外」はない。「職業柄」はともかくとして、「他の職業」と同じくあくまで「職能」の「譲受」となる。

「ともかく落ち着いて。こちらの用紙に『必要事項』をお書き下さい」

 だから彼女はいつものように――、同様の「手続」を踏むことを求めるが如く。少しも「取り乱す」ことはなく。むしろ「落ち着き払った様子」で、滞りない「手順」を繰り返すのであった。
 渋々ながらも、差し出された「用紙」を受け取った老人は。「文字もろくに書けない」様子ながらも、それなりに時間を掛けつつ「記入欄」を埋め終えると――。

「いつ頃、『勇者』は来てくれるのでしょうか…?」

 あくまで「勇者」を「指名」した上で、そう訊ねてくる。彼女は――、

「分かりかねます。『志願者』が見つかれば、すぐにでも『受理』されますよ!!」

 励ますようにそう答えつつも。けれど「報酬の欄」を見て、やはり「望み薄」であることを察したのだった。

「報酬」――、村で獲れた「作物」を「一生分」。

 あまりに「漠然」とした、あるいは「童子の児戯」じみた「ご褒美」である。「量」は示されていないし、そもそも「報酬」とは「貨幣」で支払われるのが「暗黙の了解」なのだ。そこはもちろん「依頼者」が「自由」に「設定」できるのだが――。兎にも角にも、これでは「志願者」が現れるのはもはや「絶望的」だった。

「では、承りました」

 それでも――。やはり彼女はいつも通りに言う。「定型句」を用いることで、自らの「仕事」を全うする。
「受付の役割」とは本来「クエスト」の「仲介」であり、あくまでそこまで。「交渉」や「助言」はそもそも「業務外」なのである。「発注者」について多少の「相談」や、それこそ「彼」のような「駆け出し」に対してはそれなりに「斡旋」を行うものの――、何もそれは「義務付けられたもの」では決してない。
 だから――。たとえ「クエスト」に「志願者」が現れなかったとして。その「責任」はやはり「依頼者」に「帰属」するのであって、単なる「仲介者」に過ぎない彼女とっては「無関係」なのである。
 それに――。「多忙」である彼女としては出来るだけ早く、このどこか得体の知れない「翁」に、すぐにでもお引き取り願いたかったのだった。

「どうか、お願い致します…」

 力なさげに老人はそう言って、深々と頭を垂れた後。何やら「小袋」のようなものを「テーブル」に置いて、去って行った――。
 いささか「不審」を覚えつつも、けれど最後の最後に至っての「老人の行動」は彼女を
「感心」させたのであった。

 いわゆる「前金」というヤツだろう。「報酬」とは別に「受注者」に支払われる(無論、「ギルド側」も一部の「マージン」を頂戴するのであるが…)、いわば「手付金」のようなもの。仮に「クエスト達成」とならずとも「返金」の必要はなく。あるいはもし「達成」したとして、万が一「発注者」の「雲隠れ」などによって「正規の報酬」が支払われなかった時などに「最低保証」となり得るものなのだ。
「依頼実績」の少ない「発注者」において、その「名」の代わりとしてあくまで「資金」を「担保」に置くことで――、「受注」をさせやすくするというわけである。

 ただの「世間知らずの田舎者」とばかり思っていたが――。「年の功」とでもいうべきか。やはりそれなりの「作法」はわきまえているらしい。
 彼女は早速、その「小袋」の「中身」を改めようとした――。あるいはこれで分からなくなった。この内容如何によっては、すぐにでも「受注者」が現れるかもしれない。
 だが彼女がそれに手を伸ばし、それを持ち上げようとしたところ――。そのあまりの「軽さ」に、再び彼女は拍子抜けしたのだった。
「袋」を開いて、「中身」を確かめる――。「まさか」というか「やはり」というか、そこに入っていたのは「銀貨」でも「銅貨」ですらなく、「穀物の種」であった。

――これが…「手付金」??

 驚きと同時に、彼女は呆れ返る。ほんの一瞬でも信じた自分が「莫迦」だった。こんなものは「前金」でも何でもない。第一、「金」ですらないのである。
 それでも。彼女は思わず「溜息」をつきながらも、その「小袋」の扱いに困り果てながらも。だが決してそれを「無駄」にしようとは考えなかった。

 その日の「業務」を終えた後、彼女は町の「市場」に向かった。彼女のその「可憐」ともいえる「装い」にはおよそ「不似合い」な、「小汚い袋」を小脇に抱えたまま――。
 彼女はそれを「換金」することにした。無論、「通常レート」であれば「二束三文」にしかならないものである。だがそこは、彼女の持ち前の「世渡りの巧さ」と、何より彼女自身の「女性的魅力」を最大限に活かした「取引」であった。

 結局、彼女は「老人」の置いていった「穀物の種」を――、本来の「売買」ではおよそあり得ないほどの「貨幣」に換えて。もちろんそれをそのまま「懐」に入れることもなく、あくまで「前金」として「ギルド」に預けた後、「例のクエスト」の「報酬欄」に「手付金あり(銀貨〇枚)」と書き加えたのだった。

 だが。彼女がそこまでしてやったというのにも関わらず。「依頼」に「志願者」が現れることはなく――。彼女としても、日々「無数」に持ち込まれる「発注」や「受注」に「忙殺」されて、いつの間にか「例のクエスト」に関する記憶は「忘却」されていた。

 彼女は今「全て」を思い出した。彼の「故郷」のこと。二日前に持ち込まれた「依頼」のこと。あるいはその「老人」は――、彼の「馴染みの客」であったのかもしれない。
 だからこそ、あの「翁」は彼のことを「勇者」と呼びつつも、どこか「親しげ」な響きを醸していたのかもしれなかった。
 やがて彼女は「全て」を語り出す――。「依頼」のこと、「老人」のこと。だがそこに「当時」の彼女自身の「感想」が含まれることはなく。それに、彼女が行った「厚意」についても口にすることはなかった。(なんだか、気恥ずかしかったからだ…)

「その人、僕の『おじいちゃん』です」

「勇者」は言った。それを聞いて、彼女はまたしても驚いた。

――あんな「小汚い老人」が…?まさか、「勇者様」の「御祖父様」だなんて…。

 しかも、その上「育ての親」だという。

――では果たして、「勇者様」の「御両親様」はいずこに…?

 だがそれについては、あえて訊ねなかった。きっと、それなりの「事情」があるのだろう。それにしても――。

――「粗相」はなかっただろうか…?

「不始末」は?「不手際」は?「無作法」は?「失礼」は?「失禁」は?(いや、これは違うか…)彼女は途端に「不安」と「後悔」に駆られる。

――この「エルフ」、まさに「一生の不覚」…!!

 何たることだろう。いつか、あわよくば「勇者」の「伴侶(小声)」になるとして。その「第一歩」を、彼女は踏み違えたのである。

 そんな「エルフ」の「後悔」を、けれど彼は知る由もなく。彼は未だに自らの「無力」に打ちひしがれていた。
「依頼者」は――、他ならぬ彼の「祖父」だったのだ。幼い彼をここまで育て上げ、数々の「教育」を施してくれた存在。「ナナリー」を彼にとっての「姉代わり」だとするならば――やはり「血の繋がり」こそ無いものの――「祖父」は彼にとって「親代わり」となるべく、紛れもない「家族」であった。

「『ナナリー』…」

 これは「小声」で「彼女の名」を呟いた。そうすることで「かつて」の「村での日々」が、まるで堰を切ったように溢れてくる。
「忘れた」わけではもちろんない。むしろ、その「風景」は――、その「日常」は――、今も彼の中に確かな「居場所」としてあり続け、「一人きりの夜」に「温もり」を与えてくれるものであったのだった。

 そこで、彼ははっと気づかされる。そしていざその「考え」に至ると、どうして今まで「思いつかなかった」のか不思議なくらいだった。
「村の皆」が「助け」を求めている。厳然たる、その「事実」。たとえ「ギルド」においては「クエスト」という形であったとしても――、今の自分にはそれを満たす「資格」は無かったとしても――。であるならば、何も決して「受注」という「手順」を踏む必要はないのである。
 恐らく彼の「祖父」は、今頃彼がそれなりに「仲間」に恵まれていると「期待」して、「募集人数」を「多め」に見積ったのであろうが。たとえ「一人」であろうとも、彼の「為すべきこと」は少しも――、「全く変わらない」のだ。

 彼は駆け出した。誰も「受ける」ことのないであろう「クエスト」のその「貼り紙」を「掲示板」から引き剥がし、それを引っ掴んだまま。すぐに「ギルド」を後にするべく、彼の「故郷」を目指すべく、その場から走り去ろうとしたのであった。

「勇者様、お待ちください!!」

 だがそこで、またしても「エルフ」に声を掛けられる。いついかなる時でも「冷静」であり、決して声を荒げたりしない彼女であるが。けれどここにおいては、そうした彼女の「立場」を排した上で、あくまで彼に「加担」するのだった。

 彼女としては、まさに「汚名返上」「名誉挽回」の「チャンス」だった。彼の「祖父」であったことを知らなかった故の「狼藉」。あるいは「受付」としての「仕事」においては正しかったのかもしれないが――。

「『仕事』は『程々』に、『プライベート』にこそ『充実』を――」

 自らの「信条」をそう定める彼女としては、彼の「恩人」となるどころか、後々になって彼に「恨まれる」ようなことだけは避けたかったのである。

「ここは私にお任せを!!すぐに『志願者』を募って参りますので!!」

 完全に「業務外」であることを、彼女は平然と言ってのける。けれど、もはやこれは「ギルド」の「受付」としての「台詞」などではない。彼女のごく「個人的」な「感情」による、「女」としての「矜持」による、紛れもない「彼女自身」の「言葉」であった。

「でも…、今日まで誰も見つからなかったんですよね?」

 そうだ、だからこそ「この依頼」は今の今まで「掲示板」に貼り出され、あるいは彼がそれに気づくことさえなければ、もはや「永遠」に忘れ去られていたのだろう。そのような「クエスト」に今さら「志願者」が現れるとは、彼は到底思えなかった。

「『半刻』ほどお待ちを――」

「期限」を設定した彼女は、もちろん「その場凌ぎ」「時間稼ぎ」でそんなことを言ったのではなく。もちろん、そこには確かな「心当たり」があったのだった。

「半刻後」――。彼は彼女の集めたくれた「パーティ」と共に、町を出た。
 彼にとっては「初めての仲間」。だが「感慨」に浸っている間はなく、「急造」である「彼ら」を従えて、彼は「戦火の故郷」へと向かったのであった――。

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おかず味噌 2020/12/08 16:00

クソクエ 勇者編「伝説の幕開け ~村一番の臆病者~」

※この「記事」には、「エロ描写」及び「スカトロ」「お漏らし」の「表現」などは一切含まれません。「読み飛ばして」頂いても一向に構いませんが、お読み頂けたならば今後の「展開」をより「お楽しみ」頂けることと思います。

 すぐに「ヌキたい」方はこちらから↓
(女戦士編)「野外脱糞」「ウンスジ」表現あり。(一部「有料支援者様限定」)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247
(女僧侶編)「水中放尿」「着衣脱糞」表現あり。(一部「有料支援者様限定」)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/357380


――「勇者」とは何だろう…?

「勇敢」な者。強大な敵(たとえそれが「魔王」であったとしても)に怯み、臆することなく「勇猛」に立ち向かう者。あるいは、いかなる苦境に立たされたとしても「果敢」にそれを乗り越えようとする者。
 そうした、あらゆる恐怖に「打ち克つ者」。または恐怖に挑み、それに「打ち克とう」とし続ける者を指して、我々はいつしか彼らのことをこう呼ぶ。

「『勇者』である」

 と。だが無論、誰だって「勇者」になれるわけではない。では果たして――、

――「勇者」の「条件」とは何か…?

 それはつまり「選ばれる」ことである。「世界」に、「時代」に、はたまた「神」や「精霊」に。「選ばれし者」こそが「勇者」となり得るのである。
 そこにおいて、努力や才能は何ら効力を発揮しない。あくまでも素質。生まれながらにして与えられた「器」こそが、彼の者が「勇者」となれるか否かを決定し「運命」付けるのである。

 そういった意味では「勇者」と「他の職業」との成り立ちは大きく異なっている。
 例えば「武闘家」において、恵まれた体躯と腕っぷしの強さこそを必須としながらも。あるいは生まれつき小柄で矮躯である者。はたまた老境に至り、「枯れ枝」のような手足しか持たぬ者だったとしても。当人の「努力」によって、日々のたゆまぬ「研鑽」において技術を磨き続けることによって、誰しもにその機会は「平等」に与えられるのである。

 だが、こと「勇者」においては違う。たとえ、いかなる鍛錬に励もうとも――、常に、あらゆる試練に挑もうとも――、選ばれなければ、それでお終い。それもあくまで刻んだ「功績」によって「のちに選ばれる」のではなく。「生まれた瞬間」からすでにその可否は決まっているのだ。素質を持たぬ者、その道にない者には、そもそも目指すことさえも許されないのである。

 あるいは、それは「魔法の才能」にも似ているかもしれない。「素質」を「素養」と言い換えるならば――、「魔法使い」における「魔力」についてもその「絶対量」はやはり生まれつきによる部分が大きく。当人の修行によって「詠唱の速度」や「魔術の練度」を高めることはそれなりに出来はするものの――、いわゆるMPの僅少な者が「大魔術師」となった例は、これまで「一度たりとも」ない。

 だがそれでも。「勇者」と「魔法使い」では、やはりその根本からして違うのだ。勇者の「仕事」とは「魔王打倒」のみでありそれ以外にはない。そして「職業」という以上、そこには何かしらの対価があって然るべきなのだが――、「魔王」を倒したからといって莫大な富が得られるかといえば、そんなこともない。
 あくまで、得られるのは「名声」のみ。人々が恒久的な「平和」を手にする代わりに、自らが犠牲にするものを思えば、その「代償」はあまりに大きい。
 にも関わらず。当人の意志にも依らず勇者は誕生し――、選ばれたからには必ず、自らに与えられた「責務」を果たさなければならない。
 つまり「勇者」とは「職業」などでは決してなく。「魂魄」に刻みつけられた、その「称号」を指す呼び名なのである。

 今まさにこの世界において、この時代において、また一人。「勇者」が生まれようとしている。「魔王復活」を目前に控え、だがそれを知る者は厭世家の「学者」か、高山の「賢者」たちをおいて他にはいない。
 民衆は日に日に増し、これまで「安全圏」と信じて疑わなかった「村」や「町」にさえ進行してくる「魔物」たちの脅威に怯えながらも、あくまでその状況を打開するべく術は知らず。かろうじて残された「見せかけの平和」を享受することに精一杯だった。
 それでも。誰もが心のどこかで、その存在を待ちわびていた。人々を「絶望」から救ってくれる力を、人類を「希望」に導いてくれる光を。紛れもない「勇者の誕生」を――。
 いつだって、彼らは「勇者」を待ち望んでいるのだ。

 多くの「英雄譚」がそうであるように。「彼の物語」もまた、やはり「牧歌的な風景」の中から始められることとなる。やがて世界に轟き、あるいは永久に紡がれるであろう「伝説の始まり」を――。
 だけど彼はまだ自らのその「運命」を知らずに、あくまで呑気に日々を過ごしていたのだった。


――昔々あるところに「一人の青年」がいた。

 齢にして「十」にも満たぬ彼を、あるいは「少年」と。「少女」のように小柄で矮躯の彼を「童子」と。あくまで「現在の見た目」についていえば、そう呼んだ方が相応しいのかもしれない。
 だが後に語り継がれる「伝説」において、年齢などというものはやはり意味を持たず。彼の残すであろう輝かしい「功績」の前では、そうした個人を特定するべくあらゆる情報は、時に都合よく、時により大袈裟に書き換えられてしまうのである。

――彼には「名」があった。

 だがそれもまた、彼が「勇者」となったまさしくその日から失われ――。やがて人々は彼の事を「勇者様」と、皆口を揃えてそう呼ぶようになった。
 勇者には大きく分けて、「二種類」の者がいる。すなわち「自らの名」を歴史に刻む者。あるいは偉業のみが語り継がれ、後世において「別名」が与えられる者。果たして、そのどちらがより優れているというものではなく。あくまで彼については後者だった、というだけのことだ。

 彼は、主に農耕を生業とする「とある村」で育った。牧歌的で、平和な日々の暮らし。彼にとって唯一の肉親は、年老いた「祖父」のみで。彼の「生まれ」については、もはやそれだけで「前日譚」としての一つの物語となってしまいそうなので、ここでは省かせてもらうことにする。

 既述の通り――、幼い頃から貧弱で、また周囲の者に比べて成長の遅かった彼は、よく同年代たちの「揶揄い」や「嘲り」の対象となった。
 加えて当時の彼は「泣き虫」で、受けた仕打ちに対してやり返すことも、言い返すことすら出来ずに。ただただ俯き、涙をこらえるばかりだった。
 だが、そんな彼にも少なからず「味方」がいた。共に暮らす祖父については言うまでもなく。他に「もう一人」、彼を見守り、涙を拭ってくれる存在があった。

 その「少女」の名は――、「ナナリー」といった。
 彼より「二つ年上」の彼女は、「勝気」で「活発」な女性であり。村の大人や男共にも負けず劣らず、強い信念を持った「男勝り」の性格であった。
 兄弟を持たない彼にとって、ナナリーはまさしく「姉代わり」の存在で。何かと自分を気に掛けてくれる彼女を、いつしか親しみと憧憬を込めた視線で見つめるようになった。

「また、アイツらに『いじめ』られたの?」

 ナナリーはやや呆れたような顔で、彼に問う。

「いや…、その、うん…。でも…」

 短く切った言葉の中に、幾つもの逡巡と躊躇いを滲ませつつ彼は答える。
「はぁ~」

 彼女は長い「溜息」をついた後、

「嫌だったら、ちゃんと『言い返さない』と!!じゃないと、また――」

――ナメられるよ?

 肩の上で切り揃えられた、短い「赤毛」を掻きむしりながらナナリーは言う。「母親」からの遺伝らしいその「特徴的な髪色」を、彼女は気にしているみたいだが、彼としてはむしろ好意的に思っていた。

「ご、ごめんなさい…」

 彼は詫びる。それが彼なりの「処世術」であり――、なるべく早く「謝る」ことこそが彼にとっては自らの被害を未然に、あるいは出来るだけ最小限に抑えるための数少ない、あまり積極的とはいえない唯一の方法だった。
 だがナナリーにしてみれば、そうした彼の「態度」が気に入らないらしく。

「ほら、またそうやって!!」

 あくまで、彼に厳しく詰め寄る。両手を腰に当てて、胸を反らせるようにして彼を叱りつける。
 ナナリーが胸を張ることで。細身である彼女の、決して豊かとはいえない「膨らみ」が、少なからず明らかとなる。女性としての特徴ともいえるその「丘陵」は、けれど母親を知らぬ彼にとっては何らの慈愛を感じさせるものではなく。あくまでそれはそういうものなのだと。自分にはなく、けれど「同年代」たちは当然のように持っている「力強さ」や「男らしさ」にも似た、そうした「他者との違い」としてのみ理解されるのだった。

 村では慣例として、男子は「十五」、女子は「十三」で「婚礼」を迎えることとなる。相手は「本人の意思」を尊重しながらも、やはり家柄やその者の「収穫力」に依るところが大きい。
 来る年に、いよいよ「適齢期」となるナナリーについても。「村長の娘」として、その家柄は申し分なく。また「村一番の美少女」と呼び声の高い彼女の心を、「射止めたい」と願う男性陣の数と面子には、まさに錚々たるものがあったのだった。
 恐らく、秋に行われる「収穫祭」が争点となるだろう。祭りの最後、広場の「たき火」を囲んで始まる「舞踏会」において。男子は意中の女子を「踊り」に誘い、それを受けるか否かによって「互いの意思」を確認し合うのである。

 引っ込み思案な彼にとって、そのひと時は苦痛以外の何物でもなく。それは「去年」にしてみても同様で――、声を掛ける「勇気」のない彼は火の届かない「隅っこ」の方で、ただ両膝を抱えて蹲っているしかなかった。
 遠くの明かりをぼんやりと見つめる彼を、けれどナナリーはそんな時でさえも気に掛けてくれた。

「アンタは踊らないの?」

 いつの間にか「横」にいて、そう訊ねてきた彼女に対して、

「踊れないんだ…」

 彼は自分の不器用さと相手が居ないことの、その両方を含めて呟いた。

「そっか…」

「隣」に腰を下ろしたまま、同じように明かりを見つめながら彼女は言った。

「ナナリーこそ、踊らないの?」

 彼女は「踊り」だって巧かった。祭りの前日、彼の前だけで見せてくれた「舞い」は中々のもので。あるいは(彼はまだその存在を知らないが…)「踊り子」としても十分に通用するくらい「妖艶」なものだった。
 それに。彼女にしてみれば、まさしく相手だって引く手数多なのだろう。この「一夜」を彼女と共にしたいと願う男性は数知れず。現に今だって、彼女を探して忙しなく辺りを見回す村一番の力自慢の「ガストン」の様子が、彼の場所からも見て取れるのだった。

「ウチくらいになると、誘ってくるヤツも多くてさ…」

――ほんと、困っちゃうよ!!

 誇らしげに、けれどなぜかカラ元気であるように彼女は言う。

――やっぱり、そうなんだ…。

 彼は打ちのめされたような気がした。分かりきっていたことだ。だけどいざこうして「現実」を突き付けられると、自分の中に少なからず「焦燥」が生まれるのを感じた。
 それでも。その身を焦がすものの正体を、その感情の理由を、未だに彼は知らずにいたのだった。

「○○も、誰か誘えばいいのに…(ウチとか)」

 彼女は「その名」で彼を呼ぶ。やがて世界に轟く「勇者」のその「別名」を――。誰も知ることのないその「個人名」を――。けれど彼女だけは、彼が「勇者」となった後でも変わらずそう呼ぶことになるのだった。

「えっ…?」

 彼は訊き返す。ちょうど夜風が吹いたことで、語尾まで上手く聞き取れなかったから。それでも彼の疑問に彼女は取り合わず、二度と同じ台詞が繰り返されることはなかった。

 それから二、三言葉を交わして、やがて二人は無言になる。遠くの騒めきを聞きながら、けれど彼は風の音と自らの鼓動の音ばかりに耳を傾けていた。
 いつ、誰が、ナナリーを見つけて、あるいは彼女を誘いに来るかは分からない。
 だがそれでも。今はただ、彼女を独り占め出来ているというこの「瞬間」が――、彼女と過ごすこの「空間」が――、彼にとっては心地良く、決して明かりの届かない場所にある彼の心を優しく温めるのだった。
 どこか淋しげに見える彼女の横顔をこっそりと見つめて。「来年こそは――」と、彼は自らにとっておよそ初めてとなる「決意」を誓うのであった。

「この村」には、ある「言い伝え」があった――。
 村の「広場」。何かと「集会」などに利用され、「収穫祭」においてもまさしく「火」が焚かれる場所。その「広場」の「片隅」に、とある「オブジェ」があった。
「段差」が備えつけられ、やや「高く」なった「台座」に。何やら「植物」を模したかのような「彫像」が置かれている。
 だがよく見てみると、それは――。決して「花」を表わしたものではなく。その証拠に「花弁」にあたる部分はなく、むしろ「尖端」の方がやや「細く」なっている。「蕾」であるかのような「玉」が付いてはいるものの、だがやはり「葉」のようなものは見当たらず。「茎」の部分も「真っ直ぐ」で、これではあまりにあんまりというか。「植物」を「象った」にしては、その出来はお世辞にも「見事」とは言い難いものだった。

 それは「剣」だった――。

 だがあるいは「剣」だったとしても。そこに「刀身」と呼べるものはなく、あくまで「錆びついた」だけの「金属板」があるのみで。そもそも、いかなる「宝剣」ないしは「名剣」であったとしても、こんな「風雨」に晒される場所に「放置」されたとあらば、すぐさま立ちどころに「価値」を失ってしまうことは「必然」だった。
「一見」して、そうとは知れぬモノ――。けれどどうして「村人」が、あるいは彼さえもがそれを「剣」だと「認識」しているのかというと。それは、そのように「言い伝え」られてきたからだ。

 村の「歴史」において、「祝言」を迎える際の「儀式」として――。かつては「新郎」となる者が、その「剣」を「引き抜く」という「行事」があったらしい。
 だがもちろん、それはそう簡単に「引き抜ける」ものではなく――。というよりも未だかつて、その「剣」を「抜いた」ものは「ただの一人」もいないらしい。
 いかなる「力自慢」だろうが、あるいは「貴族」を遠い「出自」に持つ者をもってしても、それを「抜く」ことは決して叶わなかった。
 そんな「有様」だったから、いつしかその「剣」はあくまで「そういうもの」として扱われるようになり――。当初は「儀式」の「目玉」としての「催し」も、やがては単なる「興ざめ」の「行為」としてしか「意味」を持たなくなり。いつ頃からかその「祭事」は、ただただ「畑」に実った「作物」を「収穫」してみせるという、「この村らしい」といえばそれまでだが、あくまで「動き」を「真似た」だけのものへと「すり替わって」いったのだった。
 それでも。村には相変わらずその「剣」にまつわる「言い伝え」が、あるいは「伝説」として、「幾星霜」の時を経て尚、残り続けていた。それすなわち――、

――「彼の剣」を抜きし者、「勇者」とならん。

「伝承」にしてはあまりに短く、ごくごく「簡潔」なその「一文」。だが、であるからこそ。その「一節」は村で育った者ならば誰でも、幼い頃から幾度となく、それこそ「鍬」や「鋤」の「使い方」を教わるが如く、当然に「伝え聞かされる」ものなのであった。

――「勇者」とは何か?

 たとえ、その「意味」は知らずとも――。それが「選ばれし者」を指す「呼び名」であることくらいは「村民」にも分かっており。そのほとんどが「平凡」なる「農夫」である「この村」において、まさかそのような者が「現れる」などとは到底考えられず。だからもう「長年」に渡って、それを「試そう」とする者はおらず。その「剣」はやはり単なる「飾り」として、もはや「忘れ去られ」「打ち捨てられて」いるばかりであった。

「彼」は、「夜空」を見上げていた――。
「涙」が「零れ」ないようにするためではない。むしろ「涙」はとうに枯れ果て、彼の頬にその「痕跡」を刻み付けていた。
 彼は、目を擦る。すると、もはや「渇き切った」と思っていた「雫」が、またしても「こみ上げ」「溢れて」くるのだった。
 彼は、目線を落とす。そうしたならば、いよいよ「涙」は「水滴」となって、しゃがみ込んだ彼の「足元」に落ち、「石床」に滲んでいくのだった。

 彼は「台座」に腰掛けていた。あるいは「昼間」にそんなことをしようものなら――、すぐにでも口煩い「カトレーナおばさん」が「鬼の形相」で駆けつけて来て、彼を散々に「叱りつけた」後、彼をそこから「引きずり降ろして」いたことだろう。
 だが今は「夜中」である。「おばさん」はおろか、「村人」の多くは「眠り」についている。ここには、彼の他には誰もいない。彼を「いじめ」てくる「同年代」たちも、あの「ナナリー」さえも――。彼は今「ひとりぼっち」だった。

 彼は「ツラい」ことや「悲しい」ことがあったとき、「蓄積」されたそれらが「日常」の中で上手く「消化」出来なかったとき。「祖父」の寝静まった「家」を――、自分の「ベッド」を――、「こっそり」と抜け出し、よく「ここ」に来るようにしている。
「夜中」であるからこそ、誰にも「見つかる」ことはないが。それだっていつ「大人」が――、「作物」を荒らす「野生動物」や、最近「村の中」にも「頻繁」に入ってくるようになった「魔物」の「見回り」のため、「起きてくる」かわかったもんじゃない。
 もしそんな「大人たち」が――、決して出来が良いとはいえない、むしろ「愚鈍」とさえいえる「子供」である彼を「見つけた」ならば、
「こんな『夜更かし』ばかりしているから、お前はそうなんだ!!」
 とばかりに、ここぞとばかりに「悪態」をついてくることは分かりきっていた。
 にも関わらず。「平穏」を「信条」とする彼が――。どうして、そのような「危険」を冒して尚、「この場所」に留まっているのかといえば。それは単に「ここ」が彼にとって「落ち着ける場所」だったからだ。

 この「台座」に腰掛けていると――、この「剣」なのかもよく知れない「オブジェ」の「傍」にいるだけで――。何だか、とても「勇気」が湧いてくる。まるで、自分自身が「強くなった」みたいに。いかなる「苦難」だろうが、それを「乗り越えられる」と思わせてくれるように。彼にとっては「この場所」こそが、自らの「原点」であるかのような――、いつだってそんな「不思議な気持ち」になれるのだった。

 彼はふと。「剣」に手を伸ばして、それに「触れて」みた。「冷たい」感触。だがどこか「温もり」を感じさせるような、そんな――。
 何も「引き抜こう」と思ったわけではない。かの「伝説」については、いくら「無知」な彼でもさすがに知っている。今まで誰一人として、それが「叶わなかった」ことも。
 人に「当たり前」に出来ることすら、「ままならない」自分のことだ。まさか自分が「他人にさえ出来ない」ことを「成し遂げられる」などとは「夢」にも思わなかった。
 それでも、どうして彼が「手を伸ばした」のかといえば。それは「強くなりたかった」からだ。今は「非力な自分」でも――、「臆病」で「鈍臭く」「情けない」自分であったとしても――。「きっといつか」はそこから「脱却」し、そんな自分を「変えたい」と「強く」心から「願った」からだ。

 それはまさしく「星」に手を「翳す」ような――、決して「届くはずのない場所」に手を「差し伸べる」ような――、「無謀な行為」に他ならなかった。
 誰もがそれを聞いて「嗤う」だろう。「――のクセに」と「生意気」に思うかもしれない。だがそれでも、彼は願った。

――「強く」なりたい!!
 と。
――「勇者」になりたい!!
 と。

 そう「願い」を込めた瞬間、なぜだか彼の「脳裏」には「ナナリー」の顔がよぎったのだった。

 彼が「それ」を「掴んだ」とき「不思議なこと」が起こった。「錆びついていた」はずの、もはや何かも分からない「その剣」が、「輝き」を放ち出したのである。
 彼は最初「朝が来た」のかと思った。「眩い」までの「光」を発するそれを――、彼は「天空」に昇った「陽光」だと「錯覚」したのだった。
 だがそれは彼のすぐ「近く」からもたらされた。「剣」それ自体が「光」を帯びているのだと、それを知って尚、彼はやはり「呑気」に「さすがに怒られるかも…」と、自らの「愚行」に対する「叱責」を恐れただけだった。
「剣」から「力」が伝わってくる――。「温もり」を超えて、もはや「熱さ」にさえ変わろうとするその「奔流」は、すぐさま彼の「全身」を駆け巡り、やがて彼自身を瞬く間に「満たして」いった。
 彼は「腕」に力を込めた。少しばかり「大きめの作物」を「収穫」するときですら、「苦労」してしまう彼なのである。とてもじゃないが、そのような「大物」を「相手」に出来るはずもない。それでも彼は今、どうしてだか「自分にならば出来る」と感じた。「両手」で「柄」をがっしりと掴んで、それを「引き抜こう」とした時――。またしても彼の「脳裏」には「ナナリー」が浮かんできたのだった。

 全くもって、「容易」なことだった。
「力を込めた」のは「最初」だけで、後はただ「自然」に「身を任せる」のみだった。「ゆっくり」と「剣」を持ち上げる。すると「台座」に隠れていた「刀身」が徐々に見え始める――。

――ズポッ!!

 やがて「全て」を抜き終えた時。再び「剣」が「光」を――、今度はより「強い光」を――、「放ち」始めた。一時は「刀身」に「集中」した「それ」が、だが次の瞬間には「全方向」へと飛び散り、ようやく光が「収まった」かのように思えたその時。これまで「錆びついた」だけの「金属棒」に過ぎなかったそれが、もはや立派な「聖剣」へと成り変わっていた――。

「その夜」から、彼の「日常」はまさしく「一変」した――。
 彼が「聖剣」を「引き抜いた」という「噂」は、すぐに「村中」へと伝わり。あるいはそれを「嘘」だと信じて疑わない「村人」も。彼の背に負われた「それ」を目にすると、たちまち「態度」を改め、どこか「納得いかない様子」ながらも、皆彼を「讃えた」のであった。
 彼を「いじめ」ていた「同年代」たちも、その「事実」を知るや否や。これまでの彼に対する「仕打ち」を詫び、もしも「冒険」に出るならば「自分を仲間にして欲しい」と「懇願」して来るのだった。
 唯一、ナナリーだけがなぜか「浮かない顔」をしていた。人々から聞かされる、およそ「初めて」となる彼の「良い噂」に、けれど彼女はどこか「不満そう」に「耳を塞ぎ」。ようやく彼が「彼女以外」にも「認められた」というのに――、あるいは「彼女自身」もそうなることを「心」から「願っていた」にも関わらず――。どうしてだか彼女はあまり「嬉しそう」ではなかった。

 それから間もなく、彼は「旅」に出ることとなった――。
「旅立ち」の朝、彼が「大勢の村人たち」に見送られる中。いつもならば「イの一番」に「駆けつけて」くれるであろうナナリーの姿は、けれどそこにはなかった。
 少しばかり「淋しい」ような気もしたが、それはそれ。もはや彼には、彼女の他にも多くの「味方」が出来ていたのだった。
 最後まで彼に「縋りつく」ように「同行」を希望していた「同年代」たちを――。だが彼はあくまでその「提案」を断り続け、結局「一人きり」で村を後にするのであった。

「村」を出てから、彼はその足ですぐさま「隣町」へと向かった。「収穫祭」の準備や、村で獲れた「作物」の「売買」や「物々交換」などで、「大人」たちは「年に数回」は「町」に「出てくる」らしいが。「村」からほとんど出たことさえない彼にとっては、まさしく「初めて」の場所だった。

「人の多さ」に圧倒されながらも、彼は早速「ギルド」へと向かった。「何はともあれ、まずはそこに行くといい」と、「祖父」に聞かされていたからだ。
「受付」で「職業」を訊かれ、やや「躊躇い」ながらも彼が「勇者…」と答えると――。担当した「女性エルフ」は思わず「噴き出し」、その後も「ごめんなさい、つい」と詫びながらも、白く「尖った耳」が真っ赤になるまでひとしきり笑っていたのだった。
 あまりの「笑い様」に、やがてそれが「ギルド全体」へと「伝播」し――。そのせいで彼はひどく「恥をかく」ことになった。
 だがそれも。「冗談も程々に…」とばかりに、彼女が「職業適性」を「確認」し始めたところで「一変」することとなる。

 彼の「職業適性欄」は「空欄」だった。つまりはどの「職業」にも「向いていない」ということである。それを受けて、またしても彼女は「笑い」そうになったが――。
 やがて「羊皮紙」に浮かび上がってくる「赤文字」を見るなり、「女性エルフ」はその「美しい声」を「失った」のだった。そこには「はっきり」と、こう書かれていた。

「勇者」
――と。

「ギルド中」を包んでいた「嘲笑」はすぐに「騒めき」へと変わる。「驚き」と「動揺」が飛び交いながらも。「あんな『ガキ』みたいなアイツが…?」と、そこには少なからず「疑いの声」も混じっていた。
 たまたま「この町」を訪れていた「熟練」の「女戦士」も――、つい最近「転生」したばかりの「女僧侶」も――。まさにその「瞬間」に「立ち会って」いた。やがて「世界」に響き渡るであろう「伝説」の「序章」に――。「産声」を上げた「勇者誕生」に――。
 けれど「二人」はやはり「疑心」に満ち溢れた「瞳」で、それを眺め――。まさか自分が、いずれは「彼」と「共」に「旅」をすることになろうなど。いつしか「その彼」が、「彼女ら」にとっての「想い人」となることなど。けれど「今はまだ」知る由もないのであった。

「ギルド」での「登録」を済ませ――、すぐさま彼は「仕事」に取り掛かった。無論、「勇者」としての「仕事」ではない。「勇者の仕事」とは、つまり「魔王征伐」である。だから彼がまず「始めた」のは、あくまで「冒険者」としての「仕事」であった。
 最初は主に「小型モンスター」を「倒す」ことにより、当面の「日銭」を「稼ぐ」ことにした。「スライム」「ゴブリン」「自立型植物」など――。「村」にいた頃であれば、「見掛ける」なり「逃げ出し」、「大人」を「呼び」に行っていた「相手」である。
 けれど今となってはその「敵」に、彼は自ら「向かって」行き、「たった一人」でそれに「挑む」のであった。

 彼と「パーティ」を組んでくれる者など居なかった。彼から「声を掛けなかった」せいもあるだろう。だが、仮にも「勇者」であるならば――、むしろ「向こう」から幾らでも、むしろ「断り」きれないほどの「誘い」を受けたとしても、おかしくはなかった。
 にも関わらず。彼が「勇者」であることはすでに「証明済み」にも関わらず――。彼の「仲間」になりたいと申し出る者は、「ただの一人」として現れなかった。
――こんなことなら、「皆」を引き連れてくれば良かった…。
「同年代」たちの「懇願」を「固辞」したことを、今さらになって少しばかり「後悔」しつつも。けれどイマイチ「楽観的」な彼は、まあそれはそれで「仕方ない」と。あくまで「過ぎたこと」を「悔やむ」よりも、これから「訪れる」であろう「未来」へと目を向けるのだった。
 そうした、彼の「些細」な「変化」も。あるいは自分が「勇者」に「選ばれた」という「自負」が、わずかながらも「影響」するものなのかもしれなかった。

 けれど。あくまで「変わらないもの」もあった――。
 そもそも彼は、たとえ「不出来」であるとはいえ。自分に課せられた「責務」については「実直」に、あるいは「愚直」なほど「忠実」に「こなそう」とする人間であった。
 あるいはそれが「邪魔者扱い」のため――、差し当ってひとまず与えられた「石拾い」の「仕事」であったとしても。彼は「非効率」ながらも、ある時は「日暮れ」までそれを続け、村の「大人たち」を「唖然」とさせ、「祖父」を「心配」させたのだった。
 そんな彼の生まれながらの「性質」は――、けれど「村の仕事」において「日の目」を見ることはなかった。なぜならそれは、彼の「得意分野」では決してなく、彼の「才能」を充分に「発揮」出来るものではなかったからだ。
 だが一たび、「鍬」を「剣」へと「持ち替えた」ならば――。まさに「魚」が「水」を「得た」ように。彼の「本来居るべき場所」「住むべき世界」において、その「才能」は瞬く間に「開花」していったのだった。

「勇者誕生」にまつわる「伝説」に、その「物語」における「冒頭」に、こんな「一節」がある。
 すなわち「突如」として起きた「環境」の「変化」に、「日常」に訪れた「変革」に。あるいは「魔物」と「対峙」するに及んで――、「恐ろしくはなかったのか?」と。
 だがそれに「答えて」曰く、
――決して「怖く」はなかった。
 と。彼の「臆病さ」「貧弱さ」は相変わらずながらも、それをもってして尚、あくまで彼は言う。
――「聖剣」が「勇気」をくれたのだ。
 と。ただそれを「握る」だけで、それを「構えた」だけで、自然と「勇気」が湧いてきたのだと――。

 あるいは「美談」としてもあまりに「出来過ぎた話」であるかのように思われるだろうが。だが実際、彼自身そうであったのだ。たとえ「仲間」に恵まれず「一人きり」だとしても――、彼には「共」に戦ってくれる「友」がいた。かつては村の「片隅」に打ち捨てられ、ただ「錆びつき」「朽ちて」いくだけだった存在。それが今では「意味」を与えられ「使命」を帯びることにより――、もはや何にも隠せぬ「輝き」を放つようになった。
「戦友」としての「聖剣」と彼の「境遇」は、あまりにも「似て」いた。「それ故」なのだろうか。「光を放つ」その「刀身」をただ「眺めている」だけで、彼はそこに「自身」を「写している」かのような、そんな気がしてくるのだった。そして。「剣」を「振る」度に、「魔物」の「返り血」を浴びる毎に、まさしくそれは「自信」へと変わっていくのだった。

 決して「早熟」とはいえぬかもしれぬが。それでも彼は「着実」に「レベル」を上げていき、ようやく彼の「勇者」としての「名声」が、少なからず「ギルド」に聞こえ始めた頃――。「故郷」からの「救援要請」を報せる「クエスト」が貼り出されたのは、まさにそんな頃であった――。


続く――。

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おかず味噌 2020/08/30 20:42

クソクエ 女僧侶編「着衣脱糞 ~救済へと至る道~」

(前話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/358447
(女戦士編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247


「今日はここまでにしましょう!!」

「勇者」の声で「歩み」を止める。「日暮れ」にはまだ少し早いが、すでに空は「茜色」に染まり始めている。
 今日の「冒険」は「ここまで」のようだ。「頃合い」だろう。「野宿」をするのにだって、それなりの「準備」がいる。完全に「昏く」なってしまってからでは遅いのだ――。

「野営」においてもやはり、それぞれの「役割」というものは自ずと決まっている。
 ヒルダは辺りの「森」から「薪」を調達し、アルテナは「糧」となるべく「料理」に取り掛かる。「指示」を出されるわけでもなく、「話し合う」までもなく、まるでよく「訓練」された「兵士」のように、各自黙々と与えられた「仕事」をこなす。
 彼は――、周囲の「見回り」をしている。傍から見れば、あるいは単に「サボっている」だけのように思われるかもしれないが。実にそれは重要な「任務」である。
 ここは「安全」な町の中ではなく、いつ「敵」に襲われてもおかしくはない「フィールド」のど真ん中。いくら「警戒」しようとも、し過ぎるということは決してない。まさに「危険」と隣り合わせの「現場」なのだ。

 アルテナは「食材」の下拵えをしている。今宵の「献立」は「肉と野菜のスープ」。簡素な「メニュー」であるが「栄養」の面からすれば申し分ない。「味」については――、まさしく彼女の「腕の見せ所」である。
 昼間にヒルダが運よく狩った「野兎」と、道中アルテナが根気よく採集した「野草」が、その「材料」となる。「杖」を「短刀」に持ち替えて、早速料理に取り掛かった彼女であったが、そこですぐに「障壁」に行き当たることになる――。
「肉」と「野菜」は十分に揃っていたが、それだけでは「料理」にならない。そして、「肉」はその「血」を洗い落とすのに、「野菜」についても「土」を洗い流すのに、さらには「食後」に「皿」を洗うにしたって、どうしたって「それ」は必要となってくる。まさに「生命」の源であり、「生活」においても「必要不可欠」というべきそれは――、

「水」だった。

 まずはそれを「調達」してからでなければ。とても料理に取り掛かれそうにない。
――近くに「川」でもあれば良いのですが…。
 アルテナは考える。一旦「短刀」を置き「食材」をそのままにして、「水」を探すべくその場から離れようとする。
――何か「汲むもの」を…。
 アルテナは近くを見回す。「鍋」があればそれで十分だったが、やはり「必需品」であるはずの「調理器具」はなぜか見当たらない。
――あら?さっきまであったはずでしたのに…。
 アルテナが怪訝に思っていると――、

――ドカッ!!

 目の前に「水の入った鍋」が置かれた。彼女の「祈り」が天に届いたのだろうか。突然現れたそれにやや困惑気味になりながら、置かれた鍋のその「向こう」をゆっくりと見上げる――。
 そこには。「か細い腕」と「華奢な体」、「あどけない表情」の愛しい人がいた。
「勇者様…?」
 アルテナは鼓動が早くなるのを感じながらも、なるべく冷静を装って彼の「名」を呼んだ。
「探索していたら『川』を見つけたんです!料理するのに必要ですよね?」
 彼は言った。まるで「子供」が気を利かせて「親」の手伝いをして、「褒められる」のを「期待」しているみたいに。その表情は「得意げ」だった。
「あ、ありがとうございます!とても助かりますわ」
 アルテナは謝意を述べた。これで無事料理に取り掛かることができる、とそれ以上に。自分の「思っていたこと」が彼に、口に出さずとも「伝わった」ことが嬉しかった。
 まるで「以心伝心」。「魔法」なんて使わずとも、二人の「距離」を繋ぐそれは「テレパシー」のようだった。(離れてたって「以心電信」)
 アルテナはふと。またしても、「将来」についての大いなる「展望」を「夢想」していた――。


 彼女は「家」で夕食の支度をいながら「夫」の帰りを待っている。やがてドアをノックする音が聴こえると、すかさず手を止めて。まさしく「犬」のように「しっぽ」を振って、小走りで玄関へと向かう。
「おかえりなさいませ、あなた」
「労う」ように言い、単なる「二人称」である、その「呼び名」に意味を込める。
「ただいま!」
 彼は応える。変わることない「無邪気」な表情で、そこにいくらかの「逞しさ」を携えて。自らの「帰るべき場所」に還ったのだと、「安堵」して見せる。
「相棒」である「剣」を、「パートナー」である自分が預かる。今日一日彼の命を守ってくれた「相棒」に感謝しつつも、けれど今や彼の「命に次に大切なモノ」は「自分」なのだと、その「感慨」と「優越」に浸る。そしてやや冗談まじりに訊ねる。
「すぐに『ご飯』にしますか?『お風呂』にしますか?それとも――」

――ワ・タ・シ?

 言うだけで赤面しそうになる、お決まりの「台詞」である。あまりに「ありがち」で、けれど現実には言わないであろうと「夢の言葉」に、けれどアルテナは「充足」と「幸福」を感じるのだった――。


「アルテナさん?どうしたんですか?」
 彼の言葉で我に返る。「妄想」はそこで打ち止めであった。にも関わらず、アルテナの眼前には、夢と同じ「現実」があった。
「え、えぇ…。大丈夫です。少しばかり疲れているだけで…」
 アルテナは未だ「夢と現」の間を彷徨いながらも、「動揺」を抑えてなんとか答える。旅の「消耗」はそれなりにあったが、彼女の「動悸」はそれが「動機」ではなかった。
「そうですか…。今日はなるべく早く休みましょう!」
 彼はあくまでアルテナを気遣い、そう言った。どこまでも「優しい」彼。
「あ、それと――」
 彼はそこで、アルテナにある「提案」をする。
「流れがそんなに「速く」なくて、「入れそうな」場所があったんです!」
 それがさも「大発見」であるかのように、彼は言う。彼の言わんとしていることがアルテナには分かった。
「『水浴び』でもしてきたらどうですか?」
 彼は言った。それはアルテナにとって「願ってもみない」ものでありながら、けれど彼女は「迷い」を感じた――。

 確かに今日一日の「冒険」といくつかの「戦闘」を経て、アルテナは相当程度の「汗」をかいていた。体中は「ベタついて」いるし、ローブの下はひどく「蒸れている」。
「身だしなみ」にはそれなりの気を配っているつもりだし、自分ではあまり感じていないけれどやはり、「臭い」だって少なからず発生しているだろう。
 特に「下穿き」については――。「汗」とは違うもので「濡れ」、「発酵」し掛けたより強い「刺激臭」を放っているに違いなかった。
 彼の「提案」を聞くまではさほど気にならなかったが。一度その「可能性」を示唆されたとなると――、今すぐにも汗にまみれた体を洗い流し、汚れた「下穿き」を履き替えたいという衝動を抑えられなかった。

 とはいえ。自分「だけ」が良いのだろうか?アルテナは思う。
――「集団生活」において、「個」を優先するべきではない。
「神の教え」を説くまでもなく、それは人として当たり前の「ルール」だ。
 今の自分には「パーティ」の「一員」として与えられた「仕事」がある。それを「放り出して」まで、自らの「娯楽」に走るなど――。
 アルテナは「鍋」を見た。まだ「火」の入っていない静かな「水面」を見つめがら、「葛藤」が「煮詰まる」様子を眺めた。そんな彼女を見て「勇者」は――。

「あとは僕がやっておくので。これでも『ソロ』の時はよく自分で作ってたんですよ」

 彼は「腕まくり」して見せる。「任せておいて!」と、自信満々に言ってのける。アルテナはしばし逡巡したが結局、せっかくの「厚意」に甘えることにした。
「では申し訳ありませんが…、よろしくお願いします」
 アルテナは「提案」に乗り、その場を彼に任せることにした。自らの「責務」を放り出すことに少しの抵抗を感じたが、それでもやはり乙女としての「矜持」を優先することにしたのだった。

 彼におおよその「方角」を聞いて、アルテナは「水浴び」に向かう。森の木々をかき分け少し進んだ先に、目的の場所はあった。
 見るからに清浄そうな「川」が流れていた。川幅が広く、けれど「折れ曲がる」ことでそこで一旦「流れ」が停滞しているため、「勢い」はそれほど強くはない。そして何より、周囲の木々が「目隠し」の役目を果たしてくれているため、容易に「人目」につかなそうであった。
 つくづく彼は、「女心」というものを理解してくれている。彼の深い「思いやり」に感激し、またしても「惚れ直しそう」にながらも、けれどアルテナはやや「不安」にもなった。もし、同じだけの「思いやり」が別の「女性」に向けられたなら――、きっとその「相手」も彼に自分と同じ「想い」を抱いてしまうかもしれない、という危惧だった。 
 だがそんなことを今考えても仕方がない。アルテナは今は「自分だけ」に向けられたものである「厚意」を素直に受け取ることにした。

 アルテナは早速、「木陰」で衣服を脱ぎ始めた。「杖」を置き、「前掛け」を外し、「法衣」を下ろす。くしくも「あの時」と同じ手順は、彼女の「体」に「錯覚」と「混乱」をもたらす。
――少々、「催して」きましたわ…。
「下腹部」と「股間」に感じる、じんわりとした「違和感」。そういえば今日、町を出てからはまだ「一度」もしていない。これまで気づかずにいたけれど、彼女の「膀胱」には確実に「おしっこ」が蓄積され、今やはっきりと「尿意」を自覚していた。
――先に済ませてから…。
 アルテナは「水浴び」をする前の「準備」について考えた。今一度、周囲を見回してみる。辺りは「静寂」に包まれていて「水音」以外せず、どこにも「人影」は見当たらなかった。そうした「状況」が、彼女に甘い「誘惑」をもたらす。
――「ついで」に、しちゃいましょうか…。
 確かな「決意」を新たにして、アルテナは残った「下穿き」を脱ぎ去り、そのまま「川の中」へと入っていく――。

 川の水は冷たく、一瞬心臓が止まりそうであったが、彼女の「火照った体」にはちょうど良かった。「足先」から順番に、「下半身」「上半身」と慣らしていき、馴染んできたところで一気に「頭」まで水に潜る。

――――――。

 周囲の「音」が消え、完全な「静寂」に飲み込まれる。しばし「外界」から閉ざされたことで、アルテナの「心」は「空っぽ」になる。
――バシャ!!
 呼吸の限界を感じて、アルテナは水中から顔を上げる。「周囲の光景は『一変』していた」なんてことはなく、そこには数秒前と同じ「静寂」があった。
「心地良さ」のまま少しばかり泳ぐ彼女の姿は、傍から見るとまるで水の「女神」かはたまた「精霊」のようであったが。けれど、その姿を「目撃」し「目に焼き付ける」者はいない。少なくとも彼女の「知る限り」では――。(一瞬、草影に何か「動くもの」があったが、アルテナがそれに「気づく」ことはなかった)

 しばらく泳いでいると、やはり「冷たさ」のせいもあって、いよいよ「予感」が「確信」めいたものになる。かろうじて足の立つ場所まで移動し、そこでアルテナは「直立」する。
 何をしようとしているのか、彼女だけがそれを知っている。水中にある彼女の「股間」に「指令」が出される。それが「届いた」瞬間、彼女はわずかに「身震い」した。そして――。

――シュイ~!!!

 アルテナの「股間」の周囲に、新たな「水流」が加えられる。わずかに違う「色」の「液体」はやや「温かく」、確かな「匂い」を持っている。けれどそれもすぐに周囲の「水」と同化し、立ち消え流され分からなくなる。

 アルテナは「水中」で「排尿」をしていた――。
 
 あるいは「人としての『禁忌』を犯している」という実感がある。不用意に「自然」を「汚す」というその行為に、アルテナは少しばかりの「罪悪感」を抱くのだった。だがそれもあくまで「建前」であり、決して人に知られてはならないがけれど決して人に知られることはないというその「安堵」と、何より行為自体のその「解放感」と「快感」の前では、いかなる「理性」すらも文字通り「押し流されて」しまうのだった。

――あぁワタクシ、このような静謐な場所で「お小水」を…。

 内心でアルテナは「自戒」する。「しゃがみ込んで」ではなく「立ったまま」でする行為に、「地面」や「便器」に打ち付けられることのない「放尿」に、まるで「お漏らし」のような感覚を抱く。だがアルテナのそれは、決して「下穿き」を濡らすこともなく、その場に留まることもない。「行為」と同時に、「汚れた」部分が「清浄」に洗い流されていく。むしろ「正規」の手順を踏んだ、「排尿行為」と呼べるのかもしれない。

 やがて「水流」が打ち止められる。アルテナは再び「身震い」をして、自らの「体温の一部」が川の中に溶けていったことを自覚した。「出したもの」はすでに遠くへと流れ去り、「出した部分」を拭う必要さえなかったが。それでもやはり「習慣」からか、あるいは「念のため」、今一度よく洗っておくことにした。
 アルテナの「指」が股間に触れる。残存する「臭い」を取り去るべく「割れ目」にあてがわれた指が「何か」に触れ「濡れる」。
「川の水」によるものではない。「おしっこ」とも違う。やや「粘り気」を帯びたその「液体」はまさしく、大いなる「生命の神秘」によるものだった。

 アルテナの「ヴァギナ」は「愛液」を溢れさせていた――。

 冷たい水中にありながらも、けれどその部分は確かな「熱」を持っていた。まるで「海底火山」のように、「温水」ならぬ「女水」を噴出していた。いや「粘度」でいえば、「マグマ」と呼んだ方が的確かもしれない。その「流体」は、それだけは――、「水中」においても「流される」ことはなく、「冷たさ」の中にあっても決して「冷やされる」ことはなかった。むしろアルテナの指がそこを「まさぐる」度、それは続々と溢れ出てきて、「ヌルヌル」とした感触をいつまでも保ち続けていた。
「愛液」が「潤滑油」となって。ますますアルテナの指は「加速」する。最初は付近に触れるだけで甘んじていたが、彼女の「探求心」はやがて「水中洞穴」の深部へと向かうことになる。
 そこは他者にとって「未知」の空間でありながらも、彼女にとっては「既知」の場所。どんな「構造」をしているのか、どこに「快楽」というべき「財宝」が眠っているのかを熟知している。「ダンジョン」と呼ぶにはあまりに「探索」の進んだ「マップ」に、けれど彼女は未だに「冒険者」としての「興味」を失うことはない。
 何度も「行き来」し、「出し入れ」し、「壁」を擦り、時に「強く」時に「優しく」、あくまで「ソロ」での「冒険」を続ける。
 それだけでは物足りずに、もう一歩の手は「洞穴」からやや離れた場所にある「双丘」へと伸びる。その「頂き」に建てられた「尖塔」を、まるで「巨人」が弄ぶが如く「コリコリ」とこねくり回す――。

 やがて「ダンジョン」に、ある「変化」が訪れた。全体が小刻みに「振動」する。アルテナは「予感」を悟った。
 本来ならば――、それが本当の意味での「探索」だとしたら。紛れもなく危険の「兆候」であり、まさしく「危険信号」に他ならない。いかなる深部にいようとも、目指すべきは「出口」であり。何をおいても真っ先に「脱出」を考えるべきである。
 だがアルテナはそうしなかった。彼女の「指」はあくまで「中」に留まったまま、来るべき「衝撃」に備えるべく――むしろここにきてより「激しく」、「探求」を続けるのだった。
「振動」はついに、アルテナの体「全体」に波及する。アルテナは「つま先」に力を込める。そうでもしないと、とても立っていられそうになかった。そうしていても尚、足を滑らせてしまいそうだった。
――ああ、ワタクシ「逝って」しまいます…!!
 まさに「昇天」すべく、アルテナの「心」と「体」は身構えた。思わず目を閉じたアルテナの「瞼の裏」にあったのは――、まさしく「天国」と呼べる光景だった。

――ビクン…!ビクン!!

 アルテナの体が大きく揺さぶられる。突き抜けた「快感」に耐えるべく、アルテナは今一度足に力を入れて、「足の裏」で川底の「石」を掴んだ。

 徐々に「波」が引いていく。少しばかりの「感傷」を残しながらも、まるで「海」のそのように。何事もなかったかの如く、穏やかに去ってゆく――。
 アルテナは静かに目を開いた。そこにはやはり、さっきまでと同じ景色が広がっていた。だが心なしか全ての「音」が、「色」が、「明瞭」に感じられた。
 穏やかな「川の流れ」が、彼女の「火照った体」を冷まし、その「汚れた魂」さえも洗い清めてゆく――。

 出来ることならいつまでもそうしていたかった。だけどそういうわけにはいかない。いい加減「上がらないと」、あまり体を冷やし過ぎてしまっては「風邪」をひいてしまうかもしれない。それに、いつまでも戻らないとなると、彼に余計な「心配」を掛けてしまうだろう。アルテナは名残惜しさを感じながらも、そろそろ「引き上げる」ことにした。

 川から上がって、持ってきていた「布」で体を拭く。吸水性はあまり良くはなく、体はやや「湿った」ままであったが、あとは「自然乾燥」に委ねることにした。
「全裸」を終えるべく、足元の「衣類」を探る。そこで彼女は「あること」に気づいた。

――あら?おかしいですね…?

 アルテナのそばには彼女が「脱いだ」衣服がある。もちろん「脱ぎ散らかす」こともなく、きちんと「折り畳まれて」いる。
「前掛け」に「法衣」に、それから――。「あるもの」が「消失」していた。
 一番「最後」に脱ぎ、一番「最初」に着るべきものが――。

 それは「下穿き」だった。

「衣服」の間に挟んでおいたはずのそれが無くなっている。
――確かに、ここに置いておいたはずなのですが…。
 怪訝に思いながら、一度全ての衣類を広げてみたがやはりない。彼女の「装備」のうち、最も人目に触れることなく、最も「隠したい」その布だけが消えていた。
 やや「困惑」を感じながらも、けれど彼女はさほど「途方に暮れる」ことはなかった。
 アルテナはもう一枚の「下穿き」を取り出した。体を拭いた布に挟んでいたものだ。無くなってしまった方と同じ「純白」のそれ。(アルテナは主に「白」の「下穿き」ばかりを好んでいた)
 まだ「穿いていない」方のそれ。「汚れ」も「染み」もなく、まさに「純白」である「下穿き」に穿き替える。元よりそうするつもりだった。いくら体を「きれい」にしたとはいえ――、きれいにしたからこそ、「同じ下穿き」を穿くことは躊躇われた。
 当然だろう。「汗」と「おしっこ」にまみれたものをわざわざ穿き直したくはなかった。出来ることならついでに「汚れた下穿き」を洗ってしまいたかったが、無くなってしまったものは仕方がない。
 おそらく「小動物」か何かの仕業だろう。アルテナは考える。ずいぶんと「いやらしい」獣がいたものだ。だがそれにしては、あまりに「手口」が「鮮やか」だった。他の衣服は荒らされることはなく、「下穿き」だけを見事に抜き取られている。まるで最初からそれだけが「目的」であったかのように――。
 けれどそれはむしろアルテナにとって、好都合だった。もし「それ以外」もやられていたとしたら――。彼女は「全裸」でパーティの元へと戻らなければならなかった。そういう意味では何とか「最悪の事態」だけは免れ、まさに「不幸中の幸い」であった。

 服を着終えたアルテナは、元来た道を引き返す。

――それにしても…。
 アルテナは盗まれた「下穿き」について考えを巡らせる。
 いくら「理解」を持たぬ「獣」の「所業」とはいえ、「汚れた下着」――「おしっこ」まみれの「下穿き」を見られてしまったことを思い浮かべると、少々気恥ずかしかった。
 

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おかず味噌 2020/08/19 16:10

クソクエ 女僧侶編「想像脱糞 ~異なる者の抱える同じ事情~」

(「前話」はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/357380
(「女戦士編」はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247


「遅せぇよ!」

「御不浄」から「帰還」したアルテナを待ち受けていたのは――、そんな「罵声」だった。もちろん、「誰から」によるものかは明らかだ。

 鍛え上げられた「鋼の肉体」。それを「誇示」するように晒された「褐色の肌」。面積の少ない「布」によって唯一隠された「部分」は、アルテナにはわずかに及ばないまでもやはり圧倒的な「膨らみ」を湛えている。むしろ「隠されていない」分、より「直接的」に男性の「欲望」を刺激し「欲情」を駆り立てる。整った顔立ちは――「系統」こそ違えど、やはりアルテナと同じく――、間違いなく「美人」と称されるべきものであった。

 そうした幾つもの「共通点」を持ちながら――。けれど「両者」の「性質」は、実に「対照的」だった。
 それは何も「職業」のみに起因するものではなく。「性格」や「性分」、そこから派生する「言葉遣い」及び「行動規範」に至るまで、そのほとんどを「異」にしていた。
 アルテナからすれば、ヒルダの「言動」は「がさつ」で「品」がなく、あるいは「女らしさ」と呼べるものとはあまりにかけ離れていた。
「聖職」に身を捧げる者として、本来であればいかなる「隣人」に対しても選好みすることなく、分け隔てなく接するべきところである。だが包み隠さず、あくまで「本音」として述べるならば――。
 アルテナは、その「女戦士」のことをあまり「快く」思っていなかった。

「おいおい、『大便』だったのかよ?」

「女戦士」は「遠慮」も「恥じらい」もなく、平気でそんなことを訊いてくる。その「無粋さ」と「不躾さ」に、やはりアルテナは「うんざり」させられた。
 だが同時に彼女は思う。此度のその「問い」はきっと、「考えなし」に発せられたものではなく、単なる「意地悪」として向けられたものなのだろう、と。
 確かに。アルテナの「滞在時間」は――「全裸にならなければならない」のを差し引いたとしても――あまりに「長過ぎ」であり、それは彼女のしていた「行為」が「小」ではなく「大」だと推定するのに十分なものだった。
 そうして彼女が口ごもったり、答えられずにいるその「反応」を見て「愉しむ」つもりなのだろう。だが、その手には乗らない。

「淑女というものは『身だしなみ』にそれなりの時を要するものなのです」

「答える」代わりに「言葉」を返す。まあ「男性」である「あなた」にはお分かり頂けませんでしょうが、と。「皮肉」を付け加えることも忘れない。

「へぇ~、『淑女』である『聖女様』はケツを拭くのにも時間が掛かるってわけかい?」

 ヒルダも負けてはいない。「揚げ足」を取り、勝手な「解釈」を付け加えることで、アルテナを追い込み、彼女を逃すまいとさらなる「問い」を仕掛けてくる。
 だが、それはあまりに「的外れ」な追求だった。むしろ――、

――「出てくれれば」、どれだけ良かったことか。

 半刻前。アルテナは確かに「便意」を催していた。だからこそ、わざわざ「パーティ」を待たせてまで「御不浄」に向かったのだった。今しかない、と。今ならきっと…、と。微かな「希望」と「予感」を抱いて、「行為」に臨んだのだ。
 だが「蓋」を開けてみれば――。(まさしく「蓋」を開くべく、衣服と「下穿き」を脱ぎ去り、「便器」に跨ったのだ)
 それでもやはり「出なかった」。最後の「門」さえ開かれたものの、そこから「出るべきもの」は何も通過せず。「代わり」とばかりに、数発の「ガス」がかろうじて発せられたが、それでお仕舞い。あとはどれだけ「きばって」みても、「息んで」みても、まさに「うん」ともすんとも言わなかった。
 あれほどまでに「確信」を伴っていた「便意」は一体どこに消えたのだろうか。もう「五日」も出ていない「ブツ」は確実に腹の中にあり、「出したい」という欲求はあるにも関わらず、けれど「出る!」と思い「出す」準備が整った途端、それは見事に「引っ込んで」しまう。なんと「憎らしく」、「罪深い」ことだろう。
 結局、アルテナは今回も「排便」を遂げること叶わず、「ついで」とばかりに「排尿」だけを済まし、「時間」に見合わぬ「成果」ばかりを得て、「敗走」してきたのだった。

 そんな彼女の「葛藤」と「格闘」も知らずに、さも「女戦士」は「大量(大漁)」であったかのように宣っている。アルテナは「苛立ち」を覚えた。
 そもそも普段の「食生活」から鑑みて。宗教上の理由から、そうでなくとも「美容」のため、それなりに「節制」し、主に「菜食中心」のアルテナと。
「食事」はあくまで「力の源」と、あるいは一つの「娯楽」として考え、「暴飲暴食」を厭わず、好きなものを好きなだけ食べ、主に「肉食中心」のヒルダ。
 やはり「食生活」においても対照的な「両者」において。どうして自分ばかりが「便秘」に悩まされるのか。さらには――「運動量」の違いもあるだろうが――どうして自分ばかりが「体型」を気にして尚、日々余分な「脂肪」に苛まれているにも関わらず。彼女の方はそんなことを意にも介していない様子であるのに、決して「太る」ことがないのか。そんな「不平等」と「不条理」に納得がいかず、ここでもアルテナは「神の不在」を感じざるを得なかった。

 それでも。アルテナはこのまま「無言」を、「無回答」を貫くわけにはいかなかった。ここで「何も答えず」にいるということはつまり――、彼女は「認めて」しまうということになる。出てもいない「大便」を、してもいない「排便」を、すっきりと終えたという「推定」を「確定」させてしまうことになる。そうすることでもはや、「勝敗」は決してしまう。(何に対する「勝敗」なのかは甚だ疑問であるし、こと「便秘」についてのものであれば、すでに彼女は「惨敗」なのだが…)
 だから、アルテナはせめて何かしら。たとえ「鼬の最後っ屁」であろうとも、何か言葉を返そうと試みた――。

「あなたのように、ロクに『拭かず』に済ませるわけではありませんから」

 苦し紛れの「反論」だった。というより、その「返し」は大間違いだった。言ったそばから、アルテナは後悔した。それではまるで、自分が「排便した」ことを認めたようではないか――。
 アルテナは「女戦士」を返答を待った。「鈍感」でありながらも、肝心のところで「鋭く」、目ざとい彼女がそれに気づかないはずはない。「じゃあ、やっぱり――」と、事実を「歪曲」したまま、彼女が言及してくることはもはや避けられそうになかった。

 だが。そこで「女戦士」はなぜか狼狽し始めた。一目でそうと分かるほど「解りやすく」、動揺しているらしかった。

「そ、そんなわけ…ないだろ!?ば、馬鹿じゃねぇの?」

 あまりに「稚拙」な返答だった。いや、そもそも彼女の言動には普段からどこか「幼稚」なところがあり、それについてもアルテナは日々「呆れ」させられるのだが。もはやほぼほぼ「論理」が帰着しているところからの、彼女の「崩壊」ぶりはまさしく異常だった。

「ちゃ、ちゃんと拭いてるし!!(あの時はたまたま拭くものが無かっただけで…)」

 後半の部分は聞き取れなかったが、「女戦士」はアルテナの苦し紛れの「反論」に対してごく丁寧に「回答」した。
 ちゃんと拭いている、と。いや、当然だ。いくら「がさつ」で「だらしない」彼女とはいえ、さすがに「排便」した後に「尻」を拭かないはずはないだろう。アルテナにだってそれくらいは分かっている。何もそこまで彼女を「見くびっている」わけではない。
 それに。もしも尻を拭かずにそのまま穿いたりなんてしようものなら――、

「下穿き」に「うんち」が付いてしまう――。

 たとえいくら「すっきり」と出し終えたとはいえ。どうしたって「肛門」は汚れてしまうものなのだ。それは避けられない。たとえ「聖女」であろうと、あるいは「女神」であったとしても――。
 だからこそ「尻を拭く」。それは当然の「行為」だ。もはや「儀式」と呼ぶまでもない。「脱ぐ→出す→拭く→穿く」、その一連の「動作」を含めてこその「排泄」なのであり、どれか一つを「省略」することなどあり得ない。もし万が一、「怠ろう」ものならばそれはもはや――、「お漏らし」である。
「排泄物」が「下穿き」に付着することになる。たとえそれが「少量」であったとしても不快な「感触」は免れず、そこに留まった「モノ」は「臭い」を発することになる。そしてその強烈な「芳香」は決して「内部」だけに留められるものではなく、やがて「外部」にもまき散らすことになる――。
「がさつさ」や「品の無さ」では到底説明ができない。あるいは人間としての「尊厳」さえも失い、「獣」へと成り下がる。(もちろん「獣」は「着衣」などしないだろうし、だからこそ「お漏らし」という概念もないのだろうが…)

「戦闘中」、アルテナがヒルダの「傍に立つ」機会は少ない。それは彼女たちそれぞれの「役割」が「前衛」と「後衛」、「先鋒」と「後方支援」にきれいに「分担」されているがゆえである。それでもやはり「共に旅する仲間」である以上、どうしたって「近接」することがある。
 そんなとき、アルテナはヒルダから発せられる「体臭」を感じることがある。あるいはそれも「女戦士」としての「性分」なのだろうが――、「香水」などを身に着けない彼女からは「汗臭さ」のようなものが漂っている。
 淑女の「身だしなみ」、あるいは最低限の「エチケット」として習慣的に「気を付けている」アルテナにとって、「女性」である自分から「男性」じみた「汗臭さ」がすることはまさしく耐え難いことであったが。かといって、「女戦士」が自分と異なる「価値観」を持っていることについて、とやかく言うつもりはない。
 それに。ヒルダの「体臭」についても、これといって「強烈」なものではなく十分に「許せる」程度のものであり、意識しなければ「気になる」ほどのものでもなかった。

 ましてや。ヒルダから「汗臭さ」とは違う「体臭」――「ウン臭」が漂ってきたことなどは一度もない。もちろん、彼女の「下穿き」や「尻」を直接嗅いだことなどないが、それでも「近く」にいてそれを感じないということはやはり、そんな「疑惑」はないのだろう。
 にも拘わらず。彼女は珍しく「狼狽」している。たとえいかなる「強敵」に囲まれようとも、むしろ「堂々」とし「余裕」を見せ続ける「女戦士」が。なぜかひどく「動揺」し、ひいては顔を赤らめている。その「様子」が不思議でならなかった。
 あるいは彼女としても。ありもしない「事実」を、ましてや「勇者」の前で、さも「真実」であるかのように「断定」されることに。少なからず「抵抗」と「憤り」を感じているのかもしれない。
 アルテナと同じく、ヒルダもまた「勇者」に対して。単なる「同じパーティの仲間」としてだけではない「感情」を密かに抱いていることは知っている。同じ「女」だからこそ、それが分かる。だからこそ余計にアルテナはヒルダのことを「ライバル視」し、それこそが「敵対心」を露わにしている最大の理由なのだった。

 果たして「彼」はどう思っているのだろう。こんなにも「下品」な話題でもって「論争」する「二人」の「女性」を見て、一体どんな「感情」を持つのだろうか。
 あるいは彼の中ではすでに、アルテナは「大便を済ませた者」であり、ヒルダは「拭かない者」であるという「既成事実」が出来上がっているのかもしれない。
 だとしたら、より「恥じる」べきなのはやはりヒルダの方だ。アルテナの行為は「隠したい」ものでこそあれ、あくまで「普通」のことであるのに対して。ヒルダのその「習慣」は――もしそれが「事実」ならば――まさしく「異常」なものである。
 あるいは普段から彼女に背中を預け、(悔しいけれど)一番「近く」にいる彼ならば何か知っているかもしれない。本当にヒルダは「拭かない」のだろうか。今も「下穿き」に「ウンスジ」を刻み付け、尻から「ウン臭」を発しているのだろうか。

 とはいえ。アルテナについてもあまり人の事は言えないのかもしれない。もちろん彼女はちゃんと「拭いている」し、その「拭き具合」を確かめ肛門に「付いていない」ことを認めてから「下穿き」を上げるようにしている。だが、それはあくまで「大」についてであり、「小」については――あまり自信がない。
 現に彼女はその「下穿き」を、本来「純白」であるはずのそれを、「薄黄色」に染め上げてしまっているのだ。それは「拭きの甘さ」から生じる問題ではない。むしろより「直接的」、「穿いたまま」でした行為――すなわち「お漏らし」によって。
 アルテナの「下穿き」には今も「おしっこ」が染み込んでいる。それはさっき「脱いだ」時に確認済みだ。いわゆる「クロッチ」の部分にたっぷりと描き上げられた「小便染み」。彼女の、彼女自身による、「粗相」の「証」。
 それだってやはり「強烈な臭い」を放つものである。もちろん「固体」と「液体」とでは話は別だろうが、「下穿きを汚している」という点においては何ら変わりはない。
 アルテナがかろうじて、その「臭い」を外部に漏らさずに済んでいるのはやはり、彼女の身に着けている「服装」によるものだろう。「下穿き」をすっぽりと覆う丈の長い「ローブ」によって、いわば「内界」と「外界」を隔てているのだ。
 だがそれもあくまで「隠蔽」に過ぎないのである。ひとたびローブの「裾」をめくり、はたまたローブの「中」に顔を差し入れようものならば――。そこはもはや「混沌」のみが支配する「世界」なのである。アルテナの「香り」に満たされた「異世界」。それを「天国」と感じるか、あるいは「地獄」と感じるかはまさしく「主観」によるところでしかないのだ。

 アルテナはふと、勇者の「反応」が気になった。彼が「自分」と「彼女」に対して、どのような「感情」を抱いているのか、ではなく。ここではより単純に「自分」と「彼女」の「秘密」について、彼がそれに「気づき」何かを「知っている」のではないかと。あくまでその「一点」につき、彼の「表情」から読み取ろうと試みた。彼は――、

 ただ穏やかに「笑って」いた。

 例の如く、日常的に「諍い」を繰り返す、彼女たち「二人」。その「双方」ないし「一方」を咎めることもせず、ただただ静かに微笑んでいた。まるで「子供同士」の他愛ない「じゃれ合い」を眺めるように(彼の方が二人よりも「年下」であるにも関わらず)、あるいは「掌上」で踊る「人形」を見つめるように(むしろ「人形」じみた見た目は彼の方なのに)。
 彼のその「優しげ」な眼差しに。溢れんばかりの「愛おしさ」を思わせる双眸に、アルテナは――、

――ジョロロ…。

 股間に「熱い水流」が迸るのを感じた。「下穿き」の中を生温かく「濡らす」もの。

 アルテナはまたしても「お漏らし」をしてしまっていた――。

「くっ…!」とすんでのところで圧し堪えたものの。やはりというか、もはや「被害」は「甚大」であった。「漏れ出た」液体が「下穿き」から溢れ出し、わずかに脚を伝っていた。それは彼女の「想い」を比喩するようだった。

――ああ、ワタクシ。「勇者様」の前で、またしても「はしたない」行為を…。

 アルテナは「罪深い」自分を恥じた。「条件反射」のように、つい「発動」してしまう自らの「癖」を「改めなければ」と思いつつも、その反面。「羞恥」にまみれた自らの「行い」を、出来ることならば彼に「見せつけたい」と願った。
 決して知られてはならない。彼に「軽蔑」され、「幻滅」されてしまう。
 けれど「知られたい」。祭具の下の自分の「本性」を。紛れもない「メス」としての「本能」の姿を。
 そんな「二律背反」の中で、アルテナは身悶え、身をよじらせるのだった――。

「はい、アルテナさん」
 ふいに彼に「名」を呼ばれることで、「女僧侶」はもう少しで「達して」しまいそうだった。けれどなんとか「理性」でもって、それを堪えた。
「あ、ありがとうございます…」
 震える声で答え、「御不浄」に行くにあたって彼に預けていた「荷物」を受け取った。
「さあ、そろそろ出発しますよ!」
 勇者の「号令」が掛かる。いつまでもここで「油を売っている」わけにはいかない。「町」に留まり続けているわけにもいかない。
――我々は「冒険者」なのだ。
 いつか「魔王城」へとたどり着く、その日まで。「彼ら一行」は「町」から「町」、「島」から「島」へと旅を続けなければならない。「打倒魔王」。それこそが彼らの真の「目的」であり、あくまでこの「パーティ」はそれまでの暫定的な「連れ合い」に過ぎないのだ。

 だが「その後」は――?念願叶って「魔王」を打ち滅ぼし、「目的」が達せられたその後は――?果たして、この「パーティ」は「解散」と相成るのだろうか。
「勇者」は「英雄」としてその名を歴史に刻み、人々の「称賛」を存分に浴びることになるだろう。「仲間」である自分と彼女についても、それは同様である。
 だがアルテナが「夢想」するのは、そのことについてではなく。あくまでごく「個人的」な「将来」についての「展望」だった。
 自分と「彼」との「未来」――。そこに微かな「淡い期待」を抱きながら、けれどそのためにはまず「魔王」に代わる「最大の敵」をなんとか出し抜かなければならない、と。勇者の「隣」を歩く「女戦士」の背中を見つめながら、決意を新たにするのだった――。

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おかず味噌 2020/08/16 20:04

クソクエ 女僧侶編「失禁と放尿 ~聖女の秘めたる信仰~」

(「女戦士編」はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247


――天にまします、我らが「父」よ…。

「彼女」は「祈り」を捧げる。目を閉じ、口を引き結んで。掌を合わせ、「膝をつく」のではなく「しゃがみ込んで」。頭を「垂れる」のではなく天を「仰ぐ」ようにして――。

――なぜ、貴方様はこのような「試練」をワタクシにお与えに…。

「彼女」は思う。この世に「生」を受け「生きる」上で、何と「艱難辛苦」の多いことだろう、と。「祈り」は通じず、「願い」は叶わず、いかに「信仰」を重ねようと「救い」が訪れることはない。
「神の巫女」であるはずの彼女としても、さすがに。「主」の実在を疑いたくもなってくる。なにしろ、彼女の「たった一つの願い」さえ、聞き届けられることはないのだから。

――あぁ、神よ。ワタクシは一体どれほど「耐え忍ばなければ」ならないのでしょう。

 すでに「祈り」は十分過ぎるほどに捧げている。そろそろ、いい加減――。


「あ~もう!!『うんち』出てよ~!!!」


「アルテナ」は叫んだ。神聖なる「教会」などではなく、「御不浄」なる「個室」で。「祭壇」に向かってではなく、「便器」にしゃがみ込んだまま――。

 肌を覆う「濃紺」の祭服――いわゆる「全身タイツ」のような「格好」。その「形状」、あるいは「特性上」、「排泄」をするためには一度「全て」を脱ぎ去らなくてはならない。「信仰」の「象徴」である「十字架」の修飾された「前掛け」を取り、背中の「留め具」を外して、「首元」から「足先」まで一気に脱ぐ。途中、彼女の豊満な「凹凸」にそれなりの「抵抗」を感じたが、それでもその慣れた「一連の儀式」にはさしたる「滞り」もなかった。
 脱いだ「衣服」は全て、個室の「壁」に掛けられている。「外」から見れば、「誰が」入っているのか、「行為の最中」であることは一目瞭然なのだが、それも致し方ない。

「聖職者」だって「排泄」はする――。

 それは「真理」でも何でもなく、ただ厳然たる「事実」なのである。あるいは、たとえ「女神」といえども――。
「祭服」を取り去った彼女はもはや「聖女」などではなく、そこにあるのは単なる「ごく普通」の「一人の女性」の姿であった。ただ一つ、彼女のその「美貌」がまるで「女神」と見紛うほど「美しい」ことを除けば――。

「女神」は現在、「衣服」はおろか「下着」さえも身に着けてはいなかった。「下穿き」については「最中」であるがゆえ「当然」なのだが、彼女は「胸部」を隠すための「布」さえ纏ってはいないのだ。
 それはなぜか?「問い」に対する「答え」は自明である。それはつまり――、彼女が「元々」それを身に着けない「習慣」であるからだ。

 先述の通り、彼女の「普段着」は全身をすっぽりと「覆い隠す」濃紺の祭服である。「前掛け」の大仰な「刺繍模様」を除けば、他に「装飾」の類は一切なく、その「装い」は実に「地味」一辺倒のものである。
 その「質実さ」は、「華美であれ」とする本来の「服飾」のあり方とはむしろ真向から「対立」するものであり、そこには彼女がその「身」と「人生」を賭して歩む「信仰の道」における、まさしく「神の教え」の一つが大いに息づいている。すなわち――、

 隣人、色を好むべからず――。

 というものである。いまだ「修行の道」の途上である「修道女」の彼女にとって、いわゆる「恋愛」は「ご法度」であり、たとえ自分に「その気」がなくとも――、むしろないのであればこそ余計に――、不用意に「異性」に「劣情」を抱かせるような「格好」ないし「行動」は「慎む」べきである、という「教え」である。
 だが他のものはともかくその「教え」についてだけは、彼女はいささかの「疑問」を呈したくもあった。
「信仰」とはつまり、日々の「祈り」によって遂げられるものであり。「祈り」とはつまり、「願い」の「可視化」に過ぎない。では何について「願う」のかといえば――人によって様々であろうが、大きく「一言」で括るならば――それは「愛」についてである。
「家族愛」、「兄弟愛」、「隣人愛」。「愛」においてはまさに多様なものがあるが、それらをやはり「一言」でいうならば、それは「人類愛」である。
 つまりは「人」が「人」に向ける「思い」、「感情」、「労り」、「労い」、「優しさ」、「慰め」、「慈しみ」、「親しみ」、「想い」。それこそが「愛」なのだ。
 であるならば、いわゆる「男女間」における「愛情」についても、それは当て嵌まるのではないだろうか。いやむしろ、本来全くの「他人同士」である「関係性」から、「逢瀬」と「接触」と時を経てこそ培われるその「愛」こそまさに、人類における「真の愛」ではないだろうか。

 アルテナはそう思っている。そして現に、そんな彼女にも「真なる愛」を真摯に捧げる「紳士」。つまりは「想い人」と呼ぶべき「存在」がいる。
 その「彼」はどこか頼りなく、ときに危なっかしくて、いつも彼女を「落ち着かない」気持ちにさせる。「庇護欲」を駆り立てられるような、あるいは「母性」すらも感じさせるような、まるで「童子」のような見た目でありながら――。
 けれどその「瞳」に宿る「意志」は強く、ひとたび「剣」を振る彼に「背中」を預け、あるいは「前衛」を任せれば、その「矮躯」には到底「不相応」な「敵」を次々と「なぎ倒して」ゆく――。
 そして、やがて「戦闘」を終えれば、また「いつも」のどこか頼りなく、「無邪気」で「幼い」だけの「少年」に戻っている――。
 そんな「彼」の「意外性」ともいえる「ギャップ」に。「はっとさせられた」経験は、一度や二度では到底及ばない。まるで彼の「掌」で思うように「転が」され、彼の「一挙手一投足」に「右往左往」させられ、いまだ知り得ない彼の「内心」に「一喜一憂」させられてしまうことが、彼女にとっては「もどかしく」もあり、けれど同時にそれ自体が「幸福」でもあった。
 つまり「一言」でいうならば――、

 アルテナは「勇者」に「恋心」を抱いていたのだった。

 とはいえ、それは「秘めたる想い」。いつか「打ち明ける」その時まで、「胸の奥」に厳重に「鍵」を掛けて「閉まっておくべき願い」。(やや、想いが「溢れ出して」しまう時もあるけれど…)
 あるいは「未来永劫」、「門外不出」のものであろうとも。「永遠」に「その時」が訪れることがなくとも。それでも彼女はただひたすらに、その「想い」を日々「醸成」し続け、その「はちきれんばかりの胸」に抱え込んでいるのだ。


 さて。やや「脱線」し掛けたが、ここで今の「状況」に話を戻すことにしよう――。

 そもそも彼女がなぜ、いわゆる「異世界」、「別時代」において「ブラジャー」と称される「婦人専用下着」を身に着けていないのか、だ。
 それについて語るにはやはり、彼女の「着衣」に話を戻さなければならない。
「質素であれ」とする彼女の「祭服」には、けれどその「見た目」において裏腹の「問題」を孕んでいる。それは彼女のその服の「形状」が――、あまりに「ぴったり」とし過ぎている、ということだ。
 それもあるいは「彼女でなければ」、さしたる「問題」ではなかったのかもしれない。たとえば彼女にとって「大先輩」にあたる、「老境」の「シスター」であったならば。それとも「年齢」は彼女とほぼ似通った「年の頃」である「若い修道女」であったとしても。もし、その者の「凹凸」がそれなりに「平坦」であったならば、やはり「問題」には至らなかったであろう。
 つまり。いわゆる彼女の「女性としての膨らみ」が、平均的な「婦人」のものと比べてあまりに「穏やか」でないことにこそ、その「問題」は起因するのだ。
「有り体に言えば」――、より「直接的」に、「控える」ことなくいうならば――、

 アルテナの「身体」は、とても「いやらしかった」――。

 眉根の垂れ下がった、そのどちらかといえば「保守的」な見た目に反して、その「肉体」はあまりに「攻撃的」であり「暴力的」ですらあった。
 全身を布で覆い隠しているにもかかわらず、いやむしろ「覆い隠している」からこそ余計に――。その「女性的な膨らみ」はより顕著に、まるでその「存在」を「誇示」するように「顕現」するのであった。
 ただ立っていても、その「丸み」は容易に窺え。あるいは「前屈み」になったりしようものならば、さらにその「部分」は「強調」され、「男性」の「視線」を「釘付け」にするのにもはや何の「遠慮」も感じられなかった。
 あるいは共に旅をする「仲間」である、「パーティメンバー」の「一人」。あまりに「過激な格好」であり「露出過多」であるところの「女戦士」と比べてみても。その「胸」も「尻」も、およそ「ひと回り」は「豊かさ」を余分に持ち合わせていた。

 彼女自身、自らのその「身体」が時に「疎ましく」思うこともあった。「欲」を禁じるべき「精神」をその身に宿しておきながら、けれどその「肉体」はまさに「欲望の権化」であるという「矛盾」。たとえ彼女に「その気」がなくとも、自らは決して意図せずとも、「男性」の視線をしきりに集めてしまうという「背反」。
 さすがに「神の巫女」である彼女に対して、あまりに「不躾」な「熱線」を送る「殿方」こそ少ないが。けれど街中においては確かに感じる、いわゆる「チラ見」という疎らな視線。
「対象」である彼女自身がそれに気づかないわけもなく。その「視線」の出所である「雄」の姿を視界の端に捉えてしまう。そして、それこそ「見なければ」いいのにも関わらず、どうしたって目に入ってしまう。一皮剥けばまさしく「獣」であるところの彼らの「衣服」のある部分――、いわゆる「ズボン」の「一点」が大きく「膨らんで」しまっているのを。

「男根」を「勃起」させている姿を――。

「町」にはあらゆる「職業」の者が行き交っている。「商人」、「鍛冶屋」、「戦士」、「武闘家」、「魔法使い」など。そうした者の中には「一目」でその「職業」と判る「格好」をしている輩もいる。
 自らの「肉体」をまるで「武器」や「防具」の一つと捉え、それを「誇示」して歩く者。「上半身裸」な者のみならず、あるいは「全裸」に近い者だって少なくはない。
 そんな「無骨」な「野郎」達が――、胸を張って堂々と闊歩する「もののふ」達が――、「修道着姿」の彼女を目にするなりどこか「気まずそう」に、場合によってはやや「前屈み」になるのである。
 だがそれは致し方ない事だ。男性の「本能」による「習性」であり、あるいは正常な「反応」に過ぎないのかもしれない。だから彼女は、そうした「欲求」を「前面」に押し出す彼らを、いちいち咎めたりなどしない。むしろこんな「肉体」をしているにも関わらず、こんな「格好」をして平然と歩いている自分にこそ「非がある」のかもしれない、と彼女は思うようにしている。

 だが「魔法使い」達については別だ。
 彼らの「格好」はそのほとんどが「厚手のローブ」である。その「装備」については「魔力」における何らかの「恩恵」を受けるためのものであるのだろうが、それのみならず彼らは自らのその「非力」な体を覆い隠すために、そうした「服装」を好んでいるのだと、アルテナは勝手にそう思っている。
 あるいは「男性」「女性」問わず、どちらでも「装備」できるその「防具類」は、まさしく彼らの「男性的魅力の無さ」の裏付けであると、やはり「偏見」じみた考えを彼女は抱いている。
 だがそんな「彼ら」もまた、ひとたび彼女をその視界に捉えた時の「反応」は実に「男性らしい」ものだった。
 分かりやすく「動揺」し始め、意識的に「視線」を逸らそうと試みる。それでもやはり「本能」と「欲求」には抗いきれず、結局何か「別の方向」を見る振りをしつつ、「チラチラ」と疎らながらも「執拗」な視線を向けてくるのだ。
 だがそれについては、彼女は「赦して」いる。理由はやはり前述の通りである。問題はその後――、彼らのその「反応」についてだ。

 彼らもまた「半裸の男達」と同じく、やや「前屈み」になり始める。あるいは自らのその「反応」を「恥じる」ように、少しでも「目立たせない」ようにするために、「腰を引く」ことで「膨らみ」を相殺しようと考える。けれどそれは、いささか「ヘン」ではないだろうか。

 すでに「描写済み」のように、「彼ら」は主に「ローブ」などを身にまとっている。それは十分に「下半身」に「余裕」のある衣類であり、「戦士」や「武闘家」たちのように「半裸」であるわけでも、「動きやすさ」を重視するがゆえの「剥き出し」の格好でもない。にも関わらず――。

 彼らもまた「腰を引く」のだ。

「普通」にしていればただそれだけで。たとえいかなる「劣情」を抱こうとも、あらぬ「妄想」に耽ろうとも、「外」から見れば「それ」は分からないはずなのに。(あるいは彼らが「異世界」「別時代」における「魔法使い」の「正装」である「『チェック・シャツ』をズボンに『イン』」する格好でもしているならば、話は別だが――。)
 それなのに――。さして「巨根」であるわけでもないだろうに(それもまた彼女の「偏見」である)、必要以上に「股間」を隠そうとするのである

「服装」と「体勢」。それでさえもはや「過剰」であろうに。けれど、その上彼らはさらなる「隠蔽」を試みようとする。
 それは彼らの持つ「武器」であり同時に「防具」でもある、「ある装備」によって行われる。

「杖」、「ステッキ」――。

「魔法」を行使する者にとってはまさしく「必需品」であり、「剣」や「盾」を持たない彼らにとっての「代替品」。己の「非力」さをカバーするものでありながら、「実力」を発揮するためにこそ用いられるもの。
 その「形状」は実に様々で――。アルテナが「所持」しているような、「霊験」あらたなかな「神木」の「幹」や「枝木」をそのまま用い、上部に「宝玉」などをはめ込んだだけの「無骨」なものもあれば。
「既製品」ともいえる、「丈夫」で「シンプル」な素材に「奇跡」の類を付与することで「デザイン」された、「コンパクト」で「スタイリッシュ」なものもある。
 そのどちらにせよ、軒並み「小柄」である彼らにおいてその「装備」はやや「長大」に過ぎ、その「矮躯」に対してやや「持て余している感」がある。
 その「杖」を用いて彼らは――、

 自らの「股間」を隠そうと試みるのだ。

「神聖」なる「巨木」、あるいは「華美」で「荘厳」なそれを、自らの「陳腐」で「醜悪」な「小枝」を隠すことに用いる。まさに「神」を、「奇跡」を軽んじ、「冒涜」する行為に他ならない。

 そして――。彼らは「隠す」だけでは飽き足らず、自らの股間に「挟み込む」ように「装備」したその「棒」を用いて、あるいは「魔術」とも呼べる「儀式」を始める。

「逞しく」「立派」であるそれに、自らの「チンケな棒」を擦り付けるのだ――。

 まるで「古代」の「魔女」さながらに。「箒」ではなく「杖」に跨るようにしながら。「太く」頑強な棒に、自らの「細く」ひ弱な棒にあてがう。
 そうして「奇跡」とは程遠く、「祈り」にさえ及ばない、ただ目先の「願い」を叶えることだけに腐心する。
 果たして、その「行為」の一体どこに「救い」があるというのだろう。決して「本懐」には至らず、あくまで「代替」に過ぎないだけのその「行い」に。あるいは届くことのない「女体」の「夢」を描くのだろうか。それとも、「死骸」となっても変わらず「選ばれし存在」である「神の子」と、決して「選ばれる」ことのない「愚息」とを比較して、ある種の「憧憬」を重ねるのだろうか。

 一見して「豪快さ」や「無謀さ」とはおよそ無縁であるように思える「彼ら」は、けれどその場においては実に「大胆」に振舞う。
 周囲の者、あるいは「対象」である「アルテナ」に。「気づかれていない」とでも思っているのだろうか。自身は「無遠慮」に「視線」を向けておきながら。まるでそれが「不可逆」のものとでも思い込んでいるのだろうか。
 もしそうだとしたら――、あまりに「浅慮」である。「想像力」が欠如している。
 あるいは彼らの脳内に描き出される「光景」は、彼らにとって実に「都合よく」書き換えられ、「不都合」は排されているのかもしれない。

 次第に彼らの「息」は上がり、「愚息」からもたらせられる「快感」によって。「猫背」気味の彼らの「背筋」はピンと伸びて、ただただ「欲望」のみに従う「子羊」となる。あまりに「無恥」で「無様」である、そんな彼らの姿を見てアルテナは、

「お漏らし」をしてしまうのだった――。

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