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放尿の記事 (11)

おかず味噌 2020/08/16 20:04

クソクエ 女僧侶編「失禁と放尿 ~聖女の秘めたる信仰~」

(「女戦士編」はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247


――天にまします、我らが「父」よ…。

「彼女」は「祈り」を捧げる。目を閉じ、口を引き結んで。掌を合わせ、「膝をつく」のではなく「しゃがみ込んで」。頭を「垂れる」のではなく天を「仰ぐ」ようにして――。

――なぜ、貴方様はこのような「試練」をワタクシにお与えに…。

「彼女」は思う。この世に「生」を受け「生きる」上で、何と「艱難辛苦」の多いことだろう、と。「祈り」は通じず、「願い」は叶わず、いかに「信仰」を重ねようと「救い」が訪れることはない。
「神の巫女」であるはずの彼女としても、さすがに。「主」の実在を疑いたくもなってくる。なにしろ、彼女の「たった一つの願い」さえ、聞き届けられることはないのだから。

――あぁ、神よ。ワタクシは一体どれほど「耐え忍ばなければ」ならないのでしょう。

 すでに「祈り」は十分過ぎるほどに捧げている。そろそろ、いい加減――。


「あ~もう!!『うんち』出てよ~!!!」


「アルテナ」は叫んだ。神聖なる「教会」などではなく、「御不浄」なる「個室」で。「祭壇」に向かってではなく、「便器」にしゃがみ込んだまま――。

 肌を覆う「濃紺」の祭服――いわゆる「全身タイツ」のような「格好」。その「形状」、あるいは「特性上」、「排泄」をするためには一度「全て」を脱ぎ去らなくてはならない。「信仰」の「象徴」である「十字架」の修飾された「前掛け」を取り、背中の「留め具」を外して、「首元」から「足先」まで一気に脱ぐ。途中、彼女の豊満な「凹凸」にそれなりの「抵抗」を感じたが、それでもその慣れた「一連の儀式」にはさしたる「滞り」もなかった。
 脱いだ「衣服」は全て、個室の「壁」に掛けられている。「外」から見れば、「誰が」入っているのか、「行為の最中」であることは一目瞭然なのだが、それも致し方ない。

「聖職者」だって「排泄」はする――。

 それは「真理」でも何でもなく、ただ厳然たる「事実」なのである。あるいは、たとえ「女神」といえども――。
「祭服」を取り去った彼女はもはや「聖女」などではなく、そこにあるのは単なる「ごく普通」の「一人の女性」の姿であった。ただ一つ、彼女のその「美貌」がまるで「女神」と見紛うほど「美しい」ことを除けば――。

「女神」は現在、「衣服」はおろか「下着」さえも身に着けてはいなかった。「下穿き」については「最中」であるがゆえ「当然」なのだが、彼女は「胸部」を隠すための「布」さえ纏ってはいないのだ。
 それはなぜか?「問い」に対する「答え」は自明である。それはつまり――、彼女が「元々」それを身に着けない「習慣」であるからだ。

 先述の通り、彼女の「普段着」は全身をすっぽりと「覆い隠す」濃紺の祭服である。「前掛け」の大仰な「刺繍模様」を除けば、他に「装飾」の類は一切なく、その「装い」は実に「地味」一辺倒のものである。
 その「質実さ」は、「華美であれ」とする本来の「服飾」のあり方とはむしろ真向から「対立」するものであり、そこには彼女がその「身」と「人生」を賭して歩む「信仰の道」における、まさしく「神の教え」の一つが大いに息づいている。すなわち――、

 隣人、色を好むべからず――。

 というものである。いまだ「修行の道」の途上である「修道女」の彼女にとって、いわゆる「恋愛」は「ご法度」であり、たとえ自分に「その気」がなくとも――、むしろないのであればこそ余計に――、不用意に「異性」に「劣情」を抱かせるような「格好」ないし「行動」は「慎む」べきである、という「教え」である。
 だが他のものはともかくその「教え」についてだけは、彼女はいささかの「疑問」を呈したくもあった。
「信仰」とはつまり、日々の「祈り」によって遂げられるものであり。「祈り」とはつまり、「願い」の「可視化」に過ぎない。では何について「願う」のかといえば――人によって様々であろうが、大きく「一言」で括るならば――それは「愛」についてである。
「家族愛」、「兄弟愛」、「隣人愛」。「愛」においてはまさに多様なものがあるが、それらをやはり「一言」でいうならば、それは「人類愛」である。
 つまりは「人」が「人」に向ける「思い」、「感情」、「労り」、「労い」、「優しさ」、「慰め」、「慈しみ」、「親しみ」、「想い」。それこそが「愛」なのだ。
 であるならば、いわゆる「男女間」における「愛情」についても、それは当て嵌まるのではないだろうか。いやむしろ、本来全くの「他人同士」である「関係性」から、「逢瀬」と「接触」と時を経てこそ培われるその「愛」こそまさに、人類における「真の愛」ではないだろうか。

 アルテナはそう思っている。そして現に、そんな彼女にも「真なる愛」を真摯に捧げる「紳士」。つまりは「想い人」と呼ぶべき「存在」がいる。
 その「彼」はどこか頼りなく、ときに危なっかしくて、いつも彼女を「落ち着かない」気持ちにさせる。「庇護欲」を駆り立てられるような、あるいは「母性」すらも感じさせるような、まるで「童子」のような見た目でありながら――。
 けれどその「瞳」に宿る「意志」は強く、ひとたび「剣」を振る彼に「背中」を預け、あるいは「前衛」を任せれば、その「矮躯」には到底「不相応」な「敵」を次々と「なぎ倒して」ゆく――。
 そして、やがて「戦闘」を終えれば、また「いつも」のどこか頼りなく、「無邪気」で「幼い」だけの「少年」に戻っている――。
 そんな「彼」の「意外性」ともいえる「ギャップ」に。「はっとさせられた」経験は、一度や二度では到底及ばない。まるで彼の「掌」で思うように「転が」され、彼の「一挙手一投足」に「右往左往」させられ、いまだ知り得ない彼の「内心」に「一喜一憂」させられてしまうことが、彼女にとっては「もどかしく」もあり、けれど同時にそれ自体が「幸福」でもあった。
 つまり「一言」でいうならば――、

 アルテナは「勇者」に「恋心」を抱いていたのだった。

 とはいえ、それは「秘めたる想い」。いつか「打ち明ける」その時まで、「胸の奥」に厳重に「鍵」を掛けて「閉まっておくべき願い」。(やや、想いが「溢れ出して」しまう時もあるけれど…)
 あるいは「未来永劫」、「門外不出」のものであろうとも。「永遠」に「その時」が訪れることがなくとも。それでも彼女はただひたすらに、その「想い」を日々「醸成」し続け、その「はちきれんばかりの胸」に抱え込んでいるのだ。


 さて。やや「脱線」し掛けたが、ここで今の「状況」に話を戻すことにしよう――。

 そもそも彼女がなぜ、いわゆる「異世界」、「別時代」において「ブラジャー」と称される「婦人専用下着」を身に着けていないのか、だ。
 それについて語るにはやはり、彼女の「着衣」に話を戻さなければならない。
「質素であれ」とする彼女の「祭服」には、けれどその「見た目」において裏腹の「問題」を孕んでいる。それは彼女のその服の「形状」が――、あまりに「ぴったり」とし過ぎている、ということだ。
 それもあるいは「彼女でなければ」、さしたる「問題」ではなかったのかもしれない。たとえば彼女にとって「大先輩」にあたる、「老境」の「シスター」であったならば。それとも「年齢」は彼女とほぼ似通った「年の頃」である「若い修道女」であったとしても。もし、その者の「凹凸」がそれなりに「平坦」であったならば、やはり「問題」には至らなかったであろう。
 つまり。いわゆる彼女の「女性としての膨らみ」が、平均的な「婦人」のものと比べてあまりに「穏やか」でないことにこそ、その「問題」は起因するのだ。
「有り体に言えば」――、より「直接的」に、「控える」ことなくいうならば――、

 アルテナの「身体」は、とても「いやらしかった」――。

 眉根の垂れ下がった、そのどちらかといえば「保守的」な見た目に反して、その「肉体」はあまりに「攻撃的」であり「暴力的」ですらあった。
 全身を布で覆い隠しているにもかかわらず、いやむしろ「覆い隠している」からこそ余計に――。その「女性的な膨らみ」はより顕著に、まるでその「存在」を「誇示」するように「顕現」するのであった。
 ただ立っていても、その「丸み」は容易に窺え。あるいは「前屈み」になったりしようものならば、さらにその「部分」は「強調」され、「男性」の「視線」を「釘付け」にするのにもはや何の「遠慮」も感じられなかった。
 あるいは共に旅をする「仲間」である、「パーティメンバー」の「一人」。あまりに「過激な格好」であり「露出過多」であるところの「女戦士」と比べてみても。その「胸」も「尻」も、およそ「ひと回り」は「豊かさ」を余分に持ち合わせていた。

 彼女自身、自らのその「身体」が時に「疎ましく」思うこともあった。「欲」を禁じるべき「精神」をその身に宿しておきながら、けれどその「肉体」はまさに「欲望の権化」であるという「矛盾」。たとえ彼女に「その気」がなくとも、自らは決して意図せずとも、「男性」の視線をしきりに集めてしまうという「背反」。
 さすがに「神の巫女」である彼女に対して、あまりに「不躾」な「熱線」を送る「殿方」こそ少ないが。けれど街中においては確かに感じる、いわゆる「チラ見」という疎らな視線。
「対象」である彼女自身がそれに気づかないわけもなく。その「視線」の出所である「雄」の姿を視界の端に捉えてしまう。そして、それこそ「見なければ」いいのにも関わらず、どうしたって目に入ってしまう。一皮剥けばまさしく「獣」であるところの彼らの「衣服」のある部分――、いわゆる「ズボン」の「一点」が大きく「膨らんで」しまっているのを。

「男根」を「勃起」させている姿を――。

「町」にはあらゆる「職業」の者が行き交っている。「商人」、「鍛冶屋」、「戦士」、「武闘家」、「魔法使い」など。そうした者の中には「一目」でその「職業」と判る「格好」をしている輩もいる。
 自らの「肉体」をまるで「武器」や「防具」の一つと捉え、それを「誇示」して歩く者。「上半身裸」な者のみならず、あるいは「全裸」に近い者だって少なくはない。
 そんな「無骨」な「野郎」達が――、胸を張って堂々と闊歩する「もののふ」達が――、「修道着姿」の彼女を目にするなりどこか「気まずそう」に、場合によってはやや「前屈み」になるのである。
 だがそれは致し方ない事だ。男性の「本能」による「習性」であり、あるいは正常な「反応」に過ぎないのかもしれない。だから彼女は、そうした「欲求」を「前面」に押し出す彼らを、いちいち咎めたりなどしない。むしろこんな「肉体」をしているにも関わらず、こんな「格好」をして平然と歩いている自分にこそ「非がある」のかもしれない、と彼女は思うようにしている。

 だが「魔法使い」達については別だ。
 彼らの「格好」はそのほとんどが「厚手のローブ」である。その「装備」については「魔力」における何らかの「恩恵」を受けるためのものであるのだろうが、それのみならず彼らは自らのその「非力」な体を覆い隠すために、そうした「服装」を好んでいるのだと、アルテナは勝手にそう思っている。
 あるいは「男性」「女性」問わず、どちらでも「装備」できるその「防具類」は、まさしく彼らの「男性的魅力の無さ」の裏付けであると、やはり「偏見」じみた考えを彼女は抱いている。
 だがそんな「彼ら」もまた、ひとたび彼女をその視界に捉えた時の「反応」は実に「男性らしい」ものだった。
 分かりやすく「動揺」し始め、意識的に「視線」を逸らそうと試みる。それでもやはり「本能」と「欲求」には抗いきれず、結局何か「別の方向」を見る振りをしつつ、「チラチラ」と疎らながらも「執拗」な視線を向けてくるのだ。
 だがそれについては、彼女は「赦して」いる。理由はやはり前述の通りである。問題はその後――、彼らのその「反応」についてだ。

 彼らもまた「半裸の男達」と同じく、やや「前屈み」になり始める。あるいは自らのその「反応」を「恥じる」ように、少しでも「目立たせない」ようにするために、「腰を引く」ことで「膨らみ」を相殺しようと考える。けれどそれは、いささか「ヘン」ではないだろうか。

 すでに「描写済み」のように、「彼ら」は主に「ローブ」などを身にまとっている。それは十分に「下半身」に「余裕」のある衣類であり、「戦士」や「武闘家」たちのように「半裸」であるわけでも、「動きやすさ」を重視するがゆえの「剥き出し」の格好でもない。にも関わらず――。

 彼らもまた「腰を引く」のだ。

「普通」にしていればただそれだけで。たとえいかなる「劣情」を抱こうとも、あらぬ「妄想」に耽ろうとも、「外」から見れば「それ」は分からないはずなのに。(あるいは彼らが「異世界」「別時代」における「魔法使い」の「正装」である「『チェック・シャツ』をズボンに『イン』」する格好でもしているならば、話は別だが――。)
 それなのに――。さして「巨根」であるわけでもないだろうに(それもまた彼女の「偏見」である)、必要以上に「股間」を隠そうとするのである

「服装」と「体勢」。それでさえもはや「過剰」であろうに。けれど、その上彼らはさらなる「隠蔽」を試みようとする。
 それは彼らの持つ「武器」であり同時に「防具」でもある、「ある装備」によって行われる。

「杖」、「ステッキ」――。

「魔法」を行使する者にとってはまさしく「必需品」であり、「剣」や「盾」を持たない彼らにとっての「代替品」。己の「非力」さをカバーするものでありながら、「実力」を発揮するためにこそ用いられるもの。
 その「形状」は実に様々で――。アルテナが「所持」しているような、「霊験」あらたなかな「神木」の「幹」や「枝木」をそのまま用い、上部に「宝玉」などをはめ込んだだけの「無骨」なものもあれば。
「既製品」ともいえる、「丈夫」で「シンプル」な素材に「奇跡」の類を付与することで「デザイン」された、「コンパクト」で「スタイリッシュ」なものもある。
 そのどちらにせよ、軒並み「小柄」である彼らにおいてその「装備」はやや「長大」に過ぎ、その「矮躯」に対してやや「持て余している感」がある。
 その「杖」を用いて彼らは――、

 自らの「股間」を隠そうと試みるのだ。

「神聖」なる「巨木」、あるいは「華美」で「荘厳」なそれを、自らの「陳腐」で「醜悪」な「小枝」を隠すことに用いる。まさに「神」を、「奇跡」を軽んじ、「冒涜」する行為に他ならない。

 そして――。彼らは「隠す」だけでは飽き足らず、自らの股間に「挟み込む」ように「装備」したその「棒」を用いて、あるいは「魔術」とも呼べる「儀式」を始める。

「逞しく」「立派」であるそれに、自らの「チンケな棒」を擦り付けるのだ――。

 まるで「古代」の「魔女」さながらに。「箒」ではなく「杖」に跨るようにしながら。「太く」頑強な棒に、自らの「細く」ひ弱な棒にあてがう。
 そうして「奇跡」とは程遠く、「祈り」にさえ及ばない、ただ目先の「願い」を叶えることだけに腐心する。
 果たして、その「行為」の一体どこに「救い」があるというのだろう。決して「本懐」には至らず、あくまで「代替」に過ぎないだけのその「行い」に。あるいは届くことのない「女体」の「夢」を描くのだろうか。それとも、「死骸」となっても変わらず「選ばれし存在」である「神の子」と、決して「選ばれる」ことのない「愚息」とを比較して、ある種の「憧憬」を重ねるのだろうか。

 一見して「豪快さ」や「無謀さ」とはおよそ無縁であるように思える「彼ら」は、けれどその場においては実に「大胆」に振舞う。
 周囲の者、あるいは「対象」である「アルテナ」に。「気づかれていない」とでも思っているのだろうか。自身は「無遠慮」に「視線」を向けておきながら。まるでそれが「不可逆」のものとでも思い込んでいるのだろうか。
 もしそうだとしたら――、あまりに「浅慮」である。「想像力」が欠如している。
 あるいは彼らの脳内に描き出される「光景」は、彼らにとって実に「都合よく」書き換えられ、「不都合」は排されているのかもしれない。

 次第に彼らの「息」は上がり、「愚息」からもたらせられる「快感」によって。「猫背」気味の彼らの「背筋」はピンと伸びて、ただただ「欲望」のみに従う「子羊」となる。あまりに「無恥」で「無様」である、そんな彼らの姿を見てアルテナは、

「お漏らし」をしてしまうのだった――。

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おかず味噌 2020/05/11 05:49

ちょっとイケないこと… 第十一話「聴覚と味覚」

(第十話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/247599


「良かった。お姉ちゃん『トイレ』に行きたかったの…」

 不安を抱くような、安心を吐くような言葉。やや籠って聞こえづらかったけれど、それは紛れもなくお姉ちゃんの声だった。

 無関係の他人ではなく、無歓迎な客人ではなく、無我無心を装った人狼でもない。やはり僕は何のためらいもなく、ドアを開けてあげるべきだったのだ。

 それでも。僕はもう一度、ドアスコープを覗いた。一体どういう原理なのだろう、小さな覗き穴からでもお姉ちゃんのほぼ全身が見て取れた。

 今朝と同じ服装。だけどその顔からはいつもの笑顔が消え去り、困っているような焦っているかのような表情が窺えた。眉は垂れ下がり、唇はきつく結ばれていた。

 両手はお腹よりも少しばかり下の位置にあてがわれて、そこを強く押さえていた。両脚は「もじもじ」と何度も組み替えられて、足踏みしながら何かを堪えていた。

 もはや全ての証拠は揃い、自供さえも得られた。それは決して僕の憶測ではなく、あるいは過去の前科による冤罪でもない。

 あの夜に目撃した証拠隠滅の現場。お姉ちゃんの『おしっこ』という名の被疑者。それが今や体内に溜め込まれ、凶器なる『尿意』による再犯を企んでいるのだった。

 ひょっとしたらひょっとするかもしれない。僕がこのままドアを開けなければ…。


「ねぇ、純君。悪いんだけど、早く開けてもらえないかな…?」

 再びお姉ちゃんの声がした。その瞬間ふと我に返り、瞬く間に悪巧みは霧散した。

――僕はなんて、意地悪なことを考えていたんだろう?

 僕がまだ小学生だった頃、よく自分のお小遣いで漫画を買ってくれたお姉ちゃん。(もちろん僕は覚えていないけれど、ママが言うには)僕がまだ赤ちゃんだった頃、オムツを替えてくれていたお姉ちゃん。(それについては覚えていなくて良かった)

 そんな優しいお姉ちゃんを。なぜ、そんな酷い目に遭わせなくてはならないのか?ほんの一瞬でも魔が差し、束の間の期待をしてしまった自分を恥じた。

「卑怯者」「裏切者」。漫画の中で敵に向けられる台詞が、僕自身に浴びせられる。

 正義の味方になりたかった時期は卒業したし、最近では悪の側に魅せられることも少なくないけれど。あくまで僕が憧れるのはカリスマ性を兼ね備えた大悪党であり、姑息で卑劣な小悪党なんかじゃない。


 僕は鍵を解錠した。チェーンロックを外して、ドアを開放する。

 すぐにお姉ちゃんがドアの隙間から滑り込んでくる。僕に体が触れるのも構わず、僕の横をすり抜けていく。(僕はアソコが当たらないようにこっそりと腰を引いた)

「ありがとう、純君」

 僕の方を振り向きもせず背中越しにお姉ちゃんは言う。よほど余裕がないらしい。普段は決してしないような行儀の悪さで靴を脱ぎ散らかし、そのまま玄関を上がる。

 廊下を進んでいく。僕の手前もあってだろうか、廊下を走るなんてことはしない。あくまでも早歩きで、お姉ちゃんは念願の目的地へと向かう。

 ここまで切迫しているということは、家にたどり着く前から催していたのだろう。お姉ちゃんがいつそれを自覚したのかは分からない。だが仮にバイト先を出た時点ですでに行きたかったのだとしたら、かなりの距離と時間を我慢していたことになる。(どうしてバイト先で行っておかなかったのだろう?)

 そこで僕はある想像をしてしまう。それは経験から培われた「想造」だった。


――お姉ちゃんは、もう…。

『チビって』しまっているのかもしれない。『おもらし』まではいかないながらも、少量の『おしっこ』をパンツに染み込ませているのかもしれない。そうやってまた、お姉ちゃんはパンツを汚してしまっているのかもしれない。

 お姉ちゃんは先を急ぐ。ここは僕の家であるのと同時にお姉ちゃんの家でもある。もちろんトイレの場所は分かっている。だから迷うことなく一直線にそこに向かう。

 お姉ちゃんの後ろ姿を目で追う。その時、僕はといえば…。

 ただ茫然と玄関に立ち尽くしていることもできた。すでに僕は役目を終えたのだ。ドアを開けてやる、というごく簡単な作業。だけどその行いによって、お姉ちゃんにささやかな恩返しができたのだ。

 なぜお姉ちゃんが鍵を持っていなかったのかは分からない。多分忘れたのだろう。お姉ちゃんはしっかり者だが、やや抜けている部分もある。がさつではないものの、おっちょこちょいな一面もある。お姉ちゃんがあくまで「カンペキ」じゃないことを僕は知っているし、今ではその証拠さえも掴んでいた。


 僕も歩き出す。玄関を上がり廊下を進む。お姉ちゃんの後をついていくみたいに。お姉ちゃんの背中を追いかけるみたいに。小学生の頃の僕がそうしていたみたいに。

 あの頃のお姉ちゃんならば、僕が追いつくまでちゃんと待ってくれたことだろう。僕の手を引いて僕に歩幅を合わせてくれていたことだろう。だけど今のお姉ちゃんは僕の手を引いてくれることもなく、僕が後ろに居ることに気づいてもいなかった。

 再び僕の中に葛藤が生まれる。悪党じみた考えがよぎる。

――ここで僕が、邪魔をしたら…。

 お姉ちゃんの腕を掴むなり、後ろから抱きつくなりしたならば。

――離して純君!お願いだから…。

 お姉ちゃんは懇願するような目で、僕に訴えかけることだろう。

――お姉ちゃん、もう限界なの…。

 お姉ちゃんは絶望したような顔で、僕にすがりつくことだろう。


 そして。僕はついに目撃することになる。お姉ちゃんの『おもらし』を…。

 お姉ちゃんのショートパンツから次々と水滴が溢れ出し、足元に水溜まりを作る。漫画の中ではたった一コマに過ぎなかったシーンが、映像となって僕の前に現れる。そしてそれをしてしまうのは空想の人物ではなく、僕のよく知る実在の人物なのだ。

 あと少しの思い切りだけなのだ。お姉ちゃんに追いつくのは難しいことじゃない。もう少し僕が歩速を上げて先を急げば済む話だった。それだけで僕は願望を捕捉し、想像を補足することができる。チャンスの後ろ髪は、すぐ手の届く先にあった。

 だけど。僕にはどうしても、最後の一歩の踏ん切りがつかなかった。それによってお姉ちゃんとの関係が失われてしまうことを恐れたのかもしれない。それとも単純に「やっぱりお姉ちゃんが可哀想」という己の良心に屈してしまったのかもしれない。

 結局、僕はお姉ちゃんがトイレに行くのを阻止することができなかった。


 僕に邪魔されることのなかったお姉ちゃんは、ようやく念願の目的地に辿り着く。焦っているためか何度かノブを掴み損ねながらも、何とかドアを開けることが叶う。お姉ちゃんはトイレに入り、ドアを閉めた。

 僕とお姉ちゃんの間が再び遮られる。だけどそれは分厚い金属製のドアとは違い、薄い木製のドアだった。お姉ちゃんの発する振動が詳細に伝わってくる。

 最初に聞こえたのは布の音だった。擦れるような音。お姉ちゃんがズボンを脱ぎ、パンツを下ろす音だった。

 僕はつい中の様子を思い浮かべてしまう。今まさにお姉ちゃんの下半身が丸出しになっているという状況を…。

 ドア越しに息を殺し、耳を澄ませる。それから間もなく、ある音が聴こえ始める。


――シュイ…!!ジョボロロ~!!!

 それは『おしっこ』の音だった。お姉ちゃんの股間から迸る『放尿』の擬音。

 かなり溜め込んでいたらしい。その勢いは、心地良いくらいに真っ直ぐだった。

 激流が便器に叩き付けられ、重力に従って流れ落ちる。便器内に溜まった冷水と、お姉ちゃんの出した温水が混ざり合う。(果たしてそのどちらが清浄なのだろう?)

 お姉ちゃんの『排尿』は暫く続いた。せいぜい十数秒くらいのことだったけれど、僕にはその何倍にも感じられた。あるいは永遠にも続くとさえ僕には思えた。

 だけど、やがてそれは終わりを迎える。用を足し終えたお姉ちゃんは溜息をつく。間に合ったことの安堵によるものか、それとも『おしっこ』自体の快感によるものか僕には判らなかった。

 それでも僕にはお姉ちゃんのその吐息がとても「えっち」なものに感じられたし、その息遣いはドアを隔てた僕のすぐ耳元で聞こえているみたいだった。


 またしても、僕は意識を研ぎ澄ませる。

「カラカラ」と渇いた音がして、お姉ちゃんがトイレットペーパーを巻き取る。
「ブチッ…」と切られる音がして、お姉ちゃんが一回分をちぎり取ったらしい。
「スリ…、スリ…」と拭く音がして、お姉ちゃんのアソコがキレイに保たれる。
「ジャ~~!!」と無機質な音がして、お姉ちゃんの出したものが水に流れる。
「スルスル」と再び布が擦れる音がして、お姉ちゃんはパンツを穿いたらしい。

 お姉ちゃんがトイレのドアを開ける。僕は慌てて、二、三歩ほど後ろに下がった。まさか僕がドアのすぐ前に居て、お姉ちゃんの立てる音に聞き耳を立てていたなんて知られるわけにはいかなかった。

 トイレから出てきたお姉ちゃんと鉢合わせる。僕がいるとは思わなかったらしい。お姉ちゃんは驚いたように目を丸くしてから、少しばかりバツが悪そうに苦笑した。僕としても何だか悪いような気がして、目を逸らした。

 お姉ちゃんはそのまま洗面所に向かう。お姉ちゃんはトイレの中で手を洗わない。トイレを済ませた後はわざわざ洗面台で手を洗う。その気持ちは僕にもよく分かる。トイレの水というのは、キレイだと分かっていても何となく汚い感じがするのだ。

 洗面台で手を洗うお姉ちゃんの背中。その光景はまるで、デジャヴのようだった。


 鏡越しに、お姉ちゃんと目が合う。お姉ちゃんも僕の視線に気づいたらしかった。それ自体は何の問題でもない。今日のお姉ちゃんは秘密を隠しているわけじゃない。

 それでも。やっぱりお姉ちゃんにとっては見られたくなかった姿であったらしい。お姉ちゃんはトイレを我慢していたのだ。僕にもはっきりと分かるくらいに限界で、お姉ちゃんとしても僕に知られていることに気づいているだろう。

 そして、お姉ちゃんは『おしっこ』をしたのだ。それが僕に聞こえていたなんて、それを僕が聴いていたなんて、さすがにお姉ちゃんも思っていないだろうけど…。

 普段から顔を合わせている弟である僕に、生理的欲求を気取られてしまったのだ。もちろん『おもらし』の恥ずかしさなんかとは比較にならないだろうが、気まずさは大いに感じていることだろう。


「鍵。家に忘れちゃってさ…」

 お姉ちゃんは言い訳するみたいに言う。僕の思った通りだ。やっぱりお姉ちゃんはどこか抜けているのだ。

「純君が家に居てくれて良かった」

 もし僕が家に居なかったら、どうしていたのか?その時にはきっと…。

「そういえば、パパとママは?」

 お姉ちゃんは話題を変えようとする。そんなつもりはないのかもしれないけれど、少なくとも僕はそう感じた。

「買い物だよ」

 僕は答えた。

「そうなんだ。あれっ?純君はついていかなかったの?」

 お姉ちゃんは不思議そうに訊いてくる。せっかくのチャンスを僕が逃さないことをよく知っている。

「別に。ゲームしたかったから」

 僕は嘘をついた。「勉強するため」と言わなかったのは、そんな嘘はお姉ちゃんにお見通しだと思ったからだ。だからといって、本当のことなんて言えるはずもない。「お菓子より魅力的なチャンスを得るため」だとは…。

「へぇ~、何のゲーム?」

 タオルで手を拭きながらお姉ちゃんは訊いてくる。どうやら話題を変えることにはすっかり成功したらしい。

「アニマル・ハンター」

 僕は答える。それは僕がこの前の誕生日に買ってもらったばかりのゲームだった。(ちなみにお姉ちゃんには協力プレイ用のコントローラーを買ってもらった)

「そっか」

 お姉ちゃんは興味があるのかないのか分からないような反応をする。

「ねぇ、久しぶりに一緒にゲームしない?」

 まさかの誘いがお姉ちゃんの口から発せられたことに、僕は少なからず戸惑った。もうずいぶん長いこと、お姉ちゃんと一緒にゲームなんてしていない。

 だけどコントローラーをもう一つ買ってもらったのは、友達と遊ぶためというのももちろんあるけれど。元はといえば、お姉ちゃんと一緒にゲームをするためだった。話題のゲームを買ってもらうと知ったとき、お姉ちゃんから言い出したことだった。


――確か、そのゲーム。何人かで遊べるんだよね?

 お姉ちゃんに訊かれる。「四人まで、ね」僕は得意げに答えた。

――じゃあさ、私がコントローラーを買ってあげるから一緒にやろうよ?

 そこで、お姉ちゃんはまさかの提案をしてきた。

 昔はよく一緒にゲームで遊んでいたけれど。いつからか僕一人で遊ぶようになり、大学生になったお姉ちゃんはもうゲームなんて卒業してしまったのだと思っていた。それなのに。お姉ちゃんは僕が買ってもらうゲームに珍しく興味を示したのだった。

――え~。お姉ちゃん、ゲーム下手だもん…。

 照れ隠しから僕は渋った。だけど僕が隠していたのは嬉しさでもあった。

 約束通り、ママからソフトとお姉ちゃんからコントローラーを買ってもらった。「お姉ちゃんとゲームをする」というもう一つの約束が果たされることはなかった。

 結局、僕はほとんど一人で新しいゲームを進めた。発売前から期待していた通り、それは一人でも十分面白いゲームだった。僕は最近、主にそのソフトで遊んでいる。唯一、お姉ちゃんから買ってもらったコントローラーだけが今のところ出番がなく、新品のまま箱に仕舞われたままだった。


「別に、いいけど…」

 僕のどっちつかずの返答に対して。

「やった~!!」

 お姉ちゃんは大袈裟に喜んでみせる。

 今はあまりゲームをやりたい気分ではなかったけれど、特に断る理由もなかった。それにもしここで断ってしまえば、もう二度とその機会は訪れないような気がした。

「じゃあ、ちょっとお洋服着替えてくるから。先にお部屋で待ってて」

 お姉ちゃんから子供っぽくそう言われて、僕は大人しく部屋に戻ることにした。(洗面台のすぐ横、洗濯機の中のものに名残惜しさを感じながら…)


 数分後。僕の部屋のドアがノックされる。返事をするとお姉ちゃんが入ってきた。

 それからママとパパが帰ってくるまでの一時間。僕はお姉ちゃんとゲームをした。それは本当に久しぶりのことだった。

 お姉ちゃんはやっぱりゲームが下手で。僕が何度も「回復薬」を使ってあげても、あっけなく「死んだ」。その度にお姉ちゃんは僕に謝ったり、悔しがったりした。

 僕一人でなら簡単に倒せる「アニマル」でも、お姉ちゃんがいるせいで苦戦した。だけど僕はお姉ちゃんにムカついたりはしなかった。ただ純粋にゲームを楽しんで、どこか懐かしさのようなものを感じていた。

 それでも僕はゲームに集中できないでいた。お姉ちゃんの様子をチラチラと窺い、その度に洗濯機の中の記憶が蘇ってきた。

――お姉ちゃんは今、どんなパンツを穿いてるんだろう?

 僕の脳内はそのことで一杯で。お姉ちゃんの操作する「女性ハンター」が動く度、露出度高めの格好をしたアバター自体がまるでお姉ちゃん自身であるかのように。「見えそうで見えない」もどかしさに襲われるのだった。


 一時間後、パパ達が買い物から帰ってきた。僕が勉強してなかったことが分かるとやっぱり叱られた。

「ほら、言った通りじゃない!」

 鬼の首を取ったように、ママは鬼になったが如くお説教を始めようとしたものの。すぐにお姉ちゃんも一緒になってゲームをしていたことが分かると…。

「結衣も、あんまり純君の邪魔しちゃダメよ?」

 軽く注意しただけで、それ以上は何も言わなかった。僕たちは「イケない秘密」を共有するみたいに目配せをして、小さく笑った。

 その夜、家族皆が寝静まった頃。僕はトイレに行くふりをして洗面所に向かった。目的はもちろん洗濯機であり、中を漁るとすぐにお姉ちゃんのパンツが見つかった。

 本日のそれは「ピンク」だった。


 お姉ちゃんのパンツは、やっぱり汚れていた。

 昼間僕が見たのと同じく、いやそれ以上に。『おしっこ』がたっぷりと染み込み、ぐっしょりと濡れていた。今回は女子特有の汚れについてはそれほどでもなかった。僕はパブロフの犬のように、条件反射的に匂いを嗅いだ。

 お姉ちゃんのパンツは『おしっこ』臭かった。不純物がないせいか、より直接的にアンモニア臭が鼻腔を刺激した。

――お姉ちゃん、やっぱり『チビって』たんだ…。

『おしっこ』を便器に出し切ることができず、パンツの中に『チビって』いたのだ。いかにも生還したような顔をしておきながら、こっそりお股を弛緩させていたのだ。


 次に、僕はお姉ちゃんのパンツを舐めてみた。なぜそんなことを思いついたのかは自分でもよく分からない。だけど僕はすでに…。

「視覚」でお姉ちゃんの汚濁を認めて、
「嗅覚」でお姉ちゃんの芳香を確かめ、
「触覚」でお姉ちゃんの幻想と交わり、
「聴覚」でお姉ちゃんの音調を聴いた。

 残るはあと一つ「味覚」のみだった。

 お姉ちゃんのパンツの濡れた部分にベロを這わせ、そのままベロベロと舐め回す。サラサラとした舌触り、ピリピリとした味覚が僕の舌先を刺激した。

 甘味がするなんて思っていたわけではない。だけど想像を超える酸味は僕の思考を麻痺させ、同時に襲い来る苦味が僕を現実に引き戻したのだった。

 パンツから顔面を引き離す。そうしてさらに観察を続ける。お尻の真ん中辺りに、何やら薄っすらと『茶色いシミ』が付いていた。

――これって、もしかして…?

 疑念を抱くと同時に、僕はある疑問に囚われるのだった。


――あの時、お姉ちゃんは「小」ではなく「大」だったのだろうか?

 いや、そんなはずはない。トイレの滞在時間からも、ドア越しに聞こえた音からもそれは明らかだった。

 だとすれば今朝『排便』をした際(お姉ちゃんは毎朝「長めのトイレ」に入る)、上手くお尻が拭けずにパンツに『ウンスジ』を付けてしまったのだろうか?

 いや、それこそあり得ない。いくらお姉ちゃんが「カンペキ」ではないとはいえ、その失敗はもはや「ガサツ」を通り越し「フケツ」といっていいほどのものだった。

 再び僕はお姉ちゃんのパンツに鼻を近づけた。パンツの底ではなく後方の部分に。お姉ちゃんのお股ではなく、お尻が触れていた部分に。

 ふと僕の脳内に場違いな映像が流れる。あれは確か、春休みに動物園に行った時。あるいはもう少し直近の記憶でいうならば、急に催して公園の公衆便所に入った時。

 あまりにも野性的で暴力的な匂い。それは紛れもない『うんち』の臭いだった。

 お姉ちゃんは『おしっこ』のみならず『うんち』までもパンツに付けていたのだ。


 僕の部屋を訪れた、あの時――。

 お姉ちゃんは部屋着に着替えていた。だけどパンツはそのままだったのだろう。(その証拠に夕飯前に洗濯機を覗いてみたけれどお姉ちゃんの下着はまだ無かった)

 僕とゲームをしている間も――。(それが今では夢の中の出来事のように思える)
 晩御飯を食べている最中も――。(なぜかお姉ちゃんはいつも以上に饒舌だった)
 夕食後の家族団欒の一時も――。(お姉ちゃんのお胸やお尻ばかりに目がいった)

 お姉ちゃんはパンツを『おしっこ』や『うんち』で汚していたのだ。

 その現実に僕は混乱した。だけどその真実は僕を激しく興奮させたのだった。


 次の休日(その日も家族は全員留守だった)、僕はお姉ちゃんの部屋に入った。

 お姉ちゃんの本棚には相変わらず難しそうな本ばかりがたくさん並べられていた。だけど背伸びしたい年頃を過ぎた僕の、今日の目的はそこではなかった。

 片付いた部屋の中を移動し、背の低い家具の前に立つ。

 僕はしゃがみ込み、タンスの引き出しを上から順番に開けていく。

 一段目には、お姉ちゃんの服が入っていた。
 二段目にも、これまたお姉ちゃんの服があった。
 三段目にして、僕はついに「アタリ」を引き当てた。

 きちんと丁寧に畳まれ、整理整頓されたカラフルな下着たち。それは僕にとって、まさしく宝の山だった。僕は堪らずに宝箱の中に顔を埋めてみた。

 洗剤と柔軟剤の香り。不快な臭いなどするはずもなく、洗濯を終えたそれらからは現実のお姉ちゃんの不都合な情報が失われ、理想のお姉ちゃんの偶像を醸していた。


 ずっと、そうしていたかったけれど。やがて僕は顔を上げて、お姉ちゃんの下着を漁り始める。

 下着の種類は大きく分けて二種類。ブラジャーとパンツ。僕がより興味があるのはもちろん下半身に付ける方だった。

 可愛らしいデザインに目移りしそうになりながらも、あくまでも僕の目的は一つ。他の誘惑に負けないように探し求めていると、すぐにそれは見つかった。

(見たところさしたる装飾のない前面上部に取って付けたかのような小さなリボンがあしらってあるだけの)黒いパンツ。

 同じ色の下着は何着かあったものの、恐らくこれに間違いないだろう。

 あの日僕が見た、お姉ちゃんが手洗いしていた、僕にとってはきっかけとなった、お姉ちゃんの『おもらしパンツ』。後ろから盗み見ることしか叶わなかったそれが、時を経て今ついに僕の手に触れたのだった。

 僕の指は震えた。良心の呵責ではなく発覚の恐怖から平常心ではいられなかった。


 僕には前科があった。洗濯機の中のお姉ちゃんのパンツを漁ったという罪が…。

 だけど今回ばかりは、観察するだけではなく拝借するのだ。僕は揺るぎない証拠をこの手にすることになる。もし現物を押さえられたら、それでお仕舞いなのだった。

 とはいえ、これだけあるのだから一つくらい無くなったところでバレないだろう。

 本当ならばむしろ、洗濯する前の汚れた下着を手に入れたいところではあったが。そうするわけにはいかないいくつかの理由があった。

 お姉ちゃんは洗濯が終わった下着をきちんと「セット」でタンスに収納していて。もし片方が無くなれば不審がられる可能性があった。

 あるいは、お姉ちゃんの「シミ付き」のそれを僕が部屋に隠し持っていたとして。それの放つ臭いで気づかれてしまう危険性もあった。

 だからこそ僕は。お姉ちゃんが刻み付けた汚れは失われつつも、僕の網膜と記憶に刻み付けられた黒いパンツを「思い出」と一緒にポケットにこっそりと仕舞い込み、お姉ちゃんの代わりに「お守り」にすることにした。

 普段はそれを勉強机の鍵の掛かる引き出しに入れておき、たまに取り出してみてはそこにあるはずのお姉ちゃんの肉体を想像し妄想に耽るのだった。

 そうして僕は再び、元の生活へと戻った。


 朝起きて、顔を洗って、歯を磨く。トイレを済まして、手を洗って、朝食を取る。制服に着替えて、靴を履いて、登校する。授業を受けて、給食を食べて、下校する。帰宅して、漫画を読んで、ゲームをする。夕飯を食べて、TVを観て、お風呂に入る。歯を磨いて、宿題を終えて、ベッドに入る。深夜にベッドを抜け出し、下着を漁る。

 そんな毎日の繰り返し。これまでとほんの少し違った非日常の中にいるからこそ。まるで全てが本物のような、いつの間にか日常から抜け出してしまったかのような、どうにも落ち着かない気分だった。その原因はやっぱりお姉ちゃんだった。

 家族の誰も知らない秘密。それは僕とお姉ちゃんだけの秘密なのだ。


――続く――

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おかず味噌 2020/03/24 17:10

オススメ作品「スカトロクエスト~そして排泄へ~」

皆さんは「物心」ついた少年時代に、こんなことを思った経験はないだろうか?

「このキャラの『パンツ』見たい!!」と。

 もしも、そんな経験があるというなら、その気持ちは十分に理解できる。ネットの十分に普及していない当時の「小さな大人たち」にとって、「女性のパンツ」というものはそれほど貴重なものだったのだ。ましてや「可愛い子のパンツ」など、たとえ直接触ったり嗅いだりは出来なくても、純粋に「見てみたい」ものだろう。
 やがて「少年」は「大人」になって――。その成長と共に文明も発達し、今では簡単に「女性のパンツ」を見ることが出来るどころか、その「中身」さえも知ることが出来るようになった。今や、「女性のパンツ」というおかずだけで達することは難しい。なぜなら、それはごくありふれた「前菜」のようなものであり、その先にもっと豪華な「主菜」が待ち受けていると知っているからだ。だから、たとえ少しばかりの食欲を満たされようと、その時点で満腹になってしまうのは勿体ないという心理だ。

 だが、それでも。我々はやはり予期せぬ「パンチラ」というものは相変わらず嬉しいものだ。それが予め約束された「展開」ではなく、ふいにもたらせられたものであるならば――。我々はいつだって少年時代に立ち返って、その初期衝動を何度だって反芻することができる。近所の駄菓子屋でお小遣いの範囲内で数十円足らず駄菓子を買い、暗くなるまで友達と走り回っていた「あの頃」を思い出すみたいに。
 我々はいつからか「忘れて」しまった。「パンチラ」の感動を、そこに存在する「趣き」を。財布はマジックテープのものから長財布へと変わり、その中身は札で膨らんでいる。今や、「駄菓子」などいくらでも買えるし、エロいコンテンツだって手に入れたい放題だ。いつの間に我々は、かつて少年時代に忌避した「権力者」と成り果ててしまったのだろう?
 確かにある種の「成功」とは言えるだろう。だが、果たしてそんな我々は、かつて少年時代に感じたほどの興奮を再び味わうことができるだろうか?ただの「パンチラ」で抜くことができなくなってしまった我々に――。

 かつて我々は「ゲーム」という文明の利器を手にした。それは実に画期的な人類における「発明」であり、これまでは受け身でしかなかった漫画やアニメとは違い、自ら「主人公」を動かすことで物語を進行させていくというものだった。それによって、我々はあたかも自分自身が主人公に成り代わったかのような感動を手にし、登場人物たちと共に笑い、共に怒り、共に感じ、共に願ってきた。
 現代にも受け継がれる著名なタイトルが次々と出される中、そんな中でも我々は「ゲームを純粋に楽しむ」という目的の他に、ある「邪」な感情を微かに持ち合わせてはいなかっただろうか?
 それは一般作である漫画やアニメに向けられたものより、あるいは巨大な期待であり、ある種の「願い」でもあった。だが、その願いはそう簡単には聞き入れられず、悔しい思いをした者も数多いことだろう。

 さて、この作品は「ゲーム」である。その「操作性」や「自由度」は、今の一般発売とは比較するまでもなく、大きく劣るものではある。あるいはかつての「ファミコン」と肩を並べることさえ難しいかもしれない。だが、そこには大きな「少年の夢」が詰まっている。
 一般作だけど「一般作」ではない。エロゲーだけど「エロゲー」ではない。そうした絶妙な葛藤と「趣き」が、このゲームには込められている。

 ゲームの内容としては、我々がまず最初に思い浮かべる「RPG」であり、いわゆる異世界(ファンタジー)の設定だ。武器や防具が登場し、それを装備することで強化され、敵を倒していく。そこそこの「強敵」も存在し、ただ一直線に突っ走るだけでは突破できないこともある。そうした厳しい戦いを経て、我々はようやく「クリア」という達成感を得るのだ。
 けれど、分かっている。あなたが求めるのはそんな種類の「達成感」ではないのだと。

 このゲームでは登場人物(女性)が、何と頻繁に「お漏らし」をするのだ。「失禁」「着衣脱糞」「おねしょ」など、これまでの一般作のゲームでは到底考えられなかった「斬新」な設定である。
 もちろん、この作品はエロゲーである。けれどその「世界観」が、かつて我々のプレイした著名な「クエスト」に酷似していることで、まるであの時は味わえなかった興奮を満たすように、「どうして思うようにいかない」というあの頃の鬱憤を晴らすように、このゲームはかつての少年時代の「未実現」を思い出させ、それを解消させてくれる、「お漏らし」ないし「スカトロ」好きには堪らない作品だ。

 いつもの如く、作者が購入しプレイしたことは言うまでもない。それなりに「敵」が強く苦戦した場面もあったが、それがより「待ちわびた瞬間」を際立たせることになる。
「お漏らし」「スカトロ」好きは、ぜひ購入して頂きたい。
 そして、我々は「勇者」となるのだ――。

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おかず味噌 2020/02/21 02:14

オススメ作品「排便妨害ーあの子のウンチを阻止せよー」

もしも「透明人間」になれたら、何をするか?


 人類にとって、いや紳士諸君にとって最大のテーマであろう。
 ある者は「金儲け」のために、その有為な手段を利用するだろうし、またある者は「強者」となるべく、その絶大な能力を行使するだろう。
 そして、多くの紳士諸君がこう考えるはずだ。

「エロいこと」をするために悪用する、と。

 更衣室に忍び込み、聖女たちの「着替え」を覗くも良し。女湯に入り込み、聖女たちの「裸」を鑑賞するも良し。女子トイレに押し入り、「聖水」を拝見するも良し。

 けれど、それだと「隠しカメラ」と大差はない。
 人知を超えた能力を手に入れたあなたはもっと「自由」に、もっと「大胆」に、その力を行使することだってできる。

 たとえば、気づかれぬまま――気づかれないからこそ、聖女の体に触れ、あるいは衣服を脱がし、そのまま「行為」に及ぶことだってできる。
 もちろん犯罪だが、相手は自分を認識していないのだから、発覚する恐れはない。
 あなたの気に入った、好意を寄せた聖女たちは皆、あなたの玩具であり、性欲のはけ口として機能する。
「透明人間」のいかに素晴らしいことだろう。

 けれど。残念ながら、我々にそのような能力は備わっておらず、この先備わる予定もない。死後であれば、あるいは可能であるかもしれないが、それは死んでからのお楽しみ。誰にも分からないことだ。
 それでも。「創作物」であれば。さすがに生身の手触りや臨場感さえ無いものの、それを疑似体験することはできる。現に、世の中には「透明人間」を扱った作品は数多く存在する。それもまた「願望の実現」という、フィクションだからこそ可能な到達点である。

 今回紹介する「RPG」もまた例に漏れず、そんないわゆる「透明人間もの」の作品だ。
排便妨害ーあの子のウンチを阻止せよー

 そして、この作品における「主人公」は、透明人間になって何をするのか?
 それはまさにタイトルの通り――

 聖女の「排便」を妨害するのだ。

 誰もが等しく持ち合わせている「生理欲求」でありながら、聖女たちの可憐な姿とその行為はあまりにもかけ離れている。
 まるで可愛いあの子は、美人すぎるあの子は、さも排泄なんてしないかのように。当たり前の顔をして、颯爽と、日々を過ごしている。
 けれど自分にその欲求があり、その行為をするように。聖女たちにだって、誰にも知られたくない「秘部」は確実に存在するのだ。

 あなたに与えられた任務は簡単だ。ただほんのちょっと、バスケットボールに右手を添えるみたいに、ほんの少しだけ力を加えてやればいい。
 それだけで、聖女たちはやがて自分の「生理欲求」と格闘し始め、仕舞いには「脱糞」してしまう。あなたはただそれを傍観するだけだ。
 そしてこのゲームには、聖女たちの我慢の「限界さ」によって、いくつかの展開が用意されている。
 無事にトイレで排泄することができるのか、ギリギリでチビってしまうのか、それともパンツの中に全てを出し切ってしまうのか。全てはあなたの手腕によるところである。

 あなたはいくつかの道具を駆使することができる。「下剤」「トイレットペーパー」「浣腸液」など、手持ち資金の中でそれらを組み合わせ、いかに聖女たちを窮地へと追い込むのか、その感動と興奮をぜひ体感して欲しい。

 あなたの取った行動がバタフライエフェクト的に、聖女たちを巻き込み、様々に展開していく。それはまるで「謎解き」をしているかのようで、その実あなたがしているのはむしろ「謎を構築」することに他ならない。そういったゲーム性もまた、この作品において欠かすことのできない重大な要素だ。

 日常がそうであるように、聖女たちはそう簡単に「お漏らし」をしてはくれない。だからこそ、数々のトライ・アンド・エラーを繰り返し、少しずつ彼女たちを追いこんでいく。それこそがこの作品における、最大の楽しみ方の一つであり、カタストロフィを感じる部分だ。

※ちなみにこの作品においては、いわゆる「排泄シーン」のイラストは一切用意されていない。
 けれどそれもまた、この作品がたった「ワンコイン」でお釣りが来る程度の価格で楽しめることを考えれば、納得のいくものだ。
 それに、即物的なイラストが無いからこそ、あなたはこれまで見てきた数々の動画やイラスト、画像、それらを思い返し、想像力を逞しくすることができる。
 筆者においても、それは容易なことであった。

 そして、数々の動画やアニメ、漫画や小説が、予め決められたルートをただなぞるだけのものであるのに対して、「ゲーム」というジャンルはそれもまた「予め用意された分岐」であるのはもちろんなのだけれど、あたかも自らが選択し行動した結果として享受される疑似体験であるというのも、やはりより現実に近い経験なのだろう。

 前回の記事と同じく、もちろん筆者は迷わず購入した。むしろ発売を知ってから、家に帰るのが待ち遠しくなったほどだ。
 ぜひ、読者の方々、紳士諸君にもこの感動と興奮を余すところなく、味わって頂きたい!

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おかず味噌 2020/02/20 01:11

ちょっとイケないこと… 第三話「尿意と再現」

(第二話はこちらから)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/209572


 忘れもしない、あの日から一ヵ月。○○さんと街に出掛ける約束をした。俗にいうデートというやつだ。

「やっぱり、松永さんの黒タイツ姿は良いね!」

 会ってすぐ私の服装を見るなり彼はそう言った。彼は黒タイツの脚が好きらしい。だからこそ、私は今日それを履いてきたのだ。(寒いから、というのもあるけれど)そしてどうやら喜んでもらえたらしい。彼はさりげなく、私の太腿をそっと撫でた。

 まず本屋に行き、それからカフェで遅めの昼食を取った。私は水やコーヒーなど、飲み物を五杯ほど飲んだ。過剰摂取した水分が膀胱に蓄積されていくのが分かったが一度もトイレには行かなかった。単に行きたくならなかったというのもあるけれど、心の奥底で何かを期待する気持ちが微かにあった。


 あの日以来、私はごく頻繁に『おしっこ』を我慢するようになった。

 今の内に済ませておくべきという時でさえあえてトイレには行かず、ギリギリまで尿意を堪えるようになった。幸い、あの時みたく失敗することこそなかったものの、危なかったことなら二、三回ほどあった。それでも私はその癖を止められなかった。

――もし、漏らしてしまったら…。

 それを思うだけで。背徳感にも似た気持ちと綱渡りのようなスリルとが相まって、何ともいえない高揚を私は覚えるのだった。

――これじゃ、まるで変態みたいだ!

『おしっこ』を我慢することで興奮するなんて…。こんなの絶対、人には言えない。どうやらあの日の失態がきっかけとなり、私の中で何かが変わってしまったらしい。それもこれも全部、彼のせいだ。


 繁華街からバスで地元に帰ってきて、その後当たり前のように彼の家に誘われる。

「え~、どうしようかな~?」と私は断る素振りを窺わせつつも、内心ではとっくにそのつもりだった。あの日は思わぬハプニングがあったが、あるいは今日こそは。
 それを想像するだけで、私はまたしてもショーツ内を『おしっこ』とは違う液体で濡らすのだった。

 彼の家に着く頃には、尿意はいよいよ顕著になっていた。まだ限界というほどではないにせよ、このままだとひょっとすればひょっとするかもしれない。

――今『おしっこ』したら、どれだけ気持ちいいだろう?

 脱いだ靴を揃えながら、私はそんなことを考える。理性も尊厳もかなぐり捨てて、今すぐ尿意を解放することができたら。彼の前で『おもらし』することができたら。

 彼は私を蔑んだ目で見るだろう。一度ならず二度も年頃の女子が『失禁』だなんてそんなの絶対ダメだ。でも、だからこそやってみたい。そんなイケない衝動を理性で必死に抑え込む。

――ちょっとだけなら…。

 バレない程度にほんの少しだけ。私は微妙な力加減で括約筋に反対の力を込める。あくまで出過ぎてしまわないように気をつけながら。

――ジョロ…。

「くっ!」と慌てて押し留める。危ないところだった。あと少しで膀胱は自制を失いその全てが解放されてしまうところだった。

 ショーツの中がじんわりと温かく湿る。愛液と『おしっこ』が絶妙に混ざり合い、私の股間を優しく愛撫する。

――気持ちいい…。

 快感に身を委ねたのも束の間、慌てて足元を確認する。

 どうやら『おしっこ』は溢れていないらしい。『おもらし』がバレていないことに私は安堵する。けれど…。

――私、また『おもらし』しちゃったんだ。

 ショーツ内の柔らかなその感触が、自分のしてしまったことを自覚させる。そして次の瞬間、あの日のあの感覚が蘇ってくる。


 どうしようもなく恥ずかしくて情けなくて、切ないような甘く痺れるような感傷。決して人には見せられない姿。だがそれを見られてしまうことで私の全てを知られ、受け入れてもらえるみたいな、そんな感情。

 それは、男性に裸を見られる感慨にも似たものなのだろうか?

 いやそんなはずはない。男性に裸もしくは秘部を晒した経験は同年代の女子ならば誰もがあるだろうが。秘めたるべく、そこから溢れる羞恥の液体を見られた経験などほとんどの者にあるはずがない。

 そして、この後の展開をふいに想像してしまったことで。私は自分のした綱渡りのその代償についてようやく思い当たる。

――どうしよう。もし今、下着を脱がされたら…。

 私が『おしっこ』を漏らしたことがバレてしまう。ショーツの湿り具合はもはや、発情によるそれとして言い訳ができないくらい広範囲に及んでいる。とはいえそれはまだ『おもらし』というほどの被害ではなく、せいぜい『おちびり』程度のものだ。あくまで匂いにさえ気付かれなければ何とかなるかもしれない。

「結衣、どうしたの?」

 彼に呼ばれたことで、ふと我に返る。彼が私のことを下の名前で呼んでいるのは、今日のデートにおける数少ない成果の一つといえるかもしれない。

「体調悪いの?」

 彼は心配そうに訊ねてくる。本当に心配してくれているのかもしれない。あるいは私が生理中であることを彼は心配しているのかもしれない。せっかくお膳立てをしていよいよという時に、上げ膳を喰らうことを怪訝に思っているのかもしれない。

「いえ、大丈夫です!」

 私は精一杯に微笑んで見せる。元々体調が優れないわけではないのでそれはさほど難しいことではなかった。

「それなら良かった」

 彼はようやく安堵したらしく、中断していた話を再開する。思えば、私は彼の話を上の空でしか聞いていなかった。彼の家に上がって以来、いやそのずっと以前から、私の頭は違うことで一杯だった。


『おもらし』

 私の脳内は、今やそんな『四文字』の誘惑に支配されかけていた。
 カフェで飲み物を必要以上に飲んだのも、トイレに行かずバスに乗ったのも全てはその前準備だった。そして彼の家に来たことも一方では「初めて」を予感しつつも(そちらの方がまだ正常だろう)、どこかで「二度目」を期待したが故だった。

 ついに膀胱が悲鳴を上げ始める。体をちょっと動かすだけで、その声ははっきりと聞こえてくる。早く言わないと、「トイレに行きたいです」そう申し出るべきだと、かろうじて本能に抗う私の理性が告げている。

 彼はまたそれを拒むだろうか?拒否されたら困るという感情と、拒否されることで私の願望が叶うという劣情が葛藤する。

 いよいよ尿意は耐え難いところまできており。私は忙しなく両脚を組み替えたり、さりげなく股間に手をやったりして何とかそれを堪えるのだった。

 手を触れたことでそこが微かな火照りを覚える。同時にアソコに潤いを感じるも、それが果たして何の液体によるものなのかは判別できなかった。私は意を決しつつ、積み上げてきた我慢が無に帰してしまうことを恐れながらも彼に向けて言う。

「トイレ借りてもいいですか?」

 本来ならさりげなく、自然を装った流れの中で訊ねるべきことである。だけど私は彼との会話を分断して、突如その問いを発したのだった。

――さて、○○さんはどんな反応をするだろう?

 彼は面食らったような顔を見せつつも、そこでようやく私の様子が変だった理由に思い当たったみたいだった。

「え~、また~?」

 再度の申告に苦笑し、やや呆れながらも。

「いいよ」

 さも当然の如く彼は答えた。いや、無論それが当たり前なのだ。拒否される理由はどこにもない。それこそトイレが使えない(水が流れない)などが無ければ、即座に認められて然るべきである。(ちなみに、あの日拒否された理由はやはり嘘だった)

「じゃあ…」

 彼に告げて、私は立ち上がる。申請し、承認されたのだ。形式的な手続きであり、それはむしろ形骸化されたやり取りに過ぎない。だからこそ、私は沸き上がるような怒りを覚えるのだった。

――だったら、なぜあの時そう言ってくれなかったのか?

 あの日、私は同じく彼に願い出た。少しの気まずさと気恥ずかしさを覚えつつも、ちゃんと自分の口でそう言った。だが彼はそれを拒んだ。さらに私の移動を掌握し、あろうことか私の振動を増幅し、その結果ついに私は…。

『おもらし』をしてしまったのだ。まさかそのような予定が待ち受けているなんて、彼の家に行く前の私が想定しているはずもなかった。

 その瞬間と直後、私は激しい後悔に苛まれた。もっと早く言い出していたならば…(そもそも拒否されるなんて思わなかった)。職場を出る際に予め済ませておけば…(その時点では尿意など感じていなかった)。そんな無数の仮定と過程が私を攻め、責め立てるのだった。

 けれど洗面台で濡れたショーツを情けなく洗っている時、私は思った。

 大切な何かを失くしてしまった虚無感と、ふとした瞬間に蘇る羞恥の実感。
 家族に対して秘密を作ってしまった罪悪感と、誰かと分かち合いたい共感。
 全身を包み込むような脱力感と、もう決して過去には戻れないという予感。

 それらはきっと初体験をした(してしまった)時と同じ感情なのだろう、と。

 だからこそ私はその余韻を貪るように、部屋に戻ってから『オナニー』をした。
 アソコに絡み付く液体を彼の精液であるかのように。指を彼のペニスに見立てて、もう何度目かの一人きりの絶頂を迎えてしまったのだった。それなのに…。


 彼は、そんな私にとってのある種の性体験を無かったことにするように。あたかもそれ自体を否定するみたいに。私がトイレを使うことを許してくれた。

 私はそれが許せなかった。一回ヤったら終わり、と女を簡単に捨てる男のように。私をこんな気持ちに、こんな体にさせておいて、さも自分は何事もなかったかの如く平然と振舞っていることが。まるで自分は無関係だと平静を装っていることが。

 廊下を進みながら、私は何度この場で『おもらし』してやろうかと思った。

 だけど強○も矯正もされずに○す失敗はまさしく私の罪であり、彼の罪ではない。自ら望んで晒す失態はもはや『失禁』ですらなく、あくまでもプレイの一環として。特殊な性癖に倒錯する変態女、というレッテルが私のみに貼られてしまう。

 それはそれで何だか興奮するような気もした。だがやはりどこかで彼のせいだと、だから彼に責任を取ってもらうのだという大義名分が必要である気がした。

 私に彼氏が出来なかった原因。容姿もそこそこなのに(自分ではそう信じている)処女を守り続けてしまった理由は、そうした責任転嫁にこそあるのかもしれない。


 一歩ずつトイレに向かう。その足取りは重い。あえてそうしているわけではなく、膀胱が行動を制限しているのだ。そして今も尚、私は葛藤している。

 ここで解放してしまうべきか、きちんとあるべき場所で解消すべきか、を。

 ふいに強烈な波が押し寄せ、尿意を抑え込みつつ私は立ち止まる。
「これが最後のチャンスだよ」と彼に教えてあげたい。今もし下腹部を押されたら、きっと漏らしてしまうだろう。だけど彼は座ったまま、呑気にスマホを弄っている。私の気も知らないで。私がどんなに危機かも知らないで。

 ようやくドアの前へと辿り着く。あとはここを開けて中に入り、下着を脱ぎ去り、便座にしゃがみ込むことで。私は人としての尊厳を守り抜くことができる。
 今度こそ誰にも邪魔されることなく、今夜こそ羞恥や絶望に苛まれることもなく、無事に全てを終わらせることができる。けれど…。

 取っ手を掴みながら私は逡巡する。果たして間に合わせてしまって良いのか、と。私の中で失望と『失禁』とがせめぎ合う。そこで…。

 後方から伸びてきた無慈悲な手が、無警戒なままの私の腕を掴んだのだった。

「えっ!?」

 思い掛けぬ事態と隠し切れない期待から、つい私は叫声(嬌声)を発してしまう。遅滞なく振り返ると、そこには彼がいた。

「やっぱり、トイレには行かせられない」

 彼はきっぱりとそう言い切った。その目にはバイト中には見たこともないような、真摯さと真剣さが宿っていた。

「何でですか?」

 私はかろうじて欲情を堪えつつ日常の言葉で訊き返す。戸惑う演技は歓喜により、上手くいかなかったかもしれない。

「どうしても」

 彼は断言した。

「でも…。このままだと私、漏らしちゃいますよ?」

 恥ずかしげもなく、私は公言する。もう限界なのだと、そう宣言する。

「いいよ」

 同音異義の了承を彼は示した。優しげな口調はまるで私の失敗を肯定するように。あたかも私自身の結末を決定づけるように。

「本当に、もう無理なんです…!!」

 それでも私は自らの体裁を保つためだけに言う。あくまでも責任を自分ではなく、彼に押し付けるように。

「結衣の『おもらし』が見たいんだ」

 彼は告白した。紛れもなく己の口ではっきりと。私の情けない姿が見たいのだと。全ての責任は自分にあるのだと。だから私は安心して身を委ねればいいのだと。

――じゅわ…。

 反射的に私の括約筋は緩んでしまう。それによって不本意な小流が漏れてしまう。だけどまだ本流ではない。私は決意する。最終確認として彼に同意を求める。

「本当に良いんですか?」

 その問い自体が私の願望を吐露したようなものだ。彼は頷いた。そして…。

「結衣の『おもらし』見てください!!」

 私は尿道に力を込める。までもなく、ほんの少し力を緩めただけ。

――ジョボロロ~!!!

 下着の中がみるみる内に温かくなる感触。あの日と同じ感覚だ。けれど今日の私はショーパンと黒タイツを穿いている。

 まずショーツ内に水流が生み出される。激流を薄い衣料が貯留できるはずもなく、溢れ出す奔流は両脚を覆う黒タイツに模様を描く。尚且つ吸収しきれなかった急流がデニム生地のショートパンツを貫通して、下方のフローリングへと直流を結ぶ。

『放尿』しつつ私は放心していた。アソコが痙攣しているのが分かる。それによって『おしっこ』が断続的に幾つかのリズムに分けられる。

――ピチャ、ピチャ!!ピシャ~!!!

 跳ね返る液体は足元を濡らしている。のみならず下着も黒タイツもショーパンも。密着していたことで彼の着衣さえも。それら全てを染め上げ私は『失禁』を終える。

 すっかり『おしっこまみれ』となった体で。後悔と未来の課題に苛まれながらも、私の脳はもはや考えることを放棄していた。


「結衣、すごく可愛いよ」

 それでも彼は私の体を抱き寄せ、びしょ濡れになった下半身に手を当てる。

「汚いですよ?」

 そんな私の懸念を振り切り、彼は私の手を引き強引にベッドへと誘う。

――もしかしたら、今がその時なのかも…?

 私の不埒なそこは彼の不貞を迎え入れる準備を整えている。不浄な身と不純な心で今や不確かではない高揚を私は感じていた。


――続く――

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