尾上屋台 2017/02/25 03:43

美味しいお寿司とその日のお通し

それは確か、大学三年生の時だったと思う。

当時、というか大学二年の時から、Aという友人と、毎週金曜、必ず飲みに行くというサイクルができていた。
それは大学を卒業するまで続くことになる。
その経緯についてはまたの機会に譲るとして、その日も例によって、Aと共に飲みに行くことになっていた。

駅の近くに、いつもそれはそれは長い列を作っている寿司屋があった。
開店は何時からだったのか忘れたが、ともあれ夕方くらいに大学を後にすると、毎日その長い列が、時には駅まで続くようなこともあって、どんだけ上手い寿司なんだよ、と常日頃から思っていた。
名物とまでは行かなくても、その駅前でしか見られない光景でもあった。
そしてその日は一念発起、Aとその店で一杯引っ掛けようと、その長い列に並んだのだった。
互いに決して裕福な学生とは言えなかったが、二、三ヶ月に一度、ちょいと高めの店に入って、二、三品頼んでみるということをやっていて、この日のターゲーットが、この寿司屋だったわけだね。

待つこと、多分一時間くらいだろうか。
ついに店内へ。
中はいかにも寿司屋って感じで、Aと自分は、カウンター席に案内された。
真っ先に壁に掛けられたお品書きに目が行く。
それなりの覚悟をして店に入ったわけだが、まあなんとか予算内でなんとかなりそう。
まだネットとか普及してなかったからね。
入ってみるまで値段がわからないって恐怖が、初めての店にはつきものだったんだよ。
ともあれ、目の前では数人の板前が、いかにもという難しい顔でまぐろに包丁を入れている。

実は自分の場合、この手の、お高い系の寿司屋には、何度か来たことがある。
それはまさかという雑居ビルに入っていたり、とんでもない裏路地の奥だったりもした。
中には、座っただけで一万、後は板前がその日入ったいい食材だけを黙々と持ってくるという、貧乏学生には威圧感たっぷりの店に入ったことがあった。
いずれも、連れて行かれて奢ってもらった店だけどね。

この日は貧乏学生二人での突撃だったわけだが、駅の近く、商店街に面してて長蛇の列と、まあとんでもない値段の店ではまずないだろうということで、しかし油断はできませんぞ、となんだか腰の座らない覚悟での入店だった。
結論から言うと、値段の割にはかなりおいしかった。
いくつか適当に握ってもらって、一人当たり3000円台だったと記憶している。
さっき書いた名店、ないしは隠れ家的な美味い店には及ばないものの、少なくとも、今まで自腹で食べた寿司(笑)の中では、ダントツに美味かったよ。
なんかもう、新鮮かどうかってことじゃなく、やっぱいい食材なの。
もうね、普通のまぐろでもトロかってくらい、お口の中で柔らかに溶けてく感じなの。
値段も充分予算でなんとかなりそうだったんで、それなりにもぐもぐ食べたと思う。
「美味い美味い」って言いながらね。
こんな店が、いつもの通学路にあったんだなあって。
おお、寿司だ、これこそが本物の寿司だ、などと感心しながら。
ただ惜しむらくは、他に何食べたか、あんま覚えてないところなんだよなあ。

外で待ってるお客さんがいるんで長居はできない。
Aと自分は、小一時間でその寿司屋を後にした。
美味いは美味いが、こういう店は一度で充分だなあなどと話しつつ、電車に乗って、新宿へ。
Aとの飲みは、いつも新宿だった。
たまに新しい店を発掘してもいたが、基本的にいつも同じような店で飲んでいた。
この頃根城にしていた店は、当然安く、長居ができるという点で気に入っていたが、もうひとつ、ちょっと変わったお通しが出るということで、よく行っていた居酒屋だった。
さて、今日はどんなお通しが出るかなと二人で紫煙をくゆらせていると、出てきたのは・・・。

寿司だった。
しばらくの間、二人で顔を見合わせていたと思う。
Aの顔には「ウソォーン?」と書いてある。
きっと、自分の顔にも書いてあっただろう。
まさか、お通しで寿司? まぐろである。
味の方はというと、あー、まあなかなか美味い。
美味いんだが、美味いんだがねえ・・・。

寿司屋で何食べたのか覚えてないのは、この出来事が強烈だったからだと思う。
お通しのまぐろの味は、今でもはっきりと覚えているよ。

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