尾上屋台 2017/04/21 03:23

格闘技を始めた日の、すごい偶然

サンボって知ってるかい?
今では格闘技の知識ある人多いんで、すぐにあれだとわかる人も少なくないと思うけど、当時はほとんど誰も知らなかったよ。
サンバと勘違いされるくらい。

昔、格闘技をちろっとだけかじったことをあるという話は、何度かしたことがあったと思う。
ネットのみの関係の人でも、チャットとかで話したことある人だったら、大体知ってるかな。

自分の格闘歴(と自分で書くのは恥ずかしい)は高校の時、大学の時、大学を出た後の三期分あるんだけど、いずれも短い期間で、「昔ちょっとかじったことありますよ」以上のことは言えたものではないので、そういう話題を振られても、ややぼかして話してきたんだな。
ここではその話もちゃんとしたいと思ってて、今回は最初の、高校の時の話をしたいと思う。
全部話すと長くなるので、とりあえずきっかけの話から。

以前ここでも書いたように、高校はとんでもなく体育のキツい学校だった。
普通高校生って、授業についてく為に家でも勉強したり、予備校に通ったりするもんなんだろうけど、俺の場合、体育の授業についてく為に、家帰ってからも運動始めたって感じだな(笑)。
一人だったらそこまで熱心にやらなかったと思うんだけど、近所の友人がジョギングとか誘ってくるようになってね、俺も必要性に駆られてたんで、運動を始めたんだ。
これも以前書いた通り、とにかく中学時代からまったく運動駄目になってしまってね、最初はキツかったよ。

そんな感じで、高校の体育は基本的につらかったんだけど、唯一、比較的できるんじゃないかって思ったのが、柔道だったんだ。
初めて柔道の授業があった時は、「うわー柔道。殺されてしまうかも」って思ったんだけど、これが意外にできてね。
まあとりあえず先生の言う通りに大腰だの背負い投げだのやってみるんだけど、なんかこれ、できたんだよ。
どれも言われた通りやれば、難しい技ではなさそうだし・・・と周りを見ると、みんなちゃんと投げることが出来てなかったんだな。
あれ?って感じだったよ。
周りもあれ?って思ってたんじゃない?
ここまで運動能力の低さを存分に見せつけてきた俺が、何故かこれだけはできたわけだから。

「柔道やってたことあるの?」って聞かれたけど、全然。
いや、教えられた通りやれば、俺みたいな非力な奴でもでかい奴投げられるのが柔道じゃない?
柔道部とか入って大会目指すわけでもないし。
あくまで体育の授業でやってるレベルなんだから、そんなに難しいことやってるわけでもないし。
って思ったんだけど、どうもそうでもなかったみたいで。
これひょっとしたら、他のスポーツできる奴って、こんな感覚なのかとも思ったよ。

これは小学校の時の球技もそうだったんだけど、どうも俺には、得意なスポーツとそうでないものの差が、かなりはっきり出るタイプみたいだったな。
とにかくね、これ別の時にまた話すけど、走るのが苦手なんだよ。
苦手というか、遅い。
クラスで太ってる子って、二、三人くらいいるでしょ?
かろうじて彼らに勝てるくらいで、標準的な体型してる人間の中では、とにかくぶっちぎりで遅い。
で、子供の時、小学校高学年くらいから中学にかけては、体育の授業って、走るのが中心になるじゃない?
自分が体育不得意になったのって、授業内容によるところも大きかったんじゃないかって、今にして思うよ。
高校も死ぬほど走らされたけど、柔道は走らない競技だからね(笑)。
野球が得意だったみたいに、これもまた、意外とできるスポーツだったみたい。

思うに、「自分の身体のみをコントロールする」系のスポーツは、とにかく駄目だったなあ。
ちなみに、泳ぐのもまったく駄目なんだ。
学校のプールで溺れかけたことがあるくらい(笑)。
対して、野球で言えばバットとボール、柔道で言えば相手の身体、要は対象が自分の身体だけじゃない競技ってのは、むしろ得意と言えるくらいの成績が出せた。
サッカーなんかは、シュートだけは上手かったな。
でもあれはほとんど走り回るスポーツだったんで、やっぱり不得意なスポーツだったよ。

ともあれ、柔道は、意外なほどできたんだ。
乱取りでも、ほとんど負けなかったよ。
あまりに体格差がある人間とは、先生の側で組ませなかったけど、同程度の体格の中では、一回しか負けなかったな。
この一回を今でもはっきりと覚えてるくらい、ほぼ負け知らずだったんだ。

さて、話を家に帰ってからのジョギングの話に戻すと、この友人は、高校に入ってからキックボクシングを始めていたんだ。
要は、それの体力作りに付き合わされていたんだな(笑)。
この彼は勉強も運動も俺よりできたからね、何かと面倒を見てくれてたんだな。
つっても俺には昔から、微塵も子分体質がないからね(笑)。
彼はどう思ってたかは知らないけど、俺は対等な関係であるつもりだった。
でも、彼はどう思ってたのかなあ。
そして俺自身も、およそ彼に勝てる要素なんてゲームくらいだなってことは、ちゃんと自覚していたよ。

ある日、彼が持ってきた「格闘技通信」に、サンボの体験教室の記事が載ってたんだ。
彼は申し込む気満々だったんで、まあ俺も付き合いで一緒に行くことになったわけ。
この時点でサンボのことは、聞いたことがあるってくらい。
俺も一応、ちょくちょく後楽園ホールに行くくらいにはプロレスファンだったからね、どんな格闘技なのかってことくらいは、なんとなく知ってた。

体験教室は、新大久保のスポーツ会館でやるってことだったんだけど、ちょっと余談で、なかなか場所が見つからなくてねえ。
なんかその時の地図で、大久保駅から徒歩何分みたいな記述だったのか(雑誌は彼が持ってたので道案内は任せてた)、途中で道に迷って、文字通り走り回った記憶があるよ。
もう着いた時には汗だくでね。
これ、新大久保からだったらそんなに迷わずすぐに着けたんだけどね。
当時はわからなかったもんで。

ともあれ、サンボの一日体験教室に入ったということで。
参加者は、結構多かった。
二、三十人くらいいたかなあ。
内容は、ほぼ柔道の授業に近い感じだったよ。
関節技が入るのが、柔道にはない動きで、面白かった。
関節技は柔道にもたくさんあるけど、体育の授業ではそこまでやらなかったんで、当時世界一関節技の多彩な格闘技と言われていたサンボの技は、どれも楽しかった。

で、その日の最後、全体を二つのグループに分けて、一人一回ずつ、相手のグループの人と実戦形式で戦って、締めということになった。
その前に、柔道の授業とか寝技投げ技系の格闘技やったことある人はわかると思うけど、この手の練習って、一つの技をやったら人を替えて次の人と組むって感じで、同じ人とずっと組むって感じじゃないんだよ。
だから友人の彼とは、最初の技の練習をやった後は、離ればなれになってたんだ。
そして、最後のスパーリングだけど、二つのグループから一人ずつ出て行って、スパーリングをこなしていった。
みんな初めてだからね、ぎこちない感じだけど、教えてもらった技とか試そうとしてるの見てると、なんかうれしい気持ちになったりして。
またみんな初心者なものだから、時間いっぱいまでやっても決着つかないこと多くて、一本終わる頃には誰もがバテバテだったよ。
うわー、これは疲れそうだって、俺なんかはそのことに戦々恐々としちゃってさ。
で、自分の番が回ってきた時、対面に立っている男を見て、すごい偶然だなって思ったよ。
そう、まったくランダムで順番待っていたにも関わらず、対戦相手として出てきたのは、あの友人だったんだな。
マットに向かう時に、お互いちょっと笑ってしまったよね。
ただの偶然だけど、こんなことあるんだって。

俺としては、全く勝とうなんて思ってなかったよ。
さっき言った通り、彼にはゲーム以外で勝ったことなかったからね。
全てにおいて俺が劣っていることは、それまでの三年近い付き合いの中で、充分わかってたからさ。
なので、微塵も緊張しなかった。
どうせ負けるだろう、くらいの感じで、気は楽だったな。
そもそも、勝とうとはしてなかった。

んで、結果はというと・・・。

多分十秒かからなかったと思う。
ほとんど一瞬って感じで。
ものすごくあっさりと、勝った。
一本勝ち。
バシーンと、背中から叩きつけて。
審判が俺の手を上げている時も「え、何?」って感じだったよ。

何が起きたのか、実感できたのは帰り道くらいだったと思う。
彼が仕掛けてきた背負いをいなして、足払いと大外刈りを合わせたような感じで、背中から叩き付けたってことは、自分の動きと、彼の話を総合して、ようやく全容がわかったって感じで。
ほとんど、本能的な動きだったと思うけど、動きそのものは、柔道の授業で身につけたものだよね。
「まあまあ、偶然でしょ」って俺は言ったんだけど、彼は結構沈んだ様子でね。
「負けた。負けた」って、何度か呟いて。
その様子見て、ようやく実感できたよ。
あ、俺、ついにこの彼に、勝ったんだなって。

たったひとつの勝利だけど、これ、男の子だったらもうひとつ、桁違いに大きな勝利だったってこと、わかるでしょ?
そう、喧嘩に強いってのは、男にとってものすごく大きいことなんだよね。
ちゃんとした喧嘩なんて、それこそ小学校の時に一回あったくらいで、今まで取っ組み合いの喧嘩なんてしたことなかったからさ。
特に、俺みたいな、この当時は160cmしかなかった俺からすると(大学に入ってから165cmまで伸びた)、彼の身長は176cmだったかな、喧嘩、取っ組み合いに近い、格闘技という舞台で彼を秒殺できたってのは、それはそれはでかいことだったんだよ。
俺も当時は「ただの偶然」って言ってたけどさ、組技系の格闘技に、金星ってほとんどないからね。
もう一度やっても、多分勝てるなって感覚は、はっきりとあった。
取っ組み合いに強いって感覚は、時に他の全てを凌駕するよな。
男同士になった時には、どうしたってこういうものはつきまとう。

ちょっと、世界が変わったよね。
彼との関係性もそうだけど、あれ、運動できないはずの俺だけど、意外と腕っ節は強いのかもって。
柔道の授業の時から、これは向いてるなって感じはあったんだけど、やっぱこれ、できるんじゃないかって。
ていうか、面白かったんだよ、柔道だったり、要は格闘技が。

もうその月の内に、サンボを始めることにしたよ。
その後の話は、また今度にしようか。

何の気負いもないきっかけと、思いがけない偶然で、世界がごろりと変わった経験が、君にはあるかい?
もしあったら、聞かせておくれよ。
ああいった感覚は、人生でそう何度と味わえるものではないよな。
本当に、誇張じゃなく、世界が変わったみたいに見えるんだから。

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