尾上屋台 2017/07/19 05:54

これが大人の世界なのか

前回()の続き。
運動だめだめの俺が、ふとしたきっかけで格闘技を始めることになった、高校生の頃の話ね。

で、早速俺は、サンボを始めることにしたの。
サンボってのは、前回そういう枕で始めたにも関わらずちゃんと説明してなかったけど(笑)、まあ、柔道とレスリングを合わせた感じ、加えて世界一豊富と言われた関節技を組み込んだ格闘技です。

前回の話だったり、あと柔道の授業なんかで、意外と格闘技は向いてるのかもって思って門戸を叩いたわけだけど、いやーさすがにここでやってる人たちのレベルは違いました(汗)。

今はさ、格闘技のジムなんてのもちらほらあったりして、結構メジャーな存在になってきたじゃない?
この当時は、格闘技経験者って世の中にほとんどいなくて、いても打撃系、空手やボクシング経験者が、ごくわずかにいるかもって感じで。

あ、一応柔道も格闘技ではあるんだけど、これは逆にメジャーになり過ぎてて、ここでいう「格闘技」みたいな言葉から漂う、なんとも不穏な(笑)感じのものとは、またちょっと違うよね。
たとえば自分の通ってた高校なんかでも、授業に入ってるくらいで。
柔道はかなり狭義の意味においても間違いなく格闘技ではあるんだけど、あえてここでは除外したいというか。
当時「格闘技」って言葉は、今とは比べものにならないくらい、喧嘩とか腕っ節の強さみたいなもんと、親和性高い言葉だったのよ。

その意味においての格闘経験者ってのは、ほぼいない世の中だったものでね。
さらにその時代であえて格闘技やるって人は、それなりのバックボーンなりモチベーションがあったりしたんだよ。
それこそ俺だって、人生観がごろりと変わるような経験したからこそ、その場に訪れたわけであって。

で、簡潔に言っちゃうと、そこにいたのはかなりのスポーツ、いや、格闘エリートばかりだったんだな(汗)。
もうね、集まってる人が、普段お目にかからないような人たちばっかりなんだよ。
パッと見はね、全然わからないの。
特別外見に特徴あるって感じじゃない人が多くて、まあちょっとガタイいいかなって感じくらい。
よく漫画で見るような、明らかに普通じゃない身体してたり、不良っぽかったりみたいな感じは、もう微塵もなくて。
またみなさん、物腰も非常にやわらかくて。

んで、練習が始まるんだけど、もうね、準備運動の時点で、キツかった高校の体育の授業の、さらに倍くらいキツいんだよ(笑)。
練習時間は二時間なんだけど、この準備運動って正味20分もないくらいで、もうこれどうなっちゃうんだって。

最初はね、ブリッジして後ろにでんぐり返しするみたいなのって、できなくて当然みたいな感じだし、初めてだと怪我するようなものもちょくちょくあったんで、そこは代わりの運動を指示してもらったりして。
んで、投げ技の練習とか、色々教えてもらいつつ、最後はスパーリングで締めるって感じだったんだけど、初日のこととかは、もうほとんど覚えてないなあ。
こういう経験って、初めての時はかなり鮮烈に記憶に残ったりするもんだけど、ほとんど覚えてない。
最初の内は、自主的に動くってよりも、手取り足取り教えてもらう感じだから、運動量としては、他の人よりかなり少なめだったはずなのに、もうほとんど記憶に残らないくらい、自分にはハードな練習だったよ。

それもそのはず、さっきも触れたけど、ここに集まってる人ってのは、他にも色んなスポーツ経験してきてるし、並のスポーツマンくらいじゃ、格闘技なんてやろうって感じじゃなかった環境で、格闘技やってる人たちなんだよ。
大半は社会人だったけど、学生の時から常にハードなトレーニングしてきた人たちだから。
体育学校みたいな高校に入って、ひいひい言いながら、なんとか普通の高校生並みの体力を身につけたばかりの俺にとっては、それはそれはキツい世界だったんだよ。
と、ここで実際どんなことやってたのかだったり、練習中の思い出なんかは長くなりそうなんで、また別の機会にしよう。

ちなみにここでは、当時高二の自分が一番年下だったと思う。
歳も一番下、体力も一番下、スポーツ経歴もほとんどないって状態だったから、逆に言うとみなさんとても優しく接してくれたよ。
なんだかんだと、やっぱ格闘技ってのは危険でもあるからさ。
特に一番年下ってのは、ある意味助けられたという感じもするなあ。

と、ここで驚いたのは、親切に接してくれたってのもそうだけど、みんな自分のこと、「尾上さん」って呼んだってことだったかも。
よく考えたらさ、それまであまりまともなクラブ活動とかってしてこなかったし、歳上、特に先輩と呼ぶような人たちって、当たり前だけど上から目線というか、まあそんな感じだったんだよ。

でもここにいる人たちは、まったく違って。
大体お互いのこと、さん付けで呼ぶんだよね。
まあ確かに、ほとんど社会人同士だから、相手の年齢わからなかったり、わかったところで、歳上だからって、タメ口きいていいってもんじゃない。
変な話、当時十七歳のこのくらいの年齢だと、大人同士の会話って、実はそんなに聞く経験ってないんだよね。
親同士とか、その知り合い、親戚関係とかはあっても、変な話、まったく他人同士の大人が会話する機会ってのは、ドラマや映画じゃないと、耳にする機会ってないもんだと思う。
そこでは既に関係性が出来上がってるものばかりなんで、まあ先輩なり歳上なりってのは、そういうキャラクター性をもって会話してたりする。

でもこう、リアルな社会ってのは、相手との関係性が出来上がる前に、タメ口きいたり上から目線で話すってことは、実はそうそうないもんだったりするよな。
必ずといっていいほど、まず相手に敬意をもって接するところから始める。
それが上辺だけのものである場合でも、少なくとも一定の礼儀をもって接するわけで。

で、それまで親だったり教師以外の大人と接する機会の少なかった自分は、まずそのことにびっくりしたんだよ。
それはまったく、経験したことのない世界だったから。
下手したら、大人になるまでこういうことを、知らないでいたかもしれないって。
ひょっとしたら、格闘技のことより、こういうやり取りの方が勉強になったかもだよね。
ああそうか、大人の世界だったりってのは、こういう感じなのかって。
で、この世界では、十七歳の自分でも、そういった大人と同じように扱われるんだなって。
だよね、それぞれ年齢もバックボーンが違う人たちの集まりなんだから。
高校生でも、ここでは一人の社会人の扱いだったんだよ。

もうひとつ、ここが格闘技をやる人たちの集まりだってのあったと思う。
それについては、また後日。

中には、自分が高校生だと知って、敬語抜きで接してくる先輩もいたけど、それは馴れ馴れしかったり上から目線じゃなくて、きちんと面倒見てくれたり、要はすごく"先輩らしい"態度で接してくれたよ。
教わることも多かった。
要は、歳上だったり先輩だってだけど、偉ぶった態度で接してくるような人たちってのは、いなかったんだよ。

サンボの世界に飛び込んで、ほんのちょっと触った程度だったけど、ここで教わったことは、大きかった気がする。
また一番多感な時期に、いい大人たちと触れ合えたってのも、得難い経験だったよね。

と、俺はそんな感じで、初めての大人の世界に触れたわけだけど、君が初めて大人の世界に触れたのは、どんな世界だったのか。
いずれ、その話も聞かせてくれよな。

今回は、こんなところで!

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