【小説】お姉ちゃんは様子がおかしい

「楓姉ちゃんは様子がおかしい」

 それが、結城卓斗の結論だった。

 楓姉ちゃんという人物は、姉ちゃんといっても、卓斗の実姉ではない。実姉は玲奈と言って別に存在している。楓姉ちゃんこと秋月楓はその玲奈の幼馴染で、近所に住んでいるお姉さんのことである。家が近所だから、中学までは玲奈と一緒の学校に通っており、しょっちゅう結城家に遊びに来ていた。そのため、卓斗は幼稚園に上がるよりも前から、この年上のお姉ちゃんに遊んでもらっていた。

 楓と玲奈は別々の高校に上がったが、それからも楓はしばしば結城家に遊びに来た。卓斗の方からも時々秋月家に遊びに行った。両親が仕事で忙しく、また玲奈も部活で忙しい時など、楓は進んで卓斗の面倒見役を引き受けたのである。

 そんな風に仲が良かったため、楓が進学して離れ離れにならなければならなくなった際には、幼かった卓斗は実姉である玲奈との別れよりも、遥かに多くの涙を流し、天仰地附の格好で悲しみに打ちひしがれたものだった。

 さて、その楓が去年の9月、およそ5年ぶりに東京から戻って来た。実家とは別に、近所の空き家を安く借りて、そこに引っ越してきたのである。

 大学に上がった楓は、あれだけ仲が良かったのが嘘のように、卓斗に連絡を寄越さなかった。一年目に、一本だけ電話をかけてきて、それっきりだった。そういうわけで、少年の中にあった楓の記憶は時間と共に薄れ行き、虫食い状態になっていた。帰ってきたと聞かされた時も、名前の響きにこそ懐かしさを覚えたが、昔よく遊んでもらった、ということ以外はハッキリとしなかった。顎の右側にほくろがあることさえ、忘れていた。だから、「たっくん、久しぶり」と声をかけられても、親しげな笑みを浮かべる綺麗なお姉さんが誰なのか、見当もつかなかった。

 もっとも、楓も高校時代とは随分変わっていた。垢ぬけた、大人の女になっていた。黒縁の眼鏡でなくコンタクトを使うようになっていた。近所の中高生が憧れを抱くような、清楚で知的なお姉さんになっていた。背は縮んだように感じたが、それは卓斗の背が伸びたせいだった。長く艶やかな黒髪は高校時代と変わらなかった。だけど髪型は違っていて、少女らしいポニーテールはおろされ、前髪は横分けにしていた。

 現在彼女はフリーの翻訳家をしている。楓が訳したという外国の本を手渡されたが、難しそうだと、卓斗は手をつけなかった。普段本を読まない少年にとっては、絵のない字ばかりの本は何でも難しく見えたのである。秋月楓という見知った名前が本の表紙に記載されていたことを、幽かに凄いことだと感じた。

 楓は、平日はほとんど家に籠って仕事をし、週一の編集者との会合以外は街中行くのも稀だった。だが、そういった在宅仕事の人間に向けられがちな不信な眼差しを近隣住民から向けられることは無かった。それは、界隈の出身者であるという理由だけではないようだった。楓は昔よりもずっと社交的になっていた。近所付き合いも良好で、礼儀正しく、ゴミの分別をキチンとし、町内の防災訓練にも進んで参加した。

 卓斗の母は、「楓ちゃん、随分明るくなったわね」などと我が子の成長を見るように喜んでいた。

 だが、そんな楓にたいする卓斗の結論は、

「様子がおかしい」

 であった。と言っても、楓が帰ってきて半年ほどまでは卓斗もそんな風には考えなかった。楓の変化に戸惑いはあったものの、大好きだったお姉ちゃんとの再開を素直に喜んでいた。

 キッカケは今年の5月。卓斗がいつものように楓の家にお邪魔した時だった。

 両親が共働きであるため、週に一度か二度ほどの割合で、卓斗は晩御飯を一人で食べないといけない日があった。それを聞いた楓は、自ら世話役を買って出たのだった。昔みたいに私が責任を持って預かります、と。

 その日も楓の家のリビングで晩御飯を食べていた。ダイニングテーブルの上にはビーフシチューと、スーパーで買ってきた惣菜を乗せたサラダと、白いご飯が2人分乗っていた。

 卓斗は対面に座った楓にあることを相談した。

 それは、恋の相談だった。

 卓斗には、新しい春に、一つの新しい出会いがあった。同じクラスに、北村エリカという女の子が転入してきたのである。イギリス人とのハーフで、生糸のように細い金色の髪と、真ん丸な大きな青い目を持った、お人形のような美少女で、外国人らしく、少しく張り出したおでこと、小さな鼻がたまらなくキュートだった。

 卓斗は一目見た瞬間、エリカのことを好きになっていた。いわゆる一目ぼれだったが、当人は十年も前から好きだったような気がした。

 席替えで隣同士になったのを幸いに、卓斗はエリカと仲良くなろうとした。沢山お喋りをしたり、わざと教科書を忘れて見せてもらったりした。

 エリカのことを思うと、胸がキヤキヤとした。自分がエリカを好きなのと同じように、エリカも自分のことが好きだったら――そう考えると、卓斗はしっちゃかめっちゃか走り出したくなるような気持ちになるのだった。

 エリカともっと仲良くなるには、自分のことを好きになってもらうにはどうすればいいのか? 卓斗にとって楓は、そういった悩みを相談できる頼れるお姉ちゃんだった。

「女の子ってさあ、どうしたら喜んでくれるのかな?」

 一通り話し終えた後、卓斗は結びとしてそう訊ねた。女の子の気持ちは、男の自分よりずっとよく知っている筈だと、期待に満ちた目で楓を見た。

 だが、頼りの楓姉ちゃんはなにも答えてはくれなかった。黙って考えているのでは無かった。食事の手を止め、ぼんやりと、目の前の少年を見ていた。その瞳は、希望を失ったように虚ろだった。

 どうしたんだろう? 卓斗は不安に表情を曇らせた。

 十秒ほどしてから、楓はいつもの溌剌さの欠片も無い、細く震える声で言った。

「どうして? たっくん……お姉ちゃんとの約束、忘れちゃったの?」

「え? 約束って……?」

 楓の眼差しも、口調も、真剣そのものだったが、卓斗にはまるで心当たりが無かった。

「そう……そうなんだ……」

 気鬱な声でそう言ったっきり、楓は黙ってしまった。卓斗はただオロオロするだけだった。何か自分がイケナイことをしたような気がして、必要以上におどけて見せたりもしたが、優しいお姉ちゃんはいつものように笑ってはくれなかった。むっつりと黙って夕飯を平らげ、後片付けをした。シャカシャカと皿の模様まで落とす勢いで食器を洗う音と、エプロンを結んだ洗い場の背中が怖くて、卓斗はいつもより早くお暇した。

 その日を境に、卓斗に対する楓の態度は一変した。と言って。怖くなったり、暗くなったり、厳しくなったりしたのでは無い。むしろ、より一層卓斗に優しくなり、可愛がるようになったのである。

 楓の家にお邪魔した日は、二人でゲームなどをして一緒に遊ぶのが習慣だった。そういう時に、楓はしきりに肩を寄せてきたり、ベタベタと体を触ったり、膝の上に座らせようとしてきたりするようになった。さらには、二人で晩御飯を食べている時に、卓斗よりもっと小さい子にする、例の、「ハイ、アーン」をしてくるようにもなった。

 卓斗はそれが嫌だった。と言っても、楓のことが嫌いというのでは無い。年頃の男子にとって、年上のお姉さんから必要以上に甘やかされるのが、恥ずかしかったのである。

 けれど、直接やめてとは言えなかった。一度、卓斗は拒絶する素振りを見せたことがあった。すると、楓は「昔は、よくこうしてあげたのに……お姉ちゃん、寂しい……」と、胸がキュッとするような表情を浮かべて言うのだった。過剰なスキンシップは嫌だったが、お姉ちゃんを悲しませるのはもっと嫌だった。だから卓斗は、お世話になる日は帰る時間が来るまでじっと我慢していた。

 次第に、卓斗はなるべく楓のことを避けるようになった。外で会っても、軽い挨拶だけして、さっさと行ってしまうようにしていた。家に遊びに来るよう誘われても、宿題があると嘘を吐いて断るようになった。

 しかし、避ければ避けるほど、楓はしつこく構ってきた。

「たっくん。お姉ちゃんお菓子作ったんだけど食べてかない?」

「たっくん。お姉ちゃんと一緒にゲームやろっか?」

「たっくん。お姉ちゃんとお買い物に行こうよ」

 学校から帰ってくると、ほとんど毎日のように声をかけてきた。媚びるような猫なで声で。傍目に見れば、男の子が美人なお姉さんに声をかけられているという、微笑ましくも、年頃の男子にとっては羨ましい光景だったかもしれない。だが、卓斗少年は楓お姉ちゃんの優しい笑顔や行動の裏側に、なんとなく、尋常じゃない、恐ろしい、魔物のような雰囲気を感じた。帰りを、待ち伏せされているんじゃないかと思った瞬間さえあった。しかし、その恐ろしさの正体は具体的には分からなかった。

 だから、結城卓斗は、

「楓姉ちゃんは様子がおかしい」

 と、ただそう結論付けたのであった。

「たっくんを救わないといけない」

 それが私の結論だった。

 誰から? もちろん、北村エリカという、魔女からだ。

 たっくんは可愛い。間違いなく美少年だ。眼は真ん丸で大きくてくりくりしていて、瞳の色はちょっと茶色がかっている。髪の毛は指通りが素晴らしくサラサラで、天使の輪っかの眩しくて綺麗だ。背はあんまり高くはない。138センチ。ちょっとオドオドした所もあるけど、優しくて白い歯を見せてよく笑う。中でも、褒めてあげた時の、はにかんだような遠慮がちな笑い方が一番好きだ。あの笑顔は私の胸を、気持ち良くくすぐったがらせてくれる。

 たっくんは小さな私の王子様。立派な大人になるまで、いいえ、決して立派な大人にならなくても、大きくなるまでたっくんは私が守らなければならない。そのために、この町に帰ってきた。実家の近所の空き家を借りて改装もした。ご近所のいやらしいおばさん連中とも仲良くした。お母様にも、気に入られるよう努力した。

 たっくんがダメな大人になっても、私の手でたっくんを養えるように、在学中はたっくんへの電話も我慢して、必死で勉強した。コミュニケーション能力も磨いた。仕事のコネも作った。色んなことを覚えた。たっくんと釣り合う、立派な女になろうと努めた。

 なのに。

 なのに。たっくんは北村エリカのことが好きだというのだ。耳を疑った。聞き間違いかと思った。約束したのに。問いただすと、たっくんは覚えていないという。ショックだった。足元がなくなって、無限の闇の底に落ちていくような錯覚にとらわれた。

 残念ながら私は、処女をたっくんに捧げることが出来ない。汚れた女である。高校三年の夏祭りで、顔も知らない5人の男に、人気のない御堂の裏の藪へ連れこまれた。無理矢理だった。鉄の棒を突き込まれたみたいだった。乱暴者。痛い。叫ぶと、頬を打たれた。腹を蹴られた。汗臭いタオルの味。熱くて、ドロドロの液体の感触。涙が枯れる位に泣いた。誰も助けてはくれなかった。笑っていた。私を見下ろして下品に、卑しく笑っていた。携帯で写真を取られた。ばらしたら酷い目に合わせると脅された。裸で藪の中に捨てられた。蚊を追う気力もなかった。妊娠しなかったのが、もっけの幸いだった。世の中の男はみんなケダモノだと思った。毎日夢に見た。怖くて、誰にも言えなかった。お母さんにも。玲奈にも。そこから、男性恐怖症のような状態が続いた。だけどじっと黙って、耐えて、学校に通った。ばれるのが嫌だった。ばれると、皆から汚物を見る目を向けられる気がした。いや、もうばれているとさえ、思った。顔で笑っているが、心では蔑んでいる。考え出すと、その考えに頭が支配された。自殺。逃れる法はそれしかないと思った。男子生徒が怖かった。男の先生も怖かった。全ての男が恐怖の対象だった。お父さんさえも。だけど、たっくんだけは怖くなかった。高校三年の、冬の日に家に遊びに来てくれたたっくんは、ヴェルサーチの赤いジャンバーを着て、もこもこで可愛かった。二階にある私の部屋で、ベッドの上に腰かけて足を投げ出したたっくんに、懺悔するような気持ちで、「お姉ちゃんもうお嫁にいけない」と、ただそれだけ漏らした。その時私は泣いていたかもしれない。泣いていなかったかもしれない。たっくんは、「だったら、僕が楓姉ちゃんをお嫁さんにしてあげる」そう言ってくれた。無邪気な██の言葉とだと頭では思っても、心はその一言で、救われたような、癒されたような気になった。気が付けば、私はたっくんに縋り付いていた。

「たっくん。ホントに? ホントにお嫁さんにしてくれるの?」

「うん。ホントだよ」

「絶対?」

「うん。絶対」

「じゃあ、たっくん。お姉ちゃんと約束ね。指切りね」

「うん。約束」

 指きりげんまんした時から、絶対にたっくんのお嫁さんになると誓った。

 だから、たっくんは私の王子様で、私と結婚するって決まっていたのに。私以外にたっくんのお嫁さんはいないのに。

 嘘。裏切り。大人になるにつれて、昔の記憶というのは薄れ行くもの。絶対にそんなはずはない。たっくんに限って。嘘を吐くはずはない。裏切るはずはない。私との約束を忘れるわけがない。

 じゃあ、どうして? 

 決まっている。北村エリカしかいない。少し考えれば簡単な理屈だ。

 北村エリカ。イギリス人とのアイノコで、たっくんのクラスメート。最近、本物の金髪の少女が、近所をウロチョロしているのは知っていた。お母さんらしい、ベイカー街の探偵のような鷲鼻をした外国人の女性と一緒に、近所のスーパーで買い物している所を、何度か見かけたことがある。

 金髪碧眼の綺麗な女の子だった。背はたっくんより少し高い。ハリウッド映画に出てくる子役のように愛らしい美少女だった。近所のおばさんたちも、あの娘の話をしていたっけ。お人形みたいねって。だけど私は騙されなかった。一目見た時から、嫌な感じがしていた。

 北村エリカが、たっくんをたぶらかしたのは間違いなかった。たっくんの記憶を奪ったのだ。私にはわかる。ピンときた。あれは、魔女だ。サキュバスよりもあさましい魔女だ。理由は簡単だ。お母さんの鼻、あれは、鷲鼻ではない。魔女の鼻だ。しかもイギリス人、イギリスは魔女の国である。お母さんが魔女なら、その娘も魔女に相違ない。

 たっくんが騙されるのも仕方ない。北村エリカはふしだらな魔女だけど、見た目だけはあんなに可愛いのだから。たっくんだって、男だ。女の心に潜むあさましい雌の本性や、女の鼻にだけ芬々と臭ってくるような汚らわしい雌の体臭に気が付かないのは仕方の無いことなのだ。男の人は、そういうものを見破るセンスを持っていない。ガワだけ見て、騙されやすい。だから、たっくんは悪くない。許しちゃう。悪いのは北村エリカだ。

 このままだと、たっくんを奪われてしまう。焦った。

「たっくんを救わないといけない」

 だから、私はそう結論したのだった。

 しかし、具体的にいかなる方法を採ればいいのか分からなかった。

 とにかく私はたっくんに尽くした。昔みたいに、沢山、我慢しないで可愛がってあげた。触れ合って、温もりを、私の嘘偽りの無い誠の愛を、分かってもらおうと思った。愚直。包み隠さず。マゴコロの奉仕。だけど、尽くせば尽くす程、たっくんは私から離れてってしまうのだった。なぜ? アイノコの魔女のせいだ。疑うべくもない。泥棒猫。売女。あばずれ。ビッチ。雌豚。雌犬。あらゆる言葉を尽くして、北村エリカを面罵してやりたかった。だけど、それじゃダメだ。悪に対抗するために、自分が悪に染まってはいけない。同じレベルに堕してはいけない。あくまで善なる心で戦わなければならない。だったら、方法は一つだ。愛で。より強く実感的な私の愛で、たっくんの中から北村エリカを追い出さないといけない。

 7月の頭、私は担当編集者との打ち合わせのために電車で中心街まで出かけて行った。

 編集者はここ最近の仕事の遅れや、翻訳の出来にアレコレと難癖をつけてきた。

 自分の王子様が魔女に籠絡されようとしているのに、仕事なんてできますか? そう反論してやりたかったが、目の前の年増の女には私の感情は理解できないだろうと考えて止した。もうババアのくせに化粧の濃い、ジェンダーフリーの本家本元みたいな女だった。私は確固たる意思を持っています、思想がありますと言う顔をした女は、なぜこうもあさましく見えるのだろう。

 並んで下校するたっくんと北村エリカを見かけたのは、その帰りのことだった。通学路が途中まで同じだとは聞いていた。私は隠れて様子を窺った。二人が並ぶと、美少年と美少女、お似合いのカップルに見えた。やられた、と思った。たっくんは笑っていた。北村エリカの雌の臭いに気が付かないで楽しそうに。聞き耳を立てたが、距離があって聞き取れなかった。いつもの小型集音マイクが手元にない事が腹立たしかった。親指の爪を噛んで見ていると、二人は交差点で右と左に分かれた。ホッとした。

 その後たっくんは、真っ直ぐ家に帰った。エライ。けれど、家には入らなかった。いや、正確には入れなかった。家の前の白い門を開けて、扉の前に立ったたっくんは、ポッケを探って、しまった、という顔をした。鍵を忘れたのだ、と私は即座に理解した。たっくんは、そういう所がある。

 私は辺りを見回した。人通りは無かった。たっくんの家から私の家までは30mくらい。

 チャンス。確信した。前々から準備はしていた。計画もあった。ただ、いつやるのか、それだけが決まっていなかった。様々なことに思いを巡らせると、今日が一番適した日に思われた。チャンス。神様がくれたチャンスだ。

「たっくんを救わないといけない」

 改めてそう決意を固め、私はたっくんに声をかけた。

「たっくん、どうしたの?」

 振り返ると、門の向こうに楓が立っていた。たまにある打ち合わせの帰りらしく、ノースリーブの白いシャツを着て、ひざ丈までのタイトな黒のスカートを穿いていた。

「あ、もしかして……また、鍵忘れちゃった?」

 そう言われた瞬間、卓斗はギクッとなった。さっきまでエリカと話していたという幸福感が、一瞬で吹き飛んだような気さえした。

 鍵を忘れた場合、楓の家にお邪魔するのが習慣になっていた。習いごとの日に鍵を忘れたら大変だからという理由で、卓斗の母は、信頼できる楓に合い鍵を預けていたからだった。

 卓斗は最近、鍵を忘れないように努めていた。楓を避けるためだ。しかし、今日に限って、うっかりしていたらしい。

 友達との約束があるから――少年はそう言い訳をして自転車で出て行こうと思った。

 だが、先回りするように楓は、

「今日、プールの日だよね」

「あ、えと……うん」

「ダメじゃない。習いごとは、タダじゃないんだぞ。それに、今日は試験の日なんでしょ? 鍵、開けてあげるからいらっしゃい」

 そう言われると、少年は黙ってついていくしかなかった。確かに今日はスポーツクラブでプールがあり、進級試験の日だった。母を通じて、卓斗のスケジュールは楓に筒抜けになっているのである。

 窓際に設置されたクーラーから送られてくる涼気が、温もったリビングを少しずつ冷やしていく。

 リビングのソファに腰かけた卓斗は、壁に掛けてある丸時計をしきりに見ていた。

「どうしたの? そわそわしちゃって」

 そう言って、楓はサイダーを注いだコップをソファの前の平机に置いた。

「だって。早く帰って、プールの用意しないと……」

「プールは6時からでしょ? まだ4時だよ。ゆっくりしていきなさい」

「うん……」

 早く帰りたいな、そう思いながらも、喉が渇いていた卓斗は、表面に汗をかいたガラスのコップを手に取った。炭酸の弾ける爽快さが、粘つく喉を洗ってくれた。家ではあまり炭酸飲料を飲ませてくれないので、ゴクゴクと景気よく飲んだ。コップを半分ほど減らして一息つくと、上着を脱いでシャツになった楓が、冷たい紅茶を注いだコップを手に、隣に腰かけてきた。ソファが沈んだ拍子に、肩と肩が触れ合った。卓斗は慌てて少し体をずらして座りなおした。

 二人はしばらく何でもない会話を続けた。友達のことや遊びのこと、最近やっているゲームのことなど、大人は気にも留めてくれない他愛のない話題でも、楓は興味深そうに耳を傾けてくれる。そう言う所が、卓斗は好きだった。

 しかし、話をする間楓の手は何気ない感じで、半ズボンから出た少年の太腿をさわさわと撫でてくるのだった。

(楓姉ちゃん、また僕のこと触ってくる……)

 少し嫌な気分になりながら、卓斗はいつものようにじっと我慢していた。

 20分ほど経った頃には、テーブルの上のサイダーは空になっていた。

 一方で紅茶は全く減っていなかった。氷が解け、透明な層と茶色い層に分かれていた。

「飲まないの?」

「ああ。そうだったね……」

 今気が付いたと言うように、楓はコップに口をつけた。

 それから、少し改まったように、静かな調子で切り出した。

「あのさ、たっくん……お姉ちゃん大事なお話があるんだけど、いいかな……」

「何? 大事なお話って」

「うん、あのね……お姉ちゃんもう一度聞きたいの……約束、お姉ちゃんとの約束を、たっくんが覚えているかどうか……」

 真剣な口調だった。卓斗も真剣に首を傾げた。約束のことが気になって、あれから何度か思い出そうとしてみたし、お母さんにもそれとなく訊ねてみた、だが、正体は全くつかめなかった。約束という幻影に手を伸ばしてみても、霞さえ掴みとれなかった。

「ううん……やっぱり、わかんないよ……僕、楓姉ちゃんとどんな約束したの……?」

 少年が訊ねると、楓は悲しそうに目を伏せて答えた。

「たっくんはねお姉ちゃんのこと、お嫁さんにしてくれるって、言ったんだよ」

「ホントに? 僕……」

 卓斗は驚いて目を丸くした。言ったような気もしたし、言っていないような気もした。結婚に対する認識が今よりずっと曖昧で、ずっと一緒に居たい、というような意味で、言ったのかもしれないと思った。何にしても、約束を忘れていたのだ。途端に、卓斗は自分が悪いことをした気持ちに囚われた。

「えと……ごめんなさい……僕、全然、そんなの、覚えて無くって……」

「ううん、いいの。覚えてなくても、たっくんは悪くないから。全部、エリカちゃんのせいだから……」

「え? なんでエリカちゃん?」

 楓は全てを許すような柔和な笑顔を浮かべると、驚く卓斗の手を取って、じっくりと言い聞かせるように語りかけた。

「大丈夫だよ。たっくんが約束を忘れちゃったのは、エリカちゃんのせいだって、お姉ちゃんにはわかってるから」

「へ? エリカちゃん?」

「あの女が、お姉ちゃんとたっくんの仲を引き裂きたくて、たっくんの記憶を奪ったのよね」

「待ってよ楓姉ちゃん……何言ってるか、全然わかんないよ……エリカちゃんは、そんなことしないよ……エリカちゃんは可愛くて……声も可愛くて、字が綺麗で……だから、僕、だからエリカちゃんが好きで……」

 卓斗は楓の異様な雰囲気に、ただオロオロするばかりだった。

 声も口調も表情も、いつもの優しい楓おねえちゃんのはずなのに、なぜか凄く怖かった。

「ダメよたっくん。エリカちゃんのことなんて好きになったりしちゃ」

「なんで? どうして?」

 今にも泣きだしそうな、狼狽えた声だった。

「ちゃんと聞いて、たっくん。エリカちゃんはね、悪い女なの。あれの本性は、いじきたなく、あさましい魔女なの、だから……」

「エリカちゃんのこと悪く言わないでよ!」

 大きな声で叫ぶと、少年はソファから勢いよく立ち上がった。

 その手を引きとめて、楓も腰を上げた。

「待って、たっくん」

「離してよっ! 僕もう帰るっ! 鍵かして!」

 卓斗は駄々っ子のように暴れた。しかし、女性とはいえ大人の力は強く、手を振りほどくことができなかった。

「ダメよたっくん。まだお話は終わってないわ」

 楓は強引に少年を引き寄せ、その小さな体を後ろから抱きすくめた。

「離してったらっ! もうお話なんて嫌だよ……エリカちゃんを悪く言って……さっきから楓姉ちゃんおかしいよ……」

「おかしいのはたっくんよ。私は、エリカちゃんからたっくんを救いたいのよ」

 楓の腕に込められる力が徐々に強くなっていく。

「なんだよそれ、意味わかんないよ……楓姉ちゃん変だよ……怖いよ……エリカちゃんのことを悪く言って……楓姉ちゃんなんて……嫌いらよ……ありぇ……?」

 卓斗は思わず首を傾げた。何の前触れも無く、突然ろれつが回らなくなったのである。

「なんれ……? ありぇ?」

 さらに、熱がある時みたいに頭がジーンと痺れてきた。首をねじり、不思議そうに楓を見上げる彼の丸い瞳は、胡乱げに揺れていた。

「ふふ……お薬、効いてきたみたいね」

 腕の中の少年の変化を見て、楓は嬉しそうに笑った。

「おくしゅりって……? 楓姉ちゃん?」

「うん。ちょっとね、お薬。サイダーにね、溶かしたの……すぐに気持ち良くなって、なんにも出来なくなるからね……」

「しょ、しょんにゃの……」

「ああ、心配しなくても大丈夫だよ、市販の咳止めのお薬だから……頭がポヤンとして、力が入らなくなってきたでしょ?」

「え……あ」

 楓に言われてやっと、卓斗は自分の腰が抜けているのに気が付いた。足に上手く力が入らない。それどころか、体を動かそうとする気力自体が、水風船から水が漏れていくがみたいに少しずつ失われていく。

「ふふふ……大体三時間くらいはそんな感じだから……その間に、お姉ちゃんが、たっくんの心の中から悪い魔女を追い出してあげるね……❤」

 その言葉を聴いた卓斗は、目の前で柔和に微笑む楓こそが、悪い魔女であるように思った。そして、自分は悪い魔女にさらわれた憐れな██なのだと感じ、恐ろしく不安な気持ちになったのだった。

ソファの上に腰かけると、薬で酩酊したたっくんを抱え込んで、膝の上に座らせた。軽かった。手足をバタバタさせていたけど、ほとんど力が入っていなかった。まるで、電池が切れかかった玩具みたい。

「いまから、いっぱいイイコトしてあげるから……暴れちゃダメ……」

 腕の中のたっくんを入念に愛撫した。怖がらせないように、丁寧に、まずは服の上から脇腹をさすったり、胸を触ったり、首筋を撫でたり、髪の毛を梳いたりしてあげた。髪の毛はサラサラと指通りが良く、シャンプーと汗が混じった、とってもイイ匂いがした。つむじに鼻を寄せて嗅ぐと、思わずうっとりとなった。

「ふうぅっ~❤」

「あうぅ……」

 襟足が少し伸びた首筋にふっと息を吹きかけた途端、たっくんはくすぐったそうに喘ぎ声を漏らした。その声が、背中にゾクゾクとした官能の怖気を走らせる。堪らなくなって、ついに私は短パンから伸びる太腿に手を伸ばした。少し日に焼けた肌は、毛が薄くてとっても綺麗だった。内腿をそっと撫でる。たっくんの体が小刻みに震えた。

「たっくんのお肌……スベスベだね……」

「やら、触らないで……」

 怯えたような、いまにも泣きだしそうな声だった。男の子なのにこんなこと位で、と思ったが、怖いのも当たり前か。満足に動かせない体を、好き勝手弄られるなんて、大人でも怖い。

「怖がらないで……痛いことは、しないから……ほら、こうやってナデナデされるの、嫌かなぁ……お姉ちゃんのおてて、気持ちいいでしょ?」

 太腿と胸を撫でさすりつつ、耳元にそっと囁きかける。胸を背中に押し付けるのも忘れない。こうすれば男が悦ぶのは知っている。男は大概、おっぱいが好きだ。

「やら……こんにゃの、気持ち良くないよぉ……」

「そうかなあ? でも、たっくんのおズボン……」

「ふえ? ろ、ろうして……?」

 たっくんは、そこでようやっと自分の体の変化に気が付いたようだった。草色の短パンは、触ってもいないのにテントを張っていた。

「お姉ちゃんの手で、気持ちよくなってる証拠だね……男の子は、気持ち良くなると、おちんちんおっきしちゃうもんね……」

 言いながら、強張った膨らみを包み込むように数度撫でてあげた。布地をとおして熱さと硬さが通して伝わってくる。

「や、やめて……そんにゃとこ、触っちゃやあ……」

 たっくんは私の腕の中でもぞもぞする。そのか弱い抵抗が心地いい。まるで捕らえられた芋虫みたいだった。顔を見ると耳まで真っ赤に紅潮していた。ほっぺを触ると、スベスベで熱かった。

「このまま触り続けたらどうなっちゃうか……たっくん知ってる?」

 一等高くなった個所を指先でクリクリとくすぐったり、掌でクニクニと全体を揉みこんだりしながら、甘く囁きかける。

「知らないよ、そんなの……あううぅ……やめてぇ……」

「へえ、そうなんだ……オナニー、したことないの?」

「し、知らないよそんなの……」

「へええ……❤」

 たっくんは、まだ精通してない――そう考えた瞬間、私は異様な興奮を覚えた。まだ、なにも知らない少年に、これからその快楽を教えるのだと思うと、全身がさっと冷たくなるような、頭の毛穴がふっと開くような、背徳的な気分になった。だけど、これはたっくんを救うために必要なことなのだ。正しい行いなのだ。私はごくりと生唾を飲み込んで、

「じゃあ、お姉ちゃんが教えてあげる……❤」

 半ズボンのゴムの隙間から素早く右手を滑り込ませ、パンツの中のささやかなモノをそっと握った。

 掌に伝わる熱と、ビクンビクンと脈動する感触が生々しく、同時に愛おしかった。

「たっくんのコレ……可愛いサイズだね……❤ 片手で、タマタマまで、包んじゃえる……」

 懸命に自己主張する小さな男を三本の指でつまんで、厚い包皮の上からゆっくりと上下に扱いた。この時期の亀頭は敏感すぎて慣らさない内は痛いらしいから、先っちょに触れないように気を付けながら、皮を剥いたり、戻したりを繰り返す。

「や、やらぁ……やめてよ、楓ねえひゃん……そんなとこ、触っちゃやぁ……」

「怖がらなくても大丈夫だよ……たっくんは、お姉ちゃんにされるがままになっていればいいの……❤ ほら、しーこーしーこーって……こうすると、気持ちいいんだよ」

 耳たぶに息がかかるくらいの距離でしこしこって、飛び切りエッチな声で囁きながら、優しく、丁寧に皮むき運動を繰り返す。そうやって、徐々に刺激に慣れさせながら、甘い快感で蕩かしていくのだ。目論見通り、たっくんはすぐに私の胸に背中を預けてぐったりと弛緩してしまった。やっぱり、男の子というのは快楽に弱い。

「あ、ふあ……んんっ……楓姉ちゃん、これ……はうぅ……」

「ふふ、どうしたの、たっくん? おちんちん、どんな感じ?」

「なんか、ジンジンなっひぇ……ちんちん、変だよ……」

「変じゃないよ。それは、気持ち良くなってきているんだよ。だから、ほら、もっとしこしこしてあげるね……しーこーしーこ、しーこーしーこ……❤」

「はううぅ……あ、あ、ああぁ……早くしちゃ、らめぇ……」

 しこしこする度に、たっくんはピクピク体を震わせる。その表情は不安げで、けれどおめめはトロンとしていて、まあ、これは薬のせいでもあるのだけれど、食べちゃいたいくらい可愛かった。自分の手の中で男がよがるのは好きだ。それが、最愛の王子様だと、もう、感に堪えない思いだった。

 どうしようもなく興奮した。気が付くと私はおちんちんを弄りながら、たっくんの耳やほっぺを、犬がじゃれる時みたいにペロペロ舐めまわしていた。ちょっとしょっぱい味。汗の味。たっくんの味。

「たっくん……たっくん……かあいい、かあいいよぉ……❤」

「ひあ、か、楓姉ちゃん……」

 さらにシャツをめくり上げて、お胸のぽっちりをクニクニと刺激してあげた。指先で転がすうちに、その綺麗な色の乳首に芯が通ってつんとなったのは、感動だった。ちょっと生意気な硬い反発が、いじらしい。もっと、もっと弄ってあげたくなっちゃう。

「お胸も、いいでしょ? ほら、ぷくってなって、エッチだね……たっくん……❤」

「あ、ああ、ああぁ……僕の体、どうなってるの……ひううぅ……」

 鼻にかかった嬌声を上げて悶えるたっくんが、私のふしだらな欲望を一層掻き立てる。

「おちんちんも、乳首も、耳も、もっと可愛がってあげるね……」

 私自身の声も、上ずっていた。はあはあって、息があらくなっている。

「どう? たっくん。おちんちんと、お胸……どっちが気持ちいいかなぁ?」

「ひあ、あ……わかん、ない……あ、ああぁ……」

「どっちも、気持ちいいんだね……ほら、お汁が出て来てるよ……」

 一旦ズボンから手を出した。指先が、透明な粘液に塗れていた。それを、たっくんの目の前に持って行き、見せつけるように人差し指と中指を引っ付けたり離したりした。粘液が指の間で伸びて泡立って、にちゃにちゃといやらしい音がした。

「な、何しょれ……僕のちんちん、ろうしちゃったの?」

「これは、先走り汁って言って、たっくんが気持ち良くなってる証拠だよ……」

 そう言って指先を口に含んだ。クセの無い塩味が、舌の上に広がる。

「んんっ、しょっぱくておいしい……」

「や、楓ねえちゃん……しょんなの、汚いよぉ……」

「きたなくないよ。たっくんのだもん❤ だけど、このままだと、パンツが汚れちゃうから、ぬぎぬぎしようね」

 ズボンとパンツをまとめて膝まで下ろしてあげた。ゴム止めだから一息だった。

 パンツの中から跳ねた男の証は、硬く充血し、威嚇的に上を向いていた。けれど、ペニスと言うには小さすぎたし、しっかりと皮をかぶっていて逞しさも迫力も全然だった。その上、周囲には、毛なんか少しも生えていない。まさにおちんちんと言う呼び名がぴったりの可愛らしいモノだった。

「たっくんの、おちんちん……かあいいよぉ……おいしそ……❤」

「み、見ちゃいやぁ……恥ずかしいよぉ……」

 私があまりにじっとソコを見つめていたから、たっくんは慌てて足を閉じようとした。だけど、薬と快感のためにその動きは緩慢だ。

「こーら。抵抗しても無駄だって、まだわかんないの?」

 私はすぐに足を開かせて、おちんちんを捕まえた。さっきと同じように指先でシコシコと扱いていく。余った包皮を剥き下ろす度に、覗く亀頭はピンク色で、テラテラと絖光っていて妙にいやらしい。

「あ、あああぁ……んあ、ああぁ……」

 おちんちん扱きを再開すると、たっくんはすぐに快感で、くにゃっとなった。体に比べてこんなに小さな棒をちょっと弄られただけで、蕩けて、アンアンよがるだけになってしまうなんて。男の子って、ホントに可愛い。

「しーこーしーこ……先走りのお汁、どんどん出てくるねえ……」

「あうぅ……や、やめひぇ……楓姉ちゃん……」

 手の中のおちんちんは、まるで小さなたっくんの分身、ちょっとナデナデしてあげると、すぐにビクビク震え、はしたない涎を漏らして悦びを露わにする。

 じっとりと首筋に汗が垂れた。クーラーの設定温度は25℃にしてあるはずなのに、部屋の中が物凄く熱い。違う。私が興奮しているのだ。たっくんが、思っていた以上に可愛いから。

 右手で輪っかを作り皮の上から裏筋やカリ首を刺激するようにおちんちんを扱き立てながら、肌を弄り、唇で耳たぶを甘噛みする。

 完全に手玉だった。たっくんはどんどん敏感になっていき、髪の毛が触れた位の些細な刺激で、気持ちよさそうに声を上げた。そして、その声は徐々に切羽詰ったものになってきた。

「ふあ、楓姉ちゃん……もう、しこしこしないれぇ……なんか、おちんちん……じんじんして……変なかんじらよぉ……」

「変ってどんな風に変なのかな……? うふふ……何か、出そうなのかなぁ?」

 私の手の中で翻弄されたおちんちんは、先っぽを膨らませてピクンピクン震えていた。もう、イきそうだというのは簡単に分かった。だけど、分かっていてわざと虐めてみる。たっくんは、今にも泣きだしそうだった。本気で、何が出るか分かっていないんだ。

「あううぅ……このままじゃ、出ちゃうよ……お、おしっこ漏っひゃうよぉ……楓姉ちゃんのお部屋、よごしちゃう……」

「うふふ……違うよたっくん。これはね、おしっこじゃないんだよ……」

「ふえ?」

「お姉ちゃんが触り続けるとね、たっくんのおちんちんからは、おしっこじゃない白いのが出るんだよ……」

「そ、そんな……し、しんないよ……ひゃう、あ、ああぁ……」

「じゃあ、今からお姉ちゃんが、教えてあげる……❤ しこしこしこしこ……❤」

 未熟なペニスを扱く手を速めた。リング状にした指で包皮を剥き下ろしながら、亀頭やサオに甘い快感を与えていく。ヌルヌルのカウパー液が皮の間で泡立ち、にちゃにちゃと聞くも淫らな音を立てる。

「うあ、ああっ……そんにゃ、はげしい……あ、あああぁ……」

「ふふふ、かあいい声……❤ 一気に、イかせてあげるね……しこしこしこしこ……❤」

 悩ましく悶えるたっくんをギュッと抱きしめ、震えるペニスを一気に追い上げる。同時に反対の手で下についた肉袋を転がすようにマッサージしてあげると、効果はバツグンだった。これから、たっくんの初めての射精を見られるんだ――そう思うと女の部分が、キュンとなった。

「らめ、らめらめ……もう、漏れちゃう、あ、ああああぁ……」

「出す時は、イクっていうんだよ……ほら、イク、イク、イっちゃうって、ほら……❤」

「あ、ああぁ、ああぁ……イク、イっちゃうよぉ……!」

 初めての感覚に戸惑うたっくんは、私の教えたことを素直に実行しながら、腰を突き上げ、足先をピンと伸ばした。と、次の瞬間、手の中の小さな勃起おちんちんがビクンビクンと激しく脈打ち、先っちょから精液が、ぴゅっ、と勢いよく噴き上がった。8回ほどの脈動の後には、私の手だけでなくテーブルや紅茶のコップ、テレビのリモコンが白く染まっていった。

「ふあ、あ、ああぁ……あ、あ、あああ……」

 たっくんは荒く息を吐き、全ての力を失ったように私に体重を預けた。その目はトロンとしていて、頬は湯あたりしたみたいに火照っていた。

「ふふふ……気持ち良かったね……❤ 凄い勢いでピュッピュしちゃったね……❤」

 初めての射精。私の手で、精通に導いた。その事実を噛みしめた瞬間、鳥肌が立つほどの興奮を覚えた。

 私は射精後の脱力と恍惚に身動き出来なくなったたっくんをソファに寝かせ、机の脇に置いてあった自分のバッグからスマホを取り出した。動画モードに切り替え、レンズをたっくんに向ける。私の手に導かれて精通を迎えたというこの歴史的瞬間を、データとして保存しておきたかったのだ。

 液晶画面に映っているのは、濃緑のソファの上で大事なところを丸出しにしてぐったりと弛緩するTシャツ半ズボンのお利口そうな美少年。その可愛らしい性器は未だ勃起したままで、尖端部に白濁した汁が付着している。初めての射精が怖かったのだろう、目にはうっすら涙が滲んでいた。口からは一筋の涎が顎の先まで垂れていた。

 レンズ越しに見ると、たっくんは一等可愛らしくて、エロティックだった。

「ねえ、たっくん……初めての白いおもらし、どうだった?」

「あうう……はぁ、はぁ……わ、わかんない、頭、真っ白で……」

「頭真っ白になるくらい、気持ち良かったんだね……嬉しい……❤」

 今度はカメラに切り替えて、シャッターを切った。

 カシャ、と無機質な電子音が鳴った瞬間、たっくんは芋虫みたいに丸まった。

「ひゃ、楓姉ちゃん……撮っちゃやらよぉ……」

「恥ずかしがり屋さんなのね。でも、もうバッチリ撮っちゃった……❤」

「しょ、しょんにゃぁ……消してよぉ、お願い……」

「ダーメ。たっくんの、精通記念だもの……大事に、保存しておくからね……❤」

 私は携帯電話をカバンにしまうと、先程と同じようにたっくんを膝の上に乗せてソファに座った。

「それでね、たっくん……今の気持ちいい白いお漏らしはね、射精っていうんだよ……」

「しゃ、しゃせー?」

「そう。すぐ覚えられてエライね。これをさせてあげられるのは、お姉ちゃんだけなんだよ……お姉ちゃんがすることは、全部たっくんにとってイイことなの。お姉ちゃんにおちんちん可愛がられて、お射精して、いっぱい気持ちいいになると、たっくんの心を冒している悪い魔女がいなくなるんだよ……」

「悪い、魔女って……?」

「もちろん、北村エリカだよ。白いお漏らしすると、頭が真っ白になって気持ち良くなるでしょ? その白は、お姉ちゃんの白、正しい白なの。正しい白で頭をいっぱいにすると、悪い魔女は付け入る隙がなくなって、逃げだすしかないの。そうしたら、悪い魔女のことはすっかり忘れられるからね」

 それが私の作戦だった。たっくんに説明するために少しだけ事実を歪めてはいるけれど、悪い魔女の支配から救うにはこれしかない。

 気持ちいいで頭の中をいっぱいにして、私の愛をたっぷり教え込んで、悪い北村エリカのことなんて、すっかり忘れさせてしまわなければならない。そして、私無しでは生きていかれない、私だけの王子様に育て上げるのだ――

「や、やだよぉ……そんな、僕、エリカちゃんのこと、好きだもん。忘れたくないよ……」

「ダメよ。言ったでしょ? 北村エリカは魔女で悪いの。好きになったらいけないよ。たっくんを不幸にするんだよ。だから、お姉ちゃんがたっくんを救ってあげる。守ってあげる……」

 私がそう言って抱きしめようとすると、たっくんは不自由な手足をバタバタさせて抵抗した。

「いや、いやらよぉ……なんかおかしいよ……エリカちゃんより、お姉ちゃんの方が、悪い気がするよ……」

「たっくんっ!」

 瞬間、私は声を張り上げていた。

「ひいっ……! ごめんなさい……!」

 たっくんはビクッと肩を跳ねさせて、膝の上でアルマジロみたいな防御姿勢をとった。私は、はっと我を取り戻して、それからオロオロと謝った。

「ゴメンね……たっくん……ゴメンねぇ……怖がらせちゃって……お姉ちゃんのこと、許して……」

 ああ、やっちゃった。思い通りにいかないからって、つい、声を荒げてしまった。たっくんは、なんにも悪くないのに。たっくんは、気が付いていないのだ。自分が魔女の術中にはまっていることに。

 畜生。まさか、魔女の支配の鎖が、ここまでたっくんの心を縛り上げているなんて――私は、北村エリカの狡知さと残虐さに体が震える程の憤りを覚えた。

 もっと気持ち良いことをして、もっといっぱい愛を与えて、一刻も早く北村エリカの呪縛から、たっくんを救わないといけない。

 私はたっくんを抱えたままてソファから立ち上がり、二階へ向かった。

 薄暗く、ほのかに甘い香りのする寝室は、細々としたファンシーな置物や、手作りのポプリ、小熊や犬のぬいぐるみで飾り立てられ、洋箪笥の上のドロセラの鉢植えだけが異彩をはなっているが、清潔で、総体としてとても女性らしい部屋だった。入り口のドアの前には可愛らしくデコレートされた小さな木のプレートが掲げられていたし、ドアノブにはフリルのついた可愛らしいカバーがかかっていた。

 女の部屋を飾る行為は、動物の巣作りに似ている。気に入る素材を寄せて集めて、生活と密接に結び付いた自己の空間を作り上げるのだ。この巣の中に連れ込まれた少年も、最早彼女の一部だと言っていいのかもしれない。

 卓斗はシャツを剥かれ、素裸の状態で組み立て式ベッドの真っ白なシーツの上に横たえられていた。薬の作用で体を上手く動かすことができない。まるで、自分の体で無くなったように、手足が重く持ち上げるのも難しかった。頭もふわふわするような、どろん、と微睡むような状態で、けれどぼんやりと気持ちがよく、えへへ、と口元が緩みそうになる。そんな不可思議にリラックスした心地のまま、虚ろげな視線を天井に彷徨わせていると、点在する黒ずんだシミがぞろりと動いたように見えた。

「じゃあ、今から……もっとすごい、気持ちいいことしてあげるね」

 ベッドの脇に立ってそう言った楓は、すでに一糸まとわぬ姿になっていた。胸もお尻も極端に大きいわけではないが、全体的にふっくらと豊かな円みを帯びた、女性的な体つきだった。無駄毛の綺麗に処理された肌は茄子のウラナリのように生白く、腰まである長く艶やかな黒髪が、その不健康の域にある白をよりくっきりと際立たせていた。足元には脱ぎ捨てたシャツやスカートやパンティストッキングやブラがまるで抜け殻のように蟠っている。

「か、楓お姉ちゃん……何を……」

 初めて目にする肉親以外の大人の女の裸から、少年は恥ずかしそうに視線を逸らした。

 声はか細く震えていた。その理由は、薬のせいで大きな声が出せないからだけではなかった。今から何をされるのか。なぜ裸にされたのか。なぜ裸になるのか。コウノトリやキャベツ畑を否定する知識を持たない少年にとって、楓の行動は何もかもが謎だった。未知は恐怖だ。そして、なによりも、彼女が浮かべる屈託のない笑顔が怖くて仕方無かった。

 先程自らが体験した白いお漏らしがなんなのかすら、今一つ見当が付いていなかった。突き抜ける快感と、してはいけないことをしてしまったという罪悪感はハッキリしていた。それだけではない、楓の話によれば、あの気持ちのいい白いお漏らしをすれば、エリカのことをすっかり忘れてしまうというのだ。

(そんなの、絶対に嫌だ。エリカちゃんのこと、忘れたくない――)

「もう、いやらよぉ……楓姉ちゃん、お願い……おうち、帰して……」

「怖がらなくても、大丈夫だよ……たっくんはただ、お姉ちゃんに全部任せていれば、気持ち良くなれるから。まずは、萎えちゃったおちんちん……勃起させてあげるね……」

 楓は優しげに微笑みながらベッドに上がって、卓斗の脚の間に上体を割り込ませた。長く垂れた髪の毛を掻き上げ、完全に萎んだ肉茎を手に取ると、淡い色の紅を引いた艶めかしい唇をパックリと開き――躊躇うことなく口に含んだ。

「ひゃ……楓姉ちゃん……しょんなとこ、きたないよぉ……」

 予想だにしていなかった行為に、卓斗の口から驚きの声が上がる。フェラチオの知識すらない初心な少年にとって、ソレはあくまで排泄器官、あるいは男だけの玩具であり、そんな不潔な部分を口に含むなんて、あまりにもけがらわしい行為に思えた。

「たっくんのおちんちんは、汚くなんてないよ……ん、いっぱいしゃぶって、おっきくしてあげるね……❤」

「ふあ、あ、ああぁ……」

 口内で柔らかな舌がうねり、皮の上から未発達の性器を弄んでくる。飴玉を転がすようにレロレロと舐めしゃぶられ、頬を窄めて軽く吸い上げられた。

 楓の舌使いはあくまで甘く、熱情を感じさせながらも、初めての少年を気遣うような優しさに溢れており、不安や恐怖を覚えながらも、卓斗はその蕩けるような快楽に逆らえない。唾液に滑った柔舌がもたらすゾクゾクするような妖しい感覚に、未成熟な雄の器官は瞬く間に充血していった。

「ふふふ……おっきくなってきたねぇ……んれるれるっ……」

 口内を圧する少年の感触に悦びを覚えているのだろう、楓は頬を紅潮させ、まるで大好物を味わうかのようにじっくりと舌を動かしていった。

 包皮の上から裏筋を擦り上げられると、ペニスの芯に甘美な痺れが走る。皮の隙間から覗く敏感な亀頭に舌先が触れた瞬間、ぴりっとするような刺激が電流となって少年の背筋を駆け抜けた。

「ひゃうっ……いあっ、ううぅ……!」

「痛かった? ごめんね。やっぱり……カメさんは刺激が強いのかな……でも、少しずつ、これに慣れなきゃだめだよ……んれるれるっ……」

 そう言って楓は皮の隙間に舌を捻じ込み、亀頭の周囲をねろりとなぞるように舐めた。普段厚い包皮に保護された粘膜にとってその刺激はあまりにも新鮮で、強烈だった。痛みすら感じる程の強い快感に、少年は端正な顎を反らせて喘いだ。

 それにも関わらず、楓は舌を蠢かせて過敏な弱点を集中的に舐り続けた。

 唾液を摺り込むようにじわじわと、長年に溜まった恥垢をこそぎ取るように入念に。尖らせた舌先でカリの部分を撫でたり、裏筋をゾリゾリと摩擦したり、小さく開いた尿道口を軽く突いたり、手を変え品を変え秘められた宝冠を弄ぶ。

 そんな楓の慣れた舌使いに、未熟な少年は容易く性感を高められてしまう。

「かえで、ねえひゃん……ふぅ、ああぁ……」

「んっふ……これだけレロレロしたら……もう、いたくないでしょ?」

 楓の言う通りだった。亀頭を柔らかく滑った舌に責められる内に、粘膜同士が馴染んできたのか、だんだんと痛みは薄れてきた。

「あ、ああぁ……それ、いいよぉ……」

 とろとろと鈴口から先走りを滲ませるほどに、少年は楓の舌使いに慣らされていく。

 最早痛みは完全に消失し、残ったのは甘く切ない快感だけ。ペニスの芯から湧き起るジンジンとしたもどかしい快楽の疼きに、少年は鼻にかかった切なげな喘ぎを漏らして酔い痴れた。

「んふぅ……はぁ、ん……たっくんの、おちんちんのお汁……おいしいよぉ……❤」

 未発達ペニスから溢れる透明な液体を、まるで天与の甘露を味わうかのように啜り、楓は発情し切った雌の声で呟いた。

 下腹にかかる熱い息はあまりにエロティックだった。長い髪の毛が太腿に触れるくすぐったさも堪らない。唇で根元をキュッと締め付けながら緩やかに扱かれると、ペニスの奥から、先程初めて経験した、あのムズムズとした感覚が込み上げてきた。

「ふあ、ああぁ……楓姉ちゃん……また、おちんちん、へんに、なっひぇ……」

「うふふ……変じゃないって、教えたでしょ? これは、気持ちいいんだよ……もう、イっちゃいそうなんだね……」

「イっちゃ……イっちゃう……?」

 そのワードを耳にした瞬間、少年の心に激しい忌避感が芽生えた。

「や、やだぁ……イくの、だめぇ……」

 射精すれば、頭が真っ白になって、快感で、エリカのことを忘れてしまう。それが嫌で、怖くて。だから卓斗は必死で腰に力を込めた。

「心配しなくても、大丈夫だよたっくん……お口は、ここまでだから……」

「ふえ……?」

 しかし、楓はイく寸前でペニスから口を離してしまった。

 唾液に塗れた皮被りの陰茎が、名残惜しそうに震える。

(どうして? 僕に、白いお漏らしをさせたかったんじゃ……)

 卓斗は困ったような表情で楓を見つめた。快楽を直前で取り上げられたことへの悲しみと、もしかしたら許してくれるのではないかという淡い期待が心中で交錯する。

 だが、楓の思惑は少年の予想とはかけ離れたものだった。

「ちゃんと、ナカで、出させてあげるからね……❤」

 と、楓は卓斗を跨ぐ形でベッドの上に膝立ちになった。そして、自らの性器を指で拡げ、恍惚とした面持ちで言った。

「私もね、たっくんのおちんちんナメナメしてたら……なんだか、キュンキュンしちゃって……❤ ほら、見て……❤ すっごい、エッチでしょ?」

 毛の生えていないつるりとした三角地帯。その中心に剥いた縦筋からは大漁の粘液が溢れ、太腿にまで筋を引いて垂れていた。

「うあ……」

 卓斗は目を見開いて言葉を失った。

 性知識に乏しい少年には、自分の持つ棒状の排泄器官と同じ場所に備わったその肉の器官が、どういう意味と役割を持っているのか、正確には理解出来ていなかった。

 しかし、その未熟な雄の本能は、蜜濡れた薄桃色の肉の結ばれから、淫靡で秘めやかな匂いを確かに嗅ぎ取っていた。

 見てはいけないものだと、直感的に思ったが目を逸らせなかった。ただ見つめているだけなのに、胸は早鐘を打ち、下半身が熱く疼いてくる。

「ふふ、釘付けになっちゃって……おちんちんも、ピクピクしてるね……でも、見てるだけで出しちゃダメだよ……ちゃんと、ナカでね……❤」

 卓斗の反応を見た楓の口端が、ニンマリと吊り上がる。まるで、仕留めた獲物にかぶりつかんとする肉食獣さながらの、いやらしく、ゾッとするような笑みだった。

「いや、やだ……やめて、やめてよぉ……」

「怖がらないで……これは、大切なことなの……お姉ちゃんの一番気持ちいいところで、たっくんを射精させて、頭真っ白にしないといけないからね……それじゃ、挿れるからね……たっくんの、おちんちん……うふふふふふ……大人に、してあげるね……❤」

 手で小さな屹立の位置を調整し、楓は膝立ちのままグッと腰を押し付けた。

「い、いやぁ……楓おねえひゃああんっ……」

 愛液を潤滑油にして、火照った肉の間道を一息に潜らされる。

 火傷するような熱さ。愛液の滑り気。媚肉の柔らかさ。粘膜の躍動。圧倒的な肉悦が、官能の悪寒となって腰の奥から背筋をゾクゾクと駆け上る。感じるどころか想像した事すら無い女肉の悦楽に、頭の中が真っ白になる――

「んはぁ……入った……たっくんの、童貞……もらっちゃった……んんっ……」

「あ、あ、ああぁ……な、何これ……なにこれぇ……イ、イッちゃう」

 果たして、根元まで呑み込まれた瞬間、肉洞に喰らわれた小さな性器は一段と傘を膨れさせ、勢いよく爆ぜた。

 脈動と共に熱い液汁が尿道を押し拡げ、しとどに濡れた膣の奥へと飛び出していく。

 我慢など少しも出来なかった。咄嗟に押し留めようとしたが、一度始まった放出は、いくら力を込めても止まってくれなかった。

 あまりに甘美な絶頂感に、少年は全身をビクビクと戦慄かせて情けない声で喘いだ。

「うふふふ、もう出しちゃって……❤ んん、熱いのいっぱいきてるうぅ……

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