シロフミ 2020/08/05 21:51

白犬伝

 ノクターンノベルスに掲載している作品ですが、最近書き直したのでこっちにも貼っておきます。
 遥か昔の戦国の世。父を殺され国を追われた幼き美貌の姫と、それを娶った白狼の話。
 獣○、妊娠描写などありますので注意。




 ▼

 この、扶桑にあっていまだ人の手の触れぬ、深き山のなお深く。
 切り立った断崖に囲まれた渓谷は、荒れ狂う竜のごとき急流の飛沫によって、霧の中に包まれていた。
 雲間に聳える北方の峰、鷲羽連峰の奥深く。地元のマタギすら寄り付くことのない人跡未踏の山中は、まもなく厳寒の冬を迎えようとしている。
 ぴんと張りつめた空気の中、急峻な渓谷には樹齢数千を数える針葉樹の巨木が天を衝かんばかりに聳え、枝と梢を幾重にも広げて空を覆い尽くす。分厚い岩盤に食い込むように伸びた根には分厚い苔が生し、険しい山間に僅かばかりの緑の間を作っていた。
 真夏にも雪を頂く遥か鷲羽の峰の豊かな水は、この渓谷に滝となって流れ落ちる。秋も深まる中でその勢いはいや増し、岩肌を削る飛沫は細かな霧となって渓谷を覆い、一間先を見通すことも難しい。
 そんな、昼なお暗き渓谷の岩棚を、風を切って疾駆する影があった。
 雪のちらつく灰色の空の下、梢を揺らす風のごとく、白い影が宙を跳ぶ。
 純白の毛皮を風になびかせ、迷うことなく真っ直ぐに。苔に覆われた渓谷を駆け上るのは、見上げるほどの巨躯をもった、一匹の山犬であった。
 神代から変わらぬ姿であろう深山の渓谷を、まるで己の庭の如く駆けるその姿は、この世のものとも思えぬ威容。
 一点の瑕疵もない純白の毛並みの中、首から肩に伸びる鬣はひときわ長く風になびく。
 大の大人をひと噛みで砕くこともできるであろう顎から、蒸気のような吐息をふいごのように吐き出して。獣の強靭な四肢は、切り立った渓谷の僅かな足場をも容易く捉え、わずか数度の跳躍で底の見えぬほどの深き谷を飛び越えてゆく。
「――――」
 そうして。深山を風よりも早く跳び、駆け上る彼の背中には、鮮やかな色彩があった。
 深々とした山犬の冬毛に身をうずめる様にして、一人の少女がその背にしがみ付いているのである。
 肩上で切り揃えられた黒髪も艶やかな、まだあどけなさを窺わせる娘である。白犬が力強く断崖を駆け上るたび、紅に錦と金の糸で縫われた単衣の裾が風に踊る。
「業天、ここらで良い」
 びょうと風を切り、谷を飛び越えたその背中で。娘は山犬の耳元に小さく呼びかける。
 すると山犬はそれを聞き分けたように脚を緩め、大木と岩が陰を作る、乾いた岩棚の上へと脚を向ける。見下ろすほどの高さを軽々と飛び上がり、音もたてぬままに着地して、山犬は大きくひとつ、息を吐き出した。
 白い蒸気が、霧の中にひときわ濃く白を彩った。
 逞しい背中に抱きついていた娘が、するりと獣の背を降りる。
 まだ年端もいかぬ、美しい娘だった。
 背は小柄で、巨躯を誇る狼の肩ほどまでしかない。しかし、わずかに碧を交えた大きな瞳と桜色の唇のあどけない容貌の中にも、細く切れ上がった目元や、意志の強さを窺わせる太い眉は芯の通った強さを感じさせる。
 いまだ蕾開くには至らぬものの、いずれは大輪の花を咲かせるに違いない・少女はその場にいるだけで男の目を思わず奪わずにはいられない、危うげなまでの美しさを備えていた。
 このような山中には相応しくない姫衣の下、少女は腰に金翅鳥の刺繍を施した胴帯を締め、まるで若武者のようにひと振りの小太刀を提げている。それらはただの飾りではないことを窺わせるように黒塗りの鞘には布が巻かれ、柄の拵えは使い込まれたように色を変えていた。
 市井のものとは思えぬ美貌とも併せ、この娘が只者ではないことは明白であった。
「……ここまで来れば大事なかろう。誰も追ってはこれん。今宵はここで夜明かしじゃ」
 周囲をゆっくりと見回し、安全を確かめてから大きく吐息。
 娘はそっと、山犬の首元に顔をうずめ、そう囁く。
 すると山犬も心得たもので、首筋を娘の顔へと押し付けそれに応えた。娘はそっと口元を緩め、白く大きなその頭を撫でる。
「ご苦労じゃったな、業天」
 それが、この白犬の名である。
 北方の守りの要にして、かつて朝廷より北狄鎮守を任じられた、白狼権現の神使。古き狼の血を伝える末裔なのだ。
 そして、それに対する少女こそ、白狼権現を鎮守と頂く北方の勇、白鷺玄馬の一人娘――朱鷺姫であった。


 ◆ ◆ ◆


「……忌々しい久慈の古狸め、ついには伯父上まで誑かすとはのう」
 煙の立たぬよう針葉杉の覆いを被せた焚火のそばで、朱鷺は強張った手足を伸ばす。そのすぐ隣では、ゆっくりと腹這いになった山犬が、隙なく周囲を窺っていた。その毛皮に背を預けるように、朱鷺は白い息を吐きながら指先を温める。
「壇左のやつめ、まったく大した周到さよ。あれだけ大きな国をもち、列強を従え、十万を越える軍を指先一本で動かしておきながら、ますます臆病になる一方じゃ。これはもう、一種の才能じゃな。
 あれがいまや海道一の弓取りとは、左府どのが聞いたらさぞ嘆かれるのではないかのう」
 この戦国乱世にあってその名を讃えられた北の勇、白鷺国の白鷺玄馬が、先年、扶桑に覇を唱えんとする久慈壇左によって攻め滅ぼされたのはいまだ記憶に新しい。
 西扶桑の各国を率いる久慈壇左の卑劣なる策略によって家中の裏切りに遭い、炎に包まれた白鷺城と運命を共にした玄馬であるが――その一人娘、朱鷺もまた落城の最中で行方知れずとなっていた。
 角舘の乱と呼ばれるこの戦乱をもって北方の最大勢力は潰え、正統なる白鷺の血もまた断たれたとするのが市井の噂であるが――それはまったくの誤りだ。
 白鷺の血を引く最後の姫、朱鷺は白狼権現の神使たる獣と共にこうしていまだ健在であり、久慈壇左もまた秘密裏のうちに、その行方を血眼になって探させていた。
「しかし、これで紅虎にも頼れぬか。……黒鹿の爺様とてもいつまでも誤魔化してはおれぬであろうし、いよいよ後が無くなってきおったのう」
 家中の不安を煽り、競って裏切りを促すという卑劣なる手段で白鷺国を攻め滅ぼした久慈壇左。父の仇に一矢報いるべく、落城を生き延びた朱鷺は秘密裏に白鷺周辺の北方列強の元を訪れ、手を結び、一丸となって起つように交渉を持ちかけていた。
 しかし、西扶桑の全土を勢力下に置き、明石の天都すらもその手中に収め、皇の君すら傀儡として勢力を増し続ける久慈檀佐に刃向おうとする気骨のあるものはおらず、朱鷺の努力は報われぬままである。
 西扶桑より関東十州までをも治め、鎮守府将軍の名を手に入れて北方すらも平定せんと野望を燃やす男の前に、数百年の歴史を誇る名家すらもが服従を余儀なくされている。
 久慈壇左の名は天下に鳴り響き、いまやわずかな南端と北端の国がいじましい抵抗を繰り返すのみだ。
 そんな久慈にに逆らう事など、もはや無謀を通り越しての蛮勇であろう。そう謗られるのは朱鷺も承知の上であるが――だからとて、国を滅ぼされたことを黙って受け入れよとは出来ぬ相談だ。
 正当なる戦によって敗北を喫したのであればともかくも、久慈壇左は固く結ばれていた北方列強の絆を流言によって乱し、ありもしない家中の不和を煽り、莫大な報酬をもって卑劣なる裏切りを誘発され、自らの手は汚さぬままに白鷺を滅ぼしたのである。
(父上も、さぞ無念なことであったろう……)
 国主として戦うことも叶わぬまま、炎の中に割腹して果てた父の姿を思い描き、朱鷺はきつく両手を握り締める。
 一縷の望みをかけ、決死の覚悟で赴いた伯父、紅虎和馬の元で、朱鷺はあろうことか久慈の手の者による待ち伏せを受けたのであった。危ういところで逃れることはできたが、それは取りも直さず、この北方において朱鷺の助けとなる大きな力が失われたことを意味していた。
(紅虎までもが壇左の手の中か。あれが伯父上の本意でなければまだ良いが――いや、甘い考えじゃな)
 つい、楽観をしてしまいそうになる心を引き締めるように、朱鷺は左右の頬を叩く。
「……ん? なんじゃ、案じてくれておるのか、業天?」
 身を寄せてきた白犬を見上げ、朱鷺はわずかに口元をほころばせた。
 白犬のくすんだ紅玉のように深い瞳が、僅かに揺れて朱鷺を見下ろす。その不安げなまなざしに、朱鷺は思わず吹き出してしまう。
「ふふ。私は果報者じゃなあ。お前のような殿御に案じて貰えるのじゃから。……言われずとも、自棄に走ったりするものか。この程度の逆境、父上も、お祖父様も、平然と乗り越えてきたのじゃ」
 答えて、朱鷺はそっと、業天の腹に顔をうずめる。
 朱鷺と行動を共にするこの巨躯の白犬。その名を業天と定められた山犬は、幼き頃より白鷺の姫と共に育った獣であった。
 北方鎮守の白狼権現の名にある通り、白鷺国では古くから、神代より続く古狼の血を引く犬を育て、戦や狩りに用いることで知られていた。
 権現の使いとして現れた白犬が先陣を切って敵軍を蹴散らし、無双の活躍をしたと言う伝承も伝わっている。
 業天もそれにちなんで、白狼権現の社人によって育成され、より白鷺国に献上された名犬であった。当年四歳――古狼の血を引き、人で言うならば十六、七の若武者であろう。子犬の頃から利発にして勇敢であり、分けても朱鷺に懐いていた。
 城が落ち、四面楚歌となったいま、白犬業天は朱鷺のたった一人の心強い味方なのである。
「左府殿の死から五年。いつのまにか天下の棟梁に収まった久慈の古狸を、心中心安からぬ相手と思っておる者は多い。それを表立って言えぬようにするのが、壇左の奴めのやりくちじゃ。忌々しい話じゃが、それを阻止する手立ては少ない。
 ……父上もせめて冬まで持ちこたえることができれば、このような様にはならなかったであろうにの」
 裏切りを促し、あらぬ噂を撒き、疑心暗鬼を煽りたてて――自らの手は汚さずに守る者たちをおのずから崩そうとするのが久慈壇左の得意とする謀略だ。反攻のための手を集めんとすればするほど、朱鷺はそのいやらしさを思い知る羽目になった。
 北方の列強は、時に一年の半分ちかくを雪に閉ざされる厳冬の中で、互いに縁戚関係を結び、ひとつの家として外敵に抗してきた。古くは大陸来寇の戦以来の一致団結である。
 それゆえに将兵たちの気骨は素朴で、謀略や陰謀を好まぬ性質。悪く言えば単純である。そこに一度撒かれた不破の種は、面白いほどにあちこちで芽吹き、覿面に効果を発揮した。
「……のう業天。知っておるか? あの狸親父、あろうことか父上に私を差し出せば軍を止めると言っておったらしいぞ。すでに孫もおるような爺の身で、まったく大した色惚けよな」
 久慈の古狸の絶倫ぶりと好色さは、世間の歌に揶揄されるほどである。亡き母の美貌を受け継いだ朱鷺姫は、壇佐が国を引き換えにしても欲しがったという噂は、まことしやかに流されていた。
 事実、彼等は久慈の支配に抗おうとする姫を、殺すのではなく敢えて生かして捕えようとしている節もある。一度だけ、遠目に見えたことのある、肥え太った老人の姿を思い描き、朱鷺はぶるりと身を震わせた。
「国を滅ぼしてでも、私が欲しいのかのう」
 自嘲と共に朱鷺は言う。それに応じるように業天が鼻先を寄せてきた。白犬の濡れた鼻を擦りつけられ、美貌の姫はくすぐったさにくすりと微笑んだ。
「ふふ、わかっておる。……すまぬな、業天」
 国を追われ、野辺をさすらう明日をも知れぬ我が身。
 それでもなお、朱鷺が生きる意欲を失わずに済んだのは、業天が片時も離れずに傍に寄り添ってくれているからだ。
 下卑た野武士崩れの山賊、群れる野猿、そして久慈の追っ手――降りかかる困難の前に、己れ独りだけでは間違いなく屈し、いずれ誇りを、あるいは命を奪われていただろう。
 日頃、場内にあって武勇を誇り忠義を唱えていた臣下たちも、いざ久慈の大軍勢が白鷺城に迫れば、保身のため、時流には逆らえぬなどと称して、白旗を揚げて敵の軍門に下った。
 城が包囲される頃には、朱鷺姫の傍に仕えるものなど、数えるほどしか残らなかったのだ。
 実の弟のように育った忠義の供、藤千代ですら援軍もない篭城の日々に希望を失い、朱鷺姫に自害を促したほどである。
 そんな中で、ただ一人。
 ……否、一匹。
 業天だけが、朱鷺を支え続けた。
「――お主がいなかったら、私はとうにこの世には居らぬであろうな。そのこと、いくら感謝してもしきれぬ」
 そう呟いて、朱鷺はそっと業天の毛皮に顔をうずめる。
 業天は常より吠えることをしない。白狼権現の献上する白犬の中でもひときわ大きな体躯を持ちながら、彼は戦場を除けば常に黙し、声を発することはなかった。感情を表す声は精々が唸る程度。常に朱鷺の傍に控え、怪しきものを寄せ付けんとする凛々しき様は、まさしく白狼権現の使いであるのやもしれないと、城内の者たちは口々に噂したものである。
 しかし、声などなくとも、朱鷺と業天はかすかな息遣いとその仕草で、十分に語り合うことができた。業天もまた、きちんと朱鷺の言葉の意図を解するのである。深い知性と理性をたたえた瞳は、決して禽獣のそれではない。
 暖かい白犬の腹にそっと頭を預け、静かに呼吸をすれば、朱鷺の脳裏にはあの幸せだった頃の記憶が蘇る。
 厳しくも優しい父と、病弱ながらいつも自分のことを思ってくれていた母。
 幼さゆえに、戦乱の世の理を知らず、あの穏やかな日々がずっと続くと疑わなかった頃。けれどそれは、いまの朱鷺が生き抜くための、確かな支えなのだ。
 ぐい、と業天が首を曲げ、朱鷺の首の下へと鼻先を押し込んでくる。
 人の言葉を持たぬ白犬は、そうやって朱鷺を案じているのだ。
「案ずるな。私は負けぬ。生きて、生きて、絶対に生き延びてみせる。――あの久慈の化け狸を叩きのめすまでは、死んでも死に切れん」
 頼もしい守護者の頭をそっと撫で、朱鷺はそう言って微笑んだ。
 業天は目を細め、牙を覗かせるように口元を緩めて、朱鷺の頬に顔を擦り付けてくる。
「慰めてくれるのか? ふふ、優しいな、お前は」
 朱鷺はそっと首を擦り寄せてくる白犬の首元に顔をうずめた。こうして二人で過ごす時だけ、朱鷺の凛とした佇まいは影を潜め、年齢相応のあどけない表情が覗く。長い逃亡の中で朱鷺が心を許す相手は、いまやこの世に業天ただ一人だけだ。
「――んぅっ」
 大きな舌が、ぞろるっ、と朱鷺の頬をなぞり上げる。
 白犬の大きく開いた口から湯気が立ち昇る。半日も山谷を駆け続け、白犬の体内は焼けるように熱を帯びていた。そこから覗く赤い舌が、朱鷺の頬を往復する。
「こら、業天、そんなに舐めるでないっ」
 くすぐったさに目を瞑る朱鷺だが、ぬめる犬舌の感触は襟足から遠慮なく首の後ろをぬらぬらと汚してゆく。手を持たぬ業天は、こうして鼻や口、舌を使って親愛の情を示す。
 戦以外では滅多に口を血で濡らさぬのも、この白犬が権現の使いであるとされる理由のひとつであった。
「……ぁ……っ」
 言葉を話せぬ業天は、親や兄の代わりのように朱鷺の顔や首を舐め、親愛の情を示すことがある。
 が、この時のこれは、そんなものとは違っていた。
 熱く溶けるような舌先の滾りに朱鷺はそれをはっきりと悟り、顔を赤くして声を上げる。
「ん、……や、やめ……こんな所で……っ」
 しかし姫君の制止の言葉も、舌のうねりに翻弄され、途切れ途切れでは効果は薄い。やがて業天にのしかかられるように、朱鷺は逞しい四肢の下に組み伏せられてしまう。
 白犬は舌と鼻先を器用に使って胸元の合わせ目をこじ開け、単衣の下のサラシを甘噛みと共にずらし外した。布地の奥から、控えめな乳房が露となる。
「業天、だめ、待て……待てというのにっ!!」
 ひやりと素肌を撫でる外気に、朱鷺は思わず声を荒げる。
「ゆ、昨夜――あれほど沢山しただろうにっ!? ……ま、まだ満足してはおらんのか……ひゃうぅッ!?」
 無論とばかり、白犬は荒々しく朱鷺に圧し掛かり、首筋をぐりぐりと擦り付けてくる。興奮した山犬の吐息は、熱情に浮かされたようにぎらぎらと輝いていた。
「っ……」
 山犬の巨躯の内側に、溶岩のごとく滾る情念を感じとり、朱鷺は言葉を飲み込んでしまう。
 忠実な臣下として仕え、身命を賭して主人を守る彼も、まだ年相応の少年なのだ。ほのかに色づき、蕾をほころばせた乙女の柔肌、その味を知りつくした彼が、ひとたび覚えた欲望を抑えきれるものではないことを、朱鷺はよく知っていた。
「んぅ……っ、ば、馬鹿ぁっ……んむっ……ちゅぅ」
 白犬は、欲望に滾る瞳を、しかし真摯に真っ直ぐに向けてくる。
 大きな口から伸びる舌が、朱鷺の唇を舐め上げた。山犬の鼻先に伸びる髭のちくちくとした感触、獣の口腔を満たすねっとりとした生臭い呼気が、朱鷺の小さな身体を満たしてゆく。
 熱烈に押し付けられる白狼の口付けに、朱鷺の形ばかりの抵抗は脆くも溶け崩れ、二人――一人と一匹の影は、険しい山間の岩棚に重なり合う。
 朱鷺自身もまた、そうして業天に求められることを、けして悪く思ってはいないのだった。


 ◆ ◆ ◆


 朱鷺が業天に処女を散らされたのも、こんな星明りの夜更けだった。
 長年仕えた配下の裏切り、固く結ばれていたはずの同盟の破棄、卑劣なる久慈壇左の謀略。最後の戦陣へ向かい、勇ましく戦い抜き、虜囚の辱めを受ける前に自ら命を断った父・玄馬の死。
 炎に包まれ落城を余儀なくされた白鷺城の一隅に、朱鷺はわずかな手勢と共に立て籠もった。城外には久慈の大軍が押し寄せ、包囲網は容赦なく大砲を撃ち込み、昼夜もなく轟音を響かせる。
 もはや誰も抗う気力すら持たず、無残に敗残の兵となることを受け入れんとしていた中で。
 眠ることすらできぬほどに疲れ果て、無残に打ちひしがれた朱鷺を。業天は突如寝床より引きずり出し、その背に乗せて楼外へと駆け出したのである。白狼権現の守護者であったはずの獣の乱心に、驚き慌てる朱鷺たちの混乱は最高潮に達した。
 久慈の寄せ手、一万によって白鷲城の城門が打ち破られたのはまさにその時であった。ついに破られた城門から続々と乗り込んできた敵兵をものともせず、業天は駆けた。
 その背に朱鷺を乗せ、獅子奮迅と荒れ狂い、五十の兵を踏み潰し、百の兵を噛み千切り、その純白の毛皮を紅く染めながら。
 業天は、とうとう包囲を抜けて朱鷺を領内より連れ出したのである。
 そして。
 主の不在と共に燃え落ちる白鷺城の天守を臨む山間の中で。
 業天は、打ちひしがれ蹲っていた朱鷺を、強引に組み伏せたのである。
 最愛の幼馴染の乱心に慌て、驚き、泣き叫ぶ姫君の慟哭には一切構うこともなく、白犬は無垢な姫君の身体に、猛り狂う肉杭を打ち込んで、陵○を繰り返したのだ。
 まともに組み合えば己の数倍もある巨体だ。少女の細腕で跳ね除けられようはずも無い。抵抗も許されぬまま、朱鷺は無残に獣の下敷きになり、一度も目にしたことのない巨大な雄の肉杭を、その白い肌に打ち込まれたのである。
 処女の証に紅く染まる単衣の下、山犬の迸らせた熱い滾りを、幼い胎奥になみなみと注がれて――
 朱鷺は激しい屈辱と共に、湧き上がる強い生への渇望を抱いていた。
 幼き頃から出会って以来、片時も朱鷺の傍を離れることなく、己を守り続けている忠実な業天が、あの日あの夜に限ってなぜあのような無体な振る舞いに及んだのか、朱鷺はずっと不思議でならなかった。
 こうして、何度となく肌を重ねて思うに。
 あれは、最期を悟り自暴自棄になっての行為では、なかったように思う。
 もっと激しい、怒り――あるいは憤り。絶望を前に抗うことなく、ただそれを受け入れんとする者たちへの、慟哭と叱咤の叫び。
 あるいは、侵略者を守る北方鎮守、白狼権現の神獣としての矜持であったのかもしれない。
 父を、臣下を、国を失い、ただ独りの身となって戦国乱世を彷徨うばかりの少女を――自分の愛する伴侶とし、その身を挺し命を賭けて守るための誓いであると。
 亡国の姫を娶り、白鷺国最後の兵となってなお、抗い続けるためなのだと。業天は、そう言いたかったのではないか。
 ならば――自分もそれに答えねばならない。
 滅びたとは言え、白鷺の最後の姫として、忠義を尽くさんと奔走する愛しい若者に、生涯を捧げ添い遂げねえばならない。
 その日から、朱鷺は業天と契りを結び、猛々しい若獣の滾りを受け止めることを決意した。
 そうして、半年。
 その結果が、いまのこの有様だ。
「……んぷ……っ、ちゅ……」
 少女のあどけない唇は大きく割り開かれ、その中へ赤黒い肉竿が深々と出入りを繰り返していた。
 くぐもった呻きと共に、桜色の唇から白い喉へと、どろりと泡立つ粘液が伝う。一糸まとわぬ裸身となった亡国の姫君は、山犬の白い毛皮の腹下にひざまづいて潜り込み、小さな唇を精一杯に広げ、逞しく反り返る雄犬の肉竿に舌を這わせているのである。
 子供の手ほどもある野太い剛直を、口腔はおろか喉の奥深くまで受け入れて。顔を動かし唇をすぼめ、小さな舌を懸命に動かして舐り上げる。
 脈打つ竿の付け根を、幼い美姫の唇からはみ出した舌がちろりと舐める。
 柔らかな唇とすぼめた頬肉の内側が肉竿を包み込むように締め付ければ、乙女の唇からは大量の粘液がこぽこぽと溢れて、白い肌を汚した。
「んむ……れりゅっ……ふぐ……んむゅっ」
 深々と喉奥までを占領していた肉竿がぬぽりと少女の口から抜け出る。固く張りつめた肉杭の先端からは、火傷しそうなほどに熱い粘液が次々に吐き出され、噎せ返るほどの生臭い獣の欲望が少女の顔を汚してゆく。
 溢れ落ちる雄の滾りに溺れそうになりながら、朱鷺は健気に唇と喉を使って、びくびくと脈打つ獣の象徴を愛撫する。
 業天が吐息を荒くし、力強く地面を踏み締めた四肢を震わせた。
「んぅ、むぐぅっ……っふ」
 白犬が腰を震わせ、ぐいと肉竿を前に突き出した。堅く張りつめた雄の滾りに、姫の唇は一気に貫かれる。喉奥に深く受け入れた肉竿の先端がぶくりと膨らみ、朱鷺姫は苦しげに眼を瞑た。
 根元深くまで少女の喉を貫いた獣の肉杭が、脈打ち、うねり、爆発した。白犬はあどけない少女の腹奥へと白濁を迸らせたのだ。噎せ返るほどの獣臭を伴う雄の滾りが、幼い姫の喉奥へと絡み付いて、胃の腑へと直接流し込まれんとする。
「……ん、くっ……ぢゅる、っく……ごきゅっ……んぅう……」
 朱鷺は咳き込みながらも決して拒絶することなく、業天の滾りを全て受け入れていた。どくどくと舌の上いっぱいに吐き出される粘つく雄の迸りを、口腔に受け止め、懸命に喉を動かして腹の底へと飲み込んでいく。
 身体の内側を、真っ白に塗り潰されるかのような衝撃。
 獣の滾る精の迸りは、人のそれをはるかに超える凄まじさである。小柄な少女が受け止めるにはあまりにも激しく大量であるが――朱鷺はそれを決して拒もうとはしない。
「あぅ……えほっ」
 やがて噴出がおさまると、白い喉奥、桜色のくちびるの奥深くまで押し込まれていた肉杭がずるりと引き抜かれた。泡立った粘液がべちゃべちゃと垂れ落ち、姫君の慎ましやかな胸元を汚していった。
 激しい射精を伴ってなお、業天の股間の滾りは些かも衰えることなく、むしろ力強さを増してなお猛々しく反り返らんばかりである。
「ふぁ……」
 すっかり蕩けた表情で吐息をこぼす朱鷺の柔頬に、赤黒い先端はなおも数度震えては白濁混じりの粘液を飛ばした。
 白濁の雫が降り注ぎ、少女の頬に淫靡な蜜の糸を引く。それを指先で拭い、躊躇うことなく舐めとる朱鷺姫。 帯は解かれ、衣の前ははだけ、幼い美姫の肌はすっかり露わになって、肉付きの薄い幼いほっそりとした肢体を夜気に晒している。
「……ふふ。業天。お前には、こんないやらしい事まで、すっかり覚え込まされてしまったのう……?」
 ぬめる口元を手の甲でぬぐい、朱鷺は苦笑とともに独白した。
 薄衣を突き破らんばかりに逞しく反り返る怒張を、小さな口で慰めること、はや半刻。業天が迸らせた精の滾りはすでに両手の指でも足りないほどだ。
 が、これは業天の堪え性の無さを示すものとは少し違う。
 淫靡に口元を緩ませて、朱鷺は逞しい獣の肉竿に、白魚のような指を絡めさせた。びくびくとのたうつ赤黒い雄の象徴を、焦らすようにしごき始める。たちまち山犬はくぐもった唸り声を上げ、腰を引くようにして足を踏み鳴らす。
「あれほど沢山、私に子種を飲ませておいて。……お主のここは、まだ、し足りぬようじゃな?」
 いまだ幼き亡国の姫君は、如何な男であってもたちまちに魅了し蕩かす、天賦の資質を備えていたのである。
 かつての左府も成しえなかった、天下統一。それを目前にした久慈壇左が、我を忘れて追い求める白鷺の姫。その理由が、ここにあった。
 野生にうち震える巨躯の獣とて手玉にとる、いとけなき姫君。並みの男であれば、ここまでの情交で疾うに精も根も絞り取られていることだろう。
 が、白狼の血を受け継ぐ白犬もまた、滅びた種族の末裔としていまだ衰えをみせることはなかった。
 朱鷺はうっとりと目を細め、目の前で揺れる逞しい生殖器をそっと胸にかき抱く。幼い姫の献身的な愛撫で、何度も絶頂を極めた筈のそれは、朱鷺の全身をぬめらせるほどに度重なる精を吐き出しながらも、ますますその凶悪さを増し、いまや朱鷺姫の腕と比べてもさほど遜色のないほどの太さと長さを備えていた。
 はじめは見るのもおぞましかった、獣のそれは――いまや朱鷺にとって、なによりも愛おしいものだ。己を天の上まで導いてくれる、愛しき伴侶の分身なのである。
「あんなにも精を吐き出したくせに、まだこのように、際限なく大きくしおって……。私の胎を突き破ってしまうつもりか? ん?」
 悪戯っぽく口にして、ぺしんとその先端を叩く。びゅるっと迸った粘液が、朱鷺の乳房を汚す。
 くすりと微笑み、朱鷺は肉竿をしっかと掴んだ。ねろりと幼くも小さな舌が、艶めかしく業天の肉竿の先端をちろちろと舐めてゆく。
 少女の唇によって高められた白狼の生殖器からは、先程の射精の名残である白く濁った半透明の雫がたらりと垂れ落ち、地面にぽたぽたと滴っていく。その先走りを舐めとりながら、朱鷺は唇をそっとぬぐう。
「……ふふ。私も、よくもまあこんなものが、ここに挿入るものだと驚いているのだぞ?」
 指先で業天の肉竿を、細い指先でピンと弾きながら、朱鷺はそっと自分の下腹を押さえせみせた。肌蹴た衣に辛うじて隠れる乙女の秘所もまた、既に熱く疼きを隠せぬように、甘い蜜を滴らせている。
「それなのに、いつもお前は、無茶をしてばかりで……本当に、たいへんなのだからな?」
 ちゅ、と愛しい殿御の先端に口づけ、朱鷺は破顔した。言葉の通り、手練の武芸者とてひと咬みでねじ伏せてしまう白狼と、いまだ十をいくつも過ぎていない朱鷺では、大人と子供どころか猫と鼠ほどの差だ。
 白い肌とふさふさの毛皮。すらりとした細い二足と、逞しい獣の四足。長い黒髪と白い鬣。牙の生え揃った大きな顎と、桜色の小さなくちびる。
 躯の大きさも、種族も、言葉もまるで異なるそんな二人が、すっかり慣れた様子でお互いを深く理解し、情を交わして身体を交える様は、一種、異様を通り越して、どこか神秘的な佇まいすらも感じさせるものだった。
 否。
 それは真実、神と人との交わりであったのかもしれない。白狼権現の神使いである狼(大神)と、国の興りより続く白鷺家の末裔である朱鷺は、神獣に添い遂げる巫女であるとも言えよう。
 であるのなら、この婚姻はまさに、人と神とが互いを伴侶とする神事である。
 だが。たとえそうだとしても。山腹の洞窟の奥、ふかふかの藁や鳥の羽毛を敷いて作られた巣床の中で繰り広げられるのは、荘厳な神との交わりにはあまりにも似つかかわしくない、幼き姫と獣の淫靡で妖艶な交合であった。
「……業天、もっと、近う」
 小さく身を震わせた業天の傍に再び身を寄せて、朱鷺は再び高ぶる若狼の肉竿をねぶり始める。
 男の足元に膝まづいて、いきり立った肉竿を唇で慰めるなど――よほど低俗な芸娼でもしないような行いだろう。ましてその相手は、巨大な白狼――人ですらない。
 しかし、こうして言葉を解さぬ獣に己が身を屈服させられるという事実は、まだあどけない朱鷺姫の心を妖しくくすぐるのである。
 その証拠に、幼き姫君の頬はすっかりと赤く染まり、まだ肉付きの薄い乙女の股間にも、既に甘い匂いをこぼす蜜が潤みはじめている。
「んく……っぷ……れる……っ」
 業天のそれは大きな身体にふさわしい巨大なもので、朱鷺が両手で握ってもなお十分に余るほどだ。それを喉奥まで咥え込んでは深く飲み込み、ずるりと引き抜き、舌が絡みつき、あどけない唇が締め付ける。
 姫の淫蕩な手管に、業天は後肢を力強く踏み鳴らし、ますます息を荒くする。
 彼が昂ぶってゆくのを感じ、朱鷺姫もまたいつしか夢中になって業天の滾りを慰めてゆく。
 己の唇が、喉が、舌が、まるで雄を迎える蜜壷のように、勝手に甘くいやらしく蠢いて、野太い肉竿を舐めしゃぶる。まだあどけなさを残す姫君の唇や喉は、白狼のそれの形を余すところなく感じ取り、どこを擦り舐めてやればよいのかを覚えていた。
 逞しい肉竿がますますぶるぶると震え、その根元にぶら下げた大きな子袋を揺らす。
 朱鷺がそっと指を伸ばしてみれば、ずしりと重さが伝わってきた。
「……んふ……、まだ、全然、足りぬよう、じゃな?」
 張り詰めた子袋の重さを感じ、朱鷺は自らの言葉に頭の芯が陣と痺れるのを感じていた。
 右手と唇で業天への奉仕を続けながら、いつしか朱鷺のもう一方の指先は、乱れた裾の奥、襦袢の内側へと延びている。わずかな穢れもなく、無垢な童女の装いをした内腿の奥には、すでにとろりと蜜があふれ、細く合わされた秘裂は色づく花弁のようにほころびていた。
 乙女の小さな指先は、その上をなぞるように忙しなく往復をしはじめる。
「っ…………」
 人さし指がピンと尖った淫核をつつき、中指と薬指がほころび、蜜の塊をぷくりと吹いた膣口をこね回す。ほとんど覚えたてのつたない一人遊びでもすぐに達してしまうほど、朱鷺の身体は高ぶっていた。
 背筋を突き上げるような鋭い快楽に声を詰め、朱鷺は身体を丸め、きつく業天の脚に身体を押し付ける。
「……業天、っ」
 朱鷺は愛しい殿御の名を囁くと、ほどけた帯から身体を抜いて、肌蹴たうちがけを肩からおとした。すとんと巣床の上に落ちた単衣の上、一糸まとわぬ姿となったあどけない乙女は、岩棚の上に身を横たえる。
「……ごう、てん」
 薄く色づいた肢体をそっと自分の腕で抱き、朱鷺姫は白い肌をあらわにしてもう一度、愛しい相手の名を呼んだ。
 身も心も一つに。少女の幼い恋心は、それだけを望む。
 この寒空の中では、わずかたりとても離れていることは苦痛だった。朱鷺姫は自ら幼い身体をさらけ出し、はしたなくも立てた膝を広げ、その中心部へと業天の憤りを導いてゆく。
 物も言わずに近寄って来た業天の腹に顔を埋め、朱鷺は彼の腰を受け入れるように、身体を動かした。右の膝だけを立て、もう一方の脚は伸ばしたまま大きく広げて、ぐっと腰を落としこんでくる獣の身体を、心持ち左抱きにするように身体を反らす。
「ぁ、あ、あっ」
 しなやかな脚が大きな獣によって、大きく割り開かれ、さらに奥まで。ぐっと体重を預けてくる業天に、朱鷺はそっと身体を寄せた。ふかふかの冬毛が、少女の体を優しく包み込む。
「……っ!!!」
 姫君の体を抱え込んだ白狼は、荒い息と共にいきり立つ剛直を可憐な花園へと押し当てていた。とてもとてもその小さな肉壺に納まる入るとは思えぬ巨大な肉竿が、秘門の入り口をきつく押し叩く。
 獣との交わりを何度も繰り返され、丹念に快楽を覚えこまされた蜜口が、たまらぬとばかりこぽりと甘い蜜を噴きこぼした。
 朱鷺姫は業天の首へと腕を伸ばし、息を整えながら腰を押し上げた。同時に、業天は小さな身体をねじ伏せるように、猛り狂う己を少女の胎奥へと突き入れてゆく。
「ぅ、あ……ッ」
 ぬぷりと、固く尖った肉槍の先が少女の門をくぐる。先程まで延々と、朱鷺の唇にねぶられていた雄の滾りだ。練り込まれた柔肉はまるで刃を納める鞘のように、くちくちと音を立てながら業天の滾りを飲み込んでゆく。
 いまだ、彼以外に男を知らぬ朱鷺姫の身体は、余すところなく獣の滾りを受け止めていた。
「っ…あ、…ぁっあ、あ」
 ついに己のうちに猛る獣の全てを受け入れ、その衝撃に朱鷺姫は目を見開いた。
 天涯孤独の身となり、あてもなく山野をさまよって、これまでに何度身体を重ねたことであろう。すでに朱鷺のそこは、白狼の逞しい肉竿を全て受け止め、力強く振るわれる腰の一突きごとに甘い官能を覚えんばかりに開発されている。
 肌を合わせる度、自分のそこがこの勇敢な獣を悦ばせるのに相応しいものへと変じて行くのを、朱鷺は感じていた。
 朱鷺姫の身体を深々と串刺しにした業天は、そのまま忙しなく腰を揺すり始めた。
「っあ、ぁ、や……ご、ぅ、てんっ、」
 女の最も敏感な中心を思い切り貫かれ、もはや朱鷺姫は抗う術を持たない。ただ、逞しく巨きな獣に身体をこね回されるばかりだ。
「ぅあ、あっああぁ」
 初め、わずかに苦悶も交じっていた朱鷺姫の叫びは、すぐに甘く蕩けたモノに変わっていった。
 赤黒く野太い肉杭が抜き差しされる度、結合部からは泡立った蜜が噴きこぼれ、抽挿は滑らかになり、姫の白い肌にはじっとりと汗が浮かぶ。荒く火照った吐息は岩窟の中に白く篭り、まるで蒸気を吹くようだ。
 胎奥を突き上げる猛々しい雄の滾りに、耳までを赤く染め、朱鷺姫は己の半身とも言える獣に愛を囁く。
「業天っ……きて、……もっと、もっと……っ」
 母譲りの強気な表情はいまや甘く蕩け、熱を帯びて潤み、柔らかな唇は雲上の心地にだらしなく緩んでは溢れた唾液に糸を引かせる。細めた目元に涙を見せながら、朱鷺姫はなお激しく猛る獣を受け入れ、その口元へと唇を寄せた。
 少女の体など、ひと呑みにしてしまいそうなほどに大きな白狼のあぎと。唸りを堪えるように噛み締められた牙へと、乙女の唇が触れ、小さな舌がそれを舐めとる。
 業天も何かを感じたように口をあけ、大きな舌で朱鷺姫の顔を舐め回した。大きな狼舌は少女の首筋、うなじ、胸までを舐め上げ、火照る姫の肌をますます色付かせる。
 二人の唾液は深々と混じり合い、泡立ち糸を引いて淫靡に濡れ音を響かせた。
「ごうてん……っ」
 もはや、それは獣とヒトの凌○ではない。お互いに心から想いを交わし合った二匹の番いの、婚儀の証のくながいであった。
「ぁ、あぁ、っ、あ、ご、ごうてん、もう、だ、だめ、あ、ぁーッ、あああぁああーーッッ」
 まるで天上を彷徨うかのごとく。朱鷺ははしたなく喘ぎを跳ねさせ、気をやった。
 しかしまるで石臼のように激しく打ち付けられる白狼の腰使いに、絶頂は一度で収まらず、立て続けに少女を快楽の頂きへと押し上げる。
「っあ、ひ、ぁ、ぅぁ……やぁ、ま、また、また、ぃ、っちゃぅ……ッ」
 扶桑の国々の武者たちが、密かに想いを寄せる、亡国の幼き姫。この幼くも気丈な美姫を己の下に組み伏せ、味わされる女の悦びに咽び泣く様をみたいというのは、男子の本懐でもあろう。
 いま朱鷺が見せている表情こそ、その血筋と、母譲りの美貌を讃えられた小さな姫をを娶らんとする男達が夢見てやまぬものだった。
 だが、朱鷺が心を許すのは、海道一の弓取りでもなく、武名の誉れ高き但馬の若長でもなく、権謀に長けた老将でもない。
 ただひとり、この若く逞しい獣だけなのだ。
「ぁ、や、ま、また……また……ッ」
 それに答えんとばかりに、業天は力強く足を踏ん張り、猛烈な勢いで腰を叩き付けてくる。千尋の峡谷をひと飛びで跳ね超える脚力と、荒武者を踏み倒し首を捩じり切る両の肩。獣の交わりは凄まじいの一言で、朱鷺はすぐに我を失い、ただただ、甘美な快楽と込み上げる熱いうねりに悲鳴をあげるばかりだ。
 一際深く、腰を打ちつけた業天の肉杭に、思い切り胎奥をえぐられて。
 朱鷺姫はまたも声を高く跳ねさせて、背中を仰け反らせた。すっかりいらやしく色付いた脚の付け根には、ぢゅぶりと淫らな蜜と、丹念に注ぎ込まれた白濁の混じったものが溢れだす。
 深く繋がったまま、業天はぐるりと体勢を変えた。
「ぁ、ぅ、か、は……ッ」
 数倍の体躯を持つ獣の交合を、真正面から受け入れて。
 業天がねじ込むように推し入れた、肉竿根元の瘤が、朱鷺の腹を深く埋てゆく。
「ぁはぁ……っ」
 引きずられるたびに深く身体奥に嵌り込んだ業天の怒張が震え、子宮の口を突き上げる。
 朱鷺は地面に手を突き、それ以上の無体から逃れようと地面にしがみついた。
 膣奥に吐き出される灼熱の滾りに、朱鷺姫は四つんばいになったままぶるぶると背筋を震わせる。大量の子種がなおも噴火のように噴き上がり、その全てを受け入れた朱鷺の胎は、まるで既に子を宿したかのように膨らむ。
 疼く子宮が子種を味わい、奥深くへと嚥下してゆくその感触を、しっかりと感じ取っていた。


 ◆ ◆ ◆


「――のう、業天。気付いて居るか?」
 白い毛皮に顔をうずめ、睦言のなかで、朱鷺姫は言う。
「先月辺りからな、――その、月の障りが来ぬのじゃ」
 そっとその下腹をさすり、そこに――命をはぐくみ育てる、女しか感じられない確かな確信と共に。
「……まあ、あんなに毎晩毎晩、抱かれておれば仕方のないことであろうかな? あんなにも胎が裂けるほどに種を注ぎ込まれて、おぬしの仔を孕まぬ方が可笑しいのではないか?」
 ちらり、と悪戯っぽい視線を向けられ、珍しく業天は落ち付かない様子を見せる。
 そんな彼の様子に、愛おしそうに笑った朱鷺は、その鼻先にこつんと額を押し付けた。
「ふふ。これに懲りたら少しは加減せよ。胎の中の赤子のためにもな」
 業天の顔を、そっと己の胸にかき抱き、朱鷺は告げる。
 そこに息づく、芽生えたばかりの小さな命を感じ取ってもらえるように。
「……良いのじゃ。私もな、お主の仔が欲しかった。……そうでなければ、お主に肌を許したりするものか。
 お主の仔は――きっと逞しく、愛くるしいのであろうな。さて、人の成りをしておるか、おぬしのように逞しき獣の成りをしておるかわからぬが――私とお主の仔だ、きっと何にも負けぬ強き仔になろう」
 愛おしげにそっと腹を撫で、朱鷺は業天の鼻先にくちづけた。
「ふふ、任せておけ。たくさん――元気な仔を産んでやる。お主と私の、朱鷺姫の子じゃ。この世に白鷺の血は絶えさせぬ。決してな」
 仮令、それが人でなくとも――構わない。
 人倫にもとる行いと誹られようが、朱鷺は生涯ただ一人、この愛しい伴侶を愛すると誓ったのだ。その子を産み育てることのどこに過ちがあろうか。
「山犬姫――か」
 山野を駆け、生肉を食らい、時に国境の集落を襲ってその蓄えを奪い、なお生き延びる己の事を、そう揶揄と畏れ混じりに呼ぶ者たちがいることを朱鷺は知っている。
「それも良い。なに、お主よりも立派な殿御など、三国中を探しても居らぬだろうよ。のう?」
 決意と共に、朱鷺姫は業天に頬擦りをした。

 終わりなどではない。
 朱鷺姫――山犬姫の物語は、ここより始まるのだ。


 (了)

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