フリーセンテンス 2022/12/08 00:00

苗床聖女の受胎獄痴 闇の領域編1

 ・・・・・・大河リプロ川を隔てた南西の地に「闇の領域」は存在する。旧世界における特定人種隔離政策に端を発するこの大地はその後、犯罪者の流刑地となり、さらには放射能を含むあらゆる有害な汚染物質の最終処分場となった結果、その影響によってそこに暮らしていた人々や棲んでいた生き物たちは遺伝子が変異して醜悪な化け物に成り果ててしまったのだった。
 旧世界が最終戦争で滅亡した後、人類文明はおびただしい死と共に衰退を余儀なくされ、文化と社会の水準は一度、古代石工時代を彷彿とさせるレベルまで退化したのだった。
 それはまことに奇妙な時代であって、人々は旧世界の遺跡に寄生するように生きながら、野生化した家畜を狩り、アスファルトの地面を耕して作物を栽培し、紙幣ではなく金属貨幣を重宝して経済を循環させた。この時代、電子製品はすでに役に立たなくなっていたが、残されていたわずかな紙本が知的教師となって人類の知識を繋ぎ留め、人間という種は辛うじてケダモノに堕ちることを免れたのだった。
 かくして人類文明は再出発するにいたった。しかし、旧世界で膨大なエネルギーと金属資源が消費されていたため、再び同じ水準まで文明を発展することは叶わず、かくして人類文明は中世を彷彿とさせるレベルでの永い停滞を余儀なくされたのだった。だが、極一部の人間は、人類文明の完全なる再興を目論み、発展の原動力となる「資源」を血眼になって探していたのだった。
 同じ頃、隔絶された「闇の領域」では、そこに棲む生物種たちが独自の進化を遂げていた。それは人間も、動物も、昆虫も、さらには植物すらも、生物としての「種の境界」が曖昧になった進化であって、融け合い、交じり合い、そこからさらに分裂した結果、奇々怪々な異形生物が蠢く、さながら別の惑星のような暗黒の世界が誕生するに至ったのである。
 それは知性を有した個体を核とする全体主義的生物社会であった。「闇の領域」それ自体が、一個の「生物」として機能し、活動するようになったのである。それは女王を中心とした蟻や蜂の社会構造によく似ていたが、異なる点は、一匹が繁殖活動を担うのではなく、繁殖に「他生物」を利用した点だろう。これは、彼ら闇の生物たちの遺伝子が、常に崩壊の危機に晒された非情に脆い状態にあるからであって、常に新鮮な遺伝子を欲していたからである。そして、他生物を繁殖に利用するにあたって、もっとも利用された種が「人間の女」であった。理由は、遺伝子の優劣による選別の結果ではなく、ただ単純に知性体の核となった主観が元人間によって構成されていたことによる「性癖」によるものであった。
 このような事情があって、「闇の領域」に潜み棲む「暗黒生物」たちは、仲間の数を増やすため、しばしばリプロ川を越えて人間世界への侵入と侵略を繰り返し、町や村を襲って人間の女たちをさらっていった。


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