フリーセンテンス 2022/12/12 00:00

苗床聖女の受胎獄痴 暗黒の襲撃編1

「いやあああああああああああああああああああああッ!」
暗黒の大地「闇の領域」に、若い女の悲鳴が木霊し響いた。それはレスター暦六四〇年七月二八日のことであった。
 場所は、リプロ川を渡って四〇キロメートルほど奥へ進んだどこか。時刻は深夜。周囲は深い暗闇によって覆われており、その中を、若い女が悲鳴を上げながら、息を切らして走っている最中であった。
「だ、誰かッ、誰か居ないのッ!? 誰かあぁぁぁああぁあぁあぁぁッ! 誰か助けてッッ、だれかああぁぁぁあぁぁあぁあぁぁぁッッッ!」
半ばべそをかきながら、自分以外の誰かに助けを求めるその声に、かつての勇ましい声量は何処にもなかった。
ただひたすら情けなく、切羽詰まった声で叫びながら、逃げるため、深い闇夜のなかを、大きくて豊かな乳房を激しく揺らしながら必死になって走るその者の名は、ティリエル。かつて救世の聖女と謳われた少女に自信に満ちた昔日の面影は何処にもなかった。
「助けてえぇえぇぇえぇぇえぇぇえぇぇぇぇッッッ! 誰かッ、だれか助けてッッ、たすけてえええぇぇぇええぇぇぇえぇぇッッッ!」
同じ言葉と単語を繰り返し叫びながら走る彼女の手に武器はなく、薄い布地のような衣服を纏っている以外は、ほとんど無防備に近い状態だ。靴も履いていない。ゆえに、白い足裏は土と血で酷く汚れていたが、それでもなお、必死に走っているのには切実なる理由があった。
「グガガガガガガガガッ!」
「ギュイーッ、ギュイーッ、ギュイイーッッ!」
「ゴゴエーッ、ゴゴゴエエーッ、ゴゴゴゴエエエエーッ!」
「ひ、ひぃいいいいいいいいッッッ! ひぃいいいいぃいいぃいぃいぃぃいぃぃいぃぃいぃぃッッッッ!」
後ろから響いてくる恐ろしい魔物の声を耳にして、ティリエルは絹を裂くような悲鳴をあげながら反射的に振り向いた。そして、見てしまった。自分を追ってくるおそろしい化け物の群れを。醜悪な異形生物の群勢を。
 そう、彼女はいま、追われている最中なのだ。「闇の領域」に潜み棲むおぞましい姿形をした邪悪な暗黒生物たちから、激しい敵意と憎悪を向けられて。
 何十という恐ろしい化け物の群れが、ティリエルの背後に迫る。


お読みくださって、本当にありがとうございます(´ω`)

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