フリーセンテンス 2022/12/11 00:00

苗床聖女の受胎獄痴 闇の領域編4

 実際、ティリエルは聖女と呼ばれるにふさわしい容姿をしていた。この時、彼女の年齢は一七歳。身長はやや低く、顔にはまだ幼さが残るものの、整った目鼻立ちは端麗を極め、優美さと意志の強さがその面差しに現れていた。淡い蜂蜜色の髪は背中のあたりまで真っすぐさらりと伸びており、白磁のような肌にはシミがひとつも見当たらなかった。
 だが、彼女を目の当たりにするうえで、人々の視線が真っ先に向かう先は絶世の美貌ではなく大きくて豊かな乳房であったに違いない。両胸に重々しく実った肉の果実は、本人の頭部より五割ほど大きく、しかも張りがあって形もよかった。乳房があまりにも大きいため、彼女が身に着ける白銀の甲冑は胸の部分の装甲が取り外されており、それゆえ移動するたびにゆさゆさと揺れるのだった。また、大きな乳房と比例するように、ティリエルの尻も肉付きがよく、その卑猥さといったら後ろ姿だけで欲情してしまう者が続出したほどである。
 このように、美と性愛の神の寵愛を一身に受けた姿形をしている彼女だからこそ、「闇の領域」に対する征伐論を唱えるにあたって人々から高い支持を得ることができたわけだが、極少数の曇りの無い眼を持つ人々は、声を潜め、不安を口にせずにはいられなかった。
「大丈夫なのか、あんな娘に大事を任せて・・・・・・」
「あのだらしない肉体、あの身体の何処に鍛錬の痕跡があるというのだ・・・・・・?」
「凛々しいが、苦も労も知らぬ面持ちをしている。せめて現実的な思考の持ち主であればいいのだが・・・・・・」
多くの人々がティリエルの容姿と肉体の方にばかり目を向けるなか、ティリエルの統率者としての力量に危惧を抱く声は少なくなかった。
 しかし、その声が大勢を占めることはなかった。批判や反論の声を高らかに口にできるような雰囲気ではなかったし、意図的に不安の声がかき消されていたからでもある。多くの人々は知る由もなかったが、これは計画された「敗北」を演出するための布石であった。「闇の領域」に棲息する大小合わせて数百万匹の暗黒生物たちを、たった一万人そこらの軍隊で討伐できるはずがなく、もし、「闇の領域」全てを駆逐するのであれば、その一〇〇倍以上の戦力が必要であることは明白である。それは全ての国々が団結しなければ実現しない数値であって、その数値を叩きだすために、ティリエルを筆頭とした討伐部隊は「贄」として派遣されたわけであった。
 ゆえに、全ての事情を知る者のひとりは、薄笑いを浮かべながら、揺らめく暖炉の炎に向かって邪悪に言ったものであった。
「担ぐなら、神輿は綺麗で軽い方がいい。せいぜい、悲劇的な最期を迎えてくれたまえ。なるべく無惨に、そして悲惨に、人々の怒りと同情を買うよう、哀れに惨たらしく。くふふふふ・・・・・・」
かくしてティリエルに率いられた一万八〇〇〇人の討伐部隊は南西へと向かい、リプロ川を渡って「闇の領域」へと足を踏み入れたのだった。
 それはレスター暦六四〇年七月一〇日のことであった。

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