フリーセンテンス 2022/12/10 00:00

苗床聖女の受胎獄痴 闇の領域編3

暗黒生物たちが巣窟とする肉牢からは、苗床にされた女たちの悲哀に満ちた絶叫が絶えることなく響き続けた。
苗床にされた女の中には、この悪夢めいた現実に耐えることができず、舌を噛んで自殺する者も少なくなかったが、その試みが成功することは決してなかった。なぜならば、女たちの肉体は傷つくつど、それがほんの少しのかすり傷であったとしても、すぐに謎の液体が注入されて傷を治されてしまうからである。女たちは生かされ続け、ただひたすら暗黒生物たちの幼体を孕み産み続けることになるのであった。それも、ほとんど半永久的に。
 人間たちもただ手をこまねいているだけではなかった。最初は恐れや怯えだけだった感情が、妻や娘、姉妹、恋人、さらには孫娘が容赦なくさらわれていく状況に対し、人間たちは次第に怒りを募らせはじめ、それはやがて大きなうねりとなっていった。「闇の領域」と境を接する国々を中心に、「闇の領域」に対する征伐論を唱える声が少しづつ増えていったのである。
 時同じくして、文明社会の完全なる再興を目論む一派が「闇の領域」の地下に膨大な資源が眠っていることを突き止めた。金属資源とエネルギー資源のふたつを手に入れることができれば、伝承した知識と技術を基盤にかつての繁栄を取り戻すことができる。彼らは、大きくなったうねりを利用することにした。
かくして「英雄」が登場することになる。暗黒生物の撲滅を掲げ、女の身でありながら自ら先頭に立って「闇の領域」へ攻め込もうとする者が現れたのだ。
彼女の名はティリエル。双子の姉を暗黒生物にさらわれたという経験を持つ彼女は、その美貌も相まって「闇の領域」への征伐論を唱える人々からの高い支持を獲得すると、陰に陽に支援が集まり、ついには討伐部隊を編成するにいたったのだった。十八か国から集まった義勇兵の数は総勢一万八〇〇〇人。武器や装備は各国からの援助によって完全武装が実現した。戦意も高く、おそらくはこの当時、世界でもっとも強い軍隊であるに違いなかった。
 出陣式にて、整列した討伐部隊の前に立ったティリエルは、あらかじめ捕まえておいた暗黒生物を自らの剣で処刑して「生贄」にすると、青い血で濡れた剣を掲げて高らかに宣言したのだった。
「今日、この日をもって、「闇の領域」による脅威は終わりを迎えることになるでしょう。我々は必ずや、かの地に潜み棲む魑魅魍魎の魔物たち全てを駆逐して、この聖戦に勝利します。人類に希望の光を! 栄光あれ!」
「「栄光あれッ!」」
集まった兵士たちの目に、ティリエルの姿はさながら、救世の聖女のように映ったに違いない。


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