フリーセンテンス 2023/02/08 11:11

短編小説 幸福の絶頂から不幸のどん底へ

  ・・・・・・王国暦二四八年六月一〇日――この日、リビエル大公国の国境にほど近いアームという村に幸せの鐘の音が響いていた。村を挙げての結婚式が開かれていたのだ。結婚式の主役は村の青年フィリオと村娘のハンナで、ふたりは共に育った幼なじみでもあった。
 アームは小さな村である。村の人口は一二〇人ほどで、村人たちは林業に従事し、樹木の伐採や木材の加工によって生計を立てている。生活は決して豊かではないものの、村人たちの仲はよく、顔見知りで、昔から互いを知っている仲だった。
 フィリオとハンナのことを、村人たちはよく知っていた。ふたりが育つのを見守ってきたのだから。ふたりはこの村が開かれた最初の頃に産まれた子どもだ。その頃はまだ子どもの数が少なく、いつも一緒に遊んでいたふたりは、まるで兄妹のように仲が良かった。ゆえに、ふたりが結ばれて夫婦となるとわかった時、村人たちは大いに喜び、村を挙げての結婚式が開かれることになったのであった。
「おめでとう、フィリオ。おめでとう、ハンナ」
「おめでとう。末永く幸せにね」
「おめでとう」
「おめでとう」
村中の人たちから暖かく祝福されて、フィリオとハンナは頬を赤らめた。
「ありがとう、みんな」
「お、俺たち、必ず幸せになります」
そう言ってふたりは顔を見合わせた。そしてふたりして頬を赤らめ、「ふふふ」と小さく笑うのだった。
 少し、不思議な気持ちだった。
 いつも顔を見合わせている間柄なのに、この日はなんだか、相手がいつもよりも凛々しく見えるし、可愛く思えた。衣装やほどこした化粧のせいだけではないだろう。
 ふと、フィリオが口を開いた。
「なぁ、ハンナ・・・・・・」
それは相手にだけ聞こえる小さな声だった。
「なぁに、フィリオ?」
ハンナも、相手にだけ聞こえる小さな声で尋ねた。
「お、俺たち・・・・・・」
「うん」
「し、幸せになろうな。絶対」
「うんっ!」
幸せの鐘が、国境を越えてリビエル大公国にまで木霊し響いていた。

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