フリーセンテンス 2023/02/10 15:37

短編小説 軽率な行動の代償

 ・・・・・・想像力が貧しい人間というものは、古来より、社会に一定数存在しているものである。自分がとった行動がどんな結果をもたらすか、事前に思い描くことができないため、取り返しがつかない事態にいたって初めて自分の失態に気づくことが少なくないのだ。そして想像力が貧しい人間という者は、知能指数が高くて優秀な者のなかにも一定数存在するのであった。特に人生経験が少ない若い者のなかに。
 容姿端麗・才色兼備を絵に描いたような人物であるクロリーゼ・アンナフェルトが、魔術師としても極めて優秀な才能の持ち主であるということは周知の事実である。彼女は高名な魔術師を数多く輩出してきたことで知られるアンナフェルト家の出身で、若干一三歳で王都の魔導学院を首席で卒業すると、学院の推薦で王国最大の冒険者ギルド「サーフェンス」の一員となった。それから四年、彼女は数多くのクエストに参加し、悪名高い盗賊団の討伐や複数のダンジョン攻略で多大な功績を挙げてきた。
 魔術師としての彼女の実力は誰もが認めるところであったが、優秀であるゆえに、彼女が必要以上に尊大な態度をとることについては、眉をしかめる者が多いこともまた事実だった。
「クロリーゼは確かに魔術師として優秀だ。そして強い。彼女ほどの実力者は、今後一〇〇年は登場しないと断言できるほどに。だが、それゆえに、ほんのわずかな隙が命取りになるかもしれないのだ。彼女がそのことに、少しでも早く気づいてくれればいいのだが・・・・・・」
そのような心配の声が囁かれるなか、王国から「サーフェンス」に依頼が入ったのはクロリーゼが一七歳になったその日だった。
辺境の開拓地にて、未攻略の洞窟(ダンジョン)が発見されたというのだ。発見されたそのダンジョンには、かつて世界を支配していたという伝説の「巨人の文明」の痕跡があり、学術的に非常に価値の高い場所であると思われるのだが、ダンジョンの中には無数の魔物たちが生息しており、そのせいで調査がままならないのだという。
 依頼を承諾した「サーフェンス」は、すぐに大規模な討伐隊を編成することを決めたのだが、その際、抜け駆けする者がいたのだ。クロリーゼ・アンナフェルトである。
「魔物の駆除なんて、あたしひとりで充分よ。そんなわざわざ大勢の人を集めることはないわ。ちゃちゃっと行って、ちゃちゃっと片づけてきちゃうわね」
彼女は親しい友人そう言って、単独でダンジョンに向かってしまったというのだ。これは他者をおもんぱかっての行動というよりは、自分の実力を過信しての独断専行であると思われた。
クロリーゼの行動にギルド上層部は憤ったが、しかし、確かに彼女であれば、大勢の団員を派遣するよりは効率の良い仕事をしてくれるのは確かである。経費も浮く。それに、クロリーゼの高すぎる自尊心に起因した問題行動はいまに始まったことではなく、それは他の団員たちも承知しているところであった。
「帰ってきたら叱責することとして、まずは様子を見ようではないか」
かくして、ギルドはクロリーゼの単独行動を認めたのだった。
 その頃、クロリーゼが向かったダンジョンでは・・・・・・。

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