フリーセンテンス 2023/02/14 10:16

短編小説 邪教徒審問

 ・・・・・・スレア教国において「邪教徒狩り」がより一層、激しくなったのは、教国暦一〇〇年、悪性感染症の大規模流行によって一〇万人を超すスレア教徒が命を落としたからであった。
 女神スレアを信仰の対象とするスレア教団が、野心的な布教活動の末、多数の信者を獲得し、一大勢力となって国家建設に邁進し始めたのは大陸暦八五二年のことである。彼らの標的にされたのは、当時、大河ウルーガの流域に勢力を誇っていたナホト王国であった。
 多神教国家であるナホト王国では、古くから土着の神々が信仰の対象として祀られており、それゆえ、女神スレアを唯一神と崇めるスレア教団とは、本来であれば水と油の如く相容れぬ間柄であるはずだった。しかし、宗教に寛容な態度をとるナホト王国は、他所から来た彼らを差別するのではなく、むしろ積極的に自分たちの社会に受け入れることで共存共栄の道を図ろうとした。
 だが、他宗教の存在を認めないスレア教団は、ナホト王国の態度を侵略の好機と見なし、王国の内部に浸透していった。そして大陸暦八六〇年、スレア教徒たちによる一斉蜂起が起こる。後に「ナホトの大虐殺」で知られることになるこの蜂起によって、完全に隙を突かれたナホト王国は瞬く間に制圧。王国内では三カ月に渡って殺戮の嵐が吹き荒れ、老若男女合わせて一四五万人が殺された。これは、ナホト王国の全人口の六割にあたる数値で、生き残った者たちは、全員、鎖に繋がれて奴○にされた。
「女神スレアこそがこの世に存在する唯一の神である。それ以外の存在は神の名を語る紛い物に過ぎず、邪悪な邪神である! よって、紛い物は駆逐しなければならない!」
建国宣言の際、まず語られた言葉がそれであった。以来、スレア教国では、スレア教以外の宗教はすべて「邪教」と見なされ、徹底的な弾圧によってことごとく駆逐されていったのだった。
だが、さすがに建国から五〇年も経てば落ち着く。近頃では、他国との関係を鑑みて弾圧を緩和する動きもみられていたのだが、そこにきて、この悪性感染症の大規模流行であった。成す術なく次々と亡くなっていく同胞たちを目の当たりにして、信心深いスレア教の信徒たちは口々に語ったものだった。
「この疫病は邪教徒たちがもたらしたモノに違いない!」
「邪教徒たちの呪いだ! 呪いで俺たちを殺そうとしているんだ!」
「邪教徒を見つけだせ! 殺すんだ!」
「殺せ、殺せ!」
「殺せ、殺せ!」
かくして教国全土で「邪教徒狩り」の嵐が吹き荒れる。新たに「邪教審問庁」なる部署が設立され、「邪教審問官」を筆頭とする「邪教徒摘発隊」によって次々と邪教徒たちが摘発されていった。
 邪教徒として摘発された人々は、口々に自分は違うと無実を主張するのだが、邪教審問官の厳しい「尋問」によって、最後は必ず罪を認めてしまうのだった。
 邪教徒であることを認めた人物の中にエレクシア・ルールリアという女性修道女がいた。まだ若く、年齢は二〇歳になったばかり。しかし、敬虔なスレア教徒である彼女は、清貧を旨とし、常に貧しい者や悩める者たちに寄り添う姿勢を示して、周囲から信頼と尊敬を集めてきた。
 しかし、彼女は美しすぎた。そして、肉体は豊満すぎた。大きな乳房と豊かな桃尻は分厚い修道服を纏ってもくっきりと浮かびあがるほどで、それゆえ異性からは欲情の眼差しを、同性からは嫉妬の視線を向けられることしきりだった。そのため「邪教徒狩り」が始まってすぐに告発されたのは、ある意味では必然だったのかもしれない。
「そ、そんな・・・・・・わたしが邪教徒なんてっ! な、なにかの間違いですっ!」
教会にやって来た邪教審問官たちに、自分に邪教徒の嫌疑がかけられていると聞かされて、エレクシアは思わず叫んだ。首から下げているロザリオをぎゅっと握りしめながら。
 しかし、告発されたが最後、抵抗が無駄であることは周知の事実である。エレクシアは審問官たちによって連れて行かれた。彼らの巣窟である「邪教審問庁」へと。

・・・・・・今回は少し長めです(;´∀`)

フォロワー以上限定無料

無料プラン限定特典を受け取ることができます

無料

月別アーカイブ

限定特典から探す

記事を検索