フリーセンテンス 2023/02/20 10:22

短編小説 肉触生命体の復讐

 ・・・・・・人工知能の加速度的な進化により、人類の科学は大いに発展した。それはエネルギー分野にも多大な恩恵をもたらして、二〇四〇年代半ばには超磁界エネルギー生成施設の稼働にいたる。これは地球由来の磁力を活用することで、ほぼ無尽蔵にクリーンなエネルギーを利用することができる画期的な施設であったのだが、いかせん、人類にはまだ早すぎる技術であった。
 二〇四八年、サウスカロライナ州にある超磁界エネルギー生成施設が制御不能に陥り、施設は爆散。大量の磁界エネルギーが放出された結果、北半球を中心に、なんと時空に無数の「穴」が開いてしまったのである。そしてその「穴」から、異次元の肉触生命体ゾン・グエラが現れたのだった。
 ゾン・グエラは、その名が示す通り、肉体が「肉」と「触手」で構成された生命体である。姿形や大小のサイズは個体によって異なるものの、その醜悪な「胴体」の平均的な大きさは体高が約三メートル、長径約八メートル、短径約四メートルの立体的な楕円形をしており、翼は生えていないものの、現代科学では解明不可能な原理で空を自在に飛び回ることができる。内部に骨はないが外部が甲虫のように硬くなっており、機関砲やミサイルで攻撃を受けても簡単に傷つかない硬度を誇っている。身体からは何十という無数の触手が生えており、これを使っての攻撃は、一撃で乗用車程度の物体を吹っ飛ばす威力を誇っていた。
 群体生物でもあるゾン・グエラの目的は「繁殖」という名の「侵略」だった。彼らは地球の生命体を「捕食」することで繁殖のためのエネルギー源とし、ただひたすら同胞の数を増やすことを目的として地球の各地を攻撃してきたのだった。
 ゾン・グエラの侵略行動に対し、各国は軍隊を出動させて応戦。苦労して何千、何万というゾン・グエラを「駆除」するも、その強さ、しぶとさ、増殖の速度、そして種のためであれば自己犠牲をいとわず攻撃してくる猛攻の前に、人類は各地で敗北。その損失は巨大で、都市という都市は灰塵に帰し、何憶という人々が殺害されて捕食された。
特に甚大な被害を受けたのが各地の工業地帯だった。ゾン・グエラは人類にとっての勢力基盤が工業であることを学習すると、そこを狙って積極的に攻撃を仕掛けてきたのだった。軍需産業の要を失った人類は、無人兵器をはじめとする各種攻撃兵器の生産に支障をきたすようになり、大規模な攻勢に討ってでることが難しくなった結果、徐々に追い詰められていくことになる。
 ゆえに人類は、苦肉の策として、兵器に頼るのではなく、兵士ひとりひとりの戦闘力を高めることでゾン・グエラに抵抗することを考えたのだった。志願者を募り、戦闘用のナノマシンを注入することで、肉体の様々な機能や能力を強化・向上させた「超人兵」の生産を開始したのである。
 当初、この案に対しては、各方面から様々な反対意見が寄せられた。同義的、倫理的、あるいは人道的に問題があるとして、下は小さな市民団体から、上はローマ教皇庁にいたるまで、計画の中止を求める意見書が寄せられたのである。しかし上海の決戦で、一度に四〇万人の人民解放軍がゾン・グエラの攻撃によって命を落とすと、そうも言っていられなくなった。
 かくして国連主導の元、世界一三ヵ国の研究機関で「超人兵」の生産が開始され、ゾン・グエラとの戦いに投じられることになる。
 ナノマシンによる肉体強化を受けた彼らには、その身体能力を如何なく発揮するために、高速での移動を可能にする飛翔能力を兼ね備えた専用の機装スーツと、近接白兵戦用に特化した熱電振導武器が与えられた。高性能・高威力を誇る防具と武器が量産品ではなくオーダーメイドの一品物である理由は、地上の生産基盤が破壊されたため、地下に潜った研究機関で作成された物だからである。
彼らは最初、その特徴ある姿から「フライング・ナイト」と称されていたが、やがて閃光の刃で敵を切り裂く姿から、畏敬を込めて「ナイト・ミューティレイト」と呼ばれるようになった。彼らは各地の戦場で活躍し、多くのゾン・グエラを倒して人類に希望を与えた。
 自らの意思で「ナイト・ミューティレイト」になった者たちの経歴は様々で、彼らは国籍も、人種も、民族も、性別も、思想も、宗教も、全てが異なる者たちで構成されていたが、共通していた点はゾン・グエラに対する深い憎悪の念だった。彼らの多くはゾン・グエラの侵略によって家族や恋人などの大切な者を失っており、その仇を討つため、そして地球を守るために、自分を犠牲にする覚悟で侵略者たちとの戦いに臨んだのだった。
 その中に、東条・ランベルジュ・凛香という少女がいた。
日本人の父親とドイツ人の母親の間に産まれた彼女は、容姿端麗・才色兼備の模範のような少女だった。小柄で背丈が低く、乳房や臀部など性的部位の発育はいまいちであったものの、宝石のように美しい瞳と真珠のようにきめ細かい肌がとても綺麗な美少女だった。
ゾン・グエラの侵攻が始まる前、彼女は東京でアイドルとして活躍しており、一四歳でデビューした時は「千年にひとりの美少女」と称されるほどの人気を博した。彼女が登場するコンサートは常に満員。握手会が開催されれば数百人が列を成し、グッズは飛ぶように売れ、販売された五冊の写真集はどれもベストセラーを記録した。
 何事もなければ順風な人生を送っていたことだろう。しかし、ゾン・グエラの侵攻によって彼女の人生は大きく変わってしまった。否、壊されてしまったといってよい。それも完膚なきまでに。ゾン・グエラの攻撃によって両親は死亡し、通っていた学校の友人や知人も亡くなった。そして仲間であるグループのメンバーたちは、彼女の目の前で皆殺しにされたのだ。生きたまま、捕食されたのである。この瞬間、凛香は自分の全てを賭してゾン・グエラと戦うことを決意したのだった。
「許さない・・・・・・絶対ッ、絶っ対に許さないんだからッ・・・・・・!」
かくして「ナイト・ミューティレイト」となった凛香は、ゾン・グエラとの戦いに身を投じ、日本の最前線で空を舞った。怒りに燃える凛香の活躍は凄まじく、彼女はひとりで何百という侵略者たちを切り裂き、容赦なく駆逐していったのだった。
 そしてこの日も、彼女は日本の空でゾン・グエラたちとの戦いに身を投じていた。四方八方から襲いかかってくるゾン・グエラの大群を次々と切りまくった。
「たああああああああああッッ!」
高い咆哮をあげながら、自分よりも巨大なゾン・グエラを一刀で葬る凛香。
ザシュッ、ドブシュッ、ズシュッ!
鋭い切断の音が響くつど、肉体を断たれたゾン・グエラたちが次々と地面に向かって落ちてゆく。断末魔の悲鳴をあげながら。
「グオ、グオオオオ・・・・・・」
「ウグオォォォォ・・・・・・」
「グウオオオオォォォォ・・・・・・」
異次元の生命体とはいえ、ゾン・グエラも「肉」で構成された生き物である。遺伝子や分子の構造式は異なるが、タンパク質由来の生命体だ。ゆえに、いかに強靭な肉体を誇り、生命力に優れているとはいえ、致命傷を負えば死は免れない。そして「ナイト・ミューティレイト」が武装する熱電振導武器は、ゾン・グエラの強固な外殻を、まるでバターかチーズのように切り裂くことができ、厚い肉で守られた臓器にも簡単に致命傷を与えることができるのだった。
「おまえたちに生きてる価値なんかないッッ! 死ねッ、死んじゃえッッ、死ッ、ねえぇえぇぇぇえええぇぇぇぇッッッッ!」
怒りの咆哮を上げながら、復讐の刃を振るう凛香。彼女は強く、ゾン・グエラたちが束になっても叶わない。しかし、この日は数が多かった。いつにも増して、何十という大群が一斉に凛香に襲いかかってきたのである。
「くっ・・・・・・! こいつら、今日はどうしてこんなに数が多いのよッッッ!」
あまりの数の多さに凛香が悪態を吐いたその時だった。機装スーツに搭載されている人工知能が警告を発したのだ。
「警告、警告、エネルギーノ残量ガ五パーセントヲ下回リマシタ。予想活動時間、残リ八分四〇秒。至急、基地ヘ帰還シテクダサイ」
「えッ!」
凛香が驚いたその時だった。
「ゴアアアアアアッッッ!」
咆哮し、襲いかかってきたゾン・グエラの打撃が、凛香の後頭部に炸裂したのだった。
ドガッ!
「がっ・・・・・・!」
凛香の意識が闇の中へと誘われた。


・・・・・・今回も、少し長めです(;´∀`)

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