2020年正月元旦記念『まいてつ -Last Run-』ショートストーリー 「新しいレール」(進行豹
2020年正月元旦記念書き下ろし 『まいてつ -Last Run-』ショートストーリー
「新しいレール」
2020/1/1 進行豹
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「楽しくうれしいことですね。新しいレールの上を走るのは」
「うむ?」
ハチロクらしい言葉がけれど、ハチロクらしくもなく響く。
「たしかに今日は1月1日。僕たちの本年初乗務だ。
気持ちの上では『新しいレール』といえないこともなかろうが」
「双鉄さま?」
少し咎めるような口調。
ツン、とお澄まししている横顔。
けれどもなぜか、その目はわずかに微笑んでいる。
「機関士として――いえ、わたくしのマスターとして、
いささか注意力が散漫ではござませんか?」
「注意力」
『ハチロクのマスターとして』という言葉がつくなら、要求されるレベルは無論、最上級だ。
漫然と乗務していては百年経っても気づけぬほどの、まことに微細な、例えば異音を――!!!
「異音が――ああ、うん。確かに異音が消えていた」
一歩(いちぶ)廃駅の御一夜方面。駅端通過ニ秒ほどのところで感じ、確認・検査し、
『安全に支障がない異音ですし、振動も生じてませんし。
ほとんどの人は気づきもしないレベルですから。年明けの補修でお願いします』
とポーレットからの指示をうけていた……本当に微細な異音が、けれども綺麗に消えて……いや、ああ。
「昨夜のオリヴィとの元朝参りか。
『レイルロオドたちだけで初詣をしたい』と出かけていったのは――」
問えばふっと、ハチロクの目から微笑の色が消えてしまう。
「はい。左様です、双鉄さま。
オリヴィちゃんが――
『ソーテツはきっと寒いでしょ? 人間なんだし。かわいそーだよ』と、
あまりに強く主張するものですから。わたくしもそのような気持ちになってしまって」
「その判断への異議はない。オリヴィは御一夜鉄道の保線顧問格だ。
決済を得る必要の無いレベルの保線対応ならば、現場判断で行うことを認められている」
「はい」
「むしろ気遣ってもらえたことはうれしいし――」
それに、それにだ。
まだ新しく御一夜鉄道の仲間になったばかりのオリヴィの気持ちまでは推し量れんが……
ハチロクの――すずのことであるのなら、マスターであり夫の僕だ。恐らく、かなりこころを寄せて考えられる。
「――これは、僕へのお年玉なのだろう?
たしかにここちよいことだ。たとえ犬釘一本のことであろうとも――新年この日に、新しいレールの上を走るのは」
「はい!!!!」
ぱあっと華やぐ。
キャブの中にも新春らしい空気が――ああ、いや
「ついうっかりとしてしまっていたが」
「あ! 左様ですね、双鉄さま」
前方注視は、無論、崩さぬ。
けれど僕らは、こころとこころで視線を交え、笑い合い。
そうしてキリリと、背筋を伸ばして引き締める。
「「新年、あけましておめでとうございます」」
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と、いうわけであけましておめでとうございます!
進行豹でございます!!!
寝て起きたらプロットを思いつきましたので、お出かけ前に急遽!
先のコミケで概要発表されました!!
https://ci-en.dlsite.com/creator/922/article/160644
『まいてつ -Last Run-』の世界線をほんの少しだけ先取りして!
新年を寿ぐSSを執筆いたしました!!!
『まいてつ -Last Run-』
『レヱルロマネスク』
『あやかし郷愁譚』
そしてその他にあるかもしれない新しい物語たちの上でも!!!
2020年も! なにとぞよろしくお願いいたします!!!!!