RX講習 第一回 「RX」とは オペ室 である。

音楽系クリエイターの必需品である、iZotope社の「RX」シリーズ。
これは音の中にあるノイズを除去することに特化したソフトウェアです。
しかし、表記が全て英語であることやプラグインの多さから、その性能を活かしきれていない方が多く見られます。
よく聞くのが、「De-noise」と「De-click」の二つだけを使っているとのお話。
確かに高性能な二つのツールではありますが、それだけで満足するなんてもったいない!
もっと手軽で使って欲しいツールがRXにはたくさんあるのです!

それに、昨今流行りの「バイノーラル音声」において、素直に「De-noise」と「De-click」を掛けるのは非常に危険だと自分は認識しています。
バイノーラルの音の良さを消してしまいかねない、また新たな雑音を作り出してしまう原因にもなってしまいます。

ということで、不定期連載方式で我流のRX使い方を書いていきたいと思います。
(自分、基本的に独学なことが多いので真似されなくて構わないです)

第一回の今日は、主に使うノイズ除去ツールを紹介します。

※(追記 5/6)
本稿では「RX6 Advanced」をもとに書かれています。
「RX6 Standard」や「RX6 Elements」に含まれていないツールも登場しますが、
今回は紹介に留めていますので、適当にスルーしちゃってください。


「RX」とは オペ室 である。

みなさんがRXを利用するのは、雑音のない理想的な音があるから、そこを目指したいから、だと思います。
音声トラックから「クリック音」や「ポップノイズ」、鳥や虫といった「鳴き声」や、車や飛行機などの「環境ノイズ」を除去したい!
そうしてRXを起動して、ノイズをひとつひとつ除去していく。
そして綺麗な音声にしていく……。

これを行うのは、RXを操作する私たちであって、
RXに音声を通せば自動的にノイズを検知して理想的な音にしてくれる
ということではありません。
いかにRXを使えども、操作する私たちの技量によっては、除去後の音声の良し悪しは変わります。

私は、RXはオペ室だと考えます。
RX内の各ツールは、テレビで見るような手術中に使う医療器具です。
高価な医療器具を用いても、それを適切な場所で適切な状態で使わないと音をダメにしてしまいます。
そしてまた、ツールも万能ではありません。
最後の最後には、私たちはツールを使わずに自分の手で地道にノイズを除去していく必要があります。



ホワイトノイズ除去「De-noise」

一般的なノイズカットといえば「ホワイトノイズ除去」になると思います。
マイクで録音するとどんな高価格な機材でも必ず入る、あの「サー」といったノイズです。
これを除去する方法として、「Voice De-noise」と「Spectral De-noise」の2ツールがあります。

「Voice De-noise」のほうは、その名の通り、ボイス以外の音を除去するのに適したツールです。
RXが「これはボイスだから残し、この音はホワイトノイズではないけどボイスではないから多少はノイズカットして音劣化させても平気」と判断してノイズカットを行います。

メリットとしては、処理スピードが早いです。時短。

デメリットは、除去の細かな指定ができないこと。
それによって「ボイスに影響を与えないようにノイズカットを」と謳っている割にボイスがちょっとだけ変化します。具体的には声が少しこもる。
でも本当に少しだけなので、違和感は全くないです。
「収録した通りの音でないと絶対にやだ!」っていう駄々っ子には向いていません(誰のことだろう…)
あと、「ボイスを残す」とあるように、吐息にはバッチリノイズ処理が加わってしまう。


「Spectral De-noise」のほうは、ボイスの判断はせずにノイズを除去します。
スペクトラルの形から判断して云々とのことでしょうが、よく知りません。
用途としては効果音や環境音収録のノイズ除去。

メリットは、処理の細かな指定ができることです。
自分にとって適切な処理結果に確実に導けます。

デメリットは、とにかく処理が重い。
時間がかかるしCPUの負担が強いため、夏場の昼間にやろうものなら下手したらPCが死ぬ。


時間に追われている方は「Voice De-noise」を、
時間に余裕があり確実な音を目指す方は「Spectral De-noise」を使えば良いと思います。



クリックノイズ除去「De-click」

クリックノイズとは、マウスをクリックしたときのような極々短いノイズのことを言います。
狭義的にはリップノイズとも表現されます。
生身の人間が喋る上で避けて通れないノイズの一つですね。
これを除去するツールとして「Mouth De-click」と「De-click」があります。

「Mouth De-click」は、主にリップノイズ向けの除去ツールです。
人が話すときに発生したと思われるクリックノイズを検知して、効果的に除去してくれます。

メリットは、やはり処理スピードが早いです。

デメリットとしては、「De-click」と比べると処理後の結果が悪いこと。
でも大して悪い感じはしないため、デメリットというほどデメリット感はないです。


「De-click」は、クリックノイズ全般向けの除去ツールです。
電子的不具合による「チリノイズ」や、喉鳴り、不意のお腹の鳴りなどなど、様々なノイズに対応。でも、一応これらは「Mouth De-click」でも除去は可能です。

メリットは、様々なクリックノイズに対応できること。
低周波のものでも高周波のものでも、きちんと指定してあげれば良い結果に導けます。

デメリットは、やはり処理の遅さでしょうか。
ただ、「De-noise」のときに明記したほどの処理のスピードの差はないと思います。
ボイス全体に一遍に処理をかける方は大きな差が生まれるかもしれませんが、自分はそういう処理の掛け方をしないのでよくわからないです。

「De-click」の処理の掛け方

モノラル録音の場合、ボイス全体に一律で除去をかけて良いです。
この場合、ガッツリと除去されるように効果を高めにして処理を行うこと。
中途半端に残ってしまうと、それはそれでノイズになります。

ステレオ録音、主にバイノーラル録音の場合、ボイス全体に一律で除去をかける方法はお勧めしません。
理由として、ステレオ録音の場合、ボイスのL成分とR成分とで均一に除去されるとは限らないことがあります。

具体的な例として、添い寝シーンのリップノイズを挙げましょう。
左側で添い寝していると仮定した場合、リップノイズの大きさは「L成分では大きく」、「R成分では小さく」なります。
左耳と右耳とでは距離が離れていますから、音量が減衰するのは自然なことですよね。
そうした場合、RXがリップノイズを除去しようとした際に「L成分では綺麗に除去し」、「R成分ではうまく除去できない」ということが発生します。
R成分のリップノイズのボリュームが小さすぎて、RXがリップノイズだときちんと判断できないことがあるのです。
こういう処理が行われると、リップノイズの定位が右側にブレてしまい(左側は除去されて右側が除去されなかったので、右からノイズが発生したように聞こえる)、左側で添い寝している状態なのに正面付近からリップノイズが聞こえてきます。

こういう状態を見逃すか、見逃さないかの違いですが、
とにかく僕は、上記の理由から一律のノイズ除去はお勧めしません。



万能ツール「Spectral Repair」

他の追随を許さぬ万能薬といえば、この「Spectral Repair」でしょう。
こいつは、周囲の音の特徴をコピーして置き換える、という特徴を持ったノイズ除去ツールです。

例えば、ボイスの途中で鳥の声が混じってしまったとき。
鳥の鳴き声の箇所を選択すると、その選択範囲の周囲の音の特徴を分析して、「どれが自然な音で」「どれがノイズ」なのかを検知。
自然な音と判断したものを残しながら、そのノイズだけを減衰させるという魔法ツールです。

用途としては、クリックノイズよりも広範囲なノイズ向けです。
個人的な主な用途は、「De-click」後に残った塵のようなノイズを一掃するのに使ったり、家鳴りの除去や、ボイス間にあるよくわからないけど不快な音の除去に使っています。



最終兵器「Ctrl+X」

どのツールをどのように設定しても除去できないノイズと出会うときがあります。
その時はもう力技しかありません。
除去したいところを範囲選択して、「Ctrl+X」。
これに尽きます。

Ctrl+X」は「切り取り」のショートカットキーです。
これをノイズ(というより範囲選択内の音自体)を強○的に切り取り(除去)します。
範囲を広く取るとバックノイズも含め、その選択範囲内は完全に無音になりますが、
小さな範囲だと少しだけ切り取られます。
納得できない出来だと思ったら「Ctrl+Z」を押して、すぐにやり直しましょう。
(「Ctrl+Z」は、「戻る・やり直し」のショートカットキーです)
これを地道に何度も繰り返します。
Xを押してZを押し、違う範囲を選択してXを押し、足りないと思ったら追加で範囲選択してX。
そうしてノイズの部分だけを切り取っていきます。

Ctrl+X」は、本来はどこか別のところに音を移動したいときに「切り取り&貼り付け」を行うために使う機能・ショートカットキーですが、自分は前述のとおり「Ctrl+Z」を使い回すため、Zと近いXを使います。
もちろん、「delete」ボタンでもいいですよ。

ぶっちゃけ、ホワイトノイズ以外のノイズは、この「Ctrl+X」でほぼ全て解決します。
個人的最強ツール(ボタン?)といっても過言ではないです。


RXはオペ室です。
ガンの部分だけを地道に除去してあげれば健康体に戻るように、
最終的にはツールなど使わなくても「Ctrl+X」さえ使えばどんなノイズでも除去できます。
まあそんなことをしているとリアル手術のように何十時間も除去作業をする羽目になりますが…。



締め

……ということで、主なツールを紹介しました。
「ツールの使い方書いとらんやんけ!」と思われたでしょうが、使い方を画像付きで説明しとうと思うと一体何週間かかるかわからんのじゃ……。
各ツールの使い方はまた今度説明しますね。
とりあえず今日は、最終兵器かつ最強ツール「Ctrl+X」をお伝えしたかっただけです。

まだまだRXには魅力的なツール(De-essとかDe-reverbとかDe-bleedとか)がありますので、それぞれひとつずつ自分が音声作品制作においてどのような使い方をしているのかを紹介していけたらなと思います。

それでは、今日はこんなところで。
読んでくださりありがとうございました!

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