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火傷の記事 (35)

【圧倒的感謝!】足裏○問画像を作って頂きました

https://twitter.com/keykoya21/status/1770704406948032850
 
 
 私のこんな嘆きが伝わったのでしょうか。当Ci-enの支援者限定Discordにて、ddh11氏が足裏根性焼き画像を作って下さいました!


 すごい……。感動……。自分以外の足裏根性焼き作品、初めて見ました……。


 どれも素晴らしいのですが、特にこれがグッと来ました。他の並んで座らされている画像は懲罰的なストーリーが想像できますが、これだけは一体どういう状況なのかパッとは分からない。

 自分から足裏を差し出しているような状況で、数十本の根性焼きに耐え続けている。足を引っ込めていつでも逃げれそうなのに、あえて足裏を差し出し続けている……。彼女が何を思って、どういう理由でこれをやっているのか。想像させるパワーがあります。

「え、根性焼き(笑) いいよ、やってみる? 全然平気。だって、私いつも裸足で歩いてるんだもん」
「ん~~、まあ、ちょっとは痛いけど平気平気! え、もっと? いいよいいよ、好きなだけやってみなよ(笑)」
「ねえ……もう十本目だけど、まだやるの……? ……え、いや! つ、辛くないし! いいよ! 百本でも二百本でもやってみなよ!」
「……えっ、なんでカートンで買ってきたの? ちょっと待って、マジで……??」

 そんな状況を思って興奮しちゃいますね……。

 さて、今回の有り難い画像群ですが、火傷描写的にも参考になります。火傷描写はいつもどうすればいいのか、試行錯誤し続けてるんですよね……。


https://www.pixiv.net/artworks/111612611

 こちらが私の根性焼き表現。「火傷の外周を白くする」ことで皮膚の盛り上がり(?)を表現し、「火傷の内周を黒くする」ことで影により焼けて失われた皮膚を表現するところは同じですね。見比べると、私の方は「火傷の内周を黒くする」影の描写をもっと強くした方が良いことが分かります。


https://www.pixiv.net/artworks/92525384

 昔描いたこっちの方が、影の表現はできているな……。

 根性焼きの火傷描写はかなり難しくて、まばらなうちは良いのですが、あまり多くなってくると変な模様みたいになってくるし、足裏全面を焼き切ってしまうと、根性焼きの妙味が失われてしまいます。


https://www.pixiv.net/artworks/72985240

 この作品では「足裏全面に根性焼き」が初めての経験だったので、いま見るとよく分からない事になってますね……。


https://www.pixiv.net/artworks/77290505

 後に作ったこちらの方は「全面が焼け爛れている」というニュアンスを、「隙間なく焼き尽くした」ではなく、「全面に均等に根性焼きを行った」という形で表現したので、なんとか根性焼きの妙味が残りました。

 †

 話が脱線しましたが、足の裏への根性焼き画像、本当にありがとうございました!

 今回の画像を作って下さったddh11️氏の素敵なpixivはこちらです!

https://www.pixiv.net/users/77943556/artworks

 足の裏への根性焼き、本当に大好きです。特に女の子があぐらをかいて、足裏を見せつつ、自分の手で一本一本、じっくり、ゆっくり、時間をかけて、たっぷりと苦痛を味わいながら足裏を焼き尽くしていくシチュエーションが大好きです!


https://www.pixiv.net/artworks/112575303
 それを喜んでやってると最高にいいですね……。

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【ホラー】近畿地方のある神事について(完結)【足裏○問】

 緋袴姿の三ツ花撫子が本当に幸せな笑顔を向けて俺に手を振った。

「ユウジ君、ホントに色々ありがとう! じゃあ、私たち、苦しみ抜いて立派に死んでくるね!」

 裸足の三ツ花が弾むような足取りで他の巫女たちの後に続き、特徴的な円形の建物の中へと入っていく。赤師眞子も一緒だ。

 ここは近畿地方の▓▓県の片田舎にある施設。ホムラ神事「蛆虫の巣」――、通称「裸足の巫女の最終処分場」のためだけに使われるものだ。俺は静川さんとの面談の後、三ツ花たちが探し求めていた「蛆虫の巣」の情報を彼女たちに伝えたのだ。そして、三ツ花たちを神社まで送り届ける役も買って出た。

 三ツ花からしてみれば、俺の妨害すら懸念していたわけだから、俺が豹変して協力的になったことはさぞ嬉しかったに違いない。

 彼女たちは昨日は神社に宿泊した。二十四歳の裸足の巫女たちが集まったわけだが、翌日、自分たちが苦しみ抜いて死ぬことが嬉しくて仕方なかったようで、どんな激痛が、どんな苦しみが待っているのか、どんな地獄を味わえるのかと、巫女たちはまるで女子中学生のように盛り上がっていたらしい。

「みんなでお互いの足裏の見せ合いっこしてたよ。私たちみんなの足の裏が今からグチャグチャに焼け爛れてゴミ以下の汚物になるんだと思うと本当に嬉しい!」

 今朝、三ツ花はそんなことを言ってキャッキャと喜んでいた。楽しそうで何よりだ。

「では、皆さんはこちらに起こし下さい」

 一方、俺たちは施設の二階席へと案内された。「蛆虫の巣」は非公開神事だが、巫女の恋人など、僅かな親近者にだけは観覧権があるようだ。巫女には日給が出るそうだが、俺たち観客には相応の寄付……実質的な観覧料が求められた。結構なお値段だった。

 だが、静川さんはこうも言っていた。

「蛆虫の巣は見る方もとっても楽しめると思いますよ。有堂さんも三ツ花さんが足の裏焼かれて苦しむ姿を生で見てみたいんじゃないですか?」

 それが三ツ花たちに情報を伝えることにした決定打の一つだ。三ツ花の苦しむ様は写真や動画でたくさん見たが、もちろん生でも見てみたいに決まっている。

 円柱の建物の一階部分に巫女たちが集まっている。俺たちの通された観覧席からはガラス窓越しに下の様子が見えた。地面には砂利が敷き詰められ、その上に巫女たちが裸足で立っている。真ん中には一本の柱があり、その柱から水平に棒が伸びていた。柱の上部は鉄パイプ製の円形と連結しており、円形から鎖に吊るされた手枷が下りている。メリーゴーランドのようなものを想像すれば近い。

「いやあ、とっても楽しみですねえ」

 俺の隣の席に座ったのは二十代後半の男性で、今日参加している裸足の巫女の彼氏なのだという。

「あ、ほら、あの子です」

 高藤と名乗った男性がガラス窓から下を指差した。ロングヘアーの清楚な感じの巫女が見えた。名前は水月静瑠(みなづき・しずる)というらしい。

「僕はホムラ神事の追っかけをやってて静瑠ちゃんと知り合ったんです。当時、静瑠ちゃんは二十二歳だったんですけど、二十五歳になるまでに絶対に神事で死にたい! って言ってまして。僕が最終処分場の噂を教えたら、絶対やりたい、探して欲しい、ってお願いされて、一緒に探してるうちに仲良くなって付き合うことになったんです」

 彼らもあらゆる手を尽くした末にようやくこの情報に辿り着いたという。静川さんの言葉を借りて言うなら、「本当に心の底から求めている巫女にだけ、蛆虫の巣が招いてくれるんです」ということなのだろう。これへの参加が許された時、二人は飛び上がって喜んだという。

「蛆虫の巣は簡単に死ぬことはできないそうですよ。苦しみに苦しみ抜いて、生き地獄を味わい尽くした末にようやく死ねるそうです。静瑠ちゃんが死ぬまで苦しむ姿が見れるなんて本当に楽しみです!」

 前のめりな高藤さんに俺は愛想笑いで応えた。俺は静川さんからこの神事の本当の目的を聞いている。でも、せっかくの期待を壊しては悪いので黙っておいた。

 一階では、今回の主役である処分予定の巫女が七人揃っていたが、そこに神主に連れられて明らかに年齢の若い巫女が一人入ってきた。その子が七人に向かってぺこりと頭を下げる。

「先輩の皆さん、はじめまして。本日、蛆虫の巣で現姫行を務めさせて頂きます、細道環奈(ほそみち・かんな)と言います」

 その少女がニコッと微笑むと、巫女たちが拍手で迎えた。細道環奈、有名人だ。俺もホムラ神事のことを漁っている間、その名は何度も見てきた。

 年齢は十七歳。「ラッキーガール」「神に愛された少女」「奇跡の巫女」などの異名を持つ。ショートカットのボーイッシュな少女で、九州地方の▓▓県の神社の養子。裸足の巫女となるべく育てられた生粋の裸足の巫女だ。

 それで何がどうラッキーなのかと言うと、彼女は十六歳の時に、アライワ記事にもあった▓▓村の神籤の火渡りに参加している。そこでクジ運に恵まれて、なんと二十六回もの火渡りを行ったという。アライワ記事にあった白神水緒の火渡りが十五回だったので、それを遥かに上回るとんでもない記録だ。

 環奈の足の裏は当然ながらむごたらしく焼き尽くされ、酸鼻を極めた。息も絶え絶えとなった環奈を心配し、神主は彼女を病院に緊急搬送しようとしたが、環奈は頑としてそれを拒み、毒油による伝統的な治療を望んだ。

 毒油を塗り込まれて、当然ながら彼女は悶え苦しみ、死の淵に立った。足裏も全治四ヶ月、皮膚移植なしでは絶対に治らないと医学的には判断されたが、奇跡的に彼女は生き残り、毒油だけの治療で足裏も二ヶ月後には綺麗に回復した。そして、足裏が治った直後にすぐに彼女は次の神事に挑み、また足裏を焼き尽くして死にかけた。

 わずか一年の巫女活動の間になんと三回も神事で死にかけており、生存を絶望視されるもその全てで生き残ってきた奇跡の巫女なのだ。神籤の火渡りのように運が絡む神事では常に最悪の結果を味わってきたが、もちろん環奈自身はそれを「超ラッキー」だと喜んでいる。

 そんな見事な実績もあり、ホムラ神事界隈で大型新人扱いされた環奈の人気は絶大で、三ヶ月前に行われた形代祓ではファンが殺到し、なんと三千九百本もの根性焼きを二日間に渡って味わい続けた程だ。

 その環奈が処分予定の巫女たちの前で嬉しそうにニコニコしながら言った。

「皆さん、蛆虫の巣をお楽しみにされていたのに長らくお待たせしてすいません。形代祓で受けた私の足裏の火傷が例年より遥かに重傷で、完治に時間が掛かってしまいました。てへっ」

 神事の追っかけ連中からは大人気の環奈だが、三ツ花も赤師も「でも、生意気でいけすかない子なんだよ」と言っていた。「世界で一番、自分こそが誰よりも足の裏をメチャクチャにできる、って思ってるんだもん」とのことだ。「ま、そんなところが可愛いんだけどね」とも彼女たちは付け加えていたが。裸足の巫女たちは環奈に対し、若き後輩への愛しさと、若さに見合わない実績の小憎たらしさ、その両方の感情を覚えているようだった。

「現姫行を勤める身として、皆さんが苦しみ抜いて死ねるよう、私が責任を持って導きたいと思います。もっとも、皆さんが死んだ後、誰よりも苦しみ抜いて死ぬのは私ですけどね!」

 環奈の言葉に巫女たちがカチンと来たのが空気で分かった。「あ、こういうところなんだな」と俺は直感的に理解する。

「環奈ちゃん、気持ちは嬉しいけど、ちょっといいかな」

 三ツ花撫子が頬を軽く引く付かせながら口を挟んだ。

「言っとくけど、一番苦しんで死ぬのは私だから」

 だが、それを聞いた他の巫女たちは聞き捨てならないとばかりに、

「え、私が一番ひどい死に方するんだけど?」
「何言ってんの。一番むごたらしく死ぬのは、わ・た・し!」

 と、よく分からない張り合いを始めた。環奈はそんな先輩たちのやる気溢れる姿を見てニコニコとしている。

「先輩たちのやる気が伝わって環奈もとっても嬉しいです。では、蛆虫の巣、みんなで楽しみましょう!」

 巫女たちは素直に「はーい」と答えて、そこから神事の準備が始まった。
 
 †

 神事の内容は巫女たちには伏せられている。おそらく現姫行を務める細道環奈だけには伝えられているのだろう。「当日までのお楽しみ!」と三ツ花もワクワクしていた。俺は静川さんから概要を事細かに聞いていたが、もちろん三ツ花には伝えていない。

 一階の中央に立てられた柱。そこから水平に伸びる棒の前へと環奈が立った。漫画などで見る、奴○が回す謎の棒のようなものだ。環奈が軽く棒を押すと、連動して柱の上部にある鉄パイプ製の円形が回った。その円形から吊り下がっている鎖と手枷も当然ながら連動して回る。処分予定の巫女たちはその動きを見て、何かを察したようだった。

 環奈を含む巫女たちは男衆から目隠しをされ、腕に点滴のようなものを刺された。点滴パックが括り付けられた背負子のようなものを各自が背負う。さらに環奈以外の巫女は吊り下げられた手枷で両手を縛られた。この点滴の意味も俺は静川さんから聞いている。

「点滴は一つには栄養補給。蛆虫の巣をやってる間は水分補給だけで、食事は一切出ないから。生きるために必要な栄養は全部点滴」

 それともう一つ。

「後ね、あの点滴に入ってる特殊な薬品で聴覚と嗅覚が麻痺するの。昔の神事では団子とかにして経口摂取してたみたいだけど、今では点滴。全く聞こえなくなるわけじゃないんだけど、すごくボヤッとした音になって意味は全然聞き取れない。悲鳴だけは聞こえるし分かるんだけどね」

 つまり、巫女たちは目隠しで視覚を塞がれ、薬品で聴覚と嗅覚を塞がれた状態で、この神事を行うことになる。当然、何をするのか、彼女たちに説明は一切与えられない。

「唯一された説明は終了条件だけ」

 と静川さんは言っていた。

 男衆が肩を押さえて巫女たちを膝立ちで座らせた。環奈と処分予定の巫女たち、計八人の可愛らしい十六の足裏が晒される。そして、男衆が穂群灯……煙草に火を付けて、傷ひとつない真っ白な足裏に、一本ずつ、しっかりと煙草の火を押し付けていく。

 うっ、とか、あっ……、とか、可愛らしい呻きが巫女たちの口から漏れる。静川さんはこう言っていた。

「何をされるか分からないけど、もちろん何をされてもいいと思ってるし、足の裏に痛みが走った時はそれはもう嬉しかったです。あ、これ、根性焼きだ、やった! って。だって形代祓では、私、たったの百本しか根性焼きしてもらえませんでしたから。二千本以上、根性焼きされてた水緒ちゃんが羨ましくて仕方なかったんです。しかも、今回は私が死ぬまでやってもらえるわけですから……一本一本しっかり痛みを味わってましたよ」

 巫女たちの足裏にどんどん煙草が押し付けられていく。当然だが、俺は三ツ花の足裏ばかりを見ていた。三ツ花の足裏に火傷が刻みこまれ、彼女の口から噛み殺した悲鳴が漏れる度に俺は嬉しくてたまらなくなる。

「いやぁ……静瑠ちゃん最高にかわいいな。巫女が足の裏を焼かれて苦しむ様って本当に最高ですよね」

 隣の高藤さんも感慨深げにそう呟いている。俺も同意して頷き、三ツ花の憐れな姿を脳裏に焼き付けようとする。

 片足ずつ百本、両足合わせて二百本の煙草が押し付けられたところで根性焼きは一時終了となる。鎖が巻き上げられ、処分予定の巫女たちの手枷が吊り上げられていき、巫女たちは強○的に立ち上がらされる。バンザイの格好で巫女たちが立ち上がると、

「ひいッ!」

 神主が環奈の足裏に鞭をふるい、環奈が甲高い悲鳴を上げた。それを合図に環奈がふらふら立ち上がる。環奈の手を取った神主が、環奈に棒を握らせた。環奈がその棒を押し始める。

 環奈が棒を押すと、連動して柱の上部の円形が回り始め、処分予定の巫女たちを縛る手枷も動き、巫女たちは歩くことを余儀なくされる。片足ずつ百の火傷が刻まれた素足の足裏で、砂利の敷き詰められた地面の上を歩き始めると、当然ながら巫女たちから、さっきよりも痛ましい呻きが漏れ始める。ここからが蛆虫の巣の本番だ。俺は処分予定の巫女たちを笑顔で見下ろしながら、静川さんの言葉を思い出した。

「現姫行を務める巫女が棒を押して歩き続ける限り、鎖と手枷に繋がれた私たち巫女もずっと歩かなくちゃいけないの。現姫行を務める巫女はホムラ姫様の顕現なのね。要するにホムラ姫様が直々に顕現して、巫女たちが死ぬまで一緒に足裏苦行をしてくれる、ってわけ。だから、現姫行の巫女は、処分予定の巫女が全員死ぬまで棒を押し続けて、最後に自分が死ねばそれが理想なの」

 現姫行を担当する細道環奈の責任は重大だ。なにせ、ここに集まっている巫女たちはみんな今回の神事で苦しみ抜いて死ぬことを目的としている。そんな彼女たちを満足させる……つまり、全員をきっちり殺し切らなければならないのだ。

 環奈は足裏に刻まれた二百の火傷を気にする素振りなど一切見せず、一時間以上も歩みを止めずに棒を押し続けた。処分予定の巫女たちは少なからず呻きや悲鳴を漏らしているが、環奈は口元をニヤニヤさせてずっと嬉しそうにしている。自分が今から処分予定の巫女たちを命がけで殺すのだという使命感に燃えているのかもしれない。

 そうして、二時間が経過すると神主が環奈を止めて、巫女たちを吊り上げていた鎖も緩んだ。巫女たちが痛みに呻きながら膝を下ろすが、これは断じて休憩時間などではない。煙草を持った男衆が巫女たちの足裏に集まってきた。

「二時間に一度、片足に百本ずつ、計二百本の根性焼き。二時間頑張って歩いた私たちへのご褒美ってところね。うふふ! 思い出したら私も嬉しくなってきちゃった!」

 静川さんは当時を思い出しながら楽しそうにケラケラ笑っていた。

 足裏に根性焼きのおかわりをもらった巫女たちは本当に嬉しそうだった。みんな、思い思いに悲鳴を上げ、泣き崩れていく。火傷した足裏を二時間も砂利道で削られ、さらに根性焼きを重ねられる。その苦痛は筆舌に尽くしがたいだろうし、この後の砂利道はさらに悲惨なものとなるだろう。

 現に、四百本の根性焼きを味わった巫女たちの、それからの歩みは格段に痛々しさを増した。呻きや悲鳴は押さえられるものではなくなり、大声で泣き出す者も現れ始めた。そんな中、環奈はなおもニヤニヤとした笑みを口元に浮かべて、止まらずに棒を回し続ける。三ツ花から漏れる悲鳴の悲痛さが俺も嬉しくて仕方ない。今、彼女の味わっている苦痛を思うと、そして、これから彼女が味わう地獄を思うとたまらない気持ちになる。

 静川さんはこうも言っていた。

「蛆虫の巣はね、本当に素晴らしい神事なの。裸足の巫女ならみんな憧れると思うよ。だって、蛆虫の巣には足の裏の痛み以外、何もないの。真っ暗な世界で、何も見えず、何も聞こえず、何の匂いもなく、ずーっと、ずーっと、足の裏の痛みだけを味わい続けるの。そんなの裸足の巫女なら嬉しいに決まってるでしょ? 足の裏の痛みにだけ集中できるんだから。それにどんなに痛くても苦しくても、現姫行の巫女が止まらない限り、私たちは絶対に逃げられない。最高だよね、そんなの」

 それからも二時間に一度の根性焼き二百本を挟みつつ、巫女たちは砂利の上を火傷した足の裏で無意味にぐるぐる歩き続けた。何の意味もなく、ただ、苦しむためだけに、同じ場所を延々と回り続けた。

 後半になると、流石に環奈の歩みも遅くなり出した。その度に神主が環奈の足裏に鞭を振るって励ます。その鞭の甲斐あってか、前半はあんなに楽しそうだった環奈が後半ではどの巫女よりも苦しそうな顔で呻き、悲鳴を上げるようになった。

 一方、俺たちの観覧席には夕食の幕の内弁当が配られた。三ツ花たちの苦しむ姿もおかずにしながら、俺たちは弁当をつついた。うまい。安い弁当屋の幕の内ではない。これは専門店の味だ。

 夜十時になり、それぞれの巫女の足裏に計千本の火傷が刻み込まれたところで、巫女たちを縛っている鎖が緩み、全ての巫女が砂利の上へと倒れ伏した。環奈も足裏に鞭を一発叩き込まれ、転げ回って苦しんでいるところを踏みつけられて砂利の上へと寝かされた。環奈への合図は全て足裏への鞭で行われるようだ。

 一日の終りに関しても、俺は静川さんから聞いていた。

「蛆虫の巣は毎日千本の根性焼きと砂利道を十時間。それだけ。後は朝まで休憩。蛆虫の巣は裸足の巫女に最大限の苦痛と本当の生き地獄を与えるためのものだから、そんな簡単に死んだりできません。何も見えず何も聞こえず、足の裏の痛みだけしかない世界を、きちんと休憩しながらずーっと味わい続けるの」

 休憩時間とはいえ、火傷し、砂利道で延々と削られ続けた巫女たちの足裏の痛みは尋常ではないのだろう。環奈を含む全ての巫女が砂利の上で呻きながらもがき苦しんでいる。その様を上から見ると、まさに蛆虫が地面を這い回るかのようなおぞましい姿だ。

「いやあ、すごく壮観で目の保養になりますね。静瑠ちゃんもとっても辛そうで笑顔になっちゃいますねえ」
「良いですよね。でもまだ一日目ですからね。彼女たちの地獄はまだまだ続きますよ。高藤さん、有給はしっかり取ってきました?」
「ええ、一応、十日で申請してますが、なんなら仕事辞めてでも最期までしっかり見ますよ。途中で見るの止めて帰ったりしたら静瑠ちゃんが激怒しちゃいますし。私が死ぬところ最期まで見届けてね、って言われてますし、僕も見たいです」
「ですよね。俺も最後まで見届ける予定です」

 俺たちには夕食後のデザートとしてプリンとトロピカルフルーツジュースが配られた。観覧席は安くなかったがサービスが行き届いている。

「静瑠ちゃんたちはご飯どうするんですかね?」
「ああ、今、点滴してるじゃないですか。ご飯はあれですよ」
「あ、なるほど」
「せっかく目隠しして聴覚も嗅覚も麻痺させてますからね。今、彼女たちは足裏の痛み以外の一切の感覚がない状態なんです。食事とかで味覚を刺激するべきじゃないですから」
「そうですね。足の裏の痛み以外、一切与えるべきじゃないですもんね。よく考えられてるな」
「感心しますよね」

 俺たちがプリンを食べ終わった後も、巫女たちは砂利の上で苦しみ、もがき続けている。男衆が巫女たちのオムツを交換し、体の上から毛布をかけたが、すぐに寝られそうな巫女はいない。みんな痛みに呻き続けている。

「じゃあ、俺たちもそろそろ寝ますか」
「そうですね。静瑠ちゃんもまだ死なないだろうし」
「死にそうになった時にウトウトしていたら失礼ですからね」
 俺たちはシャワーを浴びた後、観覧席に用意されたふかふかのベッドへと向かった。見守る方も長丁場だ。

 †

「ギぃゃあああああッッぁ!」

 二日目は巫女たちの絶叫で始まった。

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【ホラー】近畿地方のある神事について【足裏○問】

 これはある匿名テキストサイトに投稿されていた記事である。静川氏のPCから草稿が見つかったことから、投稿主が静川氏であることが確認されている。

 †

202■-0■-■3
題名:足の裏が真っ白なことに耐えられない

私の足の裏が真っ白なことに耐えられない。
今の私の足裏は傷一つなく、真っ白。
当然だが痛みも全くない。
三ヶ月前はあんなにグチャグチャに焼け爛れていたのに。

毎日、眠れない程に痛かった。
家からも出られず足裏の痛みに悶絶するだけの日々だった。
立って歩くことすらできず、家の中を這って移動した。
食欲も全くないし、むりやりに食事を飲み込んでも睡眠不足と足裏の痛みで反射的に嘔吐した。

仕事はもちろん手に付かない。
テレビもゲームも読書も何もできない。
一日中、気が狂いそうな足裏の痛みに呻き続けてた。
唯一の楽しみは、滅茶苦茶になった自分の足の裏を眺めること。
足裏一面の皮は全部焼けて剥がれ落ち、ピンク色の肉がてらてらと光沢を持って輝いていた。
そんな自分の足の裏がたまらなく愛おしくて、誇らしかった。
自分の意志で足の裏をこんなむごたらしいものにしてやったことが本当に嬉しくて、見ているとついニヤニヤしてしまう。

いつまで見ていても全然飽きない。
ズタボロになった私の足の裏がかわいすぎる。
もっともっと大火傷させて、もっともっと可愛くしてやりたい。
足の裏に味わっているとんでもない痛みも苦しみも、こんなに素晴らしいものを生み出すための代償なのだから仕方がない。
むしろ私が苦しむだけでこんなに素敵なものが世の中に生まれ落ちるのなら、私なんてどれだけ苦しんでも構わないだろう。

痛みに呻き、啜り泣き、布団の上で身を丸めて震えながら自分の足の裏を見つめるだけの、本当に素敵な時間をあの時の私は味わっていた。
けど、それにも終わりが訪れた。

一週間もする頃には、動けない程だった足裏の痛みも、なんとか家の中を歩ける程度に落ち着いた。
二週間も経つ頃には、痛みはあるものの、簡単な外出くらいはできるようになり、一ヶ月が経つ頃には痛みは拍子抜けする程に軽いものとなってしまった。
そこからずっとイライラしている。

痛みが軽くなってからは焦燥感に駆られ続けた。
その間もいくつかの神事があったが、ほとんどは足裏の完治が条件で参加を断られた。
待つことしかできない、この時間が本当にもどかしかった。
毎日、毎日、自分の足の裏を眺めながら、早く治れ! 治れ!と願い続けた。

もどかしい日々の間、私は全国の神事をずっと調べ続けた。
足の裏が治ったらすぐにホムラ神事に参加したい。
私はもう24歳だ。
巫女として神事に参加できる時間は限られている。
前回は全治二ヶ月の大火傷を負うことができて私も大満足だった。

でも、本音はもっともっと凄まじい苦行に挑みたい。
私の足の裏を徹底的に焼き尽くして、世界中のどんな足の裏よりもむごたらしい最悪の足の裏にしてやりたい。
そう思うと、現姫行を務められる巫女が羨ましくて仕方ない。
みんなが現姫行を取り合っていた意味が今なら理解できる。
そりゃ現姫行やりたいよね。
現姫行のどれか一つでもやらせてもらえるなら私は全財産を投げ打っても惜しくない。

足の裏が治ったら本当はすぐに神事に参加したかった。
けど、手頃な神事がなくてやきもちした。
全治一週間や二週間程度の神事ならすぐに見つかったが、悩んだ末に止めた。
それで火傷して、足の裏を治している間に、私がまだ知らない過酷な神事が重なったりしたら最悪だ。
そっちに出れば良かったと後悔するに違いない。
最低でも全治一ヶ月、できれば二ヶ月、欲を言えば苦しみ抜いて死ぬような神事がいい……。

私は毎日パソコンにかじりつき、時には図書館で資料に当たり、様々な角度から日本中のホムラ神事を調べ上げた。
微かな痕跡を見つけたら、今もまだ神事が続いていないか確認していった。
村役場への電話も何十回かけたか覚えていない。
これまでに知り合った巫女との情報共有も欠かさず、掘り出し物の神事がないか聞きまくった。

足裏の痛みがどんどん薄れていき、ついに真っ白に治ってからは、焦りと後悔で頭がおかしくなりそうだった。
私が巫女でいられる時間は後わずかしかないのだ。
一分一秒も無駄にできない。
一秒でも早く私の足の裏をボロクソにして、足裏の痛みに震えて泣き喚きたい。
なのに、これぞという神事がない。
自分の足の裏が傷ひとつ無くきれいで真っ白なことが不愉快で仕方ない。
耐えられない。

何度も何度も誘惑に駆られた。
ホットプレートを出してきて、その前で何十分も悩んだ。
スイッチを入れて、プレートの上に裸足で立って、一分……いや、二分……いや、三分の間、何があってもプレートから降りない。
私の足の裏がどうなろうと絶対に降りない。
そんなちょっとしたチャレンジをするのはどうだろう。

想像するだけでドキドキしたけど、悩んだ末に止めた。
ホムラ姫様は神事以外の場面で、巫女が勝手な足裏苦行を行うことを嫌うらしい。
それならもっともっと神事の数を増やして、私たち巫女が年中無休で足の裏をグチャグチャにできるようにしてよ! 
そんな不満も覚えてしまう。

自分の白い足の裏が憎たらしくて仕方ない。
この足裏が今すぐグチャグチャに焼け爛れればいいのに……。
ピンクの肉を露出させ黄色い膿にまみれた自分の足裏を想像すると愛しくて仕方なく、今の白い足の裏が本当に嫌で嫌でたまらない。
早く、早く足の裏をボロクソにしたい。
泣き喚いて、悶え狂って、足の裏の痛みに苦しみ抜きたい……。

明後日、神事に参加する……。
どの程度の火傷を味わえるのかは分からない。
悩んだ末に妥協した。
期待外れに終わる可能性も高い。
もっと良い条件の神事が他にあるのかもしれないが、私はこれ以上、自分の白い足の裏に耐えられなかった。

私の足の裏がドロドロに焼け爛れることだけを祈っている。



この記事には幾つかのコメントが付いていた。ほとんどは意味不明な怪文書と馬鹿にするものだったが、「裸足の巫女だよね?」といったコメントも僅かにあった。そして、この記事の四日後、静川氏による追加記事が投下された。


202■-0■-■7
題名:本当にすいません。。

皆さん、コメントありがとうございます。
前回は意味不明な文章を書いてしまい、ごめんなさい。
ストレスがたまりすぎて周りが見えなくなっていたようです。
いきなりあんなポエムみたいなの書いて、変な女だと思われて当然ですよね……。

> 裸足の巫女だよね?

はい、そうです。裸足の巫女です。

23歳の時に仕事でホムラ神事を取材して、それからのめり込んでしまい……。
今は裸足の巫女として各種神事に参加しています。
あと4ヶ月で25歳になっちゃうので、神事に参加できるのは次がラストチャンス……って感じです。

> 本職はなに?

実は無職でして……。
大学卒業後はフリーライターをやってたんですが、ホムラ神事にのめり込みすぎて仕事もなくなってしまいました。

今は貯金を切り崩してるんですが、ホムラ神事って全国あちこちで開催されてるから交通費とかも結構痛いんですよね……。
ただ、そのへんの心配はもう必要なさそうです。
今使ってるノートパソコンも近く売り払う予定です。

それで、先日、近畿地方の……具体的には■■県■■村で行われている形代祓(かたしろはらい)という神事に参加してきました。
これがその時の私の足の裏です。

注:挿入された画像は女性のものと思しき両足の裏で、左右の足の裏には計百箇所ほどの火傷の痕が見える。煙草のような火種を押し当てたものと思われた。

正直、内容自体はガッカリだったんですが、少しでも足の裏が火傷できたこと、それから、次に繋がる素晴らしい機会を頂いたので、今はとても気分が晴れやかです。

もし、需要があれば少し形代祓のレポートも書きますよ。


202■-0■-■8
題名:形代祓のレポートです

コメントありがとうございます。

> 足の裏の今の痛みは?

歩くのはしんどいですね。
ただ、初日は本当に歩けないくらい痛かったんですが、今日でもう三日目なので。
痛みのピークは過ぎちゃった感じです。

> これはなに? 根性焼き?

それに近いものです。
順を追って説明しますね。

私が参加した形代祓はホムラ神事の一つで、元々は村民全員が足の裏に苦行を行うものでした。
村に伝わる薬草を干して刻んで固めた煙草のようなものに火をつけて、それを自分の足の裏に押し付ける、という苦行です。
現地ではこの煙草は穂群灯と呼ばれてますが、ここでは煙草と言っちゃいますね。

ここの神事はホムラノホマレヒメ……足裏苦行の女神なんですが、村民全員が足裏苦行を行うことで村全体にホムラ姫様の加護が得られる、というものです。
ただ、それがいつの時代からか変化して、巫女(ホムラ神事に参加する巫女は裸足の巫女と呼ばれるのですが)……裸足の巫女の足の裏に、村人全員がこの火種を押し付ける祭りへと変化したようです。

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【ホラー】北海道のある神事について【足裏○問】

 このドキュメントは、ある女性記者のPCに残されていた未発表原稿である。

 †


■北海道の巫女と命がけの苦行

 札幌駅からバスと電車を乗り換えて約三時間――、筆者は北海道の内陸にある▓▓町の▓▓▓神社へと辿り着いた。以前にレポートした火叢祭に参加していたIさんこと、衣部酒泉海(いぶさき・いずみ)さんが奉職する神社である。今は時期的には既に初春だが、山間部にある▓▓町ではまだ春の気配は程遠く、体感的には東京の真冬と変わらない寒さだ。

 昼過ぎに社を訪れると、巫女の泉海さんは神社の境内で雪かきを行っていた。緋袴を穿いた巫女姿だが、防寒対策として小袖の下にセーターを着込んでいるようだった。でも、もちろん足下は裸足だ。赤く腫れた素足で雪を踏みしめながら平然と作業をしていた。泉海さんは▓▓▓神社の巫女として、16歳の時から通年での裸足生活を義務付けられている。巫女になったその日に全ての靴と靴下を燃やしたと言っていた。

 泉海さんは私の顔を見ると、にこりと微笑んで作業を中断し、神社に併設されている自宅へと案内してくれた。筆者は翌日に泉海さんと一緒にホムラ神事に参加する予定だ。私の前を歩く泉海さんの足裏がちらりと目に入る。むごたらしく焼け爛れていたが、泉海さんはスタスタと進んでいく。

 和室の客間に通され、向かい合って座る泉海さんから説明を受けることになった。

「メールでお伝えしていた通り、明日、静川さんは豊祈祭とその後の雪中難行を取材頂けます。随行巫女という扱いになります」

 豊祈祭とは豊穣祈念の祭りである。ホムラノホマレヒメは自身が足裏苦行を行うことで当地に五穀豊穣をもたらすと信じられている。そして、そのホムラ姫の苦行を巫女が体現するのが雪中難行だ。

 雪中難行は巫女を雪山の奥深くに運び、放置するというもので、巫女はそこから一人で自力で下山しなければならない。無論、足下は裸足だ。雪中難行は年に三度、初冬、真冬、初春に行われ、今回行われる初春の雪中難行は最も難易度が低いとされている。随行巫女は、いわば裸足の巫女の見習いで、先輩の巫女に同伴し、指導を受けながら雪中難行を修める。つまり、私も裸足で雪山を下りることになる。

「ご説明していた通り、雪中難行は文字通りの命がけです。今回の難行は比較的安全ですが、危険性はゼロではありません。覚悟の上でお越し頂いているとは思いますが、静川さんはいつでも辞退が可能です。その場合は私一人で難行を行います」

 泉海さんは淡々と言う。命の危険すらある荒行を前に心の乱れが全く感じられない。まだ十九歳なのに立ち居振る舞いも非常に落ち着いており、筆者よりも年上の印象すら受ける。

 難行の危険性だが、私はもちろん覚悟を固めて取材に来ていたし、今更辞退などする気はなかった。しかし、不安に思うところもあった。裸足で雪山から下山することになるが、凍傷リスクなどはどうなのだろうか。壊死して指が落ちるなどといった話も聞くが……。

「凍傷になることはありません」

 泉海さんは即座に否定した。理由を尋ねると、

「ホムラ姫様の加護があるからです」

 と平然と言う。私が不安を覚えたのを見透かされたのか、泉海さんは説明を重ねてくれた。ホムラ姫の加護と言っても精神論的なものばかりではなく、裸足の巫女に代々伝わる対策がきちんとあるのだという。

「ご存知の通り、私は16歳で巫女となってから通年での裸足生活をしております。高校時代は10km離れた学校まで毎日裸足で登校していました。積雪の日はもちろん、マイナス10度の吹雪の日もです。雪中難行もこれで12回目ですし、問題ありません」

 泉海さんの自信は経験に裏打ちされたものなのだ。しかし、大雪の中を裸足で通学する女子高生は、相当に不思議な存在であろうが、当時はどのように見られていたのだろうか。

「そうですね……。地元の子たちは私が裸足の巫女だと知っていましたが、そうでない人たちには奇異の目で見られてましたね。可哀想だとか、頭がおかしいみたいに言われることもありました。けど、私は裸足の巫女であることに誇りを持っていますので堂々と裸足を貫きました」

 以前のインタビューでも、泉海さんは裸足の巫女としての日々を肯定的に語っていた。

「▓▓▓神社に貰われてきてから、私はずっと裸足の巫女に憧れていました。早く裸足の巫女になりたい、早く靴を脱ぎ捨てたい、と思っていましたし、16歳で正式に巫女になって、持っていた靴を全部焼き捨てた時は本当に嬉しかったです。夏に地面が焼け焦げようと、冬に雪で凍りつこうと、私にはもう靴を履くことは許されないんだ、足裏でその痛みを味わうしかないんだ、と思うと本当に幸せな気持ちになったんです」

 ホムラ姫を祀る神社では、しばしば身寄りのない少女を養子として招き入れ、裸足の巫女へと育て上げる。泉海さんもそのような巫女の一人だった。巫女は村中から敬愛され、大切に育てられるという。

 私は泉海さんに足裏を見せて欲しいと頼んだ。先程、ちらと垣間見えた時に、彼女の足裏が酷く焼け爛れているように見えたからだ。

「どうぞ、どうぞ。ぜひ御覧ください」

 泉海さんは先程までの大人びた態度から一転して少女の顔に変わると、ニコニコと嬉しそうに足裏を晒してくれた。やはり焼け爛れている。全面的に赤黒く爛れて皮膚が焼け落ちているが、時間の経過により、部分的にカビのように白く変色しており、見た目はかなりグロテスクだ。

「うふふ、良いでしょ! 一週間前に札幌のホムラ神事に参加させてもらったんです。全治一ヶ月の火傷を負いました!」

 足裏の火傷をまるで宝物のように自慢してくる。泉海さんのように育てられた生粋の裸足の巫女は、他のホムラ神事にも頻繁に呼ばれるという。最近は巫女の希望者が増えてきたが、彼女が巫女になりたての16、17歳の頃は、複数の神社からひっきりなしにオファーが来て、泉海さんを取り合っていたという。

「私のような巫女に拒否権はありませんので、行けと言われた神事には全て参加しました。もちろん私としても喜んで参加していました。巫女はきれいな足の裏で神事に臨むべきとされていますが、私が16歳の頃はどこも巫女不足で……。特例で、足裏がズタボロでも参加して良い、と言われて。二ヶ月の間に七つの神事に参加したこともあるんですよ。16歳の時の私の足の裏、もう本当にメチャクチャでしたよ。あの頃が懐かしいですね」

 嬉しそうにキャッキャとその時のことを語る泉海さんを見ていると、私もだんだんと彼女の火傷が羨ましく思えてきた。当然ながらまだ酷い痛みが残っているという彼女だが、その足裏で明日の雪中難行に挑むのかと尋ねると、「当たり前じゃないですか」と嬉しそうに言う。

「雪中難行は極めて危険な荒行ですが、私、もう12回目だし、普通にやったら刺激が足りないんです。焼け爛れた足裏での雪中難行、どうなっちゃうのか分からなくて、本当に楽しみです!」


■裸足で雪山の中に置き去りにされる

 翌朝、極寒の中で井戸水による禊を行った後、私は小袖と緋袴の巫女姿へと着替えた。泉海さんの助言により、小袖の下には様々な防寒着を着込んだし、袴の下には足首まで覆う保温性の高いレギンスを履いた。だが、もちろん足下は裸足だ。傍から見えなければどんな防寒対策をしても構わないが、裸足だけは絶対だ。

 かなりのボリュームの朝餉が出された。残さず平らげるようにと指示される。特徴的なのは小皿に入った白い豆のようなもので、穂村丸(ほむらがん)と呼ばれる一種の携帯食だ。雪中難行ではこれが命綱だと泉海さんは言う。動物性の油を煮詰めて作ったもので、妙なえぐみがあり、苦く、しょっぱく、箸の進むものではない。だが、確かに体の中から熱量のようなものが生まれるのを感じる。「ものすごい高カロリー食なので、日常的に食べると太りますよ」と泉海さんは言うが、これを日常的に食べたい人などいるのだろうか?

 九時過ぎに境内で豊祈祭が開始される。他のホムラ神事と比べると見学客の数はおとなしめで、ほとんどが村民だ。ホムラ神事の「追っかけ」はほんの数人しか来ていない。雪中難行は非公開だからだろう。その数少ない追っかけの一人であるAさんは、私がまた巫女として参加していることに驚いていた。「静川さんもすっかりホムラ神事にハマっちゃったねえ」。Aさんに言わせれば、私のように興味本位で近付いてどっぷりハマってしまう女の子が結構いるのだという。

 豊祈祭はあっさりとしたものだった。神主の祝詞の後、泉海さんが巫女舞を披露し、畑に鍬を入れる様子を儀式的に再現して終了だ。三十分程のごく短いもので、最後に私と泉海さんが目隠しをされ、皆が見守る中、輿に乗せられて送り出された。

 私たちは神社から少し離れた空き地に降ろされて、車に乗り換えるように指示される。昔は村の男衆が総出で輿を運んでいたが、今は村の高齢化も進んでおり車を使っているという。車中では私たちはずっと目隠しをされたままだ。これから雪深い山の中に裸足で放り出されるのかと思うと緊張を覚える。行きの車中で神主さんは何度も、

「静川さん。今なら辞めれます。取材でしたら無理せずとも、戻ってきた泉海に聞けば良いんです」

 と忠告してくれたが、私は自分の身体でぜひ体験したい、そうでなければ得られないものがあるはずだと言い張った。後で分かったことだが、神主さんは私が足手まといになることで泉海さんに危険が及ぶことを危惧していたらしい。

 その泉海さんは今からの苦行が待ち遠しくて仕方ないといった様子で、声を明るくしながら私に説明してくれた。

「雪中難行はとても危険な苦行なので、日頃の準備が大切なんです」

 真っ白な雪景色の山の中に放置されれば、当然ながら下山ルートなど分からない。そこから何とかして下山するには、普段から山に親しみ、山の地形を身体に覚えさせるしかないという。

「子供の時から山には毎日のように登ってました。夏の日も雪の日も。歳を取るごとにどんどん高くまで登って、山中で一泊することもありました。庭のようになるまで山に親しまないと雪中難行は成し遂げられません」

 巫女になって最初の雪中難行が最も危険で死亡率も高いというが、泉海さんはそれも危なげなく成し遂げたという。歴代の裸足の巫女の中でも泉海さんはかなり才能があるようだが、最近では雪中難行にもやや物足りなさを感じ始めたという。神主さんが困ったような口ぶりでこう言った。

「先週の神事も、泉海が、全治一週間程度に抑える、雪中難行には影響しない、って話だったから許可を出したのに、約束を破って全治一ヶ月の火傷を負って帰ったんですよ。あんな足裏で雪中難行をするなんて前代未聞だし、さらに静川さんの世話をしながらだなんて……。正直不安ですよ。静川さん、お願いですからパニックとか起こさないで下さいね。パニック起こすと確実に二人とも死にますから」

 数時間、斜面をゆっくりと走らせた車が止まり、降りるようにと指示が出る。暖房の効いた車内から出ると、雪山の身を切るような冷たさに襲われるが、裸足の足裏に感じる雪の冷たさは中でも別格だ。泉海さんは「絶対に凍傷にならない」と断言していたが本当なのだろうか。心配になってくる。

 雪の上に立っていると、背中にずしりと重たいものがのしかかった。巫女備(みこぞなえ)と呼ばれるものだが、要は登山用ザックで、雪山で2~3日過ごすための装備が入っている。事前に泉海さんと相談しながら内容物を選りすぐったが、どう頑張っても10kg以下にはならなかった。泉海さんのザックはさらに重く15kg近くある。

 私と泉海さんは目隠しをしたまま手を引かれて、さらに数十分、山の中を歩かされた。雪を踏みしめる足裏が冷たくて仕方ない。背負ったザックの重みにも体力が削られていく。まだ始まってすらいないのに既に辛い。

ここで止まれ、と言われた後、「千数えた後で目隠しを外すように」と指示される。律儀に千を数え終わった私たちが目隠しを外すと、もうそこには人の形跡は全くない。目の前には雪に覆われた斜面と、鬱蒼と茂る木々以外には何もなかった。

 裸足の私たちは雪山の中に本当に置き去りにされたのだ。

■命がけの雪山下山

 雪を踏みしめる足裏から冷気が伝わって体中が冷える。私はたまらず両足を交互に浮かせて少しでも雪から足裏を逃そうとする。

 泉海さんの勧めで穂村丸を口に含む。これを頻繁に舐めていれば凍傷にはかからないというが……。その泉海さんは雪の上に裸足で突っ立ったまま、しばらく何かを考えていた。下山ルートが分かりそうか、と尋ねると、

「いえ、全然分かりません。とりあえず登りましょう」

 そう言って斜面を登り始めた。下山するなら降るべきではないか、と思ったが、出鱈目に降りても道に迷うだけです、と返された。

とにかく泉海さんに付いていくしかない。穂村丸のおかげか、単に慣れが来たのか、足裏の冷たさはそれほど辛くなくってきた。この調子なら案外行けるのではないか、と思っていたら、泉海さんがニコニコしながら釘を刺してきた。

「どうです? 意外と足裏、平気になってませんか? この気温なら二、三時間くらいは意外と平気なんですよ。でも、それを超えると冷たさが痛みに変わってきます。そこからが本番ですから、雪中難行、楽しんでくださいね」

 私たちは延々と山を登り続けた。二時間が過ぎた頃、泉海さんの予言通り、慣れたと思っていた足裏が急激に痛みを覚え始めた。まるで針の山を素足で進んでいるかのように、一歩進むごとに足裏がズキズキと響く。だんだん歩みの遅れてきた私に気付いたのか、泉海さんは振り返って、

「足の裏、そろそろメチャクチャ痛くなってきたでしょ!」

 と嬉しそうに言う。

「雪中難行はこうなってからが楽しいんです! しかも、私は火傷のおまけ付きですし、嬉しいな!」

 泉海さんの爛れた足の裏は雪に責められて真っ赤に腫れ上がっていた。そもそもあんな大火傷した足の裏では普通の女の子は歩くことすらできない。裸足で雪山に放置されるなんてさらにありえない。だが、泉海さんは今それを望んで味わっているのだ。

 足裏の痛みに呻きながらも歩を進め、私たちは見晴らしの良い場所へと到達した。泉海さんは眼下に広がる光景を確認し始める。下山できる可能性の高いルートを探しているのだ。「あっちから降りてみますね」と泉海さんが言うので、何時間くらい掛かりそうか、どのくらいの勝算があるのかを尋ねると、

「さあ?」

 と、楽しそうに笑って言う。

「とりあえず丸一日は歩くと覚悟して下さい。勝算は30%くらいですかね。ダメだったら、またここまで戻ってきて他の道を試します」

 泉海さんの言葉に私はゾッとした。二時間強、歩いただけで、もう足の裏は限界に近い痛みを訴えている。これを少なくとも後一日……。耐えられる自信がない。しかも本来なら巫女はたった一人でこの難行に挑むのだ。最も難易度が低いとされる初春の雪中難行ですらこれなのだから、真冬に行われるという難行はどれ程の苦行なのだろう……。

「でも、降りる前に一度、足の裏を温めましょう」

 泉海さんに指示されて、私は痛む足を必死に引きずって枯れ枝を探し回った。私が何とか一束集めて持ってきた頃には、泉海さんは既に十分な枝を集めており、それを井形に組み合わせていた。

 慣れた手付きで火を熾した泉海さんは、ザックから取り出した防水シートを敷いて、私と二人で並んで焚き火の前に座った。雪中難行では二時間に一度は火を熾して、足裏を温めながら進むのが肝要だと予め説明を受けていた。凍傷対策の一環であり、医学的にも正しい。火を前にして泉海さんは「最初のお楽しみタイムですね」と声を明るくし、私に小袋を手渡してきた。

 小袋の中身は瓶に入った液体で、黒くどろりとしている。例の、毒草を油に浸して作った毒油の一種で、足裏を凍傷から守る神秘的な力があるとされている。科学的な裏付けはあやふやだが、巫女を凍傷から守ってきた実績は無視できない。冷え切った足裏に油を薄く塗ると、ズキズキとした痛みに痒みを伴う不快感が加わった。

 その足裏を炎に近付けると、足裏の痛みと不快感が数倍に膨れ上がって私を苦しめた。脂汗が全身から溢れ出し、体が震え出す。痛みだけではなく、得も言われぬ異様な気持ち悪さが足裏から全身に這い上がってくるが、それでもしっかりと足裏を温めなければ危険だと聞いていたので、私は無理をして足裏を炎に晒し続ける。

 泉海さんはと言えば、私の隣で足裏に油をたっぷりと塗りたくっていた。そして、ニコニコしながら焚き火へと足裏を近付けたが、その瞬間に、

「あッ! ああッ、あッ、あああああアッッ!」

 悲痛な叫びが泉海さんから漏れた。焼け爛れた皮膚が雪で凍り、それが熱により解凍された時に皮膚組織を傷つけて、凄まじい激痛を生じさせたのだ。

 泉海さんは先程までの余裕ある態度を一変させて、痛ましい悲鳴と共にガタガタと体が震え始める。整った顔も痛みのあまりにひどく歪むが、それでも泉海さんは自分の体を抱き、必死に耐えながら足裏を炎に晒し続けた。今すぐにでも炎から逃げ出したくなる両足を無理矢理に押さえつけて、むしろじりじりと焚き火の方へと近付けていく。獣じみた悲鳴を上げながらも、泉海さんは足裏を炎から逃さない。私よりも遥かに凄まじい苦痛を味わいながらも、十分以上もの間、泉海さんは耐え続けた。凍傷予防のためとはいえ、とんでもない苦行だ。

 ようやく焚き火から足を離した泉海さんは、防水シートの上に倒れ込み、ああ、とか、うう、とか力ない呻きを漏らしながら、びくびくと震え続けた。目を見開き、口からはよだれを垂らしながら、今も足裏に生じているであろう痛みを心ゆくまで味わっている。同じように処置した私がそれでもまだ座っていられることを思えば、彼女が追加で用意した「全治一ヶ月の火傷」の効果はてきめんだったと言える。あの火傷は泉海さんの期待通りに、この難行をさらに過酷なものへと変えていた。

 泉海さんは震えながらもニターッと嬉しそうに笑った。

「うふ……ふ…………辛い……痛すぎる……。耐えれないくらい……苦しい……この苦しみを……あと何回、味わえるんだろ……」

そんなことを言いながらも体を震えさせ続けている泉海さんを見て、こんな調子で下山なんて本当にできるのだろうか、という不安が私の心をよぎった。だが、同時に、これほどの苦行を望んで行っている泉海さんへの、憧れのような感情が微かに生まれ始めていた。


■切り立った崖が絶望をもたらす

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【ホラー】関東地方のある神事について【足裏○問】

前作 → https://ci-en.dlsite.com/creator/19615/article/1055851




 このドキュメントは、ある女性記者のPCに残されていた未発表原稿である。

 †

 前回、筆者は▓▓県▓▓▓村に伝わる奇祭、火叢祭の様子を読者諸氏にお伝えしたが、今回もホムラノホマレヒメ神にまつわる奇祭をレポートしたいと思う。前回は九州地方だったが、今回は北関東の▓▓県にて執り行われている神事であり、このことからもホムラ姫信仰が広く日本各地に広がっている状況がお分かり頂けると思う。

 今回の記事だが、火叢祭の際に懇意となった見物客の方から、「独特の取り組みを行っている高校がある」との情報を得たのが取材のきっかけとなった。仮にAさんとしておくが、Aさんはホムラ姫の神事を熱心に追いかけており、各地を飛び回って写真撮影を行っている。そのAさんが一枚の写真を見せてくれたのだが、そこにはセーラー服に裸足で火渡りを行う女子高生の姿が写されていた。

 その方いわく、これは神事ではなく学校行事とのことだが、それは逆に興味深い。ホムラ姫神事がハレの場を飛び越えて、一般の生活圏にまで既に入り込んでいるような感覚を私は覚えたのだ。

 写真をよく見ていると不思議な点が見つかった。写真には他の生徒たちも写っていたが、彼らは裸足ではなく靴下のようなものを履いていた。その点をAさんに尋ねてみたが、彼にも細かな事情はよく分からないという。ここの学校名を教えてもらい、▓▓県▓▓▓▓高校へと連絡を取ったところ、すぐに返信があり、生徒会長が取材に応じてくれることとなった。


■学校主催の火渡り行事

 実際にお会いして驚いたのだが、生徒会長の宗上沙千佳(むなかみ・さちか)さんはあの写真の御本人であった。(著者注:宗上沙千佳さんからは実名を出して欲しいと頼まれています。調べればすぐに行き当たることですし出しても良いかと考えますが、シリーズの統一性もあると思いますし、編集部のご判断をお願いします)

 写真を見せたところ、沙千佳さんは「私で間違いありません」と言って朗らかに笑った。あの学校行事について尋ねると、沙千佳さんは用意してくれていた資料を開いて、やや時代がかった写真をみせてくれた。それは火渡りをする高校生たちの写真でタイムスタンプは一九九二年となっている。

「火渡りはこの頃から当校で行われています。元々、一九八〇年頃まで当地の神社で行われていた神事だったのですが、神社が廃れてしまい……それで文化保全を目的に、生徒有志が始めたようです。その翌年から学校の公式行事となっています」

 多くの生徒が靴下のようなものを履いているが、それは何なのだろうか?

「それに関しては、火渡りを開始した当時の生徒の手記が残っています。普通の火渡りって火傷しないですよね? でも、神社に伝わる文書にしたがって、その通りに準備すると、明らかに足裏を火傷する火力になってしまったんです。で、困ったな……って話になって。彼らは文化保全が目的でしたから、文書の通りにやりたい。でも、そのままだと火傷しちゃう。そこで彼らはこう考えたんです。靴を履けば良いんじゃないか、って」

 沙千佳さんはそう言っておかしそうに笑った。

「神社の文書には火渡りする修道者の方には何も言及されていない、必ず裸足でやれなんて書かれてない、靴を履いていいんだ、とか言うんです。笑っちゃいますよね。書かれてないっていうか、裸足でやるのが当たり前だからわざわざ書かなかっただけですよ」

 確かに靴を履いて火渡りをすることに意味があるとは思えない。当時の有志たちの間でも議論は割れたらしい。

「当時、中心的メンバーだった香山美佳さんという高校一年生の女子が猛反発したらしいです。文化保全を目的にやるんだから、ちゃんと以前の形でやらないと意味がない、過去の写真などを見ても当然ながらみんな裸足でやっている、私たちも裸足でやるべきだ、と。まぁ、当たり前ですよね。……で、喧々諤々の議論の末、流石に靴はやめよう、でも裸足は怖いし……ってなって、折衷案として、底の厚い布足袋を履くことになったんです。で、それが今でも続いてるわけです」

 写真の靴下のようなものは布足袋だったのだ。

 この布足袋を履いて、直前に水溜まりを踏んでから火渡りをすると、多少の怖さはあるものの火傷することはまずないという。では、なぜ沙千佳さんは裸足で火渡りをしていたのか?

「もちろん裸足でやらないと意味がないからです。香山さんも初年度は渋々従ったそうですが、翌年、学校行事として火渡りが行われた際に、自分の番の直前で足袋を脱ぎ捨てて、彼女一人だけ裸足で火渡りしたそうです。全治二週間の火傷を足裏に負いながらも毅然として立っていた、と記録にありますね。その香山さんの伝統が今も続いているわけです」


■学校は裸足を禁止しているが……

 では、学校側は裸足での火渡りを推奨しているのかと言えば、全くそんなことはなく、むしろ禁止しているという。

「生徒が怪我するような行事は、学校としては手放しで認められないのでしょう。香山さんはメチャクチャ怒られたし、一部の生徒たちも、せっかく復活させた神事がまた廃止されてしまう、と香山さんにキツく当たったみたいです。でも、香山さんは平然と聞き流して……。学校側から、罰として、足裏が治り次第、河川敷を二〇km走るように、と伝えられたのですが、香山さんは、分かりました、と言って、すぐに立ち上がって……」

 なんと、火傷した足で裸足のまま河川敷を走り出したという。

「河川敷には砂利道があるんですが、わざわざその上を走り続けたんです。四時間かけて走り切った、と書かれています。最初は香山さんに批判的だった生徒たちも、最後は砂利道に並んで香山さんを応援したそうです。すごい話ですよね」

 沙千佳さんはDVDをデッキに差し込み、再生した。それは今年の火渡り行事の様子だった。白い布足袋を履いた生徒たちの中で、沙千佳さんと何人かの女子だけが堂々と肌色の素足を見せつけている。

「火渡りに裸足で挑むのは毎年女子の十数名だけです。なぜか男子は全くやりません。空手部、剣道部、応援団の女子で裸足になる子が多いですが、文化部や帰宅部の子もやります。裸足になる子は毎年裸足でやりますね」

 映像に映る裸足の女の子たちは、みんな楽しそうで、明るい笑顔を浮かべている。火叢祭の際の裸足の巫女たちも火渡り前には同様の笑顔を浮かべていた。

「学校側からは、必ず足袋を履くように!と言われてますよ。でも、それを無視して裸足で挑む女の子たちはやっぱりカッコイイんです。自分で言うのも何ですけど、後輩女子からも尊敬の眼差しを向けられますし、男子たちの間でも一目置かれます。私が生徒会長に選ばれたのも、毎年、裸足で火渡りをしているのが大きかったと思います」

 ▓▓▓▓高の歴代生徒会長はほとんどを女子生徒が占めているが、彼女たちはみな裸足で火渡りを行っていたという。

「火渡りの後、裸足の女子たちは先生に名前を呼ばれて集められて、和を乱したことを全校生徒の前で叱責されます。正座させられ、反省を求められ、来年はやらないと誓えと言われますが全員拒否します。すると、罰として、火傷が治り次第、河川敷を走れと言われるので、すぐに立ち上がって全員で河川敷に行き、裸足のまま二〇kmを走り出します。毎年お決まりの一種の演劇ですね。砂利道の周りに生徒たちが立って応援してくれるのも毎年の光景です」

 当たり前だが、火傷した足裏で砂利道を走る苦痛は筆舌に尽くしがたいという。

「火に炙られて脆くなった皮膚が砂利に削られますから。三kmも走ればもうズタズタですよ。足裏のマメが破れたら痛くて歩けなくなるじゃないですか。あれが足裏一面で起こってるのに、その痛みに耐えながら砂利道を走り続ける感じです。香山さんは四時間で走り抜いたと手記にありますが、すごいですよね。四時間で走れる子なんてほとんどいなくて、私は毎回六時間くらい掛かっちゃうかな……。後半はずっと泣き喚いてますね。八時間経っても完走できなかったら強○終了なんですけど、これはとても恥ずかしいこととされています」

 それにしても、なぜ沙千佳さんたちは裸足の火渡りに積極的に挑んでいるのだろうか。文化保全という目的だけでは、やや理解し難い程の積極性に感じられるが……。

「えっと、変な子だって思われそうなんですけど」

 沙千佳さんは、はにかみながらも答えてくれた。

「楽しい……んですよね。みんなから尊敬の眼差しを向けられる、っていうのも少しはあるんですけど、そこは全然本質的じゃなくて。単純に楽しいんです。火渡り直前のドキドキ感もすごく楽しいし、火傷した足の裏がズキズキ痛むのも嬉しいんです。お茶をこぼして手とかを火傷した時は単に辛いだけなんですけど、足の裏が痛いのはニヤニヤしちゃうっていうか。いや、メチャクチャ痛いんですよ。痛いのになぜか嬉しいんです。火傷した足の裏で砂利道走ってる時も泣き喚く程に辛いのにずっと嬉しくって。二〇kmと言わず一〇〇km走らせて欲しい、三日三晩走らせて欲しい……そんなふうに思っちゃいます」

 沙千佳さんは当時の苦痛を思い出しているのか、本当に幸せそうにそう語った。

「足裏がズタボロになるのも嬉しいんです。砂利道を走った後、裸足になった子が集まって、お互いの足の裏を見せ合いっこするんですが、どの足裏も火傷して皮が剥げ落ちて……ボロボロで本当に愛しくって。私が今味わってる足裏の苦痛をみんなも味わってるんだなって思うと、たまらなく幸せな気持ちになるんです。私の足の裏もみんなの足の裏ももっともっとボロクソになればいいのに、って。……たぶん、静川さん、今、変な子だなって思ってますよね(笑)」

 私は否定したが、沙千佳さんはクスクスと笑った。

「いや、しょうがないんです。こればっかりはやらないと分からないんですよ。そうだ、静川さん、今週末に隣県の▓▓神社で火村巫女舞祭(ほむらみこまいまつり)ってのがあるんです。私、それに参加するんですけど、良かったらご一緒しませんか? 名前から分かる通りホムラ姫の神事です。静川さん、ホムラ姫神事を取材されてるんですよね? これはかなり安全な部類だと思うので、一度体験されてみてはいかがですか」

■巫女舞神事への参加

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