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うんすじの記事 (18)

おかず味噌 2020/09/27 16:00

ちょっと悪いこと… 第二十話「彼の視点 ~追憶と願望~(2)」

(第十九話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/371294


「四つん這いになって」

 僕は結衣にそう「指示」した。「脱がせる」だけなら「そのまま」でも充分であるはず――。にも関わらず、僕はあえて彼女に「体勢を変える」ことを「要求」したのである。
 言われた通り、結衣はベッドから身を起こし、それから「焼いた肉を裏返す」みたいに百八十度「反転」し、「手」と「膝」を突き「腰」を浮かせた。ちょうど結衣の「尻」が突き出された「格好」である。
 結衣は僕の「提案」に、何の「疑い」も「不審」も抱いてはいないようだった。その時まだ彼女は――、この後にどのような「羞恥」が(あるいは「お漏らし」さえも凌ぐような)待ち受けていようかなど、知る由もなかった。

 結衣の腰に手を回し、「肌」と「布」との境界に手を掛ける。そして、そこから「ゆっくり」と、だが一気に「ずり下ろす」――。

 締め付けられた「黒タイツ」と「パンティ」の「反動」で、「ぷりん」と「小気味」良く、結衣の「尻」が現れる。僕の「眼前」に、僕の「鼻先」に――。
 結衣の「尻」はとても魅力的だった。やや「褐色」で小振りの「尻」。程よく引き締まり、けれど「柔らかさ」は失わず、触れた手にちょうど「しっくり」と収まるような彼女の「お尻」。微かに付いた「下着の跡」とそれに沿うように「くっきり」と分かれた肌の色の「境界線」。さらにその中央に「ぱっくり」と刻まれた「尻の割れ目」。手で「こじ開ける」ように開くとそこには「きっちり」とすぼめられた「肛門」が待ち構えていた。

 それこそが僕の「待ち望んだ」ものだったのだ。「剥き出し」になった結衣の「下半身」。当然そこにはやはり露わになり、今や「涎」を垂らし盛大に潤っているであろう彼女の「性器」もあった。だが僕の興味は「そちら」には向かわず、あくまで「こちら」にのみ「収束」した。

 まずはじっくりと「観察」してみる――。
 肉の「双丘」に阻まれ隠されていたためか、「谷間」のその「一帯」は「陽の光」が当たらず、やや「薄い色」をしている。まさに「不毛の地」ともいえる地域には、文字通り「尻毛」が生えることもなく「まっさら」だった。
 そして、結衣の「アナル」。あるいは「クレーター」を思わせるその「穴」はけれど、「窪む」のではなくむしろやや「盛り上がり」、そこには「山脈」のような「皺」が無数に刻まれている。彼女の「力の入れ方」のほんの些細な「違い」によって、彼女の「肛門」はまるで「呼吸」をするみたいに、若干「閉じたり」「開いたり」を繰り返す――。

――なんて「綺麗」なんだろう…。

 ある種の「生命の神秘」を感じさせるその部分に、僕はただただ「感嘆」するしかなかった。
 本来の「用途」について考えたとき、紛れもなく「不浄の穴」に過ぎないそこはけれど、むしろ「性器」よりも「清純」で「清廉」であるように思えた。彼女はきっと、「こちらの穴」においてはまだ一度の「侵入」も許していないのだろう。確かにそう思わせるほど、彼女の「尻穴」はきつく「引き結ばれ」、「堅牢」な「構え」を見せるのだった。
 だからこそ――。「守り」が「強固」であるからこそ。その「歴史」を「不敗神話」に彩られているからこそ。それを「侵し」、「犯したい」と思うのがやはり「男」というものである。その時すでに僕の「心」は決まり、「照準」は定められていたのだ――。

 だがそこで僕は「寄り道」をした。とはいえそれは、あくまで「視線」においてのものだったのだが――。
 結衣の「尻」から伸びた「脚」。膝をついたその「太腿」には、僕がずり下ろし、「途中」で「そのまま」になった「黒タイツ」と「パンティ」がある。
 僕はふと、この期に及んで「それ」が気になった。これまで彼女の尻を包み、覆い隠していたその「布」に、今さらながら強い興味を惹かれたのだった。

 僕は結衣の尻から手を離し、足元に「留まった」ままのそれに手を伸ばした――。
 脚に掛かった「脱ぎ掛け」のパンティの「内側」を広げ、こっそりと「裏地」を確かめてみる。「おしっこ」と「愛液」の「染み」についてはもはや言うまでもなく、そこには――、

「ばっちり」と「ウンスジ」が描かれていた。

 結衣のパンティは「黒」で――。「黒」とはそもそも、全てを「塗り潰す」色だ。にも関わらず、彼女の穿いていたその「黒」に「茶色いもの」が「こびりついている」のが、「はっきり」と見て取れた。その「正体」が何であるかはもはや言うまでもない。それは結衣の「うんち」であるに違いなかった。

 まさかとは思っていたが、その「まさか」が「的中」した。結衣はあろうことか、自らの「下着」に。「液体」のみならず――「固形物」とまではいかないまでも――微かではあるが「固体」の「カス」を付着させていたのだ。
 その「汚れ」を認めて、僕はすっかり「萎えてしまった」――のではなかった。というよりむしろ、その「事実」は僕をより「高める」ものだった。

 僕は「嗅いで」みた。結衣の「尻穴」を、その「周囲」を。何だか「いやらしく」、「素敵な香り」がすることを期待して――。だが「予想に反して」というか「予想通り」というか、結衣のそこは――、

 とても「うんちクサかった」。

「鈍器」で殴られ、「脳天」を穿つような「衝撃」があった。紛れもない「うんち臭」が僕の鼻腔を満たしたのだった。
 結衣は「大」をした後、「拭いていないんじゃないか」と思えるほどに。「拭く女子」ではなく「拭かない女子」かと思わせるほどに。あるいは、元々「アナル」が「緩い」のだろうか。
 いや、そんなはずはない。顔をより「近づけた」ことで、今や僕のすぐ「眼前」にある彼女のそこは相変わらず、「外部」からの「侵入」のみならず「内部」からの「脱出」を決して許さぬよう、「丁寧」に「引き結ばれた」ままだった。
 そこから「出ずるモノ」の「予感」も「気配」すらもなく、まるでそうした「穢れ」からは無縁であるみたいに、結衣の「肛門」は「キレイ」だった。だが。やはり僕の「認識」は誤っていたのだろう。「『女性』=『キレイ』」という、ある種「信仰」じみた僕の考えは。「だから」「であるべき」で結ばれる「等式」はけれど、「反証」によって「覆された」のである。そして、やがて次の「一撃」によって――、「覚醒」へと至ったのである。

 僕はいよいよ、結衣の「アナル」を「舐め」に掛かった。自分の「消化器官」の「始点」が、彼女のそれの「終点」に触れることに少なからず「抵抗」と「忌避」を感じつつも、すでに「麻痺」し掛けていた僕の「脳」はもはやすんなりとそれを「受け入れた」のだった。

「シャワー」を浴びていないのだから、ある程度は仕方ないのかもしれない。だがそれだけでは「説明」がつかないほどに、結衣の「肛門付近」には「ヌルヌル」とした「舌触り」があった。かといって「形」があるわけではない。あくまで「視認」できない「正体不明」の「何か」であった。
「腸液」なのか、あるいは「うんちのカス」なのか、どちらにせよ本来「味わうべきでないもの」を、舌で「舐め取り」、「こそぎ落として」ゆく――。「唾液」で「洗い落とす」ことで「キレイ」にしてゆき、それと共に彼女の「そこ」は少しずつ「開いて」いった――。

 結衣が何かを「堪えて」いるのは分かった。僕の舌が「触れる」度に、彼女の「尻」があるいは「全身」が微かに「震える」様子が見て取れた。
 僕は彼女がまた、「おしっこ」が「漏れそう」になっているのかと思った。与えられた「刺激」によって、再び「我慢」が「出来なく」なりそうなのかと――。
 だが、それは違った。彼女が「出そうなモノ」は「おしっこ」ではなかった。それは「液体」ではなく「気体」だったのだ。

「ちょっと、止めてください!恥ずかしいですよ…」

 結衣は今さらながら、「アナル舐め」に「拒絶」を示した。その「行為」を「中断」し「中止」させようと、僕の「頭」を手で「押しのけよう」としてきた。彼女は自分の「肛門」が「汚れている」ことを、そこを「汚してしまっている」ことに「心当たり」があるのかもしれない。「気づいていない」のかと思っていたが、実は「気づいている」のだろうか。そう感じさせるほどに、彼女の「抵抗」は――あくまで「建前」としての「演技」ではなく――まさに「真に迫った」ものだった。
「『うんち』の付いた『アナル』」を「舐められる」のが恥ずかしいのだろうか。当たり前だ。それこそ僕は「お構いなし」だったが、普通は「舐める側」も拒否して然るべきである。
 彼女の「羞恥」と「拒絶」の理由は――、けれど違っていた。それは新たにもたらせられる、さらなる「放出」に対するものだった。

「本当に嫌なんです!!」

 結衣はもう一度だけ、今度ばかりはより「強い言葉」で、はっきりと「意思」を表明した。だが、それでも僕がそれを「止める」ことはなかった。僕の「唾液」によって、すっかり「洗い清め」られた「そこ」を舐めるのを「継続」した。そして、ついに――。

――ブボッ!!

 と。盛大な「破裂音」と同時に、僕の顔に「ガス」が吹きかけられた。
 僕は当初、ついに結衣は「やってしまった」のだと、「おしっこ」のみならず「うんち」を「漏らして」しまったのかと思った。だがそうではなかった。それは「実体」を持たない、やはり目に見えぬ「気体」であった――。

 結衣が「おなら」をしてしまったのだと、僕がそれを知るのに「数秒」を要した。それほどまでに「唐突」に、「突然」に、それは行われたのである。
 とはいえ。たとえ予期せぬ「放屁」であったとしても――、「避ける」ことは不可能でもすぐに「逃げる」ことくらいは出来たはずだった。けれど僕はそうしなかった。むしろ、少しも「躱す」ことなく、口を開けたまま「真正面」から結衣の「放屁」を浴びたのだった。

「暴発」であり「爆発」――。
 一瞬にして、僕の「口内」が結衣の「体内」の「空気」によって満たされる。「アニメ」なんかでよくある「爆発シーン」の描写のように、「鼻」からも「耳」からも「噴き出し」そうになりながらも、僕はその「全て」を吸い込み飲み下した。
 結衣の「腸内」で「醸成」された「塊」。当然のことながら、それは「醜悪」な「臭気」を含んでいた。「強烈」に「凶悪」に、ある種「暴力的」ですらあるその「芳香」。彼女によって発せられた、彼女の「中」の「臭い」――僕は「温泉」を思い浮かべた――に一瞬「意識」が遠ざかりそうになりつつも、僕はそれを一心に受け止めた。

 突然の「放屁」を終えて――。気まずい「空気」が流れる。「ガス」のように決して「軽い」ものでなく、「重い」「沈黙」が――。
 何か「言わなければ」。声を「発さなければ」。そう思い、僕の脳は「フル回転」した。誤魔化すべく、沈黙を埋めるべく、やがて僕の発した「一声」は――。

「結衣の『おなら』食べちゃった」

 という、あまりに「馬鹿げた」ものだった。今にして思えば――、後から思い出せば――、何と「羞恥に満ちた」ものだっただろう。思い返しただけでも「のたうち回り」、「転がり回りたくなる」――、まさしく「黒歴史」の「誕生」である。
 自分でも、なぜそんなことを言ってしまったのか分からない。「冗談」じみた、あくまで「茶化した」物言いでありながらも、僕ははっきりと自分の「変態性」を「暴露」してしまったのだった。

「ガス」とはいえ「放出」である。「おなら」とはいえ、広義で見ればそれは「お漏らし」の一種である。「不可抗力」とはいえ、それを「許してしまった」という「既成事実」に変わりはなく。「被疑者」であり「過失者」たる、その「元凶」である結衣の「アナル」はすでに「開いて」いた――。
 かつてはあれほどまでに「引き結ばれていた」にも関わらず。今やその部分は、すっかり「だらしなく」口を開けていた。もちろん、多少はすぐに「収縮」を始めたのが、やはり完全には「閉じ切らず」、むしろ僕を「誘う」ように――。

「もう挿入れていい?」

 僕は堪らず、そう訊いた。結衣は頷いた。だが、まさか「そちらに」とは思っていないのかもしれない。彼女はきっと「普通に」、「性器」に挿入されることを望んでいたのだろう。まだそこついては、あまり「ほぐされて」いないにも関わらず――。

「電気を消してください」

 と、結衣は言った。「明るい」ままだと「恥ずかしい」のだという。実に「女の子」らしい「反応」だったが。もはや「今さら」という感じである。彼女はすでに――、それ以上の「羞恥」を幾つも「経験済み」なのだ。それでも僕は彼女の言うとおりにした。

「暗がり」の中、結衣は僕の「ペニス」に手を伸ばしてきた。今度は「自分の番」というわけである。
 結衣はトランクスの上から僕の「ペニス」を強く握った。少しの「痛み」から僕が腰を引くと、彼女は詫びた。それで一度は手を「離した」ものの、かといって決して「遠慮」することはなく、彼女は僕のトランクスを脱がし、すでに「はちきれん」ばかりに「勃起」した僕のそれを見た。まるで「初めて」男の「モノ」を見たように、しばらく「放心」しているようだった。(あくまで「推定」であるが、僕のはきっとそれほど「大きく」はないはずなのだが…)
 やがて結衣の口が僕のペニスを頬張る。「短小」ではなく、とはいえ決して「極太」とはいえない僕のそれでも、やはり口に「含む」には多少の「無理」が生じるようだった。

 結衣の口が「前後運動」を開始する。彼女の「口内」と「舌」によって、僕のペニスに「刺激」と「快感」がもたらせられる。
「気持ちいいですか?」
 彼女は訊いてきた。あくまで「自信なさげ」に、僕の「快感」について問うように。
 確かに彼女の「フェラチオ」は「及第点」には程遠かった。恐る恐る触れる「唇」はくすぐったく、唾液を「すする」たびに時折当たる「歯」は痛かった。
 あるいは彼女にとってその「行為」は「初めて」なのかもしれないと思った。普通に「あり得る」ことだ。かつての「彼氏」や「相手」がそれほど性に「貪欲」でなければ――、それを経ずにあくまで「手淫」と「挿入」のみに終始していたとしてもおかしくはない。だとすれば、僕はまた一つ彼女の「初めて」を奪ったということになる。それはむしろ「光栄」なことに思えた。

「めっちゃ気持ちいいよ」
 僕は答える。多少の「配慮」も「ヨイショ」もやむを得なかった。あくまで結衣を「その気」にさせ、「乗せ」続けるために。この場において僕は「皮肉屋」に、エラそうな「批評家」になるつもりはなかった。それに。彼女の「ぎこちなさ」もそれはそれで、あるいは「初めて」によるものなのだとしたら――、いささか「新鮮」であるようにも思えた。

「もう、大丈夫だよ」
 僕は言った。「固辞」するためのものでなく、次なる「ステップ」に移るための「糸口」として――。
 いくら「単調じみた」ものとはいえ、さすがに「危ない」ところだった。結衣の「口」と僕の「ペニス」が触れ合う音。彼女の「唾液」と僕の「カウパー」が混ざり合う音。もはやそれだけで、僕は「達して」しまいそうだった。
 だが、そうするわけにはいかない。まだここで「無駄打ち」してしまうわけにはいかない。今夜こそ「最後」まで――、それに至るために僕は何とか「暴発」を必死で堪えたのだった。

 僕は再び、彼女をベッドに押し倒す――。

「結衣」
 僕は彼女の「名前」を呼ぶ。確かめるように、最後の「同意」を求めるように。書面への「捺印」を、あるいは「署名」を、それによる「契約」を交わすために――。
 彼女は何も言わなかった。それを「同意」と受け取ることにする。やや「強引」ではあるが、むしろその方が都合が良かった。もしここで「性器への挿入」を言葉にされたならば――、「契約不履行」となってしまうことは否めなかった。
 あくまで必要だったのは「挿入」それ自体の「確認」であり、「どこに」とは言っていない。まさに「詐欺まがい」の論法である。

 僕は結衣を強く抱き締めた――。
 彼女の体は「折れてしまいそう」なほど「華奢」で、「小柄」で。僕の「欲望」を受け止めるには、少しの「頼りなさ」を思わせた。
 彼女の「肌」から、あるいは「髪」から発せられる、「石鹸」もしくは「シャンプー」の香り。あるいは「ボディクリーム」か「化粧品」の匂いだろうか。「香水」のような「強い香り」ではない。あくまで「優しく」「仄かな香り」――紛れもない「女の子の匂い」だった。
「首元」に顔を近づけて、「周囲」に漂うその「匂い」を嗅ぐ。思いきり吸い込む。僕の鼻腔が「結衣の体温」で満たされる。少しも「不快」ではない。むしろ、どこか「落ち着く」ような、けれど同時に「焦燥」を駆り立てられるような――。

 だからこそ、僕は「混乱」した。「不思議」でならなかった。そんな「素敵な香り」を漂わせる彼女が――、まさに「女性らしさ」を思わせる彼女が――、日々「排泄」を繰り返しているという「現実」が。「拭き残し」によって「肛門」を汚し、さらにはその「穢れ」をパンティにまで付着させているという「事実」が。今目の前にいる彼女と、ついさっき見知り「嗅ぎ知った」彼女とを結びつけるのに、「齟齬」が生じるのだった。

 結衣のパンティに刻み込まれた「ウンスジ」。紛れもない排泄の「痕跡」。
 結衣のアナル。そこから発せられる「うんち臭」。
 僕はそれを知ってしまった。彼女の「秘密」に気づいてしまった。彼女の「羞恥」なる「真実」を――。

 あるいは「普段」から、結衣はそうなのかもしれない。職場で僕と話すとき、今日のデートの最中もずっと。彼女はその黒タイツの「内側」に、パンティの「裏側」に、「うんち」を付けたままだったのだ。
 おどけた表情を見せながらも「うんち」。快活な仕草をしながらも「うんち」。恥じらいを窺わせながらも「うんち」。パンティに「うんち」。
 一体いつから、結衣はそれを「携えて」いたのか。一体いつ、「うんち」をしたのだろうか。あるいは今日はまだしていないのかもしれない。だとしたら、不意に「チビ」ってしまったのかもしれない。例えば「おしっこ」を「お漏らし」した時に、思わぬ「力み」によって「そっち」も出てしまったのだろうか。

 結衣の「排便姿」を思い浮かべた。便器に跨り、下着を下ろして、尻を突き出し、腹に力を込める様子を――。
 やがて彼女の「肛門」が盛り上がり、そこから徐々に「うんち」が顔を出し始める。
 結衣は「快便」だったろうか。それとも「便秘」気味なのだろうか。
 それは彼女の「体つき」に似合った「細い便」なのか。あるいは顔に似合わず「極太」をひり出したのだろうか。
「排便」を終えて、結衣はちゃんと「拭いた」のだろうか。いや「甘かった」に違いない。でなければ、あれほどまでに「残る」はずがない。

 結衣の「股間」からではなく、「肛門」から出る、もう一方の「排泄」。「液体」ではなく「固体」の、よりはっきりとした「実体」を持つそれに、その「行為」に。今や、僕はすっかり興味を奪われていた――。

 僕は結衣に「キス」をした――。
 最初は軽く唇を重ね、けれどすぐに「貪る」ように舌を入れた。彼女の「口」は、反対側の「口」に比べると、ずいぶん「素直」なものだった。
 彼女の「意思」によってそこは開かれ、すぐに僕を迎え入れてくれた。もちろん、不快な香りは全くない。「腸液」の代わりに「唾液」が次々と溢れ出し、僕の舌に絡みついた。「ウンカス」の代わりとなるものには――思い当たらなかった。

 僕はこれから結衣を抱くのだ。「抱く」という曖昧じみた、ぼかした言い方には幾つもの意味が含まれるだろうが。そこにはきっと、これから僕のしようとしている「行為」は該当しないだろう。それでも僕は今から彼女を「抱く」――。
 そう考えただけで、「期待」と「焦燥」から、僕の「愚息」は「ムクムク」と反応し、そこからさらに痛いくらいに「勃起」した。

 そして、いよいよ。僕は「挿入」の「準備」を開始する――。
 またしても結衣を「四つん這い」にさせる。最初からの「後背位」に、彼女は少しの「戸惑い」を覚えたようだった。だが、あくまで僕に従う。

 再び、結衣の「尻」が眼前に来る。僕の願い、求めた「アナル」もそこにある――。
 僕がそこに「指」を差し入れたのは、まさしく「必然」だった。そうすることが当然の「流れ」のように思えた。

「ひっ!!」

 と。結衣は「ヘンな声」を上げた。「驚き」からか「意外性」からか。「痛み」か、それとも「違和感」からだろうか。だが、それに構わず僕は彼女の「中」に入り、そこを指で「かき回した」――。

「ねっとり」と指に絡みついてくるような「感触」がある。それは彼女の「腸壁」と「腸液」によってもたらせられるものでありながら、「膣壁」と「愛液」のような「錯覚」を与えるのに十分なものであった。
「執拗」な「一混ぜ」の後。「一息」に引き抜く。僕の指は結衣の「腸液」で「コーティング」されていた。だが不思議なことに、「肛門周り」には、「入口」にはあれほど「付着」していたはずの「うんち」が僕の指に付くことはなかった。
 次に「二本」、やがて「三本」と、入れる指の「本数」を徐々に増やし、少しずつ「拡張」していく――。
 そうして「仕上がった」結衣の「アナル」は、すっかり「性器」と見紛うほどになっていた。


続く――。

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おかず味噌 2020/08/19 16:10

クソクエ 女僧侶編「想像脱糞 ~異なる者の抱える同じ事情~」

(「前話」はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/357380
(「女戦士編」はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247


「遅せぇよ!」

「御不浄」から「帰還」したアルテナを待ち受けていたのは――、そんな「罵声」だった。もちろん、「誰から」によるものかは明らかだ。

 鍛え上げられた「鋼の肉体」。それを「誇示」するように晒された「褐色の肌」。面積の少ない「布」によって唯一隠された「部分」は、アルテナにはわずかに及ばないまでもやはり圧倒的な「膨らみ」を湛えている。むしろ「隠されていない」分、より「直接的」に男性の「欲望」を刺激し「欲情」を駆り立てる。整った顔立ちは――「系統」こそ違えど、やはりアルテナと同じく――、間違いなく「美人」と称されるべきものであった。

 そうした幾つもの「共通点」を持ちながら――。けれど「両者」の「性質」は、実に「対照的」だった。
 それは何も「職業」のみに起因するものではなく。「性格」や「性分」、そこから派生する「言葉遣い」及び「行動規範」に至るまで、そのほとんどを「異」にしていた。
 アルテナからすれば、ヒルダの「言動」は「がさつ」で「品」がなく、あるいは「女らしさ」と呼べるものとはあまりにかけ離れていた。
「聖職」に身を捧げる者として、本来であればいかなる「隣人」に対しても選好みすることなく、分け隔てなく接するべきところである。だが包み隠さず、あくまで「本音」として述べるならば――。
 アルテナは、その「女戦士」のことをあまり「快く」思っていなかった。

「おいおい、『大便』だったのかよ?」

「女戦士」は「遠慮」も「恥じらい」もなく、平気でそんなことを訊いてくる。その「無粋さ」と「不躾さ」に、やはりアルテナは「うんざり」させられた。
 だが同時に彼女は思う。此度のその「問い」はきっと、「考えなし」に発せられたものではなく、単なる「意地悪」として向けられたものなのだろう、と。
 確かに。アルテナの「滞在時間」は――「全裸にならなければならない」のを差し引いたとしても――あまりに「長過ぎ」であり、それは彼女のしていた「行為」が「小」ではなく「大」だと推定するのに十分なものだった。
 そうして彼女が口ごもったり、答えられずにいるその「反応」を見て「愉しむ」つもりなのだろう。だが、その手には乗らない。

「淑女というものは『身だしなみ』にそれなりの時を要するものなのです」

「答える」代わりに「言葉」を返す。まあ「男性」である「あなた」にはお分かり頂けませんでしょうが、と。「皮肉」を付け加えることも忘れない。

「へぇ~、『淑女』である『聖女様』はケツを拭くのにも時間が掛かるってわけかい?」

 ヒルダも負けてはいない。「揚げ足」を取り、勝手な「解釈」を付け加えることで、アルテナを追い込み、彼女を逃すまいとさらなる「問い」を仕掛けてくる。
 だが、それはあまりに「的外れ」な追求だった。むしろ――、

――「出てくれれば」、どれだけ良かったことか。

 半刻前。アルテナは確かに「便意」を催していた。だからこそ、わざわざ「パーティ」を待たせてまで「御不浄」に向かったのだった。今しかない、と。今ならきっと…、と。微かな「希望」と「予感」を抱いて、「行為」に臨んだのだ。
 だが「蓋」を開けてみれば――。(まさしく「蓋」を開くべく、衣服と「下穿き」を脱ぎ去り、「便器」に跨ったのだ)
 それでもやはり「出なかった」。最後の「門」さえ開かれたものの、そこから「出るべきもの」は何も通過せず。「代わり」とばかりに、数発の「ガス」がかろうじて発せられたが、それでお仕舞い。あとはどれだけ「きばって」みても、「息んで」みても、まさに「うん」ともすんとも言わなかった。
 あれほどまでに「確信」を伴っていた「便意」は一体どこに消えたのだろうか。もう「五日」も出ていない「ブツ」は確実に腹の中にあり、「出したい」という欲求はあるにも関わらず、けれど「出る!」と思い「出す」準備が整った途端、それは見事に「引っ込んで」しまう。なんと「憎らしく」、「罪深い」ことだろう。
 結局、アルテナは今回も「排便」を遂げること叶わず、「ついで」とばかりに「排尿」だけを済まし、「時間」に見合わぬ「成果」ばかりを得て、「敗走」してきたのだった。

 そんな彼女の「葛藤」と「格闘」も知らずに、さも「女戦士」は「大量(大漁)」であったかのように宣っている。アルテナは「苛立ち」を覚えた。
 そもそも普段の「食生活」から鑑みて。宗教上の理由から、そうでなくとも「美容」のため、それなりに「節制」し、主に「菜食中心」のアルテナと。
「食事」はあくまで「力の源」と、あるいは一つの「娯楽」として考え、「暴飲暴食」を厭わず、好きなものを好きなだけ食べ、主に「肉食中心」のヒルダ。
 やはり「食生活」においても対照的な「両者」において。どうして自分ばかりが「便秘」に悩まされるのか。さらには――「運動量」の違いもあるだろうが――どうして自分ばかりが「体型」を気にして尚、日々余分な「脂肪」に苛まれているにも関わらず。彼女の方はそんなことを意にも介していない様子であるのに、決して「太る」ことがないのか。そんな「不平等」と「不条理」に納得がいかず、ここでもアルテナは「神の不在」を感じざるを得なかった。

 それでも。アルテナはこのまま「無言」を、「無回答」を貫くわけにはいかなかった。ここで「何も答えず」にいるということはつまり――、彼女は「認めて」しまうということになる。出てもいない「大便」を、してもいない「排便」を、すっきりと終えたという「推定」を「確定」させてしまうことになる。そうすることでもはや、「勝敗」は決してしまう。(何に対する「勝敗」なのかは甚だ疑問であるし、こと「便秘」についてのものであれば、すでに彼女は「惨敗」なのだが…)
 だから、アルテナはせめて何かしら。たとえ「鼬の最後っ屁」であろうとも、何か言葉を返そうと試みた――。

「あなたのように、ロクに『拭かず』に済ませるわけではありませんから」

 苦し紛れの「反論」だった。というより、その「返し」は大間違いだった。言ったそばから、アルテナは後悔した。それではまるで、自分が「排便した」ことを認めたようではないか――。
 アルテナは「女戦士」を返答を待った。「鈍感」でありながらも、肝心のところで「鋭く」、目ざとい彼女がそれに気づかないはずはない。「じゃあ、やっぱり――」と、事実を「歪曲」したまま、彼女が言及してくることはもはや避けられそうになかった。

 だが。そこで「女戦士」はなぜか狼狽し始めた。一目でそうと分かるほど「解りやすく」、動揺しているらしかった。

「そ、そんなわけ…ないだろ!?ば、馬鹿じゃねぇの?」

 あまりに「稚拙」な返答だった。いや、そもそも彼女の言動には普段からどこか「幼稚」なところがあり、それについてもアルテナは日々「呆れ」させられるのだが。もはやほぼほぼ「論理」が帰着しているところからの、彼女の「崩壊」ぶりはまさしく異常だった。

「ちゃ、ちゃんと拭いてるし!!(あの時はたまたま拭くものが無かっただけで…)」

 後半の部分は聞き取れなかったが、「女戦士」はアルテナの苦し紛れの「反論」に対してごく丁寧に「回答」した。
 ちゃんと拭いている、と。いや、当然だ。いくら「がさつ」で「だらしない」彼女とはいえ、さすがに「排便」した後に「尻」を拭かないはずはないだろう。アルテナにだってそれくらいは分かっている。何もそこまで彼女を「見くびっている」わけではない。
 それに。もしも尻を拭かずにそのまま穿いたりなんてしようものなら――、

「下穿き」に「うんち」が付いてしまう――。

 たとえいくら「すっきり」と出し終えたとはいえ。どうしたって「肛門」は汚れてしまうものなのだ。それは避けられない。たとえ「聖女」であろうと、あるいは「女神」であったとしても――。
 だからこそ「尻を拭く」。それは当然の「行為」だ。もはや「儀式」と呼ぶまでもない。「脱ぐ→出す→拭く→穿く」、その一連の「動作」を含めてこその「排泄」なのであり、どれか一つを「省略」することなどあり得ない。もし万が一、「怠ろう」ものならばそれはもはや――、「お漏らし」である。
「排泄物」が「下穿き」に付着することになる。たとえそれが「少量」であったとしても不快な「感触」は免れず、そこに留まった「モノ」は「臭い」を発することになる。そしてその強烈な「芳香」は決して「内部」だけに留められるものではなく、やがて「外部」にもまき散らすことになる――。
「がさつさ」や「品の無さ」では到底説明ができない。あるいは人間としての「尊厳」さえも失い、「獣」へと成り下がる。(もちろん「獣」は「着衣」などしないだろうし、だからこそ「お漏らし」という概念もないのだろうが…)

「戦闘中」、アルテナがヒルダの「傍に立つ」機会は少ない。それは彼女たちそれぞれの「役割」が「前衛」と「後衛」、「先鋒」と「後方支援」にきれいに「分担」されているがゆえである。それでもやはり「共に旅する仲間」である以上、どうしたって「近接」することがある。
 そんなとき、アルテナはヒルダから発せられる「体臭」を感じることがある。あるいはそれも「女戦士」としての「性分」なのだろうが――、「香水」などを身に着けない彼女からは「汗臭さ」のようなものが漂っている。
 淑女の「身だしなみ」、あるいは最低限の「エチケット」として習慣的に「気を付けている」アルテナにとって、「女性」である自分から「男性」じみた「汗臭さ」がすることはまさしく耐え難いことであったが。かといって、「女戦士」が自分と異なる「価値観」を持っていることについて、とやかく言うつもりはない。
 それに。ヒルダの「体臭」についても、これといって「強烈」なものではなく十分に「許せる」程度のものであり、意識しなければ「気になる」ほどのものでもなかった。

 ましてや。ヒルダから「汗臭さ」とは違う「体臭」――「ウン臭」が漂ってきたことなどは一度もない。もちろん、彼女の「下穿き」や「尻」を直接嗅いだことなどないが、それでも「近く」にいてそれを感じないということはやはり、そんな「疑惑」はないのだろう。
 にも拘わらず。彼女は珍しく「狼狽」している。たとえいかなる「強敵」に囲まれようとも、むしろ「堂々」とし「余裕」を見せ続ける「女戦士」が。なぜかひどく「動揺」し、ひいては顔を赤らめている。その「様子」が不思議でならなかった。
 あるいは彼女としても。ありもしない「事実」を、ましてや「勇者」の前で、さも「真実」であるかのように「断定」されることに。少なからず「抵抗」と「憤り」を感じているのかもしれない。
 アルテナと同じく、ヒルダもまた「勇者」に対して。単なる「同じパーティの仲間」としてだけではない「感情」を密かに抱いていることは知っている。同じ「女」だからこそ、それが分かる。だからこそ余計にアルテナはヒルダのことを「ライバル視」し、それこそが「敵対心」を露わにしている最大の理由なのだった。

 果たして「彼」はどう思っているのだろう。こんなにも「下品」な話題でもって「論争」する「二人」の「女性」を見て、一体どんな「感情」を持つのだろうか。
 あるいは彼の中ではすでに、アルテナは「大便を済ませた者」であり、ヒルダは「拭かない者」であるという「既成事実」が出来上がっているのかもしれない。
 だとしたら、より「恥じる」べきなのはやはりヒルダの方だ。アルテナの行為は「隠したい」ものでこそあれ、あくまで「普通」のことであるのに対して。ヒルダのその「習慣」は――もしそれが「事実」ならば――まさしく「異常」なものである。
 あるいは普段から彼女に背中を預け、(悔しいけれど)一番「近く」にいる彼ならば何か知っているかもしれない。本当にヒルダは「拭かない」のだろうか。今も「下穿き」に「ウンスジ」を刻み付け、尻から「ウン臭」を発しているのだろうか。

 とはいえ。アルテナについてもあまり人の事は言えないのかもしれない。もちろん彼女はちゃんと「拭いている」し、その「拭き具合」を確かめ肛門に「付いていない」ことを認めてから「下穿き」を上げるようにしている。だが、それはあくまで「大」についてであり、「小」については――あまり自信がない。
 現に彼女はその「下穿き」を、本来「純白」であるはずのそれを、「薄黄色」に染め上げてしまっているのだ。それは「拭きの甘さ」から生じる問題ではない。むしろより「直接的」、「穿いたまま」でした行為――すなわち「お漏らし」によって。
 アルテナの「下穿き」には今も「おしっこ」が染み込んでいる。それはさっき「脱いだ」時に確認済みだ。いわゆる「クロッチ」の部分にたっぷりと描き上げられた「小便染み」。彼女の、彼女自身による、「粗相」の「証」。
 それだってやはり「強烈な臭い」を放つものである。もちろん「固体」と「液体」とでは話は別だろうが、「下穿きを汚している」という点においては何ら変わりはない。
 アルテナがかろうじて、その「臭い」を外部に漏らさずに済んでいるのはやはり、彼女の身に着けている「服装」によるものだろう。「下穿き」をすっぽりと覆う丈の長い「ローブ」によって、いわば「内界」と「外界」を隔てているのだ。
 だがそれもあくまで「隠蔽」に過ぎないのである。ひとたびローブの「裾」をめくり、はたまたローブの「中」に顔を差し入れようものならば――。そこはもはや「混沌」のみが支配する「世界」なのである。アルテナの「香り」に満たされた「異世界」。それを「天国」と感じるか、あるいは「地獄」と感じるかはまさしく「主観」によるところでしかないのだ。

 アルテナはふと、勇者の「反応」が気になった。彼が「自分」と「彼女」に対して、どのような「感情」を抱いているのか、ではなく。ここではより単純に「自分」と「彼女」の「秘密」について、彼がそれに「気づき」何かを「知っている」のではないかと。あくまでその「一点」につき、彼の「表情」から読み取ろうと試みた。彼は――、

 ただ穏やかに「笑って」いた。

 例の如く、日常的に「諍い」を繰り返す、彼女たち「二人」。その「双方」ないし「一方」を咎めることもせず、ただただ静かに微笑んでいた。まるで「子供同士」の他愛ない「じゃれ合い」を眺めるように(彼の方が二人よりも「年下」であるにも関わらず)、あるいは「掌上」で踊る「人形」を見つめるように(むしろ「人形」じみた見た目は彼の方なのに)。
 彼のその「優しげ」な眼差しに。溢れんばかりの「愛おしさ」を思わせる双眸に、アルテナは――、

――ジョロロ…。

 股間に「熱い水流」が迸るのを感じた。「下穿き」の中を生温かく「濡らす」もの。

 アルテナはまたしても「お漏らし」をしてしまっていた――。

「くっ…!」とすんでのところで圧し堪えたものの。やはりというか、もはや「被害」は「甚大」であった。「漏れ出た」液体が「下穿き」から溢れ出し、わずかに脚を伝っていた。それは彼女の「想い」を比喩するようだった。

――ああ、ワタクシ。「勇者様」の前で、またしても「はしたない」行為を…。

 アルテナは「罪深い」自分を恥じた。「条件反射」のように、つい「発動」してしまう自らの「癖」を「改めなければ」と思いつつも、その反面。「羞恥」にまみれた自らの「行い」を、出来ることならば彼に「見せつけたい」と願った。
 決して知られてはならない。彼に「軽蔑」され、「幻滅」されてしまう。
 けれど「知られたい」。祭具の下の自分の「本性」を。紛れもない「メス」としての「本能」の姿を。
 そんな「二律背反」の中で、アルテナは身悶え、身をよじらせるのだった――。

「はい、アルテナさん」
 ふいに彼に「名」を呼ばれることで、「女僧侶」はもう少しで「達して」しまいそうだった。けれどなんとか「理性」でもって、それを堪えた。
「あ、ありがとうございます…」
 震える声で答え、「御不浄」に行くにあたって彼に預けていた「荷物」を受け取った。
「さあ、そろそろ出発しますよ!」
 勇者の「号令」が掛かる。いつまでもここで「油を売っている」わけにはいかない。「町」に留まり続けているわけにもいかない。
――我々は「冒険者」なのだ。
 いつか「魔王城」へとたどり着く、その日まで。「彼ら一行」は「町」から「町」、「島」から「島」へと旅を続けなければならない。「打倒魔王」。それこそが彼らの真の「目的」であり、あくまでこの「パーティ」はそれまでの暫定的な「連れ合い」に過ぎないのだ。

 だが「その後」は――?念願叶って「魔王」を打ち滅ぼし、「目的」が達せられたその後は――?果たして、この「パーティ」は「解散」と相成るのだろうか。
「勇者」は「英雄」としてその名を歴史に刻み、人々の「称賛」を存分に浴びることになるだろう。「仲間」である自分と彼女についても、それは同様である。
 だがアルテナが「夢想」するのは、そのことについてではなく。あくまでごく「個人的」な「将来」についての「展望」だった。
 自分と「彼」との「未来」――。そこに微かな「淡い期待」を抱きながら、けれどそのためにはまず「魔王」に代わる「最大の敵」をなんとか出し抜かなければならない、と。勇者の「隣」を歩く「女戦士」の背中を見つめながら、決意を新たにするのだった――。

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おかず味噌 2020/07/18 22:07

ちょっとイケないこと… 第十八話「姉と弟」

(第十七話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/344430


「あの夜、お姉ちゃんがパンツを洗ってるのを見てから――」

 私から追及されてもいないのに、純君は唐突に自供を始める。

「どうしてもお姉ちゃんの穿いてるパンツが気になって――」

 私が沈黙を貫いているのをいいことに、彼は滔々と語り出す。

「洗濯機に入ってた、お姉ちゃんの洗ってないパンツを――」

 私にとって知りたくない事実を、彼はのうのうと打ち明ける。

「えっ…!?ちょ、ちょっと待って、それってどういう――」

 私は驚愕のあまり、とうとう弟に訊き返してしまうのだった。


「『一回だけ』じゃ、なかったってこと…?」

 私は緩んだ括約筋を引き締め直し、体勢を立て直してから、改めて彼に問い直す。

 今度は純君の方が黙り込む番だった。まさか遮られるとは思わなかったのだろう。彼はバツが悪そうな表情をしながらも、ひどく面倒臭そうにベッドから起き上がる。

 私は正面の純君から目線を逸らしてドアの方を見る。彼に脱がされたショーパンがまるで抜け殻の如く取り残されている。その右ポケットの中に一時的に収納された、私があの夜穿いていたショーツを想う。洗濯されたことで今や清浄となった衣類を。

 そもそも今の状況は純君が姉のショーツを隠し持っていたことが元凶なのである。だけどそれはあくまでも「洗濯後」のものであって、まさか「洗濯前」のものにさえ彼が興味を抱いていたなんて。私はもはや幾度目かの頬が紅潮する感覚に襲われた。


 まあ、それはそうだろう。むしろ、当然ともいえる。

「洗う直前」つまり「脱いだ直後」の方がより直接的に情報を得られるのであって。それに比べれば「洗った直後」のショーツなど、単なる布切れに過ぎないのである。

 だけどそれは私にとってやや都合が悪い。なぜなら洗面台で手洗いをしている時に私は知ってしまったのだ。私の下着がいかに汚れてしまっているのかということを。

 私自身とっくに確認済みなのだ。あの夜見た私のショーツは汚濁にまみれていた。それは『おしっこ』によるものだけでなく、汚物による染色が幾つも付着していた。

 純君は気づいただろうか。いや、外部から見ただけなら分からないかもしれない。だが欲望に負けて思わず拝借してしまうほど興味津々である対象物の観察において、より肝心といえる内部まで確認せずに済ませるなんてことが果たしてあるだろうか。


「ねぇ、お姉ちゃんのパンツは今も汚れてるんだよね?」

 間もなく純君の口から回答が得られる。彼自身の秘めたる願望を告白するように。それを訊くということはつまり彼は気づいてしまったのだろう、姉の羞恥の秘密に。

 とはいえ、私がノーパンのまま弟の部屋を訪れたことはすでに周知の事実である。それはどこかのコンビニのゴミ箱に投棄され、とっくに消失してしまったのだから。私が今日穿いていたショーツは粗相の証拠と共にもはや完全に隠滅されたのだった。

 だから純君が言っているのはやはり、それもまた想像の産物に過ぎないのだろう。私がショーツを穿いているのだと仮定して、それが汚れているに違いないだろうと。だけどその妄想には実体が伴っている。私の下着の実態を彼は知ってしまっている。


「『おしっこ』とか、女の子だけの『汚れ』とか…」

 すかさず純君は指摘してくる。これでもかとばかりに私的な『シミ』を炙り出す。

「う、『うんち』…、とかも付けちゃってるんでしょ?」

 彼は余さず確認してしまったのだろう。姉のショーツに刻印された数多の汚辱を。

「そ、そんなわけ…ないでしょ!!」

 即刻、私は否定する。だけど本当は分かっている。あの夜、私自身もそれを見た。後方部分にくっきり描かれた茶色の一本道。肛門付近にべっとり付いた『うんち』。拭き残しによるものか、力んだ拍子に予期せず漏れてしまったものかは分からない。それでも割れ目に沿ってばっちりと、我ながら「ばっちい」と思える恥辱の一本筋。

 紛れもない、私の『ウンスジ』。

 粉みたいにカピカピになった『うんちのカス』。決して他人には知られたくない、私自身の管理不行き届き。普段の不摂生と不衛生の不可抗力による不潔なる副産物。


 それでも私はまだ諦めない。この期に及んでも尚、往生際悪くあがくことにする。

 私がショーツ内に『ウンスジ』を刻み付けていたのはあの夜だけのことであって、あの日はお腹の調子がたまたま悪かったというだけで、日常的にそうとは限らない。

 かといって人前に堂々とさらけ出せるものかといえば、あくまでも話は別だけど。少なくとも、常習的に汚物まみれのショーツを身に着けているわけではないはずだ。

 だから仮に純君に観察されたとしても、きっと大丈夫なはず。どこまでも彼の想像、恐らく不潔だという予想と、不浄であって欲しいという願望に他ならないのである。

 だけど、そこで再び彼は無情にも言い放つのだった。


「僕、知ってるよ」

 性懲りもなく純君は同じ台詞を繰り返す。揺るぎない証拠を掌握しているように。

「だって、お姉ちゃんのパンツすごく『クサかった』よ?」

 彼は回想する。私のショーツの醜悪なる芳香について、嗅覚による感想を述べる。

 突き付けられた現実はショックなんて一言では到底言い表せるものではなかった。破滅と絶望、恥辱と屈辱、嗜虐と被虐、それらが複雑に入り混じる感情なのだった。

 純君の中では「よくパンツを汚す姉」という実像が出来上がっていることだろう。女児でもあるまいし。十九歳とはいえもうとっくに大人であるはずの女子大生の姉が二度も粗相したのみならず、日常的にショーツ内に汚物を隠し秘めていたなんて…。

 もはや姉としての威厳どころか、女性としての尊厳すら完全に無くしてしまった。

 私は観念した。全ての事実を受け止め、包み隠さず事情を打ち明ける覚悟をした。


「そうだよ。お姉ちゃん、よくパンツを汚しちゃうの…」

 それについては「よく」なのか「たまに」なのか「ごく稀に」なのか分からない。日常的なショーツの状況を知る上で、あの夜だけでは明らかに情報が不足している。だが少なくとも、彼が洗濯機の中から発掘した私のショーツもそうだったのだろう。

「ちゃんと拭いてるつもりなんだけどね…」

 打って変わって弱気になりながら私は言う。まさか拭いてないなんてことはない。いつも排泄を済ませた後、トイレットペーパーで入念に拭いている。それなのに…。

「どうしても、付いちゃうの。パンツに『うんち』や『おしっこ』が…」

――私、緩いのかな?

 私は苦笑しながら純君に訊ねる。だけど彼に答えようがないことは分かっている。

「ねぇ、さっき私のお尻の穴を舐めたとき…」

――『うんちクサく』なかった?

 またしても純君に問い掛ける。それについては、さすがに彼も答えられるだろう。


「大丈夫…だったと思うよ」

 自信なく彼は答える。どうやら『うんち臭』を直接嗅がれることは免れたらしい。最底辺ともいえる質問を投げ掛けた私にとって、それは最低限の安堵なのであった。

「こんなお姉ちゃんで、ごめんね…」

 私はもう何度目かの、すっかり慣れきった謝罪をした。

――こんな、恥ずかしいお姉ちゃんで…。
――こんな、だらしないお姉ちゃんで…。
――こんな、汚らわしいお姉ちゃんで…。

――ごめんなさい。

 私は幾度となく心中で弟に詫びるのだった。


 さすがに純君も萎えただろうか、まさか姉の呆れた日常を知ることになろうとは。たとえ彼自身が秘密を暴いたにせよ、ここまで不潔な真相が待ち受けていようとは。

「じゃあ、『続き』してあげるね…」

 私は純君の顔を直視することも出来ぬまま、震える手で弟のおちんちんを掴んだ。もうとっくに時効を迎えたであろう契約を、尚も実直に履行しようとしたのだった。

 すっかり怒張を失い、萎縮し弱々しくなり掛けているはずの彼のペニスはけれど。

 今までにないくらい固く「勃起」を持続していた。

 鼓動さえも伝わってくるようだ。それほどまでに強く、己が存在を誇示していた。


――どうして…?

 ふと疑問を抱く。だけどその答えを私はすでに知っている。それはある種の趣味。マトモとはいえない、的外れな性癖。あくまで真っ当とは言い難い、間違った悪癖。

 まさか可愛い弟にそんな性質があったなんて、私はその事実を認めたくなかった。だけどこの異常なる状況が、彼の発情による反応が、明確なる解答を象徴している。

 純君は姉の汚濁に愛着を感じているのだろう。私の『おしっこ』や『うんち』に、それらが付着した汚物まみれのショーツに尋常ならざる執着を抱いているのだろう。

 あるいはその趣向は○○さんと同じなのかもしれない。私に粗相をさせた張本人。彼もまた私の『おもらし』に高揚を覚えた一人なのだ。そして今では私自身さえも。


 私は、私と彼と純君に共通項を見出していた。本来、人が目を背けたくなる事象。だが動物である以上、避けて通れない現象。排泄行為や排泄物自体に抱く性的倒錯。

 まさしく「変態」といって差し支えない性癖。大っぴらに出来ない秘めたる事情。

 私と○○さんのみならず、つまり純君もまた「こちら側」の人間だったのである。

 こうしてまた一つ、私たちは姉弟揃って他人に言えない秘密を共有したのだった。

「お姉ちゃんの『おチビりパンツ』…」
「お姉ちゃんの『おもらしパンツ』…」
「お姉ちゃんの『ウンスジパンツ』…」

 やがて純君は呪文のように唱え始める。それは紛れもない呪詛の言葉なのだった。まるで呪術に掛けられたかの如く、私はすっかり彼の術中に嵌ってしまうのだった。


 私は再び純君の上に騎乗し、気丈な口調で劣情を煽情することで絶頂に誘導する。

「お姉ちゃんの『おチビりパンツ』、臭かった?」
「うん、すごく!!」

「お姉ちゃんの『ウンスジパンツ』、嗅ぎ嗅ぎしたの?」
「うん、たっぷりと嗅いじゃったよ!!」

「『おなら』は…?『おなら』も臭かった?」
「とぉ~ても!!」

「じゃあ、お姉ちゃんの『汚パンツ』想像しながら『お射精』できる?」
「できるよ…!!いっぱい出ちゃいそう」

「純君も『お精子』を『おもらし』しちゃうんだね」
「うん、いっぱい『おもらし』する!!」

 姉の誘惑に対して、あたかもそれを待ち望んでいたかのように純君は従順になる。


「お姉ちゃんも、もう漏れちゃいそう…」

 快楽と共に徐々に高まりつつある膀胱の貯蔵量に、私は間もなく放流を予告する。

「いいよ。そのままいっぱい出して!!」

 純君は優しく私の要求を承認し、姉による『放尿ショー』を固唾を呑んで見守る。

「おふぇいひゃん、おもらひ、ひひゃう」

 私は再びペニスを頬張る。それとは別に下腹部に思いきり力を込める。そして…。


――ジョボロロ~!!!!!

 私は『おもらし』をした。純君の上で、彼の顔めがけて『おしっこ』を放出した。一度目、二度目は○○さんの眼前で。三度目の正直とばかりに、今度は弟の顔面に。

 一度目、二度目と大きく違うのは、私が下半身に何も穿いていないということだ。遮られるもののない私の『尿』は、重力の影響を直接受けてほぼ一直線に落下する。そして、直下にある純君の顔に『おしっこ』が集中豪雨のように降り注ぐのだった。

 私は自ら望んで『排尿』したし、きちんとショーツを脱いだ上で膀胱を解放した。それを『粗相』と呼ぶのか、『放尿』と呼ぶのかについては諸説あるところだろう。

 だが己の意思かどうかはこの際関係なく、それが不意であろうと故意であろうと。指定外の場所でする『排尿行為』は、紛れもない『おもらし』に違いないのだった。


「ひっぱい、でひゃう…。ひぇんひぇん、とまらないよ~!!」

――ジュビビビ!!!ジュバ~~!!!!!

 思いの外、私の『おもらし』は長く続いた。全然溜まっていなかったはずなのに、予定外に『おしっこ』はたっぷり出た。私は恥を捨てて、小水の勢いに身を委ねる。

――ジョロ…。チョポ…!!ポタ…ポタ…。

 そして私が『放尿』を終えようとした時、今度は口の方で奔流を感じるのだった。


――どぴゅん!!!ドクドク…。

 純君のペニスが激しく脈打つ。ドロドロした感触と生臭い芳香が口一杯に広がる。野性味に溢れた、あるいは野菜のような青臭さを思わせる、男性器による生理現象。

 純君は精液を『おもらし』した。

 いや、そんな後ろめたい表現は適切ではないだろう。純君は立派に果たしたのだ。姉としてはむしろ「頑張ったね!」と手放しで褒めてあげるべきなのかもしれない。たとえそれが決して褒められたものではない、イケない行為の結末であるとしても。

 純君は「射精」をしたのだった。

 私の口腔に欲望の塊を解き放った。雄としての本能を見事に成就させたのである。


――ビュル…!!ピュル…!!

 まだまだ続々と精製される純君の精液を、私はゾクゾクしながら口で受け止めた。彼が私の粗相を受け入れてくれたみたいに。私の愛情を受け取ってくれたみたいに。

 ようやく純君の射精が終わる。後に残ったものは、口内を満たす残骸のみだった。本来、膣内へと放たれるべき液体。空気に触れればたちまち死んでしまう儚い存在。すぐに息絶えようとしている生命はけれど、まだもうしばらくは生きているらしい。

 口の中で彷徨う、哀れな魂。受精を目的とする、純君の元気いっぱいの子種たち。

 私は迷うことなく、それを飲み込んだ。喉の奥に引っ掛かる感触を覚えながらも、能動的に精汁を飲み終えた。清濁併せ吞むかのように。善悪すらも飲み下すように。

 純君の精子は苦かった。それもまた何かの雑誌で読んだ性経験のその通りだった。

――精子は不味い、だけど愛する人のものならば…。


 顔騎状態のまま、私は暫しの感慨に耽る。それからゆっくり純君の上から降りて、射精を終えたばかりの彼と顔を見合わせた。

 純君の顔も髪も濡れていた。それはまさしく私の『おしっこ』によるものだった。

 私はベッドにゴロンと寝転がる。シーツもまた、私の『おしっこ』で湿っていた。

 弟の横顔をチラリと窺う。彼は仰向けのまま天井を見つめて微動だにしなかった。その視線の先にあるのは限りない充足感と幸福感か、あるいは果てしない罪悪感か。脱力したような双眸に映る底知れぬ感情を、私には想像することしかできなかった。


「純君の『白いおしっこ』苦かったよ」

「お姉ちゃんの『おもらし』だって…」

 穏やかにお互いの感想を報告し合う。私と彼だけに伝わる「共通言語」を用いて。

 やがて、どちらからともなく笑い出す。どうしようもない照れ臭さと気まずさに、思わず自然と笑いがこみ上げてくる。

 私と純君は一頻り笑い合った。深夜の室内に姉弟の笑声だけが静かに染み渡った。笑い合う姉と弟。それはありふれた、ごく普通の微笑ましい姉弟の風景なのだった。


――続く――

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おかず味噌 2020/06/17 20:59

クソクエ 女戦士編「野外排泄 ~彼女の長い一日~」

――ズバン!!!

 凄まじく、小気味の良い斬撃の音色が草原に響き渡り、正面の「獣人型モンスター」を「一刀」で切り伏せる。
「成人男性」と比較しても、かなり大柄な体躯をした怪物は、

――グォォオ!!!

 と。「断末魔」とさえ呼べない醜い声を上げて、「両断」された。
 まさに「圧巻の一撃」。だが、その余韻に浸っている暇はない。蛮族の血で汚れた剣を軽く振って、すぐさま「次の敵」に備える――。

「脱色」された癖のある「長い髪」。「意志の強さ」が込められたような、鋭く切れ長の「双眸」。まるで「彫刻」の如く、目鼻立ちのくっきりとした「相貌」。
「剣」を振るたびに「躍動」する、鍛え上げられた全身の「筋肉」。その「自前の鎧」に覆われながらも尚、「主張」する女性としての「特徴」。「たわわ」に実った「双丘」、「豊満」な「瓢箪島」。それらを誇示するように、自らを鼓舞するように。あるいは単に「機動性」に特化したが故の「出で立ち」。
「額」と「肩」――、「戦闘」において「弱点」となり得る箇所だけを最低限に守り、「胸部」と「下腹部」――、女性にとって時に「武器」となり得る箇所だけを、最小限に隠した「防具」。名称としては「ビキニアーマー」に分類される、「扇情的」でやたらと「露出度の高い」その装備は――、彼女の「攻撃的」な「戦闘スタイル」を表し、自らの「剣の腕」に対する「自負」を謳ったものであった。

「ヒルダさん、後ろ!!」

 その「名」で呼ばれた彼女は、とっさに振り返る。だが、やはり「撃破」のもたらした一瞬の「油断」のためか、あるいはその名を呼んだのが「彼」であったせいか、彼女の「反応」がほんのわずかだけ遅れる。その「ほんのわずか」が、戦闘においてはしばしば致命的な「空白」となる。
 ヒルダの「左肩」に、「重い一撃」が加えられる。剣と呼ぶにはあまりに無骨で醜悪な蛮族の武器は、「斬る」というより「叩く」といった用途の方が相応しいだろう。彼女の斬撃の「流麗さ」に比べるべくもなく。けれど力任せに振り下ろされたその「攻撃」は、あくまで「打撃」としては「一級品」だった。

「チッ…!マズったか」

 ヒルダは「舌打ち」した。常人であれば、あるいは「激痛」によって「意識」を遠のかせられたとしても、何ら不思議ではない。だが彼女にとっては、その「攻撃」自体よりも「攻撃を受けてしまった自分」の方が、精神的な「ダメージ」となった。たとえ「一撃」であろうとも「反撃」を許した未熟な自分を、彼女の「プライド」は許せなかった。

 すぐに「体勢」を立て直す。痛みに怯んでいる場合ではない。もうこれ以上、彼の前で「醜態」をさらしてなるものか、と。「挽回」と「返上」を込めて、踏み込みながら剣を横に薙いだ。
 完璧な「踏み込み」だった。だがしかし、一見して「知性」の欠片も感じさせない蛮族はここで、持ち前の「戦闘スキル」を発揮した。「生存本能」、「野性的勘」と呼ぶべきものかもしれない。蛮族は斬撃の刹那、一歩身を引いたのだった。
 もちろんそれだけで斬撃の全てを躱されるほど、彼女の剣は甘くも浅くもない。当然の如く、蛮族の硬い皮膚に「一閃」が走った。汚い血しぶきが上げられる。だが、あいにく「トドメ」には至らなかった。そのことがさらに彼女のプライドに傷を付け、その精神に火を点ける。
 ヒルダはさらに「一歩」。二歩、三歩、踏み込んだ。自らの失態、その「尻ぬぐい」をするように――。

 突然、蛮族の全身が「炎」に包まれる。
「火のない所に煙は立たぬ」ならぬ「煙のない所に『火の手』が上がる」。彼女の気迫が起こしたものではない。それは紛れもなく「魔法」によるものだった。
 ヒルダは振り返る。背後の敵ではなく「味方」のいるであろう方向を――。そこには、安堵したように笑う「勇者」の姿があった。


 そこからさらに、三体の同種族モンスターを倒し、今度こそ本当の「勝利」が訪れる。
 美しい草原の風景に散らばった醜いモンスターの死体から、「戦利品」ともいうべき「物資」と「魔石」を剥ぎ取る。これらを「加工」し、あるいは「換金」することで、彼らはそれを旅の「資金」へと替え、自らをさらに高めるための「装備」へと化す。

「――ったく、ロクなもん持ってねえな!」
「戦闘後」の「ルーチンワーク」をこなしながら、ヒルダは毒づく。今回の「戦利品」の内容は、あまり労力に見合ったものではなかったらしい。苛立ち混じりに、八つ当たりするように、モンスターの「亡骸」を足で蹴る。だが彼女が苛立っているのはその「徒労」にではなく、やはりこの程度の戦闘に徒労を感じてしまった自分自身に対してだった。

――この程度のモンスター、アタシ「一人」でだって…。

 彼女は思う。それは決して「傲慢さ」によるものなどではなく、かつての彼女であればいかに「謙虚」に見積ったとしても、確かな事実であった。

「ヒルダさん、大丈夫?」

 彼女の身を案じて、一人の「人物」が駆け寄ってくる。

「少年」のように小柄な体。男性であるにも関わらず、その「背丈」は女性である彼女に遠く及ばず、「頭」数個分も低い。正面から相対したとき、ちょうど彼の「顔」の位置が彼女の「腰」の高さに相当する。
 彼女と同じく「剣」を扱う「職業」でありながら、その手足はまるで「小枝」のように細く、あるいは「少女」を思わせる「華奢さ」を醸している。
 だが、その背に負った「しるし」はまさしく「選ばれし者」の「証」であり、彼の矮躯に不釣り合いな、およそ自身の「身の丈」とも等しいその「大剣」は、あるいは彼自らが「背負い込む」と誓った「使命」の大きさを比喩しているようだった。
 一見して「童子」のように思える、実際「年頃」としても「童」である彼こそが、この「パーティ」の「リーダー」であり、「魔王打倒」の「切り札」でもある、紛れもない「勇者」なのであった。

 彼は、本当ならば「戦闘後」すぐにでも彼女の元へ駆け寄りたかったのだが――。彼女のただならぬ「気配」と冷めやらぬ「殺気」を感じ取って、何となく近づき難さを抱いていた。それでもやはり「仲間」への「心配」を抑えることができず、今こうして遅ればせながら彼は駆け寄ってきたのだった。

「平気さ、これくらいのキズ!」

 彼女は答える。「何でもないさ」と気丈に振舞ってみせる。だが、それは「はったり」だった。いくら「重症」でないとはいえ、とても「軽傷」と呼べるものではない。気を張っていた「戦闘中」はそうでもなかったが、気の緩んだ「戦闘後」になって、徐々にその「傷」が痛みだしてきた。「ズキズキ」と鈍い痛みを、肩に感じ始めている。

「アルテナさ~ん、お願いします」

 彼は呼ぶ「忌むべき名」を。「もう一人」の「パーティ」である「仲間」の名を――。自分とは「正反対」の属性を持つ、「彼女」の名を――。

「はいはい、そんな大声で呼ばずともワタクシは『あなた様』のすぐ傍にいますよ」

 まさしく、彼のすぐ「傍ら」から姿を見せたのは――、「僧侶」のアルテナだった。

「染色」された、まっすぐな長い髪。温厚さを、あるいは「慈悲深さ」さえも思わせる、垂れ下がった「眉尻」。「気品」を感じさせる、穏やかな表情。
「武器」を振り回すには決して似合わない、細い腕。その手に握られているのは「殺し」の「道具」などではなく、「救い」の「祭具」。「剣」ではなく「杖」。
「身」も「心」も、まさしく「神」に捧げたものであるらしく、その「肌」を不必要に「人前」に晒したりはしない。その全身は「濃紺の布」で隠されている。
 それでも。なだらかな「法衣」の上からでも隠し切れない、女性的な「起伏」。全身を覆っている、だからこそ余計に「主張」される、その「布」の奥にあるもの。それこそが男性を「迷える子羊」にさせるとも知らずに、あくまで気づかないというフリをして。

 同じ「種族」。同じ「性別」。だが、どこか違う。彼女にあって、自分にはないもの。似通った「凹凸」を持ちながらも、その魅力はまさに「正反対だ。自分のそれが「強さ」だとすると、あるいは彼女のそれは「弱さ」。「庇護欲」を駆り立てる「か弱さ」。世の男性が異性に求める、身勝手な「印象」。「剣士」である自分が最も疎むべき、それこそが「女性らしさ」と呼べるものだった。
「自分」と「彼女」。そのどちらに多くの男性が「夢見る」かは知っている。「淑女」と「筋肉女」。果たしてそのどちらを自らの「傍ら」に侍らせ、生涯の「伴侶」として選ぶのか、その答えは分かりきっている。そして、あるいは「彼」としても――。

――はぁ~。

 彼に呼ばれたアルテナは、ヒルダの負ったその「傷」を見て、呆れ果てたというように長い「溜息」をついた。

「後先考えず獣のように突っ走るのは、いい加減お止めになってはいかがでしょうか?」

 優しげな声音。あくまで穏やかな口調。諭すように、まるで稚児に言い聞かせるように彼女は言った。

――チッ…!

 またしても、ヒルダは「舌打ち」をした。だが今度のそれは自分にではなく、まさしく相手に向けられたものであった。

「どっかの『足手まとい様』が、戦いもせずに『後ろ』でコソコソやっているからさ!」

 最大限の「皮肉」を込めて、ヒルダは言い返す。

「あら。ワタクシの『役割』は、あくまで『回復』と『サポート』ですよ?」

 悪びれる様子もなく、アルテナは答える。

「もちろんそれも、『神命』あってのものですが――」

 そう言ってアルテナは、ごく自然な仕草で「勇者」に擦り寄った。自らの腕を絡ませ、彼の腕に豊かな「膨らみ」を押し当てる。
 彼女にとっての「神」はどうやら、随分と「身近」にいるらしい。「従者」の心構えとしては、あるいは正しいのだろう。だが、彼女のあまりの「俗物ぶり」に嫌気が差した。

「アンタはせいぜいその有難い『神様』とやらの、言いなりにでもなっているがいいさ」

 吐き捨てるように、ヒルダは言う。それもまた「俗的」な発言に違いなかった。

「我らが『神』を冒涜なさるおつもりですか?」
「だとしたら、ワタクシとしても心穏やかではいられませんよ?」

 声を荒げるでもなく、あくまで平静な口調でアルテナは言う。

「『ボウトク』なんてしちゃいないさ!」
「ただ、アンタのその『シンジン』とやらが如何なもんかって言ってるだけさ!」

 別にヒルダとしても、「神」を貶めるつもりなどは毛頭なかった。熱心に「信心」こそしないものの、決して蔑ろにする気はなかった。ただ問うただけだ。売り言葉に買い言葉で、口をついてその文句が出てきただけだ。

「今度はワタクシの『信仰心』までも。一体アナタはどれだけ――」

 さすがのアルテナも、いよいよ「心穏やか」ではいられなくなってきたらしい。言葉に「感情」が込められる。ヒルダとしては望むところだった。彼女の「反論」を想定して、自らも「反撃」の「刃」を備える。だが――。

「もう~、二人とも!喧嘩はダメ!!」

 畏れ多く、何人も近寄りがたい「龍虎の戦い」に割って入ったのは、やはり「勇者」の名を冠する者だけだった。無謀にも、彼はその「争い」に身を投じるわけでもなく、ただ「諍い」の無為さを説く。「怒る」のではなく「叱る」ことで、その場を収めようとする。まるで「大人」であるかのように。自らが「子供」であるにも関わらず。
 少なからずの不満を抱えながらも、二人は留まるしかなかった。まさに「鶴の一声」。だがその声はどちらかといえば、「小鳥の囀り」にも似ていた。それでも両者は互いに、振りかざし掛けた「拳」と「言葉」を渋々ながらも静かに下ろすのだった。

「勇者」であるという彼の「身分」がそうさせたわけではない。「リーダー」の「命令」だから、というのとも違う。たとえそんな「地位」などなくとも、彼女たちはあくまで表向きは素直に従っただろう。それは彼女たちと彼との「関係性」が、彼女たちが彼に抱く「密かな想い」がそうさせるのだった。

 何となく「気まずさ」のようなものをヒルダは感じた。「子供」が叱られたときに抱く感情だった。そして「大人」であるからこそ余計に、その感情はより強く彼女の中で発露するのだった。彼女は立ち上がろうとする。

「どちらに行かれるのですか?」

 アルテナが声を掛ける。「不戦勝」の気配を感じ取ったような余裕の表情で。

「別に…。なんでもねえよ!」

 苛立ち混じりにヒルダは答える。だがそれは「答え」になっていなかった。
「敵前逃亡」。自らに課したその「禁忌」を、自ら破ることに躊躇いを覚える。だが、「戦い」を禁じられたとすれば致し方ない。あとは従う他ないが、彼女の「矜持」はそれを許さなかった。であれば、あとに残る道は「逃げ道」だけだった。
 だが、わずかに残されたその道さえも彼女は閉ざされる。やはり、他ならぬ彼によって――。

「ダメだよ。ちゃんと『回復』してもらわないと」

「勇者」はヒルダの腕を掴んだ。か細い腕。その気になればいくらでも振り払えそうな、非力な握力。だが、そこに彼の真剣な「眼差し」が加わることで、まさに「真剣」を向けられたかの如く、その場から身動きできなくなった。
 いや、それが真なる「剣」であれば、いかに強者や達人のものであったとしても、彼女は臆することなく「太刀向かう」ことができていただろう。けれど、たとえ虫を殺すことさえできない、殺気の籠らない「刃のない剣」であろうとも、相手が彼であるとしたら、もはや彼女に「太刀打ち」はできなかった。

 彼に「触れられた」腕が、「熱」を帯びる。頭の中が、胸の奥が「じん」と疼く。股間が、その部分にあてがわられた「下穿き」の中が「じゅん」と湿る。
「切ない」ような、どこか「懐かしさ」さえ覚える、その感触――。
 ヒルダが「戦士」として、初めて臨んだ「戦闘」。「敵」に対する「恐怖」から、意図せず「尿道を緩ませた」ことによる「失禁」。「下穿き」の中が「水流」に満たされ、やがて大地を穿つ。後に残された「羞恥」すべき「染み」。それとは違う。
 やがて「戦士」として、いくつもの「戦闘」を経たのち。「強敵」との邂逅によって、自らを昂らせたことによる「興奮」。それにも似ているが、やはりそれとも違う。
 もっと「熱く」、あるいは「優しい」感触に。彼女は思わず一瞬、戦士であるという、自らの存在理由すらも忘却していた。
 
「アンタがそこまで言うなら…」

 ヒルダは立つのを止めて、その場に留まった。「しょうがない」というように、彼の「指示」を聞き入れ、あくまで「お願い」として受け入れることにした。
 ヒルダは負傷した肩の「防具」を外し、「患部」を晒した。自らの「弱点」であるその部分を、「味方」である彼女に見せた。
 アルテナは、ようやく「自分の出番だ」というように――。やはり、彼女にとっての「存在理由」である「杖」を握り直し、その先端をヒルダに向けてかざした。

「汝、『救い』を求めなさい。たとえそれが『艱難辛苦』の茨の道であろうとも、その『歩み』を終えることなく、ただひたすらに『願い』続けなさい――」

 アルテナは「詠唱」を始める。やがて「杖」の先が「光」を帯び始める。「神秘的」で、ある種の「荘厳さ」を思わせる、紛れもない「魔法」の色。そして――。

――ヒーリング!!

 杖の先が、彼女の体が、淡く照らされる。周囲が、優しい色に包まれる。
 すると。まるで「奇跡」が「伝播」したように。まさしく「魔力」が「伝染」したかの如く。ヒルダの「傷」が少しずつ癒えてゆく。徐々に「傷口」が塞がり、やがて消えゆくことで、それと共に「痛み」さえも和らいでゆく。
「回復魔法」。選ばれた「職業」の者にしか扱えない、それはまさに「奇跡」とも呼べる代物だった。

 やがて。ヒルダの「肩」を覆った、「杖」からもたらせられたその「光」が、失われてゆく。それはアルテナが自らの「役目」を果たし、「使命」を終えたことを意味する。

「はい。終わりましたよ」

 アルテナはまるで「聖母」のように微笑んだ。決して認めたくはないが、今この瞬間に限っては、紛れもなく彼女は「ひれ伏すべき存在」であった。

「すまない…ね」

 ヒルダはあくまで「謝意」ではなく、「謝罪」をもって「礼」に代えた。それでも彼女なりの精一杯の「譲歩」だった。
 これにて「一件落着」。真の意味で、戦闘を終えたこととなる。
 だが。ヒルダにとってはもう一つ、済まさなければならない使命が残されていた――。

「魔法」とは、まるで「万能の能力」であるように思われるけれど。それが「人の手」によってもたらせられる以上、どうしたって「完全な奇跡」とはいかない。その「強大」な力を得るため、「鍛錬」と呼ぶべき「修行」が必要なことは言うまでもないが。それを「行使」する上で――、「術者」において「魔力の消費」はもちろんだが、それだけではなく。「行使された側」、つまり「奇跡を与えられた側」においてもやはりその「代償」は付きものであり、それを避けることはできないのだ。

 ヒルダは「下腹部」に、鈍い「違和感」を覚えていた。「回復」とは、魔法によって「のみ」与えられるものではなく、本来人体にも当たり前に備わっている「機能」だ。「魔法」を使わずとも、適切な処置(「消毒」や「固定」)をして、そのまま「安静」にしていれば、いつかは「回復」するものだ。
 つまり。「回復魔法」のもたらす「効果」というのは、いわばその本来人体に備わっている機能を「活性化」させ、「促進」し、それを「加速」させることに他ならない。
 換言するならば、「新陳代謝」の「活性化」。だからこそ、そこにはどうしたってある「副作用」が付きまとうことになる。
 とはいえ、やはりそこは「魔法」であり、全ての「代償」を「当人」が受けるわけではない。術者の「魔力」も当然「消費」する。いわば痛み分けに等しい。
 即座に「消化」が促されるわけではなく、「老い」を早めることにもならない。わずかに「髪」や「爪」が伸びるとも言われるらしいが、その「変化」は微々たるものだ。
 それでも。やはり「きっかけ」くらいにはなり得る。自らの「体」に現れる「兆候」に、気づくだけの「理由」にはなる――。

 ヒルダは再び、その場から立ち上がった。二人は怪訝そうな顔をする。だが、彼女が「役目」を果たしたように――、自分もまた暫定的な「義務」は終えたのだ。あとは好きにさせてもらうことにする。
 ヒルダはその場から立ち去ろうとした。颯爽と、彼女本来の「クールさ」を取り戻すようにして。自らの「目的」を告げることなく。「弱み」を見せることなく。だが――。

「どこ行くの?」

 無情にも声が掛けられる。彼女の背中に彼は呼び掛ける。ヒルダは立ちどまった。苛立ち混じりに、彼の察しない言動を咎めるように。彼女は振り返った。そして、意を決して口を開く。

「『便所』だよ!!」

 彼に報せたくなかった言葉を、知られたくなかった「生理現象」を告白する。それは、ある種の「開き直り」だった。

「『ついて来る』ってなら、別に構わないけどさ」

 そう言って、ヒルダは「挑発的」に口元を歪める。試すように彼の「羞恥」を煽ることで、自らの「羞恥」を覆い隠す。
 彼女のその「挑発」に、彼が応じることはなかった。「パクパク」と不器用にも口を「開閉」しただけだった。その「反応」は彼女にとって、少なからず「予想通り」のものだった。アルテナが露骨に、嫌そうな顔をする。

「まったく。何と、『下品』な…」

 嘆くように、軽蔑を込めて彼女は言う。だがその「蔑み」も、ヒルダにとってはむしろ心地良いものであった。これにて「意趣返し」は成った、とあくまで間接的にではあるが「卑怯な勝利」がもたらせられた。
 もはや、ヒルダを止める者はいなかった。彼女は悠々とその場から歩き去り、拓けた「草原」の隅の、拓けていない「草影」を探した。自らの「使命」を果たすために。「用」を足すために――。

「パーティ」から離れること、しばらく――。ようやく、丁度いい「場所」が見つかる。それなりに背の高い「茂み」。身を隠し「用」を済ませるには、うってつけだった。

――よしっ!ここなら…。

「仲間たち」の居る場所から充分に「距離」もある。故に「音」を聞かれる心配はなく、「臭い」だって届きはしないだろう。
「旅をする者」にとって「野外排泄」は付きものだ。それはどうしたって仕方のないことなのだ。だがそれでも、彼女にも「羞恥心」というものはある。さすがにその「行為」を「観察」されることはもちろん、たとえ「間接的」であってもその気配を「観測」されることは憚られた。
 だが、ここまで来ればその心配もない。存分に、「事」に臨むことができる――。

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おかず味噌 2020/04/30 03:56

いじめお漏らし 奇襲編

「だから――、何度言ったら分かるのよ!!!」

 オフィスに「怒声」が響き渡る。一瞬、室内を「沈黙」が支配し「時」が止まりかけたが、すぐに皆は自分の仕事に戻る。「我関せず」というように。下手に反応したり、「横槍」を入れたりして、怒りの「矛先」を自分に向けられるのだけは、誰もが御免だった。
「こんな資料のまとめ方で、どうやって『先方』に説明しろって言うわけ?」
 荒ぶる声の主は――、入社十四年目、今やこの「総務課」において、最長の入社歴を誇る「大ベテラン」の「長野京子」だった。
 齢三十六。かつてはそれなりに「男」の目を引くような美貌を持ち合わせていたが、経年による「劣化」のせいか、あるいは苦労の積み重ねを表すように刻まれた「皺」のせいか、今となってはその「美貌」はすっかり影を潜めている。それでも、「栄華」を極めた「過去」にすがるように年々化粧は「分厚く」なり、けれどここ何年も「ご無沙汰」のためか、塗りたくっただけの化粧は「雑」になり、影で若手女子社員達から「美容家(笑)」としての称号を拝命している。

――やれやれ、また始まった…。
 皆、思うことは同じだった。それはこの課において「日常茶飯事」だった。
 本日の「犠牲者」は「本田絵美」だった。
 絵美は大学卒業と同時に今の会社に入り、今年で二年目になる。学生時代は「テニスサークル」に打ち込み、「飲み会」や「合コン」三昧の日々とは打って変わり、アルバイト経験もわずかしかない彼女にとって、「仕事」というものは不慣れでありつつも、二年目になってやっと勝手が分かり始めてきた。まだ「知らないこと」や「分からないこと」も多いけれど、人当たりがよく「愛嬌」のある彼女を周りは受け入れ、優しく指導してくれる。ある「一人」を除いては――。
「すみませんでした…」
 絵美は謝った。その謝罪は「本心」半分、「不満」半分だった。確かに「ミス」をしたことは認める。だけど、「何もそこまで怒らなくても」というのが本音だった。そして、そんな心のこもっていない謝罪だけで、この場が収まるわけのないことを彼女は十分に理解していた。それもまた、彼女がこの二年で培った「経験」の一つだった。
「『すみません』で済むと思ってるの?」
 案の定、答えようのない「問い」が返ってくる。絵美は思う。
――「済まない」と思ってるから、「すみません」と言ってるじゃん…。
 だけど、もちろん「心の声」を言葉にすることも、表情に出すこともしない。今はただ、下を向いて「反省」を装いつつ、この時間が過ぎるのをじっと待っている。
「私、いつも言ってるわよね?分からないんだったら、ちゃんと訊きなさいって」
 その言葉自体は確かに「正論」だった。だけど、実体の伴っていない「正論」を果たしてそう呼べるのだろうか。
――だから、私ちゃんとやる前に訊いたし…。
 確かに絵美は、仕事に取り掛かる前に一応、先輩である京子に「お伺い」を立てたのだった。「まとめる資料はこれで全部ですか?」「グラフの挿入の仕方が分からないから教えてください」と。けれど、そんな絵美の姿勢に対して京子はこう言ったのだ。
「何でも人に訊かずに、自分で考えなさい」
 と。それもまた「正論」ではある。正論であるからこそ、彼女に反論の余地はなかった。そして「自分なりに必死に考えて」やった結果が、これだ。
――じゃあ、どうしろって言うのよ?
 絵美は心の内で反論を試みた。それが今の彼女にできる精一杯の「反抗」だった。けれど、それが良くなかった。京子はそんな、彼女の心の「動き」を見逃さなかった。敏感に「反抗心」を感じ取る。

「何よ?その態度」
 もちろん絵美の内心が、あからさまに「態度」に出たわけではない。それでも京子は、それを決して許さなかった。
「てか、あなた入社何年目?」
 京子は訊く。
「二年目です…」
 絵美は答える。それは「答えようのない問い」ではなかったけれど、それでも「嫌々」なのは隠せなかった。
「へぇ~、『二年目』ね~」
 わざとらしく、繰り返す。その言葉の端々に、「見下した」ような響きを隠そうともせず。絵美はこの「続き」におおよそ想像がついた。間もなくそれは「再現」される。
「私が入社二年目の時は、これくらい上司に訊かなくたってできたわよ?」
――出た!自分が新人の頃は出来ましたアピール!!
 絵美は自分の予想通りの結果に、思わず吹き出しそうになった。だけどもちろん、そうするわけにはいかなかった。彼女は唇をぐっと噛み締めた。
「要は、仕事に対する『意識』の問題なのよ」
 京子は諭す。絵美にはそれが欠けているのだと。だけど、彼女は知っている。「課長」や、社内の他の課のベテランから聞かされた「真実」を。

「へぇ~、あの長野がね~」
「アイツ、入社して何年かは本当に仕事できなくて――」
「仕事に対する『やる気』もなくて――」
「毎日、男性社員に『色目』使うことしか考えてなくて――」
「ミスも多いし、そのくせプライドだけは『いっちょ前』で――」
「何で『人事課』はあんな奴採用したのかって――」
「この会社始まって以来の『問題児』だってよく言われてたんだから!」

 絵美は「新人時代」の京子を思い浮かべた。当時の、毎日叱られてばかりの彼女を、それでも一部の男性社員からは熱烈なアプローチを受けていた彼女を。だけどその想像は、上手く「像」を結ばなかった。まるで遠い昔の「歴史上の人物」に思いを馳せるみたいに、「実体」を持たなかった。
 二十代前半の絵美にとって京子は、無駄に歳を重ねただけの「オバサン」に過ぎず、たとえかつては「若かった」のだとしてもそれは「過去の遺跡」に過ぎず、いわゆる「お局様」として敬遠され、いくら彼女が見え透いた「見得」を張ろうと、逆に若手社員に見下されるだけの「遺物」に過ぎなかった。
――今日は「何分」くらいかな…?
 絵美は、京子の隙を伺いながら、チラリと時計を確認した。果たして本日の「お説教タイム」はどれくらいかと、記録を測る。絵美は知っている。今日の京子は朝から機嫌が悪かった。というより、いつも不機嫌で「ブス」っとしているのだけど、今日は特に「虫の居所」が悪いらしかった。
――長くなりそうだな…。
 絵美はうんざりしつつ、心の中で「溜息」をついた。だが、彼女の予想に反して「お説教タイム」は、突如として中断されることになる。「ある人物」の登場によって――。

「それくらいにしてやったら、どうだ?」
 誰もが見て見ぬフリをする中、自ら進んで「渦中」に飛びこんできた者がいた。それは男性の声だった。絵美は俯いていた顔を上げた。そこには「課長」の姿があった。
 総務課の課長である○○はいわゆる「エリート」の部類に入る人間で、その「役職」を与えられる者としては若く、絵美が入社しこの課に配属されたのとほぼ同時期に「課長」に就任した。比較的「温厚」な性格の持ち主で、部下からの人望も厚く、彼が声を荒げたり部下を叱責するのを見たことのある者はいなかった。
 もちろん、京子より「年下」で入社歴も彼女より浅く、つまり彼女としては後から入ってきた者に「キャリア」を追い越されたことになる。それについて彼女がどう思っているのかは分からないが、彼女の事だからきっと「ハラワタが煮えくり返りそう」なくらいの「嫉妬」や「恨み」を抱えているに違いない。それでも京子の課長に対する態度は、そうした「負の感情」を少しも感じさせないものだった。
「課長~」
 さっきまでの「怒声」が嘘かと思えるくらい、京子の態度が一変する。一体彼女のどこからそんな声が出ているのか不思議なくらい甲高く、甘えたような声で、語尾には「ハートマーク」さえ付きそうだった。絵美は「吐き気」を催した。
「違うんですよ~、本田さんが私の言った通りにやってくれないから――」
 課長の前では「さん付け」をする。
「だから、ちょっと『注意』していただけなんです」
 あくまで「叱責」ではなく、「注意」だという。
「てか、これじゃ何だか私が『悪者』みたいじゃないですか~!」
「悪者」でなければ、お前は一体「何物」だと言うのだ。
「まあ、後輩の『指導』はこれくらいにしておいて――」
 それにしては、ずいぶんと長かったけれど。
「本田さん。次からはよろしくね」
 口角を不器用に吊り上げて、京子は不気味な笑みを浮かべた。絵美は背筋に空寒いものを感じた。京子は去っていく。
「私みたいに『優しい先輩』ばっかじゃないんだからね」
 去り際に、「余計な一言」を付け加えることを忘れずに。その場に取り残された絵美は課長と目を合わせて、「苦笑い」を浮かべるしかなかった。
 何はともあれ、これでひとまず絵美は「苦難の時」を乗り切ったのだった――。

 昼休み。いつも通り「一人ぼっち」の昼食を終えた京子は、「ある場所」に向かう。思えば、もうずいぶん長いこと、誰かと一緒に食事なんてしていないような気がする。
 京子の向かった先は――、「トイレ」だった。個室に入り、鍵を掛けて、きついスカートのホックを外し、ストッキングとショーツを同時に下ろし、大した「期待」もせずにしゃがみ込む。
 便器にまたがり、思いきり腹に力を込める。「肛門」が開き、奥の「モノ」をひり出そうと試みる。
――プスゥ~。
 手始めに「ガス」が放出されて――、それで終わりだった。肝心の「ブツ」は、うんともすんとも言わない。京子は「便秘」だった。
 京子は溜息をついた。誰かに向けた「失望」ではない。あえて言うなら、それは自分に向けられたものだ。もう三日間、京子は「排泄」を出来ていない。
――なんで…?
「三十路」を越えてからというもの、京子は食生活にはそれなりに気を遣っていた。「二十代」の頃は、好きなものを好きなだけ食べていたが、ここ数年、お腹の「たるみ」が気になり始めていた。少しは「痩せないと!」と思いつつも、長年染みついた食生活はそう簡単に改善できるものではなく、「今日だけ…」「明日からダイエット!」という甘い囁きに何度も屈した。そして結局、「誰かに見せるまでに痩せればいい」という極論に行き着くも、若くて男性に相手にされた頃とは違い、今や男性に見向きもされなくなった彼女にとって、その「機会」は一向に訪れる気配もなく、延々と「先延ばし」にした結果がこれだ。
 かつては「抜群」とまではいえないまでも、「それなり」のプロポーションを保っていた京子の体には醜い「脂肪」がたっぷりと付き、それが「加齢」と「重力」によって垂れ下がり、さらなる「醜さ」を表していた。

 それでもここ数日は、少しでも「快便」になるのを期待して、野菜を多く摂るようにしていた。京子は元々野菜が好きな方ではなかったが、いつもの食事に追加でサラダを買って、無理してそれを食べた。それなのに――、「うんち」は彼女の性格と同じく、「凝り固まった」ままだった。
――どうして、私ばっかりこんな目に合わなくちゃいけないの?
 京子は考える。思えば自分の人生は、「不条理」と「不平等」の連続だった、と。周りと同じように、いやそれ以上に努力しているつもりなのに、なぜか「自分ばかり」結果が出ない。普段は適当にやっているくせに、ここぞという時だけ努力し、あとは持ち前の軽薄さとノリの良さだけで乗り切る連中ばかりが評価される。かといって、自分が連中の真似をしようと試みると、なぜか「自分ばかり」叱られる。まったくもって「不条理」だ。
――それもこれも、私が「ブス」なせいだ。
 京子は「自分ばかり」が不遇な扱いを受ける原因を、いつからか自分の「容姿」のせいだと断定することにした。自分の容姿が悪いせいで、仕事が、恋愛が、受験が、就職が、「全て」が上手くいかない。京子はいつしか、そう思い込むようになった。学生時代はその容姿が原因で、酷い「いじめ」に遭ったこともある。その当時はそんな自分の容姿を疎み、そのような姿に産んだ母親を憎んだりした。けれどある時点から、京子はそんな自分の考えを改めた。
――全ては「周り」が、「世間」が、「社会」が、「世界」が悪いんだ。
 京子は開き直ることにした。悪いのは「自分」ではなく、「周囲」なのだと。自分は何も悪くはないのだ、と。そう考えることで、少しだけ心が軽くなった気がした。
 そして、大学に入って「メイク」を覚え、自分の醜い容姿を化粧によって多少はごまかせるようになり、さらに一時期ハマった「ダイエット法」が功を奏し痩せたおかげもあり、これまでの人生では無縁と思っていた「異性」と初めて交際したことで、やがて彼女の中の冷たい「氷」が少しずつ溶かされていった。
 苦難の「就職活動」の末、「七社目」にしてようやく掴み取った「内定」。大して「やりたい事」でも「好きな事」でもなかったけれど、京子に「選択権」はなく、結局流されるままに、今の会社に入ることになった。そこには、京子の今までに「知ることのない世界」が待ち受けていた――。

 なんと、京子は男性に「モテ始めた」のだ。
 自分から行動を起こしたわけでもないのに、何人かの男性から言い寄られるようになった。最初は、学生時代によくあったみたいに、ただ「からかわれているだけ」なのかと怪訝に感じていた。けれど、違った。自分にわざわざ話し掛けてくる「異性」の後ろに、嘲笑を浮かべる「同性」の姿はなく、そこには彼女をいじめる者はいなかった。
 今にして思えば、それは京子の人生において唯一ともいえる「モテ期」というやつで、彼女にとってごく限られた「栄光の時代」だった。
 失いかけていた――とっくに失われていた「自信」を取り戻したことで、京子は変わった。まず、「身なり」に気を遣うようになり、学生時代は人の目が怖くて絶対に行くことができなかった「美容室」に通うようになった。金と労力を支払うことで、「醜い自分」が確実に「綺麗」になっていくのが嬉しかった。
 服や持ち物、下着に至るまで、なるべく高い「ブランド物」を買うようにした。これまで「お洒落」とは無縁だった彼女にとって、「高い物=良い物」という方程式は絶対的だった。
 京子は貰った給料のほとんどを「ファッション」に費やすようになった。当然、一介のOLにとってそれは手痛い出費となったが、そのぶん生活費を切り詰めることで何とかやりくりした。それに、当時の彼女には「ご飯」を奢ってくれる男性が「星の数」とは言えないまでも、「惑星の数」くらいはいた。そして、出費がかさむことで、ならばもっと仕事を頑張って出世しよう、という「前向き」な考えさえ、彼女には芽生えた。
 ところが、頑張れば頑張るほど、一生懸命になればなるほど、彼女の仕事は空回りした。至らぬ「ミス」が積み重なり、上司から叱責されることも増えた。すると、これまで京子のことを「憧憬」の目で見ていた同性たちからの評価は途端に失われていった。それでも彼女に「焦り」はなかった。
――自分にはまだ言い寄ってくる『男性』がいる。
 それが彼女の自信を担保し、彼女自身を甘やかしていた。
 やがて「同僚」たちは出世していき、あるいは「結婚」して退職していった。同じ課から「先輩」が徐々に減り、代わりに毎年「後輩」ばかりが増えていった。
 最初の頃、京子は後輩に対してなるべく温厚に接するよう心掛けていた。決して「理不尽」に叱ったりすることなく、「良き先輩」であろうと努めていた。

 だが、ある時京子は耳にしてしまった。自分のことを慕ってくれていると思い込んでいた「後輩」が、彼女の居ないところで自分の悪口を言っているのを。
――結局、何も変わらないじゃないか…。
 京子は失望した。自分が少しでもマシな存在になろうといくら努力しても、結局「あの頃」と何も変わらないのだ、と。「大人」になったことで「直接的」な悪口や嫌がらせは無くなったものの、ただ「間接的」、「陰湿的」になっただけで、その本質は変わらない。京子は下ろしかけていた「荷物」を抱え直し、脱ぎかけていた「鎧」を再び身にまとった。
――信じられるのは「自分」だけ。
 京子がそんな「結論」に行き着いたのは、すでに誰からも相手にされなくなった「三十路」一歩手前の頃だった。その時点ですでに、京子から外見の「美しさ」は失われていた。まだ「異性の目」を意識していた頃――、毎日セットしていた髪は櫛も通さずボサボサで、家事はほとんどしないのに手はカサカサで、若い頃に買い「勿体ないから」と捨てられずにそのまま着ている服はサイズが合わずパツパツだった。
 そして、京子は昔に――醜かった自分に、「後戻り」することになった。「一時期はモテた」という唯一の「優越感」を大事に抱えたまま――。
 元々、京子の「自信」は、自らの内側から「自発的」に芽生えたものではなかった。それはいわば、周囲からの評価の変化によって「自動的」にもたらせられたものだった。他者からの「評価」が無くなれば、立ちどころに失われてしまう頼りないものだった。それに、いくら多少の「自信」が生まれようと、彼女が長年抱えてきた「劣等感」を完全に払拭することまではできなかった。
――全部、周りが悪いんだ。私は何も悪くない。
 そうして、京子は全てを「他人のせい」にすることで、責任を転嫁することで、今日まで生きてきたのだった――。

 だが、今回ばかりは「誰のせい」にもすることはできない。「便秘」、それは他ならぬ「彼女自身」の問題であり、全ては彼女自身の中にその原因があった。
 いや、そうとも言い切れないかもしれない。京子はある「可能性」について思案してみることにした。便秘は確かに、「食生活」にその主な原因があるのだろうけど、それだけではない。「ストレス」によってもたらされることもある。何かの雑誌やテレビ番組で、そんなことを聞いた気がする。もしそうなのだとしたら――。
 自分のこんな苦痛を与えている原因は、「他人」ということになる。より具体的に言えば、「使えない部下」、「やる気のない後輩」である。彼女たちのせいで、自分ばかりがこんな目に遭っているのだ。
 そう考えると、京子は段々とムカついてきた。いけない、それがさらに「便秘」を悪化させるのだ。けれど、そうと分かっていても京子はその感情を抑えることができなかった。
――アイツらのせいで、どうして私ばっかりが…。
 苛々を込めて、京子はもう一度だけ思いきり括約筋に力を入れた。
 京子の肛門が「火山」のように盛り上がる。「火口」から「マグマ」と呼ぶべき「排泄物」が顔を出す。だが、それは冷えたマグマのように「強固」で、決して「噴火」してはくれない。京子が力を緩めるのと共に、「うんち」は再び腸内の奥深くに引っ込んでしまった。
――どうして、出てくれないのよ!
 もう少しなのに。もう少しで出せそうなのに。それは「頑固」に腸内に留まったままだった。「力の入れ方」を変えてみたところで、絞り出されたような醜い「屁」が出るだけだった――。

――はぁ~~~。
 京子は長い溜息をついた。今日もダメだった。一体いつになったら、私の「うんち」は出てくれるのだろう?もしかしたら、ずっとこのままなんじゃ…。
 京子は危機感を覚えた。けれど、「まさかそんなはずはない」と自分に言い聞かせる。
 いつかは出てくれるはず。けれど、それまでがツラい。「排泄欲求」を感じつつも、決して排泄できないという苦痛。お腹の中にずっと「異物」が溜まっているという感覚。肌の調子も心なしか悪いような気がするし、お腹だっていつも以上に出っ張ってしまっている。「うんち」をため込むことで、自分がより「醜く」なってしまったような、まるで自身が「うんち」になってしまったような、そんな気さえした。
――「浣腸」とか使った方がいいのかしら…?
 京子は考えた。自然にして出ないのなら、何らかの手段を講じるしかないと。けれど、それは「諸刃の剣」だった。「浣腸」というものが、どれほど恐ろしく、効き目のあるものかを京子は身をもって知っている。京子は思い返す。高校生の頃の「記憶」を――。


 当時の京子もまた同じように、「便秘」に悩まされていた。というより、それは彼女自身の体質による部分も大きく、「暴飲暴食」を繰り返していた二十代のある「一時期」を除いて、彼女の人生は「排泄の悩み」と共にあった。
 そして、長年続く「悩み」に耐えかねた京子はついに、新たな「一歩」を踏み出すことにした。薬局でそれを買うのは恥ずかしかったが、そもそも人と接すること自体が苦手だった当時の彼女にとってそれは、せいぜい「度合」の問題でしかなかった。
「浣腸」を買った京子は、早速それを試すことにした。「取扱い説明書」さえロクに読まずに、朝起きて一番にそれを「注入」した。
――全く効果が、なかった。
 と、失望した京子はそのまま学校に行くことにした。「無駄遣い」を惜しみつつ、徒労を省みつつ――。京子が強烈な「便意」に襲われたのは、それから数分後だった。
「お腹痛い…」
 その時、京子は電車に乗っていた。周りは、同じ高校に通う生徒ばかりだった。ほとんどの者が「友人」と談笑しているにも関わらず、彼女は「一人」だった。
 だけど、今ばかりはその方が都合が良い。京子は思った。今はとても誰かと話している余裕はない、と。
 京子は耐えた。普段はあれほど「出したい」と踏ん張っている括約筋を、まさか「出すまい」と使うことになろうとは――。
 京子は堪えた。電車のわずかな振動さえ、今の彼女にとっては「命取り」だった。「ガタン、ゴトン」と揺れる度に、「ガス」が、「実」が少しずつ漏れ出してくる。だけど、まだ「全部」が出たわけじゃない。生徒たちは誰も京子の「異変」には気づかず、「お喋り」を続けている。
 そして、京子たちの通う高校の「最寄り駅」に着いたとき――「油断」したのだろうか――彼女の肛門は緩み、ついに「崩落」を迎えた。

――ムリュリュル…!!

 パンツの中が「熱く」なり――それは「温かい」なんて易しいものではなかった――「うんち」が溜まっていく。「ダメ!!」と分かっていても、止めることなんて出来ない。それは次々に生み出されていく。「どうか誰にもバレないで!!」というのも無駄だった。パンツの中に収まりきらない「うんち」は、やがて床にもこぼれ落ち、「衆人環視」に晒されることになる。
――きゃあああ~!!!
 最初に気づき声を上げたのは、京子の最も苦手な――毛嫌いするタイプの「女子」だった。
「うわっ!アイツ「うんこ」漏らしてね!?」
 そして、男子が「拡散」する。京子が「脱糞」したという事実を。しかも「電車の中」で、「大便」を、漏らしてしまったという現実を――。

 京子の「お漏らし」の噂は、すぐに学校中に広まった。まるで「連絡網」のように、余さず全員に伝わった。
 それには彼女の「脱糞」のせいで被害を被った、ある「企業」の存在もあった。
 彼女が電車内で「脱糞お漏らし」をしたことで、健気に走る「ローカル線」は一時「運休」を迫られたのである。

「△□線、一時運転見合わせ。原因は女子高生の『脱糞』か!?」

 そのような記事が「地方紙」に載ってもおかしくなかった。ただでさえ「事件」の少ない田舎にとって、それくらいの「大事」だった。けれど、さすがに京子の「脱糞お漏らし」が記事になるなんてことはなかった。
 それでも、翌日には学校中の「全員」が、京子の「失態」を知っていた。そのとき彼女は、「情報伝聞」の恐ろしさを痛感したのだった。
 京子には自らの犯した「過ち」に相応しい、まさに「身から出た錆」とも呼ぶべき「汚名」が与えられた。

「うんこちゃん」、「お漏らし女」、「脱糞姫」――。

 次々と名付けられる「愛称」と浴びせられる罵声に、京子はじっと耳を塞いでいることしかできなかった。
 すでに「いじめ」の対象となっていた彼女に対して、「加害者」たちはまさに格好の「材料」を得たのだった。そして、「一人ぼっち」の彼女を庇ってくれる者は、誰一人としていなかった――。


 そんな「トラウマ」があるせいか、京子は「浣腸」を使うことを忌避していた。
――もし、またあの時みたいに「失敗」してしまったら…。
 会社において、「トイレ」に行けない場面というのはそれなりにある。もし、その時に「便意」を催し、「限界」を迎えてしまったら――。
 京子はあれ以来、一度も「浣腸」を使用することはなかった。だけど、今回ばかりはさすがに――。
――このまま「出ない」苦しみに苛まれるくらいなら…。
 京子は思う。自分はもう大人なんだ、と。自分の体質とは長年付き合ってきたのだ。だからこそ大丈夫だ、と。もう「失敗」はしない、と。
 それに、いくら「会議中」などとはいえ、その気になればトイレに行かせてもらうことはできるはずだ。何たって、それは「生理現象」なのだから仕方がない。まさか「禁止」されるなんて、そんな「パワハラ」「セクハラ」じみた命令をされることはないだろう、と。
 京子は考える。
――そうだ、家に帰ってからなら…。
 帰宅してから次の「出社」までには、さすがに「便意」は訪れてくれるはずだ。その間は彼女にとっての「自由時間」だ。何に阻まれることもなく、いつだってトイレに駆け込むことができる。
 あの時は、「浣腸」の時間差による「効き目」をよく知らずに、自ら「閉鎖空間」に飛び込んだからこそ、あんなことになったのだ。浣腸の「恐ろしさ」を知っている今なら、きっと――。
――今日、帰りに「浣腸」を買って帰ろう。
 京子は決意した。それによって、この長い「苦しみ」からは、たとえ「その場しのぎ」であろうとも、「おさらば」することができる。彼女の中に「光明」が差した。
 そうと決まったら、ここで無理に「出す」必要はない。京子はトイレットペーパーを取り、自分の尻を拭いた。ペーパーには何も付かなかった。「うんち」は奥底で眠ってしまったらしい。それを呼び覚ますのは「今夜」だ。
 京子が「空白」の便器を水で流し、ショーツを履き直し、ストッキングを整えるために立ち上が――り掛けたその時。個室の外から「話し声」が聞こえてきた――。

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