第2回 銀河一わかりやすくするための文章講座~応用編~

今回のテーマ

前回は基礎編ということで、基本的な文法について書いた。
今回はもうちょっと具体的なテクニックを書いていこうと思う。
あくまで読みやすくするための書き方なのであしからず。


センテンスは短くしろ

文章を書く時、ついつい長文にしてしまう人がいる。私だ。
長文、というのは基本的に読みづらい。なぜなら、文章が長くなると自然と文節が多くなり、意味がとっちらかってくるからである。
なので、なるべくなら長文は書かない方がいい。

路地からずんぐりとした男が現れた。
ナイフのように鋭い眼差しをこちらに向けている。
来る。
途端、男はポケットから手を抜き、一気に距離を詰めてきた。
貫手。
狙いは喉笛。
必殺の威力を秘めたその一撃を俺は辛うじてかわした。
腕をとり、捻り上げた。
しかし、男は猿のように身をひねって逃れた。

このように体言止めを用いたり短文で区切ったりするのは展開にスピード感を持たせる、という効果がある。
格闘や思考する時間がない場面、などを描く時に有効だ。
ただ、このように詰めすぎると書き飛ばしやすい。
この場合だと男の服装や風貌などの細かな特徴、踏み込み、男の息遣い、当たったらどうなると予想されるか等の描写を入れることも出来るが、スピード感を優先しそれらを省いている。もちろん、この直後に、改めて男と対面した時に必要なディティールを挿入してもよい。何を優先的に描写するかは慎重に選択しなければならない。

また、長文で分かりにくい文章も、複数の文にわけることで読みやすくもなる。

まだ昼であるにも関わらず折り重なった樹冠に陽光は遮られ、じめじめと不気味な暗さを醸しだし、梢を抜ける光が希少であるにも関わらず、下生えが青々と林床を覆い、進むたび擦れてがさがさと音を立てる。

そんなに読みにくくは無いけど息の長い文章の例として昔書いたやつを。

まだ昼であるにも関わらず折り重なった樹冠に陽光は遮られ、辺りは暗く、じめじめとしていて不気味だ。
梢を抜ける光が希少であるにも関わらず青々と林床を覆う下生えが、進むたび擦れてがさがさと音を立てる。

整理すればこんな風になるかな? 主語と述語が明瞭になって読みやすくなったと思う。

この文章をもっと簡略化するとすれば、

まだ昼であるにも関わらず辺りは暗く不気味だ。
下生えが林床を覆い、進むたびにガサガサと音を立てる。

ここまで短くすることも出来る。ただし、描写としては短ければよいというものではない。
この場面では、昼間なのに辺りが暗いこと、光が届かないのに緑が生い茂っていること、であるため「梢を抜ける光が希少であるにも関わらず」という一文を削ると意味が変わってくる。
重視するべきは短さよりも何を伝えたいか、描写においてどの言葉が重要か、である。そのうえで読みやすくしなければならない。

長文が書きたいときは

しかし、どうしても長文が書きたい時はある。
長文を書き散らかすのは、愉しいからだ!
そういう時はいくつかのポイントを気を付けて書くと理解しやすくなる。

主語は早めに持ってくる
主語が文のはじめの方に出ていると、誰の動作を書いているかわかりやすい。


ただし、主語を頭にもってくる構成が連続すると―ー横書きの文章だと特に―ー少しぎこちない感じになるので注意。


太郎は壊れたクーラーのことを気にかけながら話した。
花子はぼーっとした表情でそれを聞いている。暑さにすっかり参っているようだ。
太郎は心配になって彼女に駆け寄った。


主格が同じ場合は、主語を省くとこれを避けられる。ただ、この形の文章は誰が何を、というのがわかりやすいので、特に気になる、という場合でなければ崩す必要はない。

誰が、を強調したい場合は最後に持ってくる。

古くから愛玩動物、羊の番、狩りの友など様々な役割を担ってきた動物、

述語と主語の対応に気を付ける
日本語は主語と述語の間に文が挟まるという構造になっているので、述語と主語が対応しなくなってしまうことがある。そうなった場合意味が理解しにくくなるので、意味が通じるように主語を挿入したり述語をいじったりしよう。

基礎編でも出したがもう一度例として。

今月実装された新しいキャラは、見た目も可愛く性能も優れており、ユーザーにおおむね好評で、売り上げの増加を期待している。

ぱっと見なんとなく理解できてしまうかもしれないが、主語である「新しいキャラ」は述語である「期待している」にかかっていない。これでは、新しいキャラが売り上げの増加を期待しているととれてしまう。

そういう場合は

今月実装された新しいキャラは、見た目も可愛く性能も優れており、ユーザーにおおむね好評で、運営は売り上げの増加を期待している。

というように、期待している主体をつけたしてやるとわかりやすくなる。
あるいは、

今月実装された新しいキャラは、見た目も可愛く性能も優れており、ユーザーにおおむね好評で、売り上げは増加するだろう

このように変えてしまってもわかりやすいだろう。

思いつくままに書いてしまうとこのように主語と述語がねじれてしまうので、注意した方がよい。


意識して接続語をつかう
そして、また、あるいは、だから、さらに等を使うと文意が明確になったり、その文と前の文との関係がわかりやすくなる。
使いすぎると邪魔なので連続しないように気を付ける。しかし、であるが、等の否定が連続すると混乱するので避ける。

読点を適度に入れる
「、」を入れることでどこで文章が区切られているかわかりやすくなる。
文節ごとにいちいち入れる必要はないが、どこで区切ると文章がわかりやすいか、というのを考えよう。声にだしてみるというのもアリ。

何のことを書いているかは明確に
長文は主語と述語が2つ以上出てくる複文や重文になることが多い。ここでは複文だけを例にとるが、2つ以上の文章が連結している場合に主語を省略すると奇妙な塩梅になってしまう。

秘部には太い張型が挿入され、根元まで挿入しては出しを繰り返して愉楽に耽っている。

例えばこの文章では、前文の主語は張型だが、後の文では出し入れしている人物を指す彼女が省略されてしまっている。
そのため、張型が快感を得ているかのようにさえ読み取れてしまう。

直すとすれば、

秘部には太い張型が挿入され、彼女は根元まで突き入れては出しを繰り返して愉楽に耽っている。

ただこれだと少しぎこちないので、

彼女は秘部に太い張型を挿入し、根元まで突き入れては出しを繰り返して愉楽に耽っている。

彼女の動作にまとめてしまう方がいいだろう。あるいは、

秘部には太い張型が挿入され、艶めかしい抽送のたびに彼女の口から甘い声が漏れる。

というように張型の状態とその後で、動作によって引き起こされる結果を描写する、という形で整理するとわかりやすい。
唯一の正解、というものは無い(ただし間違いは存在する)のでどのようにすればすっきりと理解できるか、ということを考えて書こう。重要なのは文章の流れ。

秘部に挿入された太い張型が艶めかしく出入りするたびに、彼女の口から甘い声が漏れる。

山葵だったらこのように(以下B)直すか、彼女は~という2番目(以下A)にすると思う。
同じ行為を描写しているが両者には違いがある。
Aの場合は彼女の乱れた様子に重点を置いているため彼女中心の描写をする時にはこちらを選ぶ方がよい。

Bの方では張型に犯されているような印象を与えるため、誰かにさせられている場合や、彼女自身がやりたくないと思いつつ快楽を求めている場合はこちらの描写を選択する方がよい。

このように、どんな場面を描きたいか、ということで選択する描写や語彙は変わってくる。やはりここでも何を伝えたいか、ということが大事である。

流れるような長文
1つの文章の中に色々なことが詰め込まれていたとしても、ある一つの事柄について描写していたり、ある視点から見た連続した景色を描いていたりすると、その描写は頭に入ってきやすい。


一葉は、その男の、幼年時代、とでも言うべきであろうか、十歳前後かと推定される頃の写真であって、その子供が大勢の女のひとに取りかこまれ、(それは、その子供の姉たち、妹たち、それから、従姉妹いとこたちかと想像される)庭園の池のほとりに、荒い縞の袴はかまをはいて立ち、首を三十度ほど左に傾け、醜く笑っている写真である。

太宰治の人間失格より引用。
写真の中の子供の姿を描いている。
古い写真の中の子供の描写をカメラがズームインするように、周囲の様子→服装→ポーズ→表情と少しずつ描いていっている。このため、読み手は子供の姿を少しずつ、より鮮明に脳裏思い描くことができる。
太宰治は私小説でよく息の長い文章を書くが、かなりまとまっているので参考になると思う。

例2
獣さえ道に選ばないような昼なお暗い藪、下生えのクマザサを音を立ててかき分け、重く垂れた梢をサバイバルナイフで打ち払い、ダラダラと続く勾配を、重たい身体を持ち上げるようにして頂上まで登ると、鬱蒼とした木々が途切れ、パッと視界が開けた。

これも長文だが、山を歩く上で出くわした障害や体の動きを一つ一つ順番に書いているため、分かりやすい。前半部分の主語は私、あるいは男は、女は、だが書く必要が無いので省略している。
このように書くことで、山を歩いている人物と同じ風景を想起させ読者を物語に引き込もう狙いもあるし、あるいは、歴史上知られる人物の旅の道行きを一つ一つ活写していくことで、主格を書かずとも誰それである、と言う風に理解させるということもできる。

並列や比較が含まれる長文
1つのことに対する描写を列挙する長文は構造が決まっているのでわかりやすい。

身体が、皮膚が、筋肉が、血管が、骨が、髪の毛の一本一本が、細胞の一つ一つが、いや、自己を構成するあらゆる原子が歓喜しているかに思えた。

○○が、という風に主語が沢山並んでいるため基本的な文法からは外れるが、表現しているのは1つのことであり、主語のそれぞれは同様の意味を持っているため意味がブレない。

またここに列挙されている○○が~というのは肉体に関係するもの。同種の単語であれば挿入しても違和感はない。ただし、この書き方の場合ばらばらに列挙しているのではなく、より大きなもの、外側にあるものから順番に書いている。そのように、徐々にフォーカスしていく等法則性を持たせる方が描写としては綺麗である。あえてランダムに列挙するのも、語り手の錯乱を表現する時などの効果がある。

疲れた顔でスマホの画面に見入るサラリーマン、むやみに大きな声で騒ぐ制服姿のJK、弾き語りのお兄さん、段ボールを抱えた人生の落伍者、甘ったるい匂いを振りまく出勤の派手なコートの女性、リュックを背負ったイスラム系と白人の二人組、人生に楽しいことしかなさそうな大学生の群れ。繁華街にはたくさんの人がいて、僕の人生とはきっと交わらないであろう彼らはそれぞれ自分の向かう場所目指して歩いている。

拙作「僕が援交爆乳JKに搾られて~」から引用。
行き交う人々を列挙することで一つの風景にしている。描写の中には要素の一つ一つには大した意味はなくとも、全てを合わせると一つの意味を持つ、あるいは描写を補強するものがある。また、それぞれの人物に対する描写には、語り手がそれらの人をどのように見ているか、主人公の人格の描写、心象の描写、という面もある。小説における描写は決してニュートラルなものばかりではなく、ニュートラルである必要もない。
作者が正しくないと思っていても、語り手が正しいと思っている価値観で語ることはよくあることだ。

擬態語・擬音語を使う

じめじめ、うじうじ、ジャンジャン等の擬態語や、
ゴロゴロ、じゅるじゅる、カラコロなど擬音語は、
文章を柔らかくする効果があるため、使い過ぎない程度に入れておくとよい。
多用しすぎると逆に読みづらい。
また、硬い文章では特別な意図がない限り使用を控えた方がよい。

特別な意味がない限り同じ意味の文章は続けない

僕はおっぱいにしがみ付き、彼女から与えられる母乳を吸っていた。片手には収らないおっぱいを掴みながら、僕はその母乳ミルクを味わっている。

この2文はほとんど意味が重複してしまっているので無駄が多い。
整理するには2つの方法がある。
1つは2つ目の文章を完全に削ってしまうという方法。
もう一つは、2つ目の文章を情報の補足にするという方法。

僕はおっぱいにしがみ付き、彼女から与えられる母乳を夢中で吸っていた。
片手に収らないおっぱいの柔らかさ、温かさ。
溢れ出るミルクの蕩けそうなほど甘い味わい。
ああ、なんて幸せなんだろう。

体言止めにすることによって描写を強調し、心情を端的に書くことによって共感を促す。という効果を狙っている。同じ意味のことを繰り返してしまっている場合は、書き足りない、と感じていることが多いので、どういった要素を伝えたいか、ということを意識するとよい。

描写したいことが思いつかない場合はばっさり切ってしまうのもアリ。
重要なのは読み手に何を伝えたいか、ということ。

体言止めは適度に

非常に便利な体言止め。
た、だ、る、などで区切るよりなんとなくリズムがいい感じ。
ただ頻出しすぎるとなにを言いたいのか不明確になる諸刃の剣。

体言止めというのは、強調する目的や歯切れの良さを求める時に使うことが多いだろう。
しかし、連続しすぎた場合安っぽくなってしまうし、最後の単語が強調されるという性質上、正確に意味が伝わりづらくなってしまう。

文字数を詰めたい新聞記事やラジオの投稿、詩や歌詞、Twitterの呟きなどでは重宝するが、小説などでは頻出を避ける方がよいだろう。

また、倒置法も強調する意味では重宝するが、使いすぎると気になるので適度に、あるいは、ここぞという場面でのみ使うように心がけよう。

物のありすぎる部屋。
ゴミとゴミになりかけている私。
絶望を感じない絶望。
うるさくてかなわん。
誰か止めてくれ、あの声を。
うるさくてかなわん。

こういう風に短い文章で、強烈な印象を与えたい場合は倒置法や体言止めを使ったり、同じ文を繰り返そう。

どのように書くかは常にコントロールしろ

自分が何の目的でこの文を書いているのか、この描写をしたのか、理解しながら書いたり添削したりした方がいい。
何で書いたのかわからないが、この一文が必要だと感じる、ということはまれにあるが、そういった強烈な確信がない場合、ちゃんと自分で筆致を制御しないと、無駄なことばかりの読み手に優しくない文章になりがちである。

自然と筆が~とか、キャラクターが勝手に動いて~とか、そういう話があるが、あれはヨタである。そうでなければ当人が思い込んでいるだけである。
時々本当に自動書記的に書き上げてしまう人もいるし、私も必然性を重視して描く場合もあるが、どのように描くかは作家が意識して決定すべきと考える。
漫然と書くな。演じろ。作為しろ。芸術性とは人工のものだ。
どういう描写をしたいか、何を描きたいか、何を伝えたいか、そのためにはどのような言葉を用い、どのように書けばいいか、考ろ。

第1回 銀河一わかりやすくするための文章指南~基礎編~

第3回 銀河一わかりやすくするための文章講座~語彙編~


今回はここまでにしておこうと思う。やっぱり長くなるな。
もし、この事柄について教えて欲しいというのがあれば記事のコメントかTwitterのDMか質問箱までくれ。

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