フリーセンテンス 2022/12/16 00:00

苗床聖女の受胎獄痴 暗黒の襲撃編5

「「うわああああああああああああああッッッッ!」」
本気を出した暗黒生物たちの総攻撃に、油断した人間たちは成す術がなかった。隙を突かれたため、軍隊として組織的に戦うこともままならず、卵の薄殻を踏み潰されるがごとく最初の一撃で粉砕されてしまった。そして、自分たちがしてきた行いの報いを受けたのだった。すなわち、生きたまま目玉を抉られ、皮を剥がされ、歯を抜かれ、内臓を引きずりだされたのだった。
「た、たすけて、たすけてくれえぇぇえぇぇ・・・・・・」
「や、やめてくれ、たのむ! もうやめてくれえぇぇえぇ・・・・・・」
「ひぃぃぃぃ! し、しにたくない、しにたくないぃいぃぃいぃぃ・・・・・・」
それは驕り高ぶった勝者の声ではなかった。哀れな敗者そのモノの悲痛極まりない声であった。
 暗黒生物たちの総攻撃を受け、最初の一撃で命を失わずにすんだ者たちは、戦意を喪失し、夜の闇に紛れて逃げ散っていった。だが、その運命は悲惨を極めた。
野垂れ死ねた者はもっとも幸いで、多くの者は逃げた先で暗黒生物たちに捕まり、ありとあらゆる苦痛を与えられて殺された。自らの努力と才能、そして多分の幸運により、死ぬよりも辛い経験をしてもどうにか生き延び、人界の地に戻ることができた者もいたが、その数はとても少なかった。かくして一万八〇〇〇人の討伐部隊はそのことごとくが暗黒の大地に溶け去ってしまったわけだが、彼らはまだ幸いであった。男だったから。
 暗黒生物たちの総攻撃を受けた時、ティリエルは自分の天幕で眠りの神の寵愛を受けていたが、外から聞こえてきた悲鳴と怒号を聞いて飛び起きた。
「な、なにッ!? 何事ッ!?」
身支度を整える間もなく天幕の外へ飛び出した彼女が目にした光景は、暗黒生物たちによる報復と殺戮の饗宴だった。
 味方の兵士たちが悲鳴をあげながら口々に助けを求め、泣きながら逃げ惑い、そしてこれまで見たこともなかった強大な暗黒生物たちに次々と無慈悲に殺されてゆく光景を目の当たりにして、ティリエルの勇気はたちまち蒸発してしまった。
「いやああああああああああああッッ!」
 叫び声をあげたティリエルは、我を忘れてそのまま逃げだした。武器も持たず、靴も履かずに裸足で、そして味方を見捨てて。
かくして現在にいたる。
 戦いもせず、陣から逃げ出したティリエルは、必死の逃走の果てに追い詰められてしまった。いまや自分よりも遥かに巨大な数十匹の暗黒生物たちにされてしまっており、それはさながら、一匹のネズミがネコの群れに取り囲まれた光景に酷似していた。
しかし、この後、彼女の身に起こるであろう恐怖と絶望は、ネズミが辿る運命の非ではなかったに違いない。


お読みくださって、本当にありがとうございます(´ω`)

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