whisp 2020/04/06 13:56

書き下ろしショートストーリー「ご開祖とちまとアマビエと」(進行豹

「ご開祖とちまとアマビエと」
2020/04/06 進行豹

///

「あー、ひまっスね~。ま、ものべのくらいに閉鎖的な土地だと、外出自粛がかかってるのにフラフラだとか、一撃で村八分案件っしょ?」

「そーにゃ。ありすさんのお父にゃんが『外出は控えてください』っていったから……。
この状況だと、ひめみやが言うより村長が言うより効果絶大にゃ」

「そりゃ出歩けないっスよね~。
まぁ自分も? 病止祈祷できるっちゃできるっスけど、
大人数にとかしたら要求される返(かや)りデカすぎて、こっちが根の国で療養することになっちゃうっすから……
みんなが自粛に耐えてくれてるのは正直めちゃくちゃありがたいんっす。
ありがたいし、助かるんスけど」

「それとヒマすぎなのは話が別にゃ。ちまさまも、DNA形? とかいうのは猫のはずにゃけど、
万が一にもありすさんにうつしちゃったらイヤにゃから、スマホでしかおしゃべりできてにゃくって寂しいニャア」

「ってその言い方だと、アレすよね?
今こうして直接話してる自分になら感染してもかまわないっていってるのと同じことっスよね」

「おなじことにゃ。だからヒマつぶしに来てるのにゃ」

「随分っスねそりゃ」

「そもそもご開祖ちゃん、カミ様なんだから人間の病気になんかかかるわけねーにゃ」

「とは断言しきれないっスよ。なにせ得体の知れない新型の――♪(ぽろん!)――おや」

「DINEの着信にゃ? ご開祖ちゃんDINEにゃんてしてるのにゃ?」

「ってか、ちまこそよく知ってるっすね――お!」

「誰からにゃ?」

「アマビエっスよ。アマビエ」

「にゃーーーー! いまあやかし界で話題沸騰! 一気に世界一番人気に駆け上ったあやかしにゃあ!!」

「そスそス。いや、この騒動が起きる前には、アマビエ、それこそ忘れさられかけててひからびそーなあやかしだったっしょ」

「そーかにゃ? 人気アニメにちょっと前でて、それで随分知名度あがったとかなかったかにゃ?」

「そのときはよくても、アニメ人気は移り変わり激しいっすからね。
先々のことを考えて、ものべの移住も考えては? って、自分、誘いをかけてたんスよ」

「センケンノメイってヤツにゃ」

「アマビエもまぁまぁ乗り気だったんスけど――この騒動で一気に知名度が跳ね上がって――
ってか、本当に世界一有名なあやかしになっちゃったっすからね。
『状況どうスか?』ってDINE、ずーっと未読スルーになってたんっスよ」

「んにゃ!? アマビエもDINEやってるにゃあ!!?」

「そりゃ、わざわざ人間のとこいって、
『疫病のときには自分のブロマイドを拡散させるといい』とかアドバイスするほどに人間好きなあやかしっすからね。
流行り廃りのことなんかは、自分なんかより百万倍詳しいっすよ」

「意外にゃあ――ってか!? いまので返事きたんにゃ!? なんて書いてあるのにゃあ!?」

「ん…………。ああ――。要約するとっすね。
『いまは疫病鎮めるのにいっぱいいっぱいで、とても移住のことを考えられる状況じゃなくなっちゃいました』って感じすね。
『だからいったん、移住話は白紙にしてください』って」

「にゃー、そりゃそうにゃ。世界中で似顔絵めちゃくちゃ拡散されて、それの全部に加護与えるとか――
考えたにゃけでも気がとおくなるにゃ」

「その状況でわざわざ返信くれたんスから、ほんっと律儀なあやかしっすよね……あ」

「にゃ?」

「続きっす、えと――……
『けれど、疫病が去り、アマビエのことを誰もが忘れてしまう世の中の方が、アマビエにとってもしあわせです』
『だから、もしそのときが来たら。いえ、そのときができるだけ早まるようにしますから。そうしたら、あらためて移住のご相談をさせてください』
――だ、そーっすよ」

「んにゃー、アマビエめっちゃいいヤツにゃ」

「そうっスね。――ってか、自分もやるき出てきたっす!!!
悪疫退散、少しでも支援できるよう、祈祷のひとつもやってやるスよ!!!」

「にゃにゃ! それがいーにゃ!
ちまさまはできることなんにもにゃいから、おとなしく、人とあわないところでぐうすかお昼寝に戻るにゃあ」

「いやいや、それも立派な。とても大事な、『できること』っスよ!」


;おしまい

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

月別アーカイブ

記事を検索