whisp 2020/06/13 20:47

オリヴィ誕生日SS『Olivi's BirthDay@Hisatsu Mikan Line』(進行豹

2020オリヴィ誕生日記念SS 
『Olivi's BirthDay @ Hisatsu Mikan Line』
2020/06/13 進行豹


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「うあーーー! 疲れたー! けど楽しかった!!!!
今年もすごかったねー! Birthday Party!!
Ⅸ号、おんぼろの入換機なのに!
オリヴィ、ジェネリックレイルロオドなのに、
kindergartenのちびっこたち! たくさんたくさん来てくれて!!」

笑う。

溢れんばかりの喜びにほんのわずかなはにかみを混ぜ、
くしゃっと明るい、九十九の大好きな顔をして。


「オリヴィ先輩のご人徳です」

「ツクモはもー! いっつもお世辞ばっかりいってー。
でも――へへっ! お世辞でもうれしいし、もしもお世辞じゃないんならもっとうれしー!
ありがとね! 本当に!!」

……お世辞でなんてあるはずがない。

大廃線で一度は廃車された九十九と九十九のC56 99――
ゴミ処理施設にひきとられ、いつ解体されてもおかしくなかった九十九たちを……

『ね、このこすっごく状態いいよ! まだ走れるよ!!!
Ⅸ号よりずっとずーっとずーっとたくさん、客車も貨車も牽引できる!! 絶対!
ね、ムナカタ! Presidentにすぐ電話して!!』

だなんて――


タチのわるい冗談はよしてほしいと思っていたのに――あのひとことで。九十九とC56 99は救われた。

「ツクモはほんと、すごいよね!
毎日毎日の乗務だってオリヴィの何十倍も大変なのにさ!
あんなにWonderfulなBairthDay Partyの準備まで! オリヴィなんかのために」

「“なんか”だなんて、言わないでください」

九十九とC56 99がタダ同然で引き取られ、オリヴィ先輩の見立てどおりに、本当にわずかな補修で本線を走れるようになると――
速度に乏しいⅨ号は――Ⅸ号とオリヴィ先輩は、入換機へとまわされた。

それを最初から承知していて。

みかん鉄道の経営状態を改善するために。
その功績でムナカタ機関士に花を持たせてあげるために。
そうして、九十九とC56 99を再び走り出させるために――

オリヴィ先輩は、レールを鮮やかに九十九たちに譲ってくれた。

「オリヴィ先輩のご人徳です。本当に、全て」

九十九は、とても口下手だ。
思考していることの1/100も言語化できない――言葉にして口から発声することができない。

もはや改修しようもないと諦めきっているその不具合が、いまだけはとても恨めしい。

「あはは! ありがとー!」

伝えたい。
どれほど感謝しているか。

感情レベルまで共感を開放してもらえたのなら――残さず全部伝えるのに。
あなたがどれほど、九十九に勇気をくれたのか。こうして一緒にいるだけで、どれだけ勇気を与え続けてくれているのかを。

けれどオリヴィ先輩が、感情レベルまでの共感を開放したことはない。

それは恐らく……
誰がみたってミエミエでバレバレの、だからこそ尊い感情を、とても上手に隠せていると、ご自分では信じているからだろう。

微笑ましくも可憐で切実すぎる想いを、踏みにじりたいとは思わない。
だから決して九十九から、感情レベルの共感を求めることはできないし――だから。感謝も伝えきれない。


「でもさ、ひょっとしてもしかしたらさ。
ツクモがしてくれるBirthDay Partyも」

「っ!」

「あー、やっぱりツクモも聞いてるんだー。
じゃ、いよいよ本当なのかもねー」

口下手なのに、顔には出る。どうしようもなく情けない。

「ね? ツクモはさ、新しい機関車、なにが来るのかとかまで聞いてる?」

「C12だと……噂にすぎませんけれど」

「廣島のツテって話でしょ? 御一夜鉄道の社長が紹介して、モーターカーもおまけについてくるって」

……うなずく他に、何もできない。
九十九が聞いていることと、ただ一点の相違もないから。

いや、どうせなら言ってしまおう。
オリヴィ先輩にこれ以上、苦しい言葉を言わせたくはない。

「御一夜鉄道の社長が、オリヴィ先輩とⅨ号を切望していると聞いています。
湯医線での客車牽引を任せたいといっていると」

――ああ、うまく発声できた。

「それがもしもホントならさ! とってもありがたいお話だよねー!!」

――うまく発声、できないほうがいくらかマシだったのかもしれない。

九十九が世界で一番好きなのは、オリヴィ先輩のはじける笑顔で。
九十九が世界で一番見ていて辛いのは――オリヴィ先輩の作り笑いなのだから。

「入換もすっごく楽しいけどさ! 本線走るの、やっぱりウキウキわくわくするし!
お客さん乗せるのたのしーし! それに、御一夜鉄道のハチロク、すっごいレイルロオドだっても聞くし」

それは本当なのだろう。
けれど、本当はひとつではない。いくつだってある。

もしもそう運んでしまうなら、オリヴィ先輩は……

九十九に、
みかん鉄道に。

――そして宗方機関士に、別れを告げることになる。

「オリヴィもその噂聞いてたからさ、今年のBirthDay Party! いっつもよりももーーーっと嬉しかったんだ!
だってこれがひょっとしたら、みかん鉄道での……ツクモが開いてくれる最後の」

「最後になんて、させません」

「へっ!??」

声を出す。
そのことだけに、処理能力を全振りする。

思考をそのまま垂れ流す――思いをそのまま、ただただ言葉にしたいと願う。

「御一夜鉄道にもしもオリヴィ先輩が転属するとしても。引退後には、必ず帰ってきてください。
教導レイルロオドとしてでも、その他のどんな立場でも」

「ツクモ……」

「九十九とC56 99は、みかん鉄道を支えます。
オリヴィ先輩が帰ってきてくださる場所を、必ず守り続けます。
ですから、もし――
もしもひととき、御一夜鉄道へご転属されることとなっても」

「Thanks a lot! My best friend!」

「え?」

聴覚センサがほとんど機能していなかった。
ああいや、というか――

「いまのは、もしかして詠語でしたか? 九十九は、詠語はほとんど理解できなくて」

「あははっ!!」

ああ。笑顔だ。
本物の。底抜けの。九十九の大好きなオリヴィ先輩の。

「ね? ツクモ、オリヴィ、おねだりしてもいーい?
ツクモでもわかる詠語で、kindergartenのちびっこたちもたくさんたくさん今日オリヴィにくれた言葉を、
だけどオリヴィ、今年はツクモから、まだもらってないから!」

「あ」

そうだった。
やることと気がかりに囚われすぎて、一番伝えるべきことを。一番伝えたいことを。
今年はまだお伝えできずにいるままだった。

「ハッピーバースデイ」

ぎくしゃくとする。
気が抜けたのか、不具合がまた顕在化する。

けれどもオリヴィ先輩が、明るく笑ってくれるから!

「オリヴィ先輩。お誕生日、おめでとうございます!!」


;おしまい

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