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書き下ろしの記事 (44)

whisp 2022/09/30 20:06

ci-en/fantiaでの最終更新記事です(進行豹

///

【重要】

Lose解散に伴い、わたくし(進行豹)が扱う全年齢のコンテンツ
(「レイルロオドの短いお話』や『レイルロオド・マニアックス』等)は、

『レヱル・ロマネスクnote』
https://note.com/railroma

へと全面移行いたします。

9月いっぱいを移行準備期間とし、上記の全年齢記事は、
ci-en/fantiaにも平行してアップしていく予定ですが、
移行準備期間終了後はnoteのみでの掲載となっていきます。

ので、そうした記事群をお読みくださる方におかれましてはぜひ、
noteのメンバーシップ

『御一夜鉄道サポーターズクラブ』
https://note.com/railroma/membership/join

へのご参加をいただけますと幸いです。


///

みなさんこんばんわ。レヱル・ロマネスクシリーズの原案、シリーズ構成を勤めます、進行豹です。

上記のとおり、 ci-en/fantiaでのわたくしの新規記事掲載の、本日この記事が最終更新となります。

気になって調べてみたところ、
ci-enでの最初の記事が2018/04/20の
ものべの、すみのお誕生日記念ショートストーリー
https://ci-en.dlsite.com/creator/922/article/2096

fantiaでの最初の記事も、同日の同内容のものでした
https://fantia.jp/posts/50114


お誕生日記念のショートストーリー、
アニメ『レヱル・ロマネスク』でデビューとなったレイルロオドたちにも、未デビューのこたちにも。
可能であればロールアウト日の設定をして、『レヱル・ロマネスクnote』でも公開していければなと考えております。


また、イベント予定なども水面下ではございますので、
そちらについても、レポート執筆などなどもしていければ、とも思っております。


上記のような記事についてはどなたさまにもお読みいただける設定と参りますので、
どうぞ、『レヱル・ロマネスクnote』

https://note.com/railroma

ブックマークだけでもしておいていただけましたら、とても嬉しく存じます。



そんなこんなのci-en/fantia最終更新記事となります本稿。
短いお話は、最終回をお題にしたものとできれば──と考えております。

登場レイルロオドは、ハチロク、れいな、すずしろ。
すずしろ視点での、ひとつのおわりに纏っていくお話です。


──その話を書き終えましたなら、ci-en/fantiaでのわたくしのLose関係記事更新は、結びとなります。

約4年半、たいへんお世話になりました。

書いてきたたくさんの記事たちの、どれか一つでも、
読んでくださったあなたのお役にたったり、こころに響く記事があったらいいなぁ──と、今は願うばかりです。

いままで仮にひとつもなくとも、これから書く短いお話が、そうあれたら幸せだなぁ、と。

では、書きますね。

行ってきます!






//////



【メンバーシップ限定記事のご案内】

『レヱル・ロマネスクnote』メンバーシップ
『御一夜鉄道サポーターズクラブ』
https://note.com/railroma/membership/join
にご参加いただきますと、
今回の記事内容と絡めた以下のあらすじのショートストーリーや、掲示板機能などをお楽しみいただくことができます。


掲示板では

新規記事リクエスト
https://note.com/railroma/membership/boards/8fc6d2fc0438/posts/59b99ede7a49

過去記事リクエスト
https://note.com/railroma/membership/boards/8fc6d2fc0438/posts/29f2e9876706


(リクエスト対象記事リスト:Noman_railさんご制作)
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1eD8IsZh2IsoPjzlg9777aqV955oBImku/edit#gid=1254639643


等、さまざまな投稿をお楽しみいただけます。

ぜひご参加ご検討ください。


///

『旅を、創ろう』


(あらすじ)


レイルロオドサミットの舞台となった、cafe亜麻色。
その移転を、ロケに来た御一夜ではじめて知ったすずしろは、
ハチロク、れいなと思い出話にふけるのです。


(登場レイルロオド紹介)


「すずしろ」(万岡鉄道C12 67専用レイルロオド)

<出身> 旧帝鉄出身 製造は陽立製作所傘戸

<所属路線> 万岡鉄道 万岡線 (霜館駅~持木駅)

<能力・性格> ごくごく平凡なC12レイルロオドとして製造され、ごくごく平凡だが堅実な乗務を重ねていた。
九洲で4年ほど走った後、鎌石を経て蒼森に転属したが、ここで一大転機が訪れる。
THK(帝政放送協会)の朝の連続ドラマ小説の主役機に、すずしろのC12 67が抜擢され、
蒼森を北開道に見立てたドラマ、『すずしろ』の放送が開始されたのである。
主人公である機関士に忠実につかえる健気なレイルロオド『すずしろ』は当初、人間の女優が演じていたのだが、その女優の急病により、急遽本物のレイルロオド、すずしろ本人が代役を務めることになった。
女優の演技の鉄道監修を務めていたすずしろの様子をみていた監督が「演れる」と判断しての大抜擢に、すずしろの秘められていた才能が開花。見事に最終回までの代役を務めきる。
それにより、南のハチロク、東のラン、北のすずしろ――と評されるほどの大人気レイルロオドの座へとまつりあげられる。
本人はスター気質では全くないのだが、とにかく演技力が素晴らしいので、もとめられるまま、ドラマの中の『すずしろ』像をファンの前では演じつづけている。
本質的には水回りのお掃除が大好きなあまり、給水装置工事主任技術者ならびに下水道排水設備工事責任技術者を独学で取得してしまうような、ややマニアックを性格そしているのだが、同時に、見かけによらず恐ろしく肝が座っていて、逆境に強い。
ので、レイルロオドたちが集まるような場では(その人気もあいまって)リーダー役を期待されることも多く。そしてすずしろは、役ならばどんなものでも、見事に演じきってみせる。


「ハチロク」(旧帝鉄8620形御一夜鉄道8620専用レイルロオド)

<出身> 日ノ本(ひのもと/日本)帝鉄レイルロオド工機部 旺宮工場

<所属路線> 御一夜鉄道 大畑線(御一夜温泉駅~早戸駅)

<能力・性格>  旧帝鉄初の国産大量生産蒸気機関車のトップナンバーレイルロオドとして製造された、気品、能力ともに卓越していたレイルロオド。
反面、他者を無意識に見下すような一面や、挫折・失敗に対する脆さもあわせもってしまっていたのだが、運命のマスター、 右田双鉄との出会いによって、いわゆる「人間的な丸み」を帯びるように成長した。
さまざまな苦難を越えたいまのハチロクは、全国的な(一般の人たちからの)人気においてはランに一歩を譲るものの、レイルロオドや鉄道関係者たちからは、『レイルロオドの鑑』として一目も二目も置かれる存在になっている。
かといって増長することもなく、他のレイルロオドたちの良さを引き出し、お互いに刺激しあい成長しあうことができれば――との思いで、今回のレイルロオドサミットに臨んでいる。
流石に製造100年に近づき、性能面では後継機たちに見劣りするようになってきたが、性格――というか人格面では、ほぼ円熟に近い状態を迎えている。
指導者・司会進行役としては、まさに理想的な存在だが、所用あってその役をすずしろに委任することとなる。


「れいな」(御一夜鉄道キハ07s専用レイルロオド)

<出身> 日ノ本(ひのもと) 河崎車輌製

<所属路線> 御一夜鉄道 湯医線(御一夜温泉駅~湯医駅)

<能力・性格>  硬上鉱山鉄道の自社発注機としてつくられた、旧帝鉄キハ07同型機の
第二号レイルロオド。 おっとりふんわり、全てを受容し、どんなことにでも楽しみやうれしさを見つけ出す、天使のような性格をしている。
足元が弱く、いねむり癖があるという致命的欠陥を抱えていたたが、ハチロクのマスターとの出会いによって解消された。
自身のマスターである雛衣ポーレットのことが大好き。

【 シルバー会員 】プラン以上限定 支援額:500円

『旅を、創ろう』

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whisp 2022/03/26 23:24

20220326 れいな誕記念書き下ろしSS 『お誕生日と小さなウソと』 進行豹

2022/03/26 れいな誕生祭記念書き下ろしショートストーリー

『お誕生日と小さなウソと』 進行豹



////////////


「……わくわくしすぎて、眠れなかったのかなぁ」

前から一緒に準備していた、れいなのバースデー。
れいなは軽油しか飲めないけれど、パーティーを華やかにしたいからって、ふたりで一緒にケーキを焼いて、じゃがいものガレットをこしらえて。

「……くぅ、くぅ……くぅ、くぅ……」

寝息、深い。規則正しい。

──ブイヤベースにも火をいれて。
バゲットと一緒にテーブルの上に綺麗にならべて。

あとはもう、声をあわせて「いただきまぁす」って言えたなら、バースデーパーティーが始まったのに……

「まぁでも、食べ始めてから寝落ちちゃうよりは、ね」

だって、全部が手つかずだから。
れいなが起きれば、そこから楽しいパーティーを、なにひとつ欠かすことなく始められちゃう。

始められちゃう……はずなんだけど……

(チ、チ、チ、チ)

少しレトロなデザインの時計の針は止まらない。

23時51分。
あと9分しか、れいなのバースデーは残っていない。


「……くぅ、くぅ……くぅ、くぅ……」


──起こすべきか。寝かせておいてあげるべきか。
こういう決断、わたしはなかなか下せない。

どっちの選択にだってきっと、れいなは感謝してくれるけど……
どっちの選択にだって絶対に、小さな後悔もつきまとってくる。

「笑顔だけで、しあわせだけで、お祝いしたい一日だから」

だから、決断しなくちゃいけない。

わたしは、れいなを──





「ふぁ……あ……ふにゃあ……」


れいなが目覚める。
真正面にわたしを見つけて、寝ぼけ顔を安心したようにとろけさせ。

「ふあっ!!!?」

それから瞳がまん丸になる。

テーブルに並ぶ料理をみつめ、もう一度わたしに視線を戻して──
それからゆっくり、おそるおそるに時計を見つめて……

「よかったぁ、れいなのお誕生日に間に合いましたねぇ」

「うん、れいな」

ニ回だけ、時計の針を一時間ずつ戻したけれど。
明日の乗務は、わたし、ちょっぴり寝不足だけど。

この決断に、後悔はない。

「お誕生日、おめでとう!!!」

「わぁい、ポーレット、ありがとうございまぁす!」

だって、れいなの笑顔が咲いているから。
小さな両手でうれしげに、スキットルからグラスに軽油を注いでるから。

「「かんぱぁい!!」」


;おしまい

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whisp 2022/03/08 06:49

20220308ハチロクお誕生日記念書き下ろしSS 『くすり指の上の海』 進行豹

2022/03/08 ハチロクお誕生日記念描き下ろしショートストーリー


『くすり指の上の海』 進行豹


///

 
「ハチロク、お誕生日おめでとう」

「! ありがとうございます、双鉄さま」

はっと小さく息を呑み。
少し緊張した顔を、ゆるゆる笑顔に溶かしていく。

「万が一にもありえないこととはわかっておりましたが――ずうっと言ってくださらないのですもの」

ぷっと膨れる。
今日のハチロクは、いつもよりずっと表情豊かだ。

「わたくし、双鉄さまがお忘れなのかもと。もしもお忘れでないのなら、なにか怒らせてしまったのかしらと、随分気を揉んでおりました」

「気を揉んでいたとは思えぬ乗務ぶりだったが」

「そこはそれ、わたくしもレイルロオドでございますから」

「実に見事だ。けれど、今この瞬間だけは、すず」

軍手を外し、妻の名を呼ぶ。
8620の運転台の中では恐らく、はじめて取る行動だ。

「レイルロオドであることよりも、僕の妻であることを優先してくれ」

「はい! 双鉄さま、だんなさま。けれども、今は――」

「問題ない。運転停車中だ」

わずかな戸惑いの表情が、ははぁ、と悪戯げなものになる。

「ダイアを確認した瞬間から、違和を覚えてはおりました。
みかん鉄道のレイルロオドに確認しても、穏やかな沈黙の共感が返されるばかりで」

穏やかな沈黙の共感、か。
共感が文字通りの”共感”であり、文字や音声による情報伝達を越えるものであるのだなぁと、いまさらながらしみじみ感じる。

「いつもの乗務の、けれど普段にはない運転停車。
ご丁寧に、機関士とレイルロオドは休憩時間とするようにとの注記までついて。
しかもこの場所、この時刻。」

すずの目が、側方窓から外を見る。
夕陽が鮮やかに染める世界を。

「双鉄さまのご差配ですね?」

「お願いしたら、みなが応えてくれたのだ」

御一夜鉄道、みかん鉄道。
両社のたくさんの人たちが、こころよく調整に応じてくれた。

「つまり、この時間は、みなからすずへの誕生日プレゼントでもある」

「皆様から……ポーレット様や、宗方様や……」

声を出さずに、唇が動く。
――確かにだ。

天候ばかりは、調整のしようも無いことゆえに。
この夕焼けをプレゼントしてくれたのは、きっと彼女であるのだろう。

「そうして、これは僕からだ」

「まぁ!」

とても小さなプレゼントの箱。
すすで汚れてしまったのはいかにも申し訳ないが――

「とてもうれしうございます! ね、双鉄さま、だんなさま。わたくし、これを」

「いま開けてくれ。そうしなければ、意味が薄れる」

「かしこまりました。いま、すぐに」

すずも手袋を外しいそいそ、リボンを、包装を解きはじめる。
その指が、外箱を開け、ケースを開いて――

「まぁ! まぁ! まぁ! なんと美しい指輪でしょうか!」

「3月の誕生石の指輪だ。石の名を、アクアマリンという」

「アクアマリン……お名前もとても綺麗ですね」

「意味もいいぞ」

「どのような意味でございましょうか?」

「ラテム語で、アクアは水。そして、マリンは海」

「水と、海」

つぶやいて、うっとりとケースの中のアクアマリンを眺め。
その目がハッと、僕を見、窓の外を見る。

「双鉄さま、だんなさま、わたくし、この指輪を」

「ああ、つけてくれ。夕陽が沈み切るそのまえに」

すずが左手の手袋も外す。
簡素なプラチナの結婚指輪。それと並べて、アクアマリンの指輪を重ね付けする。

「……」

そうして、そっと、夕陽にかざす。

「――ああ」

声が。聞こえる。すずの声が。
そこに重なる明るい声も、たしかに僕の鼓膜に響く。

「トップ・オブ・ザ・ワアルド」

すずの指の上、海が煌めく。
世界一の夕陽に照らされて、オレンジ色に染まった海が。


「………………ありがとうございます、双鉄さま」

やがてゆっくり、すずが振り向く。
祈りを捧げるように組んだ両手の中心に、アクアマリンを輝かせ。

「夕焼け時には、どこでも。わたくし」

「うむ」

一歩を近づく必要もない。
すずも同時に歩みよってきてくれるゆえ。


「すず、お誕生日おめでとう」


;おしまい

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whisp 2022/01/04 13:36

2022年年賀小話 『七度四分のお正月』 進行豹

2022年年賀小話 
『七度四分のお正月』 進行豹


///

「双鉄さま、双鉄さま! おかえりなさいませ。すぐにお迎えできなくてすみません!」

袂のせいで、階段をしずしずとしか下りられない。なんともどがしいことでしょう。

「日々姫に晴れ着を着付けてもらっておりましたの……で」

ふすまをあけた眼の前に、けれど双鉄さまのお姿はなく。

「……いいな。新しい晴れ着か。きらびやかで、お前にとても良く似合っている」

お声。低いところから――!

「双鉄さま!? いったいどうなされたのですか?」

「いや、なに。大事はない。少し発熱しただけだ」

「発熱!? 大事ではないですか!!」

「微熱だ。37.4℃。なれぬ雪国への出張で、少し体が驚いてしまっただけのことかと思う」

「あああ、なんということでしょう。とにもかくにもおやすみ――は、もうされておられますね」

いけません。
緊急時にこそ落ち着くことが第一です。
慌てずまずはひとつ大きく深呼吸して――

「すううう。はあああああ」

――うん。落ち着きました。
では、なすべきことを考えましょう。
双鉄様はお熱を――ああ、左様です!

「お熱には絞り手ぬぐいが一番ですよね、わたくしすぐに用意してまいります」

「それは助かる、ありがt」

「絞り手ぬぐいでございます! それから、水分補給のためのおみかん。ああ! 加湿。加湿も必須でございますね。
石油ストオブに火をつけて……うん。いま鉄瓶に水を足してまいります」

「ああ、うむ。ハチロク」

「大丈夫です、双鉄様。清美機関士が大昔お風邪を召されたときのこと、わたくしきちんと覚えております。
双鉄様のお風邪にも、きっと役立つ看病を果たしてみせましょうとも」

「う……む」

「水を足して参りました! っと、お部屋、すでに温まってきておりますね。
なによりのことですが、お体、汗をかいてらっしゃるのではないですか?」

「いや、ハチロク――すず」

「お体を拭くには新しい手ぬぐいが必要ですね。と、申しますかお着替えも」

「すず! 頼む」

「!!?」

「落ち着いて。僕の話を聞いてくれ」

「あ……あ、はい」

いやだ。わたくし。
落ち着こう落ち着こうと思っていたのに、完全に舞い上がってしまっておりました。
清美機関士にも大昔、同じお叱りを受けたこと――いまさらながら思い出します。

「今の僕に何より必要なのは安静だ。静かに休むそのことだ。
だから、すず。あれこれと世話を焼いてくれることは嬉しいのだが――」

「はい。かしこまりました。わたくし、おやすみの邪魔をしないよう、すぐにお外に」

「いや」

がっしりと。布団の中から伸びた手が、わたくしの足首を捕まえます。

「双鉄さま?」

「あ、いや――いや――すまん、すず。いっていい」

「いえ。双鉄さま、わたくしをお引き止めになられようとしてくださった……のですよね?」

「うむ。あー……その、だな。素直にいえば、僕はすずに、そばにいてほしいと思うのだ」

「はい!」

「だが、安静の邪魔をしないよう側にいてほしいということは、何もするなというに等しいと思い直した。
せっかくのすずの正月休みを、晴れ着姿を、そのように無駄な時間につきあわせるなど」

「いえ! いえ――双鉄様」

するり、と帯紐を解いてしまいます。
きちんと脱ぐには日々姫の手助けが必要ですが、必ずやわかってくれるはずです。

「わたくしの晴れ着の役割でしたら、すでに見事に果たされました。
『似合っている』と、お褒めいただいたあの瞬間に」

「……うむ」

「その上でわたくしが静かにお側にいることが、
双鉄さまのお休みの助けになるのでしたら。それほど有意義な時間は他にありませぬ。
わたくし、すずは。双鉄様の妻ですので」

「そうか。なら、甘えよう」

――安心してくださったのでしょう。
双鉄さまのお顔がほっとゆるみます。
まぶたが静かに降ろされれば、まつげの長さがふと目につきます。

「なんでもいい。目につくものを順番に。
お前の声で、低く落ち着いたその声で、僕に静かに聞かせてほしい。
それこそが、僕にとってはなによりの子守唄になる」

「かしこまりました。双鉄さま。だんなさま」

声。わたくしの声。
普段どおり、と意識をすれば、なんだか上ずってしまいそうです。

「お布団があり、わたくしの大事な双鉄さまが、その上でお休みになっておられます。
お布団のわきには……ああ、おかわいそうに、よほどご気分がすぐれなかったのでしょうね。
双鉄さまらしくもなく、背広が脱ぎ捨てられてしまっています」

と、と、と、と軽やかで静かな足音。
日々姫がそっと、様子を覗きにきてくれます。

「背広のわきには、旅荷。双鉄さまのご愛用のトランクと、見慣れぬ紙袋もございます。
中身はきっとお土産でしょうね。
ああ――うふふっ、石炭も覗いておりますね?
津輕の石炭でございましょうか? わたくし、楽しみでございます」

しーっと合図を送ってそののち、双鉄さまを指差せば、日々姫もすぐに察してくれます。
あっというまに晴れ着をきれいに、わたくしから剥がしてしまいます。

「双鉄様の枕元には、ちりがみ、ゴミ箱。なんとご準備がよろしいことでございましょうか。
こんなときにこそ、わたくしを頼って、使っていただけましたなら、それもうれしいことですのに」

日々姫が再びと、と、と、と静かに階段を上がっていきます。
その間にわたくしもお寝間に着替えて――あら

「双鉄さまは……よほどお疲れだったのでしょうね。眠りに落ちてしまわれました。
ですので、おやすみを妨げないよう――」

そっと、そうっと、布団をめくって、お隣に……

「いまわたくしの真横には、大好きな双鉄さまの寝顔があります。
ですので当然、妻として――」

(ちゅっ)

そうっと軽く口付けて、
わたくしもこの唇と、そうしてまぶたをやすませましょう。

「おやすみなさい、双鉄さま。明日の朝には、お熱、下がられますように――」


;おしまい

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whisp 2021/10/29 21:05

『わたくしだけの雨傘』 (進行豹

『わたくしだけの雨傘』 進行豹

///


「……ああ」

ざあ、と心地よい音が立ちます。

ぽつ、ぽつ、ぽつ。
何かが肌に触れたかしらとのんきに思っておりましたのは、ほんの数秒前でしたのに――

「まいったな、これは本降りになりそうだ。舞台の雨は、美しいばかりのものであったが」

「双鉄様、どうぞこちらへ。せっかくのお召し物が濡れてしまいます」

「こちらもそちらも大差ないさ。大木とはいえ落ち葉の季節だ。雨を遮る力などたかがしれている」

「……かもしれませぬが」

双鉄様に、雨粒がしたたり落ちて染みになります。
焦りが、どんどん大きくなります。

「濡れてもいいさ。雨降って地、固まるだ。僕とお前は、実際そうしてきたではないか」

「……それも左様でございますが」

たった今観劇してきたばかりの、御一夜鉄道の成功をモチイフにしたという舞台劇。
その劇中に描写されることがあるはずもない――双鉄さまとわたくしだけが知る、ひとつのシイン。

「随分濡れたものだった。あの雨の冷たさと比べたら……」

双鉄様とわたくしと、同じ情景を思っている。
なんとしあわせなことでしょう。

「……寄り添いあえるこの雨宿りには、ぬくもりだけしか感じんさ」

「わたくしもおなじく感じます」

からだも、こころも。
とてもここちよく、ぽかぽかと。

けれど――

「あのときとはお召し物が違います」

「おおげさな、単なる古着だ」

「汰斗様からの下がりものだというお話ではございませぬか」

フロックコオト。

舞台劇の主役のモデル――双鉄様へと届けられた、
記念すべき初演の貴賓席への招待状に応じての観劇に赴くにふさわしい、と。

真闇様がひっぱりだして、日々姫が手づから仕立てなおした、正真正銘の正装です。

「いわば右田の宝のひとつと感じます。おろそかに濡らしてはいけませぬ」

「ご説まことにごもっともだが……まさか降るとは思わなかった。傘も雨具もなにもない。
多少は濡れても、ここでしのぐ他なかろうさ」

いってぼんやり空を見上げて――
その目がすぐに、わたくしを捉え直します。

「ああいや、日々姫なり凪なり呼び出して」

「わたくしが!」

声。
自分でも驚くほどに大きな声がでてしまいました。

この場所に、双鉄様とわたくしだけの思い出の場所に……
たとえ日々姫であるとしたって、立ち入ってほしくはありませぬ。

「わたくしが一走りして雨傘を持ってまいります」

「それはだめだ、ハチロク」

「ご心配なく、双鉄様。わたくしはレイルロオド。風邪をひくなどありえませぬので」

「それはだめだ、すず」

「!」

名を呼んで――
双鉄さまが、わたくしを抱き寄せてくださいます。

少し湿ったフロックコオトのその内に、すっぽり隠してくださいます。

「お前自身が言ったことだぞ。右田の宝を、おろそかに濡らすなどありえんと」

「はい。ですからわたくしが傘をとってまいりましたら」

「最高に価値ある宝が濡れる。少なくとも、僕――右田双鉄にとっての」

「!!?」

「ああ、うん。そうだな。
お前という最高の宝を守るためであるなら、むしろ」

(ふあさっ)

「あっ」

双鉄さまが、フロックコオトを持ち上げて――

「汰斗さんも許してくれるさ。雨傘としては、守れる範囲があまりに狭いが」

「いえ! いえ! いえ!」

なんと光栄なことでしょう。なんと恐れ多いことでしょう。

最高級のフロックコオトを惜しげもなく――わたくしを雨から守るそのためだけに、使ってくださる。

「……とても、もったいないことです」

わかっています。わたくしは今すぐにだって、この雨傘から出るべきなのだと。
わかっていても――けど、どうしても――

「……」

顔が、ほころんでしまいます。
双鉄さまにぎゅっと、ぎゅうっと、体がくっついてしまいます。

「――わたくしだけの、あまがさ」

「ははっ、いいな。今までで拝命したなかで、二番目に喜ばしい役職だ」

「二番目、でございますか?」

「ほう? 一番目をわざわざ言わせたいのか」

「あ!」

にやけが、いやです、とまりません。
わたくしの顔、どれほどゆるんで――あああ、真っ赤になってしまっているのがわかります。

「野暮だな、僕の花嫁は」

傘が、くるんとたたまれて――

「……双鉄さま」

……わたくしの、くちびるだけに、雨が降ります。


;おしまい

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