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whisp 2022/05/30 22:45

<<再掲・無償公開>> 【3分で読める】「オリヴィの客車、あさひの客車」【レイルロオドのお話】

こんばんわです! 進行豹でございます!

ASMR作品「ゆめぐりASMR あさひ」が来る2022年7月7日にリリースされることとなりました!
https://www.dlsite.com/home/announce/=/product_id/RJ392399.html


それを寿ぎ&初お目見えとなります、木曾森林鉄道1号蒸気機関車乗務ジェネリックレイルロオドの「あさひ」をご紹介いたしたく!

今回は! 特別に!! 過去に有償公開したショートストーリー作品である

『オリヴィの客車、あさひの客車』

を、無償公開させていただきます!


どなたさまにもぜひぜひお読みいただきまして!

あさひをどうぞご贔屓に! していただけますと幸いです!!!



(あらすじ)

100歳超えのオールドウィン。

肥颯みかん鉄道のオリヴィと木曾森林鉄道のあさひとは、来日100年以上を隔てての初対面を果たします。

/////////////////////////////

「オリヴィの客車、あさひの客車」 (作:進行豹)

///

「あなたがアサヒ? すっごくエキゾチックだねー!」

なにこのこ、かわい! まるでお人形さんだー。

おんなじオールドウィン製、おんなじ100年稼働超えだっていうのに――いや、あさひとまるきり違いすぎだし。

「どしたの? あ! もしかしてオリヴィにみとれちゃったとか?」

「近い。かわいいなーって思ってた」

「!!!?」

「あさひとは全然違うなって。100年も日ノ本で暮らしてるのに、冥国から昨日きましたーって感じだしさー。ヒノモトナイズされてないっていうか」

「あ! それはあるかも。オリヴィも思ったもん。アサヒ、まるでヒノモト製のレイルロオドみたいって」

「あはは、そりゃねー。この格好だしねー」

だってあさひは木曾森林鉄道のレイルロオド。
現役ばりばりで木材運搬こなすから、足元は脚絆に地下足袋だし、ヤマビル避けの羽織だって羽織っちゃってるし。

「ハシバミ色の瞳にBrown blonde! とってもstyleにmatchしてて似合ってる! ヒノモトっぽさ、すっごく自然でbeautiful!!」

「あはは、ありがとー」

そかそか、そういう見方もあるか。
あさひ的にはオリヴィの冥国っぽさ超いいなーって感じてたけど、こりゃあれかー。隣の芝は青いってやつかー。

「ね、ね? アサヒってまだゲンエキなんでしょ?」

「そだよ。オリヴィもでしょ?」

「ゲンエキはゲンエキだけど、もう入換機だからなー。
オリヴィさ、客車引くの大好きだから、もう一回くらい引きたいなーって思ってて」

「ふぅん。あさひ的には客車はおまけだけどなー。
とにかく木材。伐採した木を運ぶのが、あさひの全てで楽しみだから」

「そなんだ! どんな木運ぶの? mahoganyとか?」

「んにゃ。『アサヒネコ』」

「アサヒネコ? アサヒ、cat運ぶの??」

「んにゃんにゃ。アサヒネコは木の総称だよ。木曾五木っていって、木曽路の森林で伐れる主要な木材の頭文字をとった名前」

「???」

「あすなろ、さわら、ひのき、ねずこ、こうやまき。
それぞれの木の最初の一文字をとって、『あさひねこ』」

「Wow!!! そーゆーことなんだね! それじゃそれじゃ、もしかしてアサヒのアサヒって」

「だよ。あさひねこからとって、あさひ」

「Amazing! とーっても素敵!!! そっかー! キソゴボク? アサヒネコを運び続けてほしいって願いのお名前だから、100年ずーっとゲンエキなんだねー」

「かもねー。けどさ、それってオリヴィもおなじでしょ」

「What!?」

「オールドウィンからとって、オリヴィ。
メーカー名そのものなんて、期待のカタマリみたいなもんでしょ。
ゆーたら『キシャカイシャ』とか『ヒタチ』とかみたいな」

「!!!! そか! いわれてみたらそのとーりかも!!
そかそか、オリヴィ、期待されてたんだー」

「だから、100年走り続けた。
きっとこれからも、壊れちゃうまで走り続ける。
あさひもオリヴィも、多分ね、おんなじ」

「そかー。えへへ、もしもそうならうれしいな!」

「多分、そうなる。
でもって、これはあさひのカンなんだけど」

そう、ただのカン。
けどあさひだって森で100年仕事してる。
カンは結構、あたるんだ。

「オリヴィ、また客車引けるよ。それでみんなに大感謝される」

「Really!?」

うっわ、なんて笑顔。
こりゃあ、うん。もう100年だって稼働させたくなるわなー。

「Thank you! うれしい!
もし叶ったらそのときにはね!
あさひにも乗ってもらえたらもっとうれしい!!」

;おしまい



■ 登場レイルロオド紹介 ■

「オリヴィ」(肥薩みかん鉄道Ⅸ号機関車乗務ジェネリックレイルロオド)

<出身>  冥国 オールドウィン・ロコモティブ・ワークス

<所属路線> 肥颯みかん鉄道(八ツ城駅→千内駅)

<能力・性格> 冥国製のジェネリック・レイルロオド。極めて高度な保線技術と知識を有する。
もともとは産業鉄道である冨士実信鉄道の発注機としてⅨ号機関車とともに製造され、同じく産業鉄道である鶴巳製鉄造船に移籍。そののちに肥颯みかん鉄道へと移籍した。

貨物輸送や職員移送のために用いられ続けていたにもかかわらず、みかん鉄道移籍直後の短い期間、旅客列車牽引に従事したときには類稀なる接客センスを発揮。

そののち、入換機にまわされてからも、折々、観光列車のガイド役なども任されるようになった。

念願であった旅客列車牽引を短期間であれ務めさせてくれたみかん鉄道を、そしてはじめて旅客牽引した八ツ城線沿線の海沿いの景色を深く愛している。
どの生え抜き機よりむしろ、みかん鉄道愛は深いかもしれない。


「あさひ」(木曾森林鉄道1号蒸気機関車乗務ジェネリックレイルロオド)
<出身>  冥国 オールドウィン・ロコモティブ・ワークス

<所属路線> 木曾森林鉄道(主として 植松駅~赤澤停車場)

<能力・性格> どんなに深い森の中にでもひょいひょいと踏み入っていく、森の申し子とでもいうべき木曾森林鉄道創業時からのレイルロオド。

英国機の王道からは少しはずれたブラウンブロンドの髪とハシバミ色の瞳も、いかにもアウトドアが得意そうな印象を与える。

実際に体力――とくに脚力と腕力、背筋力は小型レイルロオドの中では群を抜いており、帝鉄の大型貨物機――D51やD60のレイルロオド、どころか最新貨物機関車であるDD51やDE10等にもまったく引けをとらない。

レイルロオド腕相撲コンテストが仮に開催されるなら、優勝候補の最右翼とも目されるレベルの腕っぷしの強さを誇っている。

森と森林と木材と森に住む動物たちとを熟知していて、それらの全てからの愛情をうけまくっている。
あさひが(今自分でつくったばかりの)切り株に腰をかけて休憩していると、小動物や小鳥たちが、遊んでほしそうにその近隣にあつまりはじめる。

木を切ることそのものが仕事であり趣味。
家の中ではナイフを使っての木工などもこのみ、細かな品でよく出来たものなどに関しては、同僚にプレゼントしたりもする。

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whisp 2022/05/03 22:32

レイルロオド・マニアックス ~西瓜~ (進行豹

ご無沙汰しております!
進行豹でございます!!

最近は生活環境の激変などありたいへんバタバタしているのですが、
どうにか新生活にも馴染んできたので、徐々にもろもろペースつくれればいいなぁと考えております。

『レイルロオド・マニアックス』でも新規ご紹介いたしたきレイルロオドたちもちょこちょこいますので、
不定期にはなると思いますが、またぼちぼち書いていければと!!


というわけで、ひっさびさとなります今回の『レイルロオド・マニアックス』でご紹介いたしますのは!
TVアニメ『レヱル・ロマネスク』 https://railromanesque.jp/ でも理知的な活躍を見せてくれました!

仲国国鉄、東富4 2000専用レイルロオド! 西瓜でございます!!!

なお、過去のレイルロオドマニアックスは

https://twitter.com/i/events/992400579451211777

のモーメントにまとめてございますので、よろしければどうぞご参照ください!!

レイルロオド・マニアックスの基本構成は、

どなたでも無料の会員登録だけでお読みいただける
「フォロワー以上限定」
では、スペックを。

月額500円のプランでお読みいただける
「シルバー会員」
では、踏み込んだ経歴や過去エピソード設定、設定画の全身像などを御確認いただけるものとなっております!

また、レイルロオドマニアックス内で説明される全ての内容については『完全な確定事項ではなく、今後変更される可能性もある』もの。
かつ、『コンテンツ化された本編と設定に矛盾が生じている場合は、常に本編が正』とお取り扱いいただけますと幸いです!


では! 西瓜と彼女の東富4 2000につきまして! まずは簡単なプロフィールからご紹介申し上げます!

(ちなみに西瓜、初期設定では悉究ではなくMECE MECE言ってたり、太極拳にドはまりしていたりという一面をもっていたりもします。
 それもまたおもしろいかと思うので、シルバー会員向けプランのおまけとして、今回は初期設定も公開させていただければと思います!!)

フォロワー以上限定無料

西瓜のプロフィール

無料

【 シルバー会員 】プラン以上限定 支援額:500円

西瓜の過去エピソードとおまけの最初期設定

このバックナンバーを購入すると、このプランの2022/05に投稿された限定特典を閲覧できます。 バックナンバーとは?

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whisp 2022/03/26 23:24

20220326 れいな誕記念書き下ろしSS 『お誕生日と小さなウソと』 進行豹

2022/03/26 れいな誕生祭記念書き下ろしショートストーリー

『お誕生日と小さなウソと』 進行豹



////////////


「……わくわくしすぎて、眠れなかったのかなぁ」

前から一緒に準備していた、れいなのバースデー。
れいなは軽油しか飲めないけれど、パーティーを華やかにしたいからって、ふたりで一緒にケーキを焼いて、じゃがいものガレットをこしらえて。

「……くぅ、くぅ……くぅ、くぅ……」

寝息、深い。規則正しい。

──ブイヤベースにも火をいれて。
バゲットと一緒にテーブルの上に綺麗にならべて。

あとはもう、声をあわせて「いただきまぁす」って言えたなら、バースデーパーティーが始まったのに……

「まぁでも、食べ始めてから寝落ちちゃうよりは、ね」

だって、全部が手つかずだから。
れいなが起きれば、そこから楽しいパーティーを、なにひとつ欠かすことなく始められちゃう。

始められちゃう……はずなんだけど……

(チ、チ、チ、チ)

少しレトロなデザインの時計の針は止まらない。

23時51分。
あと9分しか、れいなのバースデーは残っていない。


「……くぅ、くぅ……くぅ、くぅ……」


──起こすべきか。寝かせておいてあげるべきか。
こういう決断、わたしはなかなか下せない。

どっちの選択にだってきっと、れいなは感謝してくれるけど……
どっちの選択にだって絶対に、小さな後悔もつきまとってくる。

「笑顔だけで、しあわせだけで、お祝いしたい一日だから」

だから、決断しなくちゃいけない。

わたしは、れいなを──





「ふぁ……あ……ふにゃあ……」


れいなが目覚める。
真正面にわたしを見つけて、寝ぼけ顔を安心したようにとろけさせ。

「ふあっ!!!?」

それから瞳がまん丸になる。

テーブルに並ぶ料理をみつめ、もう一度わたしに視線を戻して──
それからゆっくり、おそるおそるに時計を見つめて……

「よかったぁ、れいなのお誕生日に間に合いましたねぇ」

「うん、れいな」

ニ回だけ、時計の針を一時間ずつ戻したけれど。
明日の乗務は、わたし、ちょっぴり寝不足だけど。

この決断に、後悔はない。

「お誕生日、おめでとう!!!」

「わぁい、ポーレット、ありがとうございまぁす!」

だって、れいなの笑顔が咲いているから。
小さな両手でうれしげに、スキットルからグラスに軽油を注いでるから。

「「かんぱぁい!!」」


;おしまい

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whisp 2022/03/08 06:49

20220308ハチロクお誕生日記念書き下ろしSS 『くすり指の上の海』 進行豹

2022/03/08 ハチロクお誕生日記念描き下ろしショートストーリー


『くすり指の上の海』 進行豹


///

 
「ハチロク、お誕生日おめでとう」

「! ありがとうございます、双鉄さま」

はっと小さく息を呑み。
少し緊張した顔を、ゆるゆる笑顔に溶かしていく。

「万が一にもありえないこととはわかっておりましたが――ずうっと言ってくださらないのですもの」

ぷっと膨れる。
今日のハチロクは、いつもよりずっと表情豊かだ。

「わたくし、双鉄さまがお忘れなのかもと。もしもお忘れでないのなら、なにか怒らせてしまったのかしらと、随分気を揉んでおりました」

「気を揉んでいたとは思えぬ乗務ぶりだったが」

「そこはそれ、わたくしもレイルロオドでございますから」

「実に見事だ。けれど、今この瞬間だけは、すず」

軍手を外し、妻の名を呼ぶ。
8620の運転台の中では恐らく、はじめて取る行動だ。

「レイルロオドであることよりも、僕の妻であることを優先してくれ」

「はい! 双鉄さま、だんなさま。けれども、今は――」

「問題ない。運転停車中だ」

わずかな戸惑いの表情が、ははぁ、と悪戯げなものになる。

「ダイアを確認した瞬間から、違和を覚えてはおりました。
みかん鉄道のレイルロオドに確認しても、穏やかな沈黙の共感が返されるばかりで」

穏やかな沈黙の共感、か。
共感が文字通りの”共感”であり、文字や音声による情報伝達を越えるものであるのだなぁと、いまさらながらしみじみ感じる。

「いつもの乗務の、けれど普段にはない運転停車。
ご丁寧に、機関士とレイルロオドは休憩時間とするようにとの注記までついて。
しかもこの場所、この時刻。」

すずの目が、側方窓から外を見る。
夕陽が鮮やかに染める世界を。

「双鉄さまのご差配ですね?」

「お願いしたら、みなが応えてくれたのだ」

御一夜鉄道、みかん鉄道。
両社のたくさんの人たちが、こころよく調整に応じてくれた。

「つまり、この時間は、みなからすずへの誕生日プレゼントでもある」

「皆様から……ポーレット様や、宗方様や……」

声を出さずに、唇が動く。
――確かにだ。

天候ばかりは、調整のしようも無いことゆえに。
この夕焼けをプレゼントしてくれたのは、きっと彼女であるのだろう。

「そうして、これは僕からだ」

「まぁ!」

とても小さなプレゼントの箱。
すすで汚れてしまったのはいかにも申し訳ないが――

「とてもうれしうございます! ね、双鉄さま、だんなさま。わたくし、これを」

「いま開けてくれ。そうしなければ、意味が薄れる」

「かしこまりました。いま、すぐに」

すずも手袋を外しいそいそ、リボンを、包装を解きはじめる。
その指が、外箱を開け、ケースを開いて――

「まぁ! まぁ! まぁ! なんと美しい指輪でしょうか!」

「3月の誕生石の指輪だ。石の名を、アクアマリンという」

「アクアマリン……お名前もとても綺麗ですね」

「意味もいいぞ」

「どのような意味でございましょうか?」

「ラテム語で、アクアは水。そして、マリンは海」

「水と、海」

つぶやいて、うっとりとケースの中のアクアマリンを眺め。
その目がハッと、僕を見、窓の外を見る。

「双鉄さま、だんなさま、わたくし、この指輪を」

「ああ、つけてくれ。夕陽が沈み切るそのまえに」

すずが左手の手袋も外す。
簡素なプラチナの結婚指輪。それと並べて、アクアマリンの指輪を重ね付けする。

「……」

そうして、そっと、夕陽にかざす。

「――ああ」

声が。聞こえる。すずの声が。
そこに重なる明るい声も、たしかに僕の鼓膜に響く。

「トップ・オブ・ザ・ワアルド」

すずの指の上、海が煌めく。
世界一の夕陽に照らされて、オレンジ色に染まった海が。


「………………ありがとうございます、双鉄さま」

やがてゆっくり、すずが振り向く。
祈りを捧げるように組んだ両手の中心に、アクアマリンを輝かせ。

「夕焼け時には、どこでも。わたくし」

「うむ」

一歩を近づく必要もない。
すずも同時に歩みよってきてくれるゆえ。


「すず、お誕生日おめでとう」


;おしまい

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whisp 2022/01/04 13:36

2022年年賀小話 『七度四分のお正月』 進行豹

2022年年賀小話 
『七度四分のお正月』 進行豹


///

「双鉄さま、双鉄さま! おかえりなさいませ。すぐにお迎えできなくてすみません!」

袂のせいで、階段をしずしずとしか下りられない。なんともどがしいことでしょう。

「日々姫に晴れ着を着付けてもらっておりましたの……で」

ふすまをあけた眼の前に、けれど双鉄さまのお姿はなく。

「……いいな。新しい晴れ着か。きらびやかで、お前にとても良く似合っている」

お声。低いところから――!

「双鉄さま!? いったいどうなされたのですか?」

「いや、なに。大事はない。少し発熱しただけだ」

「発熱!? 大事ではないですか!!」

「微熱だ。37.4℃。なれぬ雪国への出張で、少し体が驚いてしまっただけのことかと思う」

「あああ、なんということでしょう。とにもかくにもおやすみ――は、もうされておられますね」

いけません。
緊急時にこそ落ち着くことが第一です。
慌てずまずはひとつ大きく深呼吸して――

「すううう。はあああああ」

――うん。落ち着きました。
では、なすべきことを考えましょう。
双鉄様はお熱を――ああ、左様です!

「お熱には絞り手ぬぐいが一番ですよね、わたくしすぐに用意してまいります」

「それは助かる、ありがt」

「絞り手ぬぐいでございます! それから、水分補給のためのおみかん。ああ! 加湿。加湿も必須でございますね。
石油ストオブに火をつけて……うん。いま鉄瓶に水を足してまいります」

「ああ、うむ。ハチロク」

「大丈夫です、双鉄様。清美機関士が大昔お風邪を召されたときのこと、わたくしきちんと覚えております。
双鉄様のお風邪にも、きっと役立つ看病を果たしてみせましょうとも」

「う……む」

「水を足して参りました! っと、お部屋、すでに温まってきておりますね。
なによりのことですが、お体、汗をかいてらっしゃるのではないですか?」

「いや、ハチロク――すず」

「お体を拭くには新しい手ぬぐいが必要ですね。と、申しますかお着替えも」

「すず! 頼む」

「!!?」

「落ち着いて。僕の話を聞いてくれ」

「あ……あ、はい」

いやだ。わたくし。
落ち着こう落ち着こうと思っていたのに、完全に舞い上がってしまっておりました。
清美機関士にも大昔、同じお叱りを受けたこと――いまさらながら思い出します。

「今の僕に何より必要なのは安静だ。静かに休むそのことだ。
だから、すず。あれこれと世話を焼いてくれることは嬉しいのだが――」

「はい。かしこまりました。わたくし、おやすみの邪魔をしないよう、すぐにお外に」

「いや」

がっしりと。布団の中から伸びた手が、わたくしの足首を捕まえます。

「双鉄さま?」

「あ、いや――いや――すまん、すず。いっていい」

「いえ。双鉄さま、わたくしをお引き止めになられようとしてくださった……のですよね?」

「うむ。あー……その、だな。素直にいえば、僕はすずに、そばにいてほしいと思うのだ」

「はい!」

「だが、安静の邪魔をしないよう側にいてほしいということは、何もするなというに等しいと思い直した。
せっかくのすずの正月休みを、晴れ着姿を、そのように無駄な時間につきあわせるなど」

「いえ! いえ――双鉄様」

するり、と帯紐を解いてしまいます。
きちんと脱ぐには日々姫の手助けが必要ですが、必ずやわかってくれるはずです。

「わたくしの晴れ着の役割でしたら、すでに見事に果たされました。
『似合っている』と、お褒めいただいたあの瞬間に」

「……うむ」

「その上でわたくしが静かにお側にいることが、
双鉄さまのお休みの助けになるのでしたら。それほど有意義な時間は他にありませぬ。
わたくし、すずは。双鉄様の妻ですので」

「そうか。なら、甘えよう」

――安心してくださったのでしょう。
双鉄さまのお顔がほっとゆるみます。
まぶたが静かに降ろされれば、まつげの長さがふと目につきます。

「なんでもいい。目につくものを順番に。
お前の声で、低く落ち着いたその声で、僕に静かに聞かせてほしい。
それこそが、僕にとってはなによりの子守唄になる」

「かしこまりました。双鉄さま。だんなさま」

声。わたくしの声。
普段どおり、と意識をすれば、なんだか上ずってしまいそうです。

「お布団があり、わたくしの大事な双鉄さまが、その上でお休みになっておられます。
お布団のわきには……ああ、おかわいそうに、よほどご気分がすぐれなかったのでしょうね。
双鉄さまらしくもなく、背広が脱ぎ捨てられてしまっています」

と、と、と、と軽やかで静かな足音。
日々姫がそっと、様子を覗きにきてくれます。

「背広のわきには、旅荷。双鉄さまのご愛用のトランクと、見慣れぬ紙袋もございます。
中身はきっとお土産でしょうね。
ああ――うふふっ、石炭も覗いておりますね?
津輕の石炭でございましょうか? わたくし、楽しみでございます」

しーっと合図を送ってそののち、双鉄さまを指差せば、日々姫もすぐに察してくれます。
あっというまに晴れ着をきれいに、わたくしから剥がしてしまいます。

「双鉄様の枕元には、ちりがみ、ゴミ箱。なんとご準備がよろしいことでございましょうか。
こんなときにこそ、わたくしを頼って、使っていただけましたなら、それもうれしいことですのに」

日々姫が再びと、と、と、と静かに階段を上がっていきます。
その間にわたくしもお寝間に着替えて――あら

「双鉄さまは……よほどお疲れだったのでしょうね。眠りに落ちてしまわれました。
ですので、おやすみを妨げないよう――」

そっと、そうっと、布団をめくって、お隣に……

「いまわたくしの真横には、大好きな双鉄さまの寝顔があります。
ですので当然、妻として――」

(ちゅっ)

そうっと軽く口付けて、
わたくしもこの唇と、そうしてまぶたをやすませましょう。

「おやすみなさい、双鉄さま。明日の朝には、お熱、下がられますように――」


;おしまい

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