時 自若 2022/11/16 11:32

今生のローダンセ第22話 言えない理由

「この後、よろしければ是非」
「すまんが、既婚者なんで」
ラウンジで知己が女性から声をかけられていた。
「おおい、書類!これ!」
そしてなんでか私が呼び止められて。
(ここから速やかに離脱したい、協力してくれるか?)
(畏まりました)

流れてくるのはピアノの音である。
「相変わらず店選びのセンスがある」
「料理人と同席するんですよ、しかも今やあなたは料理長でもありますから、下手なところは連れてこれないでしょ?」
「そうか?」
「それに…あの声をかけたのは…」
「なんだ、知り合いか?」
「地元の、よく言うと親戚ですよ」
「そこは悪いことしたな」
「構いませんよ、向こうはこちらを知りませんし」
「そうなのか?」
「それに相手がいない料理長が既婚ですっていって、そこから抜け出したいというのはただ事ではないでしょう」
「まあな、しかし、ここはずいぶんと演奏が上手いな、会話には向かないぐらいだ」
「ここは端の席ですから、ステージの周囲はそれこそ店主が選んだ音を楽しみにしてくるような熱心な人たちしかいませんから」
「満たすのは腹だけではないということか」
「そういうことですね、ただ食事は食事で美味しいのですが」
飲み物も香りで使っているものが違うと言うことを教えてくれる。
「しかし、料理長自らお越しいただくとは思いませんでした」
本日は河川ザメとの契約終わりと新しい契約を、ホテルの一室で行うことになっていた。
「まあ、そのぐらい大きな事件だったんだよ」
先日の河川ザメと契約し、高官の救出、離脱に関係する話。
「さすがにニュースを追う体力はなかったんですが」
「そうだな、やられたらやり返せとか、不満が溜まっているからこういうことをするんだとか、そんな話だな」
「うわ…」
「それで今回の料理はどうだった?」
「いつもながら素晴らしいかと思いますね、河川ザメのサッシーさんを含めた代表のみなさんは満足されてましたし」
「河川ザメはグルメだからな、そこはやはり気を使うさ」
彼女と渦中の最中で契約した河川ザメのサッシー、高官一家離脱後にどうするか話し合いがあった。
「そのまま身籠の大家所属にしようと思ったんだが」
高官一家の息子さんと仲良しだったために、息子さんと契約することになった。
そのためには一度彼女と契約破棄をしなければならず、当事者ということで、今回同席した。
「私の仕事はサインするだけなんですけどもね」
その後無事契約が決まったということで、河川ザメが驚くような食事にしたほうがいい、ということで身籠で用意することにした。
「久しぶりの河川ザメだったし、今の時期クリスマス前だからな、ちょうどいいのさ」
「これから値上がりしますからね」
「そうなんだよ、本当に…予算がな、だからさっきの女性を上手いこと断って良かったかな、君の信頼をこれから先落とすことも避けたいし」
「ああそういう」
表の理由はそう、言えない理由としては、料理長が彼女を個人的に気に入っていたからである。

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