時 自若 2022/11/18 08:16

今生のローダンセ第25話 夜の好みの問題であった

(なんか最近はその…離してくれないというか、激しいというか)
彼女は朝の光の中でそう思ったのだが。

それは彼女の、いくつか…可能性があった死因を彼が知ってしまったそうだ。
情報ソースは平行世界の自分という、疑いようがないもので。
「死んだことになる前の話をしてもいいだろうか?」
もしも彼女が10年近い別れがなかった場合の話だそうで。
「最悪な事が起きるんだ」
その最悪とは、彼女が幸せになりそうなときに、彼女から幸せを奪いに来る業が絡んでくるそうだ。
「これはこっちの世界から隣接する平行世界から集めたもので、そちらからはとれない情報だろうから、有益だと思うが、聞いてて気分がいい話ではないよ」
特にこちらの世界の彼が、何が起きているのかわからなかったそれは。
彼女が楽しそうにした瞬間、例えば物ならば物、それが手元から転がり落ちて、心が壊れそうなぐらい壊れる。
そこで叫ぶと業はケラケラと喜び。
『お前が悪いんだ、お前がそんなものを得るから、だから何も持たなければいい』
そう囁く。
(俺には聞こえなかったが…)
業は無線ではなく有線、繋がっている人間にのみ聞こえる。
「この無線じゃないのが特徴だな、無線とか拡声器ならば他の人にも聞こえるが、有線だとその人にしか聞こえないだろう」
これが孤独を産み出していく。
そこでこの手紙をまとめた平行世界の男は、いわゆる拡声器というのを手にいれて、業を祓うのだが、長いこと歪められていた心は、声が聞こえなくなると、解放されるかと思いきや。
「今度は自分で自分を呪い始めた、私は呪われるべき存在だなんてな」
その後の関係性については手紙には何も載ってはいなかったが、こうして少しでも役に立てるように生きているということは、たぶん死に別れなのではないだろうか。
「話がそれた、ああ、それで俺についてだ、業は俺を殺せない、他のケースでは大事にしたものを壊す、傷つけるが、二人でいる場合、あれは彼女を殺すそれは何故か」
流派は順調にいけば基礎過程を終え、それぞれ役職を得るのだが。
「お前も取得しているだろうが、俺は高確率で埋血錆(うずめちさび)を引き継ぐことになるからだ」
埋血錆は流派の中でも、名前の通り血生臭いもので、人斬りの刃である。
「業はあれを何故か嫌う、他の剣ならば近くまでよってくることはあるが、これにはそれすらもない、業は今だ自分が生きていると思っているのではないか、それが仮説だ」
それは少しわかる、あれは人を寄せ付けない、律さなければ心まで染まる剣である。
「お前に教えるのは心苦しいところがあるが、引き継げるのがお前しかいないと思っている」
そんな理由だ。
後はもしかしたら剣に負けるのではないか、そう思われていたという。
自分の中の影が、少しばかり濃くなるそれは、本能的に人が忌避する何かを持っているが、対外的には凄みがましたぐらいで済んでいるのがありがたい。
「あと彼女が生きている場合は、その際は無茶苦茶抱くように」
理由はそこを否定する人間ではないことと。
「あいつああ見えて、激しいの好きじゃん。埋血錆覚えてから、オス臭くなったところとか大好きだからさ」
夜の好みの問題であった。
「確かに従順なワンワンタイプも可愛いと思っているかもしれないが、立派なオスに種付けされる喜びもお持ちじゃないですか」
うんうん、そう、そうなんだよな。
再会してから、ちょっと回数多いかもしれないけども、それも愛のせいなんだよ。
今ね、向こうも我慢しているんだわ、発情の頻度が早くなってる。
それを理性で補おうとしているの丸わかりなんだからね。
「あと、たまに婿入りプレイ、しばらくしてないなら今夜してやってくれ、今までと違うから」
で手紙は終わっていた。
そこに彼女からの連絡が来て、手紙を思わずくしゃっと握ってしまい、そのまま返信をしたのだが、連絡が終わると手紙は何故か消えていた、が、鼻につく薫りがあった。
握った右手から精力剤のアロマの匂いがした、最近は高級品になってしまったそれは、話の終わりに残るとしたら、ずいぶんといいセンスをしていると思うのだ。

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