時 自若 2022/11/20 09:23

今生のローダンセ第27話 そこから夜を過ごすことになる

もしも十年近い別れがなかったらどうなっていたか。
「おはよう」
「あっ、おはようございます」
同じ屋根の下で再び生活は始めたのだが、何故か今朝は余所余所しいところがある。
「俺は何をやればいい?手伝うぞ」
「温めるだけですから、ああそうですね、お茶お願いします」
「わかった」
普通の朝ではあるが、男の心は色んなものが渦巻く…
彼女は最後に自分が消えてしまえば、全てが丸く収まるという考えを持っていたこと。
(だから未練も一つずつ切ってか)
そのために人からの優しさも断っていたところがあるのだが。
(あれ、それじゃあ、俺がく、口説いたときなんで)
口説いたとまとめたが、もう距離をつめるためにあれやこれやの行動その他すべて入れてのあれである。
思えばなんであんなに行動力があったのだろうか。
逃しはしない、逃したくはない、でも彼女は獲物などではない。
自分が剣を振り回して追いかけるわけではないのだが。
この男自分では気づいてはないかもしれないが、最初の方から怖くないよ、怖くないよと腹を見せる、あれだ、猫がごろんと転がって敵意はありませんとするやつ、ああいう動きをした。
彼は子供相手でも目線を下にして話をしていくのに、彼女の時はごろんと転がり、どや?なのである。
「そうですね、武器持っている方の中には、話を聞いてくれないかたもいますからね、話を聞いてくれるなら、毎回その人の方が話は早いですから」
「俺のこと最初はどう思っていたんだ?」
「儀礼通りに納刀してましたから、そういうのにはうるさいんだろうな、後珍しいですからね」
「あの刀納めは意味があるんだよ、なんだかんだで命を奪っているから、そこに儀礼を通すと精神的な磨耗しにくくなると、簡易礼でもみんなすればいいのにな」
これを重要に見てないと、そのまま酒や女遊びに行くのだが。
「精神を落ち着かせていかないと、失敗するから」
「そういうときは格好いいんですがね」
「もっと言って!」
「ええ、納刀の邪魔になるじゃないですか」
「それはそれ、これはたぶんこれ」
距離が近づくたびに、世間のイメージよりも子供っぽいところがわかる。
「イエーイ、おっぱいバブバブタイム」
「しません」
昨日も大変だったらしい。
「まあ、俺はお疲れ様でしたって帰れる仕事だが、依頼人はありがとうございましたって言った後からが忙しいからな」
「そこで忙しくないと、失ったぶんは取り戻すのは大変に難しいものですよ」
「そうか」
「はい」
「一緒の仕事を何回かしたけども、そういう感じだから、ラッキーとは思いつつも、食事にも誘えなかったからな」
「あれは慣れないところにいるから、気を使ったんじゃ」
「…それもあるが、話してると面白くてな、話す時間はいくらあっても足りないし、電話ひとつで舞い上がってたぞ」
「そこまで」
「電話のプラン変えたぐらい」
「いつの間に」
「まあ、あんまり使わなかったけどもね」
「初めてこの家を訪ねてきてから、暮らすの早かったもあるかな」
「古い家とかダメじゃないの?」
「きちんと手入れされているのならばすごいわよ」
「俺の力だけじゃないんだよ、俺だけじゃ出来ないし、けども、教えてもらったりするおかげで、一人でもできないこと減るし、仕事でな、家屋の破損なども起きたりするから、そういう手伝いなんかもできるしさ」
頭をかきながら話してくれる。
「ただその生活技能面では君の方が上だと思う」
砂利に絡まる落ち葉を、毛足の短いブラシを使ってかき集めていた。
「あれ、滅茶苦茶に早いよね」
「そうね、市販のブラシだと砂利まで巻き込むのよね。でもまあ、そういう問題があっても、どうやって解決していこうか、手早くやるかが大事なのであって、あなたでもできるわよ」
「君が思っているよりも、君の存在は大きいんだ、それがわかってほしいし、その証拠に俺は君が帰ってくるまでたまに泣いてた」
「新しい恋、出会いを探しにはいかなかったの?」
「君を忘れる恋なんてあると思う?」
「あると思うよ」
さすがにそう切り返されビックリするが。
「じゃあ、恋愛の達人に質問します、次の恋はどうやったら見つかるんですか?」
「そうね、諦めていたのよね」
「何を」
「全部、自分にはもうみんな、可能性というものがないと、そこまで折れたのはあなたと会ってからしばらくしてからだったわね」
「そんなことがあったの」
「耳鳴りかなって思ったら、そうではないと、病気ではないと言われてね、業は自分から不幸を招いているのに、決して自分が原因ではないと思っている、とんでもない存在なんだもん、あれは刺し違えてでもなんとかしないとって」
「それがどう変わったの?」
「最近よ、あなたが喪失感を知ってしまっていた、それがあればおそらく業は目をつけないだろうなとか思ったから」
血生臭く喪失感を纏えば業は同類だと思うのか、それともそういう相手は面白くないからよそに行くのか。
「愛とは本当に難しい、優しいあなたの手さえも困惑してしまう」
「詩人か何かか?」
「そのつもりはないんだけどもね、あれを止めなければ、あそこが原因で何かは傷つけられ、汚されるのは目に見えていたから、決定的な抑止力が見つかるか、見つからなければこのまま死ぬまで我慢かなってさ」
「何その人生」
「否定されても私の人生ってそうよ」
「じゃあ、俺のこと嫌い?」
「幸せになってね、私はなれないから」
「今日はどこ行く?家電量販店とか見たいんだけども」
「話聞いてる?」
「聞いてるさ、その上で言ってる」
「ああ、そうね、何か買うものあったの?」

現実を見てないわけではなかった。
ただ彼女を支える必要を感じている。

「一人でいるはずだったっていうなら、孤独であることに寂しいなんて顔するなよ…」

出会った当時の彼女は強い意思を持っている人だと思っていたんだ。
誰かがやらなければならないことを先回りして、止めにはいる。
そこに魅力を感じていたけども。

「救援は?」
「要請はしてますが」
「とりあえず離脱するぞ」
「はい」
要請はしても、出動はせず、彼が改めて要請して、やっと動くような仕事ばかりをしていた。
「あれは自分ならば無傷でやりとげれるからってことなんだが、見ている方の心は抉るわけよ、しかも内緒で動いてたか、すまないがもし見かけたら助けてやってくれないか」
「わかりました」
報告したところ義父からそういわれた。
「はっ、これは義父さんからの公認ってこと」
あわあわあわあわ
「末長くお願いします」
「えっ?あっ、すいません、よろしくお願いします」
ここから二人の時間は増え、どこかに出掛けたり、映画を見に行ったり。
「この人ならいっか、そう思ってくれたのが見えたので、次のステージに進むことにしました」
そこから夜も過ごすことになる

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