時 自若 2022/12/18 08:07

今生のローダンセ 第35話 お姉さまとラブラブハッピー共和国

すごく寒くて…
(生きるの死ぬのを思い出しちゃうね)
その時と違うのは、おそらく死ぬことはないということだ。
ぬくぬくとした格好をした彼女は、用事を済ませて帰り道を歩いていく。
彼の禊は無事に終わり、送ってもらうという話なので、もうついている頃だろう。
メロディが鳴る。
噂をすればなんとやらだ。

「今、帰ってきた」
「お帰り、もうちょっとで戻るよ」
「待ってる」
「無理しないで、ゴロゴロしてなさいよ」

メッセージはいつの間にか自然な言葉で綴られるようになった。
(何故だろう)
不思議だ。
というか、あの人は私の社交辞令を見抜いてしまうから…本音で話すしかない。
本音は人にとって耳に痛いものである。
だからこそ、上手く言葉を使う。
あの人はその奥まで見えてしまうようだ。
それは修行のせいともいう。
「そこまで見えて、ようやく一人前かな…」
などと話してくれたが、それは秘伝という奴なのではないだろうか?
(私に話していいのだろうか?)
責任は取れないぞ。
私からすると、ちょっと寝過ぎたかな?という感じなのだが、時は驚くほどに変えてしまうということを実感した。
自分の感覚は当てになるものではない。
それでも少しだけ様子を見よう、これでまあ、あの人が妻子がいて幸せならば、そのまま帰るつもりであったが。
出会ったときとまるで変わらずに、いつものように稽古をしてた。
「…」
「お久しぶり」
索敵もできる人間の前に、下手に気配を消すなんてバカな真似はできない。
向こうはもちろん気づいたが、目は驚き、唇は止まった。
だから声はこちらからかけた。
「再び会うまでもっとかかると思ってた」
「それは何前提?」
「お前のプライドのために、俺は見守るという選択をしたが、あの時、失ったと聞かされたときに、眠るお前の顔を見たときに、失敗だと思ったんだ」
「それで良かったですよ、私はそのお陰で、プライドをきちんと守ることができたんです」
「でもいなくなったじゃないか」
「…あれ?奥さんと子供は?結婚しているんじゃないんですか?」
「するわけないだろう、確かにお前と別れてからの時間は長いが、そんな時間で失ったものが取り戻せるとは思うなよ」
「失ったんですか?」
「失ったよ、もう、本当に…さ」
「すいません、そんなに、そんな顔されるとは思わなくて」
「しかしどうなったるんだ?本物はわかるが」
「神仙みたいなものですから、魔法使いの修行しすぎたら、この世のルールから違う世界のルールが適応されたんですね」
「それであの時のままか」
「そちらは少し年を重ねましたか」
「少しじゃないよ、年が離れてしまった」
「私は気にしませんよ」
「このまま寿命とかどうなるの?」
「食事とかちゃんとこちらのもの食べたいると、こちらの時が流れるみたいですが」
「じゃあ、これからは一緒にいてくれよ」
「どうしようかな」
「どうしようかなって…んじゃなんで、ここに来たんだよ」
「顔だけ見ようかと思って、幸せならばそれでいいでしょうし」
「んで今の俺は?」
「どっちなんですか?」
「ずっと一人だったんだが…」
「えっ?見合いとか勧められるでしょう?」
「断りました」
「どうして」
「好きな相手がいるのに、違う人と結婚するのか?」
「立場があれば、そこは別物では?」
「嫌だよ、それ」
「そんな食わず嫌いして、会ってみたら実際にいい人だったりするかもしれませんよ」
「一番お前からそれ聞きたくないんだけど、んじゃ逆に、俺がいなくなったら立場のためにお見合いはするの?」
「しませんよ」
「なんで?」
「合わない人間と話すのが時間の無駄だから、それをするぐらいなら立場捨てますし」
「そ、それじゃあ、そこに俺がお見合い相手として来たら?」
「来ないでしょ?」
「絶対にねじ込むから」
「きちんと家守るタイプの、良家のお嬢さんがあなたを待ってますよ」
「俺はなんでもサクサクやっちゃう娘さんの方がいいのぉ、後努力とかで目標を達成したり、苦労を克服するとかに対して、理解がないとダメ」
「いるのでは?」
「いないって、いたら…まあ、こんなこと自信を持っては言わないよ。というか、修行とか泥臭いことが必要な生き方をしているとね、思った以上にモテないのよ」
「そういうのってモテるためにやめるわけにもいかないですもんね」
「そうさ、これが生き方だから、そこで変える…変えるのもいるよ、やめちゃうやつとか、女の子と遊びたいんでっていうのも多いよ」
「遊びたくならないんですか?」
「話し合うとおもう?」
「あなたは話、上手いでしょ?」
「じゃあ、俺とお話ししましょう?お嬢さん」
手をそこで握られて、目を見てそう言われた。
「あの…これって」
「俺は何度でもお前に会いたいと思う、そして会うために邪魔をするものみんな切りたいと、お前と会えなくなってから決めたんだ」
「物騒ですね」
「基本的に切れるか、切れないかで考える人間だよ」
「そうは見えませんが」
「そりゃあ、怖い顔見せたくないもの」
「そういって他でも口説いているんじゃないですか?」
「かもな」
「もう…」
「なんだ嫉妬はしてくれないのか」
「嫉妬してほしいんですか?」
「ちょっとだけな、それでもう帰るのか?それとも」
「どうしようかな」
「なんだ?帰る気失せちゃったかな?」
「うるせーよ」
「お帰り」
「すぐ帰るつもりだったのに」
「ダメだ、もう離さん」
「うううう」
「心がぐらついたら、お前の負けだよ」
「なんで…すぐに忘れなかったのよ」
「思い出あれば生きていけるかもなって、思い出して、それで楽しくて、お前はいないのにな、すごく不思議だった、自分でもビックリだ、一緒にこれからも生きるつもりだったから、生きたかったんだよ、だからケリだけはつけようかと思ってたんだ」
そこから彼女の方がごめんさない、ごめんさないと泣きながら謝った。
(私の方も思い出に囚われているよね)
たぶん彼を失ったら、思い出すであろう。
きっと…おそらく…いや、絶対。
「ただいま」
彼が待つ家に帰ってきた。
「お帰り」
暖かい家の中。
「今日は寒かっただろう、しばらく暖房の前で暖まってくれよ」
「体の方どうなの?」
「体力もあるから思ったよりも早くなんとかなったみたいだ」
「無理しちゃダメよ」
「しないって、今は生涯現役(いろいろな意味で)が目標だし」
彼女にはおそらく()の中身が正確に見えたのだろう、表情が強ばってる。
「お姉さまとラブラブハッピー共和国のためですから」
おおっと、そういったら、滾るものを感じました。
隙を見て、手を出したいと思いますので、この辺で!
ええっといつもの定宿は…相変わらず余裕で予約取れるな…

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