有坂総一郎 2024/05/27 20:00

転生・転移系小説における製鉄法の考察

どこの転生・転移系小説でも概ね反射炉や高炉による製鉄を推進することが多い。

無論これを否定するものではない。実際、製鉄方法としてはこれらを推進する法が理にかなっている点が多いからだ。ただ、いくつか問題点を有していて、それに対して目を瞑ることで富国強兵につながっている節があるのは否めない。

問題は原料だ。製鉄技術そのものが問題なのではない。

反射炉であっても高炉であっても、基本的に原料は鉄鉱石と石炭(コークス)である。だが、日本国内において鉄資源は非常に少なく、鉄鉱石が産する場所は非常に限られる。

鉄鉱石の産する場所を具体的に示すと釜石、常磐、秩父、倶知安・喜茂別・徳舜瞥、柵原、大嶺といったところだろうか。他にもないでもないが、比較的有名どころだとその辺だ。

次に石炭だが、夕張、石狩、釧路、常磐、宇部、大嶺、筑豊、糟屋、三池、西彼杵が有名どころだ。

ここで、連携しやすいのは鉄鉱石と石炭が両方賄える常磐になる。また、大嶺も鉄鉱石と石炭が賄える。しかし、それ以外は片方しか賄えない。そして、運送上の都合があまり良いとは言えない。よって、大規模に高炉や反射炉を用いる場合、常磐と大嶺を抑えていることが前提条件となる。

そして、問題はそれだけではなく、石炭にもある。

基本的に石炭そのものは余分な硫黄分が含まれているため、製鉄には本来向かない。故に間接製鋼と呼ばれ、直接製鋼のたたら製鉄に比べ手順を余分に踏む必要がある。

石炭をそのまま用いると鉄が脆くなる。それを改善するためには硫黄分を省いたコークスを作る必要があり、それには石炭を蒸し焼きにする必要がある。これによって炭素分だけが残り、より高熱を発する原料とすることが出来る。概ね、この課程で元の2割程度になる。蒸し焼きにするため燃料炭も必要である。つまり、この時点で大規模な炭田を確保出来なければその時点で反射炉・高炉の実現は無理と言うこと。

そして、コークスに転換出来る石炭も品質があり、本来は瀝青炭以上の品質であり、では、瀝青炭がどこで採掘出来るのか?

その答えは、九州の筑豊、三池など各炭田の多くで瀝青炭、無煙炭が多く産出し、また、北海道の石狩などに多く分布する。常磐、宇部、大嶺も地層的に瀝青炭、無煙炭が産する。しかし、それら以外は良くても亜瀝青炭までということになる。

歴史上、官営八幡製鉄所が北九州に設置されたのはそれが理由であり、同様に北海道の室蘭・輪西に製鉄所が置かれたのも良質の石炭を後背に備えていたからである。

よって、反射炉や高炉による製鉄を行うにはこれら地域と友好的な関係、そしてそれを流通させる能力が必要となる。特に流通が重要であり、それを考えると水運がもっとも効率よく機能することが官営八幡製鉄所のそれでもわかる。

さて、ここまで来て気付くだろうが、石炭は直接支配せずとも流通と開発でなんとかなることがわかる。しかし、問題は鉄である。鉄鉱石である。これはいかんともしがたい。

常磐であるならば、ある程度はなんとか出来るかも知れない。しかし、他の地域は実に多くの問題を抱えている。だが、日本では鉄鉱石を用いずとも製鉄は行われ続けている。たたら製鉄だ。

これは特に日本海側と東北において有利に作用しているものだが、地層的に花崗岩が風化した真砂土がこれらの地域には多い傾向にある。そのため、山を切り崩し、真砂土を川に流せばかなりの確率で砂鉄を採取することが可能だ。場所によっては砂鉄の層が存在するくらいには日本の地層には砂鉄がそれなりに豊富に含まれている。

そして、中国地方、特に山陰においてはそれがより顕著で、雲州鉄が全国に流通していた。

しかし、たたら製鉄はある意味では古代製鉄法でもあり、近代的、西洋的な製鉄方法とくらべると高コストになりやすく、明治・大正期において途絶えてしまう。

しかし、たたら製鉄は前述の通り、直接製鋼であるが故に二次精錬なしに鋼を手に入れることが出来る。そして、日本刀を作るにはこの課程を無視することが出来ない。より強靭で粘りのある玉鋼を造るには必須だと言える。

たたら製鉄が途絶える頃にたたら製鉄は一つの発展を遂げる。それが角炉である。角炉とは耐火レンガを用いて高く築いた炉に原料に砂鉄、燃料に木炭を用い、従来のたたら製鉄に洋式高炉の技術を取り入れたものだ。

従来の粘土による一回限りの炉ではなく、恒久的な連続製鋼が可能な炉の誕生であり、天秤鞴ではなく、水力による連続通風による火力アップなども可能となったことでコスト高の傾向が軽減されることになったのだ。

そして、品質は従前の通りである。

良いこと尽くめに聞こえるが、問題は資源確保が従来通りであるため、治水工事と治山植林という従来の問題もまた抱えたままであると言うことだ。

記録によると出雲の製鉄事業者で有名な田部家のそれでは1操業あたり砂鉄を約12トン、木炭を約13トン投入し、約3トンの鉄塊(鉧)を生産したといわれ、たたらの操業は年間に60~70回行われていたという。田部家は最盛期で2万5千ヘクタール以上もの山々を所有したといわれ、これは東京ドーム約5300個分の広さに相当する面積である。

つまり、単純計算で砂鉄720-840トン、木炭780-910トンを年間消費し、180-210トンの鉄塊を年間生産していることになる。

木炭も石炭と一緒で蒸し焼きにして作るからその分の別の木材が必要となる。しかし、石炭の質ほど左右されない点は有利ではある。だが、留山などをして森林保護をしないといけないから無限に使えるわけでもない。

よって、鉄鉱石を用いることが出来る地域でないのであれば、無理に反射炉や高炉にこだわらず、角炉を複数建造して量産体制を築くことの方が現実的と言える。特に戦国時代をベースにするならば、反射炉や高炉は不適合だろう。

江戸時代みたいな中央集権や全国流通が確立しているならば、反射炉や高炉を導入するハードルは一気に下がるが、そうでないなら、たたら製鉄を基本として角炉みたいに代替技術の導入で省力化や連続操業を目指すべきだろう。

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

記事のタグから探す

月別アーカイブ

記事を検索