有坂総一郎 2022/05/28 07:00

ジレンマ・トリレンマ

滑腔砲や転用可能性を考えてみているけれど、なかなか難しい。

シンプルに考えるだけで望ましいのは加農砲を戦車砲にすると貫通性能や初速を稼げる。けれど、当然のことだけれど加農砲は榴弾砲や高射砲などよりも遙かに重い。

105mm級を下に列記してみよう。

九一式十糎榴弾砲
砲身重量:343kg
砲列重量:1500kg
砲口径:105mm
砲身長 :2090mm(20口径)
初速:454m/s
最大射程:10800m

九二式十糎加農砲
砲身重量:1172kg
砲列重量:3730kg
砲口径:105mm
砲身長 :4725mm(45口径)
初速:765m/s
最大射程:18200m

試製十糎戦車砲(長)
砲身重量:
砲列重量:4700kg
砲口径:105mm
砲身長 :5759mm(55口径)
初速:900m/s
最大射程:

試製十糎対戦車砲(カト砲)
砲身重量:
砲列重量:
砲口径:105mm
砲身長 :5759mm(55口径)
初速:900m/s
最大射程:

試製砲は何れも戦争末期に開発されたものだから、当然のことではあるが、時代の趨勢に適したそれで開発されている。よって、重量も5トン弱になっている。同様に五式七糎半戦車砲でも3トン弱の重量となっていることから長砲身砲、高初速砲の宿命であると言えるだろう。

九五式重戦車改造車であるジロ車のそれで九二式十糎加農砲が搭載されていたが、本砲が隔螺式 であっても問題が無かったのはそのシャーシの巨大さ故と言えるだろうか。それ以外に先述した砲は鎖栓式のものであるが、戦車砲としてはこちらが一般的である。

ロイヤル・オードナンス55口径120mmライフル砲の砲身重量や砲機構全体のそれも試製砲の段階で同等クラスにまで増大しているが、それは金属素材や冶金技術の進歩の分があるのだろうと推測する。

さて、そう考えるとやはり滑腔砲をでっち上げたくなるのだが、しかしそこで問題がある。試製砲が量産化されるまで概ね1年半から3年程度は掛かるのだ。戦術の五式七糎半戦車砲が1年半、試製五十七粍戦車砲が4年以上、試製十糎対戦車砲(カト砲)も2年程度掛かっている。

タ弾の伝来のタイミング次第では結局間に合わないと判断するべきなんだとは思う。これが常識的判断というモノだろう。しかし、それでは結局、タ弾を対戦車用の砲弾として活用するのに限界が出てくるわけだ。

タ弾の特性はライフル砲、特に高初速砲と相性が悪い。よって、九一式十糎榴弾砲は兎も角、他の700m/s以上の初速を持つ砲で積極的に使うものではないことになる。

そうなると折角、大口径化しても通常の徹甲弾や徹甲榴弾などを使うことになる。タ弾は口径拡大すればそのまま貫徹能力が向上するのにである。正直勿体ない。

では、75~105mm級の低初速砲を戦車砲で用いれば良いかと言えば、それでは逆に通常の徹甲弾や徹甲榴弾の威力が減るだけである。

全くもってあちらを立てればこちらが立たずこちらを立てればあちらが立たずである。

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