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この後の展開が気になる方の記事 (31)

おかず味噌 2021/06/30 22:00

能力者たちの饗宴<時間停止能力>「生意気OLに『報・連・相』」

(第一話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/423927


――せめて、大学に行っておけば良かった。

 そうすれば私の人生も、もう少しマシなものになっていただろう。
 仮に二流・三流大学出身だったとしても。大卒とそれ以外では就職活動時のみならず、その後の待遇においても天と地ほどの差があり(一部特殊な才能に恵まれた者を除き)、生涯年収に多大な影響を及ぼすものなのである。
 あるいは大学なんて出ていなくとも…。

――せめて、親が金持ちだったなら。

 それだけで、もはや勝ち組確定である。何もそれは金銭面についてのみそう言っているのではない。
 もし親が社長ならば――、七面倒な出世競争などに心労を割かずとも、生まれた時点で次期社長のイスは約束されているようなものだろうし。
 もし親が医者ならば――、いかに不出来であろうとそこは裏口入学やら何かで、やはり医学部に席を与えてもらうことは何ら難しくない。
 社長の息子は社長、医者の息子は医者と相場は決まっている。いかに世間知らずが否定しようとも、それはいわば世の理であり。そうした立場や役職に、「女」という生き物は滅法弱いのだ。あるいは金なんか抜きにしても…。

――せめて、イケメンに生まれていれば。

 それだけで、女共はフリフリと尻尾を振ってホイホイと付いてくる。ちょっと優しくしてやっただけで途端に「メス」の顔になり、股を濡らし脚を開くのだ。
 よく「面白いヤツがモテる」というけれど、あれは嘘だ。そこそこ顔が良くなければ、そもそも話さえ聞いてはもらえず。会話をせずして一体どうやって興味を抱いてもらえるというのだろうか?

 およそ四十年に渡る人生において、私が学んだ教訓といえば。

――人は生まれながらにして、決して平等ではない。

 という、ただその一点に尽きる。
 見た目の美醜も、生まれの貧富も、それら全ては一度きりの運によって運命づけられ、学歴も出世も(当人の努力も少なからずあるとはいえ)いわば副産物としてのみ存在し、人生における成功及び「性交」もまた、そのおおよそが決定づけられているのである。

 思えば、これほどまでに不条理な「ガチャ」はないだろう。リセマラすらも許されず、課金できるか否かについてもやはり、与えられたアカウントだけがものをいう。
 何も持たずしてこの世に生を受けた者は、常に妬みや嫉みに苦しめられることとなり。それらは芸術などに昇華されることもなく、ただただ悶々とした日々を送るのみである。

 だが。そんな私の長いようで短かった生涯も、もう間もなく幕を閉じようとしている。右方から突っ込んできた「一台のトラック」によって――。


 時を遡ること、ほんの数十秒前。
 私はとある交差点で信号待ちをしていた。繁華街を行き交う人々は皆退屈そうな表情を浮かべつつも、どこか満たされたような顔をしていて。彼らの営みは私にとって目の毒にしかならないのだった。

 そして今まさに、私の後方では一組の「アベック」が乳繰り合っていた。

「この後、ウチ来る?」
「え~、どうしようかな~?」
「いいじゃん、ちょっと寄るだけ!」
「え~、絶対ヘンなことするでしょ~?」
「しないって!」

 聞くからに頭の悪そうな。とっくに女の側もその気でありつつも、己の価値を試すかのような、そんな無意味なやり取りに苛立ちを覚えながらも。今や私の意識は完全にそちらに向けられていたのだった。

「ねぇ、前…」

 ふいに女の発した言葉によって、私は我に返る。

 後にして思えば。単にそれは彼らの前方にいる私を指して、その容姿を揶揄しただけの言葉であったのだろうが。私としては、そのさらに前方にある信号が青になったのだとばかり思い込んだ。
 常日頃から慎ましく生きることをモットーとし、邪魔者扱いされることを臆した私は、あくまで自らの意思によって一歩を踏み出したのだった。

 けたたましく鳴らされる警告音。迫りくる自動車の走行音。気づいたときには、けれどもう遅かった。
 とっさに後ろを振り返る。私に続く者は他に誰もいなかった。そこにおいても私は孤独を味わうのだった。

 全てがスローモーションに感じられる。訪れる彼岸の間際、私が思ったことといえば。

――死ぬ前に一度でいいから、女とヤりたかった…!!

 私にとって、唯一とも取れる願い。たった一つの悲願。人生において何一つ得ることの叶わなかった私であるが。他のことはともかくとして、このまま一度も女と交わらずに「童貞」のまま生涯を終えることだけが心残りだった。

 今更ながら、私は激しい後悔に苛まれる。あるいはもう少し早く気づいていれば。
 だがもはや全てが手遅れだった。一体私はどこで間違えたというのだろう?

 もし、人生をやり直せるのならば――。
 いや、それが不可能であることはすでに分かりきっている。「時間」というものは常に不可逆であり、ただ進む一方で戻ることも止まることも許されない。だからこそ…。
 もし、来世というものがあるのならば――。
 私は今度こそきちんと努力し、己の生まれの境遇に不平不満を漏らさず、ただ真っ当に生きようと誓うのだった。


 だが、それにしても。走馬燈というのはこんなにも長いものなのだろうか。意識は明瞭ながらも指一本動かせず――、いや動く!!

 指どころか腕さえも。私は手で顔を拭い、目を擦った。
 その間も、迫り来るトラックは私を待ってくれていた。

 続いて、体のあちこちを検分する。未だどこにも痛みはなく、肉体に何ら変化は訪れていない。ただ一か所、ある一部分を除いては。

 私のペニスは固く「勃起」していた。

 それはいわゆる、生命の神秘というやつなのだろう。死の間際、生物は子孫を残そうと繁殖力が飛躍的に高められるという。
 目の前に相手が居ないのにも関わらず。それどころか、一度だってそんな相手に恵まれなかったというのに。私のそこは、あくまで己の使命を全うしようと躍起になっていた。

 私は、自分の「息子」が哀れに思われた。
 来世こそは、存分に活躍させてやろうと誓った。

 自らの「性器」に語り掛ける。
 恐らく、生涯最期の「射精」になるだろう。

「死の瞬間の快感はセックスの百倍以上」と聞いたことがあるが、まさしくこれがそうなのかもしれない。束の間に訪れた「センズリタイム」。
 死の前では全ての者が平等である。ああそうかなるほど。盛大な「一発」を打ち上げてそれで終わり、というわけだ。

 私は「イチモツ」を取り出す。太陽の下で眺めるそれは、どこか誇らしげに見えた。

「オカズ」に困ることは特になかった。たとえば、先ほどの「アベック」。彼と彼女との今後の展開を、男の方を自分と置き換えるだけで事足りた。
 叶うことならもう少し近くで、舐め回すように眺め回したいところではあったが。神もさすがにそこまでは許してくれないだろう。

 だがそれでも。満たされぬ日々の中で、主に音と映像のみによって補完され、培われた私の想像力をもってすれば――。

 最中の光景を、ありありと思い浮かべることができるのだった。

 ただでさえデカい尻がやたら強調された、スカートかズボンかも判らぬ衣服を下ろし、パンティを脱がし、前戯もなく強引にぶち込む。やがて数度のピストンを繰り返した後。 

「中に…、中に出すよ!!」

 私は「種付け」を宣告する。茎を駆け上る、私の「子種」。間もなく発射を迎えるも、だがその先に「子宮」はなく、あくまで「地球」へと放たれるのだった。

――ドッピュン!!ビュルルル…。

 アスファルトに飛び散る、私の残骸。数瞬先はあるいは私自身も…。

 快感が背筋を這い上がる。誰に遠慮するでもなく、堂々と行う「射精」というのは果たして、こんなにも気持ち良いものなのか!さらにはこれが「自慰行為」でなく、きちんとした「性行為」であったなら――。

 私の果たせなかった後悔の中にまた一つ、「青姦」の項目が書き加えられる。

 だがそれも。すっかり「賢者」と成り果てた私にとってはどうでもいいことだった。
 ズボンを穿き直した上で、迫りくる死を待ち受ける。だがなかなかどうして最後の審判は訪れなかった。

「ペニス」が下着の中で萎えていくのが分かる。そしてある一定の膨張度を下回った時、ふいに私を包んでいた静寂は消え去るのだった。


 クラクションが鳴り響き、それに続くブレーキ音。
 私は不格好のまま跳び退き、無様に尻餅をついた。

「馬鹿野郎!!」

 トラックの運転手に怒声を浴びせられる。「死にてぇのか!?」と、私に限っては頷くことさえできる問いを添えて。
 そちらの信号は青だったのだ。奴が怒るのも無理はない。それでも自動車と歩行者ではその立場は決して平等ではない。助かったのはお前の方なのだ、と私は内心で毒づく。

 苛立ち混じりの荒い運転で、見せつける迂回して走る去るトラック。
 快感と恐怖。二つの意味で腰を抜かした私はかろうじて立ち上がり、歩道へと舞い戻るのだった。

 無事に「生還」を果たした私を、彼らは「静観」をもって迎える。
 いや、そこにはクスクスと耳障りな笑い声が混じっている。中にはスマホを取り出して撮影を試みようとしていた者までいた。

 そんな彼らの野次馬根性に、だが驚くことはない。
 退屈な日々を過ごす者にとっては、他人の死さえもあくまで娯楽の一つに過ぎないのである。

 再び信号待ちをする私の周囲にだけ、不自然な空白が生まれる。さも平凡と非凡を隔てるかのように引かれたその一線は、まさしく神の領域。

 人にとって不可侵である「時間」。そこに干渉する能力があるとするならば。
 それこそまさに神の御業ともいえることだろう。

 一旦は諦めかけた人生。だが思いがけず取り留めた一命。
 かつての私は一度死んで、新たなる自分として生まれ変わったのである。

 もはや何にも誰にも遠慮することはない。私は決意する。
 残りの一生を、己の性欲を満たすことのみに捧げようと誓うのだった。

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おかず味噌 2021/05/16 16:00

クソクエ 勇者編「黄昏の証明 ~女僧侶の着衣脱糞観察~」

(前話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/404020

(女戦士編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247

(女僧侶編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/357380



――ヒルダさんの「お尻」から生み出されたモノ。

 地面にしゃがみ込み、下穿きを脱ぎ、「割れ目」を剥き出しにして、

――ヒルダさんの「お尻」から産み落とされたモノ。

 紛れもないそれは、「うんち」だった。


 これまでの彼の人生において、「悪意」と呼べるものとはおよそ無縁であった。
 いや、そうした感情の標的になったことが全くないといえば、やはり嘘になるだろう。村での日々において、彼はよく同年代達から嘲りや揶揄いの対象にされてきたのだった。
 だがそれも、彼にとっては己の愚鈍さや臆病さにこそ原因があり。あくまで自分が他人より劣っているからこその、いわば当然の「報い」なのだと信じて疑わなかった。
 それ故に、彼はまさか自らが悪意を抱くことなど微塵も考えたことはなく。ましてや、自ら悪意をもって他者を貶めようなどとは夢にも思わなかったのである。

 あるいは悪意とはいかずとも、単にそれは「悪戯心」と呼ぶことだって出来るだろう。だけどやはり、そんな「出来心」さえも彼の中には未だかつて存在せず――。
 そうした彼の純粋さこそがひいては聖剣に選ばれる理由となり、神にさえも認められ、勇者たりえる「しるし」となり得たのかもしれない。

 だがしかし。何処からか訪れた「暗雲」が、瞬く間に「日輪」を隠してしまうように。ここ最近、彼の精神性においてもやや「翳り」が窺えつつあるのだった。
 かつて「黎明」と共に誓ったはずの彼の崇高なる意志は、やがて「逢魔が時」を迎えることとなる。それもやはり、彼女たちの尻から出づる「黄昏」によって――。


「申し訳ありません。私事なのですが…、出立を少々お待ち頂けませんでしょうか?」

 アルテナな控え目な口調で、あくまで慇懃に言う。

「えっ?あ、はい…大丈夫ですけど」

 まさに、いよいよこれから「冒険に出る」という時に。彼女の口からもたらされたその申し出は見事に出鼻をくじくものであったが、それでも彼は了承する。

「すぐに済みますので…」

 そう言い残して、女僧侶は早々にその場から立ち去ろうとする。

「なんだ、『便所』かい?」

 あえて間接的に言ったアルテナの気も知らず、ヒルダが直接的に訊ねる。

「ハァ!?いえ、その…(はい)」

 女戦士の、そのあまりに不躾な物言いに苛立ちを見せつつも。そこは彼の手前もあってかろうじて平静を保ちつつ、ついにアルテナは白状したのだった。

 そして。間もなく「トイレ」へと向かう彼女の後ろ姿を眺めて、彼は。

――「おしっこ」かな?それとも…。

 またしてもつい、あらぬ想像を抱いてしまうのだった。

 とはいえ、その「大小」を確かめる術は彼にはない。野外で行う場合とは異なり、個室で行われる秘事において、その行為を盗み見ることは叶わず。あくまでそれを阻むものは薄い扉と、そこに掛けられた簡易な錠前のみではあるものの。「盗賊のカギ」はおろか「最後のカギ」を用いてもなお、解錠することは出来ず。仮に開錠したとしても、もはやそれを知られてしまったら何の意味もなく、やはり状況の打開とはなり得ないのである。

 ふと、彼は手元に重みを感じた。アルテナが「用便」に向かう際、元はヒルダに預けていった荷物だった。さほどの重量ではなかったものの、パーティの生命を預かるべく重責からだろうか、それは見た目以上に重荷に感じられるのだった。

 アルテナが直接、それを彼に手渡すことはなかった。普段から何かと、事あるごとに彼に頼ろうとすることで。彼と触れ合う機会をなるべく多く持とうと、口実を打算する彼女であったが――。そこはやはり「乙女の矜持」として、さすがに自らの「排泄」のために彼を利用することは憚られたのだろう。

 だが、それにしても。アルテナは「意図」して、彼に対して気を遣っている節がある。
 単にそれは「厚意」によるものか、あるいは彼だけに向けられた「好意」のためか。(とはいえ「意中の人」である彼自身は、あくまで「意識」さえしていなかったものの)果たしてその「真意」は分からずとも、紛れもなく「善意」から生じるであろう感情に。だが彼は決して「得意」になることはなく、自らの「誠意」を示すこともままならずに、ただただ「敬意」をもって返すのみであった。

「アタシも行っとこうかな…」

 ヒルダもまた欲求を口にする。受け取った「道具袋」をそのまま彼にパスすると、彼女はなぜかアルテナとは「別方向」に向かうのだった。

「あれ?一番近い『トイレ』はそっちじゃないのに…」

 彼は女戦士の行動を疑問に思いはしたものの。後になってからよくよく考えてみると、その理由に行き当たる。
 彼にとって二人がかえがえのない仲間であるように、やはり彼女たちにとってもそれは間違いなく。だが同時に両者が互いを「ライバル」だと認識していることは、彼の目から見ても明らかだった。
 だからこそ自らが「踏ん張る」様子を(いかに壁で隔てられているとはいえ)その気配すらも悟られたくはなく、ましてや「排泄音」を聞かれることに抵抗を覚えたのだろう。

 二人に置いてけぼりにされ、一人きりとなった彼は他にやることもなく、皮袋に視線を落とす。紐できつく結ばれた口を開くと、わずかながらも暗闇が窺えた。
 彼は深淵に手を伸ばし――、本来パーティの「共有物」であるはずのそれに、あるいはどちらかの「私物」が紛れ込んでいないかと、漁り始めるのだった。

 目的の「宝具」こそ見つからなかったものの。やがて彼はある「道具」を探り当てる。さらに小袋に入れられたそれを丸ごと取り出し、中身を改める。

「回復薬」にはそれほど詳しくない彼であったが、それでも。その「丸薬」については、入手した経緯を含めて、その「用法」を記憶していた。それは――、

「即効性の下剤」であった。

 服用したならば、たちまち「排泄欲求」を高めるもの。
 紛れもない薬であるはずのそれ。「便通」を促し、体内の毒物もろとも体外に排出することで、解毒するためのもの。
 にも関わらず。今の彼はどうしたって、その「効能」ばかりに目を向けてしまう。

――これを、二人に飲ませれば…。

 勇者は再び妄想してしまう。彼女たちの「その姿」を。
 とはいえ、まさか面と向かって「飲んで!」などと言えるはずもない。何のために?「便秘」であるとか、毒を浴びた状態であるとか。そういった事情が無ければ、これ自体もまた「毒」であることに違いないのである。だけど、もしも――、

――気づかれることなく、二人にこれを飲ませることが出来たなら…。

 勇者は思い浮かべる。彼女たちの「痴態」を。
 予期せぬ「便意」とその解消。果たしてそれは屋内にて行われるのだろうか?あるいはいつかの彼女のように野外でだろうか?きちんと下穿きを脱いだ上でされるのだろうか?それとも、穿いたままでか?

 今一度、周囲を確かめつつ、彼は「丸薬」に手に取る。
 かつて浴室にて、ヒルダの下穿きへと手を伸ばした時と同様に。緊張とも恐怖とも取れない、得体の知れない何かが背筋を這い上がるのを感じた。
 そして。三つある内の一つを掴み取ると、彼はそれを自らのズボンのポケットに仕舞い込んだのだった。

「道具袋」の中にあるものは全て、いわばパーティの「共有財産」である。ということはつまり、彼自身の「所有物」でもあるのだ。あくまで「持ち物」の保管場所を移動させるというだけのその行為に。だが仲間の目を盗んで行われる秘事に。
「勇者」であるはずの彼は、まるで自らが「盗人」にでもなったかのような背徳感を抱くのだった。

 悪意とは何も他者に不利益を被らせようと抱く感情のみを指してそう呼ぶのではない。自己の利益のため他者を蔑ろにする行為もまた、やはり悪意に他ならないのである。

 とはいえ。彼のそれは、ほんの一瞬「魔が差した」だけのもの。そこに計画性はなく、現段階では未遂とさえいえないだけのもの。だがそれでも。
 欲望のみによって発露し、願望を果たすべく為された行動。自己の裏に潜む影の如く「エゴ」はまさしく――、

 これまで「日向」の道を歩いてきた彼が、唐突に出会った「日陰」の感情であり。
 彼が生まれて初めて抱くことになる、紛れもない「悪意」なのだった。

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おかず味噌 2021/03/14 16:00

クソクエ 勇者編「排泄の黎明 ~女戦士の野外脱糞目撃~」

(前話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/408090

(女戦士編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247

(女僧侶編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/357380


 勇者が故郷の「救援」へと駆けつけ、村人からの「歓迎」を受けることとなった翌日。彼はもう一日だけそこに留まり、微力ながらも「村の復興」を手伝うことにした。

 まずは、村中に打ち捨てられた「ゴブリンの死体」を片づけるところから始める――。
 彼自身の手で倒した数体をナナリーの部屋から運び出し「広場」に並べる。最も多くの亡骸が置き去りにされていたのも、そこだった。数十体にも及ぶゴブリン達が、ある者は切り刻まれ、ある者は魔術によって爆散されているのだった。
 恐らく、あの「女魔法戦士」の仕業だろう。これほどの多勢に囲まれながらも、けれど決して怯むことなく。魔物を一網打尽にしたのであろう彼女の「仕事ぶり」は、まさしく「上級職」に相応しいものだった。
 自分もそんな風に強くなれるだろうか?冒険者としての「先輩」に憧れを抱きつつも。やがては自らもそこに至りたいと、確かな「決意」を彼は新たにするのだった。

 集めた屍に火を放ち、それらが葬られる様をしばらく眺めた後。次に彼はゴブリン達によって無残にも破壊された「家屋の修繕」に取り掛かった。
 とはいえ、それは「短日」にして成るものではなく。あくまで膨大な作業量における、ほんの「一助」に過ぎないものではあったが。それでも村人は、相変わらず非力ながらも「村の一員」として復興を手伝う彼に感謝するのだった。
 村の「風景」は未だに変わり果ててはいるものの。そこにはわずかずつだが「日常」が戻りつつあり、村人の表情もいくらか活気づき始めた――、その日の夜。

 決して盛大とはいかず、簡素的ではありながらも「祝宴」が催された。それはもちろん「勇者の帰郷」を祝うものだった。

 村人は今となっては貴重な「食糧」を持ち寄り、彼のためにそのような場を設けてくれた。これまで彼らに見向きもされず、どちらかといえば「隅っこ」の方で膝を抱えるばかりだった彼も――、今宵は主賓席に座り、まさに「人々の中心」に居るのだった。
 誰もがこぞって彼の「英雄譚」を聞きたいとせがみ、未だ「駆け出し」である勇者はそれにやや辟易させられながらも。故郷で過ごす久方ぶりのひと時に、やはり「懐かしさ」と「幸福さ」を噛み締めていた。
 宴会の最中、彼の傍らには終始「ナナリー」の姿があった。村人が彼のことを「勇者」としてもてなす中、けれど彼女だけが今までと変わらぬ態度で接してくれた。
 此度の働きによって、少しはナナリーも自分を「見直してくれたかも」と思っていた彼は、そんな彼女の「変化のなさ」をやや残念に感じつつも。あくまで変わることのない「二人の関係性」に、どこか遠く記憶の彼方に「置き去り」にされたと思われていた日々を取り戻すのだった。

 ナナリーの捲れ上がった「スカート」の内側から、露わにされた「下穿き」から、溢れ出した「液体」。その「光景」は彼の網膜に焼き付き、決して消えることはなかった。
 ナナリーが「粗相」をしてしまったという事実は彼の脳裏に刻み付けられ、やがて胸の奥に微かな「キズ」となって半ば永久的に残り続けることとなった。
 今はあえて気丈に、どこか強気に振舞っている彼女の晒した「醜態」。そのあまりの「ギャップ」に対して、果たしてそれをどのように扱っていいのかも分からず。同時に彼女の見せた「羞恥」に満ちた表情を思い浮かべるだけで――、彼の「股間」に携えられた「聖剣」は何やら熱を帯び、得体の知らない力が込められるのだった。
 今も隣に居る彼女に。自らの内から湧き上がる「変化」を、その「衝動」を悟られることを怖れた彼は――、いつも以上に「いつも通り」に振舞おうとすればするほど、かえってぎこちなくなってしまうのだった。

 宴会は「夜更け」まで続けられ、一人また一人と村人が「帰宅」もしくは「寝落ち」していく中。けれど幾人かの酒好きとナナリーだけはいつまでも勇者を取り囲み、あくまで彼を寝かしてくれるつもりはないようだった。
 町では決して眺めることの叶わない「無数の星々」に夜空が彩られ、昼の光を浴びた「衛星」が沈むのに合わせて、それらはやがて「疎ら」になってゆく。人々の歓声も次第に消えてゆき、ついにはナナリーの瞼も少しずつ重くなり始め、

 そして「夜」が明けた――。

「未明」に、彼は村を発つことにした。
 あるいはこのまま一眠りし、昼過ぎに起きることで、改めて村人からの激励と共に送り出されることは容易であったが。彼はそれを何だか気恥ずかしく思い遠慮したのだった。
 人々がすっかり寝静まる中、皆を起こさないように音をさせずに立ち上がる。彼が最も気を遣わなければならなかったのは、やはり「ナナリー」だった。
 いつの間にか眠りこけていた彼女は彼の肩にもたれ掛かり、その「寝顔」は幸福そうな夢を見ているみたいだった。あくまで慎重に肩に乗った頭を動かすと、彼女は「うわ言」のように「彼の名」を呟いた。

「〇〇、ダメだよ…。そんなことしちゃ…」

 まるで彼の人知れぬ「出奔」を咎めるようなその言葉に。あるいは「悩ましげ」なその声に。彼は一瞬逡巡しそうになりながらも、何とか「迷い」を断ち切るのだった。
「別れの挨拶」とばかりに――、彼はやはり悩み迷いながらもナナリーにそっと「キス」をした。彼女の柔らかい唇の感触。自らの唇に残ったその「余韻」に頬を紅潮させながら、彼は再び「勇者としての日々」に戻っていくのだった。

「もう行くのか?」

 ふと「低い声」に呼び止められる。彼は思わず萎縮しつつも、声のした方を見ると――、そこには村長の「カルロスさん」の姿があった。
 暗闇の中で、彼の「鋭い眼光」だけが輝いている。それを窺い知るや否や、勇者はより一層「狼狽」してしまうのだった。
 彼は村長であると同時に、ナナリーの「父親」でもあるのだ。その「娘」に対して勇者の犯したあらぬ「狼藉」を、あるいは見られてしまったのではあるまいか?
 厳しい「叱責」を浴びせられることを怖れた勇者は身構える。だが彼の予想に反して、その声はあくまで穏やかなままだった。

「君にはこれから『世界を救う』という『使命』がある」

 彼は勇者のことをあえて「君」と呼称した。あくまでも「村の一員」として扱うつもりだというように。

「それは君にしか出来ないことだ」

 勇者は「決意」を込めて頷く。

「だがもしも、世界に『平和』が訪れたのなら――」

 彼は村人はおろか、未だかつて世界の誰もが口にすることのなかった勇者の「その後」について言及する。

「その時はどうか、この村に帰って来て欲しい」

 それはやはり「村長」としての言葉なのだろうか。それとも――。

「そして、娘のことを『幸せ』にしてやってもらえないだろうか?」

 どこか言いづらそうにしながらも、はっきりと「願望」を口にする。

「これは村長としてではなく。私一個人として、『父親』としての『依頼』だ」

 厳格な彼にしては珍しく、冗談めかしてそう言うのだった。

「『アレ』はどうも勝気というか、男勝りというか――、危なっかしいところがある」

 照れたような表情が、声からも伝わってきた。娘のことを「指示語」でそう呼んだことからもそれは窺える。

「だから、どうか君が『守って』やってほしい…」

 あくまで「勇者」としてではなく「幼馴染」として、彼は恐縮しつつも頷いた。
 そうして、彼にはまたしても「無二の肩書」が刻まれることとなった。ギルドの名簿に載ることのないその「称号」は――、「ナナリーの婚約者」と。


 すっかり「陽」が昇りきった頃になって、ようやく「町」へと辿り着いた勇者。
 いかに「依頼」のためであるとはいえ。村一つを、多くの人命を救ったその「働き」は紛うことなきものであり。にも関わらず、そんな彼の「凱旋」はあまりに「ひっそり」としたものだった。
 本来ならば、今回の彼の「功績」は「パーティ」(「即席」ではありつつも…)によってこそもたらせられたものであり。故にその「凱旋」もまた、「仲間たち」と共にあってこそ然るべきなのだったが――。

 村人の「無事」を見届け、「感動の再会」を果たしたその直後。
 勇者はその存在を半ば忘却し、すっかり「置き去り」にしてしまっていた「パーティ」と合流した。

「すまないが…、俺たちは一足先に町に帰らせてもらうことにするよ」

 その「提案」は、まさかの「サンソン」の口から発せられたのだった。
 これまで何かと勇者のことを気に掛けてくれて。今はまだ「名」ばかりの――、彼らのような「熟練者」に比べれば、ほんの「駆け出し」に過ぎない勇者を。決して侮るわけでも蔑ろにするでもなく。あくまで「平等」に「仲間」として扱ってくれていた、他ならぬ彼自身からのその申し出に、

「えっ!?あ、はい…」

 勇者はやや戸惑いながらも、了承するしかなかった。

 サンソンの傍らには「ナディア」の姿があった。遡ること、つい数刻前――。
 散々「悪態」をつきつつも、共に村を目指していた頃と「今の彼女」とでは、もはや「別人」とさえ思えるほどに纏う「雰囲気」が異なっていた。
「女魔法戦士」はサンソンに肩を貸され、その腕に支えられることでかろうじて立ててはいるものの――、今にも倒れそうなほど、ひどく「憔悴」している様子だった。

 激しい戦闘によって、「魔力」を「消耗」したのだろうか?
 周囲には、無数ともいえるほどの「戦果」が転がっている。思えば――、ほんの些細な「諍い」の末、一足先に村へと辿り着いたのは彼女なのだった。
 勇者はてっきり「パーティ」とは形ばかりの「馴れ合い」に我慢がいかず、彼女が逃げたものとばかり思っていた。だが、そんな考えが一瞬でも脳裏を掠めてしまったことすら不敬に感じられるほど、彼女は律儀にも自らの「仕事」を全うしていたのである。

 もし、彼女が居なかったら――。此度の「戦況」は、村民の置かれた「状況」は、あるいは今とは違うものになっていたかもしれない。そして彼が最も恐れ、だが強引にも覚悟を迫られることとなった、「犠牲者」だって出ていたかもしれないのだ。

 そういった意味では、やはり彼は(彼女の仕事に臨む「姿勢」がどうであれ)あくまでその「働き」については感謝すべきであったし。実際、今まさに彼はそれを言葉にしようと、声を発し掛けたところだった。

 だが。彼女のあまりの「変貌ぶり」に、彼は思わず口をつぐんでしまう。
「雰囲気」のみならず、むしろより「視覚的」に。彼女の「身に纏う」もの――、かつて「清廉」に「洗練」されていた「衣服」は、すっかり変わり果ててしまっており。それは今や「ボロ布」のように所々に穴が開き、あるいは「薄汚れて」いるのだった。

「どうして、『この私』がこんな目に…!!」

 彼女はまたしても「悪態」をつく。だがそれは、これまでのような「軽口」では決してなく。より深い場所から届けられる、「呪詛」の如く重たい響きを醸していた。
 その瞳に灯された、いつかの「鋭い眼光」もまた影を潜め――、彼女の「視線」は勇者を捉えることもなく、もはや何にも向けられてはいないようだった。
 どこか翳りのある「表情」。彼はそんな彼女の「横顔」と相対し、とてもじゃないが「礼」を言えるような雰囲気ではなかった。

 ふと。「異臭」が勇者の鼻に漂ってきた。それは紛れもなく「女魔法戦士」の方向からもたらせられる「芳香」。
 ゴブリンの「返り血」を浴びたことによるものなのだろうか。あるいは、何かしらの「魔物の体液」だろうか。それにしてはどこか「懐かしい」感じのする香りに、予期せず彼は「村での日々」を思い出す。

「農村」においては、ごく頻繁に嗅ぐこととなる「臭い」。
 やはり「悪臭」であることに違いはないものの――、「家畜」のそれは「肥料」として「作物の成長」にも役立てられる。
 ナディアから放たれる「ニオイ」、それはまるで「肥溜め」のような――。

 彼女から「数歩」離れた場所にいる勇者にさえ届くのである。ましてや、すぐ隣に居るサンソンが気づかぬはずはない。だが、彼はそれについて言及することなく、

「皆とも話し合ったんだが――」

 後方の「仲間たち」を一瞥し、

「今回の『報酬』について、俺たちは辞退させてもらうことにするよ」

 落ち着き払った様子で、きっぱりとそう言った。勇者はそれを聞き、けれど少しも意外に思うことはなかった。むしろ、当然とばかりに納得するのだった。

 今回の「クエスト」における「報酬」について。彼は「依頼書」によってではなく、ナナリーから伝え聞かされたことでその「内容」を知った。
 それを知っているからこそ、彼は「赤面」してしまう。いくら自分のことではないとはいえ――、「同郷」の村人、それもあろうことか「身内」による「醜聞」に。彼は思わず「羞恥」を感じずにはいられなかった。

 そのあまりに児戯じみた「報酬内容」について。彼は「仲間」に詫びようと思った。あるいは「村民」に代わって、自分がその「対価」を支払おうとさえ考えていた。だが彼が意思を告げようとする、その前に――、

「まあ、報酬が『アレ』じゃあねぇ…」

 それまで黙り込んでいた後方の「賢者」があからさまに侮蔑し、見下したように口元を歪めたのだった。

――どうして、そんなにも「馬鹿」にされなければいけないのか…?

 現に彼自身もそう思ったように、「報酬」とは本来「金銭」であって然るべきなのだ。だがそれにしたって、村で獲れた「作物」は町において「商品」として普通に「売買」されるものであるし。であるならば、それは「金品」と呼んだって差し支えないだろう。
 それに。何よりそれは「直接的」に、お腹を満たすことの出来るものなのだ。いかに「高価」であろうとも「硬貨」でお腹は膨れない。つまりは「間接的」な「価値」を有しているに過ぎないのである。

 にも関わらず。その「報酬」は彼らにとって、やはり「無価値」なものなのだろうか。
 もはや議論の余地さえなく(サンソンはそう言ったものの、彼らの間で報酬を受け取るか否かについて、真剣な「話し合い」がなされたとは到底思えなかった)、あっさりと「拒否」してしまえるほど。さらには、そこに何らかの「皮肉」を付け加えなければ気が済まないと思わせるほどに――。

 彼は「頬」のみならず、「全身」に熱が灯るのを感じた。あくまで自分に対するものではなく、「大切な人たち」に向けられたその「嘲り」に。「羞恥」よりもむしろ「怒り」がこみ上げてくるのだった。
 勇者は何か言い返そうと、「反論」を試みようとした。だがそれも、やはりサンソンの「反応」に先を越されてしまう。彼は睨みつけるようにして仲間を「制止」した後、

「確かに。今回の報酬は、あまりに『莫大』なものだ」

「定量的」に述べつつも、そこに「定性的」な「価値」を見出すのだった。

「だからこそ、君が受け取るにこそ相応しい!!」

 彼は言った。あるいはその言葉自体、紛れもない「方便」であり。勇者や依頼者に対する、彼なりの「気遣い」でもあったのだろうが――。
 兎にも角にも。彼は最後の最期まで他者に向けての「配慮」を欠かすことなく、その「姿勢」を崩すことはなかった。

 と、そこまで言い終えたところで。サンソンは「隣の同胞」を気遣いながらも体の向きを反転させ、勇者に「背」を向けて立ち去るのだった。
 その颯爽たる彼の「後ろ姿」に比して――。肩に腕を回され、まるで「引きずられる」ようにして歩くナディア。その「背中」は、やはり幾分か「小さく」感じられた。彼女の「マント」は下半分ほどが無残にも引き千切られており、「白いブラウス」はすっかり「土埃」にまみれていて、そして――。

 辺りはすでに「昏い」ものの、彼女の「スカート」に盛大に浮かび上がった「染み」を勇者は決して見逃さなかった。

 あたかも濡れた地面に「尻もち」をついてしまったかのような、「臀部」を中心にして広がるその「痕跡」。彼女はそこを手で「隠そう」としているものの、だがその全てを「覆う」ことは出来ずに半ば諦め掛けているのだった。
 その「仕草」と、あくまで衣服の「形状」は違えど、同じく描き出された「紋様」に。ふいに勇者は、強い「既視感」を覚えるのであった。

 ナナリーの晒した「醜態」。「恐怖」のため、「理性」を「本能」が上回ってしまったことによる「痴態」。それについては致し方ないだろう。何しろ彼女は「村娘」であり、ついこの間まで「戦い」とは無縁の日々を送っていたのだから――。
 だが、ナディアに関しては違う。彼女にとっては、まさにそれこそが「本業」であり。「戦い」こそが「日常」なのだから――。
 あるいは「死」に対する「恐怖」が全くないかといえば、さすがにそんなことはないだろうが。まさか「彼女に限って」、そのような「失態」を○すとは考えられなかった。

 だからこそ、ふいに浮かんだあり得ぬ「発想」を勇者はすぐさま打ち消した。そして、代わりに勇者はまたしても「想像」する。彼が実際に目にした、ナナリーの「粗相」を。

「さてさて、我々もそろそろ――」

「賢者」が声を発したことで、「回想」は打ち切られる。彼は「半笑い」を浮かべつつ、「目配せ」をした。それは、とても「嫌な感じ」のする「笑み」だった。

「ナディア様の『雄姿』を皆に周知する、という『重大な使命』がありますので!」

 あえて「大仰」に言う賢者。その畏まった「物言い」に、それまで「無反応」だった「モブ達」さえもついに堪えきれず笑い出してしまう。
 周囲を憚ることなく、鳴り響く「嘲笑」。その「罵声」は、あるいはナディアの耳にも届いていたのかもしれないが。それでも、彼女が振り返ることは決してなかった。

 ナディアの「うんちお漏らし」。
 彼女にとって、耐え難き「羞恥」でありながらも。あくまでも「仲間内」のみ、その「下穿きの内」だけで収められるべき「秘密」を「吹聴」して回ったのは――、他ならぬ「彼ら」なのだった。
 あるいは「女魔法戦士」に相手にされなかったことに対する「当てつけ」か、はたまた他者を蹴落とすことで成り上がろうとする彼らの「卑しい性分」か。
 いずれにせよ「ゴブリン如き」に恐れおののき、あろうことか「糞尿」までもまき散らしてしまった彼女に対して。「劣情」を主成分とした彼らの「憧憬」は、もはや見る影もなく失われていたのだった。

 もし仮に、勇者の耳にもそのような「噂」が届いていたとしたら――。それも全ては「自分のせい」だと彼女に対する「申し訳なさ」と、いくらか「同情」を禁じ得なかったであろうが。(それもまた彼にとっては「目覚め」の契機となり得たかもしれないが…)
 その後、すぐに町を後にすることになる彼は知るべくもなかった。

 何はともあれ、サンソンの「号令」をもって「急造パーティ」は「現地解散」となり。またしても「一人きり」となった勇者は町へと帰還し、その足で「ギルド」に向かったのだった――。


「おはようございます、勇者様」

 すでに「昼前」だというのに、未だ人の疎らな「ギルド」において。
 やはり真っ先に声を掛けてきたのは、あの「エルフ」だった。今回のクエストの受注にあたって自ら「便宜」を図ったというのに。パーティ招集のため、あれほど「尽力」したというのにも関わらず。けれど彼女はあくまで、それについては何も言って来なかった。ただ、普段通りの「挨拶」を彼に向けてくるのだった。

 早速、彼は「報告」する。依頼を「達成」したこと、村の皆が「無事」であったこと、数匹のゴブリンを彼の手で「打倒」したこと。それらを出来るだけ「簡潔」にまとめようと心掛けてはいたものの、それなりに「饒舌」になってしまうことは否めなかった。

「お疲れ様でございました」

「全て」を聞き届け、それでも尚彼女は冷静なまま「定型句」を述べるのだった。
 その表情こそ紛れもない「笑顔」ではあるものの、それは「建前」として他の冒険者に向けられるのと「同じもの」であり。あくまでギルドの受付として、彼女に「標準装備」されているものに違いなかった。

「では早速、『報酬受け渡し』の手続きに移らせて頂きます」

「業務的」にそう言い終えると。彼女は手元にあった「帳簿」を、ページを捲ることなく「一発」で開き当て、それを彼に向けて差し出したのだった。

「こちらに『サイン』をお願い致します」

 彼女は指で箇所を示しながら、やはり起伏なく言う。「羽ペン」を受け取りつつ、彼女に言われるまま「署名」を終えながらも――、彼は何だか「拍子抜け」するような、妙に「がっかり」したような気がするのだった。

 別に「褒めて」欲しかったわけではない。「認めて」貰いたかったというのとも違う。彼が今回受けた「依頼」というのは、あくまで「低級」のものであり。「志願者」が現れなかったのも、その「報酬の低さ」こそが理由であり。決して「誰にも成し得なかった」という類のものではなく、むしろ「駆け出し」であっても丁度いいくらいの「低難易度」に過ぎないのだった。
 何しろ相手は「ゴブリン」なのだ。「低級の魔物」、「冒険者」がまず最初に「狩る」に相応しい「敵」であり。あるいはその「経験」を経ることによって、初めて「半人前」だとかろうじて認められるくらいの、いわば「試金石」なのである。
 たとえそれが「軍勢」であろうとも――、いくらか「難易度」の「加算」は認められるものの、やはりそれは「低級の範囲」に充分収まるだけのものなのだった。

「エルフ」は彼のことを「心配」すらしていないようだった。紛れもない「彼の故郷」が「戦火」に見舞われたというのに。いかに「低級」であろうと、まさに「魔物」と戦ってきたというのに。彼女は勇者の「生還」を祝うどころか、体中に受けた「名誉の負傷」を眺めても尚、彼が「無事」であったことに対する言葉はないのだった。
 あるいはそれこそが「信頼」と呼ぶべきものなのかもしれない。彼女は彼が無事に戻ると信じていた。きっと大丈夫だろう、と。余裕をもって、そう構えていた。だからこその「無言」なのかもしれない。(それとも、彼女が集めた「上級職」に対する「信頼」なのだろうか…?)

「ありがとうございます。それでは――」

 彼女は「署名」を確認し、上から「受領印」を押す。そして帳簿を「パタン」と閉じてから仕舞うと、代わりに何やら「薄汚れた小袋」を取り出した。

「お渡しするのが遅れてしまいましたが…、こちらが『依頼』の『前金』です」

 彼はその「小袋」に見覚えがあった。(確かこれは村の大人たちが「買い出し」のため、町に出掛ける際に用いるものだったはず…)

「どうぞ、ご確認下さい」

 確認するまでもなく、すでに「中身」については知っている。村人が彼のために持ち寄った「果実の種」だろう。それもやはり、彼以外にとっては「無価値」に過ぎないもの。
 だがしかし。彼が一応とばかりに袋を開け、改めたその「中身」は――、

 数枚の「銀貨」であった。

 彼の育った村においては「大金」とさえ呼べる額である。 

「そして、こちらが今回の依頼の『達成報酬』です…」

 彼女はどこか言いづらそうに、

「村で獲れた作物、『一生分』でございます…」

「依頼書」に書かれた通りの、そのあまりに途方もない「内容」をそのまま口にする。

「尚、『報酬の多寡』について、当ギルドは一切関知しておりませんので――」
「万が一『支払い』がなされない場合は、ご自身で『回収の依頼』をお願い致します」
「我々ギルドは、『依頼者様』と『冒険者様』との『信頼』で成り立っております」

 それを言うことが、「規則」で決められているのだろう。「スラスラ」とした口調で、澱みなく「条文」を言い終えたところで。

「いりません…」

 彼は「明確な意思」を言葉にする。

「えっ?」

 そこで初めて、彼女は「個人的」な戸惑いを露わにした。

「報酬はいらないです。これも依頼者の――、『おじいちゃん』に返しておいて下さい」

 勇者はやや迷った挙句、あくまで彼にとっての「呼び名」でそう言った。

「かしこまりました。では、責任もって私から依頼者様に『お返し』しておきます」

 無論それは「業務外」であったのだが、エルフは「快諾」した。
 そうすることで、少なからず村の「復興」に役立てられるのなら。それによって、わずかばかりでも彼の「助け」となれるのなら。彼女は「ギルドの受付」としてではなく、「一人の女性」として。今一度、彼のために一肌脱ごうと決意するのだった。

「以上で、全ての『手続き』を終えさせて頂きます。何かご不明な点はございますか?」

 最後にそう問われ、勇者は顔を上げる。「正面」からしっかりとエルフの顔を見据え、そして――。

「色々とありがとうございました!!お陰で、村の皆を助けることが出来ました」

 はっきりと彼は言った。「不器用」ながらも、精一杯の気持ちが込められた彼の言葉。けれど、当のエルフは――、

「一体何のことでしょう?」

 わざとらしく首を傾げ、あくまで「とぼけて」見せるのだった。

「いえ、何でもないです…」

 彼のなけなしの「勇気」もそこまでだった。「気恥ずかしさ」を堪えつつも放った言葉はけれど――、彼女によって見事に躱されたことで、後にはただ「居たたまれなさ」のみが残るのだった。
 再び、彼は下を向いてしまう。もはやその場に留まり続けることすら「羞恥」に感じ。彼は踵を返し、立ち去ろうとしたところで。

「必ず帰ってくるって信じてましたよ!」

 その「声」に振り返り、今一度彼は「エルフ」を見る。
 その「表情」は、やはり「いつも通り」のものでありつつも――、瞳を潤ませながらの「笑顔」は、紛れもなく「彼だけに」向けられたものだった。


 ある者は去り、またある者が訪れる。「町の日常」はあまりにも忙しない。そうした日々の中で、ようやく彼にも「仲間」が出来た。

「アンタ、『勇者』なんだって?」

 最初に声を掛けてきたのは、一人の「女戦士」であった。
「肉体」に縦横無尽に走る「傷」は、まさに「歴戦の猛者」であることの「証」だった。

「アタシと『一戦』交えちゃくれないかい?」

 彼女からもたらせられた提案は「勧誘」ではなく、まさかの「試合の申し出」だった。

――ヒュン!
――ガキィィン!!
――ズバッ!
――ドシャ!!

 幾閃かの「剣戟」を重ねた末、あまりにあっけなく彼は膝をついてしまう。
 彼のこれまで積み上げた「研鑽」は、彼女の「剣技」の前では全く歯が立たず。彼が「勇者」となって以来、一日たりとも欠かすことの無かった「鍛錬」も――、彼女の長年のそれに比べればほんの「付焼刃」に過ぎず。彼は彼女に対して、少しも敵わなかった。
 だが、それでも。「試し合い」の後、蹲る彼に差し出された手。

「アンタの『太刀筋』気に入ったよ!まだまだ、アタシには遠く及ばないけどね!」

 彼のことを認めながらも。けれど自らを決して「卑下」することなく、むしろ盛大に「誇示」しつつも「豪快」に笑う彼女の手を――、彼は掴むのだった。

「アタシの名は『ヒルダ』」

 彼女は「名」を告げた上で、 

「今はまだ『戦士』だけど、これでも『世界一』の『バトルマスター』を目指してる!」

「不遜」ともいえるくらいの「名乗り」を上げる。

「アンタは?」

 そう問われたことで、彼は自らの「氏名」とそれから――。あるいは自らの「使命」と呼ぶに相応しき「職業」を、やはり「自信なさげ」に答える。

「――か。いい『名』だね!」

 ナナリー以外から「名前」で呼ばれるのは、随分と久しぶりな気がした。けれど彼女はあえて「その名」を繰り返すことなく――。

「決めた!これから先、アンタのことは『勇者サマ』って呼ぶことにするよ!」

――自分が「勇者」だって、アンタが堂々と胸を張って言えるようになるまで。

 そうして、またしても彼女は「豪快」に歯を見せるのだった。
 当初は「次の町まで」という約束だったが、いつの間にかそれは「反故」にされ――、彼女はパーティにおける「最古参」として、「最後まで」彼と共にあり続けるのだった。

「新天地」を求めるべく、「彼ら」が町を出ようとした時。
 また一人、声を掛けてくる者の姿があった。

「あの、えっと…。ワタクシも『お仲間』に加えては頂けないでしょうか?」

 あまりに唐突な「出願」に、「二人」は顔を見合わせる。女戦士の方はやや「苦い顔」をしているようにも思われたが、あくまでも「合否」は彼に委ねるつもりのようだった。

「ぜひ、お願いします!!」

 むしろ彼の方から「願い」を口にし、あっさりと「了承」を示すと、

「やった!!めっちゃ嬉しいで――あ、その…、ございます」

「女僧侶」はなんだか妙な「言葉遣い」になりつつも――、だがそれによって、彼女の「真っ直ぐな思い」がより率直に伝わってくるのだった。

「経験的」にも「年齢的」にも、彼にとって「先輩」である「両名」を加えて。ついに、彼は念願の「パーティ」を組むことと相成った。だがしかし――。

 それからの勇者の日々は、これまで以上に「危険」に満ち溢れたものだった。

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おかず味噌 2021/02/04 16:00

能力者たちの饗宴<時間停止能力> 「ギャルに教育的指導」

 前から歩いてきた「二人組のギャル」(その言葉自体、もはや死語なのだろうか?)が私を見るなり、あからさまに嫌な顔をした。
 一人分にしては十分過ぎるほど大袈裟に身を躱し、しばし無言のまますれ違うや否や。

「ヤバくない…?」
「マヂ、ヤバイ!!」

 若者特有の、あまりに語彙力に乏しい感想を述べ合う。
 果たして、私の何がそんなにヤバイというのだろう?見るからに中年である私の、あるいは「勃起の持続力」についてだろうか。はたまた彼女たちは一目で私の「能力」を見抜いたとでもいうのだろうか。

「ねぇ、あんなハゲが父親だったらどうする?」
「ムリムリムリ!!!」

 黒い方が予期せぬ仮定を問い、白い方が「擬音」でそれに答える。
 分かりきっていたことだ。彼女らはあくまで私の容姿についてそう言及し、そこに透けて見える私の人生に対して、身勝手にも「ヤバイ」と一言で片づけたのである。
 あたかも私という存在の、その全てが「間違い」であると断定するように――。

「てか、聞こえるよ…?」

「白」がやや冷静になって言う。だがその声すらも私の耳には届いていたし。何より彼女たち自身、私に聞かれたところでそれを何ら不都合にも感じていないらしかった。その証拠に。

「なんか、めっちゃ性欲強そう…」

 一度は友人を咎めたその口で、やはり私の「外見」についてそう呟く。
 彼女の私に対する「予見」は、ある意味では当たっている。確かに私は同年代と比べて、どちらかといえば性欲に従順な方である。だがそれも、彼女たちのように男を「とっかえひっかえ」するのではなく。あくまで、唯一無二の恋人である「右手」に執着し続けるのであったが。

「わかる!!」

「黒」が同調を示す。そうすることが彼女たちにとって、数少ないコミュニケーションの手段であるというように。
 友人に乗せられたことで、「白」はさらに増長する。そしてついに許容の一線を、私の琴線に触れる一言を放ってしまう。

「ホント、何が楽しくて生きてるんだろうね~」

 その発言はつまり、私に「死ね」と言っているのと同義だ。もはや「生きる価値なし」と、私の生命さえも否定するに等しい言葉なのである。

 彼女たちにしてみれば、あくまで私の命など取るに足らないものなのかもしれない。
 ただ道ですれ違うだけの存在。彼女たちの人生において、普通に暮らしていれば巡り合うことのない人種。仮にも同じ世界に生きているとはいえ、我々の世界線が交わることなど決してなく。
 それ故に彼女たちは私に対して傲慢に、後々の関係性を気にすることなく不遜に振舞えるのだろう。もう二度と、あるいは一度たりとも関わることがないからこそ。

 だが、たとえそうだったとしても。私の年齢のおよそ半分にも満たない小娘なんかに、なぜこうも好き勝手に罵詈雑言を浴びせられなくてはならないのか?
 ただ彼女たちの視界に入った、というだけの理由で、あたかもそれ自体が何らかの罪であるかのように。あからさまな嫌悪を抱かれなくてはならないのか?
 あるいは、これがもし逆の立場だったなら。見ず知らずの他人にすれ違いざまに暴言を吐く、頭のおかしな人物として。明らかな不審者として通報され、逮捕されるまである。

 若いというだけで、「女性」というだけの理由で。あくまで被害者はあちら側であると当然にように推定され、社会的に優遇される。
 そうした世間の不平等に、私は憤りを感じずにはいられなかった。普段はむしろ「自分たちこそ強者である」と尊大にしておきながら、都合の良い時だけ「弱者」としての武器を盛大に振りかざす彼女らに対して。
「ついカッとなって、頭に血が上った――」のではなく。意思とは裏腹に、私の血液は「別の箇所」へと運び込まれる。
 そして。私の股間は逃げ場を失ったズボンの中で、固く「勃起」していた。

 その瞬間、世界は時を止める。

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おかず味噌 2020/12/30 16:00

クソクエ 勇者編「伝説の黎明 ~安堵失禁と恐怖脱糞~」

(前話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/404264

(女戦士編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247

(女僧侶編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/357380


「村」に近づくと、「異臭」が彼の鼻腔を満たした。

「畑」の焼ける香り、「家」の燃える匂い、「肉」の焦げる臭い。
「黒煙」となったそれらが「風」に乗って、彼の元へと運ばれてくる。

 そして、辺りがすっかり「昏く」なり始めた頃。ようやく「目的地」に辿り着いた彼は、「変わり果てた」故郷の姿を目にするのだった――。


 彼は「言葉」を失った。「眼前の光景」に思わず「悲鳴」を上げそうになりながらも、けれど「声」を発することは叶わなかった。口内は「カラカラ」に渇き、喉の奥に何やら「引っ掛かり」を覚える。かろうじてそれを「呑み下す」と、胸いっぱいに「モヤモヤ」とした「黒いモノ」が広がってゆくのを感じた。それはまさしく「絶望の塊」であった。
 何とか「理解」が追いついた彼の目に「涙」が浮かぶ。「臭い」のせいもあるだろう。目に染みるような「煙」が、そこかしこから上がっている。だが無論それだけではない。彼の瞳に滲んだそれは「視界」をぼやかし、あるいは全てが「幻想」であるかのような「希望」をチラつかせるが――。瞳を閉じても尚「瞼の裏」に貼り付くその「残像」は、紛れもなくそれが「現実」であることを示していた。

「さすがに『ショック』か…?だが、こんな『景色』は世界中にありふれている」

 勇者の肩に「ポン」と手を置き、励ますように言うのはサンソンだった。あくまで彼はここが「勇者の故郷」であることを知らない。知らないからこそ、そんなことが言える。「何もここだけのことじゃない」と、彼の故郷は「ここでしかない」というのに――。

 勇者は今すぐにでも駆け出したかった。「村中」を駆け回り、背に抱えた剣を振り回したかった。彼と「出身」を同じくする、この「聖剣」を――。
 だけど彼はその場から動けなかった。果たして「どちら」に向かえばいいのか分からなかったからだ。あるいは「助け」を求める声の「方角」に向かおうと思っていたのだが。そんな「悲鳴」も、「彼を呼ぶ声」も、どこからも届くことはなかった。

「少しばかり『遅かった』かもな…」

「長めの前髪」を弄りながらサンソンは言う。彼としては「見慣れた景色」なのだろう。「取り乱す」ことも「喚き散らす」こともせず、あくまで「冷静」なまま「客観的」な「感想」を漏らす。

――イヤだ…!!その「先」を言わないで…!!

 そんな勇者の「願い」も虚しく――。

「残念だけど、『手遅れ』だな…」

 けれど、サンソンは「続き」を言ってしまう。彼の「最後の望み」すら打ち砕くように(もちろんサンソンに「悪気」はないのだが)、わずかな「希望」さえも消してしまう。

「勇者。これからどうする?」

 サンソンが訊ねる。その「意味」が勇者には分からなかった。「どうする」も何も、「やるべきこと」は決まっている。早く「村の皆」を助けなければ――。

「『この様子』だと、たぶん『依頼者』はもう生きちゃいない。それに恐らく――」

――「村人」も「全滅」だろうな…。
「全滅」?彼はそう言ったのか?何が?誰が?一体どうして、なぜそんなことが言える?まだ分からないじゃないか!!きっと「村の皆」は「避難」しているのだ。「ゴブリン」に見つからないように、じっと息を潜めて「救援」を待っているのだ。「悲鳴」が聞こえて来ないのも、それならば頷ける。「皆無事」で、だからまだ――。

 彼はそれでも尚「期待」を口にしようとする、その前に。先にサンソンが口を開いた。

「ゴブリンってのは、ああ見えてとても『狡猾』な奴らなんだ」

 サンソンは「見てみろ!」とばかりに「辺り」を指し示す。

「見張りがどこにも居ないだろう。『狩り』をする時、奴らは必ず見張り番を置くんだ」

 確かに彼の言うとおり、村の「入口付近」にゴブリンは「一匹たりとも」居なかった。

「もう引き上げた後なんだろう。奴ら『強奪』と『凌○』の限りを尽くして、それで…」

――全く、「反吐」が出るぜ…!!
 サンソンの言葉に「怒り」が込められるのを感じた。さすがの彼も「冷静」ではいられないのだろう。露わにされた「感情」に、凄まじいばかりの「鬼迫」に。「味方」であるはずの勇者さえも「圧倒」されたのだった。

「いくらか『残党』は残っているだろうが――」

――どうする?
 再び、サンソンは問う。ようやく彼にもその「意図」が分かった。
 つまりは「クエスト失敗」となっても尚、「ゴブリン狩り」を続ける意思があるのかを彼は訊いているのだ。

「皆さんは、先に帰っていて下さい…」

 勇者は言う。本来であれば「形」はどうであれ、ここまで付いてきてくれた「仲間」に「礼」の一つでもあって然るべきなのだが。普段の彼ならば、間違いなくそうしていたのだろうが。もはや今の彼には、そうした「礼節」を重んじるだけの「余裕」はなかった。

「あとは、『一人』でやりますから…!!」

「意志」を込めて彼は言う。「呼応」したかのように「聖剣」に「鈍い光」が灯る。だが「鞘越し」のそれに気づく者はいなかった。ただ一人、サンソンが何かしらの「気配」を感じたのみだった。

 勇者は駆け出す――。「目的地」を定めることなく、ただ「村の奥」へ向かって走る。

「ちょっと待て!!」

 その「背中」にサンソンが声を掛けるも、けれど彼の耳には届かず。「失われた故郷」へと分け入っていく――。

「はぁ…」
 勇者の姿がすっかり見えなくなったところで、サンソンは似合わない「溜息」をつく。彼の中に残った「一抹の不安」それは――。

――大丈夫だろうか…?きっと勇者は今以上に「凄惨な光景」を目にすることになる。

「村人の屍」「残酷に切り刻まれた肢体」「凌○され尽くした死体」。ゴブリンを相手にすると、いつもそうだ。彼も「初めて」それらを目にした日の夜は「悪夢」にうなされ、幾度となく「嗚咽」を感じて眠れなかった。
 どうしてこんな「惨いこと」が出来るのか!!「奴ら」は「人」をまるで「物」としてしか見ていない。今でも彼は、何度だって「怒り」を覚える。
 だが「彼ら」からしてみれば、「人間」もまた「同じ」なのだろう。「報酬」のため、「経験値」のためと宣い、彼が積み上げてきた「魔物」の「亡骸」の数は「百や二百」ではきかないだろう。
 あるいはその「事実」を知り――、自身も「魔物」と成り果てた者がいると聞く。そうでなくとも自らの「仕事」に嫌気が差し、人知れず「ギルド」を去った者だっている。

――彼は大丈夫だろうか…?

 いや、きっと大丈夫なはずだ。彼ならば「深淵」を覗きながらも、やがていつかはその「暗闇」を抜けることが出来るだろう。何しろ、彼は「勇者」なのだから――。

「きゃぁ~!!!」

 ふいに「悲鳴」が鳴り響く――。これまで決して聞こえることのなかった「人の声」。「助け」を求めるその「呼び声」は、紛れもなく「生存者」がいることの証。
 なぜか「その声」に「聞き馴染み」を覚えつつも。まさか「その彼女」がそのような「状況」に陥ることなどとは考えにくい。
 だが、何はともあれ「救援要請」を受けたサンソンは――、「広場」とは「反対方向」に向かったのだった。


「仲間」を置き去りにして、「一人」駆け出しては来たものの――。勇者は迷っていた。何も「道に迷った」というわけではない。何しろここは彼の「生まれ育った村」であり、凄惨に「変わり果てて」はいるものの、見慣れた景色の「面影」はそこかしこに見当たるのだった。けれど――。
「広場」まで「一目散」に駆けてきた彼は、果たしてここから「どっち」に行くべきかを迷っていた。

 まずは「自宅」に向かうべきだろうか。此度の「凶報」を知る「きっかけ」となった「依頼者」はそこにいるのだろう。年老いた「祖父」のことだ、逃げ遅れてしまった可能性だって十分ある。いやそもそも「無事」逃げることの出来た「村人」が、一体どれほどいるというのだろう。
 彼はまだ「村人」の「変わり果てた姿」を一度も目にしていない。だから、あくまで「希望」が潰えたわけではない。それでも、今や燃え尽き「黒焦げ」となった「家々」を見るに――、それがとても「儚い」ものであることは確かだった。

 それとも「ナナリーの家」にこそ向かうべきなのだろうか。「村長の家」でもあるそこには、「有事」に備えて多少の「蓄え」があるのだと聞いたことがある。(もちろん、彼がまだこの村に「居た頃」には幸い、その必要に迫られるような「事態」は一度たりともなかったのだが…)
 あるいは「村の皆」が「避難」していることも考えられる。そこに「彼の祖父」もいるかもしれない。「ナナリー」も――、今となっては「懐かしさ」さえ覚える「同年代達」も――、皆そこに身を寄せ合っているのかもしれなかった。
 ようやく彼は「目的地」を定め、少し「高台」にある「屋敷」を目指すのだった。

 それにしても。彼はこれまで「ゴブリン」に一度も「遭遇」していなかった。サンソンの言った通り、すでに「引き上げた」後なのだろうか。「クエスト」にあった「軍勢」はおろか、その「残党」にすら出くわすことはなかった。
 なんだか「不気味」だった。「ゴブリン達」は一体どこに「消えた」というのだろう。いや、あくまで彼らは「隠れている」だけなのかもしれない。建物の陰から――、あの角を曲がった先で――、息を殺して「こちら」を窺っているのかもしれない。
 それを考えただけで、彼の中に再び「臆病心」が芽生えるのだった。いかに「聖剣」に選ばれようとも、「勇者」となった今でも。自らの「性質」というのは、そう容易く変えられるものではなく――。ついこの間までは田畑を耕すことのみに従事し、「命の危険」などとは程遠かった彼にとって。すぐ近くに迫り来る「生死」というのは耐え難く、やはり目を背けていたいものだった。

 だけど、もはやそんなことも言っていられなかった。ついに「屋敷」に至る「坂道」の下まで辿り着いた彼は、そこでより一層「焦燥」を感じた。「あるもの」が見えたからである。急いで坂を上った彼は「村長の家」の「正面扉」の前に立つ。その「扉」は、

「開いて」いた――。

 あるいはそれこそ、すでに村人たちが隙を見て逃げ出したことの「痕跡」なのかもしれない。だがさらに「扉」に近づいたことで、彼は知る――。扉の「カギ」は、

「破壊」されていた――。

「村人」によるものでは決してないだろう。「鈍器」で無理やり「こじ開けた」ような「傷跡」は、「ゴブリン達」の「仕業」に違いなかった。

 すかさず彼も「半開き」となった扉をくぐる。「他人の家」に「無断」で上がることに多少の「抵抗」と、場違いな「緊張」を覚えつつ――。

――そういえば、ナナリーの家を訪ねるのは「初めて」だな…。

 と。いかに「非常時」であり仕方ないとはいえ、ならばいっそナナリーに「誘われる」ことでそれを果たしたかった、と彼は思うのだった。
 だがそう出来なかったのには幾つもの「理由」がある。いつだって彼は、ナナリーとはあくまで「人目を避けて」会うようにしていた。彼女がそう望んだわけではない。むしろ彼女は彼が「いじめられている」ことを知るたびに。「外聞」など決して構わず、すぐにその場に駆けつけてきて、怒鳴り散らしてくれたのだった。
 思わず縋りつくように、ナナリーの「後ろ」に隠れる彼を見て。「いじめっ子達」は彼のことを――、

「や~い、弱虫!!また『女』に助けてもらいやがって!!」

 と、さらに罵るのであった。それに対しても、やはり彼は何も言い返すことは出来ず。その「代わり」にナナリーが――、

「うるさいわね。いいの!○○は『優しい子』なんだから」

 そう「反論」してくれるのだった。
「優しい子」――。果たしてそれはどういう意味なのだろう。確かに彼は「家畜」を始めとする「動物」や、「虫」やさらには「草木」に至るまで。それらを決して「下等生物」だと決めつけることはなく、あくまで「対等」に接するのだった。
 だがそれは、彼に「友人」が少なかったためでもあり。それを「優しさ」と形容するのは、何だか違うような気がした。
「優しい子」――。それは「臆病者」の間違いではないだろうか。彼の「性質」に彼女なりに最大限配慮し、言葉を選んだ末のその「表現」なのではないだろうか。

 彼はひと時の「回顧」に耽る。だがもちろん、そんな場合ではない。あくまで彼女の「本心」ではなかったとしても――、たとえ彼女が自分のことをどう思っていようとも。
 彼の今「やるべきこと」は変わらないである。
「優しい」というならば、それはナナリーにこそ当て嵌まるべきもので。その彼女は今「ゴブリンの襲撃」に怯え、「救援」を求めているのだ。
 あるいは「救援者」が誰であろうと、それについては構わないのかもしれない。だが「依頼者」である彼の「祖父」が、ギルドで確かにそう言っていたのだと聞いたように。
 やはりナナリーもまた「勇者」を――、かつては単なる「愚者」に過ぎなかったその存在を――。紛れもない「彼」による「助け」を、待ちわびているのかもしれなかった。

 目の前の「階段」を駆け上る。相変わらず「気配」はなく、「物音」さえ全くしなかったが――。そこで「聞き慣れた声」による「悲鳴」を、彼は確かに耳にしたのだった。

「イヤァ~~~!!!」

「甲高い」その声に――、彼は一瞬それが彼女のものであることを疑いたくなったが。「鼓膜」にこびり付いた「残響」を何度も「反芻」する内に、それが紛れもなくナナリーの声であることを知った。
 それを「聴いた」ことで、まず最初に彼の中に浮かんだ感情は――、「安堵」だった。「良かった、生きてたんだ…」と、そう思ったのだった。だけどすぐにそれは「不安」へと変わる。「悲鳴がした」ということは、今まさにナナリーの身に何かしらの「危機」が迫っているという、紛れもない「事実」を表わしているのだ。

「二階」へと上ってきた彼の眼前には、いくつもの「扉」があった。「村の長」たる人物の「家」というのは、「屋敷」と呼ぶに相応しい「広さ」と「豪華さ」であった。
 数多くあるその「部屋」の内、果たしてどれが「正解」なのだろう。こうなればいっそ「虱潰し」に当たろうかと思い掛けた彼であったが――、ここに来てもやはり「痕跡」はあった。
 およそ半数以上の扉は「開け放たれて」いたのである。「悲鳴が聞こえた」ことから察するに――。ということはつまり、その中の「どれか」ということだろう。
 だがそれだって。開かれた扉の数もそれなりにある。もはや「時間」は限られている。早くしないと、ナナリーは。

 彼が「最初の部屋」に向かおうとした、まさにその時だった――。

「誰か、助けて…」

「微かな声」を、けれど彼は聞き逃さなかった。今度ばかりは疑いようもない。それは間違いなく「ナナリーの声」であり、彼女の「助け」を求める声であった。
 かつては彼の方からナナリーに「救い」を求め、決して声には出さずとも「悲鳴」を上げていたのだが。今度は彼が彼女を「救う番」なのだった。

 勇者は、すでに開いた扉から部屋の中へと躍り出る。あえて鳴らした「足音」によって、それを聞いた「ゴブリン達」が振り返る。
 室内には全部で「六匹」のゴブリンがいた。その「全員」が彼の方を見て、「村人」とは違うその「装い」に目を丸くしていた。
 ゴブリン達が振り向いたことで――、その「目線」の先を追って、ようやくナナリーも「何者か」の「来訪」に気づく。だがその「表情」には相変わらず「恐怖」が張り付いたままで。そこに居たのが「彼」であると分かっても尚、あくまで彼女はそれを「幻」だと思い込んでしまう。

「ナナリー!!」

 勇者は彼女の「名」を呼ぶ。そうしたことで、彼の姿が紛れもない「現実」であることを彼女は知ったのだった。

「○○…?」

 それでもナナリーは未だ「半信半疑」で。なぜ彼がここに居るのか、数月前に「町」に向かったはずの彼が、どうして「この村」に居るのか分からないという様子だった。
 あるいはここまで来る「道中」、ずっと心に決めていた「台詞」を彼は言う。

「『助け』に来たよ!!」

 あまりに「呑気」というか、馬鹿げたようなその言葉。まるでちょっと「お手伝い」に来た、とでもいうような。少しも「緊迫感」のない、あくまで「のほほん」としたようなその「口調」。
 けれど、だからこそナナリーは知った。それがまさしく、彼女にとっての「勇者」であることを――。

 勇者はゴブリン達に目を戻す。未だ「驚き」を浮かべたまま、盛大に「動揺」している彼らは――、やはりどこか「人間臭く」もあった。
「彼ら」は、勇者の手に握られた「聖剣」をぼんやりと眺めていた。それが意味することを、これから与えられるであろう「痛み」と「恐怖」を。彼らは知らぬまま――、けれど彼らの「理解」が追いつくのを待つつもりはなかった。

「うわぁ~~~!!!」

「咆哮」を上げて、彼はゴブリンに飛び掛かる。そこに「戦略」と呼べるようなものはなく、「間合い」さえも「デタラメ」で。けれど、この「数月間」に彼が培った「経験」がまさに「武器」となる。

――ブンッ!!ゴトン…。

 まずは「一匹」。彼の足元にゴブリンの「頭部」が転がる。そして、すかさず――。

――ズバンッ!!バタン…。

「二匹目」は「体部」を狙って切り倒す。だがそこで、ようやくゴブリン達も何事かを知る。すでに「屍」となった「身内」を見届け、眼前のそれが紛れもない「脅威」であることに気づく。

「キシャァァ!!!」

 醜い「奇声」を上げて、彼らは「戦闘態勢」を整える。「血気盛んな一匹」が勇者に飛びつき、彼の「視界」を遮ろうとする。だがあえなく勇者はそれを討ち取り、すぐに構え直すのだった。
「じりじり」と互いに「間合い」を保ちながら、「攻撃の瞬間」を待ちわびる。堪らない「緊張感」。けれど勇者はもう何度も、そうした「死線」を潜り抜けてきたのだった。
 最初に仕掛けたのは「三匹」だった。相変わらず「奇声」を上げつつ、同時に飛び込んでくる。「知性」のない彼らに「連携」などというものはない。ただ「闇雲」にそれぞれが飛び掛かってくる――。
 だが、それだけでも勇者は「苦戦」を強いられてしまう。かろうじて「初撃」だけは受け止めたものの、「二撃目」をギリギリで躱し、「三発目」をその身に受けてしまう。

 肩に鈍い「痛み」を感じる。焼け付くような「傷口」は「熱」を帯びて、彼の「心」さえも焼き尽くしてしまいそうだった。
 思わず勇者は膝をつく。何とか「片膝」だけに留めたものの、再び「立ち上がる」のはもはや「困難」であるかのように思えた。それでも――。
 勇者は立ち上がる。「鮮血」と共に飛び散った「決意」を体中からかき集め、心を蝕む「痛み」と「恐怖」を精一杯に振り払い、何とか膝を立てたのだった。
 勇者はその目でゴブリン達を見据える。その瞳に宿るものは「憎しみ」などでは決してない。「敵」は眼前の「三匹」などではなく、あるいは「自分自身」。それに打ち克とうとする「想い」。もはやそれこそ紛れもない「勇気」であった。

 再び、勇者はゴブリンに立ち向かう。この「痛み」が――、たったこれだけの「傷」が一体何だというのだ、と自らを「鼓舞」するように。「引き下がる」つもりなど毛頭ないのだった。そこで、ナナリーが何かに気づく。

「う、後ろ…!!あぶない!!」

 勇者がナナリーの声に反応する前に、またしても「攻撃」を浴びてしまう。「後方」からもたらせられた「一撃」。彼が後ろを振り向くと――、そこにはすでに「倒した」と思い込んでいたゴブリンが、その手に持った「斧」に彼の血を滴らせていた。
 背中に受けた「傷」は、さきほどのものとは比べ物にならないほど深かった。にも関わらず、彼はもう膝をつかなかった。「激痛」に顔を歪めつつ、「意識」を「朦朧」とさせながらも。けれどあくまで彼は「正面」を見続けていた。
「三匹のゴブリン」、その後ろには「ナナリー」がいる。彼にとってまさしく「恩人」でもあり――、「姉代わり」の存在でもある――、彼の「大切な人」が。

 勇者のその傷が「深手」であることは、もはやゴブリンの目から見ても間違いなく。だからこそ彼らはすでに「勝利」を「確信」したかのように浮かれている。

――相手が「弱者」だと知るなり、ゴブリンは「敵」を侮る。

 果たしてそれは「油断」なのだろうか、あるいは「余裕」というものなのだろうか。だがどちらにせよ、そこに「侮蔑」と「嘲笑」が混じっていることは明らかだった。
 それは(無論、決して比べるものではないのだが)「同年代達」による「いじめ」にも似ていた。彼が「弱者」であることを知り、だからこそ「強者」である自分らは「安泰」だろうと。決して「反撃」されることはなく。彼に唯一出来ることといえば、頭を垂れて「許しを請う」ことのみであると――。
 自らが「臆病者」であることを知っているから。「勇者」になどなれぬことを分かっているから。生まれ持った「性質」はもはや「残酷」なほどに彼の「運命」を縛り付け、その「身」も「心」も逃れられない「牢獄」へと捕えてしまうのである。それでも――。

「僕は、もう『臆病者』なんかじゃない…!!」

 彼は叫ぶ。自らの「意志」を表明するように。そうありたい、と「願い」を口にするように。彼は、今まさに「勇者」となったのだった――。

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