おかず味噌 2021/03/14 16:00

クソクエ 勇者編「排泄の黎明 ~女戦士の野外脱糞目撃~」

(前話はこちらから↓)
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(女戦士編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247

(女僧侶編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/357380


 勇者が故郷の「救援」へと駆けつけ、村人からの「歓迎」を受けることとなった翌日。彼はもう一日だけそこに留まり、微力ながらも「村の復興」を手伝うことにした。

 まずは、村中に打ち捨てられた「ゴブリンの死体」を片づけるところから始める――。
 彼自身の手で倒した数体をナナリーの部屋から運び出し「広場」に並べる。最も多くの亡骸が置き去りにされていたのも、そこだった。数十体にも及ぶゴブリン達が、ある者は切り刻まれ、ある者は魔術によって爆散されているのだった。
 恐らく、あの「女魔法戦士」の仕業だろう。これほどの多勢に囲まれながらも、けれど決して怯むことなく。魔物を一網打尽にしたのであろう彼女の「仕事ぶり」は、まさしく「上級職」に相応しいものだった。
 自分もそんな風に強くなれるだろうか?冒険者としての「先輩」に憧れを抱きつつも。やがては自らもそこに至りたいと、確かな「決意」を彼は新たにするのだった。

 集めた屍に火を放ち、それらが葬られる様をしばらく眺めた後。次に彼はゴブリン達によって無残にも破壊された「家屋の修繕」に取り掛かった。
 とはいえ、それは「短日」にして成るものではなく。あくまで膨大な作業量における、ほんの「一助」に過ぎないものではあったが。それでも村人は、相変わらず非力ながらも「村の一員」として復興を手伝う彼に感謝するのだった。
 村の「風景」は未だに変わり果ててはいるものの。そこにはわずかずつだが「日常」が戻りつつあり、村人の表情もいくらか活気づき始めた――、その日の夜。

 決して盛大とはいかず、簡素的ではありながらも「祝宴」が催された。それはもちろん「勇者の帰郷」を祝うものだった。

 村人は今となっては貴重な「食糧」を持ち寄り、彼のためにそのような場を設けてくれた。これまで彼らに見向きもされず、どちらかといえば「隅っこ」の方で膝を抱えるばかりだった彼も――、今宵は主賓席に座り、まさに「人々の中心」に居るのだった。
 誰もがこぞって彼の「英雄譚」を聞きたいとせがみ、未だ「駆け出し」である勇者はそれにやや辟易させられながらも。故郷で過ごす久方ぶりのひと時に、やはり「懐かしさ」と「幸福さ」を噛み締めていた。
 宴会の最中、彼の傍らには終始「ナナリー」の姿があった。村人が彼のことを「勇者」としてもてなす中、けれど彼女だけが今までと変わらぬ態度で接してくれた。
 此度の働きによって、少しはナナリーも自分を「見直してくれたかも」と思っていた彼は、そんな彼女の「変化のなさ」をやや残念に感じつつも。あくまで変わることのない「二人の関係性」に、どこか遠く記憶の彼方に「置き去り」にされたと思われていた日々を取り戻すのだった。

 ナナリーの捲れ上がった「スカート」の内側から、露わにされた「下穿き」から、溢れ出した「液体」。その「光景」は彼の網膜に焼き付き、決して消えることはなかった。
 ナナリーが「粗相」をしてしまったという事実は彼の脳裏に刻み付けられ、やがて胸の奥に微かな「キズ」となって半ば永久的に残り続けることとなった。
 今はあえて気丈に、どこか強気に振舞っている彼女の晒した「醜態」。そのあまりの「ギャップ」に対して、果たしてそれをどのように扱っていいのかも分からず。同時に彼女の見せた「羞恥」に満ちた表情を思い浮かべるだけで――、彼の「股間」に携えられた「聖剣」は何やら熱を帯び、得体の知らない力が込められるのだった。
 今も隣に居る彼女に。自らの内から湧き上がる「変化」を、その「衝動」を悟られることを怖れた彼は――、いつも以上に「いつも通り」に振舞おうとすればするほど、かえってぎこちなくなってしまうのだった。

 宴会は「夜更け」まで続けられ、一人また一人と村人が「帰宅」もしくは「寝落ち」していく中。けれど幾人かの酒好きとナナリーだけはいつまでも勇者を取り囲み、あくまで彼を寝かしてくれるつもりはないようだった。
 町では決して眺めることの叶わない「無数の星々」に夜空が彩られ、昼の光を浴びた「衛星」が沈むのに合わせて、それらはやがて「疎ら」になってゆく。人々の歓声も次第に消えてゆき、ついにはナナリーの瞼も少しずつ重くなり始め、

 そして「夜」が明けた――。

「未明」に、彼は村を発つことにした。
 あるいはこのまま一眠りし、昼過ぎに起きることで、改めて村人からの激励と共に送り出されることは容易であったが。彼はそれを何だか気恥ずかしく思い遠慮したのだった。
 人々がすっかり寝静まる中、皆を起こさないように音をさせずに立ち上がる。彼が最も気を遣わなければならなかったのは、やはり「ナナリー」だった。
 いつの間にか眠りこけていた彼女は彼の肩にもたれ掛かり、その「寝顔」は幸福そうな夢を見ているみたいだった。あくまで慎重に肩に乗った頭を動かすと、彼女は「うわ言」のように「彼の名」を呟いた。

「〇〇、ダメだよ…。そんなことしちゃ…」

 まるで彼の人知れぬ「出奔」を咎めるようなその言葉に。あるいは「悩ましげ」なその声に。彼は一瞬逡巡しそうになりながらも、何とか「迷い」を断ち切るのだった。
「別れの挨拶」とばかりに――、彼はやはり悩み迷いながらもナナリーにそっと「キス」をした。彼女の柔らかい唇の感触。自らの唇に残ったその「余韻」に頬を紅潮させながら、彼は再び「勇者としての日々」に戻っていくのだった。

「もう行くのか?」

 ふと「低い声」に呼び止められる。彼は思わず萎縮しつつも、声のした方を見ると――、そこには村長の「カルロスさん」の姿があった。
 暗闇の中で、彼の「鋭い眼光」だけが輝いている。それを窺い知るや否や、勇者はより一層「狼狽」してしまうのだった。
 彼は村長であると同時に、ナナリーの「父親」でもあるのだ。その「娘」に対して勇者の犯したあらぬ「狼藉」を、あるいは見られてしまったのではあるまいか?
 厳しい「叱責」を浴びせられることを怖れた勇者は身構える。だが彼の予想に反して、その声はあくまで穏やかなままだった。

「君にはこれから『世界を救う』という『使命』がある」

 彼は勇者のことをあえて「君」と呼称した。あくまでも「村の一員」として扱うつもりだというように。

「それは君にしか出来ないことだ」

 勇者は「決意」を込めて頷く。

「だがもしも、世界に『平和』が訪れたのなら――」

 彼は村人はおろか、未だかつて世界の誰もが口にすることのなかった勇者の「その後」について言及する。

「その時はどうか、この村に帰って来て欲しい」

 それはやはり「村長」としての言葉なのだろうか。それとも――。

「そして、娘のことを『幸せ』にしてやってもらえないだろうか?」

 どこか言いづらそうにしながらも、はっきりと「願望」を口にする。

「これは村長としてではなく。私一個人として、『父親』としての『依頼』だ」

 厳格な彼にしては珍しく、冗談めかしてそう言うのだった。

「『アレ』はどうも勝気というか、男勝りというか――、危なっかしいところがある」

 照れたような表情が、声からも伝わってきた。娘のことを「指示語」でそう呼んだことからもそれは窺える。

「だから、どうか君が『守って』やってほしい…」

 あくまで「勇者」としてではなく「幼馴染」として、彼は恐縮しつつも頷いた。
 そうして、彼にはまたしても「無二の肩書」が刻まれることとなった。ギルドの名簿に載ることのないその「称号」は――、「ナナリーの婚約者」と。


 すっかり「陽」が昇りきった頃になって、ようやく「町」へと辿り着いた勇者。
 いかに「依頼」のためであるとはいえ。村一つを、多くの人命を救ったその「働き」は紛うことなきものであり。にも関わらず、そんな彼の「凱旋」はあまりに「ひっそり」としたものだった。
 本来ならば、今回の彼の「功績」は「パーティ」(「即席」ではありつつも…)によってこそもたらせられたものであり。故にその「凱旋」もまた、「仲間たち」と共にあってこそ然るべきなのだったが――。

 村人の「無事」を見届け、「感動の再会」を果たしたその直後。
 勇者はその存在を半ば忘却し、すっかり「置き去り」にしてしまっていた「パーティ」と合流した。

「すまないが…、俺たちは一足先に町に帰らせてもらうことにするよ」

 その「提案」は、まさかの「サンソン」の口から発せられたのだった。
 これまで何かと勇者のことを気に掛けてくれて。今はまだ「名」ばかりの――、彼らのような「熟練者」に比べれば、ほんの「駆け出し」に過ぎない勇者を。決して侮るわけでも蔑ろにするでもなく。あくまで「平等」に「仲間」として扱ってくれていた、他ならぬ彼自身からのその申し出に、

「えっ!?あ、はい…」

 勇者はやや戸惑いながらも、了承するしかなかった。

 サンソンの傍らには「ナディア」の姿があった。遡ること、つい数刻前――。
 散々「悪態」をつきつつも、共に村を目指していた頃と「今の彼女」とでは、もはや「別人」とさえ思えるほどに纏う「雰囲気」が異なっていた。
「女魔法戦士」はサンソンに肩を貸され、その腕に支えられることでかろうじて立ててはいるものの――、今にも倒れそうなほど、ひどく「憔悴」している様子だった。

 激しい戦闘によって、「魔力」を「消耗」したのだろうか?
 周囲には、無数ともいえるほどの「戦果」が転がっている。思えば――、ほんの些細な「諍い」の末、一足先に村へと辿り着いたのは彼女なのだった。
 勇者はてっきり「パーティ」とは形ばかりの「馴れ合い」に我慢がいかず、彼女が逃げたものとばかり思っていた。だが、そんな考えが一瞬でも脳裏を掠めてしまったことすら不敬に感じられるほど、彼女は律儀にも自らの「仕事」を全うしていたのである。

 もし、彼女が居なかったら――。此度の「戦況」は、村民の置かれた「状況」は、あるいは今とは違うものになっていたかもしれない。そして彼が最も恐れ、だが強引にも覚悟を迫られることとなった、「犠牲者」だって出ていたかもしれないのだ。

 そういった意味では、やはり彼は(彼女の仕事に臨む「姿勢」がどうであれ)あくまでその「働き」については感謝すべきであったし。実際、今まさに彼はそれを言葉にしようと、声を発し掛けたところだった。

 だが。彼女のあまりの「変貌ぶり」に、彼は思わず口をつぐんでしまう。
「雰囲気」のみならず、むしろより「視覚的」に。彼女の「身に纏う」もの――、かつて「清廉」に「洗練」されていた「衣服」は、すっかり変わり果ててしまっており。それは今や「ボロ布」のように所々に穴が開き、あるいは「薄汚れて」いるのだった。

「どうして、『この私』がこんな目に…!!」

 彼女はまたしても「悪態」をつく。だがそれは、これまでのような「軽口」では決してなく。より深い場所から届けられる、「呪詛」の如く重たい響きを醸していた。
 その瞳に灯された、いつかの「鋭い眼光」もまた影を潜め――、彼女の「視線」は勇者を捉えることもなく、もはや何にも向けられてはいないようだった。
 どこか翳りのある「表情」。彼はそんな彼女の「横顔」と相対し、とてもじゃないが「礼」を言えるような雰囲気ではなかった。

 ふと。「異臭」が勇者の鼻に漂ってきた。それは紛れもなく「女魔法戦士」の方向からもたらせられる「芳香」。
 ゴブリンの「返り血」を浴びたことによるものなのだろうか。あるいは、何かしらの「魔物の体液」だろうか。それにしてはどこか「懐かしい」感じのする香りに、予期せず彼は「村での日々」を思い出す。

「農村」においては、ごく頻繁に嗅ぐこととなる「臭い」。
 やはり「悪臭」であることに違いはないものの――、「家畜」のそれは「肥料」として「作物の成長」にも役立てられる。
 ナディアから放たれる「ニオイ」、それはまるで「肥溜め」のような――。

 彼女から「数歩」離れた場所にいる勇者にさえ届くのである。ましてや、すぐ隣に居るサンソンが気づかぬはずはない。だが、彼はそれについて言及することなく、

「皆とも話し合ったんだが――」

 後方の「仲間たち」を一瞥し、

「今回の『報酬』について、俺たちは辞退させてもらうことにするよ」

 落ち着き払った様子で、きっぱりとそう言った。勇者はそれを聞き、けれど少しも意外に思うことはなかった。むしろ、当然とばかりに納得するのだった。

 今回の「クエスト」における「報酬」について。彼は「依頼書」によってではなく、ナナリーから伝え聞かされたことでその「内容」を知った。
 それを知っているからこそ、彼は「赤面」してしまう。いくら自分のことではないとはいえ――、「同郷」の村人、それもあろうことか「身内」による「醜聞」に。彼は思わず「羞恥」を感じずにはいられなかった。

 そのあまりに児戯じみた「報酬内容」について。彼は「仲間」に詫びようと思った。あるいは「村民」に代わって、自分がその「対価」を支払おうとさえ考えていた。だが彼が意思を告げようとする、その前に――、

「まあ、報酬が『アレ』じゃあねぇ…」

 それまで黙り込んでいた後方の「賢者」があからさまに侮蔑し、見下したように口元を歪めたのだった。

――どうして、そんなにも「馬鹿」にされなければいけないのか…?

 現に彼自身もそう思ったように、「報酬」とは本来「金銭」であって然るべきなのだ。だがそれにしたって、村で獲れた「作物」は町において「商品」として普通に「売買」されるものであるし。であるならば、それは「金品」と呼んだって差し支えないだろう。
 それに。何よりそれは「直接的」に、お腹を満たすことの出来るものなのだ。いかに「高価」であろうとも「硬貨」でお腹は膨れない。つまりは「間接的」な「価値」を有しているに過ぎないのである。

 にも関わらず。その「報酬」は彼らにとって、やはり「無価値」なものなのだろうか。
 もはや議論の余地さえなく(サンソンはそう言ったものの、彼らの間で報酬を受け取るか否かについて、真剣な「話し合い」がなされたとは到底思えなかった)、あっさりと「拒否」してしまえるほど。さらには、そこに何らかの「皮肉」を付け加えなければ気が済まないと思わせるほどに――。

 彼は「頬」のみならず、「全身」に熱が灯るのを感じた。あくまで自分に対するものではなく、「大切な人たち」に向けられたその「嘲り」に。「羞恥」よりもむしろ「怒り」がこみ上げてくるのだった。
 勇者は何か言い返そうと、「反論」を試みようとした。だがそれも、やはりサンソンの「反応」に先を越されてしまう。彼は睨みつけるようにして仲間を「制止」した後、

「確かに。今回の報酬は、あまりに『莫大』なものだ」

「定量的」に述べつつも、そこに「定性的」な「価値」を見出すのだった。

「だからこそ、君が受け取るにこそ相応しい!!」

 彼は言った。あるいはその言葉自体、紛れもない「方便」であり。勇者や依頼者に対する、彼なりの「気遣い」でもあったのだろうが――。
 兎にも角にも。彼は最後の最期まで他者に向けての「配慮」を欠かすことなく、その「姿勢」を崩すことはなかった。

 と、そこまで言い終えたところで。サンソンは「隣の同胞」を気遣いながらも体の向きを反転させ、勇者に「背」を向けて立ち去るのだった。
 その颯爽たる彼の「後ろ姿」に比して――。肩に腕を回され、まるで「引きずられる」ようにして歩くナディア。その「背中」は、やはり幾分か「小さく」感じられた。彼女の「マント」は下半分ほどが無残にも引き千切られており、「白いブラウス」はすっかり「土埃」にまみれていて、そして――。

 辺りはすでに「昏い」ものの、彼女の「スカート」に盛大に浮かび上がった「染み」を勇者は決して見逃さなかった。

 あたかも濡れた地面に「尻もち」をついてしまったかのような、「臀部」を中心にして広がるその「痕跡」。彼女はそこを手で「隠そう」としているものの、だがその全てを「覆う」ことは出来ずに半ば諦め掛けているのだった。
 その「仕草」と、あくまで衣服の「形状」は違えど、同じく描き出された「紋様」に。ふいに勇者は、強い「既視感」を覚えるのであった。

 ナナリーの晒した「醜態」。「恐怖」のため、「理性」を「本能」が上回ってしまったことによる「痴態」。それについては致し方ないだろう。何しろ彼女は「村娘」であり、ついこの間まで「戦い」とは無縁の日々を送っていたのだから――。
 だが、ナディアに関しては違う。彼女にとっては、まさにそれこそが「本業」であり。「戦い」こそが「日常」なのだから――。
 あるいは「死」に対する「恐怖」が全くないかといえば、さすがにそんなことはないだろうが。まさか「彼女に限って」、そのような「失態」を○すとは考えられなかった。

 だからこそ、ふいに浮かんだあり得ぬ「発想」を勇者はすぐさま打ち消した。そして、代わりに勇者はまたしても「想像」する。彼が実際に目にした、ナナリーの「粗相」を。

「さてさて、我々もそろそろ――」

「賢者」が声を発したことで、「回想」は打ち切られる。彼は「半笑い」を浮かべつつ、「目配せ」をした。それは、とても「嫌な感じ」のする「笑み」だった。

「ナディア様の『雄姿』を皆に周知する、という『重大な使命』がありますので!」

 あえて「大仰」に言う賢者。その畏まった「物言い」に、それまで「無反応」だった「モブ達」さえもついに堪えきれず笑い出してしまう。
 周囲を憚ることなく、鳴り響く「嘲笑」。その「罵声」は、あるいはナディアの耳にも届いていたのかもしれないが。それでも、彼女が振り返ることは決してなかった。

 ナディアの「うんちお漏らし」。
 彼女にとって、耐え難き「羞恥」でありながらも。あくまでも「仲間内」のみ、その「下穿きの内」だけで収められるべき「秘密」を「吹聴」して回ったのは――、他ならぬ「彼ら」なのだった。
 あるいは「女魔法戦士」に相手にされなかったことに対する「当てつけ」か、はたまた他者を蹴落とすことで成り上がろうとする彼らの「卑しい性分」か。
 いずれにせよ「ゴブリン如き」に恐れおののき、あろうことか「糞尿」までもまき散らしてしまった彼女に対して。「劣情」を主成分とした彼らの「憧憬」は、もはや見る影もなく失われていたのだった。

 もし仮に、勇者の耳にもそのような「噂」が届いていたとしたら――。それも全ては「自分のせい」だと彼女に対する「申し訳なさ」と、いくらか「同情」を禁じ得なかったであろうが。(それもまた彼にとっては「目覚め」の契機となり得たかもしれないが…)
 その後、すぐに町を後にすることになる彼は知るべくもなかった。

 何はともあれ、サンソンの「号令」をもって「急造パーティ」は「現地解散」となり。またしても「一人きり」となった勇者は町へと帰還し、その足で「ギルド」に向かったのだった――。


「おはようございます、勇者様」

 すでに「昼前」だというのに、未だ人の疎らな「ギルド」において。
 やはり真っ先に声を掛けてきたのは、あの「エルフ」だった。今回のクエストの受注にあたって自ら「便宜」を図ったというのに。パーティ招集のため、あれほど「尽力」したというのにも関わらず。けれど彼女はあくまで、それについては何も言って来なかった。ただ、普段通りの「挨拶」を彼に向けてくるのだった。

 早速、彼は「報告」する。依頼を「達成」したこと、村の皆が「無事」であったこと、数匹のゴブリンを彼の手で「打倒」したこと。それらを出来るだけ「簡潔」にまとめようと心掛けてはいたものの、それなりに「饒舌」になってしまうことは否めなかった。

「お疲れ様でございました」

「全て」を聞き届け、それでも尚彼女は冷静なまま「定型句」を述べるのだった。
 その表情こそ紛れもない「笑顔」ではあるものの、それは「建前」として他の冒険者に向けられるのと「同じもの」であり。あくまでギルドの受付として、彼女に「標準装備」されているものに違いなかった。

「では早速、『報酬受け渡し』の手続きに移らせて頂きます」

「業務的」にそう言い終えると。彼女は手元にあった「帳簿」を、ページを捲ることなく「一発」で開き当て、それを彼に向けて差し出したのだった。

「こちらに『サイン』をお願い致します」

 彼女は指で箇所を示しながら、やはり起伏なく言う。「羽ペン」を受け取りつつ、彼女に言われるまま「署名」を終えながらも――、彼は何だか「拍子抜け」するような、妙に「がっかり」したような気がするのだった。

 別に「褒めて」欲しかったわけではない。「認めて」貰いたかったというのとも違う。彼が今回受けた「依頼」というのは、あくまで「低級」のものであり。「志願者」が現れなかったのも、その「報酬の低さ」こそが理由であり。決して「誰にも成し得なかった」という類のものではなく、むしろ「駆け出し」であっても丁度いいくらいの「低難易度」に過ぎないのだった。
 何しろ相手は「ゴブリン」なのだ。「低級の魔物」、「冒険者」がまず最初に「狩る」に相応しい「敵」であり。あるいはその「経験」を経ることによって、初めて「半人前」だとかろうじて認められるくらいの、いわば「試金石」なのである。
 たとえそれが「軍勢」であろうとも――、いくらか「難易度」の「加算」は認められるものの、やはりそれは「低級の範囲」に充分収まるだけのものなのだった。

「エルフ」は彼のことを「心配」すらしていないようだった。紛れもない「彼の故郷」が「戦火」に見舞われたというのに。いかに「低級」であろうと、まさに「魔物」と戦ってきたというのに。彼女は勇者の「生還」を祝うどころか、体中に受けた「名誉の負傷」を眺めても尚、彼が「無事」であったことに対する言葉はないのだった。
 あるいはそれこそが「信頼」と呼ぶべきものなのかもしれない。彼女は彼が無事に戻ると信じていた。きっと大丈夫だろう、と。余裕をもって、そう構えていた。だからこその「無言」なのかもしれない。(それとも、彼女が集めた「上級職」に対する「信頼」なのだろうか…?)

「ありがとうございます。それでは――」

 彼女は「署名」を確認し、上から「受領印」を押す。そして帳簿を「パタン」と閉じてから仕舞うと、代わりに何やら「薄汚れた小袋」を取り出した。

「お渡しするのが遅れてしまいましたが…、こちらが『依頼』の『前金』です」

 彼はその「小袋」に見覚えがあった。(確かこれは村の大人たちが「買い出し」のため、町に出掛ける際に用いるものだったはず…)

「どうぞ、ご確認下さい」

 確認するまでもなく、すでに「中身」については知っている。村人が彼のために持ち寄った「果実の種」だろう。それもやはり、彼以外にとっては「無価値」に過ぎないもの。
 だがしかし。彼が一応とばかりに袋を開け、改めたその「中身」は――、

 数枚の「銀貨」であった。

 彼の育った村においては「大金」とさえ呼べる額である。 

「そして、こちらが今回の依頼の『達成報酬』です…」

 彼女はどこか言いづらそうに、

「村で獲れた作物、『一生分』でございます…」

「依頼書」に書かれた通りの、そのあまりに途方もない「内容」をそのまま口にする。

「尚、『報酬の多寡』について、当ギルドは一切関知しておりませんので――」
「万が一『支払い』がなされない場合は、ご自身で『回収の依頼』をお願い致します」
「我々ギルドは、『依頼者様』と『冒険者様』との『信頼』で成り立っております」

 それを言うことが、「規則」で決められているのだろう。「スラスラ」とした口調で、澱みなく「条文」を言い終えたところで。

「いりません…」

 彼は「明確な意思」を言葉にする。

「えっ?」

 そこで初めて、彼女は「個人的」な戸惑いを露わにした。

「報酬はいらないです。これも依頼者の――、『おじいちゃん』に返しておいて下さい」

 勇者はやや迷った挙句、あくまで彼にとっての「呼び名」でそう言った。

「かしこまりました。では、責任もって私から依頼者様に『お返し』しておきます」

 無論それは「業務外」であったのだが、エルフは「快諾」した。
 そうすることで、少なからず村の「復興」に役立てられるのなら。それによって、わずかばかりでも彼の「助け」となれるのなら。彼女は「ギルドの受付」としてではなく、「一人の女性」として。今一度、彼のために一肌脱ごうと決意するのだった。

「以上で、全ての『手続き』を終えさせて頂きます。何かご不明な点はございますか?」

 最後にそう問われ、勇者は顔を上げる。「正面」からしっかりとエルフの顔を見据え、そして――。

「色々とありがとうございました!!お陰で、村の皆を助けることが出来ました」

 はっきりと彼は言った。「不器用」ながらも、精一杯の気持ちが込められた彼の言葉。けれど、当のエルフは――、

「一体何のことでしょう?」

 わざとらしく首を傾げ、あくまで「とぼけて」見せるのだった。

「いえ、何でもないです…」

 彼のなけなしの「勇気」もそこまでだった。「気恥ずかしさ」を堪えつつも放った言葉はけれど――、彼女によって見事に躱されたことで、後にはただ「居たたまれなさ」のみが残るのだった。
 再び、彼は下を向いてしまう。もはやその場に留まり続けることすら「羞恥」に感じ。彼は踵を返し、立ち去ろうとしたところで。

「必ず帰ってくるって信じてましたよ!」

 その「声」に振り返り、今一度彼は「エルフ」を見る。
 その「表情」は、やはり「いつも通り」のものでありつつも――、瞳を潤ませながらの「笑顔」は、紛れもなく「彼だけに」向けられたものだった。


 ある者は去り、またある者が訪れる。「町の日常」はあまりにも忙しない。そうした日々の中で、ようやく彼にも「仲間」が出来た。

「アンタ、『勇者』なんだって?」

 最初に声を掛けてきたのは、一人の「女戦士」であった。
「肉体」に縦横無尽に走る「傷」は、まさに「歴戦の猛者」であることの「証」だった。

「アタシと『一戦』交えちゃくれないかい?」

 彼女からもたらせられた提案は「勧誘」ではなく、まさかの「試合の申し出」だった。

――ヒュン!
――ガキィィン!!
――ズバッ!
――ドシャ!!

 幾閃かの「剣戟」を重ねた末、あまりにあっけなく彼は膝をついてしまう。
 彼のこれまで積み上げた「研鑽」は、彼女の「剣技」の前では全く歯が立たず。彼が「勇者」となって以来、一日たりとも欠かすことの無かった「鍛錬」も――、彼女の長年のそれに比べればほんの「付焼刃」に過ぎず。彼は彼女に対して、少しも敵わなかった。
 だが、それでも。「試し合い」の後、蹲る彼に差し出された手。

「アンタの『太刀筋』気に入ったよ!まだまだ、アタシには遠く及ばないけどね!」

 彼のことを認めながらも。けれど自らを決して「卑下」することなく、むしろ盛大に「誇示」しつつも「豪快」に笑う彼女の手を――、彼は掴むのだった。

「アタシの名は『ヒルダ』」

 彼女は「名」を告げた上で、 

「今はまだ『戦士』だけど、これでも『世界一』の『バトルマスター』を目指してる!」

「不遜」ともいえるくらいの「名乗り」を上げる。

「アンタは?」

 そう問われたことで、彼は自らの「氏名」とそれから――。あるいは自らの「使命」と呼ぶに相応しき「職業」を、やはり「自信なさげ」に答える。

「――か。いい『名』だね!」

 ナナリー以外から「名前」で呼ばれるのは、随分と久しぶりな気がした。けれど彼女はあえて「その名」を繰り返すことなく――。

「決めた!これから先、アンタのことは『勇者サマ』って呼ぶことにするよ!」

――自分が「勇者」だって、アンタが堂々と胸を張って言えるようになるまで。

 そうして、またしても彼女は「豪快」に歯を見せるのだった。
 当初は「次の町まで」という約束だったが、いつの間にかそれは「反故」にされ――、彼女はパーティにおける「最古参」として、「最後まで」彼と共にあり続けるのだった。

「新天地」を求めるべく、「彼ら」が町を出ようとした時。
 また一人、声を掛けてくる者の姿があった。

「あの、えっと…。ワタクシも『お仲間』に加えては頂けないでしょうか?」

 あまりに唐突な「出願」に、「二人」は顔を見合わせる。女戦士の方はやや「苦い顔」をしているようにも思われたが、あくまでも「合否」は彼に委ねるつもりのようだった。

「ぜひ、お願いします!!」

 むしろ彼の方から「願い」を口にし、あっさりと「了承」を示すと、

「やった!!めっちゃ嬉しいで――あ、その…、ございます」

「女僧侶」はなんだか妙な「言葉遣い」になりつつも――、だがそれによって、彼女の「真っ直ぐな思い」がより率直に伝わってくるのだった。

「経験的」にも「年齢的」にも、彼にとって「先輩」である「両名」を加えて。ついに、彼は念願の「パーティ」を組むことと相成った。だがしかし――。

 それからの勇者の日々は、これまで以上に「危険」に満ち溢れたものだった。

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