おかず味噌 2020/12/30 16:00

クソクエ 勇者編「伝説の黎明 ~安堵失禁と恐怖脱糞~」

(前話はこちらから↓)
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(女戦士編はこちらから↓)
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(女僧侶編はこちらから↓)
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「村」に近づくと、「異臭」が彼の鼻腔を満たした。

「畑」の焼ける香り、「家」の燃える匂い、「肉」の焦げる臭い。
「黒煙」となったそれらが「風」に乗って、彼の元へと運ばれてくる。

 そして、辺りがすっかり「昏く」なり始めた頃。ようやく「目的地」に辿り着いた彼は、「変わり果てた」故郷の姿を目にするのだった――。


 彼は「言葉」を失った。「眼前の光景」に思わず「悲鳴」を上げそうになりながらも、けれど「声」を発することは叶わなかった。口内は「カラカラ」に渇き、喉の奥に何やら「引っ掛かり」を覚える。かろうじてそれを「呑み下す」と、胸いっぱいに「モヤモヤ」とした「黒いモノ」が広がってゆくのを感じた。それはまさしく「絶望の塊」であった。
 何とか「理解」が追いついた彼の目に「涙」が浮かぶ。「臭い」のせいもあるだろう。目に染みるような「煙」が、そこかしこから上がっている。だが無論それだけではない。彼の瞳に滲んだそれは「視界」をぼやかし、あるいは全てが「幻想」であるかのような「希望」をチラつかせるが――。瞳を閉じても尚「瞼の裏」に貼り付くその「残像」は、紛れもなくそれが「現実」であることを示していた。

「さすがに『ショック』か…?だが、こんな『景色』は世界中にありふれている」

 勇者の肩に「ポン」と手を置き、励ますように言うのはサンソンだった。あくまで彼はここが「勇者の故郷」であることを知らない。知らないからこそ、そんなことが言える。「何もここだけのことじゃない」と、彼の故郷は「ここでしかない」というのに――。

 勇者は今すぐにでも駆け出したかった。「村中」を駆け回り、背に抱えた剣を振り回したかった。彼と「出身」を同じくする、この「聖剣」を――。
 だけど彼はその場から動けなかった。果たして「どちら」に向かえばいいのか分からなかったからだ。あるいは「助け」を求める声の「方角」に向かおうと思っていたのだが。そんな「悲鳴」も、「彼を呼ぶ声」も、どこからも届くことはなかった。

「少しばかり『遅かった』かもな…」

「長めの前髪」を弄りながらサンソンは言う。彼としては「見慣れた景色」なのだろう。「取り乱す」ことも「喚き散らす」こともせず、あくまで「冷静」なまま「客観的」な「感想」を漏らす。

――イヤだ…!!その「先」を言わないで…!!

 そんな勇者の「願い」も虚しく――。

「残念だけど、『手遅れ』だな…」

 けれど、サンソンは「続き」を言ってしまう。彼の「最後の望み」すら打ち砕くように(もちろんサンソンに「悪気」はないのだが)、わずかな「希望」さえも消してしまう。

「勇者。これからどうする?」

 サンソンが訊ねる。その「意味」が勇者には分からなかった。「どうする」も何も、「やるべきこと」は決まっている。早く「村の皆」を助けなければ――。

「『この様子』だと、たぶん『依頼者』はもう生きちゃいない。それに恐らく――」

――「村人」も「全滅」だろうな…。
「全滅」?彼はそう言ったのか?何が?誰が?一体どうして、なぜそんなことが言える?まだ分からないじゃないか!!きっと「村の皆」は「避難」しているのだ。「ゴブリン」に見つからないように、じっと息を潜めて「救援」を待っているのだ。「悲鳴」が聞こえて来ないのも、それならば頷ける。「皆無事」で、だからまだ――。

 彼はそれでも尚「期待」を口にしようとする、その前に。先にサンソンが口を開いた。

「ゴブリンってのは、ああ見えてとても『狡猾』な奴らなんだ」

 サンソンは「見てみろ!」とばかりに「辺り」を指し示す。

「見張りがどこにも居ないだろう。『狩り』をする時、奴らは必ず見張り番を置くんだ」

 確かに彼の言うとおり、村の「入口付近」にゴブリンは「一匹たりとも」居なかった。

「もう引き上げた後なんだろう。奴ら『強奪』と『凌○』の限りを尽くして、それで…」

――全く、「反吐」が出るぜ…!!
 サンソンの言葉に「怒り」が込められるのを感じた。さすがの彼も「冷静」ではいられないのだろう。露わにされた「感情」に、凄まじいばかりの「鬼迫」に。「味方」であるはずの勇者さえも「圧倒」されたのだった。

「いくらか『残党』は残っているだろうが――」

――どうする?
 再び、サンソンは問う。ようやく彼にもその「意図」が分かった。
 つまりは「クエスト失敗」となっても尚、「ゴブリン狩り」を続ける意思があるのかを彼は訊いているのだ。

「皆さんは、先に帰っていて下さい…」

 勇者は言う。本来であれば「形」はどうであれ、ここまで付いてきてくれた「仲間」に「礼」の一つでもあって然るべきなのだが。普段の彼ならば、間違いなくそうしていたのだろうが。もはや今の彼には、そうした「礼節」を重んじるだけの「余裕」はなかった。

「あとは、『一人』でやりますから…!!」

「意志」を込めて彼は言う。「呼応」したかのように「聖剣」に「鈍い光」が灯る。だが「鞘越し」のそれに気づく者はいなかった。ただ一人、サンソンが何かしらの「気配」を感じたのみだった。

 勇者は駆け出す――。「目的地」を定めることなく、ただ「村の奥」へ向かって走る。

「ちょっと待て!!」

 その「背中」にサンソンが声を掛けるも、けれど彼の耳には届かず。「失われた故郷」へと分け入っていく――。

「はぁ…」
 勇者の姿がすっかり見えなくなったところで、サンソンは似合わない「溜息」をつく。彼の中に残った「一抹の不安」それは――。

――大丈夫だろうか…?きっと勇者は今以上に「凄惨な光景」を目にすることになる。

「村人の屍」「残酷に切り刻まれた肢体」「凌○され尽くした死体」。ゴブリンを相手にすると、いつもそうだ。彼も「初めて」それらを目にした日の夜は「悪夢」にうなされ、幾度となく「嗚咽」を感じて眠れなかった。
 どうしてこんな「惨いこと」が出来るのか!!「奴ら」は「人」をまるで「物」としてしか見ていない。今でも彼は、何度だって「怒り」を覚える。
 だが「彼ら」からしてみれば、「人間」もまた「同じ」なのだろう。「報酬」のため、「経験値」のためと宣い、彼が積み上げてきた「魔物」の「亡骸」の数は「百や二百」ではきかないだろう。
 あるいはその「事実」を知り――、自身も「魔物」と成り果てた者がいると聞く。そうでなくとも自らの「仕事」に嫌気が差し、人知れず「ギルド」を去った者だっている。

――彼は大丈夫だろうか…?

 いや、きっと大丈夫なはずだ。彼ならば「深淵」を覗きながらも、やがていつかはその「暗闇」を抜けることが出来るだろう。何しろ、彼は「勇者」なのだから――。

「きゃぁ~!!!」

 ふいに「悲鳴」が鳴り響く――。これまで決して聞こえることのなかった「人の声」。「助け」を求めるその「呼び声」は、紛れもなく「生存者」がいることの証。
 なぜか「その声」に「聞き馴染み」を覚えつつも。まさか「その彼女」がそのような「状況」に陥ることなどとは考えにくい。
 だが、何はともあれ「救援要請」を受けたサンソンは――、「広場」とは「反対方向」に向かったのだった。


「仲間」を置き去りにして、「一人」駆け出しては来たものの――。勇者は迷っていた。何も「道に迷った」というわけではない。何しろここは彼の「生まれ育った村」であり、凄惨に「変わり果てて」はいるものの、見慣れた景色の「面影」はそこかしこに見当たるのだった。けれど――。
「広場」まで「一目散」に駆けてきた彼は、果たしてここから「どっち」に行くべきかを迷っていた。

 まずは「自宅」に向かうべきだろうか。此度の「凶報」を知る「きっかけ」となった「依頼者」はそこにいるのだろう。年老いた「祖父」のことだ、逃げ遅れてしまった可能性だって十分ある。いやそもそも「無事」逃げることの出来た「村人」が、一体どれほどいるというのだろう。
 彼はまだ「村人」の「変わり果てた姿」を一度も目にしていない。だから、あくまで「希望」が潰えたわけではない。それでも、今や燃え尽き「黒焦げ」となった「家々」を見るに――、それがとても「儚い」ものであることは確かだった。

 それとも「ナナリーの家」にこそ向かうべきなのだろうか。「村長の家」でもあるそこには、「有事」に備えて多少の「蓄え」があるのだと聞いたことがある。(もちろん、彼がまだこの村に「居た頃」には幸い、その必要に迫られるような「事態」は一度たりともなかったのだが…)
 あるいは「村の皆」が「避難」していることも考えられる。そこに「彼の祖父」もいるかもしれない。「ナナリー」も――、今となっては「懐かしさ」さえ覚える「同年代達」も――、皆そこに身を寄せ合っているのかもしれなかった。
 ようやく彼は「目的地」を定め、少し「高台」にある「屋敷」を目指すのだった。

 それにしても。彼はこれまで「ゴブリン」に一度も「遭遇」していなかった。サンソンの言った通り、すでに「引き上げた」後なのだろうか。「クエスト」にあった「軍勢」はおろか、その「残党」にすら出くわすことはなかった。
 なんだか「不気味」だった。「ゴブリン達」は一体どこに「消えた」というのだろう。いや、あくまで彼らは「隠れている」だけなのかもしれない。建物の陰から――、あの角を曲がった先で――、息を殺して「こちら」を窺っているのかもしれない。
 それを考えただけで、彼の中に再び「臆病心」が芽生えるのだった。いかに「聖剣」に選ばれようとも、「勇者」となった今でも。自らの「性質」というのは、そう容易く変えられるものではなく――。ついこの間までは田畑を耕すことのみに従事し、「命の危険」などとは程遠かった彼にとって。すぐ近くに迫り来る「生死」というのは耐え難く、やはり目を背けていたいものだった。

 だけど、もはやそんなことも言っていられなかった。ついに「屋敷」に至る「坂道」の下まで辿り着いた彼は、そこでより一層「焦燥」を感じた。「あるもの」が見えたからである。急いで坂を上った彼は「村長の家」の「正面扉」の前に立つ。その「扉」は、

「開いて」いた――。

 あるいはそれこそ、すでに村人たちが隙を見て逃げ出したことの「痕跡」なのかもしれない。だがさらに「扉」に近づいたことで、彼は知る――。扉の「カギ」は、

「破壊」されていた――。

「村人」によるものでは決してないだろう。「鈍器」で無理やり「こじ開けた」ような「傷跡」は、「ゴブリン達」の「仕業」に違いなかった。

 すかさず彼も「半開き」となった扉をくぐる。「他人の家」に「無断」で上がることに多少の「抵抗」と、場違いな「緊張」を覚えつつ――。

――そういえば、ナナリーの家を訪ねるのは「初めて」だな…。

 と。いかに「非常時」であり仕方ないとはいえ、ならばいっそナナリーに「誘われる」ことでそれを果たしたかった、と彼は思うのだった。
 だがそう出来なかったのには幾つもの「理由」がある。いつだって彼は、ナナリーとはあくまで「人目を避けて」会うようにしていた。彼女がそう望んだわけではない。むしろ彼女は彼が「いじめられている」ことを知るたびに。「外聞」など決して構わず、すぐにその場に駆けつけてきて、怒鳴り散らしてくれたのだった。
 思わず縋りつくように、ナナリーの「後ろ」に隠れる彼を見て。「いじめっ子達」は彼のことを――、

「や~い、弱虫!!また『女』に助けてもらいやがって!!」

 と、さらに罵るのであった。それに対しても、やはり彼は何も言い返すことは出来ず。その「代わり」にナナリーが――、

「うるさいわね。いいの!○○は『優しい子』なんだから」

 そう「反論」してくれるのだった。
「優しい子」――。果たしてそれはどういう意味なのだろう。確かに彼は「家畜」を始めとする「動物」や、「虫」やさらには「草木」に至るまで。それらを決して「下等生物」だと決めつけることはなく、あくまで「対等」に接するのだった。
 だがそれは、彼に「友人」が少なかったためでもあり。それを「優しさ」と形容するのは、何だか違うような気がした。
「優しい子」――。それは「臆病者」の間違いではないだろうか。彼の「性質」に彼女なりに最大限配慮し、言葉を選んだ末のその「表現」なのではないだろうか。

 彼はひと時の「回顧」に耽る。だがもちろん、そんな場合ではない。あくまで彼女の「本心」ではなかったとしても――、たとえ彼女が自分のことをどう思っていようとも。
 彼の今「やるべきこと」は変わらないである。
「優しい」というならば、それはナナリーにこそ当て嵌まるべきもので。その彼女は今「ゴブリンの襲撃」に怯え、「救援」を求めているのだ。
 あるいは「救援者」が誰であろうと、それについては構わないのかもしれない。だが「依頼者」である彼の「祖父」が、ギルドで確かにそう言っていたのだと聞いたように。
 やはりナナリーもまた「勇者」を――、かつては単なる「愚者」に過ぎなかったその存在を――。紛れもない「彼」による「助け」を、待ちわびているのかもしれなかった。

 目の前の「階段」を駆け上る。相変わらず「気配」はなく、「物音」さえ全くしなかったが――。そこで「聞き慣れた声」による「悲鳴」を、彼は確かに耳にしたのだった。

「イヤァ~~~!!!」

「甲高い」その声に――、彼は一瞬それが彼女のものであることを疑いたくなったが。「鼓膜」にこびり付いた「残響」を何度も「反芻」する内に、それが紛れもなくナナリーの声であることを知った。
 それを「聴いた」ことで、まず最初に彼の中に浮かんだ感情は――、「安堵」だった。「良かった、生きてたんだ…」と、そう思ったのだった。だけどすぐにそれは「不安」へと変わる。「悲鳴がした」ということは、今まさにナナリーの身に何かしらの「危機」が迫っているという、紛れもない「事実」を表わしているのだ。

「二階」へと上ってきた彼の眼前には、いくつもの「扉」があった。「村の長」たる人物の「家」というのは、「屋敷」と呼ぶに相応しい「広さ」と「豪華さ」であった。
 数多くあるその「部屋」の内、果たしてどれが「正解」なのだろう。こうなればいっそ「虱潰し」に当たろうかと思い掛けた彼であったが――、ここに来てもやはり「痕跡」はあった。
 およそ半数以上の扉は「開け放たれて」いたのである。「悲鳴が聞こえた」ことから察するに――。ということはつまり、その中の「どれか」ということだろう。
 だがそれだって。開かれた扉の数もそれなりにある。もはや「時間」は限られている。早くしないと、ナナリーは。

 彼が「最初の部屋」に向かおうとした、まさにその時だった――。

「誰か、助けて…」

「微かな声」を、けれど彼は聞き逃さなかった。今度ばかりは疑いようもない。それは間違いなく「ナナリーの声」であり、彼女の「助け」を求める声であった。
 かつては彼の方からナナリーに「救い」を求め、決して声には出さずとも「悲鳴」を上げていたのだが。今度は彼が彼女を「救う番」なのだった。

 勇者は、すでに開いた扉から部屋の中へと躍り出る。あえて鳴らした「足音」によって、それを聞いた「ゴブリン達」が振り返る。
 室内には全部で「六匹」のゴブリンがいた。その「全員」が彼の方を見て、「村人」とは違うその「装い」に目を丸くしていた。
 ゴブリン達が振り向いたことで――、その「目線」の先を追って、ようやくナナリーも「何者か」の「来訪」に気づく。だがその「表情」には相変わらず「恐怖」が張り付いたままで。そこに居たのが「彼」であると分かっても尚、あくまで彼女はそれを「幻」だと思い込んでしまう。

「ナナリー!!」

 勇者は彼女の「名」を呼ぶ。そうしたことで、彼の姿が紛れもない「現実」であることを彼女は知ったのだった。

「○○…?」

 それでもナナリーは未だ「半信半疑」で。なぜ彼がここに居るのか、数月前に「町」に向かったはずの彼が、どうして「この村」に居るのか分からないという様子だった。
 あるいはここまで来る「道中」、ずっと心に決めていた「台詞」を彼は言う。

「『助け』に来たよ!!」

 あまりに「呑気」というか、馬鹿げたようなその言葉。まるでちょっと「お手伝い」に来た、とでもいうような。少しも「緊迫感」のない、あくまで「のほほん」としたようなその「口調」。
 けれど、だからこそナナリーは知った。それがまさしく、彼女にとっての「勇者」であることを――。

 勇者はゴブリン達に目を戻す。未だ「驚き」を浮かべたまま、盛大に「動揺」している彼らは――、やはりどこか「人間臭く」もあった。
「彼ら」は、勇者の手に握られた「聖剣」をぼんやりと眺めていた。それが意味することを、これから与えられるであろう「痛み」と「恐怖」を。彼らは知らぬまま――、けれど彼らの「理解」が追いつくのを待つつもりはなかった。

「うわぁ~~~!!!」

「咆哮」を上げて、彼はゴブリンに飛び掛かる。そこに「戦略」と呼べるようなものはなく、「間合い」さえも「デタラメ」で。けれど、この「数月間」に彼が培った「経験」がまさに「武器」となる。

――ブンッ!!ゴトン…。

 まずは「一匹」。彼の足元にゴブリンの「頭部」が転がる。そして、すかさず――。

――ズバンッ!!バタン…。

「二匹目」は「体部」を狙って切り倒す。だがそこで、ようやくゴブリン達も何事かを知る。すでに「屍」となった「身内」を見届け、眼前のそれが紛れもない「脅威」であることに気づく。

「キシャァァ!!!」

 醜い「奇声」を上げて、彼らは「戦闘態勢」を整える。「血気盛んな一匹」が勇者に飛びつき、彼の「視界」を遮ろうとする。だがあえなく勇者はそれを討ち取り、すぐに構え直すのだった。
「じりじり」と互いに「間合い」を保ちながら、「攻撃の瞬間」を待ちわびる。堪らない「緊張感」。けれど勇者はもう何度も、そうした「死線」を潜り抜けてきたのだった。
 最初に仕掛けたのは「三匹」だった。相変わらず「奇声」を上げつつ、同時に飛び込んでくる。「知性」のない彼らに「連携」などというものはない。ただ「闇雲」にそれぞれが飛び掛かってくる――。
 だが、それだけでも勇者は「苦戦」を強いられてしまう。かろうじて「初撃」だけは受け止めたものの、「二撃目」をギリギリで躱し、「三発目」をその身に受けてしまう。

 肩に鈍い「痛み」を感じる。焼け付くような「傷口」は「熱」を帯びて、彼の「心」さえも焼き尽くしてしまいそうだった。
 思わず勇者は膝をつく。何とか「片膝」だけに留めたものの、再び「立ち上がる」のはもはや「困難」であるかのように思えた。それでも――。
 勇者は立ち上がる。「鮮血」と共に飛び散った「決意」を体中からかき集め、心を蝕む「痛み」と「恐怖」を精一杯に振り払い、何とか膝を立てたのだった。
 勇者はその目でゴブリン達を見据える。その瞳に宿るものは「憎しみ」などでは決してない。「敵」は眼前の「三匹」などではなく、あるいは「自分自身」。それに打ち克とうとする「想い」。もはやそれこそ紛れもない「勇気」であった。

 再び、勇者はゴブリンに立ち向かう。この「痛み」が――、たったこれだけの「傷」が一体何だというのだ、と自らを「鼓舞」するように。「引き下がる」つもりなど毛頭ないのだった。そこで、ナナリーが何かに気づく。

「う、後ろ…!!あぶない!!」

 勇者がナナリーの声に反応する前に、またしても「攻撃」を浴びてしまう。「後方」からもたらせられた「一撃」。彼が後ろを振り向くと――、そこにはすでに「倒した」と思い込んでいたゴブリンが、その手に持った「斧」に彼の血を滴らせていた。
 背中に受けた「傷」は、さきほどのものとは比べ物にならないほど深かった。にも関わらず、彼はもう膝をつかなかった。「激痛」に顔を歪めつつ、「意識」を「朦朧」とさせながらも。けれどあくまで彼は「正面」を見続けていた。
「三匹のゴブリン」、その後ろには「ナナリー」がいる。彼にとってまさしく「恩人」でもあり――、「姉代わり」の存在でもある――、彼の「大切な人」が。

 勇者のその傷が「深手」であることは、もはやゴブリンの目から見ても間違いなく。だからこそ彼らはすでに「勝利」を「確信」したかのように浮かれている。

――相手が「弱者」だと知るなり、ゴブリンは「敵」を侮る。

 果たしてそれは「油断」なのだろうか、あるいは「余裕」というものなのだろうか。だがどちらにせよ、そこに「侮蔑」と「嘲笑」が混じっていることは明らかだった。
 それは(無論、決して比べるものではないのだが)「同年代達」による「いじめ」にも似ていた。彼が「弱者」であることを知り、だからこそ「強者」である自分らは「安泰」だろうと。決して「反撃」されることはなく。彼に唯一出来ることといえば、頭を垂れて「許しを請う」ことのみであると――。
 自らが「臆病者」であることを知っているから。「勇者」になどなれぬことを分かっているから。生まれ持った「性質」はもはや「残酷」なほどに彼の「運命」を縛り付け、その「身」も「心」も逃れられない「牢獄」へと捕えてしまうのである。それでも――。

「僕は、もう『臆病者』なんかじゃない…!!」

 彼は叫ぶ。自らの「意志」を表明するように。そうありたい、と「願い」を口にするように。彼は、今まさに「勇者」となったのだった――。

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