毛ガニデパート 2021/06/12 22:50

【名文紹介】牧野圭祐『月とライカと吸血鬼』

生存報告を兼ねた名文紹介3回目。
今回ご紹介したいのはこちら。

牧野圭祐『月とライカと吸血鬼』

上手いと思った文章は、もう既に出ています。
タイトルの「月とライカと吸血鬼(ノスフェラトゥ)」です。

この作品のタイトル、単語を3つ並べているだけなのですが、そのチョイスが絶妙です。
タイトルだけで言えば、オールタイムベストと言っても過言ではないレベルで上手いと思います。
それぞれの語の情報量は大した事が無いのですが、3つ並べた際の情報量はわずか9文字とは思えないレベルのものがあります。

まず、「月」。
空に浮かんでるアレですね。

次に、「ライカ」。
月と並べられる「ライカ」と言うと、カメラではなく、ソ連が宇宙船スプートニク2号に乗せた実験動物のメス犬の名前の方ですね。
となると、東西冷戦下の宇宙開発競争で、ソ連側の話かと予想がつきます。

そして最後に、「吸血鬼(ノスフェラトゥ)」。
この言葉で、話の内容がピンと来ます。
実験動物として、人間よりも強靭な吸血鬼それもルーマニア出身のを宇宙船に乗せて飛ばすのだと。
スプートニク2号は大気圏再突入が不可能な機体だったので、犬のライカは打ち上げ後、地を踏む事ができませんでした。
この本の吸血鬼は、どうなってしまうのでしょうか……いいですね、ハラハラします。
ロマンを感じませんか? 僕はタイトルだけで購入を決めさせられました。

というか、タイトルにロマンを感じた方向けの本ですね。
本文については、ラノベという事もあるのか、分かりやすいものの、平凡であまり文章力を感じません。
宇宙についても、吸血鬼についても、ちゃんと調査の上で書かれている事がよく伝わって来ます。
「ソ連なら、吸血鬼の名称はウピルとかじゃね?」と思った吸血鬼フリークの方々も不満を感じない作りになっています。
僕も吸血鬼もの書いたからそのへん詳しいんだ、へへっ。

ただ、よく調査してあるせいで、宇宙開発競争について知っていると、このタイトルだけでストーリーの大半が推測できてしまいます。
それくらい雄弁なタイトルです。
そんな方には、巻数が進んでからの方が、実際の歴史との差が広がって来て面白く感じるかと思います。
あと、アニメ化するらしいですよ。

ただ、この吸血鬼、耐寒能力と夜目が効くくらいしか設定上の人間と身体能力の差がありません。
実験動物としての価値があるのかやや疑問です。
作中でもすぐ不穏分子の粛清が行われますし、秘密主義が徹底されているので、訓練生の不穏分子にセンサーを付けて片道旅行させればいいような気が……

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