whisp 2019/10/25 22:23

2019日々姫誕生祝SS 「ふたりっきりの誕生日」 (進行豹

こんばんわです! 進行豹でございます!
今日! 2019/10/25は日々姫ちゃんのお誕生日!

ということで、記念日動画が公開されまして~!!!
https://twitter.com/maitetsu_ps/status/1187694643267305472?s=20

その上さらに! わたくしも!!! お祝いの書き下ろしショートストーリーなど執筆いたしました!

上記、記念日動画の、その夜のお話です!!
動画をチェックされてない方におかれましては、ぜひぜひ御覧の上ご確認いただけますとうれしいです!

それでは――どぞです!!!!


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2019日々姫誕生祝SS 「ふたりっきりの誕生日」
2019/10/25 進行豹

(コンコン)
「入るぞ?」
「あ、にぃに!? あの――待って。ちょっとだけ待って」
「うむ」

ガサゴソと、音。
のろのろとした、重い音。

「はい。です。どうぞ。入ってください」
「うむ」

部屋に入れば日々姫の匂い。
甘ったるい、熱のこもった汗の匂い。

「……寒くはないか? 大丈夫そうなら、少し換気をしたほうがいい」
「あ、うん。平気。風邪とかじゃ多分、ないけん――」

体調がよほど悪いのか、日々姫の顔色は最悪だ。
表情も、スケッチブックに黒のインクをぶちまけてしまったときと同じくらいに優れない。

「ただの、単なる……知恵熱みたいなもんやけん」
「そうか? が、いずれにしても熱があるとき体を冷やすのはよろしくなかろう。布団をしっかりかぶっておけ」
「……うん」

僕を迎えるそのためにだけ起こしたのだろう半身を、日々姫はふたたびゆっくり横たえ、布団にもぐる。

(ガララララっ)

窓を開ければ、晩秋の夜の空気が流れ込んでくる。
――晩秋、というか、もはや冬の匂いの方が濃いかもしれない、冷たい空気が。

「にぃには寒くなかと? その……あの……寒いようなら、おふとん……えと」
「平気だ。ついさっきまで火をつかっていたしな……っと」

ドアの向こうに、お盆を置きっぱなしにしてしまっていた。
あわてて取りにもどって小テーブルの上におき――

「あ、土鍋。にぃに、もしかしてお粥さんつくってくれたと?」
「もしかしなくてもそのとおりだ。真闇姉の絶品粥とは比較にもならんが、まぁ、ないよりはいいだろう」
「そんなん! にぃにが私に、私のためにつくってくれたお粥さんやもん。他のなにより、わたしにとっては一番やけん!」
「そうか。それならば冷めないうちに食べてくれ」
「うん!」
「と、その前に窓をしめるか」

(ガララララっ)

窓を閉めれば日々姫は再び体を起こす。
ひな鳥のごとく、もはやその口をあけている。

「ん~~~~っ」
「まぁ待て、ふーふーしてからだ。(ふーーーっ)(ふーーーーっ)(ふーーーーっ)。こんなもんかな? ほら、『あ~ん』は、もうしているか」
「ん~~~(はむっ!) あひゅっ! ん……ん――ん…………(もきゅもきゅっ)――こくっ。ぷあっ! 卵粥! 上手、おいしか~」
「そうか」

本当に口にあったらしい。
泥水のようだった日々姫の顔色に、健康的な赤味が戻る。

「ならばよかった。ではもうひとくち」
「あ! にぃに! あのね? おくち、ちょこっとだけ熱かったけん――あの……お水、コップに一杯あると」
「あ! だよな、熱々の粥だものな。すまん、全く気がきかないで。すぐにとってくる」
「あ、ううんっ!? わたしの方こそわがままいうて」
「こんなもの、わがままのうちにも入らんさ。他になにかあれば、遠慮なくいってくれ」
「ううん――いまは――いまは、平気。お水、だけで」
「そうか」

一階へ下り、コップの水を用意する。
この程度、どうして最初から気づかんものか自分で自分が情けない。が――

「……弱気な顔を見せてはいかんな。日々姫を不安にしてはいけない」

――気合をしかと入れ直し、再び静かに階段を上がる。

「おまたせ。水だ。自分で飲めるか?」
「うん――あっ!? ううん! あの……ちょっと不安かも。にぃにに飲ませて貰えたほうが……安心、かも」
「そうか」

汰斗さんの晩年には、僕も介護を手伝った。
っと、そうだ――

「飲ませるのであれば吸い飲みを」
「あ!? そんなおおげさじゃなくてよかとよ! コップで平気」
「そうか? なら――よっ」
「あ」

日々姫の背中に回り込み、こぼさぬように軽く小さな体を支え――

「ほら、ゆっくり、な? 慌てなくていいから」
「う、うん。――いただきます――ん――(こくっ――こくっ――こくっ――こくっ)」

日々姫の喉が動くたび、その振動が背中をつたい、僕にもゆるく響いてくる。
……心地よい。どこか安心してしまう。
油断大敵とはわかっているが、この元気さなら一晩寝れば、熱もひくのではなかろうか?

「ん――ふぅ。ごちそうさま。おいしかった」
「もうごちそうさまか? お粥は」
「あ! 食べる! もちろん!! せっかくのにぃにの手作りやもん」
「無理はしなくていいぞ? 食べられるだけ、な?」
「うん! わかった。ね? そしたらにぃに――『あーん』」
「うむ。『あ~~ん』」

……うん。食欲もしっかりある。

「ふぁ。ごちそうさま~ おいしかったー」
「おそまつさま。だ。ふふっ、随分元気がもどったようだな」
「うん! もうね、完全ににぃにのおかげ!!」

完食をしてもらえたことも嬉しいが、その何倍も、笑顔が戻ったことが嬉しい。
頬が真っ赤でだるそうで、熱を測って38.6度と出たときは、本当に死にそうな顔をしていただけに。

「せっかくのねぇねの誕生日プレゼントやったのに、はしゃぎすぎて熱でちゃうとか。まっこと、自分のバカさに後悔しまくりだったけど~」
「ああ、真闇姉は誕生日プレゼントをもう置いていってくれていたのか」

日々姫の誕生日だというのに、ハチロクをつれ酒造組合の研修旅行に出かけるなどと、真闇姉にらしくもないように思えて、いささか心配していたのだが――

「さすがは真闇姉だな。いったい、何をもらったのだ」
「え!? あ――それは……その――この時間っていうか――ううんっ!? やっぱり! やっぱり秘密! にぃにには内緒ばい!」
「そうか。詳しいことはわからんが、日々姫がそんな表情をみせるくらいだ。よほど素敵な品なのだろうな」
「それはもう! この上なかとよ! やけん、無駄にしちゃったんじゃないかって、わたし、後悔しまくりだったばってん――」
「ばってん?」
「えへへ。熱が出たのもよかったのかも!! 今ね? とーってもしあわせやけん」
「そうか。それならばなによりだ。僕からもプレゼントとケーキがあるが……熱が下がってから渡すのでもかまわんか?」
「うん! そうしてもらえたほうがうれしか! それに、えへへ~」

日々姫が体を擦り寄せてくる。
少しべちゃつく――ああ、そうか。おかゆを食べて汗がでたのか。

「プレゼントなら、いままさに現在進行形で、さいっこーなのもらってるけん」
「ふむ? お粥がそれほど気に入ったのなら、おかわりを」
「あ、おかわりはよかと! それより、あの……にぃに?」
「うむ?」

日々姫が大きく息を吸い込む。

「あの、ね? わたし――汗、かいちゃったけん。体、吹くの――えと、背中」
「ああ、無論、手伝おう。体を冷やしてはいかんしな。というか、さくさくやろう。汗をふいたらすぐねるのだぞ?」
「あ、うん。すぐ寝る――あ! あの、にぃに、あのね? あとひとつだけ」
「なんだ。ひとつといわず、ふたつでもみっつでも構わんぞ?」
「いまは、ええと……ひとつでよかと――えと」
「む」

日々姫が甘えて、僕の胸板におでこをつける。
……大きくなったと思ったが、病気で不安になってしまえば、まだまだ子供で可愛らしい。

「すぐに、ね? 安心して眠れるように……私が寝入るまで、手――にぃににつないでいてもらえると」
「お安い御用だ。くまくま先生のお手伝いをして、日々姫の眠りを、僕も今夜はまもらせてもらおう」
「うん!!!! ありがと、にぃに!!!」
「!!?」

日々姫の笑顔がはじけた瞬間、僕の鼓動も跳ね上がる。
顔まで熱いような気がする。なんだ、これは――日々姫の熱を、うつされたのか?

「にぃに?」
「ああいや――なんでもない、その」

今は日々姫の看病だ。真闇姉もハチロクも不在なのだし、僕が倒れるわけにはいかない。

「まずは、汗だな、拭いてしまおう」
「はぁい」

日々姫が僕に背中を向ける。
もぞもぞとパジャマを脱げば、真っ白な肌が目に飛び込んでくる。

「えと……その――お願い、にぃに」
「ああ、うむ」

いかん、どうやら本格的に熱をうつされてしまったようだ。
指先までが震えてしまいそうだから、ぎゅうっと強く、タオルを握る。


;おしまい

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