旧姓)有島ありす お誕生日祝いSS 『お誕生日、ありがとう』
ばんわです!!!
本日2019年3月14日はありすちゃん!!!
「ものべの」ヒロイン、有島ありすちゃんのお誕生日でございます!!!!
ので、ありすちゃんにも!!
おとうさんのたちの一人でありますわたくしから、ありすちゃんが喜んでくれそうなひとときをプレゼントでございます!!!
ありすちゃん! お誕生日おめでとう!!!!!
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2019/03/14 (旧姓)有島ありす お誕生日祝いショートストーリー
『お誕生日、ありがとう』 進行豹
「あ! 透さ~ん!」
「ありす!」
「ごめんなさい、待たせちゃいました?」
結婚して何年たっても変わらない。
ありすのはしゃいだ声を聞くなら、僕の心もはしゃぎ立つ。
「少しも待ってないよ。まだ、待ち合わせの10分前だしね」
「ふふっ、わたしの方が透さんを待ち伏せちゃおうと思ったんですけど」
いたずらっぽい笑顔のままで、ありすは小さく首を傾げる。
「けど、どうしたんですか? 今日は。
新宿で待ち合わせだなんて、珍しい」
「どうしたって――」
まさか忘れているはずがない。
けど、とぼけてるようにもまるで見えない。
「今日は、ありすの誕生日じゃないか」
「確かに、わたしの誕生日ですけど――」
ああ、いけない。順番を完全に間違えた。
当直明けで、今日のありすと会うのはこれが初めてだ。
まず真っ先に、誕生祝いを言うべきだった。
「でも……わたしのお誕生日ってことは、
ホワイトデーでもあるわけだから」
やっぱり、ありすは言ってくる。
だからすばやく、先回りする。
「だから、夏葉とすみとも、一緒にすごすべきだって?」
「あ――」
図星らしい。
ありすはちょっと困ったように、僕をみあげる。
「……それがわかってるなら」
「それがわかってるからこそ、だよ」
「きゃっ!?」
ありすの頭を抱き寄せる。
僕の肩口にすっぽりおさめ、
耳元に、できうる限り甘くて低い声を出す――よう努力する。
「ありすは、いつだってそうだから」
「そう……って」
「自分のことより、ほくとのこと。それから僕のこと。夏葉のこと。
すみと飛車角とにだって、いっつもすごく、目配りしてる」
「それは……だって、みんなで暮らしてるんですから」
「だね。これだけの人数が、2DKに暮らしてる。
いや、いいかげん引っ越さなきゃなとは思ってるんだけど……」
「あはは……」
けれどもすぐには難しい。
尚武さんたちに支援してもらってたお金をコツコツ返し続けているし――
大所帯はやっぱり物入りで、
夏葉はほんの少し前まで、専門学校に通ってもいた。
「僕ら夫婦と、ほくとで一部屋。夏葉すみ飛車角で一部屋。
……僕らと飛車角はともかくとして、夏葉とすみは、結構ストレスもあるはずだ」
ましてやすみは、茂伸の家を放置してきている。
尚武さんと菜穂子さんが見てくれてるとはいえ――
『透の居る場所がわらわの家じゃ』と言ってくれてるとはいえ……やっぱり、気がかりではあるだろう。
「なのに、喧嘩らしい喧嘩は一度も起きてない。
誰が我慢をしてるっていうギスギスもなく――本当に、平和に家族団らんできてる」
「うふふっ、ですよね。うちは、しあわせ家族ですよね」
「うん――」
嬉しげに、ありすは笑う。
いいや実際、心の底からありすは喜んでくれている。
だから、ずうっと甘えてしまった。
恐らくは、僕とありすが結ばれる――それよりずっと、ずっと前から。
「その幸せを支えてくれてるのはさ――ありすだから」
「え?」
「いつだってそうだ。
ありすがいなければ、僕たちはきっと、喧嘩ばっかりになっていた」
「あー」
そこはありすも否定できない。
僕に抱かれるそのままに、ただただ苦笑を浮かべるばかりだ。
ありすとすみと夏葉と僕――きっとあの夏、僕らは危ういバランスだった。
誰かがなにかを間違えたなら、バラバラに砕けてしまってた。
「だけどさ、いっつも。ありすがうまく全体を見ててくれるから。
僕なんかじゃ絶対見えないところまで、見てて、ケアしてくれるから」
「あ……」
……遠い昔に『親バカ』は素敵な言葉とご開祖ちゃんが教えてくれた。
『八方美人』も、同じく素敵な言葉なのだと、僕はありすに教わった。
そうしてくれているのだと、気づけぬほどにさりげなく――
ありすの目と手は、一番凹んでしまってるところに、必ず優しく、手当てするから。
「夏葉もさ、最近大人に――本当の意味で大人になってきたじゃない」
「そうですね。本当に――すごく大人に、綺麗になってる。
幼稚園教諭の免許を取って、自信、かなりついたみたいですよね」
「だね。だから――大人になれたから、
ありすの凄さに、ようやく気づけたみたいでさ」
「え?」
「言ってくれたんだ。夏葉が。
『今年はホワイトデーはいいから。
ほくとちゃんとすみちゃんと飛車角ちゃんは、夏葉がみててあげるから』――って」
「なっちゃんが?」
「うん。
『おねーちゃんのお誕生日を、さいっこーに素敵にしてあげてね!』って」
「あっ――」
「だから、さ」
泣かないでほしい。笑ってほしい。
そう思うから、全身全霊、ウケ狙いなく、キザに振る舞う。
「今日の僕は、ありすだけの僕だ。
ほくとのパパでも、夏葉のおにーちゃんでもない。
沢井ありすの――沢井透だ」
「透さん――」
泣き笑い――くしゃっと歪んだ顔がすぐさま笑顔に輝く。
「透さん!」
ふふっと小さくこぼれた音が、うふふと笑い声になる。
「嬉しいです。すごく。
もう、最高のお誕生日プレゼント、わたし、もらっちゃってます!」
「まさか! 最高の誕生日プレゼントは、これから先のお楽しみさ」
「うふふっ、すっごい自信ですね!
頼もしいですっ、透さんっ!」
「うんっ!」
ああ――ありすが笑ってくれた。
ありすは僕を好きなんだって、笑顔がまっすぐ伝えてくれる。
ドキン、ドキンと胸が高鳴る。
僕もありすが好きなんだって――こどもみたいに思ってしまう。
「まずは。ディナーだ。
たまにはありすには、お肉を食べてほしいからさ。
肉も魚も美味しいお店を予約してあるんだ」
「うふふっ、ありがとうございます。
お肉、ひさしぶりっ! どんなお店か、楽しみです。わたし」
「南雲教授もお気に入りのお店だからね。
まず間違いなく、お肉の方も、一級品の味だと思うよ?」
「わ! それなら絶対確実ですね~」
「うん。っていうか時間だ。向かおうとしよう」
「はい!」
歩き出すなら、ありすはそのまま僕とぴったり腕を組む。
日が沈めばまだ、やはりいくらか肌寒い。
くっつくあってる体と体が、それだけでもう、しあわせだ。
けど――
「ありす」
「はい、透さん」
言葉につまる。
ありすがどれほど、僕をしあわせにしてくれているか――
僕がどれほど、ありすをしあわせにしてあげたいか――
「……ありす」
伝えようとすれば、言葉にならない。
とても伝える言葉に、できない。
積み重ねてきた時間が、想いが、あんまりたくさんありすぎるから。
僕はありすを、幾度も傷つけてしまっているから。
「――ありす」
「はい。透さん」
頭が全部、真っ白になる。
用意していた言葉が全部、ほどけて消える。
感情の大きな波が押し寄せてきて――
あとにはほんとに、ひとかけらしか、残らない。
「……ありす。お誕生、ありがとう」
「え?」
「僕のとなりに、おななじみに産まれてきてくれてありがとう。
僕を好きになってくれて、ありがとう」
「…………」
「僕が遠くに離れたときも、僕が逃げ出してしまったときも――
僕を信じて、待っててくれて、ありがとう」
「そんなの、だって」
「僕と一緒に、夏葉をつれて、ここに来てくれてありがとう。
僕を、ほくとのおとうさんにしてくれてありがとう」
言葉が、足りない。
うわすべりする。だけどそれでも――言葉で、僕は、伝えたい。
体で、愛で、体温で――
伝えきれない何かはきっと――言葉だけでしか伝えられない。
「僕は、ありすが大好きだ」
ご開祖ちゃんを思い出す。
黄色い花の花言葉を――“叶わぬ恋”を、思い出す。
ありすとの……僕のありすへの恋は叶った。
だけれど叶ってからもっと。前よりずっと――僕はありすに、片思いする。
「だから、ありす」
「はい――透さん」
感情の大波が、また引いていく。
残るのは、やっぱりとてもちっぽけな――
ただひとかけの、言の葉だけだ。
「ありす――お誕生日、ありがとう」