whisp 2019/03/26 23:44

2019/03/26 れいな誕生祝いショートストーリー『おたんじょうびぷれぜんと』(進行豹

「それでですねぇ」


ほわほわにこにこ、れいなは僕を見上げ続ける。

「れいな、炭鉱でお仕事してたときから、
今日がれいながロールアウトした日だってことは、
ちゃあんとしってたんですよぉ」

「うん」

鹿兒島まわりで、みかん鉄道の路線へと。
『海がみたい』とのリクエストに応じての、観光乗車の小旅行だが――

「それで、御一夜鉄道に来て。
そうしたら、ポーレットがれいなに教えてくれたんですよぉ」

にこにこにこ。
れいなはもう、僕のことしか見ていない。

『わぁ、海ってすっごく大きいですねぇ。ぴかぴか光って、綺麗ですぅ』

――車窓から見た八ツ城海の、感想一言を残したきりで。

にこにこにこにこ――

うむ?
ああ、いや。これは、そうか。

「なにを、ポーレットは教えてくれたんだ?」

「えっへへー、それはですねぇ。今日が、れいなの、ロールアウト日で。
だから、れいなのお誕生日なんだよって、ことをですよぉ」

「そうか!」

れいなの髪をそおっと撫ぜる。
たんぽぽの綿毛よりなお柔らかな感触が、手のひらの中でくしゃりと踊る。

……ああ、なんだ。
僕も海には、一瞬しか目を向けてない。

ただただれいなを眺めて――いいや。
れいなに、見惚れ続けるばかりだ。

「それからずうっと、れいな、ポーレットといっしょにすごしてきましたから」

ふふっ、と鼻から排気が漏れる。
嬉しげに――そしてはなはだ、誇らしそうに。

「れいなのお誕生日はぜぇんぶ、ポーレットがお祝いしてくれてるんですよぉ」

「そうか」

現在形だ。
今夜は八ツ城のホテルを予約しているのだが――

「あ」

顔に、なにかが出てしまったのだろうか。
れいなが絶句し。

それからゆるゆる――なんとも静かな声を出す。

「だから今日は、はじめての、ポーレットのいないお誕生日になるんですねぇ」

「……寂しいか?」

「さみしくなんてないですよぉ。そうてつさんが、れいなのとなりにいてくれますし」

にこにこ笑顔でそういいつつも、ぎゅっと、その身を寄せてくる。
さみしいと、心細いと――小さな体が悲鳴をあげているように、僕には思える。

「それにれいな――えっへへー。そうてつさんの、およめさんなんですから。
ポーレットがいなくったって、ひとりで……ううん、そうてつさんと、ふたりで。
どんなことでもできちゃうように、ならなきゃですから」

「そうだな」

れいなは、本心を語ってくれている。
けれども同時に、れいなの体も、きっと本当を伝えてくれている。

れいなは僕よりずっと大人で。
同時に、僕より遥かに幼い部分を持っている。

そのことを――れいなを大好きだからこそ、折々に痛感させられる。

「なんでも、ふたりで。……いつかは、そうならなくてはな」

「はぁい、れいな。がんばりますよぉ」

「とはいえ、だ」

「わっ!?」

いつかは、きっと今日ではない。
れいなの手を引き、途中下車する。

僕をフォローし続けていたナビを呼び寄せ――

「わ、わ――わぁぁあああああああ!!!」

「――これが、れいなへの1つ目の誕生日プレゼントだ」

「すごい! すごぉい! おっきいですぅ! まるぅいですよぉ!!」

「ああ」

硬上から、御一夜へ。
れいなの車歴は、山から山へだ。

どうせ海を見せるのならば、これが最良だろうと確信していたが――

「海って――海って! こんなにきれいなんですねぇ!!」

ここまで喜んでもらえるのなら、工夫をこらした甲斐もあったというものだ。

ならば笑顔を――れいなの笑顔を、
やはり、もっと輝かせたい。

「双鉄様は予定にはない途中下車をされています。
以降のルートの変更指定をお願いします」

「うむ」

極めて事務的なナビの口調。
ゆえに決意を支えてもらえる。

予定通りにいくのなら、途中下車など必要なかった。
僕の判断は恐らくは――結婚一年にもなっていない――今はまだ、正しいものとなろうと思える。

「このまま、御一夜へ飛んでくれ」
「かしこまりました、双鉄様」
「あれぇ? 八ツ城でお泊りするんじゃなかったんですかぁ??」
「そうなるかもしれん。ホテルの部屋の空き状況と、ポーレットの都合次第だが」
「わ!!!!!!!!」

れいなの顔がパーっと輝く。
ああ――やっぱり今は、これが一番の大正解だ。

「御一夜でになるか、八ツ城でになるかはわからんが、
今年のれいなのお誕生日は――やはり、ポーレットにも、共に祝ってもらいたい」

「うっふふ~~」
「おっと」

体の小ささをフルにいかして、
狭いキャノピーの中でくるりと振り返る。

そうしてれいなは――

「(ちゅっ!)」

「れいな様。飛行の安全を保つため――いえ、なんでもありません」

「ふふっ」

顔に、また何かが出てしまったのだろうか。
僕に甘えてすりつくれいなを、ナビは無言で許容する。

「そうてつさぁん」

ゼロ距離で、れいなが笑う。
甘えと、喜び、そうして愛情。

全部をふわふわのわたあめで包んだように、笑ってくれる。

「とっても素敵なお誕生日プレゼントを、ふたつも! ほんとうにありがとうございまぁす」

「いいや?」
「え?」

我慢できよう筈もない。
これほどの甘味に、瞳を、鼻を、肌を、鼓膜を、くすぐられてしまっては――

「(ちゅっ!)」
「んっ――んふふふ~っ――ん……んぅ……ちゅうっ――ぷぁ」

甘さ極まるキスをほどけば、れいなはとろん、と、笑顔までをもとろけさす。

「とっても素敵なお誕生日プレゼント。みっつも! えっへへ~
とってもとっても! とってもありがとうございまぁす!」


;おしまい

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