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れいな誕生祭の記事 (3)

whisp 2022/03/26 23:24

20220326 れいな誕記念書き下ろしSS 『お誕生日と小さなウソと』 進行豹

2022/03/26 れいな誕生祭記念書き下ろしショートストーリー

『お誕生日と小さなウソと』 進行豹



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「……わくわくしすぎて、眠れなかったのかなぁ」

前から一緒に準備していた、れいなのバースデー。
れいなは軽油しか飲めないけれど、パーティーを華やかにしたいからって、ふたりで一緒にケーキを焼いて、じゃがいものガレットをこしらえて。

「……くぅ、くぅ……くぅ、くぅ……」

寝息、深い。規則正しい。

──ブイヤベースにも火をいれて。
バゲットと一緒にテーブルの上に綺麗にならべて。

あとはもう、声をあわせて「いただきまぁす」って言えたなら、バースデーパーティーが始まったのに……

「まぁでも、食べ始めてから寝落ちちゃうよりは、ね」

だって、全部が手つかずだから。
れいなが起きれば、そこから楽しいパーティーを、なにひとつ欠かすことなく始められちゃう。

始められちゃう……はずなんだけど……

(チ、チ、チ、チ)

少しレトロなデザインの時計の針は止まらない。

23時51分。
あと9分しか、れいなのバースデーは残っていない。


「……くぅ、くぅ……くぅ、くぅ……」


──起こすべきか。寝かせておいてあげるべきか。
こういう決断、わたしはなかなか下せない。

どっちの選択にだってきっと、れいなは感謝してくれるけど……
どっちの選択にだって絶対に、小さな後悔もつきまとってくる。

「笑顔だけで、しあわせだけで、お祝いしたい一日だから」

だから、決断しなくちゃいけない。

わたしは、れいなを──





「ふぁ……あ……ふにゃあ……」


れいなが目覚める。
真正面にわたしを見つけて、寝ぼけ顔を安心したようにとろけさせ。

「ふあっ!!!?」

それから瞳がまん丸になる。

テーブルに並ぶ料理をみつめ、もう一度わたしに視線を戻して──
それからゆっくり、おそるおそるに時計を見つめて……

「よかったぁ、れいなのお誕生日に間に合いましたねぇ」

「うん、れいな」

ニ回だけ、時計の針を一時間ずつ戻したけれど。
明日の乗務は、わたし、ちょっぴり寝不足だけど。

この決断に、後悔はない。

「お誕生日、おめでとう!!!」

「わぁい、ポーレット、ありがとうございまぁす!」

だって、れいなの笑顔が咲いているから。
小さな両手でうれしげに、スキットルからグラスに軽油を注いでるから。

「「かんぱぁい!!」」


;おしまい

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whisp 2020/03/26 23:56

『残り5分のバースデー』2020れいな誕記念書き下ろしSS(進行豹

『残り5分のバースデー』

2020/03/26 れいな誕生日記念書き下ろしショートストーリー 進行豹

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「雛衣市長、避難指示は『勧告』で本当によろしいのですか」
「土砂崩れが予想される地域には勧告でお願いします。空振りになった場合の責任は全てわたしが取ります」
「雛衣市長、湯医町長から『排水機を停止する検討を勧めている』との連絡が」
「湯医ダムの決壊よりは遥かにマシです。ご決断を尊重すること、また、排水機停止にともなう損害に対する支援はできるだけ行うことを返信しておいてください」
「雛衣市長。住民とマスコミからの問い合わせ対応で業務に支障がではじめています」
「問い合わせの電話を全て総務課に集約させるようにしてください。臨時コールセンターとして機能させ、各課から1名ずつの応援をだすように手配してください」
「雛衣市長、ゴルフコース付近の線路で水が吹き出し始めたとの報告が」
「御一夜鉄道の保線部に対応準備を命じてあります。すぐにそちら対応するよう連絡してください」
「雛衣市長
「雛衣市長」
「雛衣市長」
「雛衣市長」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「雛衣市長――ポーレット! ポーレット!!!」
「えっ!? あっ――双鉄くん、いま、わたしっ!!?」
「寝落ちていたようだな。無理もない。ようやく窮地を脱したのだ。緩むなという方が酷だろう」
「あ……」

双鉄くんの声。
低く落ち着いた甘い声。
それがじんわり、疲労しきって綿みたいになったスカスカの体に染みてくる。

現場責任者として土砂災害の警戒・対応にあたってくれてた双鉄くん。
その彼が、ここに、庁舎に、戻ってこれてるということは……

「終わったんだぁ……」

こぼれた言葉が、実感になる。
各所からうけてた報告が、ようやく現実になって固まる。
じわじわ、体にぬくもりが――感情が戻ってくるのがわかる。

「台風被害……想定されてたよりずっと――ずうっと小さく抑えられたよね?」
「うむ。夜が明けてみないと確定的なことはいえんが、おそらくは。
ポーレットが市長として、その責を果たしてくれたおかげと、僕は感じている」
「ううん。わたしなんて、全然。なんにも。
双鉄くんたち、みんなががんばってくれたおかげ。本当に」
「みんなを迷いなくがんばらせてくれることこそが、リーダーの最大の責務だ。
ポーレットは間違いなくそれを果たした。謙遜することはない」
「双鉄くん……」

うれしい。とってもホっとする。
ここが庁舎でなかったら、抱きついて甘えまくりたいほど。

「夜明けまでは、もうできることも少なかろう。
あとは僕が引き受ける。
ポーレットはすぐに帰宅して、休息をとってくれ。
それはポーレットにしかできない、いまなによりも大事な仕事だ」

「わたくしにしかできない――――っ!!!!!」

いけない、休憩もだけどもうひとつ、絶対、今日しかできないことが――
今なら……うん! ぎりぎり間に合う!!!!

「わかった。ありがと。双鉄くん。
けど、なにかあったらすぐに連絡してね」

「無論だ。そのときには間違いなく。
ゆえ、連絡があるまではともかくも休んでほしい。
お城橋のところにナビを着水させてある。つかってくれ」

「……なにからなにまで、本当にありがとう」

けど、だけど。
休憩にはいるその前にどうしてもひとつだけ。

っていうか、しないままいたら、わたし絶対、こころが少しも休まらないから――

(がちゃっ)

「ただいま! れいな」
「あ! おかえりなさぁい、ポーレット」

玄関をあけるやいなやで、れいながぽてぽてにこにこと、かわいくお出迎えをしてくれる。
普段だったらとっくに熟睡している時間――ほとんど日付がかわりかけてる、真夜中であるにもかかわらず。

「おしごとおつかれさまでしたぁ。
たいふう、ものすごかったですねぇ」
「うん。けどね、人的被害はいまのところは報告ゼロなの。
みんなが頑張ってくれたおかげで――多分、誰もケガをしないで、台風、やりすごせたみたい」
「わあああ! それはよかったですねぇ! おめでとうですぅ、ぽーれっと――ひゃっ!!?」

抱きしめている。ぎゅって、ぎゅううって、れいなを笑顔、全部ごと。

「ポーレットぉ。どうしたんですかぁ」
「おめでとうは、れいなの方」

時計を見る。神経質って自分がイヤになっちゃうけれど、どうしても確認してしまう。
まだ、23:55。ほんと、ギリギリ。でも、間に合った。

「れいな、お誕生日おめでとう」
「わ、わ、わああああああああ!!」

抱きしめている腕の中が、ぽかーってしあわせなぬくもりに満ちる。
腕を少しだけゆるめれば

「ありがとうですぅ、ポーレットぉ」

しあわせの色にほっぺを染めたれいなが抱きついてきてくれる。
こんなに喜んでもらえてすごくしあわせで……だからその分、申し訳なくて。

「本当はね? プレゼントも予約してあったの。
昨日受け取りにいくはずだったのに、台風の急な進路変更で、庁舎からでれなくなっちゃって」

「わああああい! プレゼントももらえるんですねぇ。
れいな、とーっても楽しみですよぉ。ポーレットがだいじょうぶになったら、えへへぇ。
れいなもいっしょに、うけとりにいきたいでぇす」

わたしの申し訳無さを、れいなの笑顔が溶かしてくれる。
どうしようもなかった失敗さえも、れいなの笑顔は、新しい楽しみに塗り替えてくれる。

「うん。そうね。そうしましょう。
明日……はまだ無理かもだけど、落ち着きしだいで、ふたり、いっしょに」

「えっへへー、やくそくですよぉ」

「うん、約束――(ぐ~~~~~っ)――はうっ!?////」

指切りしようとした瞬間に、お腹がめちゃくちゃ大きな音でなっちゃった。

「あ! ポーレット、おなかがすいてるんですかぁ!?
あうあう、れいなお料理とかできればよかったんですけどぉ」

「!!!」

なら、うん。
わたしもれいなに、おんなじことをしてあげよう。

れいなが感じてくれている、申し訳ないって気持ちを笑顔で! 新しい楽しみに塗り替えちゃおう!!

「ね? れいな、わたし、れいなにお願いがあるんだけど」

「はい、なんですかぁ、ポーレット」

材料はもちろん揃ってる。
一人でやって、サプライズするつもりで、きっちり準備しておいたから。

「バースデーケーキ、わたしと一緒につくってくれない? 甘くておいしい、シロップづけのいちごをたっぷり」

「わああああああああ! れいな、つくりたいですう!!!!」

「うん! じゃあ、つくろう!!!」

「はあい! れいな、エプロンとってきますねぇ」

ぱたぱたぱた。
天使の羽ばたきみたいなれいなの足音が、ぴたっととまってわたしに振り向く。

「ポーレットぉ! さいっこーのお誕生日プレゼント! れいな、とってもうれしいですよぉ!!!」

;おしまい

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whisp 2019/03/26 23:44

2019/03/26 れいな誕生祝いショートストーリー『おたんじょうびぷれぜんと』(進行豹

「それでですねぇ」


ほわほわにこにこ、れいなは僕を見上げ続ける。

「れいな、炭鉱でお仕事してたときから、
今日がれいながロールアウトした日だってことは、
ちゃあんとしってたんですよぉ」

「うん」

鹿兒島まわりで、みかん鉄道の路線へと。
『海がみたい』とのリクエストに応じての、観光乗車の小旅行だが――

「それで、御一夜鉄道に来て。
そうしたら、ポーレットがれいなに教えてくれたんですよぉ」

にこにこにこ。
れいなはもう、僕のことしか見ていない。

『わぁ、海ってすっごく大きいですねぇ。ぴかぴか光って、綺麗ですぅ』

――車窓から見た八ツ城海の、感想一言を残したきりで。

にこにこにこにこ――

うむ?
ああ、いや。これは、そうか。

「なにを、ポーレットは教えてくれたんだ?」

「えっへへー、それはですねぇ。今日が、れいなの、ロールアウト日で。
だから、れいなのお誕生日なんだよって、ことをですよぉ」

「そうか!」

れいなの髪をそおっと撫ぜる。
たんぽぽの綿毛よりなお柔らかな感触が、手のひらの中でくしゃりと踊る。

……ああ、なんだ。
僕も海には、一瞬しか目を向けてない。

ただただれいなを眺めて――いいや。
れいなに、見惚れ続けるばかりだ。

「それからずうっと、れいな、ポーレットといっしょにすごしてきましたから」

ふふっ、と鼻から排気が漏れる。
嬉しげに――そしてはなはだ、誇らしそうに。

「れいなのお誕生日はぜぇんぶ、ポーレットがお祝いしてくれてるんですよぉ」

「そうか」

現在形だ。
今夜は八ツ城のホテルを予約しているのだが――

「あ」

顔に、なにかが出てしまったのだろうか。
れいなが絶句し。

それからゆるゆる――なんとも静かな声を出す。

「だから今日は、はじめての、ポーレットのいないお誕生日になるんですねぇ」

「……寂しいか?」

「さみしくなんてないですよぉ。そうてつさんが、れいなのとなりにいてくれますし」

にこにこ笑顔でそういいつつも、ぎゅっと、その身を寄せてくる。
さみしいと、心細いと――小さな体が悲鳴をあげているように、僕には思える。

「それにれいな――えっへへー。そうてつさんの、およめさんなんですから。
ポーレットがいなくったって、ひとりで……ううん、そうてつさんと、ふたりで。
どんなことでもできちゃうように、ならなきゃですから」

「そうだな」

れいなは、本心を語ってくれている。
けれども同時に、れいなの体も、きっと本当を伝えてくれている。

れいなは僕よりずっと大人で。
同時に、僕より遥かに幼い部分を持っている。

そのことを――れいなを大好きだからこそ、折々に痛感させられる。

「なんでも、ふたりで。……いつかは、そうならなくてはな」

「はぁい、れいな。がんばりますよぉ」

「とはいえ、だ」

「わっ!?」

いつかは、きっと今日ではない。
れいなの手を引き、途中下車する。

僕をフォローし続けていたナビを呼び寄せ――

「わ、わ――わぁぁあああああああ!!!」

「――これが、れいなへの1つ目の誕生日プレゼントだ」

「すごい! すごぉい! おっきいですぅ! まるぅいですよぉ!!」

「ああ」

硬上から、御一夜へ。
れいなの車歴は、山から山へだ。

どうせ海を見せるのならば、これが最良だろうと確信していたが――

「海って――海って! こんなにきれいなんですねぇ!!」

ここまで喜んでもらえるのなら、工夫をこらした甲斐もあったというものだ。

ならば笑顔を――れいなの笑顔を、
やはり、もっと輝かせたい。

「双鉄様は予定にはない途中下車をされています。
以降のルートの変更指定をお願いします」

「うむ」

極めて事務的なナビの口調。
ゆえに決意を支えてもらえる。

予定通りにいくのなら、途中下車など必要なかった。
僕の判断は恐らくは――結婚一年にもなっていない――今はまだ、正しいものとなろうと思える。

「このまま、御一夜へ飛んでくれ」
「かしこまりました、双鉄様」
「あれぇ? 八ツ城でお泊りするんじゃなかったんですかぁ??」
「そうなるかもしれん。ホテルの部屋の空き状況と、ポーレットの都合次第だが」
「わ!!!!!!!!」

れいなの顔がパーっと輝く。
ああ――やっぱり今は、これが一番の大正解だ。

「御一夜でになるか、八ツ城でになるかはわからんが、
今年のれいなのお誕生日は――やはり、ポーレットにも、共に祝ってもらいたい」

「うっふふ~~」
「おっと」

体の小ささをフルにいかして、
狭いキャノピーの中でくるりと振り返る。

そうしてれいなは――

「(ちゅっ!)」

「れいな様。飛行の安全を保つため――いえ、なんでもありません」

「ふふっ」

顔に、また何かが出てしまったのだろうか。
僕に甘えてすりつくれいなを、ナビは無言で許容する。

「そうてつさぁん」

ゼロ距離で、れいなが笑う。
甘えと、喜び、そうして愛情。

全部をふわふわのわたあめで包んだように、笑ってくれる。

「とっても素敵なお誕生日プレゼントを、ふたつも! ほんとうにありがとうございまぁす」

「いいや?」
「え?」

我慢できよう筈もない。
これほどの甘味に、瞳を、鼻を、肌を、鼓膜を、くすぐられてしまっては――

「(ちゅっ!)」
「んっ――んふふふ~っ――ん……んぅ……ちゅうっ――ぷぁ」

甘さ極まるキスをほどけば、れいなはとろん、と、笑顔までをもとろけさす。

「とっても素敵なお誕生日プレゼント。みっつも! えっへへ~
とってもとっても! とってもありがとうございまぁす!」


;おしまい

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